説明

鋼管構造物内面処理装置の支持アーム駆動機構

【課題】 小径でかつ内部形状変化のある鋼管構造物に適用できる鋼管構造物内面処理装置の支持アーム駆動機構を提供すること。
【解決手段】 電動機20が内面処理装置Eの本体を支持するフレーム10に固定される。駆動ネジ棒部材30が電動機の駆動軸に連結される。往復部材40がフレームに支持され、駆動ネジ棒部材に螺合するナット部41およびナット部に接続されたチャンバ部42を有する。ラック部材50は丸ラック部51、連結ロッド部52、頭部53を有する。頭部がチャンバ部に係合する。圧縮コイルばね60が連結ロッド部の外周に装着され、丸ラック部をチャンバ部から離間するように作用する。支持アーム部材70が複数組設けられる。各支持アーム部材に固定されたピニオン73が丸ラック部に噛み合う。リミットスイッチ群80が往復部材の前進・後退位置を制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管構造物内面処理装置の支持アーム駆動機構に関し、さらに詳しく言えば、鋼管構造物の内面に防錆等の処理を施す設備において、鋼管構造物内部に挿入した内面処理装置を所定位置に保持する支持アーム部材を駆動する機構に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管構造物の内面処理は、大別して鋼管構造物の内面調査過程と、調査結果にもとづく内面除錆処理過程と、除錆後の内面塗装処理過程とがある。
【0003】
本出願人は、鋼管構造物の内面に防錆等の処理を施す設備において、鋼管構造物の内面調査過程、調査結果にもとづく内面除錆処理過程、除錆後の内面塗装処理過程に広く適用できるが、主として内面除錆処理過程に特に適しかつ外部から簡単に遠隔操作できる鋼管構造物内面除錆処理装置を先に提案した(特許文献1)。
【0004】
この鋼管構造物内面除錆処理装置は、鋼管構造物の上部から鋼管構造物内部に吊り下げられ、所定位置に到達したとき支持アームが開いてその位置を保持する。支持アームの開閉駆動は電磁弁および流体シリンダを利用している。鋼管構造物の内径が十分に大きい場合には、流体シリンダを有効に利用できる。しかし、鋼管構造物の内径が比較的小さい場合には、十分な駆動力を有する流体シリンダは比較的大型になるので、流体シリンダを利用することができない。
【0005】
鋼管構造物の内部は、高さ位置によって内径が異なり、さらに段差が設けられていることもある。流体シリンダ(特に、エアー・シリンダ)は、それ自体に緩衝機能を備えているので、鋼管構造物の内部形状変化に順応でき、支持アームの開閉作用を自動化するのに最適である。流体シリンダに代えて電動機を利用することも考えられる。しかし、電動機はそれ自体に緩衝機能を備えていないので、別途緩衝機構を連結する必要がある。
【特許文献1】特開2004−011013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、鋼管構造物の内面に防錆等の処理を施す設備において、特に小径でかつ内部形状変化のある鋼管構造物に適用できる鋼管構造物内面処理装置の支持アーム駆動機構を提供することを課題にしている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の支持アーム駆動機構は、鋼管構造物内面処理装置を鋼管構造物に挿入し、所定位置に到達したとき支持アーム部材が開いてその位置を保持しかつ所定の内面処理を施す設備に適用される。本発明の支持アーム駆動機構は、フレーム、電動機、駆動ネジ棒部材、往復部材、ラック部材、圧縮コイルばね、支持アーム部材、リミットスイッチ群、制御器を備えている。
【0008】
フレームは、鋼管構造物内面処理装置の本体を支持する。電動機は、フレームに固定される。駆動ネジ棒部材は、電動機の駆動軸にカップリングをかいして連結される。往復部材は、フレームに回転不能滑動自在に支持されていて、駆動ネジ棒部材に螺合するナット部およびナット部に接続されたチャンバ部を有する。ラック部材は、先端に丸ラック部、中間に連結ロッド部、後端に頭部を有していて、頭部が往復部材のチャンバ部内に回転不能滑動自在に係合する。圧縮コイルばねは、ラック部材の連結ロッド部の外周に装着されていて、ラック部材の丸ラック部を往復部材のチャンバ部の先端から離間するように作用する。支持アーム部材は、複数組設けられる。各支持アーム部材は、所定長さのアームの先端に接触ローラを回転自在に取り付け、アームの後端にピニオンを固定し、ピニオンをフレームに回転自在に支持しかつラック部材の丸ラック部に噛み合わせた構成になっている。リミットスイッチ群は、往復部材の前進位置および後退位置を制限する。制御器は、リミットスイッチ群からの信号に応答して電動機の作動を制御する。
