説明

鋼管杭の機械式継手

【課題】鋼管杭本体と同等以上の耐力を持ち、信頼性も高く、しかも安価に製作出来る機械式継手を提供する。
【解決手段】鋼管杭の外径とほぼ同じ外径を有し、放射方向に複数の透孔6が穿かれている外継手管3と、外継手管3の透孔6が形成されている位置と対応する位置の外周壁に、放射方向に複数の透孔が穿かれている内継手管4とからなり、前記両透孔が連通する様に外継手管3の内径側に内継手管4を挿入し、円環状の鍔部7の端面と外継手管3の端面とを当接させ、それぞれの透孔にピン14又はボルトを差し込むことにより、これら内継手管4と外継手管3とを結合する様にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は鋼管杭の機械式継手、詳しくは、製造が容易で、かつ安価で提供出来るにもかかわらず、実用上十分な強度を有し、信頼性にも富む鋼管杭の機械式継手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種建築土木工事において用いられる既製杭には、鋼管杭とコンクリート杭とがあるが、いずれも現場条件に応じて接合する場合が多い。一般的に、現場での杭の接合には、溶接が用いられることが多いが、現場での溶接は、溶接品質の確保がむずかしい、作業が天候に左右されやすい、溶接作業時間が長くかかる、などの問題があり、コンクリート杭においては、現場溶接が不要な機械式継手を用いた接合が既に一般化している。
【0003】
コンクリート杭の分野において、機械式継手が普及した背景には、コンクリートよりも強度が数倍大きい鋼材を継手材料として使用出来ること、一般的にコンクリート杭の両端には鋼製端板があり、これを継手材の一部として利用出来るので、全体のコストを低く抑えられる、などの理由が存在している。
【0004】
一方、鋼管杭の場合、鋼管杭と同じく鋼材を継手材料として用いざるを得ないため、継手部分の耐力を鋼管杭本体と同等以上にする為には、高価な高強度鋼材の利用や複雑な構造・加工を採用しなければならず、これに伴い継手の製造コストが高騰することが避けられず、普及が阻まれているのが現状である。
【特許文献1】特開2006−28913号公報
【特許文献2】特開2001−11850号公報
【非特許文献1】なし
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および2は、いずれも鋼管杭の機械式継手に関するものであり、特許文献1には、継手管に設けたギアを介して力を伝達する構造が提示されているが、この継手は、継手強度面での問題は少ないが、施盤等による機械加工コストが非常に高くならざるを得ない。特許文献2には、ピンを介して杭に作用するすべての力を伝達する構造が提示されているが、継手強度面でやや無理があり、十分な継手強度を得ようとすればコストの高い継手にならざるを得ない。
【0006】
ところで、基礎杭に作用する力は、通常、圧縮力、引っ張り力、曲げモーメント、せん断力、回転トルク(ねじりせん断力)であるが、基礎杭に常時作用する力は、擁壁の基礎杭など特殊な例を除けば、杭軸方向の圧縮力であり、大きな引っ張り力や曲げモーメント、せん断力が基礎杭に作用するのは、地震や強風など異常時の短時間だけである。又、引っ張り力は圧縮力に比べ通常数分の1以下と小さく、その発生頻度も少ない。更に、曲げモーメントが作用する場合でも、曲げモーメント単独で杭に作用するのではなく、圧縮力と同時に作用するのが普通である。つまり、基礎杭を円環断面としてみた場合、引っ張り応力が発生している部分はその円周長のうち、わずかの部分で、しかもその値は小さく、大部分では圧縮応力が発生していることになる。
【0007】
以上述べた基礎杭の一般的作用力の考察から、本発明者は、圧縮力はピンなどを介するよりも直接部材を当接させて伝達した方が合理的であり、一方、発生頻度が少なく、力も小さい引っ張り力は、ピンを介して伝達した方が機構的にも合理的であることを見出した。本発明者は、上記知見に基づき、鋼管杭の接合に用いる機械式継手に内在する問題点を解決すべく研究を行った結果、鋼管杭本体と同等以上の耐力を持ち、信頼性も高く、しかも安価に製作出来る機械式継手を特願2007−190470として提案した。
【0008】
