説明

錫の電解採取方法

【課題】電着錫中のFe品位を低下させることができるとともに、電解後の液を再使用することができる、錫の電解採取方法を提供する。
【解決手段】不純物を含む錫含有塩基性溶液を電解液として錫を電解採取する際に、少なくとも表面部分がニッケルまたはニッケル基合金からなるアノードを使用する。少なくとも表面部分がニッケルまたはニッケル基合金からなるアノードとしては、全体がニッケルまたはニッケル基合金からなるアノードを使用してもよいし、鋼板や銅板などの導電性素材をニッケル鍍金したアノードを使用してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錫の電解採取方法に関し、特に、錫含有塩基性溶液から錫を電解採取する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不純物として錫(Sn)以外の金属を含む錫含有塩基性溶液から錫を回収する方法として、錫含有塩基性溶液を電解液として使用し、アノードとして(SUS316などの)ステンレス板を使用して、錫を電解採取する方法が行われている。
【0003】
しかし、アノードとしてステンレス板を使用する場合、電解液のpHが12.5よりも高くなってアルカリ性が強くなると、アノードからの鉄(Fe)の溶出量が増加し、カソードへのFeの電着量が増加して、電着錫へのFe混入率が高くなる。このようなアノードからのFeの溶出を防止するため、硫酸の添加によって電解液のpHを10.0〜12.5に調整して、錫を電解採取する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平4−191340号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
錫を電解採取する際に使用される錫含有塩基性溶液が、不純物としてSn以外の各種金属が溶解した苛性ソーダ水溶液の場合、例えば、不純物としてSn以外の各種金属を含む錫含有物に苛性ソーダを添加して、錫を抽出した苛性ソーダを水で溶解することによって得られた錫酸ナトリウムを含むアルカリ性溶液の場合、溶液中には1〜100g/L程度の遊離NaOHが存在し、電解が進むにつれて、錫酸ナトリウムが錫とNaOHになって、苛性ソーダが再生される。したがって、電解後の液は、苛性ソーダを含む溶液であり、錫含有物から錫を抽出する際に再び使用することができる。
【0006】
しかし、特許文献1の方法のように、アノードからのFeの溶出を防止するために電解液に酸を加えて中和すると、電解後の液を再使用することができず、廃水として処理しなければならない。
【0007】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、電着錫中のFe品位を低下させることができるとともに、電解後の液を再使用することができる、錫の電解採取方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、不純物を含む錫含有塩基性溶液を電解液として錫を電解採取する際に、少なくとも表面部分がニッケルまたはニッケル基合金からなるアノードを使用することにより、電着錫中のFe品位を低下させることができるとともに、電解後の液を再使用することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明による錫の電解採取方法は、不純物を含む錫含有塩基性溶液を電解液として錫を電解採取する方法において、少なくとも表面部分がニッケルまたはニッケル基合金からなるアノードを使用することを特徴とする。この錫の電解採取方法において、全体がニッケルまたはニッケル基合金からなるアノードを使用してもよいし、導電性素材をニッケル鍍金したアノードを使用してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電着錫中のFe品位を低下させることができるとともに、電解後の液を再使用することができる、錫の電解採取方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明による錫の電解採取方法の実施の形態では、不純物を含む錫含有塩基性溶液を電解液として錫を電解採取する際に、少なくとも表面部分がニッケルまたはニッケル基合金からなるアノードを使用する。少なくとも表面部分が、アルカリ性において極めて耐食性が強く、陽極酸化によって不動態化しない素材であるニッケルまたはニッケル基合金からなるアノードを使用すれば、アノードからのFeの溶出を防止して、電着する錫中のFe品位を低下させることができる。
【0012】
少なくとも表面部分がニッケルまたはニッケル基合金からなるアノードとしては、全体がニッケルまたはニッケル基合金からなるアノードでもよいし、ニッケルより安価な導電性の素材である鋼板や銅板などの素材をニッケル鍍金したアノードでもよい。なお、通常、アノードには機械的な力が加えられないので、ニッケル鍍金が剥離するという問題は殆どない。
【実施例】
【0013】
以下、本発明による錫の電解採取方法の実施例について詳細に説明する。
【0014】
表1に示すように、51,300mg/LのSn、1mg/L未満のPb、2mg/LのSb、440mg/LのAs、2mg/LのCu、1mg/L未満のFe、1mg/L未満のIn、1mg/L未満のCdおよび1mg/L未満のNiを含む錫含有溶液(遊離NaOH濃度55g/L)を電解元液として用意した。この電解元液を、アノードとしてニッケル板、カソードとしてSUS316板を使用して、85℃で電流密度150A/mで10時間電解採取を行った。
【0015】
【表1】

【0016】
得られた電着錫中の各種金属の品位は、表2に示すように、Pb品位が5ppm未満、Sb品位が26ppm、As品位が5ppm未満、Cu品位が42ppm、Fe品位が22ppm、In品位が10ppm未満、Cd品位が10ppm未満、Ni品位が5ppm未満であった。
【0017】
【表2】

【0018】
比較例として、アノードとしてSUS316板を使用した以外は、実施例と同様の方法によって電解採取を行った。得られた電着錫中の各種金属の品位は、表3に示すように、Pb品位が5ppm未満、Sb品位が50ppm、As品位が5ppm未満、Cu品位が40ppm、Fe品位が680ppm、In品位が10ppm未満、Cd品位が10ppm未満、Ni品位が5ppm未満であった。
【0019】
【表3】

【0020】
これらの結果から、電解元液にはFeが殆ど含まれていないにもかかわらず、アノードとしてSUS316板を使用した比較例では、SUS316からのFeの溶出によって電着錫中のFe品位が680ppmと非常に高くなっているが、アノードとしてニッケル板を使用した実施例では、電着錫中のFe品位は22ppmと非常に低くなっており、Niも電着していないのがわかる。なお、電解後の電解液中のNi濃度は殆ど0mg/Lに近く、アノードとして使用したニッケル板の表面は光沢を保ったままであり、アノードの耐食性は十分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物を含む錫含有塩基性溶液を電解液として錫を電解採取する方法において、少なくとも表面部分がニッケルまたはニッケル基合金からなるアノードを使用することを特徴とする、錫の電解採取方法。
【請求項2】
前記アノードとして、全体がニッケルまたはニッケル基合金からなるアノードを使用することを特徴とする、請求項1に記載の錫の電解採取方法。
【請求項3】
前記アノードとして、導電性素材をニッケル鍍金したアノードを使用することを特徴とする、請求項1に記載の錫の電解採取方法。