【0009】
本明細書において、「先端」および「後端」とは、鋼管構造物内面処理装置が鋼管構造物内を「前進する側の端」および「後退する側の端」をそれぞれ言う。また、「前進」および「後退」とは、上記の「前へ進む方向への移動」および「後へ退く方向への移動」をそれぞれ言う。
【0010】
リミットスイッチ群は第1組および第2組のリミットスイッチからなる。第1組のリミットスイッチは往復部材のチャンバ部後端内面とラック部材の頭部後端外面とに固定された接点を有していて往復部材の前進位置を制限する。第2組のリミットスイッチは往復部材のチャンバ部後端外面とフレームの所定位置とに固定された接点を有していて往復部材の後退位置を制限する。
【0011】
アームをラック部材の丸ラック部の円周方向に180度離間させて2組、円周方向に120度離間させて3組、または円周方向に90度離間させて4組設けることが好ましい。
【0012】
鋼管構造物内面処理装置の本体を支持するフレームに前述の支持アーム駆動機構を長手方向にそって直列に複数組連結して鋼管構造物内面処理設備を構成することもできる。
【0013】
往復部材のチャンバ部内においてラック部材が移動可能な距離を、アームを完全に開いたときと閉じたときとの間のラック部材の移動距離に対応させ、そして、第1組のリミットスイッチの2つの接点の接合位置が実質的に前記ラック部材の移動可能距離に対応した距離を移動できるように、2つの接点のうちの少なくとも一方を移動自在に設けることもできる。
【0014】
また、電動機を、フレーム内を長手方向へ移動自在な摺動スリーブに装着し、フレームの内面に設けられた係合穴と係脱自在に係合する少なくとも一つのプランジャを摺動スリーブに形成することもでき、それにより、摺動スリーブを後退させる方向の力が所定の大きさ以上になったとき、プランジャが係合穴から離脱して摺動スリーブの後退を許容する。このプランジャは、摺動スリーブの円周方向へ相互に離間した少なくとも2箇所、および/または、摺動スリーブの長手方向へ相互に離間した少なくとも2箇所へそれぞれ配置するのが望ましい。さらにまた、プランジャが摺動スリーブ周面から外方に向かって付勢されるボールを有し、係合穴がその係合穴から長手方向に延びる縦溝に連続し、この縦溝の深さを係合穴の深さより浅く形成し、摺動スリーブを後退させる方向の外的力が所定の大きさ以上になったとき、ボールが係合穴から縦溝へと移動するように構成することもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に基づく支持アーム駆動機構は、小径の鋼管構造物に適用でき、流体輸送管に代えて電線を使用できるので、小径・軽量構造にすることができ、さらに自動化可能な小型緩衝機能を備えている。また、なんらかの故障或いは不注意でアームを開いたまま巻き上げたとしても、アームを閉じようとする外的力によって駆動ネジ棒部材が後退可能であるため、アームを損傷することなしに巻き上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に基づく支持アーム駆動機構が適用される鋼管構造物内面処理設備の概要について、図1を参照して簡単に説明する。
【0017】
図1は、本発明が適用される鋼管構造物内面処理装置Eの一例を示す側面図である。内面処理装置Eは保持部1と、処理部2とから構成される。内面処理装置Eのフレーム10は、鋼管構造物Aの外部に配置された吊上ユニット(図示せず)から伸びるワイヤ3で吊輪8(図3、および図5の(A)図参照)をかいして吊り下げられている。また、内面処理装置Eの上側の保持部1には、支持アーム部材4が複数段(図示例では、3段)設けられ、各段の支持アーム部材4には少なくとも3本のアーム7が円周方向に120度の間隔をあけて開閉自在に取り付けられる。各段の支持アーム部材4には電磁弁5とエアー・シリンダ6とが連結される。内面処理装置Eは、保持部1の電磁弁5に通電し、エアー・シリンダ6を作動し、支持アーム部材4のアーム7を開き、鋼管構造物Aの内面を押し付け、そして、内面処理装置Eの上部に取り付けられたワイヤ3の下降を停止することにより、内面処理装置Eを鋼管構造物Aの内部の任意位置に安定保持される。
