説明

鍛造用潤滑剤の潤滑性評価方法

【課題】約1000℃程度の鍛造形態に近く再現性の高い鍛造用潤滑剤の潤滑性評価方法を提供する。
【解決手段】鍛造用潤滑剤の潤滑性評価方法において、後方押し出し方式の鍛造形態であり、ワークを組み込んだダイを加熱装置にて鍛造温度より高い温度に加熱した後プレス装置に設置する工程と、該プレス装置に設置した上記ワークを組み込んだダイが徐冷され鍛造温度に達した時点で、上記ワーク上方に上下進退自在に配置されたパンチと上記ワークとの接触面に介在する鍛造用潤滑剤を介して、上記パンチを用いて鍛造加工を開始する工程と、上記プレス装置の固定側に設置された引張圧縮両用ロードセルを用いて上記鍛造加工時の押し込み荷重および上記鍛造加工後の引き抜き荷重から選ばれた少なくとも1つの荷重を測定することにより上記潤滑剤の潤滑性を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鍛造用潤滑剤の潤滑性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鍛造加工に用いる潤滑剤は、ワークと金型との間の摩擦係数を下げ、ワークと金型とが直接接触することによる早期焼き付きを防止するために極めて重要な要素である。このため、この潤滑剤の選択は、種々の潤滑剤の中から成形条件やワーク材質に応じて最適なものを選択する必要がある。
実際の鍛造形態を想定した潤滑剤の潤滑性評価方法としては、リング圧縮試験法、前方押し出し法に対応した評価方法、あるいは後方押し出し法に対応した評価方法などがあり、他にも工夫された様々な提案がなされている。
【0003】
前方押し出し法に対応した評価方法としては、例えば潤滑剤を塗布したワークに一定押し込み量を与えたときの押し込み荷重を測定し、その塗布された潤滑剤の潤滑性を評価する方法が知られている(特許文献1)。また、後方押し出し法に対応した評価方法としては、例えば潤滑剤を塗布したワークに一定押し込み量を与えたときの押し込み荷重と引き抜き荷重を測定し、その塗布された潤滑剤の潤滑性を評価する方法が知られている(特許文献2)。
しかし、これらの方法は、押し込み荷重や引き抜き荷重を測定するために、プレス装置の上部駆動側にロードセルを設置しており、ワークを加熱して評価する際には熱がロードセルに伝わり易くロードセルを破損する、あるいは熱により測定精度が悪くなるおそれがあった。また、駆動側に固定した金型部品の重量が大きい場合、駆動時にロードセルに掛かる慣性力の影響により測定荷重が真の値から外れる危険性があった。
従来のロードセルを駆動側に設置する方法は、プレスサイズが大きく金型やロードセルなどの測定部品を設置するスペースが十分ある場合には改造が容易となり好ましい方法と言えるが、プレスサイズに対して比較的大きなサイズの金型を用いる場合には上記のような熱の問題が発生するため好ましくないと言える。
特に1000℃程度にまで加熱したワークを用いて熱間鍛造用潤滑剤を評価する場合、ロードセルの温度が上昇して破損する場合があり安定的に測定することができないという問題がある。
【特許文献1】特開2001−286967号公報
【特許文献2】特開2004−012296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記課題に対処するためになされたもので、プレス装置にロードセルを設置して潤滑剤の潤滑性を評価する方法において、プレスサイズに対して比較的大きなサイズの金型を用いても、約1000℃程度に加熱したワークからの熱によりロードセルが破損することなく、また駆動時の慣性力の影響が生じてもより正しい鍛造荷重を測定できる、鍛造用潤滑剤の潤滑性評価方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の鍛造用潤滑剤の潤滑性評価方法は、鍛造用潤滑剤の潤滑性評価方法において、後方押し出し方式の鍛造形態であり、ワークを組み込んだダイを加熱装置にて鍛造温度より高い温度に加熱した後プレス装置に設置する工程と、該プレス装置に設置した上記ワークを組み込んだダイが徐冷され鍛造温度に達した時点で、上記ワーク上方に上下進退自在に配置されたパンチと上記ワークとの接触面に介在する鍛造用潤滑剤を介して、上記パンチを用いて鍛造加工を開始する工程と、上記プレス装置の固定側に設置された引張圧縮両用ロードセルを用いて上記鍛造加工時の押し込み荷重および上記鍛造加工後の引き抜き荷重から選ばれた少なくとも1つの荷重を測定することにより上記潤滑剤の潤滑性を評価することを特徴とする。
また、上記ワークを組み込んだダイの徐冷速度を制御する手段を上記プレス装置に備えることを特徴とする。
