説明

鍵盤ハーモニカのピックアップ装置

【課題】自然な音質と十分な音量が得られ、全音域においてバランスが良く、鍵盤ノイズの少ない鍵盤ハーモニカのピックアップ装置を提供する。
【解決手段】鍵盤ハーモニカの音を電気信号に変換するためのピックアップ装置として、気流により振動音を発する複数個のリードを装備した空気箱17の一部に空気箱内外を通じる通気孔18を形成し、上記通気孔を通じて空気箱内部に生じている空気振動を受ける位置に振動板19を配置し、上記振動板による空気の振動を電気信号に変換するマイクロフォンを空気箱外部に取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤ハーモニカの音を電気信号に変換するためのピックアップ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メロディオン(商標)などと呼ばれる鍵盤ハーモニカは、吹き口に呼気を吹き込むと気流が鍵盤に割り当てられたリードを通り、鍵盤によって開閉する弁から排気して音が出る機構を持つ楽器である。音響楽器であるため例えば音量の上限等には限界があり、限界を越えるには電気的信号に変換する処理が必要になる。
【0003】
空気振動音を電気信号に変換する方法としては、1)外部からマイクロフォンをあてること、2)内部にピエゾ素子を貼り付け電気信号として抽出すること、3)内部にマイクロフォンを取り付けること、等の方法があるが、1)の方法は楽器本来の自然な音質が得られるものの、音量が小さくハウリングを起こし易いこと、2)の方法は音量が大きいが音質が変わり不自然で、また打鍵音などのノイズを拾ってしまうこと、3)の方法は本体内部で聞こえる音そのものであり、打鍵音などのノイズが多く、また1個だけではバランスを取るのが難しく、複数個のマイクロフォンを使用すると音がぼけた感じとなり好ましくないことなど問題がある。
【0004】
これに対し、隣接する技術と考えられるものに特開平9−274486号のハーモニカ型鍵盤楽器に関する発明がある。同発明はハーモニカ型の手に持って操作する鍵盤楽器であるが、弾き語りを可能にするという目的からも明らかなように、呼気を吹き込んで音を出すものではなく単に形が類似しているに過ぎず、音階に対応した鍵盤を有し擬音を発するものであるので、鍵盤ハーモニカの電気的信号に変換する処理に応用できるものではない。一方、米国特許第4497234号は気鳴楽器のための音響アタッチメントに関するもので、電子的音響ピックアップ素子を使用するが、ハーモニカに使用する場合にはその排気口全部をカバーする部材を必要とし、非常に大きく扱いにくいものとなる。
【0005】
【特許文献1】特開平9−274486号
【特許文献2】米国特許第4497234号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記の点に着目してなされたもので、その課題は、自然な音質と十分な音量が得られ、全音域においてバランスが良く、鍵盤ノイズの少ない鍵盤ハーモニカのピックアップ装置を提供することである。また、本発明の他の課題は、小型で取り扱い易い鍵盤ハーモニカのピックアップ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するため、本発明は、鍵盤ハーモニカの音を電気信号に変換するためのピックアップ装置について、気流により振動音を発する複数個のリードを装備した空気箱の一部に空気箱の内外を通じる通気孔を形成し、上記通気孔を通じて空気箱内部に生じている空気振動を受ける位置に振動板を配置し、上記振動板による空気振動を電気信号に変換するマイクロフォンを空気箱外部に取り付けた構成を有するものとするという手段を講じたものである(請求項1記載の発明)。
【0008】
本発明における鍵盤ハーモニカのピックアップ装置は、気流により振動音を発する複数個のリードを装備した空気箱の一部に、空気箱の内部に通じる通気孔を形成することにより空気振動を取り出すものである。すなわち、本発明は鍵盤ハーモニカにおいて作り出された振動音を取り出してピックアップする方式を取り、それにより自然な音質を得るものである。
【0009】
上記空気箱が例えば低音部から高音部に到る多数のリードから成るリードプレートを装備している場合、通気孔を高音部の外側の位置に形成することが望ましい(請求項2)。空気箱内部では楽器音に従った空気振動が起きており、空気がつながっていれば空気箱のどの位置でも音を拾うことができる。但し特定のリードの近くではそのリードの音を直接拾うことになるのでどのリードからも離れた位置で音を拾うことが望ましい。その際に、低音の振動の方がより遠くまで伝わりやすく、従って上記のように高音部の先で空気振動を拾うことにより良いバランスを得ることができると判断されるので、上記のように構成されているものである。
【0010】
上記に関連して説明を補充すると、空気箱内部にマイクロフォンを配置した場合に大きい音量を得ることができるのは既に説明したとおりであるが、空気箱内部の湿気によりマイクロフォンもダメージを受け易く、高音域が落ちてこもりがちな音になる傾向がある。これに対し本発明においては、空気箱外部から、そこに開けられた通気孔を通して音を拾うことができ、湿気によるダメージの問題を被ることなく、振動板の大きさ、厚さ、材質等により音質を補正することができ、なおかつ、空気箱内部にマイクロフォンを配置した構成に近い音量を得ることができるものである。