【0018】
鋼管構造物の内面処理は、大別して鋼管構造物の内面調査過程と、調査結果にもとづく内面除錆処理過程と、除錆後の内面塗装処理過程とがある。図1に示す処理部2は、目的の処理過程に応じて調査ユニット、除錆ユニット、塗装ユニットに交換または直列接続される。
【0019】
内面処理装置Eを移動させる場合、下降移動は図1に示す状態で、支持アーム部材4のアーム7の開き角度を鋼管構造物Aの内径寸法より小さくし、ワイヤ3を下降させる。内面処理装置Eがフランジ継手を通過する場合には、下側の支持アーム部材4のアーム7がフランジ継手の段差部に接触したとき、下側の支持アーム部材4のアーム7を閉じ、ワイヤ3を緩め、段差部を通過させる。次に、中央の支持アーム部材4のアーム7が段差部に接触したとき、下側の支持アーム部材4を開き、中央の支持アーム部材4のアーム7を閉じ、ワイヤ3を緩め、段差部を通過させる。最後に上側の支持アーム部材4のアーム7が段差部に接触したとき、中央の支持アーム部材4を開き、上側の支持アーム部材4を閉じ、ワイヤ3を緩め、段差部を通過させる。上昇移動は、図1の状態でワイヤ3を引き上げることにより可能となる。フランジ継手の段差部の部位での上昇移動の場合には、緩衝機能を有するエアー・シリンダ6によってアーム7の開閉駆動を行っているので、前述の下降移動の手順は不要となる。
【0020】
ところで、前述した内面処理装置Eでは、支持アーム部材4の駆動機構として電磁弁5およびエアー・シリンダ6を用いている。前述したように、鋼管構造物Aの内部は、高さ位置によって内径が異なり、さらに段差が設けられていることもある。流体シリンダ(特に、エアー・シリンダ)は、それ自体に緩衝機能を備えているので、鋼管構造物の内部形状変化に順応でき、支持アームの開閉作用を自動化するのに最適である。鋼管構造物Aの内径が十分に大きい場合には、流体シリンダを有効に利用できる。しかし、鋼管構造物Aの内径が比較的小さい場合には、十分な駆動力を有する流体シリンダは比較的大型になるので、流体シリンダを利用することができない。流体シリンダに代えて電動機を利用することも考えられる。しかし、電動機はそれ自体に緩衝機能を備えていないので、別途緩衝機構を連結する必要がある。
【実施例1】
【0021】
そこで、本発明の支持アーム駆動機構では、流体シリンダに代えて電動機を利用し、電動機に緩衝機能を備えた機構を設けている。以下、本発明に基づく支持アーム駆動機構の実施例について、図2−図7を参照して説明する。
【0022】
図2−図5に示すように、本発明の支持アーム駆動機構100は、フレーム10、電動機20、駆動ネジ棒部材30、往復部材40、ラック部材50、圧縮コイルばね60、支持アーム部材70、リミットスイッチ群80、制御器90を備えている。
【0023】
フレーム10は、鋼管構造物内面処理装置E(図1参照)の本体を支持する。電動機20は、フレーム10に固定される(図5の(B)図参照)。駆動ネジ棒部材30は、電動機20の駆動軸21にカップリング22をかいして連結される(図4、および図5の(C)図参照)。往復部材40は、フレーム10に軸受部材11をかいして回転不能滑動自在に支持されていて、駆動ネジ棒部材30に螺合するナット部41とナット部41に接続されたチャンバ部42とを有する(図2、および図4参照)。
【0024】
図示実施例では、駆動ネジ棒部材30が雄ネジで往復部材40のナット部41が雌ネジに形成されているが、その逆でもよい。
【0025】
ラック部材50は、先端に丸ラック部51、中間に連結ロッド部52、後端に頭部53を有していて、頭部53が往復部材40のチャンバ部42内に回転不能滑動自在に係合する(図2、および図4参照)。圧縮コイルばね60は、ラック部材50の連結ロッド部52の外周に装着されていて、ラック部材50の丸ラック部51を往復部材40のチャンバ部42の先端から離間するように作用する(図4参照)。
【0026】
