説明

鍵盤装置

【課題】簡単な構造で、アコースティックピアノの鍵タッチ感に近似した鍵タッチ感を得ることができ、演奏者が違和感なく良好に演奏することができる鍵盤装置を提供する。
【解決手段】クリック感付与部材18が、鍵2に設けられた突起部20と、鍵盤シャーシ1に設けられ、鍵2を押鍵操作した際に突起部20が上方から当接して第1支点27を中心に撓み変形することにより、突起部20が乗り越える弾性部材とを備え、この弾性部材は、弾性部材を乗り越えた突起部20が下方から当接する際に支持される第2支点28を有し、第1支点27は弾性部材の先端部25aからの長さL1が第2支点28までの長さLよりも短い位置に設置されている。従って、押鍵時にクリック感を付与し、離鍵時にクリック感をほとんど付与しないので、簡単な構造で、アコースティックピアノの鍵タッチ感に近似した鍵タッチ感を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子ピアノや電子オルガンなどの電子鍵盤楽器の鍵盤装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子鍵盤楽器においては、特許文献1に記載されているように、アコースティックピアノの鍵タッチ感に近似した鍵タッチ感を得るために、押鍵操作時に鍵荷重を急激に軽くして、鍵荷重が抜ける感覚のレットオフ効果を付与するクリック感付与部材を備えた構成のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06−318077号公報
【0004】
この種の電子鍵盤楽器は、鍵の押鍵操作に応じて上下方向に回転して鍵にアクション荷重を付与するハンマー部材を備え、このハンマー部材が回転する際に、クリック感付与部材がハンマー部材に対して鍵荷重を重くした後に、鍵荷重を急激に軽くして、鍵荷重が抜けるような感覚のクリック感を付与することにより、鍵にレットオフ効果を付与するように構成されている。
【0005】
この場合、クリック感付与部材は、鍵が押鍵されてハンマー部材が上下方向に回転する際にハンマー部材が上下方向から当接するローラと、このローラを回転自在に支持してハンマー部材の上下方向と直交する接離方向に弾性変形する板ばねとを備え、鍵が押鍵されてハンマー部材が回転する際に、ハンマー部材がローラに当接して鍵荷重を重くし、ハンマー部材が板ばねのばね力に抗してローラを乗り越えたときに、鍵荷重を急激に軽くして、鍵荷重が抜ける感覚のクリック感を鍵に付与するように構成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の電子鍵盤楽器では、ハンマー部材が上下方向から当接するローラを回転自在に支持する板ばねが、ハンマー部材の上下方向と直交する接離方向、つまりハンマー部材の前後方向に弾性変形するため、鍵が押鍵されてハンマー部材がローラに上方から当接してローラを乗り越える際、およびローラを乗り越えたハンマー部材が初期位置に戻る離鍵時にハンマー部材がローラに下方から当接してローラを乗り越える際のいずれにおいても、板ばねのばね力によってハンマー部材にほぼ一定の負荷が付与される。
【0007】
このため、押鍵操作によってハンマー部材がローラに上方から当接してローラを乗り越える際に、鍵荷重を重くした後に急激に軽くして、鍵荷重が抜ける感覚のクリック感を付与することができても、ローラを乗り越えたハンマー部材が初期位置に戻る離鍵時にも、ハンマー部材がローラに下方から当接するため、板ばねのばね力によってハンマー部材に負荷が付与され、鍵荷重が抜ける感覚のクリック感が鍵に発生する。このため、本来は、離鍵時にクリック感が発生しないアコースティックピアノの鍵タッチ感に近似した鍵タッチ感を得ることができないばかりか、演奏者に違和感を与え、良好に演奏することができないという問題がある。
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、簡単な構造で、アコースティックピアノの鍵タッチ感に近似した鍵タッチ感を得ることができ、演奏者が違和感なく良好に演奏することができる鍵盤装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記課題を解決するために、次のような構成要素を備えている。
請求項1に記載の発明は、鍵盤シャーシと、この鍵盤シャーシ上に上下方向に回転可能に設けられた鍵と、この鍵の押鍵操作時に前記鍵にクリック感を付与するクリック感付与部材とを備えた鍵盤装置において、前記クリック感付与部材は、前記鍵にその前後方向に突出して設けられた突起部と、前記鍵盤シャーシに設けられ、前記鍵を押鍵操作した際に前記突起部が上方から当接して撓み変形することにより、前記突起部が乗り越える弾性部材とを備え、この弾性部材は、前記鍵が押鍵操作されて前記突起部が上方から当接する際に支持される第1支点と、前記弾性部材を乗り越えた前記突起部が下方から当接する際に支持される第2支点とを有し、前記第1支点は前記突起部が当接する前記弾性部材の先端部からの長さが前記弾性部材の前記先端部から前記第2支点までの長さよりも短い位置に設置されていることを特徴とする鍵盤装置である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記第2支点に位置する前記弾性部材の箇所に、溝部が前記鍵の前後方向と直交する方向に沿って設けられていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤装置である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記弾性部材の下面に配置されて前記弾性部材の前記先端部から前記第1支点までの長さを調整する変形調整板を備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鍵盤装置である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、前記変形調整板を、前記弾性部材の前記先端部から前記第1支点までの長さが、低音域側で短く、高音域側に向かうに従って次第に長くなる状態で設けていることを特徴とする請求項3に記載の鍵盤装置である。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、押鍵された鍵の突起部が鍵盤シャーシの弾性部材に上方から当接して、弾性部材を撓み変形させて乗り越える際に、第1支点によって弾性部材による反発力を強くすることができ、これにより鍵荷重を重くして、鍵に鍵荷重が抜ける感覚のクリック感を強く付与することができる。
