説明

鍵盤装置

【課題】ハンマ当接部のハンマストッパ部への食い込み量の経年変化を均一化して、押鍵面の高さを長期に亘って均一に維持する。
【解決手段】ハンマ体HMの係合部21は、鍵10のハンマ駆動部13と常時係合し、ハンマ体HMが鍵10に連動して回動する。ハンマ体HMの主質量部mHは、ハンマ体HMに、ハンマ回動軸PHを中心とする時計方向への回転モーメントを与え、鍵10のカウンタ質量部mKは反時計方向への回転モーメントを与える。3つの音域間で、主質量部mH、カウンタ質量部mKの前後方向の位置はそれぞれ同じであるが、質量はそれぞれ低音域KB1のものが最も大きく、非押鍵時にハンマ体HMの自由端部23aから下側ストッパ11に対してかかる荷重Fは全回動系Rで共通であるが、回動系R全体の、ハンマ回動軸PH周りの慣性モーメントは低音域KB1のものが最も大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵と該鍵に連動して回動するハンマ体とで構成される回動系を複数有する鍵盤装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、並列的に配設された複数の鍵と、各々の鍵に対応して設けられ、該鍵に慣性を与える質量体とを有する鍵盤装置が知られている(下記特許文献1、2、3)。
【0003】
これらの鍵盤装置では、押鍵操作によって、質量体であるハンマ体が、ハンマ支点を中心に対応する鍵に連動して回動するように構成される。また、ハンマ体の自由端部のハンマ当接部と当接するストッパ部が設けられる。非押鍵状態においては、ハンマ体の自重を主とする回動系全体の自重(ハンマ支点を中心とした回転モーメント)によって、ハンマ体のハンマ当接部がストッパ部に当接する。これによって、非押鍵状態における鍵の回動方向の位置(非押鍵位置)が規定される。
【0004】
従って、演奏していない状態では、すべてのハンマ体のハンマ当接部がストッパ部に常時当接し、その状態で、全鍵の押鍵面が面一となるように製造される。
【特許文献1】特許2929994号公報
【特許文献2】特許3624786号公報
【特許文献3】実公平05−8635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、押鍵感触を向上させた鍵盤装置では、ハンマ体のハンマ支点周りの慣性モーメントは、音域に応じて異なり、通常、低音域ほど大きく設定されている。そのため、例えば、ハンマ体の自由端部近傍に設ける質量部の質量が音域によって異なり、その結果、ハンマ当接部からストッパ部にかかる荷重も、音域によって異なっている。荷重が異なると、長年の使用により、ストッパ部へのハンマ当接部の食い込み量が変化してきて、対応する鍵の押鍵面の高さが不揃いになるという問題がある。
【0006】
特に、上記特許文献1のように、ハンマ体の横振れによる隣接するハンマ体との干渉を回避するために、ハンマ体の自由端部におけるハンマ当接部の横幅を狭く設計した場合は、荷重の違いによるストッパ部へのハンマ当接部の食い込み量の経年変化が顕著であり、押鍵面の不均一の問題が現れやすいという問題があった。
【0007】
上記特許文献1では、ハンマ当接部である延設部材は丸棒から成るが、これを板金打ち抜き構造とした鍵盤装置も知られている。この種の鍵盤装置では、ハンマ当接部の食い込み量の経年変化が一層顕著であり、それに加えて、フェルト材等でなるストッパ部がハンマ当接部のバリ部によってちぎれ、剥離が生じやすいという欠点もある。
【0008】
