説明

鍵盤装置

【課題】鍵の操作に対する力覚制御と発生する楽音に応じた振動の付与との両方を行うことができる電子鍵盤楽器の提供。
【解決手段】鍵20の押離鍵過程において鍵20に対して直接的に駆動力を付与する電磁アクチュエータ40と、電磁アクチュエータ40で付与する駆動力を制御する制御手段と、を備えた電子鍵盤楽器において、電磁アクチュエータ40で鍵20に付与する駆動力fは、鍵20のストローク位置及び発音状態に応じて算出した力覚用の駆動力F1と振動用の駆動力F2とを合算した駆動力とした。振動用の駆動力F2は、押鍵過程において鍵20に対応する楽音の発音が開始された時点、及び離鍵過程において鍵20に対応する楽音の発音を停止する止音時から所定時間が経過するまでの間などに発生させる。これにより、アコースティックピアノにおける弦振動に基づく鍵振動を再現するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子鍵盤楽器などが備える鍵盤装置に関し、特に、鍵の操作感覚及び動作を制御するための力覚制御及び動作制御の機能を備えた鍵盤装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アコースティックピアノなど生音を発生する自然鍵盤楽器の鍵盤ユニットは、押鍵により回動するハンマーが打弦して発音するように構成されており、鍵とハンマーの間には、ジャックやウィッペンを有してなるアクション機構が設けられている。このアクション機構によって、演奏者の指に鍵から独特の反力が掛かるようになっており、自然鍵盤楽器の鍵盤ユニットでは、各楽器に特有の鍵タッチ感が得られる。
【0003】
一方、電子音を発生する電子鍵盤楽器の鍵盤ユニットは、押鍵時に鍵を初期位置に復帰させるスプリングや質量体(擬似ハンマー)などを備えており、それらの反力によって自然鍵盤楽器の鍵タッチ感を模擬している。しかしながら、電子鍵盤楽器は、押鍵により電子音を発生させる装置であり、実際に打弦して発音する機構を有しないので、自然鍵盤楽器のような複雑なアクション機構がない。そのため、自然鍵盤楽器のアクション機構で生じる鍵タッチ感を忠実には再現しきれず、電子鍵盤楽器の鍵タッチ感は、厳密には自然鍵盤楽器の鍵タッチ感とは異なるものとなっている。
【0004】
そこで、電子鍵盤楽器では、自然鍵盤楽器に近い鍵動作あるいは鍵タッチ感を得ることを目的として、押鍵に対する反力を変化させる鍵駆動装置や制御装置(力覚制御手段)が提案されている。これに関して、特許文献1に記載の鍵盤装置は、押鍵方向バネと離鍵方向バネとにより、鍵が押鍵方向と離鍵方向の双方向に付勢されてレスト位置にバランスされていると共に、当該鍵を駆動する双方向駆動型の電磁アクチュエータを備えている。したがって、鍵を双方向駆動型の電磁アクチュエータで駆動することで、押鍵操作に対する力覚制御と自動演奏の両方を可能としている。
【0005】
一方、アコースティックピアノでは、鍵が押された際、当該鍵に対応するハンマーが弦を叩くことで所定の楽音が発生するようになっているが、このとき、弦の振動が鍵に伝達されて鍵が振動する。この振動は、鍵を操作する演奏者の指に伝わる。このような弦からの振動は、押鍵時だけでなく、離鍵時にダンパーが弦に当接して止音される際にも、ハンマーを経由して鍵に伝わる。これらの発音に伴う振動は、アコースティックピアノなどの自然鍵盤楽器に独特のものである。そこで、電子鍵盤楽器においてこれらの振動を再現するための従来技術として、特許文献2,3に記載の鍵盤装置がある。特許文献2に記載の鍵盤装置は、鍵盤の下方全体を覆う薄い金属振動板の左右両端にドライバを取り付け、音源から出力される楽音信号をこのドライバに出力するように構成したものである。また、この鍵盤装置では、鍵盤全体を4区域に分け、各区域にドライバを取り付けた振動板を配置し、楽音信号を各音域に応じたフィルタを通してドライバに出力するように構成している。また、特許文献3に記載の鍵盤装置は、鍵の下面側を覆うフレームに振動発生器を取り付け、各鍵に対応する複数のキースイッチの少なくとも1つが作動したときに機械振動を発生させるように構成している。
【0006】
しかしながら、特許文献2,3の鍵盤装置では、鍵に対して振動を付与するための振動板と振動発生手段とを備えている。そのため、振動板及び振動発生手段によって鍵盤装置の部品点数が増え、構成の複雑化につながるおそれがある。また、これらの鍵盤装置では、低音域から高音域に配列した複数の鍵それぞれに付与する振動の振幅・周波数に変化をつけるためには、複数の振動板を設置する必要がある。そうすると、振動板の数が多くなり、部品点数の増加につながる。さらに、低音域の鍵に特徴的である止音時にダンパーが弦振動を止める振動を再現しようとする場合、対象となる低音域の鍵に対してのみ選択的に当該振動を付与できるように構成することが困難であった。
【0007】
そのうえ、これら特許文献2,3に記載の鍵盤装置は、いずれも鍵に対して発生する楽音に基づいた振動のみを付与する構成であって、鍵に対して力覚制御用の荷重を付加するための構成は備えておらず、鍵の力覚制御を行うものではない。
【0008】
これに対して、特許文献4に記載の電子鍵盤楽器では、鍵を電磁的に駆動する駆動手段を備えており、当該駆動手段によって、鍵の操作に対する力覚制御と、発生する楽音に応じた振動の付与との両方を行うように構成している。この鍵盤装置によれば、鍵の操作に対する力覚制御と、発生する楽音に応じた振動の付与との両方を行うことで、より自然鍵盤楽器に近い鍵の操作感覚を得られるようになる。
【0009】
しかしながら、特許文献4に記載の電子鍵盤装置では、鍵を駆動する駆動装置は、フレームに取り付けた電磁石で鍵側に固定した永久磁石に駆動力を付与する構成である。すなわち、鍵に対して非接触でいわば間接的に駆動力を付与する構成である。したがって、鍵に対して駆動力及び振動を直接的に付与することができず、駆動力や振動の伝達効率があまり良くなく、十分な振動エネルギーを伝達させるためには大電力を要するという問題がある。また、消費電力を少なく抑えようとすると、自然鍵盤楽器に近い鍵の操作感覚を良好に得ることができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許3644136号公報
【特許文献2】特開2008−46370号公報
【特許文献3】特許2808617号公報
【特許文献4】特開2006−243584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡単な構成で、鍵に対して直接的に駆動力を付与でき、鍵の操作に対する力覚制御と発生する楽音に応じた振動の付与との両方を行うことができる電子鍵盤楽器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明にかかる電子鍵盤楽器は、複数の鍵(20)を有する鍵盤(10)と、前記鍵(20)の操作に応じた楽音を発音する発音手段(50,64,65)と、前記鍵(20)の押離鍵過程において電磁アクチュエータ(40)で前記鍵(20)に対して直接的に駆動力を付与する駆動力付与手段(40,42)と、前記駆動力付与手段(40,42)で付与する駆動力を制御する制御手段(50)と、を備え、前記制御手段(50)は、前記複数の鍵(20)それぞれの押離鍵動作におけるストローク位置に対応する力覚値を格納した力覚付与テーブル(80)と、前記力覚付与テーブル(80)に基づいて前記鍵(20)に付加するための力覚用の駆動力(F1)を算出する力覚値算出手段(51)と、前記複数の鍵(20)それぞれに対して所定の振動を付与するための振動付与テーブル(90)と、前記振動付与テーブル(90)に基づいて前記鍵(20)に付加するための振動用の駆動力(F2)を算出する振動値算出手段(51)と、を含み、前記駆動力付与手段(40、42)で前記鍵(20)に付与する駆動力(f)は、前記鍵(20)のストローク位置及び前記発音手段による発音状態に応じて、前記力覚値算出手段(51)で算出した力覚用の駆動力(F1)と、前記振動値算出手段(51)で算出した振動用の駆動力(F2)とを合算した駆動力であることを特徴とする。
【0013】
本発明にかかる電子鍵盤楽器によれば、駆動力付与手段で鍵に付与する駆動力は、鍵のストローク位置及び発音手段による発音状態に応じて、力覚値算出手段で算出した力覚用の駆動力と、振動値算出手段で算出した振動用の駆動力とを合算した駆動力なので、電磁アクチュエータの駆動で、鍵操作に対する力覚を生じさせることができると共に、押鍵過程及び離鍵過程における発音・止音に伴う振動を鍵に直接付加することができる。したがって、演奏操作に対する力覚制御を行うことができると共に、演奏者の指に発音又は止音に伴う振動を知覚させることができる。これにより、電子鍵盤楽器の鍵盤に対して、アコースティックピアノの演奏時に感じるアクション機構による力覚だけでなく、響板や弦の振動に起因する振動も再現できるので、より忠実なタッチ感を演出することができる。