この特願2007−190470で提案した機械式継手は図1及び図2に示す様に、上鋼管杭1に溶接された内継手材36を、下鋼管杭2に溶接された外継手材37の中に挿入したうえ、それぞれをピン14で結合するものである。内継手材36は、肉厚円筒状をなした基部38の一方の端縁から外側に向かって直角に肉厚円環状の鍔部39が一体的に形成された鋼製のつば付き円筒状をなすとともに、基部38に複数の透孔10が穿かれている。他方の外継手材37は肉厚円筒状であり、内継手材36の透孔10の位置と相対する位置に透孔6が穿かれている。杭の施工現場において、先に建て込んだ下鋼管杭2の上端に溶接されている外継手材37と、新たに建て込む上鋼管杭1の下端に溶接された内継手材36とを相互に嵌合させた後、ピン14を挿入してこれら内継手材36と該継手材37を接合するものである。
【0009】
この機械式継手は、一対の継手材同士の当接及びピンを介する場合の伝達特性をそれぞれ巧みに利用しており、杭に圧縮力が作用する場合は、内継手材36に一体的に形成されている鍔部39と外継手材37の上端面の当接により、引っ張り力が作用する場合はピン14により力を伝達しており、実際の基礎杭の負荷条件を考慮した無駄のない簡潔な構造で、十分な信頼性を持ちながら、低いコストで製造することが可能で、現場での取付け結合作業も極めて容易に実施出来、高い実用性を有している。
【0010】
しかしながら、この機械式継手は、曲げモーメント作用時の変形については、十分な配慮はなされていなかった。これは、前述の通り、基礎杭に常時作用する力は、杭軸方向の圧縮力が中心で、曲げモーメントが作用するのは、地震や強風など異常時における短時間に過ぎなく、かつその値は鋼管の曲げ耐力に比べて十分に小さいので、特段の配慮をしなくても実用上支障がない、というのがその主な理由である。しかし、この機械式継手で結合した鋼管に大きな曲げモーメントが作用した時は、圧縮側では図3に示す様に、引っ張り側では図4に示す様にそれぞれ内継手材36と外継手材37の離間を伴う「く」の字形の変形が生じる。ちなみに、所定の強度設計のもとで製造された機械式継手なら、曲げ耐力(最終強度)は鋼管と同等であるが、曲げ変位は鋼管より大きくなってしまう。たとえば、鋼管単体及び鋼管単体と同等な曲げ耐力を持った特願2007−190470の機械式継手を取付けた鋼管とをそれぞれ用意し、これらに対して図5に示すように、曲げ荷重を加えて曲げ試験を実施して比較すると、図6のグラフに示すように、継手付き鋼管の場合には、同じ曲げモーメントに対して中央部の変位が鋼管単体の場合に比べ大きくなる。つまり、継手付き鋼管の場合、鋼管単体に比べ見かけ上の杭としての曲げ剛性が小さく、この「く」の字形の変形は内継手材36、外継手材37の間に寸法上の遊び(ガタ)があること、およびこれら継手材が断面変形を生じることから発生するものである。
【0011】
一般的には、継手部に大きな曲げモーメントが作用することは少なく、上記の現象が問題となることは少ないが、地震時に大きな曲げモーメントが発生する杭頭近くに継手を設けた場合などでは、設計上無視出来ない問題となる。本発明者は、この見かけ上の曲げ剛性低下の現象を解消せんとして試験研究を行った成果として、特願2008−152401を提案した。この特願2008−152401においては、特願2007−190470で用いているピンの代わりにボルトを用いることを提案した。継手内の力の伝達経路など継手の基本的な力学性状は特願2007−190470で提案したものと同じであるが、ピンの代わりにボルトを採用することにより、曲げモーメント作用時に内継手材と外継手材が離間して見かけの曲げ剛性が低下する現象は大幅に改善され、実物の継手付き鋼管を用いて図5に示した曲げ試験を行った結果、曲げ剛性は大幅に向上し、鋼管単体の曲げ剛性と大差ないことが確認された。
【0012】
この特願2007−190470及び特願2008−152401でそれぞれ提案した機械式継手は、ピンとボルトの違いはあるものの、基礎杭に作用する外力条件の特性を巧みに利用して、非常に簡易な構造でありながら杭の継手として十分な強度を有するという特徴を持ち、また、機械加工が容易な形状であるため、既に提案されている他のタイプの継手に比べ経済性の面でも優れている。
【0013】
