説明

錫めっき膜および該錫めっき膜を形成する錫めっき浴

【課題】ウィスカの発生を抑制可能で、錫めっき浴の管理の容易化並びにめっきコストの低価格化を図る。
【解決手段】リード基材22を被覆する錫めっき膜26には、炭素微粒子28が含有されている。炭素微粒子28は、錫めっき膜26の加わる応力によって変形して、該応力を緩和する。これによって、ウィスカの生成を抑制することができ、錫めっき膜26で被覆した外部リードを備える電子部品においては、ウィスカに起因する短絡の発生を防止し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭素微粒子を含有する錫めっき膜および該錫めっき膜を形成するための錫めっき浴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、集積回路やトランジスタ等の電子部品10は、図4に示す如く、その素子12が、例えばリードフレーム14上に固着され、更にモールド樹脂18等の内側に素子12およびリードフレーム14が封入されている。電子部品10は、プリント基板等の外部回路に接続するためにモールド樹脂18の外側に露出する外部リード20を備え、外部リード20は、モールド樹脂の内部でワイヤボンディング等によりワイヤ16を介してリードフレーム14と電気的に接続されている。図5に示す如く、外部リード20には、リード基材の表面に、例えば錫−鉛合金、所謂鉛半田のめっき膜24が形成されている。
【0003】
近年の鉛による環境汚染の問題に対する鉛フリー化の要請に伴い、鉛半田めっき膜24に含まれる鉛の使用が規制されつつある。そのため、鉛半田めっきに替わって、外部リード20のリード基材22を被覆するめっき膜に関する様々な提案がなされており、例えば錫だけから形成される、所謂純錫めっき膜の使用等が挙げられる。
【0004】
しかし、錫だけから形成されるめっき膜の場合、電子部品10の使用環境条件によっては、リード基材22の表面を被覆するように形成された純錫めっき膜の表面からウィスカと呼ばれるヒゲ状物が生成し易いことが知られている。このウィスカは、幅が略数μm、長さが最大で数mm程度の細長く成長するため、該ウィスカが隣接する外部リード20,20間の短絡の原因となる問題がある。
【0005】
そこで、純錫めっき膜に起因するウィスカの抑制方法について、幾つかの提案がされている。例えば、特許文献1には、前記純錫めっき膜に替えて、耐ウィスカ性に優れたビスマスを用い、ビスマス含有量が0〜1wt%の錫−ビスマス合金からなる下層めっき膜と、ビスマス含有量が1〜10wt%の錫−ビスマス合金からなる上層めっき膜とを備える複合めっき膜を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−330340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記ビスマスはレアメタルであるため、めっき膜の形成に係るコストが増大してしまう問題が指摘される。また、前記複合めっき膜を形成するためのめっき浴中に金属であるビスマスが含有されていると、めっき膜の形成に伴って該ビスマスがアノード(電極)に析出してしまう。アノードにビスマスが析出すると、該アノードからの電流放出が阻害されるため、めっきに必要な錫イオンをめっき浴中に効率的に供給できなくなって、被めっき部(カソード)に好適なめっき膜の形成が困難となってしまう。更に、めっき作業を行なうことでめっき浴中のビスマス含有量が減少するため、該ビスマス含有量の測定および調整といった煩雑な作業が不可欠となる。前記ビスマスの析出による弊害は、該ビスマスをアノードから除去することで回避されるが、該除去に係る作業を頻繁に実施しなければならず、やはりめっき浴の管理が煩雑になる問題を内在している。
【0008】
すなわち本発明は、従来の技術に内在する問題に鑑み、これらを好適に解決すべく提案されたものであって、ウィスカの生成を抑制し得る錫めっき膜および該錫めっき膜を形成する錫めっき浴を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の請求項1に係る発明の錫めっき膜は、
被めっき部に付与され、炭素微粒子を含有していることを特徴とする。