本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、ハンマ当接部のハンマストッパ部への食い込み量の経年変化を均一化して、押鍵面の高さを長期に亘って均一に維持することができる鍵盤装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の請求項1の鍵盤装置は、並列的に配設され、押鍵されて回動する複数の鍵(10)と、該各鍵に1対1に対応し、対応する鍵と常時係合してハンマ支点(PH)を中心に連動して回動する複数のハンマ体(HM)とから構成され、1つの鍵とそれに対応する1つのハンマ体とで1つの回動系を構成する複数の回動系(R)と、前記各ハンマ体の、前記ハンマ支点よりも自由端部(23a)側に設けられた主質量部(mH)と、前記各回動系のいずれかの箇所に設けられ、前記主質量部により前記ハンマ体に生じる前記ハンマ支点を中心とする回転モーメントと反対方向の回転モーメントを前記ハンマ体に生じさせるためのカウンタ質量部(mK)と、非押鍵状態において前記ハンマ体の前記ハンマ支点よりも前記自由端部側であるハンマ当接部(23a)と当接して該ハンマ体の回動初期位置を規制するハンマストッパ部(11)とを有し、隣接する回動系間で、前記主質量部及び前記カウンタ質量部を含めた各回動系の自重による前記ハンマ支点周りの慣性モーメントが異なって境目となっている箇所が少なくとも1つ存在すると共に、非押鍵状態において前記ハンマ当接部から前記ハンマストッパ部にかかる荷重(F)が、隣接する回動系間で略同一であることを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記境目で隣接する低音側の回動系の方が、高音側の回動系よりも、前記ハンマ支点周りの慣性モーメントが大きい(請求項2)。好ましくは、前記境目で隣接する回動系間で、前記カウンタ質量部の質量及び前後方向の位置の少なくとも一方が異なっている(請求項3)。
【0011】
上記目的を達成するために本発明の請求項4の鍵盤装置は、並列的に配設され、押鍵されて回動する複数の鍵と、該各鍵に1対1に対応し、対応する鍵と常時係合してハンマ支点を中心に連動して回動する複数のハンマ体とから構成され、1つの鍵とそれに対応する1つのハンマ体とで1つの回動系を構成する複数の回動系と、前記各ハンマ体の、前記ハンマ支点よりも自由端部側に設けられた主質量部と、非押鍵状態において前記ハンマ体の前記ハンマ支点よりも前記自由端部側であるハンマ当接部と当接して該ハンマ体の回動初期位置を規制するハンマストッパ部とを有し、非押鍵状態における各ハンマ体の前記ハンマ当接部と前記ハンマストッパ部との当接面積に応じて、前記各ハンマ体の前記ハンマ当接部から前記ハンマストッパ部にかかる荷重が設定されたことを特徴とする。
【0012】
好ましくは、前記ハンマ当接部と前記ハンマストッパ部との当接面積が異なっている回動系間で、前記主質量部の質量及び前後方向の位置の少なくとも一方が異なっている(請求項5)。好ましくは、前記各回動系のいずれかの箇所に設けられ、前記主質量部により前記ハンマ体に生じる前記ハンマ支点を中心とする回転モーメントと反対方向の回転モーメントを前記ハンマ体に生じさせるためのカウンタ質量部を有し、前記ハンマ当接部と前記ハンマストッパ部との当接面積が異なっている回動系間で、前記主質量部の質量及び配置が同一であり、且つ、前記カウンタ質量部の質量及び前後方向の位置の少なくとも一方が異なっている(請求項6)。
【0013】
なお、上記括弧内の符号は例示である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1によれば、音域に応じた押鍵感触の相違を確保すると共に、ハンマ当接部が幅細であっても、隣接する回動系間でハンマ当接部のハンマストッパ部への食い込み量の経年変化を均一化して、押鍵面の高さを長期に亘って均一に維持することができる。
【0015】
請求項2によれば、音域に応じた押鍵感触を与えることができる。
【0016】
請求項3によれば、簡単な構成で、ハンマ当接部からハンマストッパ部にかかる荷重を所望に設定することができる。
【0017】
本発明の請求項4によれば、ハンマ当接部からハンマストッパ部にかかる荷重が異なっている回動系間においても、ハンマ当接部のハンマストッパ部への食い込み量の経年変化を均一化して、押鍵面の高さを長期に亘って均一に維持することができる。