また、上記パンチが温度制御手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の潤滑性評価方法は、ワークを鍛造温度より高い温度に加熱した後に徐冷して鍛造温度に達した時点で鍛造加工を開始するときに、プレス装置の固定側に設置された引張圧縮両用ロードセルを用いて鍛造加工時の押し込み荷重および加工後の引き抜き荷重から選ばれた少なくとも1つの荷重を測定するので、ロードセルが熱で損傷する危険性が低くなるとともに、十分に高精度な鍛造荷重測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の潤滑性評価方法に用いるプレス装置である評価装置の一例を図1および図2に示す。図1は評価装置の概要図であり、図2はワーク内にパンチが押し込まれ、後方押し出し方式の鍛造がなされた状態を示す図である。
評価装置は、ワーク1を収容するダイ2が架台8上に固定されている。ワーク1の上方にはワーク1に押し込まれるためのパンチ3が配置されている。パンチ3をワーク1内に押し込むことで、ダイ2の内面に沿ってパンチ3の進行方向と反対の方向にワーク1が押し出され、後方押し出し方式による鍛造加工がなされる。
【0008】
ダイ2は架台8上に固定され上方に開口部2aを有している。この開口部2aよりワーク1が収容される。ダイ2は取り外し自在に架台8に設置され、架台8にはヒータなどの加熱手段4と引張圧縮両用型ロードセル5が設けられている。また、ダイ2の下部近傍には熱電対などの温度センサー6が設けられて、放射温度計7と連動してダイ2の温度を制御する。放射温度計7はダイ2の温度を無接触で外部から監視している。
加熱手段4は、ダイ2を加熱すると共に、ダイ2を徐冷するときの徐冷速度を制御する。このため、ヒータの容量を変化させる、あるいは場合によっては冷却装置を加熱手段4に設ける。
架台8上へのダイ2の固定は、特に限定されるものではないが、差し込んで半回転させる鍵穴のようなもの、抜き止めピン、または、ねじなどによる固定が例として挙げられる。
【0009】
引張圧縮両用型ロードセル5は、加熱手段4よりも下部であって、架台8の最下部に設置されている。また、加熱手段4とロードセル5との間に熱絶縁部8’を設けることができる。
ロードセル5を架台8の最下部に設置することにより、加熱手段4の熱がロードセル5に伝達され難くなるので、循環水による冷却機構をロードセル5に設置する必要がなくなり、構造が単純になる。
また、ロードセル5は、引張圧縮両用型ロードセルであるので、ワーク1に加えられる押し出し、押し込み、据え込み、密閉鍛造などの圧縮荷重と、引き抜き、延伸などの引張荷重を測定することが可能である。さらに、ロードセル5が固定側に設置されているので、慣性力の影響を受けることなく正確に鍛造荷重を測定することができる。
従来のようなロードセルを可動側に設置する方法は、下死点状態の駆動側部品(スライド)から固定側部品(ボルスタ)までの長さ寸法(ダイハイト)内にロードセルや金型などの測定部品を配置しなければならないが、本発明のロードセルを固定側に設置する場合は固定側部品(ボルスタ)の更に下の空間(駆動側とは反対側に位置する空間、通常のプレスはこの空間は空洞となっている)を利用して、比較的大きな断熱材やロードセルを冷却するための装置を配置することができ、プレスサイズに対し比較的大きなサイズの金型であっても用いることができる。
【0010】
パンチ3は、図1の図面上、ワーク1上方に上下進退自在に配置される。また、パンチ3の温度を制御するための加熱手段4’および温度センサー6が設けられている。
なお、ダイ2とパンチ3との形態は、実際の後方押し出しより鍛造されるカップ型やステム型に応じて設定できる。例えばダイ2の平面視形状としては、真円、楕円などの円形、四角形、三角形などの多角形に設定でき、パンチ3の断面形状もこの平面視形状に対応して設定できる。
【0011】
上記評価装置を用いる鍛造用潤滑剤の潤滑性評価方法について説明する。
ダイ2の中にワーク1を収容配置する。ワーク1の形状はダイ2の内面形状と嵌合できる形状とする。
ワーク1が収容されたダイ2を鍛造温度以上に加熱する。加熱手段としては、ダイ2を架台8より取り外して外部恒温槽内で加熱する、架台8に固定したままでヒータなどの加熱手段4により加熱するなどの方法を採用できる。
ワーク1を外部恒温槽内で加熱する場合には、恒温槽から取り出し架台に取り付けるまでの作業時間でダイ2が徐冷されるため、ワーク1の加熱温度は、鍛造温度より30℃以上高い温度であることが好ましい。
本発明の評価方法は、ワーク1をダイ2内に収容して加熱するため、全体として熱容量が大きく、外部加熱後、架台8に設置しても即座に冷却されることはない。また、放射温度計7でワーク1を監視し、所定の鍛造温度となった時点で鍛造を開始できるので、再現性の高い評価方法となる。
さらに、ロードセル5を架台8の最下部に設置しているので、特にロードセル5を冷却するための冷却機構を設置しなくとも1200℃に加熱したワークで潤滑剤の評価を行なうことができ、安定した押し込み荷重及び引き抜き荷重の測定が可能であった。
【0012】
鍛造温度以上に加熱されたワーク1は、所定の鍛造温度まで徐冷される。ダイ2の温度を制御するための加熱手段4が架台8に設置されているので、徐冷速度を遅く制御できる。このため、熱容量が小さい小型のワークとダイであっても正確に冷却速度を制御でき、正確な鍛造開始温度を設定できる。
