説明

鋼/アルミニウム接合構造体の製造方法

【課題】 スポット溶接時の通電パターンを管理することにより、接合強度の高い鋼/アルミニウム接合構造体を製造する。
【解決手段】 アルミニウム材料と溶融アルミニウムめっき鋼板とを重ね合わせスポット溶接で一体化する際、8〜14kAの範囲に溶接電流の設定値Wを定め、通電開始から設定値Wに溶接電流が達するまでのアップスロープ期間(t0→t1)の積算電流Q1と定電流溶接期間(t1→t2)の積算電流Q2との間にQ1/Q2:0.05〜3.0,Q1+Q2:1〜5kA・秒の関係を満足させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム材料の優れた軽量性,耐食性と鋼材の優れた機械強度とを兼ね備え、軽量で高強度が要求される車両用部材,熱交換器等、各種構造材として好適な鋼/アルミニウム接合構造体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム,アルミニウム合金等のアルミニウム材料は、軽量で耐食性に優れていることを活用し種々の分野で使用されているが、強度が重視される用途では厚肉化により要求強度を満足させている。しかし、厚肉化はアルミニウム材料の長所である軽量性を損ない、コンパクトな設計に対応する構造部材としても適当でない。機械強度の高い鋼材をアルミニウム材料と積層するとき、厚肉化の要なく必要強度が得られる。
【0003】
アルミニウム材料と鋼材との積層には、ボルトナット,リベット,嵌め合せ等の機械的結合法が採用されてきたが、機械的結合法では優れた継手が得られ難く、生産性も低い。アルミニウム材料/鋼材の溶接接合が可能になると、機械的結合法に比較して生産性が格段に高く、特性の良好な鋼/アルミニウム接合構造体が得られる。ところが、通常の溶融接合法で鋼材,アルミニウム材料を接合すると、非常に脆弱な金属間化合物が接合界面に多量生成し、接合強度が著しく低下する。
【0004】
金属間化合物は、鋼材,アルミニウム材料の原子が界面で相互拡散反応することにより生成する。拡散反応を律速する反応温度,時間等を摩擦溶接時に適正管理することにより金属間化合物の生成を抑制する方法(特許文献1)が知られているが、摩擦溶接による接合であるため継手設計に工夫を要し、接合工程を簡略化する上では改善の余地がある。溶融アルミニウムめっき鋼板をアルミニウム材料に抵抗溶接する方法(特許文献2)にみられるように、スポット溶接の適用も検討されている。
【特許文献1】特開2003-33885号公報
【特許文献2】特開平6-39558号公報
【0005】
溶融アルミニウムめっき鋼板は、表層に溶融アルミニウムめっき層があることから、接合時にアルミニウム材料と同様な挙動を示すと考えられがちである。しかし、接合界面がスポット溶接時にAlの融点(660℃)を超える高温に加熱されるため、高温加熱で生成した溶融Alに下地鋼/めっき層界面のAl-Fe-Si三元合金層からFe,Si等が拡散する。拡散したFeは溶接時の冷却過程で再析出し、拡散係数の大きなSiはナゲット全体に分散する。その結果、冷却後の接合界面を観察すると、接合界面全域に脆弱なAl-Fe二元合金層が生成したナゲットが検出され、接合強度も著しく低い。
【0006】
接合界面に占める金属間化合物の割合を規制することにより、接合強度に及ぼすAl-Fe二元合金層の悪影響を抑制できる(特許文献3)。金属間化合物の生成を抑制するため、溶融アルミニウムめっき鋼板を正極側,アルミニウム材料を負極側にしてスポット溶接時の発熱を溶融アルミニウムめっき鋼板に偏らせているが、依然として金属間化合物の多量生成が避けられない。
【特許文献3】特開2003-145278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等は、スポット溶接時の高温加熱で溶融したAlに拡散し再析出するFe,Siの挙動を調査・検討した結果、溶融アルミニウムめっき鋼板のFe,Si濃度を適正管理することによりAl-Fe二元合金層の悪影響を抑え、接合強度の高い鋼/アルミニウム接合構造体が作製されることを見出し先に出願した(特許文献4)。先願では、それぞれ3〜12質量%,0.5〜5質量%の範囲にFe,Si濃度を調整し、接合界面に占めるAl-Fe二元合金層の面積比を下げることにより接合強度を向上させている。