支持アーム部材70は、複数組(図示例では4組)設けられる(図5の(E)図参照)。各支持アーム部材70は、所定長さのアーム71の先端に接触ローラ72を回転自在に取り付け、アーム71の後端にピニオン73を固定し、ピニオン73をフレーム10に回転自在に支持しかつラック部材50の丸ラック部51に噛み合わせた構成になっている(図2、図4、および図5の(E)、(F)参照)。
【0027】
図示例では、アーム71をラック部材50の丸ラック部51の円周方向に90度離間させて4組設けているが、円周方向に120度離間させて3組、または円周方向に180度離間させて2組設けることもできる。
【0028】
図3および図4に示すように、リミットスイッチ群80は、往復部材40の前進位置および後退位置を制限する。リミットスイッチ群80は、第1組のリミットスイッチ80aおよび第2組のリミットスイッチ80bからなる。
【0029】
図4、6、7に最もよく示すように、第1組のリミットスイッチ80aは、往復部材40のチャンバ部42の後端内面に固定された接点81と、ラック部材50の頭部53の後端外面に固定された接点82とを有していて、後述するように、往復部材40の前進位置を制限する。第2組のリミットスイッチ80bは、往復部材40のチャンバ部42の後端外面に固定された接点83と、軸受部材11の所定位置に固定された接点84とを有していて、後述するように、往復部材40の後退位置を制限する。
【0030】
図4、6、7は説明の便宜上原理的機構を示すものである。実際には、図3に示すように、第1組のリミットスイッチ80aの接点81、82および第2組のリミットスイッチ80bの接点83、84が図示する位置と異なる適当な位置に配置されてもよく、例えば、リミットスイッチ80aおよび80bのチャンバ部42に関する位置関係を逆に配置したり、リミットスイッチ80aおよび80bを共にチャンバ部42内または外に配置したりすることも可能である。各組のリミットスイッチ80aおよび80bは、接触式または非接触式のいずれでもよい。
【0031】
制御器90は、図4に示すように、リミットスイッチ群80からの信号に応答して電動機20の作動を制御する。すなわち、制御器90は、第1組のリミットスイッチ80aからの開閉信号および第2組のリミットスイッチ80bからの開閉信号を受け、制御器90に予め設定されたプログラミングに基づいて電動機20に起動・停止信号を出力する。
【0032】
次に、本発明に基づく支持アーム駆動機構100の動作について図6、7を参照して説明する。
【0033】
図6の(A)図に示すような待機状態に支持アーム駆動機構100をするために、まず電動機20が第1方向(例えば、時計方向)に起動する。駆動ネジ棒部材30が第1方向に回転を開始し、往復部材40を最大限度まで後退させる。それに伴い、ラック部材50を後退させ、支持アーム部材70を最大限度まで閉じる。そのとき、第2組のリミットスイッチ80bの接点83と接点84とが接触し、リミットスイッチ80bからの閉信号が制御器90に送られて、電動機20を停止する。このとき、第1組のリミットスイッチ80aは開いたままの状態になっている。
【0034】
図6の(B)図に示すように、手動で制御器90を操作して電動機20を第2方向(例えば、反時計方向)に起動する。駆動ネジ棒部材30が第2方向に回転を開始し、往復部材40を前進させる。ラック部材50は圧縮コイルばね60の反発作用のもとで前方に押し出される。これにより、支持アーム部材70のアーム71は徐々に開く。このとき、第1組のリミットスイッチ80aは開いたままの状態にあり、第2組のリミットスイッチ80bが開く。
【0035】
図6の(C)図に示すように、アーム71の開動作が進行し、アーム71の先端に取り付けられた接触ローラ72が鋼管構造物Aの内面に接触したとき、または、ラック部材50の丸ラック部51の先端がストッパ(図示せず)に当接したとき(例えば、各アーム71の開角度が丸ラック部51の軸心に関して90度近くになったとき)、アーム71の開動作が停止され、それによりラック部材50の前進も停止する。しかし、往復部材40の前進はなおも継続し、圧縮コイルばね60を丸ラック部51の後端とチャンバ部42の前端との間で圧縮しつつある。
【0036】