【0011】
振動板は、上記通気孔を通じて、空気箱内部に生じている空気振動を受ける位置に配置する。従って本発明では、空気箱に開けた通気孔を、振動板を用いて閉鎖した上で外部にて取り出すことができるので、鍵盤ハーモニカとしての発音構成は空気箱内部で完結している。しかも、空気箱内部にて作り出された振動音を取り出すピックアップ方式を取るので、湿気の影響をマイクロフォンに及ぼすこともない。
【0012】
振動板としては、ゴム又は合成樹脂より成るシート状の部材を使用する。ゴム又は合成樹脂としては、弾性を有するシート材という条件を満たすものであればどのようなものでも良いわけであるが、例えば天然ゴム、クロロプレンラバー(CR)等の合成ゴム、或いはポリエチレンテレフタレート(PET)、ウレタン等の合成樹脂、布、紙、その他マイクロフォンのダイヤフラムや、スピーカーのエッジに使われる材料等を使用することができる。なお、振動板は空気箱内部の空気が外部に漏れ出さないように、気密状態で装着するものとし、さらに振動板の振動が阻害されたり、作動不良を起こしたりしないようにすることも重要である。また、振動板は1枚のシートに限らず、一様な構造とも限らない。例えばスピーカーのコーンとエッジのように、中央部を硬質とし、その周囲を軟質とした構造を取ることも可能である。
【0013】
そして上記振動板による空気振動を電気信号に変換するマイクロフォンを、上記振動板から実質上独立した位置にて楽器本体側に取り付けて構成する。また、振動板は通気孔を形成した空気箱の外側に気密的に固定され、マイクロフォンは上記振動板に対して、微小間隔をおいて対面するように配置することが望ましい(請求項3)。マイクロフォンの種類については任意に選択することができるが、一般的に言えば、ノイズを拾い易いコンデンサーマイクよりもダイナミックマイクが好適である。
【0014】
さらに、マイクロフォンは空気箱に対して独立的に設けられている本体側の部材に、サスペンションを介して取り付けることが望ましい(請求項4)。サスペンションはマイクロフォンに伝えられようとする、望ましくない振動を緩衝し除去する手段であり、鍵盤ノイズを低減するうえで効果がある。このためにサスペンションに保持されたマイクロフォンの可動面が振動板面とほぼ平行な配置を取るとともに、上記ほぼ平行な配置を保って緩衝作用が行なわれるようにする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は以上のように構成されかつ作用するものであるから、自然な音質と十分な音量が得られ、かつまた全音域においてバランスが良く、鍵盤ノイズの少ない鍵盤ハーモニカのピックアップ装置を提供することができる。また、本発明によれば、鍵盤ハーモニカ本体の空気箱内部の空気振動を空気箱に設けた振動板に伝達し、その振動をマイクロフォンで拾う構成としたので、鍵盤ハーモニカの大きさには殆ど影響せず、本装置を設けない場合と同様の小型で取り扱い易いピックアップ装置付き鍵盤ハーモニカを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下図示の実施形態を参照して、本発明に係るピックアップ装置を適用した鍵盤ハーモニカ10について、より詳細に説明する。図1は本発明に係るピックアップ装置を適用した鍵盤ハーモニカ10の外観図であり、11は楽器本体、12は鍵盤、13は着脱式のマウスピース、13aはその着脱部を示している。この鍵盤ハーモニカ10は、マウスピース13を介して呼気を吹き込むことで、気流が鍵盤12に割り当てられたリード14を通り、鍵盤12によって開閉する弁12aから排気して音を発する、公知の機構を持つものである。
【0017】
図示のものは、複数個のリード14を有するものとして、図3に詳細に示されているように低音部、中音部及び高音部のリードから成るリードプレート15を装備しており、そのリードプレート15は空気箱17の上面を気密に覆っている。この空気箱17の、高音部リードプレート16の外側に位置する端部に、通気孔18が形成されているものである(図4A、B及び図7参照)。
【0018】
通気孔18は、空気箱内部に生じている空気振動を出来る限り有効に拾うために、空気箱17の横断面形状に適合した横長の形態の開口を有している。なお、開口面積については小さくてもある程度の空気振動を拾い上げることはできるが、疎密波である音波をエネルギーとして有効に利用するためには、空気箱17の横断面積に対して構造強度を保持し得る範囲において、十分に大きい面積を有していることが望ましい。
【0019】
空気箱17に通気孔18を設けるとともに、通気孔18を通じて空気箱内部に生じている空気振動を受ける位置に振動板19を配置するために、空気箱17の上記端部に振動板取り付け部20が設けられている(図7A)。振動板取り付け部20は、空気箱17の長手方向に対してほぼ直角に立ち上がる方向に配置された平面部分21とその外縁を取り囲む縁枠部分22を有しており、その縁枠部分22に振動板19が全周で接着され、気密に取り付けられている(図7B)。
【0020】
上記の縁枠部分22は、平面部分21よりも僅かな段差をもって形成されており、従って振動板19は、通気孔18が開口している平面部分21から僅かな段差分だけ離れて位置することになる。23は突起であり、振動板19が平面部分21に付着したり、振動板19の振動が阻害されたりすることを防止するために、振動板19のほぼ中央に位置する平面部分21に設けられている。
