説明

錫の電解採取方法

【課題】錫含有塩基性溶液から安価且つ効率的に錫を電解採取することができる、錫の電解採取方法を提供する。
【解決手段】不純物を含む錫含有塩基性溶液を電解液として使用して錫を電解採取する方法において、少なくとも表面がチタンからなるカソードを使用して、電解によりカソード上に錫を厚さ0.3〜0.5mm程度に析出させた後、カソード上に析出したシート状の錫を剥ぎ取って錫板として回収し、この錫板をプレスして表面の膨れをつぶした後に種板として使用して、電解により種板上に錫を析出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錫の電解採取方法に関し、特に、錫含有塩基性溶液から錫を電解採取する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不純物として錫以外の金属を含む苛性ソーダ水溶液のような錫含有塩基性溶液から錫を電解採取する方法では、カソードとして(SUS316などの)ステンレス板が使用されている。
【0003】
しかし、錫含有塩基性溶液からSnを電解採取する場合、ステンレス板上に錫を電着させると、ステンレス板と錫との密着性が高く、ステンレス板上に電着した錫を剥ぎ取るのが極めて困難になるという問題がある。
【0004】
また、カソードに電着した錫などの金属を剥ぎ取る方法として、熱風でカソードを加熱して、カソードと電着した金属との膨張率の相違により、カソードに電着した金属の剥離を容易にする方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平6−41778号公報(段落番号0007−0010、0046)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の方法では、熱風でカソードを加熱するための装置が必要になり、電着した金属の剥離工程が煩雑になり、コストも増大するという問題がある。
【0007】
また、この特許文献1には、カソードとしてステンレス板またはチタン板を使用して錫などの金属を電解採取する場合、錫のような金属は軟らかく且つカソードとの密着強度も大きいため、機械的剥離が困難であることが記載されており、ステンレス(SUS316)製のカソードと粗錫のアノードを使用するとともに珪弗酸電解液を使用してカソードに電着した錫などの金属を剥離させる際に、熱風でカソードを加熱することによってカソードに電着した錫などの金属の剥離を容易にすることが記載されている。
【0008】
しかし、不純物として錫以外の金属を含む苛性ソーダ水溶液のような錫含有塩基性溶液から錫を電解採取する場合に、熱風でカソードを加熱しなくても、カソードに電着した錫を容易に剥離することができる、錫の電解採取方法が望まれている。
【0009】
また、電着した錫を溶解して薄板に鋳造し、この薄板を種板として使用して錫を電解採取する方法も行われているが、薄板の鋳造設備を設ける必要があり、工程が煩雑になり、コストが増大するという問題がある。
【0010】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、錫含有塩基性溶液から安価且つ効率的に錫を電解採取することができる、錫の電解採取方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、不純物を含む錫含有塩基性溶液を電解液として使用して錫を電解採取する方法において、少なくとも表面がチタンからなるカソードを使用して、電解によりカソード上に錫を析出させることにより、錫含有塩基性溶液から安価且つ効率的に錫を電解採取することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明による錫の電解採取方法は、不純物を含む錫含有塩基性溶液を電解液として使用して錫を電解採取する方法において、少なくとも表面がチタンからなるカソードを使用して、電解によりカソード上に錫を析出させることを特徴とする。この錫の電解採取方法において、カソード上に析出した錫を剥ぎ取って錫板として回収し、この錫板を種板として使用して、電解により種板上に錫を析出させるのが好ましい。この場合、回収された錫板を、プレスして表面の膨れをつぶした後に種板として使用するのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、錫含有塩基性溶液から安価且つ効率的に錫を電解採取することができる、錫の電解採取方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明による錫の電解採取方法の実施の形態では、不純物を含む錫含有塩基性溶液を電解液として使用して錫を電解採取する方法において、少なくとも表面がチタンからなるカソードを使用して、電解によりカソード上に錫を析出させた後、カソード上に析出した錫を剥ぎ取って錫板として回収し、この錫板を種板として使用して、電解により種板上に錫を析出させる。