しかしながら、前述したコンクリート杭の継手に比べれば、製造コストはまだ高く、広く普及するまでの経済性を備えているとは言い難かった。その理由として3つあげられる。第1の理由は、近年鋼材の価格が高騰したため、継手材の素材費が高いこと、第2の理由は、内継手材の素材は非常に厚くなるため、安価な電気抵抗溶接管は使用できず、高価な継目無し鋼管や鍛造鋼管を使用せざるを得ないこと、第3の理由(これが最大の理由であるが)は、機械加工量(切削量)が多いことが挙げられる。本発明者の試算によると、内継手材においては、施盤や横穴ボーリング機械などにより機械切削する重量は、素材(短尺肉厚鋼管)重量の5〜6割にも達し、半分以上の鋼材は削り捨てていることになる。その結果、高い鋼材を無駄に使用することなると共に、工費が高い、というコスト上の大きな問題を抱えていたことになる。
【0014】
上記問題点に鑑み、継手の素材費と機械加工費を大幅に低減して製造コストの削減を図り、鋼管杭の機械式継手として広く普及させることを本発明はその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
短尺円筒状をなし、接合対象である下鋼管杭2の外径とほぼ同じ外径を有し、この下鋼管杭2の端面に、その軸心が一致する様に溶接されると共に、周壁5には軸心から直角の方向に向かって放射状に複数の透孔6が穿かれている外継手管3の内径側に、同じく短尺円筒状をなし、前記外継手管3の内径よりわずかに小さい外径を有し、溶接金属40によって形成され、外径が上鋼管杭1の外径とほぼ同じである円環状の鍔部7が外周壁の一方の端部寄りの部分に設けられており、該円環状の鍔部7を介して、上鋼管杭1に溶接固着されていると共に、前記外継手管3の透孔6が形成されている位置と対応する位置の周壁に、軸心から直角の方向に向かって放射状に複数の透孔10が穿かれている内継手管4を、前記両透孔6、10が連通する様に挿入し、前記円環状の鍔部7の端面と外継手管3の端面とを当接させ、それぞれの透孔6、10にピン14又はボルト23を差し込むことにより、これら内継手管4と外継手管3とを結合する様にして、上記課題を解決した。なお、上記解決手段においては、上鋼管杭1に内継手管4を、下鋼管杭2に外継手管3をそれぞれ固着する様にしているが、これとは逆に、上鋼管杭1に外継手管3を、下鋼管杭2に内継手管4を固着する様にしても良いことはもちろんである。
【発明の効果】
【0016】
上鋼管杭1の下端に円環状の鍔部7を介して内継手管4の上面をその軸心が一致した状態で溶接すると共に、下鋼管杭2の上面に外継手管3の下端面をその軸心が一致した状態で溶接し、下鋼管杭2の上面に固定されている外継手管3の内径側に内継手管4を挿入し、前記円環状の鍔部の端面と外継手管の端面とを当接させ、それぞれの透孔6、10の位置を合わせ、ここにピン14あるいはボルト23を差し込んで、下鋼管杭2と上鋼管杭1との結合を行う。この状態で、上鋼管杭1から下方に向かって圧縮力が加わると、圧縮力は内継手管4の鍔部7から外継手管3の端面に直接伝達されるので、非常に単純な力の伝達経路となる。従って、互いに当接する部分には支圧応力が生じるが、その分布は厚さ方向へ均等となり、かつ当接する面積は外継手管3の断面積に等しく、十分に広い為、大きな支圧応力差は発生せず、圧縮力は下鋼管杭2に無理なく伝達される。一方、上鋼管杭1からの引っ張り力がかかる場合は、引っ張り力は鍔部7から内継手管4に伝わり、次にピン14あるいはボルト23に鉛直方向せん断力として伝わり、更に外継手管3に引っ張り力として伝達されることになる。この場合、それぞれの接触部に発生する支圧応力度は単位面積当たりで比較した場合、上述の圧縮力に比べて非常に大きくなるが、引っ張り力が基礎杭に作用するのは地震や強風など異常時の短時間だけであり、しかも、引っ張り力は圧縮力に比べ、通常数分の1以下と小さく、その発生頻度も少ないので、ピン14あるいはボルト23及びその接触部分は十分にこの支圧応力に耐え、引っ張り力を確実に伝達することが可能である。
【0017】
又、回転トルク(ねじりせん断力)が作用する場合、鍔部7から内継手管4にねじりせん断力として伝わり、次にピン14あるいはボルト23に水平方向せん断力として伝達され、これから外継手管3にねじりせん断力として伝わることになる。なお、回転貫入杭の施工時には、鋼管杭のねじり耐力と同程度の値の回転トルクが頻繁に発生するが、鋼管の引っ張り耐力に抵抗するせん断力に比べ、理論上およそ√1/3にすぎないので、ピン14あるいはボルト23は十分にこの回転トルクに対抗することが出来る。
