説明

鍵盤楽器の回動体支持構造

【課題】乾湿にかかわらず、回動体の円滑で安定した動作を確保することができる鍵盤楽器の回動体支持構造を提供する。
【解決手段】押鍵に伴って回動する回動体3を支持する鍵盤楽器の回動体支持構造であって、フレンジ23と、このフレンジ23および回動体3の一方に設けられ、互いに対向する二股状の2つの腕部24a、24aと、フレンジ23および回動体3の他方に設けられ、2つの腕部24a、24aの間に係合する係合部23aと、を備え、2つの腕部24a、24aと係合部23aとの係合により、回動体3がフレンジ23に回動自在に支持されており、2つの腕部24a、24aの間の間隔を保持するために、2つの腕部24a、24aにまたがるように固定された間隔保持部材28を、さらに備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押鍵に伴って回動する回動体を支持する鍵盤楽器の回動体支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の鍵盤楽器の回動体支持構造として、例えば特許文献1に開示されたグランドピアノのハンマーの支持構造が知られている。ハンマーは、各鍵に対応するように設けられており、ハンマーシャンクフレンジ(以下、単に「シャンクフレンジ」という)に回動自在に支持されている。各ハンマーは、細長い棒状の木製のハンマーシャンクと、このハンマーシャンクの後端部に固定されたハンマーヘッドなどで構成されている。ハンマーシャンクの前端部には、互いに平行な二股状の左右2つの腕部が形成されている。また、シャンクフレンジは、合成樹脂の成形品で構成されており、ハンマーシャンクレールにねじ止めされている。シャンクフレンジの後端部には、後方に突出する係合部が設けられており、この係合部の両側に、ハンマーシャンクの2つの腕部が係合している。また、両腕部および係合部には、ピンが水平に通されており、このピンは、係合部に固定される一方、両腕部に対して回動自在になっている。これにより、ハンマーは、シャンクフレンジと一体のピンを介して、シャンクフレンジに回動自在に支持されている。また、シャンクフレンジの係合部の両側面は、互いに平行に形成されており、ハンマーシャンクの両腕部の内側面に、若干の隙間をもって対向している。
【0003】
以上の構成により、鍵が押鍵されると、アクションが作動することによって、ハンマーシャンクが突き上げられることにより、ハンマーが上方に回動し、ハンマーヘッドが弦を打弦することによって、ピアノ音が発生する。また、このハンマーの回動時、ハンマーシャンクが、その腕部およびシャンクフレンジの係合部で案内されることにより、ハンマーは、左右にぶれることなく回動する。
【0004】
しかし、ハンマーシャンクは木製であるため、ピアノの使用環境、特に乾湿の影響を受けやすく、両腕部間の寸法の変化により、ハンマーの円滑で安定した回動動作を得られなくなるおそれがある。具体的には、乾燥による収縮によって、ハンマーシャンクの両腕部間の寸法が小さくなると、両腕部と係合部の間の隙間がなくなり、ハンマーが円滑に回動しないような動作不良(以下「スティック」という)を生じることがある。逆に、湿潤による膨張によって、両腕部間の寸法が大きくなると、両腕部と係合部の間の隙間が広がり、その結果、ハンマーが回動する際に、左右にぶれたり、がたつきが生じたりすることにより、打弦を適切に行えないおそれがある。
【0005】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、乾湿にかかわらず、回動体の円滑で安定した動作を確保することができる鍵盤楽器の回動体支持構造を提供することを目的とする。
【0006】
【特許文献1】特開2005−77455号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、押鍵に伴って回動する回動体を支持する鍵盤楽器の回動体支持構造であって、フレンジと、このフレンジおよび回動体の一方に設けられ、互いに対向する二股状の2つの腕部と、フレンジおよび回動体の他方に設けられ、2つの腕部の間に係合する係合部と、を備え、2つの腕部と係合部との係合により、回動体がフレンジに回動自在に支持されており、2つの腕部の間の間隔を保持するために、2つの腕部にまたがるように固定された間隔保持部材を、さらに備えていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、例えばハンマーなどの回動体、およびフレンジの一方に設けられ、互いに対向する二股状の2つの腕部の間に、他方に設けられた係合部が係合することにより、回動体がフレンジに回動自在に支持されている。