【0014】
また、押鍵された鍵が初期位置に戻る際に、鍵の突起部が鍵盤シャーシの弾性部材に下方から当接して、弾性部材を撓み変形させて乗り越える際には、第2支点によって弾性部材による反発力を弱くすることができ、これにより鍵荷重を軽くして、鍵に鍵荷重が抜ける感覚のクリック感をほとんど付与しないようにすることができる。このため、簡単な構造で、アコースティックピアノの鍵タッチ感に近似した鍵タッチ感を得ることができ、演奏者が違和感なく良好に演奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明を電子鍵盤楽器に適用した実施形態1において、鍵が押鍵されていない初期状態を示した断面図である。
【図2】図1に示された電子鍵盤楽器において、鍵の突起部が鍵盤シャーシ上の弾性部材の上方に位置している状態を示した要部の拡大断面図である。
【図3】図1に示された電子鍵盤楽器において、鍵が押されて突起部が弾性部材に上方から当接して撓み変形した状態を示した断面図である。
【図4】図3に示された電子鍵盤楽器において、鍵の突起部が弾性部材を押し下げて撓み変形させた状態を示した要部の拡大断面図である。
【図5】図3に示された電子鍵盤楽器において、鍵が更に押されて突起部が弾性部材を乗り越えて鍵にクリック感を付与した状態を示した断面図である。
【図6】図5に示された電子鍵盤楽器において、鍵の突起部が弾性部材を乗り越えて鍵にクリック感を付与した際に、弾性部材が元の位置に弾性復帰した状態を示した要部の拡大断面図である。
【図7】図5に示された電子鍵盤楽器において、鍵が初期位置に戻る途中の状態を示した断面図である。
【図8】図7に示された電子鍵盤楽器において、鍵の突起部が弾性部材を下側から上側に向けて撓み変形させてすり抜ける状態を示した要部の拡大断面図である。
【図9】図1〜図8に示された電子鍵盤楽器の押鍵時および離鍵時における鍵荷重と鍵ストロークとの特性を示した図である。
【図10】この発明を電子鍵盤楽器に適用した実施形態2において、クリック感付与部材を示した要部の拡大断面図である。
【図11】図10に示されたクリック感付与部材の要部を分解して示した拡大斜視図である。
【図12】図10に示されたクリック感付与部材における低音域と高音域とを示し、(a)は低音域に位置するクリック感付与部材を示した要部の拡大断面図、(b)は高音域に位置するクリック感付与部材を示した要部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態1)
以下、図1〜図9を参照して、この発明を電子鍵盤楽器に適用した実施形態1について説明する。
この電子鍵盤楽器は、図1に示すように、楽器ケースの下部ケースを兼ねる鍵盤シャーシ1を備えている。この鍵盤シャーシ1の上部には、複数の鍵2が音階順に並列に配列された状態で、それぞれ上下方向に回転可能に取り付けられている。
【0017】
この複数の鍵2は、白鍵と黒鍵とからなっている。ただし、この実施形態1では白鍵について説明する。これらの鍵2の各後端部(図1では左端部)には、図1に示すように、回転支点である肉厚の薄い屈曲部3がそれぞれ設けられている。この屈曲部3は、鍵2の配列方向に沿って連続する共通連結部4に連結されている。この共通連結部4は、図1に示すように、鍵盤シャーシ1の後端上部(図1では左端上部)に設けられた鍵支持部5上にビス5aによって取り付けられている。
【0018】
すなわち、共通連結部4は、図1に示すように、白鍵用の共通連結部4と黒鍵用の共通連結部4とを有し、これらが上下に重ね合わされた状態で、鍵支持部5上にビス5aによって取り付けられている。これにより、鍵2は、図3および図5に示すように、押鍵操作されると、回転支点である屈曲部3が上下方向に弾性変形することにより、この屈曲部3を中心に上下方向に回転するように構成されている。
【0019】
また、この鍵2の前側内部(図1では右側内部)には、図1に示すように、鍵盤シャーシ1の鍵ガイド部6が挿入されている。これにより、鍵2は、押鍵操作された際に、鍵ガイド部6が鍵2内を相対的に上下方向に摺動することにより、横振れしないように構成されている。
【0020】
さらに、この鍵2は、図1および図2に示すように、そのほぼ中間部に鍵2の上下位置を規制するための位置規制部7が下側に突出して設けられている。この位置規制部7は、その下部後端にフック部7aが後方(図2では左側)に突出して設けられ、このフック部7aが鍵盤シャーシ1の立上り部8に設けられた開口部8a内に挿入した状態で、上下方向に移動するように構成されている。
【0021】
これにより、位置規制部7は、図5および図6に示すように、鍵2が押し下げられた際に、位置規制部7のフック部7aの下端が鍵盤シャーシ1の立上り部8における開口部8aの下部に設けられたフェルトなどの下限ストッパ9に上方から当接することにより、鍵2の下限位置を規制するように構成されている。
【0022】
また、この位置規制部7は、図1および図2に示すように、押鍵された鍵2が初期位置に復帰する際に、位置規制部7のフック部7aの上端が鍵盤シャーシ1の立上り部8における開口部8aの上部に設けられたフェルトなどの上限ストッパ10に下方から当接することにより、鍵2の上限位置を規制するように構成されている。
【0023】
さらに、鍵盤シャーシ1の前後方向(図1では左右方向)におけるほぼ中間に位置する上部には、図1および図2に示すように、スイッチ部材11が複数の鍵2の下側に位置した状態で設けられている。このスイッチ部材11は、鍵盤シャーシ1上に取り付けられたスイッチ基板12と、このスイッチ基板12上に設けられて鍵2のスイッチ押圧部13によって押圧されるスイッチ部14とを備えている。
【0024】