請求項1に係る発明によれば、ウィスカの生成原因となる錫めっき膜に加わる応力を、該錫めっき膜に含有されている炭素微粒子が変形して緩和することでウィスカの生成を抑制し得る。すなわち、鉛やビスマスを用いることなくウィスカの生成を抑制することができるから、環境を汚染することはなく、かつコストを低廉に抑えることができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記炭素微粒子は、平均粒径が錫めっき膜の厚さ未満でかつ5μm以下のものが用いられることを要旨とする。
請求項2に係る発明によれば、ウィスカの生成をより好適に抑制し得る。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記炭素微粒子は、100重量部の錫めっき膜に対して、4〜20重量部含有されることを要旨とする。
請求項3に係る発明によれば、ウィスカの生成をより好適に抑制すると共に、炭素微粒子に起因する錫めっき膜の剥離を防止し得る。
【0012】
請求項4に係る発明は、前記炭素微粒子(28)は、窒素吸着比表面積が100〜2000m2/gの範囲にあるものが用いられることを要旨とする。
請求項4に係る発明によれば、ウィスカの生成をより好適に抑制し得る。
【0013】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の請求項5に係る発明の錫めっき浴は、
炭素微粒子が添加され、被めっき部に錫めっき膜を付与するのに用いられることを特徴とする。
請求項5に係る発明によれば、被めっき部に、炭素微粒子を含有する錫めっき膜を低コストで付与することができる。また、アノードに析出するビスマス等の金属系含有物を用いていないので、アノードおよび錫めっき浴の管理を容易化し得る。
【0014】
請求項6に係る発明は、平均粒径が錫めっき膜の厚さ未満でかつ5μm以下の前記炭素微粒子が用いられることを要旨とする。
請求項6に係る発明によれば、得られた錫めっき膜についてウィスカの生成をより好適に抑制し得る。
【0015】
請求項7に係る発明は、前記炭素微粒子は、1リットルの前記錫めっき浴に対して、2.5〜30グラム含有するよう調整されることを要旨とする。
請求項7に係る発明によれば、ウィスカの生成をより好適に抑制すると共に、炭素微粒子に起因する剥離が防止される錫めっき膜を被めっき部に付与し得る。
【0016】
請求項8に係る発明は、窒素吸着比表面積が100〜2000m2/gの範囲にある前記炭素微粒子が用いられることを要旨とする。
請求項8に係る発明によれば、得られた錫めっき膜についてウィスカの生成をより好適に抑制し得る。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る錫めっき膜によれば、ウィスカの生成を抑制し得ると共にめっき膜の付与コストを低減し得る。また、錫めっき膜を形成する錫めっき浴によれば、アノードおよびめっき浴の管理が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の好適な実施例に係る錫めっき膜を断面で示す説明図である。
【図2】実施例に係る錫めっき膜を形成する工程を示す概略工程図である。
【図3】実施例に係る炭素微粒子に無機材料が坦持されている状態を示す説明図である。
【図4】電子部品を示す概略図である。
【図5】電子部品の外部リードを示す概略図である。
【図6】荷重試験を説明する概略図である。
【図7】実験1における実験例2のSEM写真であって、試験前の状態を示す。
【図8】実験1における実験例2のSEM写真であって、試験後の状態を示す。
【図9】実験1における比較例のSEM写真であって、試験前の状態を示す。
【図10】実験1における比較例のSEM写真であって、試験後の状態を示す。
【図11】炭素微粒子のゼータ電位を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明に係る錫めっき膜および該錫めっき膜を形成する錫めっき浴につき、その製造方法と共に、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら以下説明する。
【0020】