【0015】
カソードとして、少なくとも表面がチタンからなる導電板を使用することができ、チタン板と導電板との合板を使用してもよいし、チタンで被覆した導電板を使用してもよい。
【0016】
カソード上に電着した錫の厚さが0.3〜0.5mm程度であれば、電着した錫を容易に錫板として剥ぎ取ることができる。0.3mmより薄いと、錫板として剥ぎ取る際に強度が低過ぎて破れ易くなる。なお、カソード上に電着した錫は、カソードから自然剥離している部分もあり、簡単な操作で薄い錫板を種板として容易に剥ぎ取ることができるので、種板の生産性が高くなる。
【0017】
このようにして剥ぎ取った錫板の表面には膨れが生じているので、剥ぎ取った錫板をプレスして膨れをつぶした後、プレスした錫板の上端にビームを取り付けて種板として使用して、種板上に錫を電着させる。
【0018】
電解温度は70〜100℃が好ましく、80〜100℃であるのがさらに好ましい。70℃より低いと、電流密度が急激に低下し、100℃より高いと、蒸発量が増えて好ましくない。
【0019】
なお、パーマネントカソードとしてチタン板を使用してもよいが、その場合には、すべてのカソードをチタン板にする必要があるので、高価なチタン板を多量に使用しなければならなくなるが、チタン板上に電着した錫を種板として使用して電解すれば、チタン板の数量(面積)を大幅に削減することができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明による錫の電解採取方法の実施例について詳細に説明する。
【0021】
[実施例1]
まず、電解液として、50g/LのSn、1mg/L未満のPb、1mg/LのSb、550mg/LのAs、2mg/LのCu、1mg/LのFe、1mg/L未満のIn、1mg/L未満のCdを含む(遊離NaOH55g/L)苛性ソーダ水溶液1.02Lを用意した。この電解液を、アノードとして略矩形のSUS316板、カソードとして略矩形のチタン板(カソード面積232cm)を使用して、85℃において電流密度120A/mで12時間電解採取を行って、カソード上に錫を電着させた。
【0022】
この電着した錫の表面の一部に切り込みを入れて、電着錫とカソードの間に金属へらを押し込むことによって、電着錫を容易に剥ぎ取ることができた。剥ぎ取られた電着錫は、厚さが約0.3mmの略矩形のシート状であり、その表面に膨れが生じていた。この電着錫シートをプレスして表面の膨れをつぶした後、電着錫シートの上端にステンレス製のビームを取り付けて種板として使用し、電解採取を行って種板上に錫を電着させた。
【0023】
このようにして得られた電着錫中のSnは99.99%以上、Pb品位が10ppm未満、Sb品位が50ppm、As品位が10ppm未満、Cu品位が40ppm、Fe品位が680ppm、In品位が10ppm未満、Cd品位が10ppm未満であった。
【0024】
[比較例]
カソードとして略矩形のステンレス板(SUS316板)を使用した以外は、実施例1と同様の電解採取を行ったところ、実施例1と同様の方法ではカソード上に電着した錫を剥ぎ取ることができなかった。
【0025】
[実施例2〜4]
それぞれアノードとしてニッケル板を使用し、実施例2では電流密度86A/m(電流2A)、実施例3では電流密度121A/m(電流2.8A)、実施例4では電流密度151A/m(電流3.5A)とした以外は、実施例1と同様の方法により電解採取を行ったところ、実施例1と同様の方法でカソード上に電着した錫を剥ぎ取ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物を含む錫含有塩基性溶液を電解液として使用して錫を電解採取する方法において、少なくとも表面がチタンからなるカソードを使用して、電解によりカソード上に錫を析出させることを特徴とする、錫の電解採取方法。
【請求項2】
前記カソード上に析出した錫を剥ぎ取って錫板として回収し、この錫板を種板として使用して、電解により種板上に錫を析出させることを特徴とする、請求項1に記載の錫の電解採取方法。
【請求項3】
前記回収された錫板を、プレスして表面の膨れをつぶした後に前記種板として使用することを特徴とする、請求項2に記載の錫の電解採取方法。