【0018】
請求項5によれば、簡単な構成で、ハンマ当接部からハンマストッパ部にかかる荷重を所望に設定することができる。
【0019】
請求項6によれば、簡単な構成で、ハンマ当接部からハンマストッパ部にかかる荷重を所望に設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0021】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る鍵盤装置の縦断面図である。本実施の形態の鍵盤装置は、鍵盤シャーシ4と、複数の鍵10と、押鍵動作に適当な慣性を与えてアコースティックピアノのような押鍵感触を得るための複数のハンマ体HMとから主に構成される。ハンマ体HMは各鍵10に対応して設けられる。図示は省略するが、黒鍵についても鍵10と同様に構成され、鍵盤シャーシ4に回動自在に支持されて成る。図1は、非押鍵状態(鍵10が押鍵行程の回動開始位置にある状態)を示す。以下、本装置の演奏者側(同図左方)を前方と称する。
【0022】
鍵盤シャーシ4は、シャーシ水平部4aと鍵盤シャーシ4の前部4bとがリブ12により連結されて補強されている。鍵10は、鍵盤シャーシ4の鍵支持部5の鍵回動軸PKを中心として前端部が上下方向に回動可能に構成されている。鍵10及びハンマ体HMはそれぞれ、左右方向に並列的に配設される。
【0023】
ハンマ体HMは、鍵盤シャーシ4に設けられた支持部材9の上部のハンマ回動軸PHを中心としてその自由端部23aが上下方向に回動自在に受け部20にて支持され、ハンマ回動軸PHを中心として回動自在となっている。ハンマ体HMの基部22から金属製等の丸棒でなる延設部材23が後方に延設される。延設部材23は、後部から前方に折り返されている。延設部材23は、ハンマ体HMの主たる質量を有する部分であるが、その中でも特に、後部の折り返された部分に最も大きな質量が集中しており、この部分を「主質量部mH」と呼称する。
【0024】
主質量部mHの質量は、各ハンマ体HM間で共通としてもよいが、本実施の形態では、後述するように、音域によって異なっている。これは、延設部材23の後部での折り返し長さを異ならせることで実現され、自由端部23aの位置は共通である。ハンマ体HMの、受け部20よりも前方においては、上側延設部21A及び下側延設部21Bでなる蟹のハサミ状の係合部21が設けられる。
【0025】
ハンマ体HMの受け部20の近傍から鍵10の後部に亘って、前側が2又形状となっているフォーク形状のバネ7が懸架されている。このバネ7は、鍵10を鍵支持部5に押しつけると共に、ハンマ体HMを支持部材9のハンマ回動軸PHに押しつけ、鍵10及びハンマ体HMが鍵盤シャーシ4から容易に脱落しないようにしている。
【0026】
鍵10の前部には下方に垂下したハンマ駆動片10bが設けられている。ハンマ駆動片10bの下端部にはウレタンゴム製等の緩衝材でなるハンマ駆動部13が取り付けられている。ハンマ駆動部13は、ハンマ体HMの上側延設部21A及び下側延設部21B間に挟入され、鍵10の押鍵動作をハンマ体HMに伝達すると共に、ハンマ体HMの復帰動作を鍵10に伝達する。
【0027】
これにより、ハンマ体HMの係合部21は、鍵10のハンマ駆動部13と常に係合状態にあり、ハンマ体HMが鍵10に連動して回動するようになっている。奏者による押鍵操作に応じて、鍵10のハンマ駆動部13により係合部21の下側延設部21Bが駆動され、ハンマ体HMがハンマ回動軸PHを中心に同図反時計方向(押鍵方向に対応する方向)に回動することで、適正な押鍵感触が与えられる。1つの鍵10とそれに対応するハンマ体HMとは、互いに連動して相互の往復方向に回動するので、これらを1つの「回動系」とみなすことができる。鍵10には、カウンタ質量部mKが設けられる。
【0028】
