説明

鍵盤楽器の蓋開閉装置

【課題】 楽器ケース内の空間を広く利用して実装密度を高めることができる鍵盤楽器の蓋開閉装置を提供する。
【解決手段】 第1、第2の各ピニオンギア25、26を楽器ケース1内の後部に回転自在に設け、鍵盤蓋10を構成する前蓋11と後蓋12との各後部に設けられた屈曲自在の第1、第2の各ラックギア22、23を第1、第2の各ピニオンギア25、26にそれぞれ噛み合わせて前蓋11と後蓋12との各スライド動作に応じて移動させるように構成した。従って、第1、第2の各ピニオンギア25、26およびこの第1、第2の各ピニオンギア25、26を回転自在に支持するシャフト24を楽器ケース1内に設けても、第1、第2の各ピニオンギア25、26およびシャフト24が鍵盤蓋10のスライド動作に応じて移動することがないため、楽器ケース1内の空間を広く利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子ピアノなどの鍵盤楽器の蓋開閉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子ピアノなどの鍵盤楽器の蓋開閉装置として、特許文献1に記載されているように、鍵盤部が内部に設けられた楽器ケースに、その鍵盤部を開閉自在に覆う鍵盤蓋をスライド可能に設けた構成のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−272354号公報
【0004】
この種の蓋開閉装置は、鍵盤蓋を前蓋と後蓋とに分割し、前蓋と後蓋とをシャフトで相対的に移動可能に連結し、前蓋の前部を前側ガイド部でガイドすると共に、後蓋を後側ガイド部でガイドするように構成されている。この場合、前蓋と後蓋とを連結するシャフトは、前蓋の後端部に設けられている。後蓋は、シャフトによって前蓋に対して移動可能に連結された状態で、前蓋の下側を相対的に移動するように構成されている。
【0005】
また、シャフトには、楽器ケース内にその中間から後部に亘って設けられた後側ガイド部である第1ラックギアに噛み合って転動する第1ピニオンギアと、後蓋にその前部から後部に亘って設けられた第2ラックギアに噛み合って転動する第2ピニオンギアとが設けられている。この場合、第2ピニオンギアは、第1ピニオンギアの1/2のピッチ円直径比に形成されている。このため、第2ピニオンギアは、前蓋が移動する際に、前蓋の1/2の移動量で後蓋を追従させるように構成されている。
【0006】
このような蓋開閉装置では、鍵盤蓋を閉じた状態から開く際に、前蓋の前部を持ち上げながら後方に向けて移動させると、前蓋の前部が前側ガイド部によってガイドされながら前蓋が後方に移動すると共に、この前蓋の移動に伴ってシャフトが後方に向けて移動する。このときには、第1ピニオンギアが楽器ケースの第1ラックギアに噛み合って転動すると共に、第2ピニオンギアが後蓋の第2ラックギアに噛み合って転動する。このため、後蓋は、前蓋の1/2の移動量で前蓋に追従する。これにより、鍵盤蓋は、前蓋が鍵盤部の後方における楽器ケース内に収納されると共に、この前蓋の下側に後蓋が重なった状態で収納される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような従来の鍵盤楽器の蓋開閉装置では、鍵盤蓋を開閉する際に、前蓋の移動に伴ってシャフトが楽器ケース内を移動するため、楽器ケース内におけるシャフトの移動範囲がデッドスペースとなり、スピーカなどの他の部品を十分に実装することができないという問題がある。
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、楽器ケース内の空間を広く利用して実装密度を高めることができる鍵盤楽器の蓋開閉装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記課題を解決するために、次のような構成要素を備えている。