これにより、回動体は、押鍵に伴い、2つの腕部および係合部で案内されながら回動する。また、2つの腕部には、これらにまたがるように、間隔保持部材が固定されており、この間隔保持部材によって両腕部が拘束され、それにより、特に、両腕部が互いに対向する方向の変位が抑制される。これにより、両腕部間の寸法を安定して維持できることによって、両腕部の内側面と係合部の間の隙間の大きさも維持でき、その結果、乾湿によるスティックの発生および回動体が回動する際のぶれやがたつきを防止することができる。したがって、乾湿にかかわらず、回動体の円滑で安定した動作を確保することができる。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤楽器の回動体支持構造において、回動体は、前後方向に延びるハンマーシャンクを有するとともに弦を打弦するハンマーであり、ハンマーシャンクは、木材で構成され、前端部には左右の2つの腕部が設けられ、フレンジは、ハンマーシャンクを支持するハンマーシャンクフレンジであり、ハンマーシャンクフレンジは、後端部に係合部が設けられていることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、回動体が、前後方向に延びる木製のハンマーシャンクを有するハンマーであり、ハンマーシャンクの前端部には、左右2つの腕部が設けられている。一方、フレンジは、ハンマーシャンクを支持するハンマーシャンクフレンジであり、その後端部に、ハンマーシャンクの両腕部間に係合する係合部が設けられている。したがって、前記間隔保持部材により、ハンマーシャンクの両腕部間の寸法が安定して維持されるので、ハンマーは、円滑に安定して回動することができる。それにより、ハンマーによる打弦を適切に行えることによって、良好な音を発生させることができる。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の鍵盤楽器の回動体支持構造において、間隔保持部材は、ハンマーシャンクの2つの腕部の上面および下面の少なくとも一方に、2つの腕部にまたがるように貼り付けられた合成樹脂であることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、間隔保持部材としての合成樹脂が、ハンマーシャンクの2つの腕部の上面および下面の少なくとも一方に、2つの腕部にまたがるように貼り付けられている。一般に、合成樹脂は、乾湿に対する寸法安定性が高いので、剛性が比較的高い合成樹脂を間隔保持部材として採用することにより、乾湿によるハンマーシャンクの両腕部の変位を有効に抑制することができる。また、上記合成樹脂の両腕部への取り付けは、貼り付けによって行われるので、既存の鍵盤楽器のハンマーシャンクへの取り付けを後付けで容易に行うことができる。それにより、既存の鍵盤楽器において、ハンマーの円滑で安定した回動を確保することができる。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の鍵盤楽器の回動体支持構造において、合成樹脂がフェノールバッカーであることを特徴とする。
【0014】
一般に、フェノールバッカー(フェノール樹脂含浸紙)は、高い剛性を有するとともに、乾湿に対する高い寸法安定性を有している。また、フェノールバッカーは、比較的安価であるとともに、木材に対する接着性が高いという特性を有する。したがって、上記の合成樹脂として、フェノールバッカーを採用し、これを両腕部に貼付けによって取り付けることにより、円滑に安定して回動するハンマーの支持構造を、低コストで容易に実現することができる。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項2に記載の鍵盤楽器の回動体支持構造において、間隔保持部材は、ハンマーシャンクの2つの腕部の内側面間に固定され、ハンマーシャンクフレンジの係合部に形成されたピン孔に回動自在に係合するピンであることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、間隔保持部材としてのピンが、ハンマーシャンクの2つの腕部の内側面間に固定され、ハンマーシャンクフレンジの係合部に形成されたピン孔に回動自在に係合している。これにより、ハンマーは、ハンマーシャンクと一体のピンを介して、ハンマーシャンクフレンジに回動自在に支持される。また、ピンが2つの腕部間に固定されているので、両腕部の変位が拘束される。これにより、両腕部間の寸法を安定して維持できることによって、両腕部の内側面と係合部の間の隙間の大きさも維持でき、その結果、ハンマーの円滑で安定した動作を確保することができる。また、一般に、ハンマーシャンクとこれを支持するハンマーシャンクフレンジには、ピンが通されるので、既存のピンを、間隔保持部材として有効に利用することができる。また、請求項3および4と異なり、間隔保持部材としての合成樹脂が不要な分、ハンマーの支持構造を、より低コストで実現することができる。