ハンマ体HMは、重量部である延設部材23の重さによって下側延設部21Bにて鍵10を上方に常に付勢している。鍵10の復帰力は、バネ7からもわずかに付与されるが、ハンマ体HM自身の復帰力によるものがほとんどである。ハンマ体HMは、受け部20より前方の下部に、スイッチ部SWを駆動するためのスイッチ駆動部24を有する。
【0029】
シャーシ前部4bには鍵並び方向(鍵10の左右方向)の回動を規制するためのキーガイド6が各鍵10毎に突設されている。鍵10の最前部の下方において、シャーシ前部4bには、過変形防止ストッパ14が設けられている。通常の押鍵よりはるかに強い力が鍵10にかかったとき、過変形防止ストッパ14に鍵10の最前部下部が当接して、鍵10の過変形が防止される。
【0030】
鍵盤シャーシ4の後部4dの下面には、上側ストッパ15が設けられる。シャーシ保持部4cには、下側ストッパ11が設けられている。上側ストッパ15及び下側ストッパ11はフェルト等の緩衝材でなる。上側ストッパ15は、押鍵操作に連動して往方向に回動するハンマ体HMの延設部材23の自由端部23aと当接して鍵10及びハンマ体HMの回動終了位置(鍵10では前端部の下限位置、ハンマ体HMでは自由端部23aの上限位置)を規制する。下側ストッパ11は、非押鍵時にハンマ体HMの延設部材23の自由端部23aと当接して鍵10及びハンマ体HMの回動開始位置(鍵10では前端部の上限位置、ハンマ体HMでは自由端部23aの下限位置)を規制する。
【0031】
シャーシ前部4bにはスイッチ基板8が取り付けられ、スイッチ基板8上にはスイッチ部SWが設けられている。スイッチ部SWは、ハンマ体HMのスイッチ駆動部24に対向して各ハンマ体HM毎に設けられている。スイッチ部SWは、接点時間差タイプの2メイク式タッチレスポンススイッチであり、ハンマ体HMの動作検出を介して鍵10の押鍵動作を検出する。この検出結果に基づいて、不図示の楽音制御部にて発音及び楽音制御がなされる。
【0032】
図2(a)は、図1に示した本鍵盤装置の1つの鍵10の模式的な平面図、図2(b)は、本鍵盤装置の主要部の模式的な側面図である。図2(a)、(b)において、主質量部mH及びカウンタ質量部mKの位置や形状は、実際のものとは一致しないが、以降の説明において理解容易にするために、模式的に示した。また、主質量部mHは、図1では自由端部23aにおける延設部材23の折れ曲がり部分であるが、便宜上、自由端部23aよりもややハンマ回動軸PH寄りに描いてある。
【0033】
ここで、実際には、鍵10及びハンマ体HMには、主質量部mH及びカウンタ質量部mK以外の部分にも質量を有するが、理解する上での便宜上、鍵10及びハンマ体HMの全質量が、主質量部mH及びカウンタ質量部mKだけにそれぞれ集中しているものとみなして説明する。1つの鍵10とそれに対応するハンマ体HMとで構成される回動系(主質量部mH及びカウンタ質量部mKを含むもの)を「回動系R」と呼称する。
【0034】
主質量部mHは、ハンマ体HMに、ハンマ回動軸PHを中心とする図2(b)の時計方向への回転モーメントを与えるためのものであるので、主質量部mHの前後方向の位置は、延設部材23の、ハンマ回動軸PHよりも自由端部23a寄りである必要がある。一方、カウンタ質量部mKは、ハンマ体HMに、ハンマ回動軸PHを中心とする図2(b)の反時計方向への回転モーメントを与えるためのもの、すなわち、主質量部mHによる回転モーメントを打ち消すように作用するためのものである。この実施の形態では、一例として、カウンタ質量部mKを、回動系Rのうちの鍵10に設けている。このように鍵10に設ける場合は、カウンタ質量部mKの前後方向の位置は、鍵回動軸PKよりも前方である必要がある。
【0035】
主質量部mHによる回転モーメントとカウンタ質量部mKによる回転モーメントが合わさって作用する回転モーメント(回動系Rの全自重によって作用する回転モーメント)が、ハンマ体HMを図2(b)の時計方向に付勢するものとなっている(時計方向に正)。従って、非押鍵状態においては、自由端部23aから、下側ストッパ11に対して常に所定の荷重Fがかかっている(図2(b)参照)。ちなみに、各鍵10の押鍵面10aには、押鍵初期に、荷重Fに応じた押鍵反力がかかることになる。