【0018】
この様に、この発明に係る鋼管杭の機械式継手においては、別体である円環状の鍔部7を介しての一対の継手管3、4の当接、及びピン14やボルト23を介する場合の伝達特性をそれぞれ巧みに利用しており、圧縮力(曲げモーメントによる圧縮力を含む)が作用する場合は、円環状の鍔部7と外継手管3の上端面の当接により、引っ張り力(曲げモーメントによる引っ張り力を含む)が作用する場合はピン14あるいはボルト23により力を伝達しており、実際の基礎杭の荷重条件を考慮した無駄のない簡潔な構造で、十分な信頼性を持っている。
【0019】
更に、ボルト23によって内継手管4と外継手管3とを結合した場合において、曲げモーメントが作用するとき、円環断面をみると、継手の略半分には圧縮力が作用し、残り略半分には引っ張り力が発生するが、外継手管3と内継手管4とはボルト23によって締め付けられているので、図3及び図4に示す場合の様に、外継手管3と内継手管4とが離間して「く」の字形に変形する現象は起こりにくくなる。従って、ボルト23によって内継手管4と外継手管3とを結合した場合には、圧縮力及び引っ張り力だけではなく、曲げモーメントに対しても、必要な剛性を保持することが出来る様になり、地震時などに大きな曲げモーメントが発生する杭頭近くに継手を設けた場合などの安全性が向上する。
【0020】
又、上鋼管杭1と内継手管4との間に介在している円環状の鍔部7は、内継手管4とは別体であり、削り出しではなく、溶接によって形成されるので、削り出しによって形成される場合の様に、切削屑として無駄に捨てられてしまう鋼材の量が極めて少なく、高価な肉厚鋼管を用いる必要もなく、内継手管4は電気抵抗溶接鋼管など安価な鋼管で足り、鋼材重量の軽量化及び切削量の大幅な削減が可能で、製造コストの大幅低下及び貴重な金属資材の有効利用が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
上鋼管杭1と内継手管4との間に介在する円環状の鍔部7を削り出しではなく、溶融した溶接金属40を内継手管4の外周に溶着固化させることにより形成する様にした点に最大の特徴が存する。
【実施例1】
【0022】
図7はこの発明に係る鋼管杭の機械式継手の実施例1の斜視図、図8はその要部の半裁縦断面図、図9は同じくその要部の横断面図である。図中1は接合対象である上鋼管杭、2は下鋼管杭であり、この発明に係る鋼管杭の接合用機械式継手は、この上鋼管杭1の下端と下鋼管杭2の上端とを以下に詳記する様に、別体である円環状の鍔部7を介して内継手管4と外継手管3とで直列状に接合するものである。
【0023】
外継手管3は、短尺円筒状をなした鋼管製で、接合対象である下鋼管杭2の外径とほぼ同じ外径で、その軸心が下鋼管杭2の軸心と一致する様に、下鋼管杭2の端面に溶接固定されている。又、その周壁5には軸心から直角の方向に向かって放射状に複数の透孔6が間隔をあけて穿かれている。
【0024】
一方、内継手管4は、外継手管3と同様に、短尺円筒状をなした鋼管製で、前記外継手材3の内径よりわずかに小さい外径を有し、外周壁の上端寄りの部分と上鋼管杭1の下端面との挟まれた領域に、溶融した溶接金属40によって形成される円環状の鍔部7を介して上鋼管杭1の下端に溶接固着されている。
【0025】
鍔部7は、溶融した溶接金属40を順次内継手管4の周壁に溶着固化させ、盛り付けることによって形成するものであり、図8及び図10に示す様に略矩形状の断面形状をなしており、その内周壁は内継手管4の外周壁8に、上端面は上鋼管杭1の下端面9にそれぞれ溶け込んで強固に固着せしめられている。
【0026】
一方、図9に示す様に、外継手管3の透孔6に対応した位置には、軸心から直角の方向に向かって放射状に複数の透孔10が等間隔に形成されており、外継手管3の透孔6と内継手管4の透孔10にピン14を差し込むことにより、外継手管3と内継手管4とを結合する様になっている。なお、この実施例1においては、上鋼管杭1に内継手管4を、下鋼管杭2に外継手管3をそれぞれ固着する様にしているが、これとは逆に、上鋼管杭1に外継手管3を、下鋼管杭2に内継手管4を固着する様にしても良い。外継手管3及び内継手管4は、いずれも既製の鋼管を短尺切断したものであり、本件出願人が先に提案した特願2007−190470及び特願2008−152401における内継手管に比べ十分に薄い鋼管で足り、安価な電気抵抗溶接管も使用することが出来る。