請求項1に記載の発明は、鍵盤部が内部に設けられた楽器ケースと、この楽器ケースにスライド可能に設けられて前記鍵盤部を開閉自在に覆う複数の蓋部からなる鍵盤蓋と、この鍵盤蓋における前記複数の蓋部の各後部から前記楽器ケース内の後部に向けてそれぞれ延出され、前記複数の蓋部の開閉動作に応じてそれぞれ屈曲自在に移動する複数のラックギアと、前記楽器ケース内の後部にそれぞれ回転自在に設けられて前記複数のラックギアにそれぞれ噛み合って回転する複数のピニオンギアと、を備えていることを特徴とする鍵盤楽器の蓋開閉装置である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記楽器ケース内にそれぞれ設けられて前記複数の蓋部を開閉動作に応じてそれぞれガイドし、前記鍵盤蓋を閉じた際に前記複数の蓋部を前記鍵盤部の上方に平面的に配置させ、前記鍵盤蓋を開いた際に前記複数の蓋部を上下に重ねて楽器ケース内に収納するための複数の蓋ガイド部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の蓋開閉装置である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記複数のラックギアを前記複数の蓋部の開閉動作に応じてそれぞれガイドすると共に、前記複数のピニオンギアにそれぞれ押し付けて噛み合わせる複数のギアガイド部を備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鍵盤楽器の蓋開閉装置である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記複数のピニオンギアの各直径が前記複数の蓋部の各移動距離に応じてそれぞれ異なっていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の鍵盤楽器の蓋開閉装置である。
【0013】
請求項5に記載の発明は、前記複数のピニオンギアが、全て一体的に連動して回転することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の鍵盤楽器の蓋開閉装置である。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、複数の蓋部をそれぞれスライドさせて鍵盤蓋を開閉する際に、複数の蓋部の各スライド動作に伴って複数のラックギアが屈曲しながら複数のピニオンギアにそれぞれ噛み合って移動するため、複数のピニオンギアが楽器ケース内を移動することがなく、複数のラックギアが複数のピニオンギアに噛み合って移動し、複数の蓋部を円滑に且つ良好に開閉させることができる。
【0015】
このため、複数のピニオンギアおよびこの複数のピニオンギアを回転自在に支持するシャフトを楽器ケース内に設けても、複数のピニオンギアおよびシャフトが楽器ケース内を移動しないため、楽器ケース内の空間を広く利用することができ、スピーカなどの他の部品を組み込むことができるので、楽器ケース内を有効に利用して楽器ケース内の実装密度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明を適用した鍵盤楽器の一実施形態において鍵盤蓋を閉じた状態を示した断面図である。
【図2】図1の鍵盤楽器において鍵盤蓋を開く途中の状態を示した断面図である。
【図3】図1の鍵盤楽器において鍵盤蓋を開いて楽器ケース内に収納した状態を示した断面図である。
【図4】図1の鍵盤楽器における鍵盤蓋、第1、第2の各ラックギア、および第1、第2の各ピニオンギアを示した平面図である。
【図5】図4の鍵盤蓋における前蓋と後蓋との各断面を示し、(a)は図4のA−A矢視における前蓋と第1のラックギアとを示した断面図、(b)は図4のB−B矢視における後蓋と第2のラックギアとを示した断面図である。
【図6】図2の鍵盤楽器における前側蓋ガイド部と後側蓋ガイド部との各断面を示し、(a)は図2のC−C矢視における前側蓋ガイド部の要部を示した拡大断面図、(b)は図2のD−D矢視における後側蓋ガイド部の要部を示した拡大断面図である。
【図7】図2のE−E矢視における第1、第2の各ピニオンギアを示した拡大断面図である。
【図8】図1の鍵盤楽器における第1、第2の各ピニオンギアと第1、第2の各ラックギアとの噛み合い状態を示し、(a)は第1のピニオンギアと第1のラックギアとの噛み合い状態を示した要部の拡大断面図、(b)は第2のピニオンギアと第2のラックギアとの噛み合い状態を示した要部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1〜図8を参照して、この発明を鍵盤楽器に適用した一実施形態について説明する。
この鍵盤楽器は、図1〜図3に示すように、ほぼ箱形状に形成された楽器ケース1を備えている。この楽器ケース1は、底板2を備えている。この底板2の前端部(図1では左端部)には、前板3が起立して設けられており、この底板2の後端部(図1では右端部)には、後板4が前板3よりも高く起立して設けられている。