【0021】
上記振動板19による空気の振動を電気信号に変換するために、マイクロフォン24が空気箱外部に取り付けられている。上記マイクロフォン24は、振動板19に対して微小間隔を設けて対面するように配置され、かつ振動板19とほぼ平行な配置を保って緩衝作用が行なわれるように本体側の部材である側面カバー29に、サスペンション25を介して取り付けられている(図6参照)。なお、24aは端子を示しており、マイクロフォンの背面にある。
【0022】
上記振動板19、サスペンション25及びマイクロフォン24の個々のものは、図5に例示された形態を有している。この内、振動板19は、厚さ0.5ミリメートル程度のクロロプレンラバー(CR)製シートより成り、通気孔18に対して十分に大きい面積を持たせた長方形状に形成されている。また、サスペンション25は振動吸収性の良いゴム材を用いて形成され、マイクロフォン24を嵌めて取り付けるリング部26とそこから均等な角度間隔で外方へ突き出した3個の支持脚27を有し、各脚端部28にて上記側面カバー29に形成されている支持部30に弾力的に固定されている。マイクロフォン24にはダイナミックマイクロフォンを使用し、その可動面が振動板面とほぼ平行な配置を取るように上記リング部26に固定されている。
【0023】
マイクロフォン24の上記端子24aには出力用にコード31が接続されており、それにより信号電流は基板32に装備された電子装置を経て、ジャック33において接続される外部の増幅器を含む機器に出力されることになる(図6参照)。図6において、34はボリューム、35はそのつまみであり音量のコントロールを行なう。
【0024】
上記の例において、演奏者がマウスピース13により呼気を鍵盤ハーモニカ10に吹き込むとともに何れかの鍵盤12が押されてリード14が振動し、空気箱17の内部に空気振動が発生すると、通気孔18にて空気箱17の高音部側の端部にて内部とつながっている振動板19がその空気振動により振動する。振動板19の振動はマイクロフォン24に捕捉され、ジャック33を介して本装置を接続している機器に信号として送信され、上記機器のスピーカーから楽音として発せられる。
【0025】
本発明に係る装置により、このようにして作り出された鍵盤ハーモニカ10の音は、低音域ないし高音域の全音域においてバランスの良いものであり、使用している鍵盤ハーモニカ10の特徴を良く再現することができる。また、空気箱17を密閉し内部の空気振動を振動板19により取り出す手段を取っているので、空気箱内部の湿気などの影響を被ることなく空気振動だけをマイクロフォン24に取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るピックアップ装置を適用した鍵盤ハーモニカを示すもので、Aは一部を省略した平面図、B、Cは左右両端の側面図である。
【図2】同上の横断面図である。
【図3】同じく縦断面図である。
【図4】本発明に使用する空気箱を、一部を省略して示すもので、Aは平面図、Bは縦断面図である。
【図5】本発明に係るピックアップ装置の構成部品を示すもので、Aは振動板の、Bはサスペンションの、Cはマイクロフォンの、各側面図と正面図である。
【図6】本発明に係るピックアップ装置の要部を示す斜視図である。
【図7】同じく本発明に係るピックアップ装置の要部を示すもので、Aは振動板取り付け部を示す側面図、BはAに振動版を取り付けた状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0027】
10 鍵盤ハーモニカ
11 楽器本体
12 鍵盤
13 マウスピース
14 リード
15 リードプレート
16 高音域リードプレート
17 空気箱
18 通気孔
19 振動板
20 振動板取り付け部
21 平面部分
22 縁枠部分
23 突起
24 マイクロフォン
25 サスペンション
26 リング部
27 支持脚
28 脚端部
29 側面カバー
30 支持脚
31 コード
32 基板
33 ジャック
34 ボリューム
35 つまみ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵盤ハーモニカの音を電気信号に変換するためのピックアップ装置であって、
気流により振動音を発する複数個のリードを装備した空気箱の一部に空気箱の内外を通じる通気孔を形成し、上記通気孔を通じて空気箱内部に生じている空気振動を受ける位置に振動板を配置し、上記振動板による空気の振動を電気信号に変換するマイクロフォンを空気箱外部に取り付けた構成を有する鍵盤ハーモニカのピックアップ装置。
【請求項2】
空気箱は低音部から高音部に到る多数のリードから成るリードプレートを装備しており、通気孔は、高音部の外側の位置に形成されている請求項1記載の鍵盤ハーモニカのピックアップ装置。
【請求項3】
振動板は通気孔の外の空気箱に気密的に固定され、上記振動板に対して微小間隔をおいて対面するようにマイクロフォンが配置されている請求項1記載の鍵盤ハーモニカのピックアップ装置。
【請求項4】
マイクロフォンは、空気箱に対して独立的に設けられている本体側の部材に、サスペンションを介して取り付けられている請求項1記載の鍵盤ハーモニカのピックアップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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