また、本発明にかかる電子鍵盤楽器によれば、上記の力覚制御のための駆動力と振動発生用の駆動力とを共通の電磁アクチュエータで発生させることができる。そしてこの電磁アクチュエータは、鍵に対して直接的に駆動力を付与する構成である。したがって、電子鍵盤楽器の構成を簡単にしながらも、鍵に対して力覚制御のための駆動力と振動発生用の駆動力との両方を良好に付与することができる。
【0014】
また、上記の電子鍵盤楽器では、前記鍵(20)の押鍵過程において、前記振動用の駆動力(F2)は、前記発音手段(50,64,65)で該鍵(20)に対応する楽音の発音が開始された時点で発生させるとよい。これによれば、アコースティックピアノにおける押鍵時に発音が開始された時点でハンマーによる打弦でアクション機構を介して鍵に伝達される弦の振動を、電子鍵盤楽器で忠実に再現することが可能となる。
【0015】
あるいは、前記鍵(20)の押鍵過程において、前記振動用の駆動力(F2)は、前記鍵(20)のストロークがエンド位置に達した時点で発生させるとよい。これによれば、アコースティックピアノにおける押鍵時に鍵が棚板に当接するエンド位置に達した時点でアクション機構を介して鍵に伝達される響板などの振動を、電子鍵盤楽器で忠実に再現することが可能となる。
【0016】
あるいは、前記鍵(20)の離鍵過程において、前記振動用の駆動力(F2)は、前記発音手段(50,64,65)で該鍵(20)に対応する楽音の発音を停止する止音時に発生させ、該止音時から所定時間(T0)が経過するまで継続させるとよい。そして、この場合の所定時間(T0)は、前記鍵(20)に対応する楽音又は前記鍵(20)が属する音域に応じて重み付けがなされた時間であるとよい。これによれば、アコースティックピアノの離鍵時にダンパーフェルトが弦に当接する位置に達した時点で、ダンパー及びアクション機構を介して鍵に伝達される弦の振動を、電子鍵盤楽器で忠実に再現することが可能となる。また、当該振動の継続時間は、鍵に対応する音階又は鍵が属する音域に応じて重み付けがされた時間であれば、アコースティックピアノの各鍵における弦振動に基づく鍵振動をより忠実に再現することができる。
【0017】
また、上記の電子鍵盤楽器では、前記鍵(20)は、支点(12)を中心に回動可能に支持されており、前記鍵(20)に連動して該鍵(20)にその押離鍵操作に対する反力を与える質量体(30)と、前記鍵(20)と前記質量体(30)との間に配置されて前記鍵(20)と前記質量体(30)の一方からの駆動力を他方に伝達する伝達部材(42)と、を備え、前記電磁アクチュエータは、前記伝達部材(42)を駆動することで、前記鍵(20)及び前記質量体(30)に対して直接的に駆動力を付与するようにしてよい。この構成によれば、アコースティックピアノにおける押鍵時あるいは離鍵時にハンマーや質量体などアクション機構の各部に伝わる振動をより忠実に再現することが可能となるので、電子鍵盤楽器において、自然鍵盤楽器により近い鍵振動を創生することができる。
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態の説明において対応する構成要素に付した符号を本発明の一例として示したものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる電子鍵盤楽器によれば、簡単な構成で、鍵に対して直接的に駆動力を付与でき、鍵の操作に対する力覚制御と発生する楽音に応じた振動の付与との両方を効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態にかかる鍵盤装置を備えた電子鍵盤楽器の全体構成例を示すブロック図である。
【図2】鍵盤装置を示す図であり、鍵及びその周辺の構成部品を示す概略側面図である。
【図3】電磁アクチュエータ及びその周辺の詳細構成を示す部分拡大側面図である。
【図4】鍵及び質量体の動作を説明するための図で、(a)は、鍵が非押鍵位置にある状態、(b)は、鍵が押鍵位置にある状態を示す図である。
【図5】(a)は、駆動制御回路を含む鍵盤装置の概略構成を示す図、(b)は、力覚付与テーブルを示す図である。
【図6】アコースティックピアノのアクション機構を示す図である。
【図7】アコースティックピアノにおける鍵操作に対する反力(静的反力)の特性を示すグラフである。
【図8】力覚付与テーブルの具体的内容の一例を示す図で、(a)は、押鍵用指示値テーブル、(b)は、離鍵用指示値テーブルである。
【図9】指示値テーブルによる反力プロファイルを示すグラフであり、(a)は、押鍵用反力プロファイル、(b)は、離鍵用反力プロファイルである。
【図10】振動パラメータの具体的内容の一例を示す図で、(a)は、発音時の振動パラメータの表、(b)は、止音時の振動パラメータの表である。
【図11(a)】鍵に対する駆動力付与の手順を説明するためのフローチャートである。
【図11(b)】鍵に対する駆動力付与の手順を説明するためのフローチャートである。
【図12】押鍵開始からの経過時間と押鍵操作をする指にかかる反力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる鍵盤装置を備えた電子鍵盤楽器の全体構成を示すブロック図である。同図に示す電子鍵盤楽器1は、後述する複数の鍵20を有してなる鍵盤装置10と、ペダル装置52と、鍵盤装置10やペダル装置52を含む電子鍵盤楽器1の全体を制御するための主制御部50とを備えている。鍵盤装置10とペダル装置52及び主制御部50など電子鍵盤楽器1の各部は、バス51を介して互いに接続されている。
【0021】
図2は、鍵盤装置10を示す図であり、鍵20及びその周辺の概略側面図である。また、図3は、鍵盤装置10が備える後述する電磁アクチュエータ40及びその周辺の詳細構成を示す部分拡大側面図である。また、図4は、鍵盤装置10の動作を説明するための図で、(a)は、鍵20が非押鍵位置にある状態を示し、(b)は、鍵20が押鍵位置にある状態を示している。鍵盤装置10は、電子鍵盤楽器1の一部である平板状のフレーム11と、それぞれがフレーム11に対して回動可能に支持された鍵20及び質量体(擬似ハンマー)30と、鍵20と質量体30の間に設置した電磁アクチュエータ(駆動力付与手段)40とを備えて構成されている。なお、以下の説明では、鍵20の長手方向における両側のうち、電子鍵盤楽器1の演奏者の側を手前あるいは前といい、その反対側を奥あるいは後という。なお、図2では、鍵盤装置10が備える並設された複数の鍵20のうち、1個の鍵20及びその周辺の構成部品を示している。また、同図では、鍵20が白鍵である場合を示しているが、黒鍵の場合も同様の構成になっている。なお、図示は省略するが、鍵盤装置10には、鍵20の動作に応じた楽音を発生させるように、鍵20の動作を電気的な出力に変換するためのキースイッチ16が設けられている。このキースイッチ16は、複数接点からなる時間差スイッチによるタッチレスポンススイッチであってよい。また、このキースイッチ16は、押鍵行程の途中でオンされるものであるが、このオンに基づいて後述する力覚を発生させるようにしてもよいし、押鍵の初期段階で力覚を発生させる場合は、全行程センシングセンサに代えて、所定の位置に応じて力覚を発生させるように構成してもよい。また、後述の位置センサ47をキースイッチの代わりに使用してもよい。
【0022】
鍵20は、前後方向の中間の位置がフレーム11上の鍵支点部材12に支持されている。鍵支点部材12は、フレーム11上で鍵20の配列方向に沿って延びるバランスレール12aの上に立設した支点ピン12bを備えており、鍵20は、支点ピン12bに支持されている。鍵20は、前端20a及び後端20bが支点ピン12bを中心に上下方向へ回動可能であり、演奏者による押鍵部20cへの押鍵操作に応じて回動するようになっている。また、鍵20の前端20aの下方には、フロントピン13が立設されている。フロントピン13は、その上端が鍵20の裏面側に挿入されており、回動する鍵20の前端20aの横方向の振れを規制するものである。
【0023】
鍵20の後端20bの下方には、鍵上限ストッパー21が設置されており、前端20aの下方には、鍵下限ストッパー22が設置されている。鍵上限ストッパー21及び鍵下限ストッパー22は、いずれもフレーム11の上面に固定されたフェルトなどの緩衝材を備えて構成されている。鍵上限ストッパー21は、図4(a)に示す非押鍵位置にある鍵20の後端20bの下面に当接し、鍵20の回動を非押鍵位置で規制する。一方、鍵下限ストッパー22は、図4(b)に示す押鍵位置にある鍵20の前端20aの下面に当接し、鍵20の回動を押鍵位置で規制する。
【0024】