【0018】
また、この底板2の両端部(図1では紙面の表裏側の端部)には、図1〜図3に示すように、一対の側板5が起立して設けられている。この一対の側板5は、その前後方向(図1では左右方向)における中間部よりも後側に位置する後部が後板4と同じ高さに形成され、中間部よりも前側に位置する前部が前側に向けて傾斜し、この傾斜した前端部が前板3とほぼ同じ高さに形成されている。また、この一対の側板5の後部および後板4の各上部には、天板6が設けられている。これにより、楽器ケース1は、天板6の前側が上方に開放されたほぼ箱形状に形成されている。
【0019】
この楽器ケース1内には、図1〜図3に示すように、鍵盤部7が設けられている。鍵盤部7は、楽器ケース1内の底板2における前部側(図1では左側)に配置された鍵盤シャーシ8と、この鍵盤シャーシ8上に配列された複数の鍵9とを備えている。この場合、複数の鍵9は、複数の白鍵と複数の黒鍵とからなり、これらが鍵盤シャーシ8上に上下方向に回転可能に取り付けられている。
【0020】
また、この楽器ケース1には、図1〜図3に示すように、鍵盤部7の上方を開閉可能に覆う鍵盤蓋10がスライド可能に設けられている。この鍵盤蓋10は、図1に示すように、鍵盤部7の前部側(図1では左側)を覆う前蓋11と、鍵盤部7の後部側(図1では右側)を覆う後蓋12とを備えている。この鍵盤蓋10の蓋開閉装置13は、図1〜図3に示すように、前蓋11をガイドする前側蓋ガイド部14と、後蓋12をガイドする後側蓋ガイド部15とを備えている。
【0021】
前側蓋ガイド部14は、図1〜図3に示すように、前蓋11の前端部に設けられた取手部16と、この取手部16の両側に設けられた一対の前側支持ピン17と、楽器ケース1の一対の側板5における各内面に設けられて一対の前支持ピン17をそれぞれガイドする断面コ字形状の一対の前側ガイドレール18(図8(a)参照)とを備えている。
【0022】
この場合、一対の前側ガイドレール18は、図1〜図3に示すように、鍵盤部7の前端部から斜め上方に向けて円弧状に緩やかに湾曲して鍵盤部7の後部上方、つまり天板6の前端部の下側に位置する箇所に亘って設けられ、後述する第1のギアガイド部27の一部と共通するように構成されている。
【0023】
これにより、前蓋11は、鍵盤蓋10を閉じた際に、図1に示すように、一対の前側支持ピン17が一対の前側ガイドレール18の前端部に位置して、鍵盤部7の前部上方に配置され、また鍵盤蓋10を開く際に、図2に示すように、一対の前側支持ピン17が一対の前側ガイドレール18に沿って後方(図2では右側)に移動し、鍵盤蓋10を開いた際に、図3に示すように、一対の前側支持ピン17が一対の前側ガイドレール18の後部(図3ではほぼ中間部)に位置して鍵盤部7の後側上方に移動し、楽器本体1内における天板6の下側に収納されるように構成されている。
【0024】
後側蓋ガイド部15は、図1〜図3に示すように、後蓋12の後端部における両側に設けられた一対の後側支持ピン20と、楽器ケース1の一対の側板5における各内面に設けられて一対の後側支持ピン20をそれぞれガイドする断面コ字形状の一対の後側ガイドレール21(図8(b)参照)とを備えている。この一対の後側ガイドレール21は、図1に示すように、鍵盤部7の後部における前側ガイドレール18の後部上方に位置する一対の側板5の内面にそれぞれ設けられている。
【0025】
すなわち、この一対の後側ガイドレール21は、図1〜図3に示すように、鍵盤部7の後部上方から斜め上側に向けて緩やかに傾斜して楽器ケース1内の後部に亘って設けられている。この場合、後蓋12の前端下部には、後側傾斜部12aが下向きに設けられており、また前蓋11の後端上部には、後蓋12の傾斜部12aに対応する前側傾斜部11aが上向きに設けられている。
【0026】
これにより、後蓋12は、鍵盤蓋10を閉じた際に、図1に示すように、後側支持ピン20が一対の後側ガイドレール21の前端部に位置して後蓋12の後側傾斜部12aが前蓋11の前側傾斜部11a上に位置した状態で、前蓋11の後部に前蓋11と同じ傾斜角度で連続して鍵盤部7の後側上方に配置されるように構成されている。
【0027】
また、この後蓋12は、鍵盤蓋10を開く際に、図2に示すように、後側支持ピン20が一対の後側ガイドレール21に沿って後方(図2では右側)に移動すると、後蓋12の後側傾斜部12aが前蓋11の前側傾斜部11a上を相対的に移動し、前蓋11上に乗り上げて前蓋11上を移動するように構成されている。
【0028】