図7の(A)図に示すように、往復部材40のチャンバ部42がなおも前進を続けて、圧縮コイルばね60を圧縮し続ける。その間に、第1組のリミットスイッチ80aの接点81と接点82とが接触したとき、第1組のリミットスイッチ80aからの開信号が制御器90に送られて電動機20の駆動を停止する。第2組のリミットスイッチ80bは、開いたままの状態にある。このとき、支持アーム部材70は鋼管構造物内面処理装置Eを鋼管構造物A内の所定位置に保持する。内面処理装置Eは所定の内面処理を行う。
【0037】
内面処理終了後、7図の(B)図に示すように、手動で制御器90を操作して電動機20を第1方向(例えば、時計方向)に起動する。駆動ネジ棒部材30が第1方向に回転を開始し、往復部材40を後退させる。このとき、第1組のリミットスイッチ80aが開き、第2組のリミットスイッチ80bは開いたままである。往復部材40は圧縮コイルばね60の圧縮を緩めながら、ラック部材50の頭部53の前端が往復部材40のチャンバ部42の前端内面に係合し、ラック部材50は往復部材40と共に後方に引き戻される。これにより、支持アーム部材70のアーム71は徐々に閉じる。アーム71の閉動作が進行し、アーム71の先端に取り付けられた接触ローラ72が鋼管構造物Aの内面から離間する。
【0038】
図7の(C)図に示すように、往復部材40のチャンバ部42がなおも後退を続けて第2組のリミットスイッチ80bの接点83と接点84とが再び接触したとき、第2組のリミットスイッチ80bからの閉信号が制御器90に送られて、電動機20を停止する。それにより、往復部材40の後退が停止し、ラック部材50の後退も停止し、アーム71の閉動作も停止する。図7の(C)図に示す状態は、図6の(A)図に示す待機状態と実質的に同じである。
【実施例2】
【0039】
図8−10は、本発明の別の実施例による支持アーム駆動機構を示す図で、図8はアーム71が閉じた状態を、図9はアーム71が最大まで開いた状態を、そして図10は開いた状態のアーム71が外的力によって強制的に閉じられようとする状態を示す。本実施例の支持アーム駆動機構100における特色は、人為的なミスや電動機20の故障により、アーム71を開いた状態のままで内面処理装置Eを引き上げたとき、アーム71が鋼管構造物Aにより強制的に閉じる方向へ押し曲げられてアーム71を含む種々の部品が破損してしまうのを回避できることにある。
【0040】
本実施例の支持アーム駆動機構100における往復部材40のチャンバ部42は、前記実施例におけるチャンバ部42よりも軸方向へ長く形成され、ラック部材50の頭部53はチャンバ部42内おいて移動可能である。この頭部53の移動可能な距離(ストローク)は、アーム71が完全に開いたときの位置と閉じたときの位置との間を移動する距離に対応する。
【0041】
往復部材40の過剰な前進を停止させるための第1組のリミットスイッチ80aは、少なくとも一方の接点(図示の場合、接点81)が軸方向へ移動自在に設けられると共に、圧縮コイルばね85により対向する接点(82)の方向に付勢されてる。この付勢された接点81と対向する接点82との間の静止状態における間隔は、前記実施例で説明したのと同様に間隔付けられるが、両接点81、82が接合した後に更に接点82が接点81を後退させたとき、圧縮コイルばね85のばね力に抗して更に後退する。
【0042】
このことは、アーム71の閉じ忘れや電動機20の故障等によってアーム71を開いたまま支持アーム駆動機構を引き上げた場合(このとき、往復部材40も固定された位置にある。)、上方側の小さい内径の鋼管によりアーム71が強制的に閉じられようとしたときに(図10参照)、ラック部材50が圧縮コイルばね60のばね力に抗して後退することを意味し、これにより、アーム71やその他の部品に損傷を与えるのを回避する。ここにおいて、図示の場合、接点81が可動接点として、接点82がラック部材50に固着された接点として示されているが、逆に構成することも可能であり、また、両接点を共に可動接点として構成することもできる。
【実施例3】
【0043】
図11−13は、本発明のまた別の実施例による支持アーム駆動機構を示す図で、図11はアーム71が閉じた状態を、図12は開いた状態のアーム71が外的力によって強制的に閉じられようとする状態を、図13はアーム71が外的力によって強制的に閉じられた状態を示す。本実施例の支持アーム駆動機構100における特色は、実施例2の支持アーム駆動機構と同様に、人為的なミスや電動機20の故障により、アーム71を開いた状態のままで内面処理装置Eを引き上げたとき、アーム71が鋼管構造物Aにより強制的に閉じる方向へ押し曲げられてアーム71を含む種々の部品が破損してしまうのを回避できることにある。