【特許文献4】特願2003-336641号
【0008】
鋼/アルミニウム接合構造体の接合界面に形成されるナゲットと接合強度との関係について更に調査・検討を進めた。その結果、ナゲット径が大きくなるほど接合強度が高くなるが、接合強度の向上に有効なナゲット径はスポット溶接時の通電パターンで制御可能なことを見出した。
本発明は、ナゲット径と通電パターンとの関係に関する知見をベースとし、通電開始時のアップスロープが緩やかな通電パターンを採用することにより、過度に深くなく適度な径をもつ形状のナゲットを生成させ、接合強度の高い鋼/アルミニウム接合構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アルミニウム材料と溶融アルミニウムめっき鋼板とを重ね合わせ、スポット溶接で一体化した鋼/アルミニウム接合構造体を製造する際、定電流溶接期間の積算電流Q2に対して通電開始から溶接電流が設定値Wに達するまでのアップスロープ期間の積算電流Q1の比Q1/Q2を0.05〜3.0,和Q1+Q2を1〜5kA・秒とした通電パターンで溶接電流を被溶接材に供給することを特徴とする。好ましくは、溶接電流の設定値Wを8〜14kA,アップスロープ期間を0.01〜0.5秒に設定する。
【0010】
溶融アルミニウムめっき鋼板には純Al,Al-Si等のめっき層を形成した鋼板があるが、何れの溶融アルミニウムめっき鋼板でも下地鋼/めっき層界面にN:3.0原子%以上のN濃縮層を形成したものが好ましい。N濃縮層は、N,Al含有量を調整した下地鋼をアルミニウムめっき後に熱処理することにより形成できる。溶融アルミニウムめっき鋼板と接合される相手材にはアルミニウムや種々のアルミニウム合金を使用可能であるが、強度付与に寄与するMg-Si金属間化合物を析出させるためMg:0.1〜6.0質量%,Si:3.0質量%以下を含むアルミニウム合金が好ましい。
【発明の効果】
【0011】
交流電源を用いたスポット溶接では、アップスロープを経て設定値まで高められ、ダウンスロープを経て定常状態に戻る通電パターン(図1)で溶接電流が被溶接材に供給される。被溶接材は、通電開始前の所定時間(スクイズ時間)から通電終了後の所定時間(保持時間,オフ時間)まで加圧される。被溶接材は通電によるジュール熱で昇温し、溶融状態となって相手材と溶融接合する。
【0012】
相手材との溶融接合部にナゲットが形成されるが、ナゲット形状は通電パターンに影響される。なかでも、アップスロープの影響が大きく、緩やかなアップスロープほど浅く広いナゲットとなり、急峻なアップスロープほど深く狭いナゲットとなる。ナゲット形状がアップスロープの勾配に応じて変わることは、溶接開始直後の被溶接材に加えられる熱の伝播形態に拠るものと考えられ、次のように説明できる。
【0013】
急峻なアップスロープで溶接電流を増加させるとき、溶接電極が被溶接材に接触している部分(溶接点)及び溶接点近傍の極狭い範囲に入熱の伝播が限られる。そのため、被溶接材が板厚方向に昇温する傾向が強く現れ、深くて狭いナゲットが形成される。他方、緩やかなアップスロープで溶接電流を増加させると、溶接点を中心とする比較的広い範囲に入熱が伝播し、比較的浅くて広いナゲットが形成される。
【0014】
ナゲット形状は、アルミニウム材料/溶融アルミニウムめっき鋼板の異材溶接で形成される接合界面の物性,ひいては接合強度に大きな影響を及ぼす。急峻なアップスロープの溶接電流では、被溶接材の板厚方向に沿った深部まで溶融が進行し、下地鋼/めっき層界面から溶融AlへのFe,Siの拡散が促進される。拡散の促進は、接合強度に有効なAl-Fe-Si三元合金層に必要なSiの不足をもたらし、脆弱なAl-Fe二元合金層が接合界面に占める割合を増加させる。逆に緩やかなアップスロープの溶接電流では、板厚方向(ナゲットの深さ方向)に沿ったFe,Siの拡散が抑えられ、接合界面に占めるAl-Fe-Si三元合金層の割合が多く、Al-Fe二元合金層も比較的少なくなる。
【0015】