【0027】
なお、上鋼管杭1の下端面9や内継手管4の外周壁8では溶接金属40の溶け込み不良による溶接欠陥が生じやすいが、図11に示す様に、上鋼管杭1の下端面9を斜めに、面取りして、開先溶接用の斜面11を形成したり、内継手管4の外周壁8にリング状の溝12を形成しておけば、より確実に溶け込みが行われ、溶接欠陥の発生が阻止される。
【0028】
又、上鋼管杭1の内径と内継手管4の外径とはほぼ同じであることが好ましいが、実際には鋼管の規格や設計上の理由から内継手管4の外径が上鋼管杭1の内径より数mm小さい場合もあるが、その様な場合には、図12に示す様に、上鋼管杭1の内周壁面と内継手管4の外周壁8との間に鋼製のフィラー13を介在させて両者間のすき間を埋め、仮付け溶接を施せば良い。なお、図中52は仮付け溶接箇所を示す。
【0029】
又、上記実施例においては、鍔部7が外継手管3に当接する面は上鋼管杭1の軸心に対して直角であるが、図13に示す様に鍔部7の端面にオーバーハング状の逆傾斜面21を設けても良く、こうすることにより、曲げモーメント作用時に、引っ張り側での外継手管3と内継手管4の断面変形とこれに伴う両者の離間を防ぐことが出来る。なお、この場合の逆傾斜面21は鍔部7の端部が外継手管3の端部に覆いかぶさる向きでなければならない。又、同じ目的で図14に示す様に、鍔部7の端面にオーバーハング状の段差22を設け、この段差22に係合する様に、外継手管3の端部にも段差を設ける様にしても良い。
【0030】
なお、上鋼管杭1と下鋼管杭2とを結合し、基礎杭として地中に建て込んで供用した後には、ピン14にはせん断力しか作用しないので、ピン14が透孔6及び10から抜け出ることはないが、基礎杭工事の施工中においては、複雑な圧力や震動がピン14に加わる為、ピン14が内継手管4の内側や外継手管3の外側へ抜け落ちるおそれがある。ピン14の内側への抜け落ちを防ぐには、図15に示す様に内継手管4の内側に鋼製リング15を巻き付け、点溶接17によって固定したり、図16に示す様に、内継手管4の透孔10を内側で完全に貫通させずに途中で止め、非貫通部18を形成したり、図17に示す様に、不完全貫通部19を形成するなどすれば良い。一方、外側への抜け落ちを防ぐには、図15に示す様に外継手管3の外側に落し蓋方式の鋼製バンド16を巻き付けたり、図16に示す様に、ピン14の外側端部を透孔6の外縁に点溶接17によって固定したり、図17に示す様に、ピン14の外側端部をガムテープ20によって外継手管3の周壁5に固定するなどすれば良い。
【0031】
次に、図18及び図19は、上鋼管杭1の下端と内継手管4の上部との間に介在している鍔部7を形成する方法の一例を示したものであり、上鋼管杭1はローラー24上に横架せしめられており、ローラー24は図示せざる回転駆動装置によって一定速度で回転する様になっている。一方、内継手管4は、軸心を上鋼管杭1の軸心と一致させた状態で、上鋼管杭1の端部数箇所に仮付け溶接されている。図中、52は仮付け溶接箇所を示す。又、内継手管4の外周壁8には、上鋼管杭1の端面から一定の隙間27を置いてリング状をなした溶融金属抑え部材25が巻き付けられている。なお、上記隙間27は形成しようとする鍔部7の幅に合せる。前記リング状の溶融金属抑え部材25は、銅やセラミックスを素材としており、溶接金属40と融着せず、しかも繰り返し反復使用出来る材質が好ましい。更に、溶接トーチ26が上記隙間27の上方に位置せしめられている。
【0032】
この様な状態において、上鋼管杭1を一定速度で回転させつつ、図19に示す様に、溶接トーチ26によって生じた溶融金属40を上鋼管杭1の端面と内継手管4の外周壁8によく溶け込む様に上方から流し込み、隙間27に溶融金属40を順次盛り付けて、上鋼管杭1と内継手管4とを一体化する。この際、溶融金属40は溶融金属抑え部材25によってせき止められ、側面方向への流動が阻止される。上鋼管杭1を一回転させただけでは鍔部7は形成されないので、溶接トーチ26の狙い位置を変えて何回転もさせながら溶接作業を繰り返し、鍔部7の高さが上鋼管杭1の外周面の高さとほぼ同じになったとき、溶接作業を止め、この溶融金属抑え部材25を取りはずせば、鍔部7の形成作業は終了する。なお、上鋼管杭1は横架されており、上方に位置した溶接トーチ26で、下向き溶接により鍔部7を形成するので、溶接作業は極めて容易である。なお、図19に示す溶融金属抑え部材31は矩形上の断面を有しているが、側面に傾斜を設けたり、階段状にすることにより、前述の図13や図14に示す様な形状の鍔部7を形成することが出来る。又、この溶接作業は、安定した溶接品質が得られる溶接ロボットを用いることが好ましい。
