説明

鍵盤装置

【課題】温度の低下による潤滑剤の硬化を防止して、環境温度が低下しても鍵盤の動作荷重が変化せず、連打性等、演奏性の低下を防止することのできる鍵盤装置を提供する。
【解決手段】一端側が鍵盤シャーシ1に対して回動自在に支持され、他端側に押下部31を備えた複数の鍵3と、これら各鍵3の下側に対応して設けられ、鍵3の押鍵動作に伴って回動変位し当該鍵3に対してアクション荷重を付与する複数のハンマー部材4と、を備え、鍵3の押鍵動作時に鍵盤シャーシ1と鍵3及び/又はハンマー部材4とが摺接する摺接部分にグリスが塗布され、鍵盤シャーシ1におけるグリスの塗布位置に対応する位置にヒータ7を配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子ピアノ等の電子楽器の鍵盤装置は、鍵盤シャーシ、この鍵盤シャーシ上に上下方向に回動可能に設けられた複数の鍵(白鍵と黒鍵)、これらの鍵をガイドする鍵ガイド部、各鍵にそれぞれアクション荷重を付与する複数のハンマー部材等を備えている。
各鍵の軸受け、ハンマーの軸受け、各鍵のガイド部といった稼動部分や部材同士が摺接する部分は、演奏の際の押鍵操作により部材同士が擦れ合い、異音を発生させることがある。また、こうした部分では、部材が磨耗しやすく、耐久性が低くなりやすい。
【0003】
そこで、従来、異音の発生防止、耐久性の向上等のために、例えば、鍵の軸受け、ハンマーの軸受け、各鍵のガイド部といった稼動部分や部材同士が摺接する部分にグリス等の潤滑剤を塗布することが行われている(例えば、鍵の両側壁内面と鍵ガイド部のガイド面との摺接部にグリス等の潤滑剤を塗布する例について、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2718336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、グリス等の潤滑剤は、一般的に温度依存性が強く、温度が高いときには軟度を増し、温度が低下するに伴って硬化する性質を有している。このため、部材同士が摺接する摺接部分や稼動部分にグリス等の潤滑剤を塗布している通常のピアノの鍵盤では、環境温度が低下するにつれ、摺接部分や稼動部分の動作時の抵抗が大きくなる。すなわち、環境温度の低下により潤滑剤の硬度が上昇すると、これによって鍵を動作させる荷重が増加し、特に押鍵後に鍵が初期位置に戻る速度が低下してしまう。
このため、演奏の際の各鍵の動作速度が低下し、連打性等の演奏性が低下してしまうという問題がある。
演奏者にとって、思い通りの演奏ができるか否かが環境温度の変化により左右されることは重大な問題であり、電子ピアノ等の鍵盤装置には常に一定の高レベルの演奏性を維持できることが強く望まれている。
【0006】
そこで、本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、温度の低下による潤滑剤の硬化を防止して、環境温度が低下しても鍵盤の動作荷重が変化せず、連打性等、演奏性の低下を防止することのできる鍵盤装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の鍵盤装置は、
鍵盤シャーシと、
一端側が前記鍵盤シャーシに対して回動自在に支持され、他端側に押下部を備えた複数の鍵と、
これら各鍵の下側に対応して設けられ、前記鍵の押鍵動作に伴って回動変位し当該鍵に対してアクション荷重を付与する複数のハンマー部材と、を備え、
前記鍵の押鍵動作時に前記鍵盤シャーシと前記鍵及び/又は前記ハンマー部材とが摺接する摺接部分に潤滑剤が塗布され、
前記鍵盤シャーシにおける前記潤滑剤の塗布位置に対応する位置に加熱手段を配置したことを特徴としている。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の鍵盤装置において、
前記鍵盤シャーシは、前記複数の鍵を支持する鍵支持部と、前記ハンマー部材を支持するハンマー支持部と、前記各鍵の前記押下部をガイドする鍵ガイド部と、を備え、
前記鍵支持部、前記ハンマー支持部、前記鍵ガイド部は、前記潤滑剤が塗布される前記摺接部分を構成し、前記加熱手段は、前記鍵盤シャーシ内であって、これらに対応する位置に配置されていることを特徴としている。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の鍵盤装置において、