【0036】
ところで、図2(a)に示すように、延設部材23の横幅wHは、自由端部23aを含めて一様であるが、隣接する自由端部23aとの干渉を避けるために、対応する鍵10の後半部の横幅wKよりも十分に狭くなっている。下側ストッパ11は、自由端部23aから受ける荷重Fによって凹む。鍵盤装置の出荷時においては、下側ストッパ11の凹み(食い込み)量を考慮して、鍵10のすべてにおいて押鍵面10aの高さが揃うように設定される。
【0037】
しかしながら、演奏をしない状態で長期間が経過すると、自由端部23aの食い込み量が大きくなってくる。一方、荷重Fがハンマ体HMによって異なる場合は、食い込み量に違いが出てきて、押鍵面10aの高さの不揃いを生じさせることになる。そこで、本実施の形態では、次に説明するように、荷重Fを全回動系Rで共通としつつも、押鍵感触を音域に適したものとしている。
【0038】
図3は、本鍵盤装置の模式的な平面図である。本実施の形態では、鍵盤の全領域を3つに分割し、その分割した3領域である低音域KB1、中音域KB2、高音域KB3の間で回動系Rの構成を異ならせた。同じ音域内の回動系Rの構成は共通である。異なる音域間では、主質量部mH及びカウンタ質量部mKが異なるのみであり、ハンマ体HM及び鍵10におけるその他の構成は全音域で共通、すなわち、全回動系Rで共通である。例えば、延設部材23の自由端部23aの横幅wHも同一である。
【0039】
具体的には、3つの音域間で、主質量部mH(mH1、mH2、mH3)の前後方向の位置は同じであるが、その質量は低音域KB1のものが最も大きく、mH1>mH2>mH3となっている。また、3つの音域間で、カウンタ質量部mK(mK1、mK2、mK3)の前後方向の位置は同じであるが、その質量は低音域KB1のものが最も大きく、mK1>mK2>mK3となっている。自由端部23aから下側ストッパ11に対してかかる荷重Fは、全回動系Rで共通となるように、各主質量部mH及びカウンタ質量部mKの質量が設定されている。これにより、下側ストッパ11への食い込み量の経年変化が全ハンマ体HMで均一となる。また、回動系R全体の、ハンマ回動軸PH周りの慣性モーメントは、低音域KB1のものが最も大きく、KB1>KB2>KB3となっている。これにより、各音域に適した押鍵時の重さの感触が得られる。
【0040】
本実施の形態によれば、3つの音域間で、回動系Rの、ハンマ回動軸PH周りの慣性モーメントを低音域KB1ほど大きくしたので、音域に応じた押鍵感触の相違を確保して、各音域に適した最適な押鍵感触を得ることができる。なおかつ、自由端部23aから下側ストッパ11に対してかかる荷重Fは全回動系Rで共通としたので、自由端部23aが幅細でありながら、下側ストッパ11への食い込み量の経年変化を均一化して、押鍵面10aの高さを長期に亘って均一に維持することができる。
【0041】
しかも、上記のような荷重Fと慣性モーメントの音域毎の各設定は、主質量部mH及びカウンタ質量部mKの各質量の設定により所望に実現できるので、構成が簡単である。
【0042】
なお、主質量部mHの質量の設定は、ハンマ体HMの自由端部23aの折り返しの長さによって調節するのが簡単であるが、これに限られず、別途の質量体を設けて調節してもよい。
【0043】
なお、本実施の形態では、カウンタ質量部mKの位置を同じとして質量を音域毎に異ならせたが、カウンタ質量部mKの前後方向の位置を音域毎に異ならせてもよい。図4は、変形例に係る鍵盤装置の模式的な平面図である。この変形例では、鍵10におけるカウンタ質量部mKの前後方向の位置が、低音域KB1のものが最も前方であり、高音域KB3のものが最も後方に配置される。カウンタ質量部mKの質量は共通である。自由端部23aから下側ストッパ11に対してかかる荷重Fは、図3の例と同じであり、全回動系Rで共通である。