本願の発明者は、半導体製品等の電子部品において、他部位に対して電気的に接触する、例えば外部リードのリード基材等の被めっき部に好適な接合性を付与する錫めっき膜として、炭素微粒子を含有させた錫めっき膜を使用することで、電子部品の使用下において錫めっき膜に加わる内部応力および外部応力を緩和して、該応力によるウィスカの生成を抑制し得ることを知見したものである。また、本願の発明者は、錫めっき浴に炭素微粒子を添加することで、ビスマスの如き金属系含有物と違い、電解めっきの実施によるアノードへの析出物の発生および該析出によるめっき浴内における金属系含有物の減少と云った問題を回避し、管理の容易なめっき浴とし得ることも併せて知見した。
【0021】
本実施例では、図4を参照して従来技術で説明した電子部品10としての半導体装置の外部リード20のリード基材(被めっき部)22に錫めっき膜26を付与する場合を説明する。リード基材22は、半導体装置のリードフレームとして多用される、例えば42アロイと称される鉄−ニッケル42wt%合金や、2wt%鉄含有の銅合金等で形成されている。なお、本発明で云う「錫めっき」とは、めっきされた錫めっき膜における炭素微粒子を除いた錫の組成が99.9%以上の純度を有するものである。すなわち、従来のはんだ(錫とその他の金属を1種類以上混合したもの)と異なり、錫のみの単一金属で構成されためっき被膜である。更に「めっき浴」とは、めっき槽内に入れられためっき液そのものを指す用語である。
【0022】
実施例に係る錫めっき膜26は、図1に示す如く、該めっき膜26の内部に多数の炭素微粒子28が均等に分散して含有されている。このように錫めっき膜26内に炭素微粒子28が含有されることで、電子部品10が使用される状態下において該錫めっき膜26に加わる応力を受けて炭素微粒子28が変形し、該応力を緩和する作用を奏する。従って、前記錫めっき膜26における応力が低減されるため、該応力を原因とするウィスカの生成が抑制される。
【0023】
実施例に係る錫めっき膜26の付与は、図2に示す如く、該錫めっき膜26を付与するのに使用される通常の錫等の各原料と、該原料に含有させる炭素微粒子28とを準備する準備工程S1と、準備された各原料等から錫めっき浴を調整する調整工程S2と、調整された錫めっき浴に電子部品10の被めっき部であるリード基材22を浸漬・通電して錫めっき膜26を付与する付与工程S3とから基本的に構成される。
【0024】
前記準備工程S1で準備される各原料のうち炭素微粒子を除く物質は、公知の錫めっき浴の原料と同様であるので省略する。
【0025】
前記炭素微粒子28としては、活性炭のようなアモルファスカーボン、グラファイトカーボンが上げられる。炭素微粒子28は、非多孔性および多孔性の何れであってもよいが、窒素吸着比表面積が100〜2000m2/gの範囲、好ましくは、500〜1500m2/gの範囲がよい。炭素微粒子28は、窒素吸着比面積が小さくなる程に硬くなる傾向があり、窒素吸着比表面積が100m2/g未満である炭素微粒子28は、硬質になるために緩和作用が少なく、ウィスカの発生抑制作用が十分に得られない。一方、窒素吸着比表面積が2000m2/gの炭素微粒子は、軟弱になって緩和作用が弱くなるため、ウィスカの発生抑制作用が十分に得られない。炭素微粒子28の含有量は、錫めっき膜100重量部に対して、4重量部〜20重量部の範囲、好ましくは4重量部〜10重量部の範囲に設定するとよい。これは、炭素微粒子28の含有量が4重量部未満になると、炭素微粒子による内部応力の緩和力が小さくなり、ウィスカの発生抑制作用が十分に得られない。また、炭素微粒子28の含有量が、20重量部を越えると、得られる錫めっき膜26の表面が不均一になり、密着性が悪くなる不都合が生じ易くなる。なお、炭素微粒子28は、錫めっき膜26内において均等に分散すべく、錫めっき浴中においても均等に分散させるため、該錫めっき浴に対して馴染みのよい、親水性あるいは親水化処理を施してもうよい。
【0026】
前記炭素微粒子28の表面電位は、図11に示すゼータ電位測定結果に示すように、酸性側では、プラス側に触れており、しかも炭素微粒子28自体に導電性があるので、陰極側に付着する炭素微粒子28の量が多くなるため、ウィスカ抑止効果を大きくすることができる。また、炭素微粒子28は、錫めっき浴中でゼータ電位が正側に振れるので、陰極側に動き易く、リード基材22に多く付着しやすいことが、ウィスカ抑止に大きく関与している。
【0027】
前記炭素微粒子28は、その円形度を、
円形度=〔粒子を撮像した画像の周囲長と同じ投影面積の真円の直径から算出した周囲長〕/〔粒子を撮像した画像の周囲長〕・・・式1