前記鍵盤シャーシは、樹脂によって成型されており、
前記加熱手段は、インサート成型によって前記鍵盤シャーシ内に設けられたヒータであることを特徴としている。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の鍵盤装置において、
前記加熱手段は、1オクターブ分の鍵に対応する範囲を1セットとして設けられていることを特徴としている。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の鍵盤装置において、
温度センサと、
この温度センサの検出した温度に応じて前記加熱手段のON/OFFを切り替える制御手段と、
をさらに備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、稼動部分や部材同士が摺接する部分にグリス等の潤滑剤を塗布している場合に、潤滑剤の塗布位置に対応する位置に加熱手段を配置して適宜加熱を行うため、環境温度が低下しても潤滑剤の硬度が上昇することを防止することができる。これにより、演奏の際の各鍵の動作速度の低下を防止して、環境温度の変化に左右されずに連打性等の演奏性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態における鍵盤装置の側断面図である。
【図2】図1における鍵盤シャーシの側断面図である。
【図3】図2における鍵盤シャーシを上から見た平面図である。
【図4】グリスの塗布位置を示す白鍵部分の側断面図である。
【図5】グリスの塗布位置を示す黒鍵部分の側断面図である。
【図6】本実施形態における温度調整制御の制御構成を示す要部ブロック図である。
【図7】温度調整制御の一例を示すグラフである。
【図8】温度調整処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
先ず、図1から図8を参照しつつ、本発明に係る鍵盤装置の一実施形態について説明する。なお、本発明の範囲は図示例に限定されない。
【0015】
図1は、本実施形態における鍵盤装置の側断面図である。
図1に示すように、鍵盤シャーシ1と、この鍵盤シャーシ1上に上下方向(図1において上下方向)に回動可能に配置された複数の鍵3と、この複数の鍵3にそれぞれ対応して設けられ鍵3の各押鍵動作に応じてそれぞれ電気信号を出力する複数のスイッチ部(図示せず)と、この複数の鍵3の下側にそれぞれ対応して設けられ、鍵3の押鍵動作に伴って回動変位し当該鍵3に対してアクション荷重を付与する複数のハンマー部材4と、鍵盤シャーシ1及び鍵盤シャーシ1に取り付けられている各種部材を収納する本体ケース5と、この本体ケース5の後側上部に設けられて鍵盤シャーシ1及び複数の鍵3の各後端部側を覆う上部ケース6とを備えている。
本実施形態において、鍵3は、複数の白鍵3a(図1では1つのみを示す)と、複数の黒鍵3b(図1では1つのみを示す)とを備えているが、以下の説明において、単に「鍵3」としたときは、白鍵3aと黒鍵3bとを含むものとする。
【0016】
図2は、鍵盤シャーシ1の側断面図であり、図3は、鍵盤シャーシ1を上側(鍵3が配置される側)からみた平面図である。なお、図3では、一部の白鍵3a、黒鍵3bのみを実線で表し、その他の部分については、鍵3を外した状態を示している。
鍵盤シャーシ1は、例えばABS樹脂等の合成樹脂により一体的に射出成型されている。なお、鍵盤シャーシ1が本体ケース5をも兼ねるように、鍵盤シャーシ1と本体ケース5とが一体的に形成されていてもよい。
【0017】
この鍵盤シャーシ1の前端部(図1及び図2では左端部)には、白鍵3aの前端部内側に下方から摺接し白鍵3aの前端部をガイドする鍵ガイド部11(白鍵ガイド部11a)が、鍵盤シャーシ1の底部(すなわち図1及び図2において下側)から上方に突出するように形成されている。
この白鍵ガイド部11aの後部側(図1及び図2では右側)には、図1及び図2に示すように、黒鍵3bが押鍵されてその前端部が下方に下がったときに黒鍵3bの前端部を受ける凹部である黒鍵逃げ部12が設けられている。
【0018】
この黒鍵逃げ部12の後部側には、前側立上り部10が、黒鍵逃げ部12の底部からから上方に突出するように形成されており、この前側立上り部10には、ハンマー部材4を挿通させる開口部10aが形成されている。