【0017】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の鍵盤楽器の回動体支持構造において、滑性および耐摩耗性を有する材料で構成され、ピン孔に取り付けられた筒状の軸受を、さらに備えていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、滑性および耐摩耗性を有する材料で構成された筒状の軸受が、係合部のピン孔に取り付けられているので、ハンマーシャンクと一体のピンが、ピン孔に対し、長期間にわたって円滑に回動することができる。その結果、ハンマーの円滑で安定した回動を、長期間にわたって確保することができる。また、軸受は、鍵盤楽器に一般に用いられる羊毛製のブッシングクロスよりも硬い材料で構成することが好ましい。この場合には、ハンマーが回動する際に、ピンが軸受の内周面を押圧しても、その内周面の変形を抑制することができ、それにより、ハンマーは、ぶれやがたつきが生じることなく、より安定して回動することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態による回動体支持構造を用いたグランドピアノの鍵盤1、アクション2およびハンマー3などを、離鍵状態において示している。
【0020】
鍵盤1は、グランドピアノの左右方向に並んだ多数の鍵1a(1つのみ図示)によって構成されている。各鍵1aは、前後方向(図1の左右方向)に延び、その中央において、棚板上の筬に立設されたバランスピン(いずれも図示せず)を中心として、回動自在に支持されている。
【0021】
アクション2は、鍵盤1の後部の上方に設けられており、ウィッペン11、ジャック12およびレペティションレバー13などを、鍵1aごとに備えている。ウィッペン11は、前後方向に延び、後端部において、ウィッペンフレンジ14に支持されている。このウィッペンフレンジ14は、上下方向に延びており、左右方向に間隔を隔てて配置された複数のブラケット15(図1では1つのみ図示)に渡されたウイッペンレール16にねじ止めされている。また、ウィッペンフレンジ14の上端部には、二股状の左右2つの腕部14a、14a(図1では左側のもののみ図示)が設けられている。これらの両腕部14a、14a間には、ウィッペン11の後端部が係合し、これらにセンターピン17が水平に通されている。これにより、ウイッペン11は、センターピン17を中心として、ウィッペンフレンジ14に回動自在に支持されている。また、ウィッペン11の前後方向の中央部には、下方に突出するヒール部11aが設けられている。ウィッペン11は、このヒール部11aを介して、鍵1aの後部に設けられたキャプスタンスクリュー1bに載置されている。また、ウィッペン11の前端部には、ジャック12が支持されている。
【0022】
ジャック12は、上下方向に延びるハンマー突上げ部12aと、その下端部から前方にほぼ直角に延びるレギュレーティングボタン当接部12bとにより、側面形状がL字状に形成されている。ウィッペン11の前端部には、二股状の左右2つの腕部11b、11b(図1では左側のもののみ図示)が設けられている。これらの両腕部11b、11b間には、ジャック12の角部が係合し、これらにセンターピン18が水平に通されている。これにより、ジャック12は、センターピン18を中心として、ウィッペン11の前端部に回動自在に支持されている。また、ハンマー突上げ部12aの上端部は、レペティションレバー13の後述するジャック案内孔13aに係合するとともに、レペティションレバー13に載置された後述するシャンクローラ26と若干の間隔を存して対向している。さらに、ジャック12は、後述するレペティションスプリング22によって、復帰方向(図1の反時計方向)に付勢されている。
【0023】