さらに、この後蓋12は、鍵盤蓋10を開いた際に、図3に示すように、前蓋11の上方に位置した状態で、後側支持ピン20が一対の後側ガイドレール21の後端部に位置すると共に、後蓋12の後側傾斜部12aが前蓋11の取手部16上に位置して前蓋11の上側に重なって配置された状態で、楽器ケース1内における天板6の下側に収納されるように構成されている。
【0029】
また、この鍵盤蓋10の蓋開閉装置13は、図1〜図5に示すように、前蓋11の後部に設けられて楽器ケース1内の後部に向けて屈曲自在に延出された状態で、前蓋11と共に移動する第1のラックギア22と、後蓋12の後部に設けられて楽器ケース1内の後部に向けて屈曲自在に延出された状態で、後蓋12と共に移動する第2のラックギア23とを備えている。
【0030】
この第1、第2の各ラックギア22、23は、ポリアミド樹脂(PA)などの合成樹脂からなり、図1〜図5に示すように、全体が帯状に形成され、任意の位置で自由に屈曲するように構成されている。この場合、第1のラックギア22は、図4に示すように、その一端部(図4では左端部)が前蓋11の後端部における両側にそれぞれ側方に突出した状態で取り付けられ、楽器ケース1内の後部に向けて長く延出されている。
【0031】
また、第2のラックギア23は、図4に示すように、その一端部(図4では左端部)が後蓋12の後端部における両側の下部に取り付けられ、楽器ケース1内の後部に向けて長く延出されている。これにより、第1、第2の各ラックギア22、23は、図4に示すように、第1のラックギア22が第2のラックギア23の外側(図4では上下方向)に離れていることにより、互いに重なり合わないように配置されている。
【0032】
さらに、この鍵盤蓋10の蓋開閉装置13は、図1〜図4に示すように、楽器ケース1内の後部に設けられたシャフト24と、このシャフト24に回転自在に設けられて第1、第2の各ラックギア22、23が噛み合う第1、第2の各ピニオンギア25、26と、第1、第2の各ラックギア22、23の各撓み変形を規制しながらそれぞれガイドする第1、第2の各ギアガイド部27、28と、を備えている。
【0033】
シャフト24は、図1〜図4に示すように、楽器ケース1内における後側上部に位置する箇所における一対の側板5間に架け渡されている。第1、第2の各ピニオンギア25、26は、図4および図7に示すように、シャフト24の両側にそれぞれ軸受29を介して回転自在に取り付けられている。この第1、第2の各ピニオンギア25、26は、ポリアセタール樹脂(POM)などの合成樹脂からなり、その外周に噛合歯25a、26aがそれぞれ形成されている。
【0034】
また、第1、第2の各ラックギア22、23は、図5および図8に示すように、その各下面に第1、第2の各ピニオンギア25、26の各噛合歯25a、26aにそれぞれ噛み合う噛合歯22a、23aが連続して形成されている。これにより、第1、第2の各ラックギア22、23は、その各噛合歯22a、23aの一部が第1、第2の各ピニオンギア25、26の各噛合歯25a、26aにそれぞれ噛み合いながら、前蓋11と後蓋12との各スライド動作に応じてそれぞれ移動するように構成されている。
【0035】
この場合、第1、第2の各ピニオンギア25、26のうち、第1のピニオンギア25は、図7に示すように、その直径R1が第2のピニオンギア26の直径R2よりも大きく形成されている。すなわち、第1のピニオンギア25は、前蓋11に取り付けられた第1のラックギア22が噛み合って回転する際に、前蓋11の移動距離が後蓋12の移動距離よりも長い(約2倍の長さ)であるため、その移動距離の長さに応じて外周が長くなるように、直径R1が第2のピニオンギア26の直径R2よりも2倍程度、大きく形成されている。
【0036】
同様に、第2のピニオンギア26は、後蓋12に取り付けられた第2のラックギア23が噛み合って回転する際に、後蓋12の移動距離が前蓋11の移動距離よりも短い(約半分の長さ)であるため、その移動距離の長さに応じて外周が第1のピニオンギア25の外周よりも短くなるように、直径R2が第1のピニオンギア25の直径R1よりも1/2程度、小さく形成されている。
【0037】
一方、第1、第2の各ギアガイド部27、28は、図6および図8に示すように、屈曲可能な第1のラックギア22をそれぞれ移動可能に挟んでガイドする断面コ字形状のガイドレールであり、第1、第2の各ピニオンギア25、26に第1、第2の各ラックギア22、23をそれぞれ押し付けるように構成されている。