また、前側立上り部10の上端部は、黒鍵3bの前端部内側に下方から摺接し黒鍵3bの前端部をガイドする鍵ガイド部11(黒鍵ガイド部11b)となっている。
【0019】
さらに、この黒鍵ガイド部11bの後方であって鍵盤シャーシ1の裏面側(図1及び図2において下側)には、ハンマー部材4を回動自在に支持するハンマー支持部13が形成されている。ハンマー支持部13には、ハンマー部材4を上下方向に支持するハンマー支持軸14が設けられている。
【0020】
鍵3の中間部に対応する鍵盤シャーシ1上には、図示しないスイッチ基板が配置されており、このスイッチ基板上であって、各鍵3のスイッチ押圧部に対応する位置には、それぞれスイッチ部としてのゴムスイッチ(図示せず)が設けられている。
【0021】
このゴムスイッチは、例えばスイッチ基板上に配設されたゴムシートを備え、このゴムシート上であって、各鍵3のスイッチ押圧部34(後述)にそれぞれ対応する位置にドーム状の膨出部を形成したものである。
ゴムスイッチ及びこれを押圧する機構は特に限定されないが、例えば、鍵3が押下されたときに、鍵3に設けられているスイッチ押圧部34がゴムスイッチの膨出部を押圧する。これにより膨出部が弾性変形して、その内部に設けられている可動接点がスイッチ基板上の固定接点と接触し、ON信号を出力するように構成されている。
【0022】
さらに、ハンマー支持部13及びゴムスイッチよりも後部側(図1及び図2において右側)には、複数の鍵3(白鍵3a、黒鍵3b)を支持する鍵支持部15が上方に突出して設けられており、この鍵支持部15には、鍵3の後端部を回動可能に支持するための鍵支持軸16が設けられている。
【0023】
また、鍵盤シャーシ1の裏面側(図1及び図2において下側)における鍵支持部15に対応する位置又はその近傍には、鍵盤シャーシ1の温度を検出する温度センサ17が設けられている。温度センサ17は、後述する電源部を制御する温度調整制御部21を構成する温度調整制御基板20と接続されており、検出結果を温度調整制御部21に出力するようになっている。
【0024】
また、鍵盤シャーシ1の後端部上側の裏面側には、ハンマー部材4が図1において反時計回りに付勢された際に、ハンマー部材4の先端部の上面に当接してハンマー部材4の先端部である当接部44の上限位置を規制する上限ストッパ18が設けられている。また、鍵盤シャーシ1の後端部下側の表面側(図1及び図2において上側)には、ハンマー部材4が図1において時計回りに回動した際に、ハンマー部材4の当接部44の下面に当接してハンマー部材4の当接部44の下限位置を規制する下限ストッパ19が設けられている。
上限ストッパ18、下限ストッパ19は、それぞれ、フェルト等により形成されており、ハンマー部材4の当接部44が上限ストッパ18、下限ストッパ19に当接した際に、その衝撃を吸収可能となっている。
【0025】
また、図1から図3に示すように、本実施形態における鍵盤シャーシ1の白鍵ガイド部11a、黒鍵ガイド部11b、ハンマー支持部13、鍵支持部15の内部には、加熱手段としてのヒータ7(白鍵ガイド部のヒータ7a、黒鍵ガイド部のヒータ7b、ハンマー支持部のヒータ7c、鍵支持部のヒータ7d)がそれぞれ配置されている。なお、以下の説明において、単に「ヒータ7」としたときは、これらヒータ7aからヒータdを含むものとする。
【0026】
図4は、白鍵3a部分を側断面としたものであり、図5は、黒鍵3b部分を側断面としたものである。図4及び図5において一点鎖線で示した部分、すなわち、白鍵3aの内側面に摺接する部分(部材同士の摺接部分)である鍵盤シャーシ1の白鍵ガイド部11aの前側(図4及び図5において左側)の面、黒鍵3bの内側面に摺接する部分である黒鍵ガイド部11bの前側(図4及び図5において左側)の面、ハンマー部材4のハンマーホルダ42と摺接する部分(部材同士の摺接部分)であるハンマー支持部13及び鍵3の後端部と摺接する部分(部材同士の摺接部分)である鍵支持部15には、潤滑剤としてのグリス9が塗布されている。グリス9としては、例えばシリコーングリスが好適に用いられるが、これに限定されない。
【0027】