また、鍵支点部材12より後方のフレーム11上には、質量体30を支持するための柱状の支持部14が設けられている。支持部14は、フレーム11上で隣接する鍵20の間から各鍵20の真上に張り出している。この支持部14は、所定間隔で前後に配置された前壁14aと後壁14bを備えている。前壁14aと後壁14bは、いずれも垂直に立設されて、鍵20よりも高い位置まで延びている。
【0025】
支持部14に支持された質量体30は、各鍵20に対応して設置されており、鍵支点部材12よりも後側の真上位置に設置されている。質量体30は、支持部14の前壁14aの上端に設けた質量体支点31から後方に延びる直線棒状のシャンク部32と、該シャンク部32の先端に取り付けた所定の質量を有する質量部(錘)33とを備えて構成されている。シャンク部32は、質量体支点31に回動自在に支持されており、鍵20の長手方向に沿う垂直面内で上下に回動するようになっている。質量部33は、シャンク部32の先端においてその回動方向に沿って延びる棒状に形成されている。この質量体30は、質量体支点31を中心にシャンク部32を腕として質量部33が鍵20の後端近傍の上方で上下方向に回動するようになっている。
【0026】
支持部14の後壁14bには、質量体30の回動を規制するための質量体上限ストッパー34及び質量体下限ストッパー35が設けられている。質量体下限ストッパー35は、下限位置に回動した質量体30のシャンク部32を当接させるものであり、質量体上限ストッパー34は、上限位置に回動した質量体30のシャンク部32を当接させるものである。これら質量体下限ストッパー35及び質量体上限ストッパー34によって、質量体30は、図4(a)に示すように、シャンク部32が質量体支点31から後側の斜め下方向に延びる下限位置と、図4(b)に示すように、シャンク部32が質量体支点31から後側の略水平方向に延びる上限位置との間で回動するように規制される。質量体30は、後述するプランジャ42を介して鍵20の動作に連動するようになっており、電磁アクチュエータ40との協働によって、鍵20にその演奏操作に対する反力を与えるものである。
【0027】
鍵20及び質量体30に所定の駆動力を付与するための電磁アクチュエータ(駆動力付与手段)40は、鍵支点部材12より後側の鍵20の上面と、質量体30のシャンク部32との間に設置されている。電磁アクチュエータ40は、双方向駆動型のアクチュエータであり、上下に同軸状に並べて設置した往動コイル41a及び復動コイル41bの二個のソレノイドコイルと、往動コイル(上ソレノイド)41a及び復動コイル(下ソレノイド)41bの内側に嵌挿された1本のプランジャ42とを備えて構成されている。また、往動コイル41a及び復動コイル41bの外周には、それらを囲むヨーク40a,40bが設置されている。
【0028】
ヨーク40a,40bは、その後側面が平板状のプレート15を介して支持部14の後壁14bの前面に固定されている。したがって、往動コイル41a及び復動コイル41bは、固定側である支持部14及びフレーム11に対して固定されている。プランジャ42は、往動コイル41a及び復動コイル41bの内側で上下方向に摺動(往復動)自在に設置された柱状の強磁性体からなる胴部42aと、胴部42aの上端に連結した第1ロッド42b及び下端に連結した第2ロッド42cを備えている。胴部42aと第1ロッド42b及び第2ロッド42cの軸芯は、垂直方向に向かって一直線状に配列されている。第1ロッド42bの上端には、後述する位置センサ47を取り付けるための平板状の板部材43が固定されている。板部材43は、合成樹脂材などからなる比較的軽量な部材で、第1ロッド42bの上端に固定された水平面状の本体部43aと、該本体部43aの前端から垂直下方に延びる前辺43bとを有し、横断面が略L字型に形成されている。板部材43の本体部43aの上面には、水平面状の上面を有する台部材44が固定されている。一方、質量体30のシャンク部32における台部材44に対向する位置には、円筒状のローラ36が取り付けられている。ローラ36は、軸方向が鍵20の配列方向に沿う水平向きで、下側面(円筒面)が台部材44の上面に当接している。一方、プランジャ42の第2ロッド42cの下端には、緩衝及び摺動作用を有するキャップ状のカバー部材45が取り付けられており、カバー部材45の下端が対向する鍵20の上面に設けたスクリュー(ネジ)25の頭部に当接して載置される。
【0029】
上記のプランジャ42(胴部42a、第1ロッド42b、第2ロッド42c)及び板部材43と台部材44とで、鍵20と質量体30のいずれか一方からの負荷(質量による荷重負荷あるいは回動動作に伴う慣性負荷)を他方に伝達するためのプランジャ42が構成されている。プランジャ42は、質量体30の自重による負荷で、質量体30と鍵20の間に挟まれた状態で配置されている。
【0030】
電磁アクチュエータ40は、往動コイル41a及び復動コイル41bに駆動電流が供給されることで、プランジャ42(プランジャ42)を双方向へ駆動するようになっている。すなわち、復動コイル41bに駆動電流が供給されると、プランジャ42は下側へ移動する。これにより、プランジャ42から鍵20の鍵支点部材12よりも後側に対して下向きの荷重が付与されるので、鍵20の離鍵方向へかかる荷重が増加する。一方、往動コイル41aに駆動電流が供給されると、プランジャ42は上側へ移動する。これにより、プランジャ42から鍵20の支点ピン12bよりも後側に対して下向きにかかる荷重が軽減されるので、鍵20の離鍵方向へかかる荷重が減少する。
【0031】
すなわち、鍵20は、プランジャ42を介して質量体30からかかる荷重(質量体30の質量による荷重)で離鍵方向へ付勢されており、該鍵20は、電磁アクチュエータ40の駆動による質量体30からの荷重の低減に伴い、押鍵方向に回動するように構成されている。この場合、鍵20は、非押鍵時には、自重による押鍵方向への付勢力よりも質量体30からの離鍵方向への荷重の方が大きいため、押鍵方向への付勢力が打ち消された状態で離鍵位置に停止している。そして、電磁アクチュエータ40の駆動力による質量体30からの荷重の低減に伴い、鍵20の自重による押鍵方向への付勢力が次第に質量体30からの離鍵方向への荷重よりも大きくなることで、押鍵位置へ回動するようになっている。
【0032】
ここで、鍵20と質量体30はそれぞれ、支点ピン12bと質量体支点31を中心とした回動動作を行う一方、プランジャ42(プランジャ42)は、往動コイル41a及び復動コイル41bの内側で軸方向に直動動作を行う。したがって、鍵20、質量体30、プランジャ42が一体的に動作する際には、プランジャ42の上端(台部材44の上面)と質量体30のローラ36が当接する第1当接部48では、上下に直動するプランジャ42の上端が、質量体30の動作に伴って回動するローラ36の側面に対して摺接移動する。また、同様に、プランジャ42の下端と鍵20のスクリュー25が当接する第2当接部49では、上下に直動するプランジャ42の下端が鍵20の動作に伴って回動するスクリュー25の上面に対して摺接移動する。
【0033】
また、本実施形態の鍵盤装置10では、プランジャ42は、鍵20または質量体30に対してそれらの動作に応じて分離可能な状態で当接しているとよい。ここでいう分離可能な状態での当接とは、通常の鍵20及び質量体30の動作のときは、プランジャ42は、その両端が鍵20及び質量体30に常に当接してそれらと一体に動作するようになっているが、鍵20が強い力で急激に押鍵されたり、非常に早い速度で押鍵あるいは離鍵された場合、プランジャ42に生じる加速度と鍵20あるいは質量体30に生じる加速度との方向が異なると、瞬間的にプランジャ42と鍵20との間、又はプランジャ42と質量体30との間が離れることがあることを示す。なお、プランジャ42と鍵20または質量体30とは必ずしも分離可能である必要はなく、プランジャ42から鍵20または質量体30への動力伝達が可能な構成でさえあれば、プランジャ42と鍵20または質量体30とが分離不能な状態で連結(リンク接合など)されていてもよい。
【0034】
また、鍵盤装置10には、プランジャ42(プランジャ42)の位置を検出するための位置センサ(動作検出手段)47が設置されている。位置センサ47は、図3に示すように、ヨーク40a,40bの前側面に設けた発光部と受光部とが交互に隣接配置された光センサ47aと、板部材43の前辺43bにおける光センサ47aに対向する位置に設けた反射面47bとを備え、反射面47bで反射した光を光センサ47aで受光するように構成した反射式センサである。反射面47bは、上下方向の各位置の反射光量が連続的に変化するように構成されている。したがって、光センサ47aの出力信号に基づいてプランジャ42の位置を一義的に特定できる。
【0035】