スイッチ基板12は、図1および図2に示すように、鍵2の配列方向に沿って連続する帯板状に形成されている。このスイッチ基板12は、鍵盤シャーシ1における後端部の鍵支持部5と中間部の立上り部8との間にそれぞれ起立して設けられた基板支持部15によって、鍵盤シャーシ1上に取り付けられている。また、スイッチ部14は、図1および図2に示すように、スイッチ基板12上に配置されたゴムシート16を備えている。このゴムシート16は、シリコーンゴムなどの弾力性を有するエラストマからなり、鍵2の配列方向に沿って連続する細長い帯状に形成されている。
【0025】
この場合、ゴムシート16には、図1および図2に示すように、ドーム形状の膨出部17が、複数の鍵2の各スイッチ押圧部13にそれぞれ対応した状態で、等間隔に形成されている。このドーム形状の膨出部17は、図1および図2に示すように、その反発力(弾性力)によって鍵2のスイッチ押圧部13を押し上げると共に、その反発力に抗して鍵2のスイッチ押圧部13で押圧されると、図3、図5および図7に示すように、弾性変形するように構成されている。
【0026】
この場合、ドーム形状の膨出部17内には、図示しないが、スイッチ基板12の上面に設けられた一対の固定接点に接離可能に接触する一対の可動接点が設けられている。これにより、スイッチ部14は、図5に示すように、鍵2のスイッチ押圧部13によってドーム形状の膨出部17が押圧されて弾性変形すると、膨出部17内の一対の可動接点がスイッチ基板12の一対の固定接点に順次接触して、発音信号を出力するように構成されている。
【0027】
ところで、この電子鍵盤楽器は、図1および図2に示すように、押鍵操作時に鍵2にクリック感を付与するクリック感付与部材18を備えている。このクリック感付与部材18は、鍵2の位置規制部7にその前方(図2では右側)に向けて突出して設けられた突起部20と、鍵盤シャーシ1上にベース部材22を介して設けられた弾性部材21とを備えている。突起部20は、図2に示すように、ほぼ三角形状に形成され、位置規制部7の前側下部(図2では右側下部)に前側に向けて突出して設けられている。
【0028】
すなわち、この突起部20は、その下端面が第1傾斜部20aに形成され、その上部の側面が第2傾斜部20bに形成されている。この場合、第1傾斜面20aは、水平方向に対して前上がり(図2では右上がり)に緩やかな角度(例えば、約30度)で傾斜する傾斜面に形成されている。第2傾斜面20bは、水平方向に対して前下がり(図2では右下がり)に急な角度(例えば、約60度)で傾斜する傾斜面に形成されている。
【0029】
弾性部材21は、図2に示すように、鍵盤シャーシ1上に設けられたベース部材22上にビス23によって取り付けられ、図2および図8に示すように、それぞれ上下方向に撓み変形するように構成されている。この場合、ベース部材22は、鍵2の配列方向に沿って連続する細長い板状に形成されている。また、このベース部材22は、その高さが下限ストッパ部9の厚みよりも十分に高く形成されている。
【0030】
弾性部材21は、シリコーンゴムやエラストマなどの柔軟性を有する合成樹脂、または厚みの薄い撓み変形可能な金属板などからなり、図2に示すように、ベース部材22上に配置されてビス23によって固定される固定部24と、この固定部24に各鍵2とそれぞれ対応した状態で鍵2の後側(図2では左側)に向けて突出する複数の弾性片25とを備えている。すなわち、この弾性部材21は、図2に示すように、固定部24の後端部(図2では左端部)に複数の弾性片25をそれぞれ鍵2の後側(図2では左側)に向けて突出させた状態で一体に形成した構成で、全体がほぼ櫛歯状に形成されている。
【0031】
この場合、固定部24は、図2に示すように、その上部に押え板26が配置され、この押え板26を介してビス23によってベース部材22上に固定されている。この押え板26は、鍵2の配列方向に沿って連続する帯板状をなし、弾性部材21の固定部24とほぼ同じ大きさに形成されている。これにより、押え板26は、鍵2の後側に位置する後端部(図2では左端部)と固定部24の後端部とがほぼ一致した状態で、固定部24上に配置されて固定部24を押え付けるように構成されている。
【0032】
また、複数の弾性片25は、図2に示すように、それぞれベース部材22上から鍵2の後側(図2では左側)に向けて突出し、この突出した先端部25aが、押鍵操作されていない初期状態における鍵2の位置規制部7に設けられた突起部20の下側に位置するように配置されている。これにより、弾性片25は、図4および図8に示すように、その先端部25aに鍵2の位置規制部7の突起部20が上下方向から当接することにより、上下方向に撓み変形して突起部20が弾性片25の先端部25aを乗り越えるように構成されている。
【0033】
この場合、弾性片25は、図4に示すように、鍵2が押鍵操作されて位置規制部7の突起部7が上方から当接する際に支持される第1支点27と、図8に示すように、位置規制部7の突起部20が下方から当接する際に支持される第2支点28とを有している。第1支点27は、図2および図4に示すように、ベース部材22の上面における後端部(図4では左端部)に位置している。また、第2支点28は、図2および図8に示すように、弾性片25と固定部24との境界部分、つまり固定部24の後端部に対応する前側部分で、押え板26の後端部に対応する前側部分に位置している。
【0034】
すなわち、第1支点27は、図2に示すように、突起部20が当接する弾性片25の先端部25aからベース部材22の後端部(図2では左端部)までの長さ(L1)で、弾性片25の長さ(L)のほぼ半分の長さ(L1≒(1/2)L<L)に対応する位置に設置されている。また、第2支点28は、突起部20が当接する弾性片25の先端部25aから押え板26の後端部(図2では左端部)までの長さ(L)、つまり弾性片25の長さ(L)と同じ長さに対応する位置に設置されている。
【0035】
このため、第1支点27は、図2に示すように、弾性片25の先端部25aからベース部材22の後端部(図2では左端部)までの長さ(L1)が、第2支点28における弾性片25の先端部25aから押え板26の後端部(図2では左端部)までの長さ(L)よりも短く、その長さ(L)のほぼ半分程度の長さ(L1≒(1/2)L<L)に対応する位置に設置されている。
【0036】