【0044】
図4に示す変形例によれば、上記のような荷重Fと慣性モーメントの音域毎の設定を、同一質量のカウンタ質量部mKの前後方向の配置の設定により実現できるので、構成が簡単である。
【0045】
なお、図4に示す変形例において、主質量部mHの配置位置も音域毎に異ならせてもよい。その場合は、上記のような共通の荷重Fと音域毎に異なる慣性モーメントの各設定を、カウンタ質量部mKの質量と配置位置の組合せだけでなく、主質量部mHの質量及び配置位置の組合せをも併せた総合的な組合せにより、所望に設定することも可能である。
【0046】
なお、カウンタ質量部mKは、図1〜図4の例では鍵10に設けたが、これに限られず、図5(a)、(b)にカウンタ質量部mKの配置位置の変形例を例示するように、回動系Rのいずれかの適所に設けてもよい。
【0047】
すなわち、カウンタ質量部mKは、ハンマ体HMに、主質量部mHによるハンマ回動軸PHを中心とする回転モーメントと反対方向の回転モーメントを生じさせる位置に設ければよい。従って、例えば、図5(a)に示すように、ハンマ駆動片10bに設けてもよい。あるいは、図5(b)に示すように、ハンマ体HMにおいて、ハンマ回動軸PHよりも前方位置に設けてもよい。
【0048】
なお、上記荷重Fは、全回動系R間で完全共通であるのが好ましいが、少なくとも、隣接する回動系R間で略同一であればよい。その結果、最低音の回動系Rと最高音の回動系Rとで荷重Fに差が出て、経年変化により押鍵面10aの高さが不揃いとなったとしても、隣接する鍵10同士で生じる押鍵面10aの高さの差は僅かであるので、外観上及び演奏上の支障はほとんど生じない。
【0049】
(第2の実施の形態)
上記第1の実施の形態では、延設部材23の自由端部23aの横幅wH及び荷重Fを全回動系R間で共通としたが、本発明の第2の実施の形態では、音域毎にこれらを異ならせる。
【0050】
図6は、本発明の第2の実施の形態に係る鍵盤装置の模式的な平面図である。本実施の形態では、回動系Rにおいて、ハンマ体HMの延設部材23の自由端部23aの横幅wHが、低音域KB1のものが最も大きく、KB1>KB2>KB3となっている。主質量部mHの配置及び質量の設定は、第1の実施の形態(図3参照)と同一である。一方、回動系Rにおいて、カウンタ質量部mKは廃止されている。ハンマ体HM及び鍵10のその他の部分の構成は、第1の実施の形態のものと同様である。
【0051】
かかる構成により、回動系R全体の、ハンマ回動軸PH周りの慣性モーメントは低音域KB1のものが最も大きく、また、自由端部23aから下側ストッパ11に対してかかる荷重Fは、低音域KB1のものが最も大きく、それぞれKB1>KB2>KB3となっている。自由端部23aの横幅wHも低音域KB1のものほど大きいことから、自由端部23aと下側ストッパ11との接触面積が低音域KB1のものほど大きい。従って、荷重Fに差異があっても、自由端部23aの下側ストッパ11への食い込み量、及び食い込み量の経年変化については、3つの音域間で大差が生じることがない。
【0052】
本実施の形態によれば、各音域に適した最適な押鍵感触を得ると共に、押鍵面10aの高さを長期に亘って均一に維持することに関し、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0053】
なお、本実施の形態において、回動系R全体の、ハンマ回動軸PH周りの慣性モーメントを低音域KB1のものほど大きく設定し、且つ、自由端部23aの横幅wHが大きい回動系Rほど荷重Fを大きく設定するためには、図6の構成に限られず、図7(a)〜(c)に示す変形例を採用してもよい。
【0054】
例えば、図7(a)に示すように、低音域KB1、中音域KB2、高音域KB3間で、主質量部mHについては質量が同一であるが低音域KB1のものほど後方に配置する。自由端部23aの横幅wHについては、低音域KB1のものほど広く設定する。カウンタ質量部mKは設けない。この構成では、荷重F及び慣性モーメントの音域毎の設定は、図6に示す構成と同様となる。