なお、位置センサ47は、プランジャ42(プランジャ42)の位置を検出できるものであれば、上記のような反射式センサ以外にも、図示は省略するが、他の構成の光学式センサや、光学式以外のセンサでもよい。また、位置センサ47に代えて、位置検出用のスイッチなどを設置してもよい。またここでは、プランジャ42の動作を検出する動作検出手段の一例として、位置を検出する位置センサ47を設置しているが、それ以外にも、プランジャ42の速度、加速度などを検出する速度センサ、加速度センサのいずれか、あるいはこれらの複数を設置することも可能である。
【0036】
またここでは、プランジャ42の動作(変位や速度など)を検出し、当該検出結果にもとづいて鍵20の位置(押鍵量)や速度の情報を取得して、電磁アクチュエータ40の駆動制御を行うように構成している。しかしながら、これ以外にも、鍵20あるいは質量体30の動作(位置、速度、加速度など)を検出する動作検出手段を備え、当該動作検出手段で検出した鍵20あるいは質量体30の動作に基づいて、電磁アクチュエータ40の駆動制御を行うようにしてもよい。さらに、プランジャ42、鍵20、質量体30の少なくともいずれかの動作を検出する一又は複数の動作検出手段を備え、当該一又は複数の動作検出手段のいずれかを電磁アクチュエータ40の駆動制御用とし、他の動作検出手段を電子音源の発音制御用として使用することも可能である。もちろん、一の動作検出手段を駆動制御用と発音制御用の両方に兼用することも可能である。
【0037】
次に、図1に示す主制御部50について説明する。主制御部50は、CPU51、ROM52、RAM53、フラッシュメモリ(EEPROM)54を備えている。また、CPU51にはタイマ55が接続されている。CPU51は、鍵盤装置10を含む電子鍵盤楽器1全体の制御を司る。なお、CPU51は、後述するように、力覚付与テーブル80に基づいて鍵20に付加するための力覚用の駆動力F1を算出する力覚値算出手段、及び振動付与テーブル90に基づいて鍵20に付加するための振動用の駆動力F2を算出する振動値算出手段として機能する。ROM52やフラッシュメモリ54には、CPU51が実行する制御プログラムや各種テーブルデータのほか、後述する力覚付与テーブル80、振動パラメータ90及び自動演奏データ85が記憶されている。RAM53は、演奏データ、テキストデータなどの各種入力情報、各種フラグやバッファデータ及び演算処理結果などを一時的に記憶する。タイマ55は、タイマ割り込み処理における割り込み時間などの各種時間を計時する。
【0038】
また、電子鍵盤楽器1には、主制御部50のほか、設定操作部61、表示装置63、音声出力部65、外部記憶装置66、HDD67、通信インターフェイス68、MIDIインターフェイス69などが設けられている。通信インターフェイス68には、外部装置71を接続でき、MIDIインターフェイス69には、MIDI機器72を接続できる。また、通信インターフェイス68は、インターネットなどの通信ネットワーク73を介して外部のサーバ装置74との間で通信を行えるようになっている。設定操作部61には、演奏者が設定操作情報を入力するために用いる不図示の各種スイッチなどが含まれ、スイッチの操作による信号がCPU51に供給されるようになっている。外部記憶装置66やHDD67は、上記の制御プログラムを含む各種アプリケーションプログラムや各種楽曲データなどを記憶するものである。表示装置63は、表示制御回路62を介してバス51に接続されており、音声出力部65は、音源回路64を介してバス51に接続されている。
【0039】
図5(a)は、鍵20の駆動を制御するための駆動制御回路を含む鍵盤装置10の概略構成を示す図であり、(b)は、力覚付与テーブル80を示す概念図である。図5(a)に示すように、鍵盤装置10の駆動制御回路は、主制御部50と、主制御部50の指令に応じて電磁アクチュエータ40の往動コイル41a又は復動コイル41bに駆動用のPWM(パルス幅変調)信号を出力する制御ドライバ58及びPWMスイッチング回路59を備えている。主制御部50は、図1に示す構成であって、力覚付与テーブル80及び振動パラメータ(振動付与テーブル)90と、自動演奏データ85とを記憶したROM52を備えている。力覚付与テーブル80は、電磁アクチュエータ40が発生すべき力覚制御用の駆動力のパターンを格納したテーブルである。この力覚付与テーブル80には、押鍵用テーブル81と離鍵用テーブル82が用意されており、さらに押鍵用テーブル81と離鍵用テーブル82はそれぞれ、発生すべき駆動力のパターンを記憶した駆動力パターンテーブル81a,82aと、当該駆動力を発生させるための指示値を記憶した指示値テーブル81b,82bとからなる。なお、上記の力覚付与テーブル80に含まれる各テーブルの内容は、複数の鍵20のうちいずれかに対応するものを例示的に示したものであり、実際の各テーブルの具体的な数値は、鍵20ごとに異なるものである。また、振動パラメータ90は、電磁アクチュエータ40が発生すべき鍵20に対する振動付加用の駆動力の算出に用いるパラメータである。上記の指示値テーブル81b,82b及び振動パラメータ90の具体的内容及びそれらを用いた駆動力の算出方法については、後述する。
【0040】
位置センサ47によって検出された鍵20の位置及び動作に関する情報は、主制御部50に出力されるようになっている。主制御部50からの制御信号は、制御ドライバ58及びPWMスイッチング回路59に入力される。制御ドライバ58及びPWMスイッチング回路59は、主制御部50からの制御信号に基づいて、電磁アクチュエータ40の往動コイル41a又は復動コイル41bに駆動電流を供給する。この駆動電流は、グランド(G)と所定電圧(+)とが交互に切り換わるPWM信号によって発生する電流で、デューティ比を変更制御することにて、任意の駆動力を発生することができるようになっている。
【0041】
次に、上記構成の鍵盤装置10の動作について説明する。鍵20は、鍵支点部材12の前後の質量(自重)バランスによって生じる押鍵方向への付勢力と、プランジャ42を介してかかる質量体30からの荷重との大小関係によって、押鍵力が作用していない状態では、後端20bの下面が鍵上限ストッパー21に当接し、前端20aの押鍵部20cが最上位置に上昇しており、図4(a)に示す非押鍵位置にある。このとき、質量体30は、シャンク部32が質量体下限ストッパー35に当接した下限位置にある。一方、非押鍵位置にある鍵20が押鍵操作されると、鍵20は、プランジャ42を介して質量体30を押し上げながら支点ピン12bを中心に押鍵方向へ回動する。こうして、前端20aの下面が鍵下限ストッパー22に当接する位置まで回動し、図4(b)に示す押鍵位置となる。鍵20が押鍵位置のとき、プランジャ42を介して鍵20によって押し上げられた質量体30は、シャンク部32が質量体上限ストッパー34に当接する上限位置にある。そして、鍵20に対する押鍵力が解除されると、鍵20には、自重で下方へ回動する質量体30からプランジャ42を介して荷重が加わる。鍵20は、この荷重と自重バランスとの両方によって非押鍵位置へ復帰する。
【0042】
このような質量体30の慣性質量を利用した鍵20の動作が行われる際に、電磁アクチュエータ40でプランジャ42を双方向へ駆動することで、鍵20の演奏操作に対してかかる反力をアシストあるいは軽減することができる。したがって、主制御部50により電磁アクチュエータ40の駆動を制御することで、押鍵操作に対する力覚制御を行うことができる。それに加えて、電磁アクチュエータ40の駆動でプランジャ42を介して鍵20に所定のタイミングで所定の振動を付加することで、アコースティックピアノにおける発音時あるいは止音時に弦から鍵に伝達される振動を再現することができる。以下、押鍵操作に対する力覚制御と振動付加について順に説明する。
【0043】
まず、押鍵操作に対する力覚制御について説明する。ここでは、鍵20の力覚制御を説明するにあたって、アコースティックピアノのアクション機構の動作について簡単に説明する。図6は、アコースティックピアノのアクション機構の外観図である。同図に示すアクション機構100では、鍵102が押鍵されると、まず、キャプスタン103によるアクション104の持ち上げが開始される。続いて、鍵102の後端がダンパー105を押し上げてゆく。アクション104が持ち上げられると、ジャック106がハンマーローラー107を突き上げ、これにより、ハンマー108が弦109に向けて回動を開始する。さらに、鍵102を押し下げてゆくと、ジャック106がハンマーローラー107をさらに突き上げてからハンマーローラー107から外れ(脱進)、これによりハンマー108が弦109を打弦する。打弦を終えたハンマー108は、弦109の反力および自重で落下する。次に、鍵102を戻して離鍵過程に入ると、鍵102の後端がダンパー105を徐々に下げてから離れ、次いで、鍵102がレスト位置に戻り、一連の動作が終了する。
【0044】
図7は、上記構成のアクション機構100を備えるアコースティックピアノにおいて、鍵102を静かに押し下げ、押し切った後に静かに元の位置(レスト位置)に戻した場合の反力(静的反力)の特性を示すグラフであり、横軸が押鍵量、縦軸が荷重(反力)である。なお、ここでは、ダンパーペダル(図示せず)を踏んでダンパー105を持ち上げた状態(ダンパー105の反力が鍵102にかからないようにした状態)での静的反力は考慮していない。