次いで、ナゲット形状と通電パターンとの関係を調査し、接合強度の向上に有効なナゲット形状が形成される通電パターンを定量的に究明した。後述の実施例からも明らかなように、通電開始時点t0から溶接電流が設定値Wに達する時点t1までのアップスロープ期間(t0→t1)の積算電流をQ1,定電流溶接期間(t1→t2)の積算電流をQ2とするとき、積算電流比Q1/Q2を0.05〜3.0,積算電流和Q1+Q2を1〜5kA・秒とした通電パターンで溶接電流を被溶接材に供給することが目標形状のナゲットを形成する上で有効である(図2)。
また、積算電流比Q1/Q2:0.05〜3.0は、従来のスポット溶接時に比べ長時間かけて溶接電流をゼロから設定値Wに立ち上げることを意味する。アップスロープ期間を長くしているので溶接電流の設定値Wを下げても十分な接合強度が得られ、能力の大きなスポット溶接機を使用する必要がなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
溶融アルミニウムめっき鋼板は、連続溶融めっきラインで製造され、Al,Al-Si等の溶融めっき層を原板表面に設けている。
めっき原板には低炭素鋼,中炭素鋼,低合金鋼等があり、用途に応じてSi,Mn,Cr,Ni,Al等を添加した鋼種が使用される。なかでも、Al-Feの相互拡散反応を抑制するNを0.002〜0.020質量%添加した鋼が好ましい。N添加鋼をめっき原板に使用する場合、Al-Feの拡散抑制に有効なN量を確保するためAl含有量を0.03質量%以下に規制する。
【0017】
溶融アルミニウムめっき層が厚膜になるほど脆弱なAl-Fe二元合金層の成長が遅延されるが、厚すぎると溶融アルミニウムめっき鋼板の加工性が低下するので、5〜50μmの膜厚が好ましい。また、Al-Fe二元合金層の成長を抑えて接合強度に有効なAl-Fe-Si三元合金層を下地鋼/めっき層界面に形成させる上で、溶融アルミニウムめっき層に含まれるFe,Siの含有量を好ましくはそれぞれFe:0.5〜5質量%,Si:3〜12質量%の範囲に規制する。Fe,Si以外に、Ti,Sr,B,Cr,Mn,Zn等の元素を必要に応じて溶融アルミニウムめっき層に含ませることもできる。
【0018】
相手材のアルミニウム材料は、材質に特段の制約が加わるものではないが、展伸材である限り大半のアルミニウム又はアルミニウム合金を使用できる。強度が要求される用途では、Mg:0.1〜6.0質量%、Si:3.0質量%以下を含むアルミニウム合金の使用が好ましい。合金中のMg,Siは、マトリックスを固溶強化すると共に、時効処理等の熱処理で微細なMg2Siとなって析出し、アルミニウム合金に強度を付与する。
【0019】
溶融アルミニウムめっき鋼板,アルミニウム材料から採取された被溶接材は、脱脂・洗浄後に相互に重ね合わされ、スポット溶接用電極間に挟み込まれる。次いで、被溶接材を加圧した状態で通電し、両者を一体的に接合する。被溶接材に供給される溶接電流は、一般的に図2の通電パターンで増減される。通電パターンは、通電開始から溶接電流の設定値Wに達するまでのアップスロープ期間(t0→t1),設定値Wの溶接電流が供給される定電流溶接期間(t1→t2),設定値Wからゼロまで溶接電流を下げるダウンスロープ期間(t2→t3)に区分される。
【0020】
溶接電流の設定値Wは、被溶接材の板厚や材質に応じ好ましくは8〜14kAの範囲で定められる。8〜14kAの溶接電流は従来の溶接電流に比較して若干低く、低電流で溶接可能なことは本発明の長所でもある。設定値W:8〜14kAの条件下で、アップスロープ期間の積算電流Q1と定電流溶接期間の積算電流Q2との比Q1/Q2を0.05〜3.0,和Q1+Q2を1〜5kA・秒の範囲に制御する。
積算電流Q1は、アップスロープ期間(t0→t1)に溶接電流が直線的に設定値Wまで増加する通電パターンでは、W×(t1−t0)/2と計算される。積算電流Q2は、期間(t2−t1)にわたり設定値Wの溶接電流が供給されているので、W×(t2−t1)と計算される。
【0021】