【0038】
すなわち、第1のギアガイド部27は、図1〜図3に示すように、前側蓋ガイド部14の前側ガイドレール18におけるほぼ中間部から楽器ケース1内の後部に亘る部分が共通してほぼ水平に延び、この延びた後部が楽器ケース1の後板4に沿って第1のピニオンギア25を経て下側に延び、この延びた下部が底板2に沿って鍵盤部7の鍵盤シャーシ8の後部下側に連続して設けられた構成になっている。
【0039】
この場合、第1のギアガイド部27は、図1〜図3に示すように、前側蓋ガイド部14の前側ガイドレール18におけるほぼ中間部から後部に亘る箇所が共通部分になっている。また、この第1のギアガイド部27は、図6(a)および図8(a)に示すように、第1のピニオンギア25に対応する箇所に開口部27aが設けられ、この開口部27aを通して第1のラックギア22の噛合歯22aを第1のピニオンギア25の噛合歯25aに噛み合わせた状態で、第1のラックギア22を第1のピニオンギア25の外周面に向けて押し付けるように構成されている。
【0040】
また、第2のギアガイド部28は、図1〜図3に示すように、後側蓋ガイド部15の後側ガイドレール21の下側に位置した状態で、後側ガイドレール21に沿って楽器ケース1内の後部上側に亘って後部上がりに傾斜して延び、この延びた後部が楽器ケース1の後板4に沿って第2のピニオンギア26の下側に亘って連続して設けられた構成になっている。
【0041】
この第2のギアガイド部28も、図6(b)および図8(b)に示すように、第2のピニオンギア26に対応する箇所に開口部28aが設けられ、この開口部28aを通して第2のラックギア23の噛合歯23aを第2のピニオンギア26の噛合歯26aに噛み合わせた状態で、第2のラックギア23を第2のピニオンギア26の外周面に向けて押し付けるように構成されている。
【0042】
次に、この鍵盤楽器の蓋開閉装置13の作用について説明する。
まず、鍵盤蓋10を閉じた場合には、図1に示すように、前蓋11の前側支持ピン17が前側ガイドレール18の前端部に位置すると共に、前蓋11の後部に設けられた第1のラックギア22の前端部が前側ガイドレール18と共通する第1のギアガイド部27における前部側、つまり前側ガイドレール18におけるほぼ中間部に位置した状態で、前蓋11が鍵盤部7の前部上方に配置されている。
【0043】
また、このときには、後蓋12の後側支持ピン20が後側ガイドレール21の前端部に位置すると共に、後蓋12の前端部に位置する後側傾斜部12aが前蓋11の前側傾斜部11a上に対応して載置された状態で、後蓋12が前蓋11の後部に同じ傾斜角度で連続して鍵盤部7の後部上方に配置されている。これにより、鍵盤部7は、図1に示すように、前蓋11と後蓋12とによって覆われる。
【0044】
この状態で、鍵盤蓋10を開く際には、図1に示すように、前蓋11の前端部に設けられた取手部16を持ち上げながら、前蓋11を後方(図1では右側)に向けて移動させると、取手部16の両側に設けられた一対の前側支持ピン17が一対の前側ガイドレール18に沿ってそれぞれ後方に向けて移動すると共に、後蓋12の後端部における両側に設けられた一対の後側支持ピン24が一対の後側ガイドレール21に沿ってそれぞれ後方に向けて移動する。
【0045】
このときには、図1および図2に示すように、前蓋11の後端部における両側に設けられた一対の第1のラックギア22が、前蓋11の移動に伴って前側ガイドレール18と共通する第1のギアガイド部27によってガイドされながら楽器ケース1の後方に向けて移動すると共に、後蓋12の後端部における両側に設けられた一対の第2のラックギア23が、後蓋12の移動に伴って第2のギアガイド部28によってガイドされながら楽器ケース1の後方に向けて移動する。
【0046】
この場合、第1のラックギア22は、図8(a)に示すように、その噛合歯22aがシャフト24に設けられた第1のピニオンギア25の噛合歯25aに噛み合っているので、図2に示すように、第1のラックギア25が前蓋11の移動に伴って第1のピニオンギア25を回転させながら第1のギアガイド部27に沿って移動する。
【0047】
また、第2のラックギア23は、図8(b)に示すように、その噛合歯23aがシャフト24に設けられた第2のピニオンギア26の噛合歯26aに噛み合っているので、図2に示すように、第2のラックギア23が後蓋12の移動に伴って第2のピニオンギア26を回転させながら第2のギアガイド部28に沿って移動する。
【0048】