【0045】
図7のグラフに示すように、押鍵工程では、鍵102を押し始めた直後のA点は、鍵102やアクション104などの静荷重が加わった状態であり、B点は、ダンパー105の荷重が加わった状態である。また、C点は、アクション機構100の各部の摩擦などによるアクション荷重がかかり始めた状態である。D点は、ジャック106の嵌合が抜け始める状態であり、F点は、ジャック106が完全に抜けた状態である。また、BC間とF点との間の所定位置、例えばF点に打弦点が位置する。なお、中程度以上の打鍵の場合、ハンマー108が打弦に向かうF点では、反力が急激に小さくなり、その後、鍵102がエンド位置に達すると棚板に当接するために大きな反力が生じる。
【0046】
一方、離鍵過程では、ジャック106が戻る際にかかる荷重(戻りジャック荷重)が付与されるH点、アクション機構100の各部の摩擦などによるアクション荷重がかかるI点、ダンパー105の荷重が加わるJ点、鍵102やアクション機構100などの静荷重が加わった状態のK点を経由して初期位置に戻る。このように、アコースティックピアノの鍵102は、アクション機構100の動きや各部品の自重によって、鍵102の位置に応じて多様に変化する反力を演奏者の指に与えるようになっている。
【0047】
本実施形態の鍵盤装置10では、上記のアクション機構100の作用に基づいて指に感じられる、アコースティックピアノに独特の鍵タッチ感(抵抗感)を再現すべく、電子鍵盤楽器1の演奏時に電磁アクチュエータ40でプランジャ42を駆動することで、アコースティックピアノの鍵タッチ感に相当する反力特性を鍵20に付与するようになっている。この反力特性は、鍵20の押離鍵方向の位置及び速度に応じて刻々と変化するものである。したがって、上記の力覚制御を行う際には、位置センサ47の検出値に基づく鍵20の位置情報に応じた駆動力の付与が行われる。
【0048】
すなわち、図5(a)に示すように、位置センサ47による検出データが主制御部50に出力される。主制御部50は、位置センサ47の検出データに基づく鍵20の位置情報と、ROM52に記憶された力覚付与テーブル80とを参照することにより、制御ドライバ58及びPWMスイッチング回路59に対する指令を出す。制御ドライバ58及びPWMスイッチング回路59は、主制御部50の指令に基づいて、往動コイル41a又は復動コイル41bに駆動電流を供給する。こうして、往動コイル41a又は復動コイル41bの駆動で、プランジャ42に質量体30側又は鍵20側への駆動力が付与される。
【0049】
図8は、図5に示す力覚付与テーブル80に含まれる指示値テーブル81b,82bの具体的内容の一例を示す表であり、(a)は、押鍵用テーブル81の指示値テーブル81bを示す表、(b)は、離鍵用テーブル82の指示値テーブル82bを示す表である。また、図9は、指示値テーブル81b,82bに基づく反力プロファイルを示すグラフであり、(a)は、指示値テーブル81bに基づく押鍵用反力プロファイル、(b)は、指示値テーブル82bに基づく離鍵用反力プロファイルである。図9のグラフでは、押鍵量(非押鍵位置からの鍵20の移動量)を横軸に取り、電磁アクチュエータ40から鍵20にかかる荷重の合計値を縦軸に取っている。図9のグラフでは、電磁アクチュエータ40で発生する荷重の合計値が正の値であれば、鍵20の押鍵操作に対して質量体30から加わる反力を助長する向きの駆動力(鍵操作に対する反力)が作用することを意味し、負の値であれば、鍵20の押鍵操作に対して質量体30から加わる反力を軽減する向きの駆動力(鍵操作に対する助力)が作用することを意味する。
【0050】
図8(a),(b)の指示値テーブル81b,82b、及びそれらに基づいて生成する図9(a)、(b)の反力プロファイルについて詳細に説明する。まず、図8(a)の押鍵用指示値テーブル81b及び図9(a)の押鍵用反力プロファイルについて説明すると、押鍵時に電磁アクチュエータ40から鍵20に付与される荷重の内訳は、押鍵開始直後の押鍵初期段階から付与される押鍵第1荷重P1、押鍵の途中で順次に付与される押鍵第2荷重P2及び押鍵第3荷重P3、さらに、押鍵の終期近くで付与が開始される押鍵第4荷重P4の四種類になっている。したがって、押鍵時に電磁アクチュエータ40から鍵20に付与される荷重は、これら四種類の荷重の中から鍵10の位置に応じて発生している荷重を合計したものとなる。以下、上記の四種類の荷重について説明する。
【0051】
押鍵第1荷重P1は、図6のアクション機構100を備えたアコースティックピアノの反力特性において、押鍵の初期段階で静止状態の鍵102及びハンマー108の持ち上げに要する静荷重を再現するための荷重であり、質量体30による慣性力を調整するための荷重である。この押鍵第1荷重P1の指示値は、押鍵速度に依存しない一定の値であり、本実施形態の例では、開始位置が押鍵量0.5mm、指示値が−0.2Nになっている。すなわちここでは、押鍵第1荷重P1の指示値が負の値になっている。したがって、押鍵第1荷重P1の付与が開始された押鍵量0.5mmの位置から押鍵第2荷重P2の付与が開始される押鍵量3.0mmまで領域では、電磁アクチュエータ40によって、鍵20に対して質量体30から加わる反力を軽減する向きの駆動力(鍵操作に対する助力)が加わるようになっている。
【0052】
押鍵第2荷重P2は、アコースティックピアノのアクション機構100で鍵102によるダンパー105の持ち上げが開始される際に鍵102にかかる荷重を再現するための荷重である。ここでは、押鍵第2荷重P2の指示値は、押鍵速度に依存しない一定の値であり、本実施形態の例では、開始位置が押鍵量3.0mmで、指示値が+0.5Nである。
【0053】
押鍵第3荷重P3は、アコースティックピアノでの押鍵途中にアクション機構100の各部が動作することで鍵102に付与される荷重を再現するためのものである。この押鍵第3荷重P3の指示値は、押鍵速度に依存しない一定値であり、本実施形態の例では、開始位置が押鍵量5.2mmで、指示値が+0.3Nである。
【0054】
押鍵第4荷重P4は、アコースティックピアノのアクション機構100において、ジャック嵌合状態からのジャック抜けに伴う鍵102にかかる負荷の急激な変化を再現するための荷重である。この押鍵第4荷重P4の指示値は、開始位置が押鍵量6mm、最大値が1.5Nになっている。以上の内容の押鍵用指示値テーブル81bによって、図9(a)に示す押鍵用反力プロファイルが生じるようになっている。
【0055】
次に、図8(b)に示す離鍵用指示値テーブル82b及び図9(b)の反力プロファイルについて説明する。離鍵時に電磁アクチュエータ40から鍵20に付与される荷重の内訳は、離鍵の開始から終了まで付与される離鍵第1荷重P5と、離鍵の途中で順次に付与が終了する離鍵第2荷重P6、離鍵第3荷重P7、離鍵第4荷重P8の四種類になっている。したがって、離鍵時においても、電磁アクチュエータ40から鍵20に付与される荷重は、これら四種類の荷重の中から鍵10の位置に応じて発生している荷重を合計したものとなる。以下、上記の四種類の荷重について説明する。
【0056】
離鍵第1荷重P5は、離鍵時の鍵20にかかる静荷重を調整するための荷重であって、本実施形態の例では、終了位置が押鍵量0mm、指示値が0Nになっている。すなわち、この例では、離鍵時には、電磁アクチュエータ40から静荷重を調整するための荷重が実質的には付与されず、離鍵の終期に近付くと、鍵20にかかる反力が質量体30の荷重のみで賄われるようになっている。また、離鍵第2荷重P6は、アコースティックピアノにおける離鍵時のダンパー105の持ち上げによる荷重を再現するためのもので、本実施形態の例では、終了位置が押鍵量3.0mmで、指示値が0.5Nである。離鍵第3荷重P7は、離鍵時のアクション機構100の動作による荷重を再現するためのもので、本実施形態の例では、終了位置が押鍵量5.2mmで、指示値が0.3Nである。
【0057】
離鍵第4荷重P8は、鍵20を初期位置に戻すために必要な荷重であるが、アコースティックピアノのアクション機構100で生じる荷重としては、いずれにも分類されない荷重である。この離鍵第4荷重P8は、離鍵速度に依存した反力分布を有しており、本実施形態の例では、終了位置が押鍵量1mm、指示値の最大値が1Nであり、図9(b)に示す具体例では、押鍵量に正比例して荷重が変化(減少)する線形の分布になっている。以上の内容の離鍵用指示値テーブル82bによって、図9(b)に示す離鍵用反力プロファイルが生じるようになっている。
【0058】