【0044】
本実施例における電動機20は、前記実施例における電動機20がフレーム10に装着されていたのに対し、フレーム10内を長手方向へ移動自在な摺動スリーブ12に装着される。摺動スリーブ12の外面には少なくとも1つのプランジャ13が設けられている。プランジャ13は、図14に示すように、ボール13aと、ボール13aを摺動スリーブ12周面から半径方向外方に向かって付勢するためのバネ13bとから構成される。プランジャ13は、好ましくは、後述する摺動スリーブ12の移動を円滑にするために、摺動スリーブ12の円周方向に相互に対向(または円周方向に相互に離間)した少なくとも2箇所、および/または、長手方向へ相互に離間した少なくとも2箇所(図示の場合、4箇所)へそれぞれ配置される。
【0045】
フレーム10の内面には、摺動スリーブ12が所定の位置にあるとき、プランジャ13のボール13aをその内部に受容して摺動スリーブ12を固定するように、プランジャ13に対応する位置に係合穴14が設けられる。より好ましくは、フレーム10の内面には係合穴14から少なくとも後退方向へ長手方向に延びる縦溝15が設けられる。縦溝15のフレーム10の内面からの深さは、係合穴14のフレーム10の内面からの深さよりも浅く選定される。
【0046】
上述の如く構成される本実施例の支持アーム駆動機構100は、常態では、図14の(A)に示すように、プランジャ13が係合穴14に係合して摺動スリーブ12を固定し、前記実施例と同様にして使用される。人為的なミスや電動機20の故障等でアーム71を開いた状態のまま引き上げたときに生じる、アーム71を強制的に閉じようとする方向の外的力が所定の大きさ以上になったとき、すなわち、ラック部材50、往復部材40、駆動ネジ部材30を介して摺動スリーブ12を後退させようとする外的力が所定の大きさ以上になったとき、プランジャ13のボール13aは、図14の(B)に示すように、バネ13bの力に抗して係合穴14から抜け出し、縦溝15内を後退方向へ移動する。かくして、ラック部材50が摺動スリーブ12と共に後退するため、アーム71は閉じられ、外的力によって損傷を受けるのを回避することができる。また、係合穴14から離脱したボール13aは縦溝15内を移動するため、摺動スリーブ12が円周方向に回転してアーム71が損傷されるのを回避できる。加えて、縦溝15が係合穴14に連通していることにより、摺動スリーブ12を常態位置に戻すのを容易にするだけでなく、本支持アーム駆動機構の組立作業を容易にする。
【0047】
図15は、実施例3の支持アーム駆動機構100の変形例を示す図で、特に、離脱した摺動スリーブ12を元の位置に復帰させるのに好適な形態を有しており、アーム71を完全に閉じたときにそれ以上の閉脚方向へのアーム71の移動を阻止するためのストッパ74を備えている点を除き、実施例3と基本的に同様に構成される。なお、図示の場合、プランジャ13と係合穴14および縦溝15との位置関係が図11〜14に示す位置関係とは逆の関係になっているが、図11〜14に示す位置関係と同様に配置してもよいことは容易に理解されよう。
【0048】
実施例3で述べたのと同様に、この変形例における支持アーム駆動機構100も、プランジャ13が係合穴14に係合して摺動スリーブ12を固定した状態で使用され、故障等によりアーム71が開いた状態(図15の(A)参照)のままで、アーム71を強制的に閉じようとする方向の大きな外的力が加えられたとき、図15の(B)に示すように、プランジャ13のボール13aが係合穴14から抜け出し、縦溝15内を後退方向へ移動し、ラック部材50が摺動スリーブ12と共に後退してアーム71を閉じる。
【0049】
