説明

錫めっき液中のスラッジ発生防止方法

【課題】無機酸を主成分とする錫めっき液中に不溶性アノードと銅或いは銅合金条材とを浸漬し高電流密度にて銅条材の表面に錫電解めっきを施す際に、錫めっき液中のスラッジの発生を効率的に防止する方法を提供する。
【解決手段】無機酸を主成分としたエチレンジアミンEO−PO付加物:0.05〜3g/l及びピロガロール:0.1〜10g/lを含有する錫めっき液中に不溶性アノードと銅或いは銅合金条材とを浸漬し、高電流密度にて前記銅或いは銅合金条材の表面に錫電解めっきを施す錫めっき槽1と、錫めっき液循環貯留槽2とを備え、前記錫めっき液循環貯留槽2より抜き出された一部の前記錫めっき液を4価の錫イオン除去装置4に供給して前記錫めっき液中の4価の錫イオンを2価の錫イオンに還元し、前記4価の錫イオンが除去された前記錫めっき液を前記めっき液循環貯留槽2に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機酸を主成分とする錫めっき液中に不溶性アノードと銅或いは銅合金条材とを浸漬し、高電流密度にて銅或いは銅条材の表面に錫電解めっきを施すに際し、その錫めっき液中に発生するスラッジを効率的に防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ICやLSIなどの半導体装置や各種電子及び電気部品に用いられるリードフレーム、端子、コネクターの材料として、銅或いは銅合金条材に錫めっき層が施された錫めっき付銅或いは銅合金条材が広く使用されている。
これらの銅或いは銅合金条材の表面に、錫めっき層を施す際に使用される錫めっき浴としては、硫酸浴などの無機酸浴、或いは、有機酸浴が広く使用されている。これらの錫めっき浴中に、白金やチタン等からなる不溶性アノード(陽極)と、カソード(陰極)としての銅或いは銅合金条材とを浸漬して通電することで、銅或いは銅合金条材(陰極)の表面にめっき浴中の錫が電析して錫めっき層が施される。
ここで、硫酸浴などの無機酸浴において高電流密度条件で錫めっきを行った場合には、めっき皮膜にめっき焼けが発生し易く、高電流密度条件において電流効率を向上させるために硫酸浴等の無機酸浴の温度を上昇した場合には、硫酸浴などの無機酸浴中に溶解している2価の錫イオンが酸化されて生じる4価の錫イオンが主因となり大量のスラッジが発生し、めっき汚れ(外観不良)が生じると共に、めっきラインの安定操業を阻害する原因ともなる。この為に、4価の錫イオンが主因となり発生するスラッジを如何に効率的に除去するかが重要な課題となっている。
【0003】
特許文献1では、4価の錫イオンを含む溶液中に可溶性金属と不活性電極をそれぞれ浸漬すると共に、これら可溶性金属と不活性電極を直接又は導体により接続して可溶性金属を負極、不活性電極を正極とする電池を形成し、前記可溶性金属を金属イオンに酸化して4価の錫イオンを含む溶液中に溶解させると共に、この溶液中の4価の錫イオンを2価の錫イオンに還元することを特徴とする4価の錫イオン還元方法が開示されている。
特許文献2では、沈降槽の底部に蓄積したスラッジを、めっきラインを停止させることなく短時間で系外に排出することができ、めっき液にスラッジが混入することによるめっき汚れの不良の発生を防止することができるめっき液供給設備が開示されている。このめっき液供給設備は、錫めっき液を、金属の溶解槽とスラッジの沈降槽と循環タンクとの間で循環させながら、循環タンクからめっき設備に供給するめっき液供給設備である。この沈降槽に噴流ノズルを設け、沈降槽から噴流ポンプにより引き抜いためっき液を沈降槽の槽底部に向けて噴射し、スラッジを突き崩す。スラッジはスラッジタンクに取り出され、系外に排出される。
特許文献3では、不溶性陽極を用いて鋼その他の金属に酸性錫めっき液にて電気錫めっきを行う際に、錫溶解速度を大とし、錫めっき液中の2価のイオン濃度を適正な範囲に管理し、さらに錫スラッジの発生を低減するための方法が開示されている。その方法は、金属錫を保持し、かつ、槽内のめっき液温度が30℃以上、45℃未満に調整されてなる錫溶解槽において、金属錫を溶解し、得られためっき液を用いて電気錫めっきを行う電気錫めっき方法、および、溶存酸素濃度C(ppm)