レペティションレバー13は、斜め前上がりに前後方向に延び、ウィッペン11の前後方向の中央部から上方に突出するレバーフレンジ部21に支持されている。このレバーフレンジ部21の上端部には、二股状の左右2つの腕部21a、21a(図1では左側のもののみ図示)が設けられている。これらの両腕部21a、21a間には、レペティションレバー13の中央部が係合し、これらにセンターピン19が水平に通されている。これにより、レペティションレバー13は、センターピン19を中心として、レバーフレンジ部21の上端部に回動自在に支持されている。また、レペティションレバー13は、レバーフレンジ部21に取り付けられたレペティションスプリング22によって、復帰方向(図1の反時計方向)に付勢されている。さらに、レペティションレバー13には、その前部に、上下方向に貫通するジャック案内孔13aが形成され、上面のジャック案内孔13a付近に、シャンクローラ26を介して、ハンマー3が載置されている。
【0024】
図2は、ハンマー3およびこれを支持するハンマーシャンクフレンジ(以下、単に「シャンクフレンジ」という)23を示している。ハンマー3は、前後方向に延びるハンマーシャンク24、およびその後端部に設けられたハンマーヘッド25を有しており、ハンマーヘッド25は、上方に張られた弦S(図1参照)に対向している。ハンマーシャンク24は、木材で構成されており、前端部の左右方向の幅が他の部分よりも広く、その前端部の上面および下面が互いに平行な平面で構成されている。また、図3に示すように、ハンマーシャンク24の前端部には、二股状の左右2つの腕部24a、24aが設けられている。両腕部24a、24aは、互いに左右方向に所定の間隔を隔てて対向し、前方に平行に延びている。各腕部24aには、左右方向に貫通したピン孔24bが形成されており、このピン孔24bに、フェルトで構成された円筒状の軸受27が取り付けられている。また、ハンマーシャンク24の前端部には、下面にシャンクローラ26が取り付けられる一方、上面に薄板状のフェノールバッカー28(間隔保持部材)が取り付けられている。
【0025】
フェノールバッカー28は、フェノール樹脂を含浸させた紙で構成されており、高い剛性と、乾湿に対する高い寸法安定性を有している。このフェノールバッカー28は、所定の厚さ(例えば0.2〜1mm)を有し、ハンマーシャンク24の前端部の左右方向の幅とほぼ同じ横幅を有する基部28aと、この基部28の左右端部から前方に突出し、腕部24aの上面とほぼ同じ横幅および長さを有する2つの突出部28b、28bとで、平面形状がコ字状に形成されている。このように形成されたフェノールバッカー28は、ハンマーシャンク24の前端部の上面に、両腕部24a、24aにまたがるように貼り付けられている。
【0026】
また、シャンクフレンジ23は、合成樹脂で構成されており、複数のブラケット15の間に渡されたハンマーシャンクレール29(図1参照)の上面にねじ止めされている。図3に示すように、シャンクフレンジ23は、前後方向に延び、断面が矩形状に形成されている。シャンクフレンジ23の後端部には、ハンマーシャンク24の両腕部24a、24a間の寸法よりも若干小さい幅を有するとともに後方に突出し、両腕部24a、24a間に係合する係合部23aが設けられている。この係合部23aには、左右方向に貫通するピン取付孔23bが形成されている。そして、係合部23aが、両腕部24a、24a間に、それらの内側面との間に若干の隙間をもって配置された状態で、センターピン20が、軸受27、27およびこれらの間のピン取付孔23bに通されている。センターピン20は、その中央部がピン取付孔23bに固定されるとともに、両端部が軸受27、27に対し回動自在になっている。これにより、ハンマー3は、シャンクフレンジ23と一体のセンターピン20を介して、シャンクフレンジ23に回動自在に支持されている。
【0027】
以上の構成によれば、図1に示す離鍵状態から鍵1aが押鍵されると、ウィッペン11が、キャプスタンスクリュー1bを介して突き上げられることにより、センターピン17を中心として上方に回動するとともに、ジャック12およびレペティションレバー13も、それぞれのセンターピン18および19を中心として回動する。そして、ハンマー3は、ジャック12によりシャンクローラ26を介して突き上げられ、ハンマーシャンク24の両腕部24a、24aおよびシャンクフレンジ23の係合部23aで案内されながら、センターピン20を中心として、図1の時計方向に回動することにより、弦Sを打弦し、それによりピアノ音が発生する。
【0028】