【0033】
図20は、上記溶融金属抑え部材25の正面図であり、細長い銅板を曲げ加工した一対の半円形の本体28、28の一方の端部にヒンジ29が、他方の端部にボルト式締め具30がそれぞれ取り付けられており、内継手管4に巻き付けて締め具30のボルトを締め付けて、銅板製の本体28を内継手管4の外周壁8に密着させる様になっている。
【0034】
溶融金属抑え部材は、上記図20に示すものだけではなく、図21に示すものでも良い。即ち、この図21に示す溶融金属抑え部材31は、前述の図20に示す溶融金属抑え部材25の様に、リング状ではなく、円弧状をなしており、図示の通り、内継手管4の外周壁8の曲率とほぼ同じ曲率の摺接面32を有し、保持冶具33によって前記摺接面32が内継手管4の外周壁8上部に上方から摺接する様に位置せしめられており、内継手管4が回転するとき、一定の位置を保持しながら、内継手管4の外周壁8との間で摺動し、溶接トーチ26による溶接作業の際に溶融金属40が側面方向へ流動するのをせき止める。なお、内継手管4の外周壁8とこの溶融金属抑え部材31の摺接面32との間に隙間があると、溶融金属40がこの隙間に入り込んで固化するので、この溶融金属抑え部材31は上方から圧力を加えて、隙間の発生を防いでいる。
【0035】
溶接トーチ26から発生するアークにより溶融した溶接金属40は、溶融したままの状態にある時間はわずか数秒以内で、溶接トーチ26から数cm離れれば、すぐに固化するので、溶融金属抑え部材31の長さは5〜10cmもあれば十分である。従って、溶融金属抑え部材31は内継手管4の全周を覆うものでなくても良く、この様なコンパクトな溶融金属抑え部材31でも鍔部7を容易かつ確実に形成することが可能である。ただし、この溶融金属抑え部材31は、図20に示すリング状の溶融金属抑え部材25と異なり、アーク発生位置に近く、絶えず高温に晒されるので、変形や変質が生じやすいが、図22に示す様に、内部に空胴34を設け、この中に冷却水41を循環させるなどして過度な温度上昇を防止する様にすれば、変形や変質を防ぐことが出来、反復使用が可能となる。
【実施例2】
【0036】
上記実施例1においては、外継手管3と内継手管4との結合はピン14によって行ったが、図23に示す様に、透孔6、10にボルト23を挿通し、ナット35で締め付けることによって両者の結合を行っても良く、その場合には、曲げモーメント作用時に外継手管3と内継手管4とが離間して「く」の字形に変形する現象が発生しにくくなる。
【0037】
なお、この図23に示す実施例においては、ボルト23の頭部42は外継手管3の外面より外側に突出しており、既存のボルトをそのまま用いることが出来ると共に、加工も容易であるという利点を有しており、最も基本的な構造であるが、設計施工上、ボルト23の頭部42が外継手管3の外面より外側に突出することが許されない場合には、図25に示す様に、両端にネジ溝43、44が形成されている無頭ボルト45を用いると共に、外継手管3の透孔6にネジ溝46を形成し、この外継手管3のネジ溝46と無頭ボルト45のネジ溝44とを螺合し、内継手管4から内側に突出したネジ溝43にナット35を螺合することにより、外継手管3と内継手管4とを締め付けて結合する様にしても良い。なお、図中47はこの無頭ボルト45を回転させる為の工具を係合する係合穴である。又、図26に示すものの様に、内継手管4の透孔10及び外継手管3の透孔6に共にネジ溝48、46を形成すると共に、全周面にわたってネジ溝50が形成されている無頭ボルト51を用意し、この無頭ボルト51によって外継手管3の内面と内継手管4の外周面とを結合する様にしても良い。
【0038】
更に、外継手材3と内継手材4とを結合する為の透孔10及び6を一列に配列するだけではなく、二段に配列しても良い。この様に透孔10及び6を上下二段に配置した場合は、外継手管3及び内継手管4の長さを一列配置の場合に比べ長くせざるを得ないが、図3及び図4に示す様な「く」の字形の変形がより起きにくくなる利点がある。