これにより、弾性片25は、図3および図4に示すように、鍵2が押鍵操作された際に位置規制部7の突起部20が上方から当接すると、第1支点27に支持された状態で、下側に向けて撓み変形して鍵2に鍵荷重を付与するように構成されている。この場合、弾性片25は、その先端部25aから第1支点27までの長さ(L1)が弾性片25の長さ(L)の半分程度の長さ(L1≒(1/2)L<L)に対応する位置に設置されるので、弾性片25の反発力が強く、鍵2に付与される鍵荷重を重くするように構成されている。
【0037】
このため、弾性片25は、図2および図4に示すように、鍵2が押鍵操作されて位置規制部7の突起部20によって押し下げられることにより、弾性片25が下側に向けて撓み変形し、図5および図6に示すように、突起部20が弾性片25の先端部25aを乗り越えると、鍵2に付与される鍵荷重を急激に軽くし、鍵荷重が急激に抜ける感覚のクリック感を鍵2に付与して、元の状態に弾性復帰するように構成されている。
【0038】
また、この弾性片25は、鍵2が押鍵操作されて位置規制部7の突起部20が弾性片25の先端部25aを乗り越えた後に、初期位置に戻る際に、図7および図8に示すように、突起部20が下方から当接すると、第2支点28に支持された状態で、上側に向けて撓み変形するように構成されている。
【0039】
この場合、弾性片25は、図2に示すように、その先端部25aから第2支点28までの長さ(L)が弾性片25の長さ(L)とほぼ長さに対応する位置に設置されるので、弾性片25の反発力が第1支点27を中心に撓み変形する場合のときよりも弱くなり、鍵2に付与される鍵荷重が大幅に軽くなるように構成されている。これにより、弾性片25は、図8に示すように、突起部20が弾性片25の先端部25aを下側から軽く乗り越えて、元の状態に弾性復帰して、鍵2を初期位置に戻すように構成されている。
【0040】
また、この弾性片25における第2支点28に対応する箇所には、図2に示すように、切欠き溝29が鍵2の前後方向と直交する方向、つまり固定部24の後端部(図2では左端部)に沿って設けられている。このため、弾性片25は、図7および図8に示すように、鍵2の位置規制部7に設けられた突起部20が下方から当接して上側に向けて撓み変形する際に、第2支点28に対応する箇所の切欠き溝29によって、弾性片25の反発力を更に弱くし、弾性片25が軽い力で撓み変形することにより、鍵荷重が鍵2にほとんど付与されないように構成されている。
【0041】
次に、この電子鍵盤楽器の作用について説明する。
鍵2が押鍵されていない初期状態では、図1および図2に示すように、鍵2の後端部に設けられた屈曲部3の弾性復帰力によって鍵2が上方に押し上げられていると共に、鍵2のスイッチ押圧部13がスイッチ部材11のスイッチ部14におけるドーム状の膨出部17の反発力(弾性力)によって押し上げられている。
【0042】
これにより、鍵2は、図1および図2に示すように、鍵2の位置規制部7に設けられたフック部7aの上端が鍵盤シャーシ1の立上り部8における開口部8aの上部に設けられた上限ストッパ10に下側から当接し、鍵2が上限位置に規制されている。この状態では、図2に示すように、鍵2の位置規制部7の突起部21における下端部の第1傾斜面21aが、弾性部材21における弾性片25の先端部25aの上方に位置している。
【0043】
この状態で、鍵2が押鍵されると、まず、鍵2が回転支点である屈曲部3を中心に図1において時計回りに回転し、鍵2のスイッチ押圧部13がスイッチ部14のドーム形状の膨出部17を押圧して弾性変形させる。このときには、屈曲部3の弾性変形と、スイッチ部14の膨出部17の弾性変形とによって、図9の曲線部Aに示すように、鍵荷重が急激に重くなる。そして、鍵2が更に押し下げられて鍵2のスイッチ押圧部13がスイッチ部14の膨出部17を更に押圧すると、図3および図4に示すように、膨出部17が急激に弾性変形するので、図9の曲線部Bに示すように、鍵荷重が少し軽くなる。
【0044】
この後、鍵2が更に押し下げられると、鍵2のスイッチ押圧部13がスイッチ部14の膨出部17を更に押圧し、膨出部17内の可動接点がスイッチ基板12の固定接点に接触するので、図9の曲線部Cに示すように、鍵荷重が再び重くなる。そして、図3および図4に示すように、鍵2の位置規制部7における突起部20の第1傾斜面20aが、鍵盤シャーシ1上に配置された弾性部材21の弾性片25に上方から当接して、弾性片25を押し下げるので、弾性片25が第1支点27を中心に撓み変形する。
【0045】
このときには、弾性片25の先端部25aから第1支点27までの長さ(L1)が弾性片25の長さ(L)の半分程度の長さ(L1≒(1/2)L<L)であるから、弾性片25の反発力が強く、図9の曲線部Dに示すように、鍵2に付与される鍵荷重が急激に重くなる。そして、図5および図6に示すように、鍵2の位置規制部7における突起部20の第1傾斜面20aが、弾性部材21の弾性片25を乗り越えると、鍵2に対する弾性片25の反発力による負荷がなくなるので、図9の曲線部Eに示すように、鍵荷重が急激に軽くなり、鍵2に鍵荷重が抜ける感覚のクリック感が付与される。
【0046】
このときには、弾性片25が弾性復帰し、この弾性片25の先端部25aが、鍵2の位置規制部7における突起部20の第2傾斜面20bに接触することなく、第1傾斜面20aの上側に移動して元の状態に戻る。この状態で、鍵2が更に押し下げられると、鍵2の位置規制部7に設けられたフック部7aの下端が鍵盤シャーシ1の立上り部8における開口部8aの下部に設けられた下限ストッパ9に上側から当接することにより、鍵2が下限位置に規制される。このため、図9の曲線部Fに示すように、鍵荷重が再び急激に重くなる。
【0047】
一方、押鍵された鍵2が初期位置に復帰する際には、図5および図6に示すように、鍵2の後端部に設けられた屈曲部3の弾性復帰力によって鍵2が上方に押し上げられると共に、スイッチ部材11のスイッチ部14におけるドーム状の膨出部17の反発力(弾性復帰力)によって押し上げられる。このため、図9の曲線部Gに示すように、鍵荷重が急激に軽くなる。
【0048】