このとき、第1、第2の各ラックギア22、23は、図6(a)および図6(b)に示すように、第1、第2の各ギアガイド部27、28によって移動可能な状態で挟まれているので、第1、第2の各ラックギア22、23が屈曲可能に形成されていても、第1、第2の各ラックギア22、23が撓むことなく、第1、第2の各ピニオンギア25、26を回転させながら楽器ケース1の後方に向けて移動する。
【0049】
また、このときには、図8(a)および図8(b)に示すように、第1、第2の各ピニオンギア25、26に対応してそれぞれ第1、第2の各ギアガイド部27、28に設けられえた開口部27a、28aを通して第1、第2の各ラックギア22、23の各噛合歯22a、23aが第1、第2の各ピニオンギア25、26の各噛合歯25a、26aに噛み合った状態で、第1、第2の各ラックギア22、23が第1、第2の各ピニオンギア25、26の各噛合歯25a、26aに向けて押し付けられている。
【0050】
このため、前蓋11と後蓋12とがそれぞれ移動して、第1、第2の各ラックギア22、23がそれぞれ第1、第2の各ギアガイド部27、28に沿って移動すると、この第1、第2の各ラックギア22、23の移動に伴って第1、第2の各ピニオンギア25、26がそれぞれ回転する。この場合、第1、第2の各ピニオンギア25、26は、一体的に連動して回転するため、第1、第2の各ピニオンギア25、26の一方が回転すると、これと同時に他方も回転する。
【0051】
このときには、第1、第2の各ピニオンギア25、26のうち、第1のピニオンギア25の直径R1が第2のピニオンギア26の直径R2よりも2倍程度、大きく形成されている。このため、第1、第2の各ピニオンギア25、26が一体的に回転することにより、第1、第2の各ピニオンギア25、26の回転数が同じあっても、第1のピニオンギア25に噛み合って移動する第1のラックギア22の移動距離は、第2のピニオンギア26に噛み合って移動する第2のラックギア23の移動距離の約2倍になる。
【0052】
これにより、図1に示す状態で、前蓋11と後蓋12とが楽器ケース1の後側に向けて移動する際に、第1のピニオンギア25の直径R1が第2のピニオンギア26の直径R2よりも大きいため、前蓋11の移動速度が後蓋12の移動速度よりも速い。このため、前蓋11が後方に向けて移動すると、図2に示すように、後蓋12の前端部が前蓋11の上面に乗り上げながら後方に移動する。
【0053】
そして、前蓋11と後蓋12とが楽器ケース1の後側に向けて更に移動すると、図3に示すように、前蓋11は、その前端部の前側支持ピン17が前側ガイドレール18の後部に移動すると共に、前蓋11の後部が第1のラックギア22をガイドする第1のギアガイド部27の後側上部に移動して、鍵盤部7の後側上方に位置する天板6の下側における楽器ケース1内に収納されている。
【0054】
このときには、図3に示すように、後蓋12は、後側支持ピン20が後側ガイドレール21の後端部に移動すると共に、後蓋12の前端部が前蓋11の上面を移動して前蓋11の取手部16上に位置し、前蓋11上に重なった状態で、鍵盤部7の後側上方に位置する天板6の下側における楽器ケース1内に収納されている。
【0055】
すなわち、第1のピニオンギア25の直径R1が第2のピニオンギア26の直径R2よりも2倍程度大きく、前蓋11の移動速度が後蓋12の移動速度よりも2倍程度速いので、前蓋11の移動距離が後蓋12の移動距離の2倍程度に長くても、前蓋11と後蓋12とをほぼ同じタイミングで天板6の下側における楽器ケース1内に収納することができ、鍵盤部7を良好に露出させることができる。なお、鍵盤蓋13を閉じる場合には、上述した動作の逆の動作を行う。
【0056】
このように、この鍵盤楽器の蓋開閉装置13によれば、鍵盤蓋10を構成する前蓋11と後蓋12との各後部から楽器ケース1内の後部に向けてそれぞれ延出され、鍵盤蓋10の開閉動作に応じてそれぞれ屈曲自在に移動する第1、第2の各ラックギア22、23と、楽器ケース1内の後部にそれぞれ回転自在に設けられて第1、第2の各ラックギア22、23にそれぞれ噛み合って回転する第1、第2の各ピニオンギア25、26とを備えた構成であるから、第1、第2の各ピニオンギア25、26およびこの第1、第2の各ピニオンギア25、26を回転自在に支持するシャフト24を楽器ケース1内に設けても、第1、第2の各ピニオンギア25、26およびシャフト24が鍵盤蓋10のスライド動作に連動して移動することがないため、楽器ケース1内の空間を広く利用することができる。
【0057】