【0039】
なお、図23及び図25に示す実施例においては、それぞれナット35が用いられており、ナット35は内継手管4の内側に位置するので、ボルト23あるいは無頭ボルト45への螺合作業の際にその位置を適正に保持するのはなかなかむずかしいが、図24に示す様に、内継手管4の透孔10にネジ溝48を形成し、有頭のボルト23の外周面に形成されているネジ溝をこの透孔10に形成されているネジ溝48に螺合させることにより、外継手材3の内面と内継手材4の外周面とを締め付けて結合する様にすれば、螺合作業の際に位置の保持が面倒であるナットを用いる必要がなくなるので、作業性が向上する。
【0040】
この様に、この発明に係る鋼管杭の接合用機械式継手は、継手に作用する様々な外力に対して、十分な強度、剛性を保持することが出来ると共に、削り出しによる鋼材の無駄な浪費もなく、安価な鋼管を用いて、低いコストで製造することが可能で、現場での取付け結合作業も容易であり、極めて高い実用性を有している。
【産業上の利用可能性】
【0041】
基礎杭を用いる各種建築土木工事において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】特願2007−190470で提案した鋼管杭の機械式継手の実施例1の斜視図。
【図2】同じく、一対の鋼管杭を結合した状態の要部の断面図。
【図3】同じく、曲げモーメントが作用した場合の変形状況を説明する為の圧縮側の断面図。
【図4】同じく、曲げモーメントが作用した場合の変形状況を説明する為の引っ張り側の断面図。
【図5】曲げモーメントを影響を調べる為に実施する荷重試験の方法を説明した説明図。
【図6】図5に示す荷重試験の結果を示したグラフ。
【図7】この発明に係る鋼管杭の機械式継手の実施例1の斜視図。
【図8】同じく、その要部の半裁縦断面図。
【図9】同じく、その要部の横断面図。
【図10】同じく、その要部である内継手管4と上鋼管杭11との間に円環状の鍔部7が介在している状態を示した断面図。
【図11】鍔部7を構成する溶融金属40の溶け込みを良くする様に配慮された実施例の断面図。
【図12】上鋼管杭1の内径と内継手管4の外径とが一致しない場合の修正手段の一例を示した断面図。
【図13】曲げモーメント作用時に外継手管3と内継手管4の断面変形とそれに伴う離間を防止する様に配慮された実施例の一例の断面図。
【図14】同じく、他例の断面図。
【図15】ピン14の脱落を防止する様に配慮された実施例の断面図。
【図16】同じく、他例の断面図。
【図17】同じく、更に他の例の断面図。
【図18】本発明の構成要素の一つである円環状の鍔部7を形成する方法を説明した斜視図。
【図19】同じく、その要部の側面図。
【図20】円環状の鍔部7を形成する為に用いるリング状の溶融金属抑え部材の一例の正面図。
【図21】鍔部7を形成する為に用いる溶融金属抑え部材の他例の正面図。
【図22】図21に示した溶融金属抑え部材に冷却手段を付設した一例の断面図。
【図23】この発明に係る鋼管杭の機械式継手の実施例2の要部の断面図。
【図24】同じく、実施例2の他例の要部の断面図。
【図25】同じく、実施例2の更に他の例の断面図。
【図26】同じく、実施例2の更に他の例の断面図。
【符号の説明】
【0043】
1 上鋼管杭
2 下鋼管杭
3 外継手管
4 内継手管
5 周壁
6 透孔
7 鍔部
8 外周壁
9 下端面
10 透孔
11 斜面
12 溝
13 フィラー
14 ピン
15 鋼製リング
16 鋼製バンド
17 点溶接
18 非貫通部
19 不完全貫通部
20 ガムテープ
21 逆傾斜面
22 段差
23 ボルト
24 ローラー
25 溶融金属抑え部材
26 溶接トーチ
27 隙間
28 本体
29 ヒンジ
30 締め具
31 溶融金属抑え部材
32 摺接面
33 保持冶具
34 空胴
35 ナット
36 内継手材
37 外継手材
38 基部
39 鍔部
40 溶接金属
41 冷却水
42 頭部
43 ネジ溝
44 ネジ溝
45 無頭ボルト
46 ネジ溝
47 係合孔
48 ネジ溝
50 ネジ溝
51 無頭ボルト
52 仮付け溶接箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