この後、図7および図8に示すように、鍵2の位置規制部7における突起部20の第2傾斜面20bが、鍵盤シャーシ1上に配置された弾性部材21の弾性片25の先端部25aに下方から当接して、弾性片25を押し上げるので、弾性片25が第2支点28を中心に撓み変形する。このときには、弾性片25の先端部25aから第2支点28までの長さ(L)が弾性片25の長さ(L)とほぼ同じの長さで、弾性片25の先端部25aから第1支点27までの長さ(L1)よりも長いので、弾性片25の反発力が弱い。
【0049】
また、このときには、第2支点28に対応する弾性片25の箇所に切欠き溝29が設けられているので、この切欠き溝29によっても、弾性片25の反発力を更に弱くなり、鍵2に鍵荷重がほとんど付与されない。このため、弾性片25は鍵荷重が抜ける感覚のクリック感を鍵2に若干付与し、図9の曲線部Hに示すように、鍵2に付与される鍵荷重が僅かに重くなる。
【0050】
そして、図7および図8に示すように、鍵2の位置規制部7における突起部20の第2傾斜面20bが、弾性部材21の弾性片25の先端部25aを乗り越えると、鍵2に対する弾性片25の反発力による負荷がなくなるので、図9の曲線部Iに示すように、鍵荷重が少し軽くなり、突起部20が弾性片25の先端部25aをすり抜けて上方に移動する。この後、スイッチ部14の膨出部17が鍵2のスイッチ押圧部13を押し上げて元のドーム形状に弾性復帰するので、図9の曲線部Jに示すように、鍵荷重が少し重くなった後に軽くなる。
【0051】
そして、鍵2がその回転支点である屈曲部3の弾性復帰力によって鍵2が上方に押し上げられると共に、鍵2のスイッチ押圧部13がスイッチ部材11のスイッチ部14におけるドーム状の膨出部17の反発力(弾性復帰力)によって押し上げられる。このため、図9の曲線部Kに示すように、鍵荷重が急激に軽くなり、図1および図2に示すように、鍵2が初期位置に戻る。
【0052】
このように、この電子鍵盤楽器によれば、鍵2の押鍵操作時に鍵2にクリック感を付与するクリック感付与部材18が、鍵2に設けられた突起部20と、鍵盤シャーシ1に設けられ、鍵2を押鍵操作した際に突起部20が上方から当接して撓み変形することにより、突起部20が乗り越える弾性部材21とを備え、この弾性部材21が、第1支点27と第2支点28とを有し、第1支点27は突起部20が当接する弾性部材21の先端部25aからの長さ(L1)が弾性部材21の先端部25aから第2支点28までの長さ(L)よりも短い(L1<L)位置に設置されているので、簡単な構造で、アコースティックピアノの鍵タッチ感に近似した鍵タッチ感を得ることができる。
【0053】
すなわち、この電子鍵盤楽器では、クリック感付与部材18が、鍵2に設けられた突起部20と、鍵盤シャーシ1上にベース部材22を介して設けられた弾性部材21とを備え、弾性部材21が、押鍵操作されて突起部20が上方から当接する際に支持される第1支点27と、弾性部材21を乗り越えた突起部20が下方から当接する際に支持される第2支点28とを有する構成であるから、構造が簡単で、部品点数も少なく、組立作業性も良いので、楽器全体の低コスト化を図ることができる。
【0054】
また、この電子鍵盤楽器では、突起部20の当接する弾性部材21の先端部25aから第1支点27までの長さ(L1)が、弾性部材21の先端部25aから第2支点28までの長さ(L)よりも短い(L1<L)ので、押鍵された鍵2の突起部20が鍵盤シャーシ1の弾性部材21の弾性片25に上方から当接して弾性部材21の弾性片25を撓み変形させて乗り越える際に、第1支点27によって弾性部材21の弾性片25の反発力を強くすることができ、これにより鍵荷重を重くして、鍵2に鍵荷重が急激に抜ける感覚のクリック感を強く付与することができる。
【0055】
また、この電子鍵盤楽器では、突起部20の当接する弾性部材21の先端部25aから第2支点28までの長さ(L)が、弾性部材21の先端部25aから第1支点27までの長さ(L1)よりも長い(L>L1)ので、押鍵された鍵2が初期位置に戻るときに、鍵2の突起部20が鍵盤シャーシ1の弾性部材21の弾性片25に下方から当接して、弾性変25を撓み変形させて乗り越える際に、第2支点28によって弾性部材21の弾性片25の反発力を弱くすることができ、これにより鍵荷重を軽くして、鍵2に鍵荷重が抜ける感覚のクリック感がほとんど付与されないようにすることができる。
【0056】
このため、押鍵された鍵2の突起部20が弾性部材21の弾性片25に上方から当接して弾性片25を乗り越える際に、鍵荷重を重くして抜ける感覚のクリック感を強く付与することができ、また押鍵された鍵2が初期位置に戻る際に、鍵2の突起部20が弾性部材21の弾性片25に下方から当接して乗り越えるときに、鍵荷重を軽くして鍵2に抜ける感覚のクリック感がほとんど付与されないようにすることができるので、簡単な構造で、アコースティックピアノの鍵タッチ感に近似した鍵タッチ感を得ることができ、演奏者が違和感なく良好に演奏することができる。
【0057】
この場合、第2支点28に位置する弾性部材21の箇所には、切欠き溝29が鍵2の前後方向と直交する方向に沿って設けられていることにより、押鍵された鍵2が初期位置に戻る際に、鍵2の突起部20が弾性部材21の弾性片25に下方から当接して弾性片25を押し上げるときに、第2支点28に対応する箇所の切欠き溝29によって、弾性片25の反発力を、より一層、弱くすることができる。このため、鍵荷重が鍵2にほとんど付与されないようにすることができるので、離鍵時にクリック感が鍵2に付与されないアコースティックピアノの鍵タッチ感に近似した鍵タッチ感を得ることができる。
【0058】
なお、上述した実施形態1では、弾性部材21の弾性片25における第2支点28と対応する箇所に切欠き溝29を設けた構成である場合について述べたが、必ずしも弾性片25に切欠き溝29を設ける必要はない。この場合には、弾性片25の先端部25aから第1支点27までの長さ(L1)と、弾性片25の先端部25aから第2支点28までの長さ(L)との差(L−L1)を、上述した実施形態1よりも、十分に大きくすれば良い。
【0059】
(実施形態2)
次に、図10〜図12を参照して、この発明を適用した電子鍵盤楽器の実施形態2について説明する。なお、図1〜図9に示された実施形態1と同一部分には同一符号を付して説明する。
この電子鍵盤楽器は、図10に示すように、押鍵操作時に鍵2にクリック感を付与するクリック感付与部材35が実施形態1と異なる構成であり、これ以外は実施形態1とほぼ同じ構成になっている。