本実施形態において、加熱手段としてのヒータ7は、鍵盤シャーシ1におけるグリス9の塗布位置に対応する位置に配置されている。なお、ヒータ7を設ける位置及び範囲は特に限定されない。本実施形態で示した位置のうちの一部にのみ設けてもよいし、ここに示した以外の位置に配置してもよい。図示例に示した以外の部分にもグリス9を塗布している場合には、当該グリス9の塗布位置に対応する位置にもヒータ7を設けるようにする。
【0028】
各ヒータ7には、それぞれ配線71が接続されており、配線71は、温度調整制御基板20と接続されている。各ヒータ7は、電源部70からの電力供給により動作するものであり、後述するように、温度調整制御部21によりON/OFFの切り替えが制御されるようになっている。
【0029】
なお、ヒータ7の種類は特に限定されないが、曲げ加工が可能な線状のヒータ7を適用することができる。
また、ヒータ7を鍵盤シャーシ1に設ける手法は特に限定されないが、白鍵ガイド部11a、黒鍵ガイド部11b、ハンマー支持部13、鍵支持部15に対応するように、予めそれぞれの形状に沿ってヒータ7に曲げ加工を施した上で、鍵盤シャーシ1を形成する際に金型にセットし、その上で金型に樹脂を流し込むインサート成型の手法を用いることができる。なお、鍵盤シャーシ1にヒータ7を設ける手法はここに例示したものに限定されない。
【0030】
本実施形態において、白鍵ガイド部11a、黒鍵ガイド部11b、ハンマー支持部13、鍵支持部15に設けられている各ヒータ7は、それぞれ1オクターブ分の鍵3(通常12鍵。なお、図3における右側は、最高音部分であるため、1オクターブ分が13鍵となっている。)に対応する範囲を1セットとして、鍵盤装置100を構成する鍵盤に対応した数のセット(例えば、8オクターブの鍵盤装置100の場合には8セット)が設けられている。
各セットを構成するヒータ7a〜7dは、直列接続されて1つの電源部70に接続されている。
【0031】
鍵3は、前端側(図1では左端側)が演奏者により押鍵される押下部31とされ、後端側が鍵盤シャーシ1の鍵支持部15に対して回動自在に支持されている。鍵3の後端部(図1では右端部)の両側面には鍵取付孔部(図示せず)が設けられており、この鍵取付孔部が鍵盤シャーシ1上に設けられた鍵支持部15の鍵支持軸16に回動可能に取り付けられ、これにより鍵3は鍵支持軸16を中心に上下方向に回動するように構成されている。
【0032】
本実施形態において、鍵3は、樹脂等により形成されており、図1及び図3に示すように、細長いほぼ角筒形状をなしている。
鍵3は内部が中空となっており、下側に開放された断面矩形状に形成されている。鍵3の内部における前部側(図1では左端部側)には、鍵ガイド部11が下側から挿入されるようになっており、この鍵ガイド部11によって鍵3の前側端部がガイドされ、押鍵時に横振れしないように構成されている。
【0033】
また、この鍵3の中間部であって鍵盤シャーシ1上に設けられたスイッチ基板のゴムスイッチに対応する位置には、ゴムスイッチを押圧するスイッチ押圧部34が設けられている。スイッチ押圧部34は、鍵3が押鍵動作されたときに、ゴムスイッチを押圧し、ゴムスイッチからON信号を出力させるように構成されている。
【0034】
また、ハンマー部材4は、図1に示すように、ハンマー本体41と、ハンマーホルダ42とを有している。
ハンマー本体41は金属で形成されており、その一端側は、鍵3のハンマー連結部35と連結される鍵連結部43となっている。また、ハンマー本体41の他端側は、鍵盤シャーシ1に設けられている上限ストッパ18及び下限ストッパ19に当接する当接部44となっており、この当接部44の近傍には、錘45が設けられている。また、ハンマー本体41における鍵連結部43の近傍には、ハンマーホルダ42を取り付けるホルダ取付部46が設けられている。
【0035】
ハンマーホルダ42は、樹脂等により形成されており、ハンマー本体41のホルダ取付部46に取り付けられるようになっている。
ハンマー部材4は、ハンマーホルダ42をホルダ取付部46に取り付けた状態で、鍵盤シャーシ1の前側立上り部10に設けられた開口部10aを挿通させることにより鍵盤シャーシ1の裏面側に配置されるようになっている。
ハンマーホルダ42にはハンマー取付孔部(図示せず)が設けられており、このハンマー取付孔部が鍵盤シャーシ1上に設けられたハンマー支持部13のハンマー支持軸14に回動可能に取り付けられ、これによりハンマー部材4はハンマー支持軸14を中心に上下方向に回動するように構成されている。