短尺円筒状をなし、接合対象である一対の鋼管杭の外径とほぼ同じ外径を有し、一方の鋼管杭の端面に、その軸心が一致する様に溶接されると共に、周壁には軸心から直角の方向に向かって放射状に複数の透孔が穿かれている外継手管と、同じく短尺円筒状をなし、前記外継手管の内径よりわずかに小さい外径を有し、溶接金属によって形成され、外径が前記鋼管杭の外径とほぼ同じである円環状の鍔部が外周壁の一方の端部寄りの部分に設けられており、該円環状の鍔部を介して、もう一方の鋼管杭に溶接固着されていると共に、前記外継手管の透孔が形成されている位置と対応する位置の周壁に、軸心から直角の方向に向かって放射状に複数の透孔が穿かれている内継手管とからなり、前記両透孔が連通する様に、外継手管の内径側に内継手管を挿入し、前記円環状の鍔部の端面と外継手管の端面とを当接させ、それぞれの透孔にピンを差し込むことにより、内継手管と外継手管とを結合する様にしたことを特徴とする鋼管杭の機械式継手。
【請求項2】
短尺円筒状をなし、接合対象である一対の鋼管杭の外径とほぼ同じ外径を有し、一方の鋼管杭の端面に、その軸心が一致する様に溶接されると共に、周壁には軸心から直角の方向に向かって放射状に複数の透孔が穿かれている外継手管と、同じく短尺円筒状をなし、前記外継手管の内径よりわずかに小さい外径を有し、溶接金属によって形成され、外径が前記鋼管杭の外径とほぼ同じである円環状の鍔部が外周壁の一方の端部寄りの部分に設けられており、該円環状の鍔部を介して、もう一方の鋼管杭に溶接固着されていると共に、前記外継手管の透孔が形成されている位置と対応する位置の周壁に、軸心から直角の方向に向かって放射状に複数の透孔が穿かれている内継手管とからなり、前記両透孔が連通する様に、外継手管の内径側に内継手管を挿入し、前記円環状の鍔部の端面と外継手管の端面とを当接させ、それぞれの透孔にボルトを挿入し、該ボルトによって内継手管と外継手管とを締め付けて結合する様にしたことを特徴とする鋼管杭の機械式継手。
【請求項3】
円環状の鍔部にオーバーハング状の逆傾斜面が形成されていると共に、外継手管の端部に前記逆傾斜面に対応する傾斜面が形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の鋼管杭の機械式継手。
【請求項4】
円環状の鍔部にオーバーハング状の段差が形成されていると共に、外継手管の端部に前記段差に対応する逆向きの段差が形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の鋼管杭の機械式継手。
【請求項5】
内継手管をその軸心が一方の鋼管杭の軸心と一致する様に仮付け溶接した状態で、該鋼管杭をローラー上に横架し、形成すべき鍔部の幅に見合った寸法の隙間を置いて該鋼管杭の周面にリング状をなした溶融金属抑え部材を巻き付け、上方に位置せしめた溶接トーチによる下向き溶接で前記隙間に溶融した溶融金属を流し込み、該鋼管杭を回転させながら、円環状の鍔部を形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の鋼管杭の機械式継手。
【請求項6】
内継手管をその軸心が一方の鋼管杭の軸心と一致する様に仮付け溶接した状態で、該鋼管杭をローラー状に横架し、形成すべき鍔部の幅に見合った寸法の隙間を置いて、内継手管の外周壁の曲率とほぼ同じ曲率の摺接面を有する円弧状をなした溶融金属抑え部材を内継手管の外周壁上部に当接させ、上方に位置せしめた溶接トーチによる下向き溶接で前記隙間に溶融した溶接金属を流し込み、該鋼管杭を回転させながら円環状の鍔部を形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の鋼管杭の機械式継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2010−24756(P2010−24756A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189339(P2008−189339)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(592198404)千代田工営株式会社 (25)
【Fターム(参考)】