【0060】
すなわち、このクリック感付与部材35は、図10および図11に示すように、弾性部材21の下面に変形調整板36を配置し、この変形調整板36を介して弾性部材21をベース部材22上に取り付けた構成になっている。この場合にも、弾性部材21は、実施形態1と同様、ベース部材22上に変形調整板36を介して配置された状態でビス23によって固定される固定部24と、この固定部24に各鍵2とそれぞれ対応した状態で鍵2の後方(図10では左側)に突出して設けられた複数の弾性片25とを備えている。
【0061】
この弾性部材21も、図10および図11に示すように、固定部24の後端部(図10では左端部)に複数の弾性片25をそれぞれ鍵2の後側(図10では左側)に向けて突出させた状態で一体に形成した構成で、全体がほぼ櫛歯状に形成されている。固定部24は、変形調整板36上に配置された状態で、固定板24の上部に押え板26が配置されることにより、変形調整板36と押え板26との間にサンドイッチ状態で介在され、ビス23によってベース部材22上に固定されている。
【0062】
この押え板26は、図10および図11に示すように、鍵2の配列方向に沿って連続する帯板状をなし、弾性部材21の固定部24とほぼ同じ大きさに形成されている。これにより、押え板26は、実施形態1と同様、鍵2の後側に位置する後端部(図10では左端部)と固定部24の後端部とがほぼ一致した状態で、固定部24上に配置されて固定部24を押え付けるように構成されている。
【0063】
変形調整板36は、図10〜図12に示すように、鍵2の配列方向に沿って連続する帯板状の本体部36aと、この本体部36aの後端部(図10では左端部)に複数の支持突起部36bをそれぞれ鍵2の後側(図10では左側)に向けて突出させた状態で一体に形成した構成で、弾性部材21と同様、全体がほぼ櫛歯状に形成されている。この変形調整板36は、その前端部(図10では右端部)が固定部24の前端部とほぼ一致した状態で、ベース部材22上から鍵2の後方(図10では左側)に向けて突出するように構成されている。
【0064】
複数の弾性片25は、図10に示すように、それぞれ変形調整板36上から鍵2の後方(図10では左側)に向けて突出し、この突出した先端部25aが、押鍵操作されていない初期状態における鍵2の位置規制部7に設けられた突起部20の下側に位置するように配置されている。これにより、弾性片25は、図10〜図12に示すように、その先端部25aに鍵2の位置規制部7の突起部20が上下方向から当接すると、撓み変形して突起部20が弾性片25の先端部25aを乗り越えるように構成されている。
【0065】
この場合、弾性片25は、図10に示すように、鍵2が押鍵操作されて位置規制部7の突起部7が上方から当接する際に支持される第1支点37と、位置規制部7の突起部20が下方から当接する際に支持される第2支点38とを有している。第1支点37は、図10に示すように、ベース部材22から後方(図10では左側)に突出した変形調整板36の支持突起部36bの先端部36cに位置している。すなわち、この第1支点27は、図10に示すように、突起部20が当接する弾性片25の先端部25aから変形調整板36の支持突起部36bの先端部36cまでの長さ(La)に対応する位置に設置されている。
【0066】
また、第2支点28は、図10に示すように、弾性片25と固定部24との境界部分、つまり固定部24の後端部に対応する前側部分で、押え板26の後端部26aに対応する前側部分に位置している。すなわち、この第2支点38は、突起部20が当接する弾性片25の先端部25aから押え板26の後端部26aまでの長さ(Lb)、つまり弾性片25の長さ(L)と同じ長さ(Lb=L)に対応する位置に設置されている。
【0067】
この場合にも、第1支点37は、図10に示すように、弾性片25の先端部25aから変形調整板36の支持突起部36bの先端部36cまでの長さ(La)が、弾性片25の先端部25aから第2支点38までの長さ(Lb)、つまり弾性片25の先端部25aから押え板26の後端部26aまでの長さ(L=Lb)よりも短い(La<Lb)位置に設置されている。
【0068】
ところで、変形調整板36は、図12(a)および図12(b)に示すように、ベース部材22の後端部(図12では左端部)から後方に突出する長さ(S1、S2)が、低音域側で長く(S1)、高音域側に向かうに従って次第に短く(S2<S1)なるように形成されている。このため、低音域側に位置する弾性片25の第1支点37は、図12(a)に示すように、弾性片25の先端部25aから変形調整板36の支持突起部36bの先端部36cまでの長さ(La1)が、弾性片25の長さ(L=Lb)よりも大幅に短くなるように設定されている。
【0069】
また、高音域側に位置する弾性片25の第1支点37は、図12(b)に示すように、弾性片25の先端部25aから変形調整板36の支持突起部36bの先端部36cまでの長さ(La2)が、低音域側における弾性片25の先端部25aから変形調整板36の支持突起部36bの先端部36cまでの長さ(La1)よりも長く(La2>La1)、且つ弾性片25の長さ(L=Lb)よりも十分に短く(La1<La2<Lb=L)なるように設定されている。
【0070】
これにより、弾性片25は、図12(a)に示すように、鍵2が押鍵操作された際に位置規制部7の突起部20が上方から当接すると、第1支点37に支持された状態で、下側に向けて撓み変形して鍵2に鍵荷重を付与するように構成されている。この場合、低音域側に位置する弾性片25は、その先端部25aから第1支点37までの長さ(La1)が弾性片25の長さ(L=Lb)よりも大幅に短いので、弾性片25の反発力が強く、鍵2に付与される鍵荷重を重くするように構成されている。
【0071】
このため、弾性片25は、図12(a)に示すように、鍵2が押鍵操作されて位置規制部7の突起部20によって押し下げられることにより、弾性片25が下側に向けて撓み変形し、突起部20が弾性片25の先端部25aを乗り越えると、鍵荷重を急激に軽くし、鍵荷重が急激に抜ける感覚のクリック感を鍵2に付与して、元の状態に弾性復帰するように構成されている。
【0072】