なお、図8(a)、(b)に示す指示値テーブル81b,82bと、図9(a)、(b)に示す押鍵用反力プロファイル及び離鍵用反力プロファイルとはいずれも一例であり、実際には、鍵20の速度に応じて変化する指示値テーブルに応じて、異なる複数種類の押鍵用反力プロファイル及び離鍵用反力プロファイルが生成する。すなわち、鍵20の速度が正であるときは、鍵20が押鍵されてゆく向きに移動しているときであり、その場合の反力プロファイルとして、鍵20の速度が正の領域で当該速度の大きさ(絶対値)に応じた複数種類の押鍵用反力プロファイルが生成する。一方、鍵20の速度が負であるときは、鍵20が離鍵されてゆく向きに移動しているときであり、その場合の反力プロファイルとして、鍵20の速度が負の領域で当該速度の大きさ(絶対値)に応じた複数種類の離鍵用反力プロファイルが生成する。また、図8(a),(b)の指示値テーブル81b,82bに含まれる具体的な数値は一例であり、これらの数値は、例えば、鍵20や質量体30の質量などの要素に応じて異なった値となる。
【0059】
次に、電磁アクチュエータ40で鍵20に付加する振動の算出手順について詳細に説明する。図10は、振動パラメータ90の具体例を示す表で、同図(a)は、発音時の振動パラメータ90a、同図(b)は、止音時の振動パラメータ90bである。同図に示す振動パラメータ90は、電磁アクチュエータ40が発生すべき鍵20に対する振動付加用の駆動力の算出に用いるパラメータである。この振動パラメータ90は、同図に示すように、各鍵20ごと(鍵番号ごと)にそれぞれ異なる値が設定されている。ここで、発音時の振動パラメータ90aと止音時の振動パラメータ90bが別個に用意されているのは、アコースティックピアノにおいて発音時と止音時とで発生する振動の態様が異なるため、それを忠実に再現できるようにするためである。
【0060】
また、ここでいう発音時とは、アコースティックピアノの押鍵過程でのハンマーによる打弦を想定した発音開始時点である。そして、本実施形態の鍵盤装置10では、押鍵過程において発音時であるか否かは、キースイッチ16がオンしたか否かで判断することができる。あるいは、押鍵開始時点からの経過時間、又は押鍵開始位置からの鍵20の変位量(ストローク量)に基づいて判断することも可能である。また、ここでいう止音時とは、アコースティックピアノの離鍵過程でダンパーが弦に当接して弦の押さえが開始される時点である。そして、本実施形態の鍵盤装置10では、離鍵過程において止音位置であるか否かは、キースイッチがオフしたか否かで判断することができる。あるいは、押鍵開始時点からの経過時間、又は押鍵開始位置からの鍵20の変位量(ストローク量)に基づいて判断することも可能である。
【0061】
また、図10(a)に示す発音時の振動パラメータ90が有する乗算係数は、鍵20に付与する振動の振幅の最大値に比例する値である。すなわち、同図の例で1番鍵が1であるのに対して88番鍵が0.1であることは、1番鍵の振幅に対して88番鍵の振幅が1/10であること意味する。また、振動パラメータ90における各鍵番号に対応する周波数は、アコースティックピアノの鍵が有する固有振動数に一致させることが望ましいが、必ずしも一致させる必要はなく、図示するように、それに近い値(数個ずつの鍵20で同じ値など)を用いてもよい。
【0062】
発音時の振動パラメータ90aでは、低音域〜高音域で電磁アクチュエータ40に与える振幅・周波数を鍵20ごとに個別に差を付けている。これにより、発音時の振動パラメータ90aは、低音側の鍵20の方が高音側の鍵20よりも大きな振幅を与えられるようになっている。また、止音時の振動パラメータ90bは、少なくとも低音側の所定個数の鍵(例えば最低音から20番目までの鍵)に、止音のタイミングで振動を加算するように設定することが望ましい。なお、止音時の振動パラメータ90bで最高音域の鍵20に対応する周波数が定められてない(加算値が0になっている)のは、アコースティックピアノでは、70番鍵以上の鍵に対してはダンパー機構が存在しないため、その鍵域の鍵20に対しては、ダンパー機構による止音時の振動を考慮する必要が無いからである。
【0063】
次に、電磁アクチュエータ40で発生する駆動力の算出方法について説明する。本実施形態の電子鍵盤楽器1において、電磁アクチュエータ40で発生する駆動力は、力覚制御用の駆動力(F1)と、楽音に応じた振動を付加するための振動付加用の駆動力(F2)とを合計した駆動力となる。したがって、電磁アクチュエータ40で発生する駆動力f(N)は、下記の(式1)で表すことができる。
f=(F1)+(F2)={(P1+P2+P3+P4)or(P5+P6+P7+P8)}+(F×S×K×sin2πft)・・・(式1)
ここで、
P1〜P4,P5〜P8:図8(a),(b)に示す力覚制御用の指示値テーブルに含まれる指示値(N)
F:振動用の駆動力(指示値)の有効/無効フラグ
S:正規化した鍵の速度(ベロシティ)
K:鍵番号(キーナンバー)に対応する指数
F1=(P1+P2+P3+P4:押鍵時)or(P5+P6+P7+P8:離鍵時):力覚制御用の駆動力
F2=(F×S×K×sin2πft):振動付加用の駆動力(N)
t:押鍵開始時点からの経過時間(ms)
なお、上記の鍵番号Kは、どの鍵20の駆動力であるかを表す鍵番号(キーナンバー)に対応する数であると共に、楽音発生/消音時の鍵20の指定にも使われる楽音パラメータである。
【0064】
(式1)に示す電磁アクチュエータ40で発生する駆動力fを算出するには、力覚制御用の駆動力F1と、振動付加用の駆動力F2との合計駆動力を算出して行う。なお、実際に算出した駆動力で電磁アクチュエータ40の上下ソレノイドコイル41a,41bを駆動する態様は、押鍵開始時点からの経過時間に応じて時々刻々と変化するものである。そのため、上記の駆動力fの算出は、主制御部50の処理速度に応じて所定時間ごとに行われる。したがってここでは、下記の3点での駆動力を一例として示す。また、本実施形態では、一例として、押鍵過程において、押鍵初期位置からの押鍵量7mmの位置で鍵20の押鍵に伴う発音が開始されるように設定した場合について説明する。
【0065】
(1)まず、押鍵初期位置を0〔mm〕として、押鍵量5mmでの駆動力(反力)を図8(a)に基づいて(式1)から算出すると、次のようになる。
f={〔−0.2〕+〔0.5〕+〔0〕+〔0〕}+〔0〕×S×Ksin2πft=0.3(N)
押鍵量5mmの鍵位置では、まだ発音状態でない。したがってF=0であり、F2(振動付加用の駆動力)=0である。これにより、押鍵量5mmの位置では、電磁アクチュエータ40の駆動力は、力覚制御用の駆動力F1のみであり、振動付加用の駆動力F2は含まれない。つまり、押鍵量5mmの鍵位置では、鍵20に対して振動は付加されない。
【0066】
(2)次に、押鍵量7mmに達した後の駆動力を図8(a)に基づいて(式1)から算出する。押鍵量7mmに達した後の鍵位置では、発音状態になっている。ここでは、押鍵量7mmに達してから一定時間が経過した時点(押鍵開始時点からの経過時間t)での駆動力を算出する。また、ここでは、鍵番号4(音程C1)の鍵20における反力を算出した場合を例示する。
f={〔−0.2〕+〔0.5〕+〔0.3〕+〔0.9〕}+〔1〕×〔0.5〕×〔1〕×sin(2π×29×t)
このように、発音開始位置(押鍵量7mmの位置)に達した後の駆動力fは、力覚制御用の駆動力F1に対して、経過時間tに応じて所定の振幅で振動する振動付加用の駆動力F2が加算された値となる。したがって、力覚制御用の駆動力F1に対して増減方向に振動する駆動力が出力される。これにより、アコースティックピアノでの押鍵過程における楽音発生後の振動が再現され、鍵動作に所定の振動が付加されることになる。
【0067】
(3)次に、離鍵過程において止音位置に達した後、所定時間が経過する前の駆動力fを算出する。ここでは、止音位置に達してから一定の時間が経過した時点(押鍵開始時点からの経過時間t)での駆動力を算出する。また、ここでは、鍵番号4(音程C1)の鍵20における反力を算出した場合を例示する。
f={〔0〕+〔0.5〕+〔0.3〕+〔1〕}+〔1〕×〔1〕×〔0.3〕×sin(2π×29×t)
すなわち、離鍵過程において止音位置に達した後は、電磁アクチュエータ40の駆動力fは、力覚制御用の駆動力F1と振動付加用の駆動力F2とを合算した値となる。そして、この場合も、振動付加用の駆動力F2は、経過時間tに応じて所定の振幅で振動する値である。したがって、電磁アクチュエータ40の駆動力fは、力覚制御用の駆動力F1に対して、経過時間tに応じて所定の振幅で振動する振動付加用の駆動力F2が加算された値となる。これにより、アコースティックピアノでの離鍵過程における止音後の振動が再現され、鍵20に所定の振動が付加されることになる。
【0068】
そして、この振動付加用の駆動力F2は、止音開始時点から所定時間T0が経過するまで継続するようになっている。この所定時間T0は、鍵20に対応する楽音又は鍵20が属する音域に応じて重み付けがされた時間であるとよい。具体的には、低音域の鍵20に対しては長い時間とし、高音域になるに連れて次第に短い時間となるように設定することができる。