が特定の範囲内となるように調整されためっき液に金属錫を溶解し、得られためっき液を用いて電気錫めっきを行う電気錫めっき方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−63692号公報
【特許文献2】特開2008−266761号公報
【特許文献3】特開平09−31699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
無機酸を主成分とする錫めっき液中に不溶性アノードと銅或いは銅合金条材とを浸漬し、高電流密度にて銅条材の表面に錫電解めっきを施す際に、特許文献1〜3に記載の錫めっき液中にスラッジが発生することを防止する、或いは、発生したスラッジを除去する方法では、効率面及びコスト面で充分ではなく、最近のより高密度、高流速での錫電解めっきラインには対応し切れていなかった。
本発明は、無機酸を主成分とする錫めっき液中に不溶性アノードと銅或いは銅合金条材とを浸漬し高電流密度にて銅条材の表面に錫電解めっきを施す際に、錫めっき液中に発生するスラッジをより効率的に防止する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、錫めっき液中のスラッジの主因となる4価の錫イオンを2価の錫イオンに効率的に還元するには、錫めっき液中に予め還元反応促進剤として、適量のエチレンジアミンEO−PO付加物を含有させておくと有効であることを見出した。
また、4価の錫イオンを2価の錫イオンに効率的に還元するには、めっき液中の溶存酸素を除去する必要があるが、従来のように高価な不活性ガスを使用して溶存酸素を除去するのではなく、錫めっき液中に予め脱酸素剤として適量のピロガロールを添加して溶存酸素濃度を下げるとコストが安く効率的であり、更に、錫めっき時に錫めっき液中に発生する空気の取り込みによる微細な酸素の気泡を脱泡しておくと、より効率的に4価の錫イオンを2価の錫イオンに還元出来ることを見出した。
【0007】
即ち、本発明の錫めっき液中のスラッジの発生を防止する方法は、無機酸を主成分としたエチレンジアミンEO−PO付加物:0.05〜3g/l及びピロガロール:0.1〜10g/lを含有する錫めっき液中に不溶性アノードと銅或いは銅合金条材とを浸漬し、高電流密度にて前記銅或いは銅合金条材の表面に錫電解めっきを施す錫めっき槽と、前記錫めっき槽より抜き出された前記錫めっき液を貯留し、且つ、前記錫めっき液の一部を前記錫めっき槽に循環するための錫めっき液循環貯留槽とを備え、前記錫めっき液循環貯留槽より抜き出された一部の前記錫めっき液を4価の錫イオン除去装置に供給して前記錫めっき液中の4価の錫イオンを2価の錫イオンに還元し、前記4価の錫イオンが除去された前記錫めっき液を前記めっき液循環貯留槽に供給することを特徴とする。
【0008】
錫めっき槽の錫めっき液中の2価の錫イオンは空気酸化或いは電解酸化により、4価の錫イオンに酸化された状態となり、更に加水分解反応により白色コロイド状の水酸化物となって錫めっき液循環貯留槽中に浮遊し、或いは、沈殿してスラッジを形成する。この4価の錫イオンが加水分解しスラッジを形成する前に、4価の錫イオンを含有するめっき液の一部を4価の錫イオン除去装置に供給し、4価の錫イオンを2価の錫イオンに還元してめっき液循環貯留槽に戻せば、錫めっき液の4値の錫イオンの濃度が減少し、スラッジの生成が効果的に抑制される。
この際、例えば、金属錫が媒体として充填された充填層を有する4価の錫イオン除去装置にて4価の錫イオンを2価の錫イオンに還元するのであるが、これを効率的に実施するには、錫めっき液中に予め還元反応促進剤として、0.05〜3g/lのエチレンジアミンEO−PO付加物を含有させておくと有効であり、更に、還元反応を妨げる錫めっき液中の溶存酸素を除去するには、錫めっき液中に予め脱酸素剤として0.1〜10g/lのピロガロールを添加しておくことが重要である。