また、高音域側に位置する弾性片25は、図12(b)に示すように、その先端部25aから第1支点37までの長さ(La2)が弾性片25の長さ(L=Lb)よりも十分に短い(La2<<Lb=L)ので、弾性片25の反発力が強く、鍵2に付与される鍵荷重を重くするように構成されている。
【0073】
この場合には、弾性片25の先端部25aから変形調整板36の支持突起部36bの先端部36cまでの長さ(La2)が、低音域側における弾性片25の先端部25aから変形調整板36の支持突起部36bの先端部36cまでの長さ(La1)よりも長い(La2>La1)ので、高音域側の弾性片25は、低音域側の弾性片25よりも、反発力が少し弱く、鍵2に付与される鍵荷重が低音域側よりも少し軽くなるように構成されている。
【0074】
また、この弾性片25は、鍵2が押鍵操作されて位置規制部7の突起部20が弾性片25の先端部25aを乗り越えた後に、初期位置に戻る際に、図12(a)および図12(b)に示すように、突起部20が下方から当接すると、第2支点38に支持された状態で、上側に向けて撓み変形するように構成されている。
【0075】
この場合、弾性片25は、図12(a)および図12(b)に示すように、その先端部25aから第2支点38までの長さ(Lb)が弾性片25の長さ(L)とほぼ長さ(Lb=L)に対応する位置に設置されているので、弾性片25の反発力が第1支点37を中心に撓むときよりも十分に弱くなり、鍵2に付与される鍵荷重が大幅に軽くなるように構成されている。これにより、弾性片25は、図12(a)および図12(b)に示すように、突起部20が弾性片25の先端部25aを軽く乗り越えて、元の状態に弾性復帰して、鍵2を初期位置に戻すように構成されている。
【0076】
次に、この電子鍵盤楽器におけるクリック感付与部材35の作用について説明する。
この場合、鍵2が押鍵されて鍵2の回転支点である屈曲部3を中心に回転すると、鍵2の位置規制部7における突起部20の第1傾斜面20aが、鍵盤シャーシ1上に変形調整板36を介して配置された弾性部材21の弾性片25に上方から当接し、弾性片25を押し下げる。すると、弾性片25が第1支点37を中心に撓み変形する。
【0077】
このときには、弾性片25の先端部25aから第1支点37までの長さ(La1、La2)が弾性片25の長さ(L)よりも十分に短い(La1、La2<<L)ので、弾性片25の反発力が強く、実施形態1と同様、鍵2に付与される鍵荷重が急激に重くなる。そして、鍵2の位置規制部7における突起部20の第1傾斜面20aが、弾性部材21の弾性片25を乗り越えると、鍵2に対する弾性片25の反発力による負荷がなくなるので、鍵荷重が急激に軽くなり、鍵2に鍵荷重が抜ける感覚のクリック感が付与される。
【0078】
この場合、低音域側に位置する弾性片25の第1支点37は、図12(a)に示すように、弾性片25の先端部25aから変形調整板36の支持突起部36bの先端部36cまでの長さ(La1)が、高音域側における弾性片25の先端部25aから変形調整板36の支持突起部36bの先端部36cまでの長さ(La2)よりも短く(La1<La2)、且つ弾性片25の長さ(L=Lb)よりも十分に短く(La1<<Lb=L)なるように設定されている。
【0079】
このため、弾性片25は、図12(a)に示すように、鍵2の位置規制部7の突起部20が上方から当接して、第1支点37に支持された状態で下側に向けて撓み変形する際に、弾性片25の反発力が高音域側よりも強く、鍵2に重い鍵荷重を付与する。これにより、弾性片25は、図12(a)に示すように、鍵2の位置規制部7の突起部20が弾性片25の先端部25aを乗り越えると、鍵荷重が急激に軽くなり、鍵2に鍵荷重が急激に抜ける感覚のクリック感を強く付与する。
【0080】
また、高音域側に位置する弾性片25の第1支点37は、図12(b)に示すように、弾性片25の先端部25aから変形調整板36の支持突起部36bの先端部36cまでの長さ(La2)が、低音域側における弾性片25の先端部25aから変形調整板36の支持突起部36bの先端部36cまでの長さ(La1)よりも少し長く(La2>La1)、且つ弾性片25の長さ(L=Lb)よりも十分に短く(La2<<Lb=L)なるように設定されている。
【0081】
このため、弾性片25は、図12(b)に示すように、鍵2の位置規制部7の突起部20が上方から当接して、第1支点37に支持された状態で下側に向けて撓み変形する際に、弾性片25の反発力が低音域側よりも少し弱いが、鍵2に重い鍵荷重を付与する。これにより、弾性片25は、図12(b)に示すように、鍵2の位置規制部7の突起部20が弾性片25の先端部25aを乗り越えると、鍵荷重が急激に軽くなり、鍵2に鍵荷重が急激に抜ける感覚のクリック感を低音域側よりも少し弱く付与する。
【0082】
一方、押鍵された鍵2が初期位置に復帰する際には、実施形態1と同様、鍵2の後端部に設けられた屈曲部3の弾性復帰力によって鍵2が上方に押し上げられると共に、スイッチ部材11のスイッチ部14におけるドーム状の膨出部17の反発力(弾性復帰力)によって押し上げられ、鍵2の位置規制部7における突起部20の第2傾斜面20bが、鍵盤シャーシ1上に配置された弾性部材21の弾性片25の先端部25aに下方から当接して、弾性片25を押し上げるので、弾性片25が第2支点38を中心に撓み変形する。
【0083】
このときには、図12(a)および図12(b)に示すように、弾性片25の先端部25aから第2支点38までの長さ(Lb)が弾性片25の長さ(L)とほぼ長さ(Lb=L)に対応する位置に設置されているので、弾性片25の反発力が第1支点37を中心に撓み変形する場合のときよりも十分に弱くなり、鍵2に付与される鍵荷重が大幅に軽くなる。これにより、弾性片25は、図12(a)および図12(b)に示すように、突起部20が弾性片25の先端部25aを軽く乗り越えて、鍵2に鍵荷重が抜ける感覚のクリック感をほとんど付与することがなく、元の状態に弾性復帰して、鍵2を初期位置に戻す。
【0084】
このように、この電子鍵盤楽器によれば、実施形態1と同様の作用効果があるほか、弾性部材21の下面に配置されて、弾性部材21の弾性片25の先端部25aから第1支点37までの長さ(La、La1、La2)を調整する変形調整板36を備えているので、この変形調整板36によって弾性部材21の弾性片25の先端部25aから第1支点37までの長さ(La、La1、La2)を調整することにより、弾性片25の反発力を調整することができ、これにより鍵2に付与されるクリック感の強さを最適化することができる。