以上のように、本実施形態によれば、ハンマーシャンク24の両腕部24a、24aには、これらにまたがるようにフェノールバッカー28が取り付けられているので、両腕部24a、24aは、拘束され、互いに対向する方向の変位が抑制される。これにより、両腕部24a、24a間の寸法を安定して維持できることによって、両腕部24a、24aの内側面とシャンクフレンジ23の係合部23aの間の隙間の大きさも維持することができ、その結果、乾湿によるスティックの発生およびハンマー3が回動する際の左右のぶれやがたつきを防止することができる。したがって、乾湿にかかわらず、ハンマー3の円滑で安定した動作を確保することができる。また、フェノールバッカー28は、比較的安価であるとともに、木材に対する接着性が高いという特性を有するので、ハンマーシャンク24への取り付けを容易に行うことができ、したがって、円滑に安定して回動するハンマー3の支持構造を、低コストで容易に実現することができる。さらに、このフェノールバッカー28は、既存のグランドピアノのハンマーシャンクに後付けすることができ、それにより、既存のグランドピアノにおいて、ハンマーの円滑で安定した回動を確保することができる。
【0029】
次に、図4〜図7を参照しながら、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、シャンクフレンジ23によるハンマー3の支持構造のみが、第1実施形態と異なっている。したがって、以下の説明では、相違するハンマー3の支持構造を中心に説明するものとし、第1実施形態と同じ構成部分については、同じ符号を付すものとする。
【0030】
本実施形態では、第1実施形態のフェノールバッカー28が省略されるとともに、ハンマーシャンク24とシャンクフレンジ23を回動自在に連結するセンターピン20が、本発明の間隔保持部材として利用されている。図4および図5に示すように、ハンマーシャンク24の左右2つの腕部24a、24aには、左右方向に貫通し、センターピン20とほぼ同じ径を有するピン取付孔24b、24bが形成されている。一方、シャンクフレンジ23の係合部23aには、左右方向に貫通したピン孔23bが形成されており、このピン孔23bに、円筒状の軸受23cが取り付けられている。この軸受23cは、滑性および耐摩耗性を有するとともに、ピアノに一般に用いられる羊毛製のブッシングクロスよりも硬い合成樹脂(例えば、ナイロンやポリアセタール)で構成されている。
【0031】
図6は、ハンマーシャンク24とシャンクフレンジ23の連結部分を示しており、図7は、図6のVII−VII線に沿う断面図である。両図に示すように、ハンマーシャンク24およびシャンクフレンジ23の連結部分では、係合部23aが、両腕部24a、24a間に、それらの内側面との間に若干の隙間をもって配置された状態で、センターピン20が、ピン取付孔24b、24およびこれらの間の軸受23cに通されている。また、センターピン20は、その両端部が両腕部24a、24aのピン取付孔24bに固定されるとともに、中央部が軸受23cに対し回動自在になっている。これにより、ハンマー3は、ハンマーシャンク24と一体のセンターピン20を介して、シャンクフレンジ23に回動自在に支持されている。なお、押鍵時のアクション2およびハンマー3の動作は、前述した第1実施形態と同様である。
【0032】
以上のように、本実施形態によれば、センターピン20の両端部が、ハンマーシャンク24の両腕部24a、24aに固定されているので、両腕部24a、24aの変位が拘束される。これにより、両腕部24a、24a間の寸法を安定して維持できることによって、両腕部24a、24aの内側面と係合部23aの間の隙間の大きさも維持でき、その結果、第1実施形態と同様、乾湿にかかわらず、ハンマー3の円滑で安定した動作を確保することができる。また、従来一般に用いられる既存のセンターピン20を、間隔保持部材として有効に利用することができる。また、第1実施形態と異なり、フェノールバッカー28が不要な分、ハンマー3の支持構造を、より低コストで実現することができる。さらに、シャンクフレンジ23のピン孔23bに取り付けられた軸受23cは、硬度が比較的高い合成樹脂で構成されているので、ハンマー3が回動する際に、センターピン20が軸受23cの内周面を押圧しても、その内周面の変形を抑制することができ、それにより、ハンマー3は、ぶれやがたつきが生じることなく、より安定して回動することができる。
【0033】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。第1および第2実施形態は、本発明の回動体支持構造を、ハンマー3の支持構造に適用した例であるが、他の回動体、すなわち、アクション2のウィッペン11、ジャック12およびレペティションレバー13の支持構造に適用することも可能である。また、第1および第2実施形態では、回動体であるハンマー3のハンマーシャンク24に2つの腕部24a、24aを設ける一方、ハンマー3を支持するシャンクフレンジ23に係合部23aを設けたが、ハンマーシャンク側に係合部を、シャンクフレンジ側に2つの腕部を設けてもよい。さらに、第1および第2実施形態は、本発明の回動体支持構造を、グランドピアノに用いた例であるが、アップライトピアノにも適用できることはもちろん、回動体を有する電子ピアノなどの他の鍵盤楽器に用いてもよい。