また、4価の錫イオン除去装置は、反応容器内で反応媒体と錫めっき液が接触し、4価の錫イオンが2価の錫イオンに還元される装置であり、形式は限定されないが、底部より錫めっき液が供給され、上部より4価の錫イオンが除去された錫めっき液が抜き出される充填層形式であり、充填層中に反応媒体として直径1〜30mmの球状金属錫を使用することが特に好ましい。この場合、球状金属錫の直径が1mm未満或いは30mmを超えると、還元反応媒体としての効果が充分でない。充填層内の媒体充填率、空筒速度は錫めっき液の状況に応じて適宜変更すれば良いが、充填率は50〜90%、空筒速度は0.01〜0.5m/sであることが好ましい。
【0009】
更に、本発明の錫めっき液中のスラッジの発生を防止する方法は、前記錫めっき液循環貯留槽より抜き出された一部の前記錫めっき液を脱泡装置にて脱泡した後に、前記4価の錫イオン除去装置に供給することを特徴とする。
錫めっき時に錫めっき液中にて発生する空気の取り込みによる微細な酸素の気泡を脱泡することにより、後工程の4価の錫イオン除去装置にて、4価の錫イオンを2価の錫イオンを更に効率良く還元することができる。
【0010】
更に、本発明の錫めっき液中のスラッジの発生を防止する方法は、前記錫めっき液が、硫酸:30〜120g/l、硫酸錫:20〜150g/lを含有するとともに、光沢剤としてポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル:0.3〜6g/l、ポリオキシエチレンナフチルエーテル:0.05〜6g/l、還元反応促進剤としてエチレンジアミンEO−PO付加物:0.05〜3g/l、脱酸素剤としてピロガロール:0.1〜10g/lを含有することを特徴とする。
【0011】
この錫めっき液は、高電流密度にて銅或いは銅合金条材の表面に錫電解めっきを施すに際し、泡立ちが少なくてスラッジの発生量も少なく、めっき焼けも発生し難いものであり、これを本発明の錫めっき液中のスラッジの発生を防止する方法に適用することにより、めっき液循環貯留槽中の泡立ち及びスラッジの発生量が激減し、めっき液の寿命が延び、更にめっき焼けのない良好な錫電解めっき皮膜が得られる。
硫酸の濃度を30〜120g/lとしたのは、30g/l未満ではめっき時の電流密度が上がらず、120g/lを超えるとSnが溶解し難くなる。より好ましくは60〜90g/lが良い。
硫酸錫の濃度を20〜150g/lとしたのは、20g/l未満ではめっき時の電流密度が上がらず、150g/lを超えても効果は飽和してコスト的に無駄となる。より好ましくは60〜120g/lが良い。
ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルの濃度を0.3〜6g/lとしたのは、0.3g/l未満ではめっき焼け及び泡立ちを抑える効果が薄れ、6g/lを超えると泡の発生が多くなる。より好ましくは1〜3g/lが良い。
ポリオキシエチレンナフチルエーテルの濃度を0.05〜6g/lとしたのは、0.05g/l未満ではめっき焼け、泡立ち、スラッジの発生を抑える効果が薄れ、6g/lを超えると泡の発生が多くなる。より好ましくは0.1〜1.0g/lが良い。
エチレンジアミンEO−PO付加物の濃度を0.05〜3g/lとしたのは、0.05g/l未満では、還元反応促進剤として効果が不充分であり、3g/lを超えると泡の発生が多くなる。より好ましくは0.1〜1.0g/lが良い。
ピロガロールの濃度を0.1〜10g/lとしたのは、0.1g/l未満では脱酸素剤としての効果がなく、10g/lを超えると、泡立ち、スラッジの発生が多くなる。より好ましくは2〜5g/lが良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、無機酸を主成分とする錫めっき液中に不溶性アノードと銅或いは銅合金条材とを浸漬し高電流密度にて銅条材の表面に錫電解めっきを施す方法において、錫めっき液中に発生するスラッジをより効率的に防止する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態の錫めっき装置の例を示す概略構成図である。