で定義した値としたときに、該円形度が0.8〜1.0であるのが好ましく、より好ましくは0.9〜1.0の範囲である。なお、円形度は、真円が「1」で、形状が複雑になるほど小さい値になる。すなわち、円形度が0.9〜1.0の範囲では、粒子の球状性は極めて高く、錫めっき浴中においては極めて安定的に分散して、リード基材22に形成される錫めっき膜26の全体に均等に分散させて含有させ得る。また、球状性の高い炭素微粒子28は、錫めっき膜26内に存在している状態で、該錫めっき膜26に係る多方向からの応力に対して良好に変形して応力緩和に寄与し得る。これに対し、円形度が0.9未満であると、粒子が球形でなくなるため、錫めっき膜26内での炭素微粒子28の安定した分散が阻害されたり、錫めっき膜26内に炭素微粒子28が存在している状態で、該粒子28における径が短かい部分と長い部分とによって応力緩和の度合が異なってしまう。
【0028】
前記炭素微粒子28の円形度が0.8以上、0.9未満の範囲にある場合には、錫めっき膜26内において炭素微粒子28の径が短い部分と長い部分によって、該炭素微粒子28による応力緩和の度合いが多少異なる。しかしながら、炭素微粒子28のいびつな凹凸によるアンカー効果によって、炭素微粒子28が錫の結晶間に取り込まれ易くなり、錫めっき浴中における炭素微粒子28の分散性の低下を補い得ると共に、炭素微粒子28が円形度が多少低くてもウィスカの抑制効果が発現する。これに対して、炭素微粒子28の円形度が0.8未満になると、炭素微粒子28のいびつな凹凸によるアンカー効果が互いに強く作用し過ぎてしまい、錫めっき浴中で炭素微粒子28の凝集が生じ易く、分散性が悪くなるので、逆に炭素微粒子28が錫の結晶間に取り込まれ難くなる。更に、炭素微粒子28の円形度が0.8未満になると、炭素微粒子28の径の短い部分と長い部分との差によって応力緩和の度合いも大きく異なってしまうので、応力が不均等になり、ウィスカが生じ易くなる。
【0029】
前記炭素微粒子28の大きさについては、前記リード基材22に形成される錫めっき膜26の厚さより大きくても、一部が錫めっき膜26に埋もれていれば、錫めっき膜26に加わる応力を緩和する作用を奏する。但し、炭素微粒子28の大きさは、その平均粒子径を錫めっき膜26の厚さ未満とするのがより好適であり、この場合は炭素微粒子28の全体が錫めっき膜26内に埋没して、該錫めっき膜26に加わる応力を好適に緩和することができる。なお、具体的には、錫めっき膜26の膜厚が18μmであれば、炭素微粒子28の平均粒子径は、半分以下の例えば5μm以下とされる。また、炭素微粒子28の平均粒子径を4〜5μmとした場合における粒度については、1〜15μmの範囲に分布しているものがよく、より好ましくは1〜8μmの範囲に分布するものがよい。なお、炭素微粒子28の平均粒径が小さくなると、錫めっき膜26への炭素微粒子28の導入量を多くすることができ、ウィスカ抑止効果も大きくなる。
【0030】
ここで、前記錫めっき膜26の膜厚については、5〜25μmの範囲に設定される。すなわち、膜厚が5μm未満であると、リード基材22の表面まで貫通するピンホールが存在して、錫めっき膜26によるリード基材22の保護機能が低下する。また膜厚が25μmを超えると、錫めっき膜26でリード基材22が被覆された外部リード20を切断・分離および成形等の加工を行なう際に発生する錫金属バリが大きくなり、正常な切断・分離および成形等の加工に支障を来たすおそれがある。
【0031】
更に、図3に示す如く、炭素微粒子28の表面に対して、各種無機材料30を担持するようにしてもよい。前記無機材料30は、炭素微粒子28と較べて、錫めっき膜26をなす金属錫に対して密着性が良好である。従って、前記炭素微粒子28の表面に無機材料30を担持して、該炭素微粒子28と錫めっき膜26を構成する金属錫結晶との間に介在させることで、該無機材料30が炭素微粒子28と金属錫結晶との密着性を向上させ得る。そして、炭素微粒子28と金属錫結晶との密着性が向上することで、錫めっき膜26に加わる応力によって炭素微粒子28が変形せずに錫めっき膜26内で移動してしまう事態を回避し、炭素微粒子28の変形による応力緩和を確実になし得るようになる。前記無機材料30としては、錫めっき膜26の主構成物質である金属錫に対して馴染みのよい、錫、ニッケル、ビスマス、銅、亜鉛、アルミニウム、チタン、金、銀、ブラチナまたはパラジウム等の金属元素や、ケイ素等の半金属元素あるいはこれらの酸化物が採用される。
