説明

錫の回収方法

【課題】不純物としてSbを含む錫含有塩基性溶液中のSb濃度を短時間で十分に低下させて効率的に錫を回収することができる、錫の回収方法を提供する。
【解決手段】 不純物としてアンチモンを含む錫含有塩基性溶液に、酸化数(−2)の硫黄を含むイオンが存在する状態で、アルカリ領域においてアンチモンより卑な金属を添加し、70℃以上の温度で緩やかに攪拌して置換反応によりアンチモンを沈澱させ、濾過によりアンチモンを除去した後、得られた溶液を電解液として使用して電解採取により錫を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錫の回収方法に関し、特に、不純物としてアンチモンを含む錫含有塩基性溶液から錫を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
錫(Sn)が溶解した苛性ソーダ水溶液のような錫含有塩基性溶液に不純物として数十〜200mg/L程度のアンチモン(Sb)が溶解していると、その錫含有塩基性溶液を電解液として使用して電解採取を行っても、Snと共にSbも電着するため、純度の高いSnを得ることができない。例えば、JIS1種で規格されているSb200ppm以下のSnを得る場合には、電解液中のSn濃度が50g/L程度であれば、電解液中のSb濃度を10mg/L程度、好ましくは5mg/L程度まで下げなければならない。
【0003】
不純物としてSbを含む錫含有塩基性溶液を室温で長時間放置すると、Sbが徐々に沈澱して、Sb濃度が20mg/L程度まで低下する。しかし、その沈澱には長時間を要し、また、電解採取の際に液温を80℃程度まで上げる必要があるので、錫含有塩基性溶液中のSb濃度を下げるために冷却するのは、エネルギー的にもロスが多い。
【0004】
従来、不純物として錫以外の金属を含む錫含有塩基性溶液から錫を回収する方法として、不純物を含む錫含有塩基性溶液に、還元用金属を添加するとともに、再酸化防止剤としてチオ硫酸ナトリウムなどを添加して、液中の不純物を置換還元し、析出した不純物を濾過などによって除去した後に、錫を回収する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開昭62−270735号公報(第1−2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の方法では、不純物としてSbを含む錫含有塩基性溶液に、還元用金属を添加するとともに、再酸化防止剤としてチオ硫酸ナトリウムなどを添加しても、錫含有塩基性溶液中のSb濃度を短時間で十分に低下させることができない場合がある。
【0007】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、不純物としてSbを含む錫含有塩基性溶液中のSb濃度を短時間で十分に低下させて効率的に錫を回収することができる、錫の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、不純物としてSbを含む錫含有塩基性溶液に、酸化数(−2)の硫黄を含むイオンが存在する状態で、アルカリ領域においてSbより卑な金属を添加し、Sbを沈澱させて除去することによって、不純物としてSbを含む錫含有塩基性溶液中のSb濃度を短時間で十分に低下させて効率的に錫を回収することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明による錫の回収方法は、不純物としてアンチモンを含む錫含有塩基性溶液に、酸化数(−2)の硫黄を含むイオンが存在する状態で、アルカリ領域においてアンチモンより卑な金属を添加し、アンチモンを沈澱させて除去した後、錫を回収することを特徴とする。
【0010】
この錫の回収方法において、酸化数(−2)の硫黄を含むイオンが、硫黄イオン(S2−)、チオ錫酸イオン(SnS2−)およびチオアンチモン酸(SbS2−)からなる群から選ばれる一種以上のイオンであるのが好ましい。また、錫含有塩基性溶液に、硫化ナトリウム、硫化錫および硫化アンチモンからなる群から選ばれる一種以上の化合物を添加することにより、酸化数(−2)の硫黄を含むイオンが存在する状態にするのが好ましい。また、錫含有塩基性溶液に、硫化アルカリ、水硫化アルカリ、チオ錫酸アルカリおよび金属硫化物からなる群から選ばれる一種以上の化合物を添加することにより、酸化数(−2)の硫黄を含むイオンが存在する状態にしてもよい。さらに、錫含有塩基性溶液に硫黄を添加することにより、酸化数(−2)の硫黄を含むイオンが存在する状態にしてもよい。
【0011】