また、ワーク1の結晶状態と鍛造温度とに関連がある場合であっても、冷却速度を制御することで、予め測定された冷却速度と結晶状態との関連をみながら鍛造することができる。
さらに、鍛造用潤滑剤の潤滑特性の温度依存性などについても測定できる。
【0013】
ワーク1が所定の鍛造温度に達した時点で、パンチ3を用いて鍛造加工を開始する。パンチ3は加熱手段4’により鍛造温度に設定する。
本評価方法における鍛造温度は現場の工場等での鍛造加工を模擬して設定できる。例えば、実際の連続鍛造工程においては初期のパンチ温度は常温であっても、連続して鍛造を繰り返すとパンチ温度は摩擦熱と鍛造エネルギーにより発熱し温度が数100℃となる。このような実際の鍛造条件を本発明の評価方法ではパンチ温度を制御することにより再現することができる。
【0014】
評価するための鍛造用潤滑剤は、鍛造加工の開始前に、パンチ3とワーク1との接触面に介在させる。具体的にはパンチ3またはワーク1の表面に評価対象の鍛造用潤滑剤を塗布する。あるいはパンチ3およびワーク1の両表面に評価対象の鍛造用潤滑剤を塗布する。塗布方法は刷け塗り、スプレ塗布、ディッピング塗装等を用いることができる。塗布量は、実際の後方押し出し方式の鍛造形態により、潤滑剤の表面拡大比などを考慮して定めることができる。塗布時期は、鍛造加工の開始直前、徐冷開始時など、鍛造開始前であればよい。
【0015】
パンチ3とワーク1との接触面に評価対象の鍛造用潤滑剤を塗布して、パンチ3を図1に示す上下矢印の下方向に移動させることで、パンチ3をワーク1内に押し込む。図2に示すように、パンチ3の押し込み量に応じてワーク1はダイ2の内壁に沿って上部へ押し出されていく。このときの押し込み荷重がロードセル5により測定される。押し込み荷重が大きい場合潤滑性に劣り、押し込み荷重が小さい場合潤滑性に優れることになる。このように、鍛造加工時の押し込み荷重を測定することにより鍛造用潤滑剤の潤滑性を評価することができる。
【0016】
本発明においては、ダイ2が架台8に固定できるので、該鍛造加工後にパンチ3の引き抜き荷重を測定することができる。この方法により、実際の鍛造加工に即した鍛造用潤滑剤の潤滑性を評価できる。
また、プレス装置の固定側の最下部に引張圧縮両用ロードセルを設置するので、ロードセルが熱で損傷する危険性が低くなるとともに、十分に高精度な鍛造荷重測定が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明の潤滑性評価方法は、約1000℃程度の鍛造温度条件を評価できるので、鍛造用潤滑剤の評価に利用できると共に、ワークと潤滑剤と鍛造温度条件とを変数とできるので鍛造温度条件の評価にも応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】評価装置の概要図である。
【図2】後方押し出し方式の鍛造がなされた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
1 ワーク
2 ダイ
3 パンチ
4 加熱手段
5 引張圧縮両用型ロードセル
6 温度センサー
7 放射温度計
8 架台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍛造用潤滑剤の潤滑性評価方法において、後方押し出し方式の鍛造形態であり、ワークを組み込んだダイを加熱装置にて鍛造温度より高い温度に加熱した後プレス装置に設置する工程と、該プレス装置に設置した前記ワークを組み込んだダイが徐冷され鍛造温度に達した時点で、前記ワーク上方に上下進退自在に配置されたパンチと前記ワークとの接触面に介在する鍛造用潤滑剤を介して、前記パンチを用いて鍛造加工を開始する工程と、前記プレス装置の固定側に設置された引張圧縮両用ロードセルを用いて前記鍛造加工時の押し込み荷重および前記鍛造加工後の引き抜き荷重から選ばれた少なくとも1つの荷重を測定することにより前記潤滑剤の潤滑性を評価することを特徴とする鍛造用潤滑剤の潤滑性評価方法。
【請求項2】
前記ワークを組み込んだダイの徐冷速度を制御する手段を前記プレス装置に備えることを特徴とする請求項1記載の鍛造用潤滑剤の潤滑性評価方法。
【請求項3】
前記パンチが温度制御手段を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の鍛造用潤滑剤の潤滑性評価方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−20082(P2009−20082A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185118(P2007−185118)
【出願日】平成19年7月16日(2007.7.16)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】