【0032】
前記無機材料30は、例えば該無機材料30を無電解めっきあるいはチタネートやシラノールまたはアルミネート等のゾル−ゲル法その他の公知の方法を用いることで前記炭素微粒子28の表面に担持される。この他、炭素微粒子28を原料から製造する場合には、炭素微粒子28の原料中に予め無機材料30を配合したもとで、一度に無機材料30を担持した炭素微粒子28を製造するようにしてもよい。
【0033】
前記調整工程S2は、前記準備工程S1で準備された炭素微粒子28等の各原料から、前記電子部品10に錫めっき膜26を付与するための錫めっき浴を調整する工程であり、公知の錫めっき浴を調整し、ここに炭素微粒子28を投入して含有させている。前記炭素微粒子28の投入量は、1リットルの錫めっき浴に対して、2.5〜30グラムとされる。この投入量が2.5グラム未満であると、100重量部の錫めっき膜26内における炭素微粒子28の含有量が4重量部未満となってしまい、該錫めっき膜26に加わる応力を充分に緩和できなくなって短絡の原因となるウィスカが生成してしまう虞が高くなる。一方、投入量が30グラムを超えると、100重量部の錫めっき膜26内における炭素微粒子28の含有量が20重量部を超えてしまい、該錫めっき膜26が剥離してしまう虞が高くなる。なお、炭素微粒子28の濃度が10g/Lを越える錫めっき浴となると錫イオンとの競争反応により、炭素分が錫の析出を阻害し、錫めっき膜26の厚みが減少する。また、基材22に対する錫めっき膜26の密着度が低くなる傾向があるので、錫めっき浴の炭素微粒子28の濃度を2.5g/L〜10g/Lの範囲に設定するのがより望ましい。
【0034】
次に、本実施例に係る錫めっき膜26の形成に用いられる錫めっき浴について説明する。前記錫めっき浴は、一般的な錫めっき浴中に、前記炭素微粒子28を分散させたものである。そして、前記錫めっき浴に投入された炭素微粒子28は、公知のスターラまたは循環ポンプ等の分散装置を使用することで、該錫めっき浴中に好適に分散して含有される。なお、前述した一般的な錫めっき浴は特に限定されず、例えば106Ω/cm程度の純水に対して市販の外部リード錫めっき用の原液、スルホン酸および市販の添加剤を所要の比率で混合して調整される。
【0035】
また、前記錫めっき浴を使用した電子部品10へのめっきは、例えば、該錫めっき浴に外部リード20となるリード基材22を浸漬したり、リード基材22に該錫めっき浴を噴流させる公知の方法によって付与可能であり、付与後の後処理も公知の方法と何等変わりがない。すなわち、予め錫めっき浴中に炭素微粒子28を投入する以外は、通常の錫めっき浴を用いた錫めっき膜26の付与と何等変わりがない。従って、これまで使用していた錫めっき膜26の付与に係る設備等をそのまま流用可能であり、本発明に係る錫めっき膜26を付与するにあたって必要とされる設備コストを殆ど考える必要がない利点がある。なお、錫めっき浴中に炭素微粒子28を分散しているため、錫めっき後の製品を洗浄した洗浄廃水中の浮遊固形物(SS)は増えるが、凝集沈殿、生物処理、すな濾過、活性炭処理等の一般的な処理施設を用いることで、SSの処理やBOD(生物化学的酸素要求量)を改善することができる。
【0036】
前記錫めっき膜26において、炭素微粒子28に無機材料30を担持させることで、無機材料30が錫めっき膜26を構成する金属錫結晶と炭素微粒子28との良好な密着性を発現するから、該炭素微粒子28を錫めっき膜26の応力によって確実に変形させて確実に応力を緩和し得る。また錫めっき膜26の膜厚を5μm〜25μmの範囲にすることで、被めっき部であるリード基材22の保護機能がピンホールによって低下するのを防止し得ると共に、リード基材22の切断・分離および成形等の加工に際して発生する錫金属バリを小さく抑え、該加工に支障を来たすのを防止し得る。更に、炭素微粒子28の平均粒子径を、被めっき部であるリード基材22に付与する錫めっき膜26の厚さ未満にすることで、ウィスカの生成がより好適に抑制される錫めっき膜26をリード基材22に付与することができる。
【0037】
そして、前述した錫めっき浴によって錫めっき膜26が付与された電子部品は、電子部品の使用時に錫めっき膜26からのウィスカの生成を抑制し得るから、該ウィスカに起因する短絡等の問題を回避し得る。
【0038】
(実験1)