すなわち、この鍵盤楽器の蓋開閉装置13では、前蓋11と後蓋12とをそれぞれスライドさせて開閉する際に、前蓋11と後蓋12との各スライド動作に伴って第1、第2の各ラックギア22、23が第1、第2の各ピニオンギア25、26に噛み合って第1、第2の各ピニオンギア25、26を回転させながら移動するので、第1、第2の各ピニオンギア25、26が楽器ケース1内を移動することがなく、第1、第2の各ピニオンギア25、26が第1、第2の各ラックギア22、23に噛み合って所定位置で回転することにより、鍵盤蓋10を円滑に且つ良好に開閉させることができる。
【0058】
このため、第1、第2の各ピニオンギア25、26を支持する1本のシャフト24が前蓋11と後蓋12との各スライド動作に伴って楽器ケース1内を移動することがないので、楽器ケース1内の空間を広く利用することができる。これにより、スピーカ(図示せず)などの他の部品を楽器ケース1内に良好に組み込むことができるので、楽器ケース1内を有効に利用して楽器ケース1内の実装密度を高めることができる。
【0059】
また、この鍵盤楽器の蓋開閉装置13によれば、楽器ケース1内にそれぞれ設けられて前蓋11と後蓋12とをそれぞれ開閉動作に応じてガイドし、鍵盤蓋10が閉じた際に前蓋11と後蓋12とを鍵盤部7の上方に平面的に配置させ、また鍵盤蓋10が開いた際に前蓋11と後蓋12とを上下に重なるように楽器ケース1内に収納するための前側蓋ガイド部14と後側蓋ガイド部15とを備えていることにより、鍵盤蓋10を開閉する際に前蓋11と後蓋12とを確実に且つ良好にガイドして、鍵盤部7を良好に覆うことができると共に、楽器ケース1内にコンパクトにすることができる。
【0060】
また、この鍵盤楽器の蓋開閉装置13によれば、第1、第2の各ラックギア22、23を前蓋11と後蓋12との開閉動作に応じてそれぞれガイドすると共に、第1、第2の各ピニオンギア25、26にそれぞれ押し付けて噛み合わせる第1、第2の各ギアガイド部27、28を備えていることにより、第1、第2の各ラックギア22、23が屈曲可能に構成されていても、第1、第2の各ラックギア22、23が撓むことがなく、確実に且つ良好に第1、第2の各ラックギア22、23をそれぞれガイドして移動させることができると共に、第1、第2の各ピニオンギア25、26にそれぞれ確実に噛み合わせることができる。
【0061】
この場合、第1、第2の各ピニオンギア25、26は、その各直径R1、R2が前蓋11と後蓋12との各移動距離に応じてそれぞれ異なっていることにより、第1、第2の各ピニオンギア25、26を同じ回転数で回転させると、前蓋11と後蓋12との移動速度を変えることができ、このため前蓋11と後蓋12との各移動距離が異なっていても、前蓋11と後蓋12とを同じタイミングで、鍵盤部7の上方に平面的に配置することができると共に、楽器ケース1内に収納することができる。
【0062】
すなわち、前蓋11は、その移動距離が後蓋12の移動距離の2倍程度であるため、第1のピニオンギア25は、その直径R1が第2のピニオンギア26の直径R2よりも2倍程度の大きく形成されていることにより、第1、第2の各ピニオンギア25、26の回転数が同じあっても、第1のピニオンギア25に噛み合って移動する第1のラックギア22の移動距離を、第2のピニオンギア26に噛み合って移動する第2のラックギア23の移動距離の約2倍にすることができる。
【0063】
これにより、前蓋11と後蓋12とがスライドする際には、前蓋11の移動速度を後蓋12の移動速度よりも速くして、前蓋11の移動距離を後蓋12の移動距離よりも長くすることができる。これにより、前蓋11と後蓋12とを閉じた際に、同じタイミングで鍵盤部7の上方に平面的に配置することができると共に、前蓋11と後蓋12とを開いた際に、同じタイミングで前蓋11と後蓋12とを重ねた状態で楽器ケース1内に良好に収納することができる。
【0064】
この場合、第1、第2の各ピニオンギア25、26は、全て一体的に連動して回転することにより、前蓋11を移動させて第1のラックギア22が移動し、この第1のラックギア22に噛み合って第1のピニオンギア25が回転すると、この第1のピニオンギア25と共に第2のピニオンギア26も回転するので、この第2のピニオンギア26に噛み合って第2のラックギア23が移動し、後蓋12を前蓋11に連動させて移動させることができる。
【0065】