【図2】図1の錫めっき装置の錫めっき槽における電極板と銅条材との位置関係を示す横断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
この錫めっき装置には、錫めっき槽1、錫めっき液循環貯留槽2、脱泡装置3、4価の錫イオン除去装置4、錫イオン供給装置5が備えられている。
錫めっき槽1には、銅条材11の走行方向を水平方向と垂直方向との間で屈曲させるように銅合金条材11を巻回する給電ロール13が設けられており、この給電ロール13によって銅合金条材11をカソードとし、錫めっき槽1内の電極板12をアノードとして通電するようになっている。給電ロール13は、ステンレス鋼により形成され、特に耐食性、耐摩耗性に優れるSUS316が好適に用いられる。電極板12は、チタン(Ti)に酸化イリジウム(IrO)がコーティングされた不溶性電極板とされている。
【0015】
錫めっき液Eは、図1に矢印で示したように、錫めっき槽1内を銅合金条材11の走行方向(実線矢印で示す)とは逆方向に流通させられる構成とされ、銅合金条材11と錫めっき液Eとが相対移動されるようになっている。
錫めっき液Eは、硫酸:30〜120g/l、硫酸錫:20〜150g/lを含有するとともに、光沢剤としてポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル:0.3〜6g/l、ポリオキシエチレンナフチルエーテル:0.05〜6g/l、還元反応促進剤としてエチレンジアミンEO−PO付加物:0.05〜3g/l、脱酸素剤としてピロガロール:0.1〜10g/lを含有し、残部が水からなる構成である。
この錫めっき液は、高電流密度にて銅合金条材11の表面に錫電解めっきを施すに際し、泡立ちが少なくてスラッジの発生量も少なく、めっき焼けも発生し難いものであり、本発明の錫めっき液中のスラッジの発生を防止する方法にこれを適用することにより、めっき液循環貯留槽中の泡立ち及びスラッジの発生量が激減し、めっき液の寿命が延び、更にめっき焼けのない良好な錫電解めっき皮膜が得られる。
硫酸の濃度を30〜120g/lとしたのは、30g/l未満ではめっき時の電流密度が上がらず、120g/lを超えるとSnが溶解し難くなる。より好ましくは60〜90g/lが良い。
硫酸錫の濃度を20〜150g/lとしたのは、20g/l未満ではめっき時の電流密度が上がらず、150g/lを超えても効果は飽和してコスト的に無駄となる。より好ましくは60〜120g/lが良い。
ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルの濃度を0.3〜6g/lとしたのは、0.3g/l未満ではめっき焼け及び泡立ちを抑える効果が薄れ、6g/lを超えると泡の発生が多くなる。より好ましくは1〜3g/lが良い。
ポリオキシエチレンナフチルエーテルの濃度を0.05〜6g/lとしたのは、0.05g/l未満ではめっき焼け、泡立ち、スラッジの発生を抑える効果が薄れ、6g/lを超えると泡の発生が多くなる。より好ましくは0.1〜1.0g/lが良い。
エチレンジアミンEO−PO付加物の濃度を0.05〜3g/lとしたのは、0.05g/l未満では、還元反応促進剤として効果が不充分であり、3g/lを超えると泡の発生が多くなる。より好ましくは0.1〜1.0g/lが良い。
ピロガロールの濃度を0.1〜10g/lとしたのは、0.1g/l未満では脱酸素剤としての効果がなく、10g/lを超えると、泡立ち、スラッジの発生が多くなる。より好ましくは2〜6g/lが良い。
【0016】
錫めっき液Eは、ポンプ50により錫めっき槽1の下部からパイプ61を通して抜き出されて、錫めっき液循環貯留槽2に供給される。錫めっき液循環貯留槽2にて、錫めっき液Eは、後述するように4価の錫イオンが除去された錫めっき液Gと混合されて、その一部はポンプ51によりパイプ62を通して錫めっき槽1に供給される。