本発明に係る錫めっき膜に関し、ウィスカの抑制作用について荷重試験および温度サイクル試験により検証した。錫めっき浴としては、以下の条件で各成分を調製して、1リットルの基本となる浴を得た。
・錫水溶液 472mL/L
・スルホン酸溶液 55mL/L
・添加物 40mL/L
※添加物は市販の錫めっき用の機能剤であって、例えば酸化剤や光沢剤が該当し、ウィスカの抑制作用に影響を与えない。
・水 433mL/L
【0039】
前記基本となる浴に対して、無添加(0g;比較例)、0.5g(実験例6)、2.5g(実験例1,実験例7および実験例8)、5.0g(実験例2)、10g(実験例3)、20g(実験例49)、30g(実験例5)の炭素微粒子を添加して、錫めっき浴を夫々得た。ここで、炭素微粒子の条件は以下の通りである。
・種類 粉砕活性炭(アモルファスカーボン)
・粒径 1.11μm
【0040】
実験1においては、錫めっき膜を付与する基材として、25mm×40mmの42材(鉄−ニッケル42%合金)を用いて、以下の条件で錫めっきを施した。なお、基材は、前処理としてアルカリ脱脂および酸処理が行ってある。そして、基材の表面に表1に示す膜厚で錫めっき膜を形成した。なお、各錫めっき浴は、錫めっき処理に際して弱攪拌されている。
・錫めっき浴の温度 45℃
・錫めっき浴のpH<1.0
・めっき領域 0.1dm
・電流密度 5.0A/dm
・めっき時間 2分
【0041】
実験1の荷重試験は、前述の各実施例1〜8または比較例の条件によって錫めっき膜26が付与された試験片20を、図6に示すように、下側荷重板32上に載置した状態で、上方から上側荷重板34で2000g/mm2の条件で荷重を加えて、常温下で500時間放置するものである。なお、前記両荷重板32および34は、何れもアクリル樹脂製である。
【0042】
実験1の温度サイクル試験は、前述の各実施例1〜8または比較例の条件で錫めっき浴で錫めっき膜が付与された試験片を320時間に亘って熱衝撃を加え、実施後の錫めっき膜26の表面状態を走査型電子顕微鏡(商品名 JSM−6380LA;JOEL製)で観察して、生成している最長のウィスカの長さを測定した。温度サイクル試験は、高温保持条件を125℃、30分、低温保持条件を−40℃、30分として、この高温保持条件および低温保持条件を夫々1回ずつ実施するサイクルを1サイクルとして、これを100サイクル繰り返すものである。なお、高温保持条件から低温保持条件への移行および低温保持条件から高温保持条件への移行は、何れも昇降温レート3℃/分で、55分の時間を掛けて実施した。
【0043】
荷重試験および温度サイクル試験の結果を以下の表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示すように、炭素微粒子を無添加の比較例と比べて炭素微粒子を添加した実験例1〜8についてウィスカ抑制効果が確認された。なお、実験例8は、温度サイクル試験ではウィスカが抑制されなかったが、荷重試験ではウィスカ抑制効果が確認されている。ここで、炭素微粒子の平均粒径が5.1μmの実験例7および炭素微粒子の平均粒径を10μmの実験例8から判るように、平均粒径が5μmを越えると極端にウィスカ抑制効果が低下しており、平均粒径が5μm以下の炭素微粒子を用いるのが好ましい。また、実験例4および5から判るように、錫めっき浴に対する炭素微粒子含有量が10g/Lを越えると10g/L以下の実験例1〜3と比べてウィスカ抑制効果が僅かに下がる。すなわち、錫めっき浴に対する炭素微粒子含有量を10g/L以下に設定するのが好ましい。更に、実験例1〜4と実験例7および8との対比から判るように、錫めっき膜に対する炭素微粒子の含有量に関しては、平均粒子径が小さいと、錫めっき膜中への導入量が増大し、ウィスカ抑止効果も大きくなる。
【0046】
図7は、実験例2の温度サイクル試験前の走査型電子顕微鏡により倍率3000倍で撮像した写真を示し、図8は、実験例2の温度サイクル試験後の走査型電子顕微鏡により倍率3000倍で撮像した写真を示す。図9は、比較例の温度サイクル試験前の走査型電子顕微鏡により倍率3000倍で撮像した写真を示し、図10は、比較例の温度サイクル試験後の走査型電子顕微鏡により倍率3000倍で撮像した写真を示す。実験1の結果から分かるように、比較例の純錫めっき膜ではウィスカ長が略25μmまで成長しているのに対し、実施例1の錫めっき膜については、ウィスカの成長が確認されなかった。すなわち、錫めっき膜に炭素微粒子を含有させることで、ウィスカの成長を防止し得ることが確認された。