このため、前蓋11のみを開閉動作させることにより、後蓋12を前蓋11に連動させて開閉動作させることができるので、鍵盤蓋10の開閉動作が容易にでき、鍵盤蓋10の開閉操作性の良いものを提供することができるほか、第1、第2の各ピニオンギア25、26の各直径R1、R2が前蓋11と後蓋12との各移動距離に応じてそれぞれ異なっていることにより、前蓋11と後蓋12との各移動速度を変えることができるので、前蓋11と後蓋12との各移動距離が異なっていても、前蓋11と後蓋12とを同じタイミングで、鍵盤部7の上方に平面的に配置することができると共に、前蓋11と後蓋12とを重ねた状態で楽器ケース1内に良好に収納することができる。
【0066】
なお、上述した実施形態では、第1、第2の各ピニオンギア25、26を全て一体的に連動させて回転させるように構成した場合について述べたが、必ずしも第1、第2の各ピニオンギア25、26を一体的に連動させて回転させるように構成する必要はなく、第1、第2の各ピニオンギア25、26がそれぞれ独立して別々に回転するように構成しても良い。このように構成すれば、前蓋11と後蓋12とが連動しないため、別々に開閉動作させれば良い。
【0067】
また、上述した実施形態では、鍵盤蓋10を前蓋11と後蓋12との2つに分割した場合について述べたが、これに限らず、鍵盤蓋を3つ以上の蓋部に分割しても良い。この場合には、3つ以上の各蓋部にそれぞれ複数のラックギアを取り付けると共に、この複数のラックギアにそれぞれ噛み合って回転する複数のピニオンギアを楽器ケース1内に設けるほか、複数の蓋部をそれぞれガイドする複数の蓋ガイド部および複数のラックギアをガイドする複数のギアガイド部をそれぞれ楽器ケース1内に設ければ良い。
【符号の説明】
【0068】
1 楽器ケース
7 鍵盤部
10 鍵盤蓋
13 蓋開閉装置
14 前側蓋ガイド部
15 後側蓋ガイド部
17 前側支持ピン
18 前側ガイドレール
20 後側支持ピン
21 後側ガイドレール
22、23 第1、第2の各ラックギア
22a、23a 噛合歯
24 シャフト
25、26 第1、第2の各ピニオンギア
25a、26a 噛合歯
27、28 第1、第2の各ギアガイド部
27a、28a 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵盤部が内部に設けられた楽器ケースと、
この楽器ケースにスライド可能に設けられて前記鍵盤部を開閉自在に覆う複数の蓋部からなる鍵盤蓋と、
この鍵盤蓋における前記複数の蓋部の各後部から前記楽器ケース内の後部に向けてそれぞれ延出され、前記複数の蓋部の開閉動作に応じてそれぞれ屈曲自在に移動する複数のラックギアと、
前記楽器ケース内の後部にそれぞれ回転自在に設けられて前記複数のラックギアにそれぞれ噛み合って回転する複数のピニオンギアと、
を備えていることを特徴とする鍵盤楽器の蓋開閉装置。
【請求項2】
前記楽器ケース内にそれぞれ設けられて前記複数の蓋部を開閉動作に応じてそれぞれガイドし、前記鍵盤蓋を閉じた際に前記複数の蓋部を前記鍵盤部の上方に平面的に配置させ、前記鍵盤蓋を開いた際に前記複数の蓋部を上下に重ねて楽器ケース内に収納するための複数の蓋ガイド部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の蓋開閉装置。
【請求項3】
前記複数のラックギアを前記複数の蓋部の開閉動作に応じてそれぞれガイドすると共に、前記複数のピニオンギアにそれぞれ押し付けて噛み合わせる複数のギアガイド部を備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鍵盤楽器の蓋開閉装置。
【請求項4】
前記複数のピニオンギアは、その各直径が前記複数の蓋部の各移動距離に応じてそれぞれ異なっていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の鍵盤楽器の蓋開閉装置。
【請求項5】
前記複数のピニオンギアは、全て一体的に連動して回転することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の鍵盤楽器の蓋開閉装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−145536(P2011−145536A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7091(P2010−7091)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】