錫めっき液循環貯留槽2内に供給された錫めっき液E中の大部分の錫は4価の錫イオンであり、そのままの状態で放置すると、4価の錫イオンが加水分解し、白色コロイド状の水酸化物となって、錫めっき液循環貯留槽2内にスラッジ状態となって浮遊或いは沈殿する。そこで、この4価の錫イオンが加水分解しスラッジを形成する前に、4価の錫イオンを含有するめっき液Eの一部を4価の錫イオン除去装置4に供給し、4価の錫イオンを2価の錫イオンに還元してめっき液循環貯留槽2に戻せば、錫めっき液の4値の錫イオンの濃度が減少し、スラッジの生成が効果的に抑制される。
【0017】
その為に、この錫めっき装置においては、錫めっき液循環貯留槽2内の錫めっき液Eの一部が、錫めっき液循環貯留槽2の下部からポンプ52により抜き出され、パイプ63を通してまず脱泡装置3に供給される。
脱泡装置3は、錫めっき液E中の微細な酸素の気泡を脱泡する装置であり、各種の脱泡装置が適用可能であるが、錫めっき液E中の溶存酸素の除去を兼ねるためにも、例えば、(株)横田製作所製脱気ポンプ・脱泡装置ASP型のような装置を使用することが好ましい。錫めっき液E中の溶存酸素濃度は、錫めっき液E中の脱酸素剤としての0.1〜10g/lのピロガロールの添加により低減されており、更に、この種の脱泡装置を使用することにより95%以上の除去が可能となる。
脱泡装置3が無くても、錫めっき液Eは低泡立ち性であり気泡の発生は少ないが、使用することにより、更に、錫めっき液E中の微細な酸素の気泡は少なくなる。
【0018】
脱泡装置3により微細な酸素の気泡および溶存酸素が除去された錫めっき液Fは、ポンプ53により抜き出され、パイプ64を通して4価錫イオン除去装置4に供給される。
4価の錫イオン除去装置4は、容器内で反応媒体と錫めっき液Fが接触し、4価の錫イオンが2価の錫イオンに還元される装置であり、形式は限定されないが、底部より錫めっき液Fが供給され、上部より4価の錫イオンが除去された錫めっき液Gが抜き出される充填層形式であり、充填層中に反応媒体として直径1〜30mmの球状金属錫を使用することが特に好ましい。
この場合、球状金属錫の直径が1mm未満或いは30mmを超えると、還元反応媒体としての効果が充分でない。充填層内の媒体充填率、空筒速度は錫めっき液の状況に応じて適宜変更すれば良いが、充填率は50〜90%、空筒速度は0.01〜0.5m/sであることが特に好ましい。
【0019】
4価の錫イオン除去装置4により4価の錫イオンが除去された錫めっき液Gは、ポンプ54により抜き出され、パイプ65を通して錫めっき液循環貯留槽2の上部に戻される。
錫めっき液Gと錫めっき液Eは、錫めっき液循環貯留槽2内で混合され、錫めっき液循環貯留槽2中の4価の錫イオンの濃度が低減されてスラッジの形成が抑制され、その混合液の一部はポンプ51によりパイプ62を通して錫めっき槽1の上部に循環される。
また、錫めっき液循環貯留槽2には、錫めっき槽1にて消費される錫イオンを供給するための錫イオン供給装置5が備えられており、錫めっき液循環貯留槽2からポンプ55によりパイプ65を通して抜き出されためっき液に、適宜、2価の錫イオンが供給されて錫めっき液循環貯留槽2に送られる。
【実施例】
【0020】
以下に本発明の実施例について説明する。
錫めっき槽内にて、表1に示す錫めっき液の組成、温度、電流密度条件にて、アノードとして酸化イリジウム被覆チタンを使用し、レイノルズ数が1×10〜5×10となるように銅合金条材及び錫めっき液を相対移動させ、銅合金条材に錫めっきを施した。
表1において、Aはポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、BはエチレンジアミンEO−PO付加物、Cはポリオキシエチレンナフチルエーテル、Dはピロガロールを示す。
レイノルズ数Reは、めっき液と銅条材との相対速度U(m/s)とめっき槽内のめっき液の流れ場の相当直径De(m)と、めっき液の動粘性係数ν(m2/s)との関係から、Re=UDe/νによって求められる。めっき液の流れ場の相当直径Deは、図2に示す電極板29の幅a、電極板29と銅合金条材11との間の間隔bとの関係から、De=2ab/(a+b)により求めた。