【0069】
次に、上記内容で行われる鍵20の押離鍵過程における駆動力制御の手順について説明する。図11(a),(b)は、当該駆動力制御の手順を説明するためのフローチャートである。ここでは、まず、位置センサ47の検出に基づいて、鍵20に関する位置データ及び速度データを取得する(ステップST1)。なお、ここでの速度データは、位置センサ47で検出した位置データの変化量から計算で求めたものの他、速度センサを備えている場合には、当該速度センサで検出した速度データでもよい。また、押鍵開始時点からの経過時間を計測するため、現時刻の取得を行う(ステップST2)。そして、ステップST1で取得した速度データが正の値か否かを判断する(ステップST3)。その結果、取得した速度データが正の値であれば(YES)、鍵20がレスト位置からエンド位置に向けて押し下げられる押鍵過程にあるので、図8(a)に示す押鍵用指示値テーブル81bを参照する(ステップST4)。そして、押鍵用指示値テーブル81bに基づいて、取得した位置での押鍵第1乃至第4荷重P1〜P4の指示値をそれぞれ取得する(ステップST5)。なお、上記の押鍵第1乃至第4荷重P1〜P4の各指示値は、取得した鍵20の位置によっては、いずれかの値のみが存在する場合があり、すべての値が常に存在する訳ではない。
【0070】
その後、鍵20に対する発音状態であるか否か、すなわち、発音開始位置を通過したか否かを判定する(ステップST6)。ここでの発音開始位置を通過したか否かの判断は、押鍵初期位置からの鍵20のストローク量が所定量に達したか否か、あるいは経過時間が所定時間に達したか否かに基づいて判断する。その結果、鍵20が発音状態にある場合(YES)は、続けてキーオンタイミングであるか否かを判定する(ステップST7)。キーオンタイミングであれば(YES)、対応する鍵番号及び鍵速度(イニシャルタッチ)のデータを音源回路64に送出し、音声出力部65から鍵20に対応する楽音を発生させる(ステップST8)。そしてこの場合は、振動付加用の駆動力(指示値)の有効/無効フラグFを有効化(F←1)することで、電磁アクチュエータ40で発生する駆動力fの指示値として、振動付加用の駆動力(F2)の指示値を算出する。これにより、押鍵過程において発音開始位置を経過した後は、電磁アクチュエータ40で発生する駆動力fは、力覚制御用の駆動力F1と振動付加用の駆動力F2とを合算した駆動力となる。
【0071】
一方、先のステップST6で発音状態でない場合(NO)は、振動付加用の駆動力(F2)の指示値に対する有効/無効フラグFを無効化(F←0)することで、電磁アクチュエータ40で発生する駆動力fに、振動付加用の駆動力(F2)を加算しない。また、この場合、消音のためのキーオフ処理を行う(ステップST11)。なお、ここでいうキーオフ処理とは、再発音を可能にするための処理(例えば、エンベロープの急減衰化など)である。
【0072】
その後、上記で算出した押鍵第1乃至第4荷重P1〜P4の指示値による力覚制御用の駆動力(F1)と、振動付加用の駆動力(F2)とを合算して、ステップST1で取得した鍵位置において電磁アクチュエータ40で発生する駆動力fの合計値を算出する(ステップST12)。そして、この算出した合計値が正の値であるか否かを判断する(ステップST13)。その結果、合計値が正の値であれば(YES)、当該合計値に基づいて下ソレノイド(復動コイル)41bの駆動量を算出し(ステップST14)、算出した駆動量で下ソレノイド41bを駆動する(ステップST15)。一方、合計値が負の値であれば(NO)、当該合計値に基づいて上ソレノイド(往動コイル)41aの駆動量を算出し(ステップST16)、算出した駆動量で上ソレノイド41aを駆動する(ステップST17)。
【0073】
一方、先のステップST3で、取得した速度データが負の値であれば(NO)、鍵20がエンド位置からレスト位置(初期位置)に戻る離鍵過程にあるので、図8(b)に示す離鍵用指示値テーブル82bの内容を参照する(ステップST18)。そして、この離鍵用指示値テーブル82bに基づいて、ステップST1で取得した鍵位置における離鍵第1乃至第4荷重P5〜P8の指示値をそれぞれ取得する(ステップST19)。なお、ここでも、上記の離鍵第1乃至第4荷重P5〜P8の各指示値は、取得した位置によっては、いずれかの値のみが存在する場合があり、すべての値が常に存在する訳ではない。
【0074】
その後、離鍵過程において、鍵20が止音位置を通過したか否かを判断する(ステップST20)。ここでいう止音位置を通過したか否かの判断は、キースイッチ16がオフした否かに基づいて判断する。その結果、鍵20が止音位置を通過していれば(YES)、振動付加用の駆動力(F2)の指示値に対する有効/無効フラグFを有効化(F←1)することで、電磁アクチュエータ40で発生する駆動力fの指示値として、振動算出用指示値を加算する(ステップST21)。一方、鍵20が止音位置を通過していなければ(NO)、振動算出用指示値を加算は行わない。さらに、止音位置を通過後、所定時間が経過しているか否かを判断する(ステップST22)。その結果、止音位置を通過後、所定時間を経過していれば(YES)、振動付加用の駆動力(F2)の指示値に対する有効/無効フラグFを無効化(F←0)することで、電磁アクチュエータ40で発生する駆動力fへの振動算出用指示値の加算を行わない(ステップST23)。一方、所定時間を経過していなければ(NO)、振動付加用の駆動力(F2)の指示値に対する有効/無効フラグFを有効化(F←1)のままとし、振動算出用指示値の加算を行う。
【0075】
その後、押鍵過程と同様に、鍵20に対応する楽音の発音状態であるか否かを判定する(ステップST6)。発音状態である場合(YES)は、続けてキーオンタイミングであるか否かを判定する(ステップST7)。キーオンタイミングであれば(YES)、対応する鍵番号及び鍵速度(イニシャルタッチ)のデータを音源に送出して、音源から鍵20に対応する楽音を発生させる(ステップST8)。その後、振動付加用の駆動力(F2)の指示値に対する有効/無効フラグFを有効化(F←1)することで、電磁アクチュエータ40で発生する駆動力fに振動付加用の駆動力(F2)を加算する。これにより、発音に応じた振動が鍵20に付加される。
【0076】
一方、先のステップST6で発音状態でない場合(NO)は、振動付加用の駆動力(F2)の指示値に対する有効/無効フラグFを無効化(F←0)することで、電磁アクチュエータ40で発生する駆動力fに振動付加用の駆動力(F2)を加算しない。また、消音のためのキーオフ処理を行う(ステップST11)。
【0077】
その後、上記で算出した押鍵第1乃至第4荷重P1〜P4の指示値による力覚制御用の駆動力(F1)と、振動付加用の駆動力(F2)とを合算して、当該取得した位置での電磁アクチュエータ40で発生する駆動力fの合計値を算出する(ステップST12)。そして、この算出した合計値が正の値であるか否かを判断する(ステップST13)。その結果、合計値が正の値であれば(YES)、当該合計値に基づいて下ソレノイド(復動コイル)41bの駆動量を算出し(ステップST14)、算出した駆動量で下ソレノイド41bを駆動する(ステップST15)。一方、合計値が負の値であれば(NO)、当該合計値に基づいて上ソレノイド(往動コイル)41aの駆動量を算出し(ステップST16)、算出した駆動量で上ソレノイド41aを駆動する(ステップST17)。
【0078】
図12は、上記内容で力覚制御を行った場合の押鍵開始からの経過時間と鍵20から押鍵操作をする指にかかる反力との関係を示すグラフである。なお、同図のグラフは、いずれかの鍵20を比較的ゆっくりと押鍵したときの反力分布(いわゆる静特性)を示している。同図に示すように、本実施形態の鍵盤装置10における鍵20の駆動制御では、押鍵過程において、発音開始時点を経過するまでは、電磁アクチュエータ40の駆動力fは、力覚制御用の駆動力F1のみである。そして、発音開始時点を経過したときに、振動付加用の駆動力F2が発生する。これにより、電磁アクチュエータ40の駆動力fは、力覚制御用の駆動力F1に振動付加用の駆動力F2が加算された値となる。したがって、同図に示すように、鍵20の操作に対する反力に所定の振動が付加された状態となる。さらに、鍵20の押鍵過程において鍵20がエンド位置に達した時点でも、振動付加用の駆動力F2が発生する。これにより、鍵20がエンド位置にある状態での電磁アクチュエータ40の駆動力fは、力覚制御用の駆動力F1に振動付加用の駆動力F2が加算された値となる。したがって、同図のグラフに示すように、鍵操作に対する反力に所定の振動が付加された状態となる。
【0079】