アーム71を強制的に閉じて鋼管構造物内面処理装置を外部に取り出した後、所要の修理を行うのであるが、電動機20による作動が可能になったとき、アーム71を閉じる方向へ電動機20を回動させると、アーム71はストッパ74に押し付けられ、完全に閉脚した状態となる(図15の(C)参照)。ここにおいて、ストッパ74は、アーム71の閉脚方向の移動を停止する一方、アーム71が完全に開脚したときに丸ラック部51の前進を停止させるように構成することもできる。アーム71の閉脚方向の移動停止のためのストッパと、開脚方向の移動停止のためのストッパとは、図示のように一つのストッパとして設ける以外に、別個のストッパとしてそれぞれ設けることもできることは容易に理解されよう。
【0050】
アーム71を完全に開脚した状態で電動機20をさらに回動させると、駆動ネジ部材30が往復部材40のナット部41内を前進方向へ移動するため、駆動ネジ部材30は連結された電動機20を介して摺動スリーブ12を前進方向へ移動させ、それにより、プランジャ13が係合穴14と係合して元の位置に固定されることになる(図15の(D)参照)。ここにおいて、プランジャ13と係合穴14との係合手段が同一縦溝15上に複数設けられる場合、係合穴14から離脱したプランジャ13が別の隣接する係合穴14に係合して前述した復帰動作が行えなくなるのを防止するために、図15の(C)に示すように、同一縦溝15上において相互に隣接する2つのプランジャ13間および係合穴14間の間隔L1が、アーム71が完全に開脚したときと完全に閉脚したときの丸ラック部51の前進位置と後退位置との間の間隔L2よりも大きくなるように構成される必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の支持アーム駆動機構は、小径の鋼管構造物ばかりではなく、大径の鋼管構造物内面処理にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明が適用される鋼管構造物内面処理装置の概略構成を示す側面図である。
【図2】本発明に基づく鋼管構造物内面処理装置の支持アーム駆動機構の実施例を示す縦断面図である。
【図3】図2に示す支持アーム駆動機構の拡大側面図である。
【図4】図3に示す支持アーム駆動機構の原理的構成を示す説明図である。
【図5】図2の各部位における横断面図であって、図5の(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)図は図2の矢示5A−5A、5B−5B、5C−5C、5D−5D、5E−5E、5F−5Fからそれぞれ見た図面に該当する。
【図6】図4に相当する図面であって、図6の(A)、(B)、(C)図は支持アーム駆動機構がアームを開く動作を示す説明図である。
【図7】図4に相当する図面であって、図7の(A)、(B)、(C)図は支持アーム駆動機構がアームを閉じる動作を示す説明図である。
【図8】本発明の別の実施例による支持アーム駆動機構を示す図で、アームを閉じた状態を示す図である。
【図9】図8に示す支持アーム駆動機構のアームを最大まで開いた状態を示す図である。
【図10】図8に示す支持アーム駆動機構の開いた状態のアームを外的力によって強制的に閉じようとする状態を示す図である。
【図11】本発明のまた別の実施例による支持アーム駆動機構を示す図で、アームを閉じた状態を示す図である。
【図12】図11に示す支持アーム駆動機構のアームが外的力によって強制的に閉じられようとする状態を示す図である。
【図13】図11に示す支持アーム駆動機構のアームが外的力によって強制的に閉じられた状態を示す図である。
【図14】図11に示す支持アーム駆動機構に用いられるプランジャの作動状態を説明するための図である。
【図15】図11に示す支持アーム駆動機構の変形例における作動状態を説明するための模式的な図である。
【符号の説明】
【0053】
1 保持部 2 処理部
3 ワイヤ
10 フレーム 11 軸受部材
12 摺動スリーブ 13 プランジャ
13a ボール 13b バネ
14 係合穴 15 縦溝
20 電動機 21 駆動軸
22 カップリング
30 駆動ネジ棒部材
40 往復部材 41 ナット部
42 チャンバ部
50 ラック部材 51 丸ラック部
52 連結ロッド部 53 頭部
60 圧縮コイルばね
70 支持アーム部材 71 アーム
72 接触ローラ 73 ピニオン
74 ストッパ
80 リミットスイッチ群 80a 第1組のリミットスイッチ
80b 第2組のリミットスイッチ 81−84 接点
90 制御器
100 支持アーム駆動機構