錫めっき液循環貯留槽の錫めっき液貯留量を100lとし、錫めっき槽への錫めっき液の循環量を5l/minとし、貯留されためっき液を5l/minの割合で抜き出して、真空振動型脱泡装置に供給し、更に、4価の錫イオン除去装置(高さ1000mm×直径100mmの円筒型充填層、直径20mmの金属錫球体を20kg使用、充填率は70%、空筒速度は0.1m/s)に供給し、4価の錫イオンが除去された錫めっき液を錫めっき液循環貯留槽に戻した。
実施例1〜2及び比較例1〜2は、真空振動型脱泡装置を使用しない事例であり、実施例3〜8、比較例3〜6は、真空振動型脱泡装置を使用した事例である。
【0021】
【表1】

【0022】
表1に示す条件にて、錫めっきを120時間施した後の、錫めっき液循環貯留槽のスラッジの発生及び泡立ちを観察する共に、得られためっき付き銅合金条材の表面のめっき焼けを観察した。
泡立ちについては、JIS K 3362に準拠したロスマイルス法により、25℃で5分後の泡高さを測定し、35mm以下のものを○、35mmを超えたものを×とした。
スラッジについては、めっき処理後のSnめっき槽からめっき液を採取し、ろ過してスラッジの量を測定し、スラッジ量が5g/l未満であったものを◎、10g/l未満であったものを○、10g/l以上であったものを×とした。
めっき焼けについては、めっき処理材の表面を目視により観察し、めっき焼けが認めらないものを○、めっき焼けが認められたものを×とした。
これらの結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
表2の結果より、本発明の錫めっき液中のスラッジの発生を防止する方法は、錫めっき液中に発生するスラッジを効率的に防止することができ、本発明の錫めっき液をこの方法に適用することにより、めっき液循環貯留槽中の泡立ち及びスラッジの発生量が激減し、めっき液の寿命が延び、更にめっき焼けのない良好な錫電解めっき皮膜が得られることがわかる。
【0025】
以上、本発明の実施形態の製造方法について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 錫めっき槽
2 錫めっき液循環貯留槽
3 脱泡装置
4 4価錫イオン除去装置
5 錫イオン供給装置
11 銅合金条材
12 電極板
13 給電ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機酸を主成分としたエチレンジアミンEO−PO付加物:0.05〜3g/l及びピロガロール:0.1〜10g/lを含有する錫めっき液中に不溶性アノードと銅或いは銅合金条材とを浸漬し、高電流密度にて前記銅或いは銅合金条材の表面に錫電解めっきを施す錫めっき槽と、前記錫めっき槽より抜き出された前記錫めっき液を貯留し、且つ、前記錫めっき液の一部を前記錫めっき槽に循環するための錫めっき液循環貯留槽とを備え、前記錫めっき液循環貯留槽より抜き出された一部の前記錫めっき液を4価の錫イオン除去装置に供給して前記錫めっき液中の4価の錫イオンを2価の錫イオンに還元し、前記4価の錫イオンが除去された前記錫めっき液を前記めっき液循環貯留槽に供給することを特徴とする錫めっき液中のスラッジの発生を防止する方法。
【請求項2】
前記錫めっき液循環貯留槽より抜き出された一部の前記錫めっき液を脱泡装置にて脱泡した後に、前記4価の錫イオン除去装置に供給することを特徴とする請求項1に記載の錫めっき液中のスラッジの発生を防止する方法。
【請求項3】
前記錫めっき液が、硫酸:30〜120g/l、硫酸錫:20〜150g/lを含有するとともに、光沢剤としてポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル:0.3〜6g/l、ポリオキシエチレンナフチルエーテル:0.05〜6g/l、還元反応促進剤としてエチレンジアミンEO−PO付加物:0.05〜3g/l、脱酸素剤としてピロガロール:0.1〜10g/lを含有することを特徴とする請求項1から請求項2の何れか1項に記載の錫めっき液中のスラッジの発生を防止する方法。

【図1】
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【図2】
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