積算電流比Q1/Q2が0.05未満の場合、12kA以下の比較的低い溶接電流設定値Wでは良好な接合強度が得られない。逆に3.0を超える積算電流比Q1/Q2では却って多量のAl-Fe二元合金層が接合界面に生成し、安定した接合強度が得られなくなるばかりでなく、溶接に時間がかかりすぎ製造コストの上昇を招く。1kA・秒未満の積算電流和Q1+Q2では溶接時の入熱が不足して良好な接合強度が得られないが、積算電流和Q1+Q2が5kA・秒を超えると接合界面に占めるAl-Fe二元合金層の比率が90%以上となり、十字引張後の破断形態も接合強度が不安定となる界面破断を呈する。
【0022】
積算電流比Q1/Q2の増加に従い、接合界面に形成されるナゲットが深くて狭い形状から浅くて広い形状に変わり、鋼/アルミニウム接合構造体の接合強度が高くなる。アップスロープ期間がナゲット形状に及ぼす影響は具体的には0.01秒以上でみられ、特に10kA前後の低い溶接電流でスポット溶接した接合構造体で顕著になる。低い溶接電流で高い接合強度が得られることは、能力の大きなスポット溶接機を必要としない点でも有利である。
【実施例1】
【0023】
次の溶融アルミニウムめっき鋼板,アルミニウム材料を被溶接材に用い、アップスロープ期間(t0→t1)及び溶接電流設定値Wが鋼/アルミニウム接合構造体の接合強度,ナゲット形状,接合界面の合金層に及ぼす影響を調査した。
【0024】
〔溶融アルミニウムめっき鋼板〕
N:0.01質量%,板厚:1.0mmのめっき原板にAl-9.0質量%Siめっき層を膜厚:20μmで設けた溶融アルミニウムめっき鋼板
〔アルミニウム材料〕
Si:1.2質量%,Mg:0.6質量%を含む板厚:1.0mmのアルミニウム合金(JIS A6022)
【0025】
溶融アルミニウムめっき鋼板,アルミニウム材料から切り出した50mm×150mmの試験片を脱脂・洗浄した後,重ね合わせてスポット溶接機の電極間に挟み込み、荷重:3kNを加えた。電極には先端径:6mm,先端アール:40mm,肩アール:8mmの銅合金チップを用い、設定値Wの溶接電流が供給される定電流溶接期間(t1→t2)を0.10秒とし、溶接電流が設定値Wに立ち上がるアップスロープ期間(t0→t1)を0.008秒,0.017秒,0.167秒の三様とした。
【0026】
スポット溶接された接合構造体を十字引張試験(JIS Z2317)に供し、剥離方向に沿った接合強度を測定した。測定結果(図3)は、アップスロープ期間:0.008秒でスポット溶接したときの接合強度N0.5に比較し、アップスロープ期間:0.017秒,0.167秒でスポット溶接したときの接合強度N1,N10が高くなっていることを示す。接合強度差ΔNは、溶接電流の設定値Wが低くなるほど大きくなる傾向にあった。
【0027】
設定値W:10kAでスポット溶接された接合構造体の接合部断面を観察し、ナゲット形状,接合界面に生じた合金層を調査した。接合部断面には、打点部でアルミニウム合金板の厚み方向に溶け込んだナゲットが生成している(図4)。打点部のアルミニウム合金の板厚をB2,溶融厚さをB1とし、板厚B2に対する溶融厚さB1の比を溶込み厚み比:B1/B2として算出した。溶込み厚み比:B1/B2及びナゲット径L1からナゲット形状を評価した。また、SEM・EDX (840A,日本電子株式会社製)で接合界面の合金層を観察してAl-Fe-Si三元合金層又はAl-Fe二元合金層を判定し、判定結果からナゲット径に対するAl-Fe二元合金層の生成長さの比として接合界面に占めるAl-Fe二元合金層の占有率を算出した。
【0028】
表1の調査結果にみられるように、アップスロープ期間が長くなるほど浅くて広い形状のナゲットが形成され、接合界面に占めるAl-Fe二元合金層の占有率が小さくなっていた。
他方、アップスロープ期間:0.008秒のスポット溶接で製造された接合構造体では、ナゲットが深くて狭い形状になっており、専ら板厚方向に入熱が伝播したことを示している。接合界面に占めるAl-Fe二元合金層の割合も多くなっていた。
【0029】
溶接電流設定値Wが10kA,14kAの条件下で、ナゲット径,溶込み厚み比,Al-Fe二元合金層の占有率に及ぼすアップスロープ期間の影響を調査した結果を図5〜7に示す。
以上の結果から、アップスロープ期間を長くすることにより、接合界面のAl-Fe二元合金層が少なく適正形状のナゲットが形成され、接合構造体の接合強度が上昇したと推察される。
【0030】

【実施例2】
【0031】