【0085】
この場合、変形調整板36は、弾性部材21の弾性片25の先端部25aから第1支点37までの長さ(La)が、低音域側で短く(La1<La2)、高音域側に向かうに従って次第に長く(La2>La1)なるように設けられていることにより、低音域側に位置する弾性片25の反発力を、高音域側に位置する弾性片25の反発力よりも、強くすることができ、また高音域側に位置する弾性片25の反発力を、低音域側に位置する弾性片25の反発力よりも、弱くすることができる。
【0086】
このため、低音域側に位置する鍵2の鍵荷重を、高音域側に位置する鍵2の鍵荷重を重くして、低音域側の鍵2に付与されるクリック感を、高音域側の鍵2に付与されるクリック感よりも強くすることができ、また高音域側に位置する鍵2の鍵荷重を、低音域側に位置する鍵2の鍵荷重を少し軽くして、高音域側の鍵2に付与されるクリック感を、低音域側の鍵2に付与されるクリック感よりも少し弱くすることができる。これにより、簡単な構造で、より一層、アコースティックピアノの鍵タッチ感に近似した鍵タッチ感を得ることができ、演奏者が違和感なく良好に演奏することができる。
【0087】
なお、上述した実施形態2においても、実施形態1と同様、第2支点38に対応する弾性片25の箇所に、切欠き溝29を設けた構成にしても良い。このように構成すれば、実施形態1と同様、押鍵された鍵2が初期位置に戻る際に、突起部20が弾性片25の先端部25aを押し上げても、突起部20が軽い力で弾性片25の先端部25aをすり抜けるので、より一層、離鍵時にクリック感を鍵2に付与しないようにすることができる。
【0088】
また、上述した実施形態2では、変形調整板36が、鍵2の配列方向に連続する帯板状の本体部36aと、この本体部36aの後端部に各鍵2とそれぞれ対応して一体に形成された複数の支持突起部36bとを備えた構成である場合について述べたが、これに限らず、例えば変形調整板は、各鍵2に対応してそれぞれ単独で個別に形成された構成であっても良い。この場合には、各鍵2ごとに変形調整板がそれぞれ鍵の前後方向に移動可能に取り付けることにより、各鍵ごとにクリック感を調整することができ、きめ細かく鍵タッチ感を調整することができる。
【0089】
さらに、上述した実施形態1、2およびその変形例では、鍵2の位置規制部7に突起部20を設けた場合について述べたが、必ずしも鍵2の位置規制部7に突起部20を設ける必要はなく、例えば鍵盤シャーシ1の鍵ガイド部6によってガイドされる箇所など、鍵2のどのような箇所に設けても良い。
【0090】
また、上述した実施形態1、2およびその各変形例では、突起部20を鍵2の前側(図2および図10では右側)に向けて突出させ、弾性部材21の弾性片25を鍵2の後方(図2および図10では左側)に向けて突出させた場合について述べたが、これに限らず、突起部を鍵2の後方に向けて突出させ、弾性部材21の弾性片25を鍵2の前方に向けて突出させた構成であっても良い。
【0091】
なおまた、この発明の鍵盤装置は、上述した実施形態1、2およびその各変形例に限らず、鍵盤シャーシ1に複数のハンマー部材を各鍵2に対応させた状態で上下方向に回転可能に設け、鍵2の押鍵操作に応じてハンマー部材を回転させて鍵2にアクション荷重を付与する構成のものにも適用することができる。
【符号の説明】
【0092】
1 鍵盤シャーシ
2 鍵
3 屈曲部
4 共通連結部
5 鍵支持部
7 位置規制部
18、35 クリック感付与部材
20 突起部
21 弾性部材
22 ベース部材
23 ビス
24 固定部
25 弾性片
25a 先端部
26 押え板
27、37 第1支点
28、38 第2支点
29 切欠き溝
36 変形調整板
L1、La 弾性片の先端部から第1支点までの長さ
L、Lb 弾性片の先端部から第2支点までの長さ
La1 低音域における弾性片の先端部から第1支点までの長さ
La2 高音域における弾性片の先端部から第1支点までの長さ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵盤シャーシと、この鍵盤シャーシ上に上下方向に回転可能に設けられた鍵と、この鍵の押鍵操作時に前記鍵にクリック感を付与するクリック感付与部材とを備えた鍵盤装置において、
前記クリック感付与部材は、前記鍵に設けられた突起部と、前記鍵盤シャーシに設けられ、前記鍵を押鍵操作した際に前記突起部が上方から当接して撓み変形することにより、前記突起部が乗り越える弾性部材とを備え、
この弾性部材は、前記鍵が押鍵操作されて前記突起部が上方から当接する際に支持される第1支点と、前記弾性部材を乗り越えた前記突起部が下方から当接する際に支持される第2支点とを有し、前記第1支点は前記突起部が当接する前記弾性部材の先端部からの長さが前記弾性部材の前記先端部から前記第2支点までの長さよりも短い位置に設置されていることを特徴とする鍵盤装置。
【請求項2】
前記第2支点に位置する前記弾性部材の箇所には、溝部が前記鍵の前後方向と直交する方向に沿って設けられていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤装置。
【請求項3】
前記弾性部材の下面に配置されて、前記弾性部材の前記先端部から前記第1支点までの長さを調整する変形調整板を備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鍵盤装置。
【請求項4】
前記変形調整板は、前記弾性部材の前記先端部から前記第1支点までの長さが、低音域側で短く、高音域側に向かうに従って次第に長くなる状態で設けられていることを特徴とする請求項3に記載の鍵盤装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−248046(P2011−248046A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120343(P2010−120343)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】