【0034】
また、第1実施形態では、フェノールバッカー28を、ハンマーシャンク24の両腕部24a、24aの上面にのみ取り付けたが、これに代えて、またはこれとともに、両腕部24a、24aの下面にフェノールバッカーを取り付けてもよい。さらに、このフェノールバッカー28に代えて、剛性を有する他の適当な合成樹脂を採用することも可能である。その他、細部の構成を、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1実施形態による回動体支持構造を用いたグランドピアノの鍵盤、アクションおよびハンマーなどを、離鍵状態において示す側面図である。
【図2】ハンマーおよびハンマーシャンクフレンジを示す斜視図である。
【図3】図2のハンマーシャンクとハンマーシャンクフレンジの連結部分を拡大して示す分解斜視図である。
【図4】第2実施形態による回動体支持構造を適用したハンマーおよびハンマーシャンクフレンジを示す斜視図である。
【図5】図4のハンマーシャンクとハンマーシャンクフレンジの連結部分を拡大して示す分解斜視図である。
【図6】図4のハンマーシャンクとハンマーシャンクフレンジの連結部分を示す平面図である。
【図7】図6のVII−VII線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 鍵盤
1a 鍵
3 ハンマー(回動体)
20 センターピン(間隔保持部材、ピン)
23 ハンマーシャンクフレンジ(フレンジ)
23a 係合部
23b ピン取付孔、ピン孔
23c 軸受
24 ハンマーシャンク
24a 腕部
24b ピン孔、ピン取付孔
28 フェノールバッカー(間隔保持部材)
S 弦

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押鍵に伴って回動する回動体を支持する鍵盤楽器の回動体支持構造であって、
フレンジと、
このフレンジおよび前記回動体の一方に設けられ、互いに対向する二股状の2つの腕部と、
前記フレンジおよび前記回動体の他方に設けられ、前記2つの腕部の間に係合する係合部と、を備え、
前記2つの腕部と前記係合部との係合により、前記回動体が前記フレンジに回動自在に支持されており、
前記2つの腕部の間の間隔を保持するために、前記2つの腕部にまたがるように固定された間隔保持部材を、さらに備えていることを特徴とする鍵盤楽器の回動体支持構造。
【請求項2】
前記回動体は、前後方向に延びるハンマーシャンクを有するとともに弦を打弦するハンマーであり、
前記ハンマーシャンクは、木材で構成され、前端部には左右の前記2つの腕部が設けられ、
前記フレンジは、前記ハンマーシャンクを支持するハンマーシャンクフレンジであり、
当該ハンマーシャンクフレンジは、後端部に前記係合部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の回動体支持構造。
【請求項3】
前記間隔保持部材は、前記ハンマーシャンクの前記2つの腕部の上面および下面の少なくとも一方に、当該2つの腕部にまたがるように貼り付けられた合成樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の鍵盤楽器の回動体支持構造。
【請求項4】
前記合成樹脂がフェノールバッカーであることを特徴とする請求項3に記載の鍵盤楽器の回動体支持構造。
【請求項5】
前記間隔保持部材は、前記ハンマーシャンクの前記2つの腕部の内側面間に固定され、前記ハンマーシャンクフレンジの前記係合部に形成されたピン孔に回動自在に係合するピンであることを特徴とする請求項2に記載の鍵盤楽器の回動体支持構造。
【請求項6】
滑性および耐摩耗性を有する材料で構成され、前記ピン孔に取り付けられた筒状の軸受を、さらに備えていることを特徴とする請求項5に記載の鍵盤楽器の回動体支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−102253(P2008−102253A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283581(P2006−283581)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)