次の溶融アルミニウムめっき鋼板,アルミニウム材料を被溶接材に用い、アップスロープ期間(t0→t1)の積算電流Q1及び定電流溶接期間(t1→t2)の積算電流Q2の比Q1/Q2,和Q1+Q2が鋼/アルミニウム接合構造体の接合強度,ナゲット形状,接合界面の合金層,十字引張試験後の破断形態に及ぼす影響を調査した。
【0032】
〔溶融アルミニウムめっき鋼板〕
N:0.0085質量%,板厚:1.0mmのめっき原板にAl-9.5質量%Siめっき層を膜厚:30μmで設けた溶融アルミニウムめっき鋼板
〔アルミニウム材料〕
Si:1.2質量%,Mg:0.6質量%を含む板厚:1.0mmのアルミニウム合金(JIS A6022)
【0033】
溶融アルミニウムめっき鋼板,アルミニウム材料から切り出した50mm×150mmの試験片を脱脂・洗浄した後,重ね合わせて交流スポット溶接機の電極間に挟み込み、荷重:3kNを加えた。。電極には実施例1と同じ銅合金チップを用い、アップスロープ期間(t0→t1),定電流溶接期間(t1→t2),溶接電流設定値Wを表2に示すように種々変更しスポット溶接した。
【0034】

【0035】
スポット溶接された接合構造体の接合強度を十字引張試験(JIS Z2317)で測定し、接合部断面の観察結果からナゲット形状(ナゲット径,溶込み厚み比),接合界面に占めるAl-Fe二元合金層の割合を求めた。
その結果、積算電流比Q1/Q2:0.05〜3.0,積算電流和Q1+Q2:1〜5kA・秒の条件が満足されるようにアップスロープ期間の積算電流Q1,定電流溶接期間の積算電流Q2を制御するとき、良好な接合強度,ナゲット形状,接合界面の合金層形態が得られることが判った(表3)。十字引張試験後の破断形態も母材破断となり、安定した接合強度が得られることを確認できた。
【0036】

【産業上の利用可能性】
【0037】
以上に説明したように、溶融アルミニウムめっき鋼板,アルミニウム材料を重ね合わせてスポット溶接する際、通電開始から設定値Wに溶接電流が立ち上がるアップスロープ期間(t0→t1)の積算電流Q1及び定電流溶接期間(t1→t2)の積算電流Q2を管理することにより、脆弱なAl-Fe二元合金層が接合界面に生成することを抑え、接合強度の向上に有効な形状のナゲットを形成している。そのため、作製された鋼/アルミニウム接合構造体は、従来のスポット溶接接合構造体に比較して接合強度が高く、アルミニウム材料,鋼材の長所を兼ね備え、種々の構造部材として使用される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】被溶接材に供給される溶接電流の通電パターンを加圧状態と関連させて示す図
【図2】通電開始から通電終了までの間、溶接電流が変化することを示すグラフ
【図3】アップスロープ期間に応じて接合強度が変わることを示すグラフ
【図4】溶込み厚み比を算出するための説明図
【図5】ナゲット径に及ぼすアップスロープ期間の影響を示すグラフ
【図6】溶込み厚さ比に及ぼすアップスロープ期間の影響を示すグラフ
【図7】Al-Fe二元合金層の占有率に及ぼすアップスロープ期間の影響を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム材料と溶融アルミニウムめっき鋼板とを重ね合わせ、スポット溶接で一体化する際、定電流溶接期間の積算電流Q2に対して通電開始から溶接電流が設定値Wに達するまでのアップスロープ期間の積算電流Q1の比Q1/Q2を0.05〜3.0,和Q1+Q2を1〜5kA・秒とした通電パターンで溶接電流を被溶接材に供給することを特徴とする鋼/アルミニウム接合構造体の製造方法。
【請求項2】
溶接電流の設定値Wが8〜14kA,アップスロープ期間が0.01〜0.5秒である請求項1記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−224127(P2006−224127A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−39412(P2005−39412)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)