また、上記の錫の回収方法において、アルカリ領域においてアンチモンより卑な金属が、錫、亜鉛およびアルミニウムからなる群から選ばれる一種以上の金属であるのが好ましい。また、アンチモンを沈澱させて除去した後、得られた溶液を電解液として使用して電解採取により錫を回収するのが好ましい。さらに、アルカリ領域においてアンチモンより卑な金属を添加する際に、錫含有塩基性溶液の温度を70℃以上にするのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、不純物としてSbを含む錫含有塩基性溶液中のSb濃度を短時間で十分に低下させて効率的に錫を回収することができる。特に、不純物としてSbを含む錫含有塩基性溶液が酸化した場合であっても、溶液中のSb濃度を短時間で十分に低下させて効率的に錫を回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明による錫の回収方法の実施の形態では、Snの他に不純物としてSbを含む苛性ソーダ水溶液のような錫含有塩基性溶液に、酸化数(−2)の硫黄を含むイオンが存在する状態で、アルカリ領域においてSbより卑な金属を添加し、70℃以上の温度で緩やかに攪拌して置換反応によりSbを沈澱させ、濾過によりSbを除去した後、得られた溶液を電解液として使用して電解採取によりSnを回収する。
【0014】
酸化数(−2)の硫黄を含むイオンとしては、硫黄イオン(S2−)、チオ錫酸イオン(SnS2−)、チオアンチモン酸(SbS2−)などが挙げられる。また、酸化数(−2)の硫黄を含むイオンが存在する状態にするために、錫含有塩基性溶液に、硫化アルカリ、水硫化アルカリ、チオ錫酸アルカリおよび金属硫化物からなる群から選ばれる一種以上の化合物を添加することができ、硫化ナトリウム、硫化錫および硫化アンチモンからなる群から選ばれる一種以上の化合物を添加するのが好ましい。
【0015】
アルカリ領域においてSbより卑な金属としては、Sn、Zn、Alなどを使用することができ、粒状、粉状または板状のSnを使用するのが好ましい。
【0016】
なお、濾過によりSbを除去した液は、2価のSn(Sn2+)が存在すると、電着するSnがスポンジ状になるため、電解採取前に液中に酸素を吹き込むなどによって酸化して4価のSn(Sn4+)にするのが好ましい。このような処理を電解採取前に行うと、平滑な電着錫を得ることができる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明による錫の回収方法の実施例について詳細に説明する。
【0018】
[実施例1]
不純物としてSbを含む錫含有塩基性溶液として、NaOH濃度100g/Lの水溶液に30g/LのSnと100mg/LのSbを溶解した水溶液300mLを用意した。この水溶液に硫化ナトリウム(NaS)1gを添加して90℃に加温した後、粒径1.5mm程度の99.9%のSn粒10gを添加して、攪拌羽根で緩やかに攪拌し、経過時間毎の水溶液中のSb濃度を測定した。その結果を図1に示す。
【0019】
[比較例1〜3]
比較例1では硫化ナトリウムを添加しなかった、比較例2では硫化ナトリウムの代わりに硫酸ナトリウム(NaSO)3gを添加した、比較例3では硫化ナトリウムの代わりにチオ硫酸ナトリウム5水和物(Na・5HO)0.6gを添加した以外は、実施例1と同様の操作を行い、経過時間毎の水溶液中のSb濃度を測定した。その結果を図1に示す。
【0020】
図1に示すように、硫化ナトリウムを添加した実施例1では、約30分経過後に水溶液中のSb濃度が0mg/L程度まで低下しているが、硫化ナトリウムを添加しなかった比較例1や硫酸ナトリウムを添加した比較例2では、1時間以上経過しても水溶液中のSb濃度が50mg/L程度までしか低下することができなかった。この結果から、硫化ナトリウムの代わりに硫酸ナトリウム(硫酸イオンSO)を添加しても、水溶液中のSb濃度を低下させる効果がないのがわかる。また、図1に示すように、硫化ナトリウムの代わりにチオ硫酸ナトリウムを添加した比較例3では、水溶液中のSb濃度が0mg/L程度まで低下するまでに1時間程度を要し、実施例1のように短時間でSb濃度を十分に低下させることができないことがわかる。
【0021】
[実施例2]
不純物としてSbを含む錫含有塩基性溶液として、NaOH濃度100g/Lの水溶液に10g/LのSnを溶解させた後、Sbメタルを溶解させ、溶け残りを濾過により除去した水溶液を用意した。この水溶液に過酸化水素を添加して酸化(3価のSbを5価のSbに酸化)し、残存する過酸化水素をSnで分解し、室温で10時間放置した後、濾過した。
【0022】