【0055】
あるいは、図7(b)に示すように、低音域KB1、中音域KB2、高音域KB3間で、主質量部mH1、mH2、mH3の質量及び配置を同一とし、鍵10に設けるカウンタ質量部mKについては、配置位置が同一であるが、質量が低音域KB1のものほど大きく、mK1>mK2>mK3とする。自由端部23aの横幅wHについては、低音域KB1のものほど狭く設定する。
【0056】
この構成では、荷重Fは低音域KB1のものが最も小さいが、横幅wHも低音域KB1のものが最も小さいので、自由端部23aの下側ストッパ11への食い込み量、及び食い込み量の経年変化については、3つの音域間で大差が生じることがない。慣性モーメントについては、低音域KB1のものが最も大きい。
【0057】
あるいは、図7(c)に示すように、低音域KB1、中音域KB2、高音域KB3間で、主質量部mH1、mH2、mH3の質量及び配置を同一とし、鍵10に設けるカウンタ質量部mKについては、質量が同一であるが低音域KB1のものほど前方に配置する。自由端部23aの横幅wHについては、低音域KB1のものほど狭く設定する。この構成でも、荷重F及び慣性モーメントの音域毎の設定は、図7(b)に示す構成と同様となる。
【0058】
なお、本実施の形態(図6)及びその変形例(図7)では、延設部材23が丸棒であるので、延設部材23の自由端部23aの横幅wHが大きい回動系Rほど荷重Fもそれに応じて大きく設定した。しかし、下側ストッパ11への食い込み量をより正確に設計する観点からは、ハンマ体HMのうち非押鍵状態において下側ストッパ11に当接する部分(ハンマ当接部)の当接面積に応じて荷重Fを設定するのがよい。その場合、下側ストッパ11に当接する部分、例えば、自由端部23aの下面は、フラットに形成すれば、設計がしやすい。
【0059】
なお、カウンタ質量部mKを設ける場合(図7(b)、(c)参照)は、ハンマ体HMに生じさせる、ハンマ回動軸PHを中心とする回転モーメントが例示したものと同じであれば、鍵10に設けなくてもよく、図5(a)、(b)に例示したのと同様に、回動系Rのいずれかの適所に設けてもよい。
【0060】
なお、第1、第2の実施の形態では、回動系Rの違いにより音域を3つに分割したので、隣接する回動系R間で、慣性モーメントが異なって境目となっている箇所が2カ所であったが、3分割に限られない。例えば、2分割であってもよいし、4分割以上であってもよく、好ましくは、慣性モーメントを全回動系R間で異ならせて、低音側にいくにつれて漸次大きくなるように設定してもよい。
【0061】
なお、第2の実施の形態においても、上記のような音域毎に異なる荷重Fと慣性モーメントの各設定は、カウンタ質量部mKの質量及び配置位置、並びに主質量部mHの質量及び配置位置の総合的な組合せにより実現可能である。
【0062】
なお、第1、第2の実施の形態において、鍵10は、鍵回動軸PKを中心として回動自在であったが、これに限られず、薄板状のヒンジ部を介して基端部に接続されて、ヒンジ部の弾性によってヒンジ部を支点として先端部が上下に揺動する構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る鍵盤装置の縦断面図である。
【図2】図1に示した本鍵盤装置の1つの鍵の模式的な平面図(図(a))、本鍵盤装置の主要部の側面図(図(b))である。
【図3】本鍵盤装置の模式的な平面図である。
【図4】第1の実施の形態の変形例に係る鍵盤装置の模式的な平面図である。
【図5】カウンタ質量部の配置位置の変形例を示す鍵盤装置の模式的な側面図((a)、(b))である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る鍵盤装置の模式的な平面図である。