【0047】
(実験例2)
本発明に係る錫めっき浴に関し、炭素微粒子のゼータ電位を測定した。
・錫めっき浴の条件:pH<1.0(基本となる浴の条件は、実験1と同じである。)
・炭素微粒子の条件:アモルファスカーボン(炭素含有率:79.37%)
・測定機器・測定条件:商品名Sysmex Zetasizer Nano ZSを用いて、pH<1.0で炭素微粒子のゼータ電位を測定した。
【0048】
図11に示すように、本発明に係る錫めっき浴において、炭素微粒子のゼータ電位がプラス側に振れているのが確認された。
【0049】
(変更例)
(1)炭素微粒子28の形状については、球状粒子が好ましいが、錫めっき膜26に加わる応力に対して変形可能であり、該応力を緩和できるものであれば、例えばドーナツ状の扁平粒子、金平糖状粒子その他不定形粒子を採用することが可能である。
(2)実施例で外部リード20の断面形状は矩形形状であったが、これに限定されるものではなく、例えば、円形状または六角形等の多角形状等、その他の形状であってもよい。
(3)実施例における電子部品10である半導体装置のパッケージは、SOP(Small Outline Package)である(図5参照)が、本発明はこれに限定されるものではない。例えばQFP(Quad Flat Package)等の表面実装型のパッケージや、DIP(Dual in Line Package)等の挿入型のパッケージの半導体装置にも適用可能であって、パッケージ形態について限定されない。
(4)実施例では、錫めっき膜26は外部リード20に付与されたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、プリント基板等の電子部品を搭載する部材に形成された配線を被覆するように錫めっき膜26を付与する等、通常の錫めっき膜と同様に幅広く用いることが可能である。
【符号の説明】
【0050】
22 リード基材(被めっき部),26 錫めっき膜,28 炭素微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被めっき部(22)に付与され、炭素微粒子(28)を含有している
ことを特徴とする錫めっき膜。
【請求項2】
前記炭素微粒子(28)は、平均粒径が錫めっき膜(26)の厚さ未満でかつ5μm以下のものが用いられる請求項1記載の錫めっき膜。
【請求項3】
前記炭素微粒子(28)は、100重量部の錫めっき膜(26)に対して、4〜20重量部含有される請求項1または2記載の錫めっき膜。
【請求項4】
前記炭素微粒子(28)は、窒素吸着比表面積が100〜2000m2/gの範囲にあるものが用いられる請求項1〜3の何れか一項に記載の錫めっき膜。
【請求項5】
炭素微粒子(28)が添加され、被めっき部(22)に錫めっき膜(26)を付与するのに用いられる
ことを特徴とする錫めっき浴。
【請求項6】
平均粒径が錫めっき膜(26)の厚さ未満でかつ5μm以下の前記炭素微粒子(28)が用いられる請求項5記載の錫めっき浴。
【請求項7】
前記炭素微粒子(28)は、1リットルの前記錫めっき浴に対して、2.5〜30グラム含有するよう調整される請求項6または7記載の錫めっき浴。
【請求項8】
窒素吸着比表面積が100〜2000m2/gの範囲にある前記炭素微粒子(28)が用いられる請求項5〜7の何れか一項に記載の錫めっき浴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図11】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−17066(P2011−17066A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163952(P2009−163952)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)独立行政法人科学技術振興機構・重点地域研究開発推進プログラム(平成20年〜21年度地域ニーズ即応型)の成果に係る特許出願
【出願人】(393007916)株式会社九州ノゲデン (10)
【出願人】(502451982)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】