このようにして得られた濾液300mLに硫化ナトリウム0.5g(S量換算0.205)を添加して80℃に加温した後、粒径1.5mm程度の99.9%のSn粒10gを添加して、攪拌羽で緩やかに攪拌し、経過時間毎の水溶液中のSb濃度を測定した。その結果を図2に示す。
【0023】
[実施例3、4、比較例4、5]
実施例3では硫化ナトリウムの代わりに硫化錫(SnS)0.58g(S量換算0.204)を添加した、実施例4では硫化ナトリウムの代わりに硫化アンチモン(Sb)0.1g(S量換算0.040)を添加した、比較例4では硫化ナトリウムを添加しなかった(S量換算0)、比較例5では硫化ナトリウムの代わりにチオ硫酸ナトリウム5水和物(Na・5HO)1.59g(S量換算0.410)を添加した以外は、実施例2と同様の操作を行い、経過時間毎の水溶液中のSb濃度を測定した。その結果を図2に示す。
【0024】
図2に示すように、硫化ナトリウムを添加した実施例2と硫化錫を添加した実施例3では、約30分経過後に水溶液中のSb濃度が0mg/L程度まで低下し、硫化アンチモンを添加した実施例4では、約90分経過後に水溶液中のSb濃度が0mg/L程度まで低下しているが、硫化ナトリウムを添加しなかった比較例4やチオ硫酸ナトリウムを添加した比較例5では、水溶液中のSb濃度を全く低下させることができなかった。この結果から、不純物としてSbを含む錫含有塩基性溶液が酸化した場合には、硫化ナトリウムの代わりにチオ硫酸ナトリウムを添加しても、水溶液中のSb濃度を低下させる効果がないのがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1および比較例1〜3において経過時間に対する液中のSb濃度を示すグラフである。
【図2】実施例2〜4、比較例4及び5において経過時間に対する液中のSb濃度を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物としてアンチモンを含む錫含有塩基性溶液に、酸化数(−2)の硫黄を含むイオンが存在する状態で、アルカリ領域においてアンチモンより卑な金属を添加し、アンチモンを沈澱させて除去した後、錫を回収することを特徴とする、錫の回収方法。
【請求項2】
前記酸化数(−2)の硫黄を含むイオンが、硫黄イオン(S2−)、チオ錫酸イオン(SnS2−)およびチオアンチモン酸(SbS2−)からなる群から選ばれる一種以上のイオンであることを特徴とする、請求項1に記載の錫の回収方法。
【請求項3】
前記錫含有塩基性溶液に、硫化ナトリウム、硫化錫および硫化アンチモンからなる群から選ばれる一種以上の化合物を添加することにより、前記酸化数(−2)の硫黄を含むイオンが存在する状態にすることを特徴とする、請求項1に記載の錫の回収方法。
【請求項4】
前記錫含有塩基性溶液に、硫化アルカリ、水硫化アルカリ、チオ錫酸アルカリおよび金属硫化物からなる群から選ばれる一種以上の化合物を添加することにより、前記酸化数(−2)の硫黄を含むイオンが存在する状態にすることを特徴とする、請求項1に記載の錫の回収方法。
【請求項5】
前記錫含有塩基性溶液に硫黄を添加することにより、前記酸化数(−2)の硫黄を含むイオンが存在する状態にすることを特徴とする、請求項1に記載の錫の回収方法。
【請求項6】
前記アルカリ領域においてアンチモンより卑な金属が、錫、亜鉛およびアルミニウムからなる群から選ばれる一種以上の金属であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の錫の回収方法。
【請求項7】
前記アンチモンを沈澱させて除去した後、得られた溶液を電解液として使用して電解採取により錫を回収することを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の錫の回収方法。
【請求項8】
前記アルカリ領域においてアンチモンより卑な金属を添加する際に、前記錫含有塩基性溶液の温度を70℃以上にすることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の錫の回収方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−74129(P2009−74129A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243482(P2007−243482)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(306039131)DOWAメタルマイン株式会社 (92)
【Fターム(参考)】