【図7】第2の実施の形態の変形例に係る鍵盤装置の模式的な平面図(図(a)〜(c))である。
【符号の説明】
【0064】
10 鍵、 11 下側ストッパ(ハンマストッパ部)、 23a 自由端部(ハンマ当接部)、 HM ハンマ体、 R 回動系、 mH 主質量部、 mK カウンタ質量部、 PH ハンマ回動軸(ハンマ支点)、 F 荷重

【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列的に配設され、押鍵されて回動する複数の鍵と、該各鍵に1対1に対応し、対応する鍵と常時係合してハンマ支点を中心に連動して回動する複数のハンマ体とから構成され、1つの鍵とそれに対応する1つのハンマ体とで1つの回動系を構成する複数の回動系と、
前記各ハンマ体の、前記ハンマ支点よりも自由端部側に設けられた主質量部と、
前記各回動系のいずれかの箇所に設けられ、前記主質量部により前記ハンマ体に生じる前記ハンマ支点を中心とする回転モーメントと反対方向の回転モーメントを前記ハンマ体に生じさせるためのカウンタ質量部と、
非押鍵状態において前記ハンマ体の前記ハンマ支点よりも前記自由端部側であるハンマ当接部と当接して該ハンマ体の回動初期位置を規制するハンマストッパ部とを有し、
隣接する回動系間で、前記主質量部及び前記カウンタ質量部を含めた各回動系の自重による前記ハンマ支点周りの慣性モーメントが異なって境目となっている箇所が少なくとも1つ存在すると共に、
非押鍵状態において前記ハンマ当接部から前記ハンマストッパ部にかかる荷重が、隣接する回動系間で略同一であることを特徴とする鍵盤装置。
【請求項2】
前記境目で隣接する低音側の回動系の方が、高音側の回動系よりも、前記ハンマ支点周りの慣性モーメントが大きいことを特徴とする請求項1記載の鍵盤装置。
【請求項3】
前記境目で隣接する回動系間で、前記カウンタ質量部の質量及び前後方向の位置の少なくとも一方が異なっていることを特徴とする請求項1または2記載の鍵盤装置。
【請求項4】
並列的に配設され、押鍵されて回動する複数の鍵と、該各鍵に1対1に対応し、対応する鍵と常時係合してハンマ支点を中心に連動して回動する複数のハンマ体とから構成され、1つの鍵とそれに対応する1つのハンマ体とで1つの回動系を構成する複数の回動系と、
前記各ハンマ体の、前記ハンマ支点よりも自由端部側に設けられた主質量部と、
非押鍵状態において前記ハンマ体の前記ハンマ支点よりも前記自由端部側であるハンマ当接部と当接して該ハンマ体の回動初期位置を規制するハンマストッパ部とを有し、
非押鍵状態における各ハンマ体の前記ハンマ当接部と前記ハンマストッパ部との当接面積に応じて、前記各ハンマ体の前記ハンマ当接部から前記ハンマストッパ部にかかる荷重が設定されたことを特徴とする鍵盤装置。
【請求項5】
前記ハンマ当接部と前記ハンマストッパ部との当接面積が異なっている回動系間で、前記主質量部の質量及び前後方向の位置の少なくとも一方が異なっていることを特徴とする請求項4記載の鍵盤装置。
【請求項6】
前記各回動系のいずれかの箇所に設けられ、前記主質量部により前記ハンマ体に生じる前記ハンマ支点を中心とする回転モーメントと反対方向の回転モーメントを前記ハンマ体に生じさせるためのカウンタ質量部を有し、前記ハンマ当接部と前記ハンマストッパ部との当接面積が異なっている回動系間で、前記主質量部の質量及び配置が同一であり、且つ、前記カウンタ質量部の質量及び前後方向の位置の少なくとも一方が異なっていることを特徴とする請求項4記載の鍵盤装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−25536(P2009−25536A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188262(P2007−188262)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】