また、離鍵過程において、止音開始時点までは、既述のように、電磁アクチュエータ40の駆動力fは、力覚制御用の駆動力F1のみである。そして、止音開始時点を経過したときに、振動付加用の駆動力F2が発生する。これにより、電磁アクチュエータ40の駆動力fは、力覚制御用の駆動力F1に振動付加用の駆動力F2が加算された値となる。したがって、同図のグラフに示すように、鍵操作に対する反力に所定の振動が付加された状態となる。そして、この振動付加用の駆動力F2は、止音開始時点から所定時間T0が経過するまで継続するようになっている。この所定時間T0は、既述のように、鍵20に対応する楽音又は鍵20が属する音域に応じて重み付けがされた時間である。
【0080】
以上説明したように、本実施形態の電子鍵盤楽器1によれば、電磁アクチュエータ40で鍵20に付与する駆動力は、鍵20のストローク位置及び発音状態に応じて算出した力覚用の駆動力F1と振動用の駆動力F2とを合算した駆動力なので、電磁アクチュエータ40の駆動で、鍵20の操作に対する力覚を生じさせることができると共に、押鍵過程及び離鍵過程における発音・止音に伴う振動を鍵20に付加することができる。したがって、演奏操作に対する力覚制御を行うことができると共に、演奏者の指に発音又は止音に伴う振動を知覚させることができる。これにより、電子鍵盤楽器1の鍵盤10に対して、アコースティックピアノの演奏時に感じるアクション機構による力覚だけでなく、響板や弦の振動に起因する振動も再現できるので、より忠実なタッチ感を演出することができる。
【0081】
また、本発明にかかる電子鍵盤楽器1によれば、上記の力覚制御のための駆動力と振動発生用の駆動力とを共通の電磁アクチュエータ40で発生させることができる。そしてこの電磁アクチュエータ40は、鍵20に対して直接的に駆動力を付与する構成である。したがって、電子鍵盤楽器1の構成を簡単にしながらも、鍵20に対して力覚制御のための駆動力と振動発生用の駆動力との両方を良好に付与することができる。
【0082】
また、本実施形態の電子鍵盤楽器1では、振動用の駆動力F2は、鍵20の押鍵過程において、発音手段で該鍵20に対応する楽音の発音が開始された時点で発生させるようになっている。これによれば、アコースティックピアノにおける押鍵時に発音が開始された時点で、ハンマーによる打弦でアクション機構を介して鍵に伝達される弦の振動を忠実に再現することが可能となる。
【0083】
また、振動付加用の駆動力F2は、鍵20の押鍵過程において、鍵20のストロークがエンド位置に達した時点で発生させるようになっている。これによれば、アコースティックピアノにおける押鍵時に鍵が棚板に当接するエンド位置に達した時点で、アクション機構を介して鍵に伝達される響板などの振動を忠実に再現することが可能となる。
【0084】
また、振動付加用の駆動力F2は、鍵20の離鍵過程において、該鍵20に対応する楽音の発音を停止する止音時に発生させ、該止音時から所定時間(T0)が経過するまで継続させるようにしている。また、この場合の所定時間(T0)は、鍵20に対応する音階又は前記鍵20が属する音域に応じて重み付けがされた時間である。これによれば、電子鍵盤楽器1においてアコースティックピアノにおける離鍵時にダンパーフェルトが弦に当接する位置に達した時点で、ダンパー及びアクション機構を介して鍵に伝達される弦の振動を忠実に再現することが可能となる。また、当該振動の継続時間を鍵20に対応する音階又は鍵20が属する音域に応じて重み付けがされた時間としていることで、アコースティックピアノにおける弦振動に基づく鍵振動をより忠実に再現することができる。
【0085】
また、本実施形態の電子鍵盤楽器1では、鍵20は、支点12を中心に回動可能に支持されており、鍵20に連動して該鍵20にその押離鍵操作に対する反力を与える質量体30と、鍵20と質量体30との間に配置されて鍵20と質量体30の一方からの駆動力を他方に伝達するプランジャ42とを備え、電磁アクチュエータ40は、当該プランジャ42を駆動することで、鍵20及び質量体30に対して直接的に駆動力を付与するようにしている。この構成によれば、アコースティックピアノにおける押鍵時あるいは離鍵時にハンマーや質量体などアクション機構の各部に伝わる振動をより忠実に再現することが可能となるので、電子鍵盤楽器1において、自然鍵盤楽器により近いタッチ感を創生することができる。
【0086】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態に示す鍵20の動作に対して付加する振動の具体的な波形やその大きさは一例であり、上記以外の波形や大きさの振動を付加することも可能である。また、振動を付加するタイミングも一例であり、他のタイミングで振動を付加するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 電子鍵盤楽器
10 鍵盤装置
12 鍵支点
16 キースイッチ
20 鍵
30 質量体
31 質量体支点
40 電磁アクチュエータ
41 コイル
41a 往動コイル(上ソレノイド)
41b 復動コイル(下ソレノイド)
42 プランジャ
46 伝達部材
47 位置センサ(位置情報取得手段)
50 主制御部(制御手段)
58 制御ドライバ
59 PWMスイッチング回路
80 力覚付与テーブル
81 押鍵用テーブル
82 離鍵用テーブル
81a,82a 駆動力パターンテーブル
81b,82b 指示値テーブル
90 振動パラメータ(振動付与テーブル)
90a 発音時の振動パラメータ
90b 止音時の振動パラメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鍵を有する鍵盤と、
前記鍵の操作に応じた楽音を発音する発音手段と、
前記鍵の押離鍵過程において電磁アクチュエータで前記鍵に対して直接的に駆動力を付与する駆動力付与手段と、
前記駆動力付与手段で付与する駆動力を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記複数の鍵それぞれの押離鍵動作におけるストローク位置に対応する力覚値を格納した力覚付与テーブルと、前記力覚付与テーブルに基づいて前記鍵に付加するための力覚用の駆動力を算出する力覚値算出手段と、
前記複数の鍵それぞれに対して所定の振動を付与するための振動付与テーブルと、前記振動付与テーブルに基づいて前記鍵に付加するための振動用の駆動力を算出する振動値算出手段と、を含み、
前記駆動力付与手段で前記鍵に付与する駆動力は、前記鍵のストローク位置及び前記発音手段による発音状態に応じて、前記力覚値算出手段で算出した力覚用の駆動力と、前記振動値算出手段で算出した振動用の駆動力とを合算した駆動力である
ことを特徴とする電子鍵盤楽器。
【請求項2】
前記鍵の押鍵過程において、前記振動用の駆動力は、前記発音手段で該鍵に対応する楽音の発音が開始された時点で発生させる
ことを特徴とする請求項1に記載の電子鍵盤楽器。
【請求項3】
前記鍵の押鍵過程において、前記振動用の駆動力は、前記鍵のストロークがエンド位置に達した時点で発生させる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電子鍵盤楽器。
【請求項4】
前記鍵の離鍵過程において、前記振動用の駆動力は、前記発音手段で該鍵に対応する楽音の発音を停止する止音時に発生させ、該止音時から所定時間が経過するまで継続させる
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電子鍵盤楽器。
【請求項5】
前記所定時間は、前記鍵に対応する楽音又は前記鍵が属する音域に応じて重み付けがなされた時間である
ことを特徴とする請求項4に記載の電子鍵盤楽器。
【請求項6】
前記鍵は、支点を中心に回動可能に支持されており、
前記鍵に連動して該鍵にその押離鍵操作に対する反力を与える質量体と、
前記鍵と前記質量体との間に配置されて前記鍵と前記質量体の一方からの駆動力を他方に伝達する伝達部材と、
を備え、
前記電磁アクチュエータは、前記伝達部材を駆動することで、前記鍵及び前記質量体に対して直接的に駆動力を付与する
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の電子鍵盤楽器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11(a)】
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【図11(b)】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−237493(P2011−237493A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106818(P2010−106818)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】