E 鋼管構造物内面処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管構造物内面処理装置を鋼管構造物に挿入し、所定位置に到達したとき支持アーム部材が開いてその位置を保持しかつ所定の内面処理を施す設備において、
前記鋼管構造物内面処理装置の本体を支持するフレームと、
前記フレームに装着された電動機と、
前記電動機の駆動軸にカップリングをかいして連結された駆動ネジ棒部材と、
前記フレームに回転不能滑動自在に支持されていて、前記駆動ネジ棒部材に螺合するナット部および該ナット部に接続されたチャンバ部を有する往復部材と、
先端に丸ラック部、中間に連結ロッド部、後端に頭部を有していて、該頭部が前記往復部材の前記チャンバ部内に回転不能滑動自在に係合するラック部材と、
前記ラック部材の前記連結ロッド部の外周に装着されていて、前記ラック部材の丸ラック部を前記往復部材の前記チャンバ部の先端から離間するように作用する圧縮コイルばねと、
所定長さのアームの先端に接触ローラを回転自在に取り付け、該アームの後端にピニオンを固定し、該ピニオンを前記フレームに回転自在に支持しかつ前記ラック部材の丸ラック部に噛み合わせた複数組の支持アーム部材と、
前記往復部材の前進位置および後退位置を制限するリミットスイッチ群と、ならびに
前記リミットスイッチ群からの信号に応答して前記電動機の作動を制御する制御器と
からなる、鋼管構造物内面処理装置の支持アーム駆動機構。
【請求項2】
前記リミットスイッチ群は第1組および第2組のリミットスイッチからなり、前記第1組のリミットスイッチは前記往復部材と前記ラック部材とに固定された接点を有していて前記往復部材の前進位置を制限し、また、前記第2組のリミットスイッチは前記往復部材と前記フレームの所定位置とに固定された接点を有していて前記往復部材の後退位置を制限する、請求項1に記載の支持アーム駆動機構。
【請求項3】
前記アームを前記ラック部材の丸ラック部の円周方向に180度離間させて2組設けた、請求項1に記載の支持アーム駆動機構。
【請求項4】
前記アームを前記ラック部材の丸ラック部の円周方向に120度離間させて3組設けた、請求項1に記載の支持アーム駆動機構。
【請求項5】
前記アームを前記ラック部材の丸ラック部の円周方向に90度離間させて4組設けた、請求項1に記載の支持アーム駆動機構。
【請求項6】
前記往復部材のチャンバ部内においてラック部材が移動可能な距離は、アームを完全に開いたときと閉じたときとの間のラック部材の移動距離に対応し、前記第1組のリミットスイッチの2つの接点は、両者の接合位置が実質的に前記ラック部材の移動可能距離に対応した距離を移動できるように、少なくとも一方の接点を移動自在に設けた、請求項2に記載の支持アーム駆動機構。
【請求項7】
前記電動機は、フレーム内を長手方向へ移動自在な摺動スリーブに装着され、前記摺動スリーブはフレームの内面に設けられた係合穴と係脱自在に係合する少なくとも一つのプランジャを備え、前記プランジャは、摺動スリーブを後退させる方向の外的力が所定の大きさ以上になったとき、係合穴から離脱して摺動スリーブが後退するのを許容する、請求項1に記載の支持アーム駆動機構。
【請求項8】
前記プランジャは、摺動スリーブの円周方向へ相互に離間した少なくとも2箇所、および/または、摺動スリーブの長手方向へ相互に離間した少なくとも2箇所へそれぞれ配置される、請求項7に記載の支持アーム駆動機構。
【請求項9】
前記プランジャは摺動スリーブ周面から外方に向かって付勢されるボールを有し、前記係合穴は該係合穴から長手方向に延びる縦溝に連続し、該縦溝の深さは係合穴の深さより浅く形成され、摺動スリーブを後退させる方向の外的力が所定の大きさ以上になったとき、前記ボールが係合穴から縦溝へと移動する、請求項7に記載の支持アーム駆動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−100139(P2008−100139A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283139(P2006−283139)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(306033025)日本鉄塔工業株式会社 (19)
【Fターム(参考)】