【0036】
ハンマー部材4は、ハンマー本体41の後端部(図1では右端部)近傍に設けられた錘45の重量によって、ハンマー本体41が図1において時計回りに付勢されて、ハンマー本体41の後端部の当接部44が鍵盤シャーシ1の後端底部に設けられた下限ストッパ19に当接することにより、ハンマー本体41が下限位置に規制されるように構成されている。また、このハンマー部材4は、ハンマー本体41が錘45の重量に抗して図1における反時計回りに回動したときに、ハンマー本体41の後端部の当接部44が鍵盤シャーシ1の後端部裏面側に配置された上限ストッパ18に当接することにより、ハンマー本体41が上限位置に規制されるように構成されている。
【0037】
本体ケース5は、鍵3、ハンマー部材4等が組み付けられた鍵盤シャーシ1を収容する筐体である。本体ケース5の後端部(図1において右側端部)の壁面内側には、温度調整制御基板20がねじ止め固定されており、この温度調整制御基板20には、各ヒータ7の配線71及び温度センサ17が接続されている。
【0038】
図6は、本実施形態における温度調整制御の制御構成を示すブロック図である。
本実施形態において、鍵盤装置100は、鍵盤装置100の演奏等の動作に関する制御を行う制御部(図示せず)の他に、電源部70からヒータ7に対して電力供給を行うか否かを切り替え、ヒータ7のON/OFFの切り替え制御を行って鍵盤シャーシ1の温度調整を行う制御手段としての温度調整制御部21を備えている。
図6に示すように、温度調整制御部21は、CPU(Central Processing Unit)22、ROM(Read Only Memory)23、RAM(Random Access Memory)24等を備えるコンピュータであり、温度調整制御基板20上に設けられている。温度調整制御部21のROM23には、温度調整処理を行うための各種プログラム等が格納されている。
【0039】
また、温度調整制御部21は、ヒータ7との間で信号の送受信を行う第1I/Oポート25、温度センサ17からその検出結果が入力される第2I/Oポート26を備えている。
温度調整制御部21は、外部電源と接続された電源部70と接続されており、CPU22は、温度センサ17から入力された鍵盤シャーシ1の温度情報に基づいてヒータ7のON/OFFを切り替える信号を出力するとともに、ヒータ7をONする場合には、電源部70からヒータ7に対して電力供給を行い、ヒータ7をOFFする場合には、電源部70からヒータ7に対して電力供給を行わないように、電源部70からの電力供給を制御するようになっている。
【0040】
グリス9の硬度の上昇を抑えて、高い演奏性を維持するためには、鍵盤シャーシ1の温度が例えば10度以下等の低温にならないようにヒータ7によって加熱することが好ましい。また、常に一定の安定した演奏性を実現するためには、できるだけ鍵盤シャーシ1の温度を一定の温度範囲内に維持することが好ましい。
そこで、本実施形態では、図7に示すように、鍵盤シャーシ1の温度(図7において、「シャーシ温度(t)」)として維持すべき温度を設定温度(TC)とし、鍵盤シャーシ1の温度を、常にこの設定温度(TC)から所定の温度以内(すなわち、上限温度(TU)、下限温度(TL)の範囲内)となるように、温度調整制御部21による温度調整が行われるようになっている。
【0041】
具体的には、例えば、設定温度(TC)が20度である場合、許容される温度範囲をこの設定温度(TC)±5度の範囲とすると、上限温度(TU)は25度(20度+5度)、下限温度(TL)は15度(20度−5度)となる。そして、温度調整制御部21のCPU22は、温度センサ17からの検出結果を参照し、検出された鍵盤シャーシ1の温度が15度以上20度以下であれば、ヒータ7をONとし、電源部70からヒータ7に対する電力供給を行わせて鍵盤シャーシ1の加熱を行う。他方、温度センサ17により検出された鍵盤シャーシ1の温度が20度以上25度以下であれば、ヒータ7をOFFとし、電源部70からヒータ7に対する電力供給を停止させる。
なお、ヒータ7のON/OFF切り替えの判断、電源部70からヒータ7に対する電力供給を行うか否かの判断をする際の閾値となる温度は、上記に例示したものに限定されない。例えば、ユーザである演奏者のニーズや使用条件、環境条件等の諸要素を勘案して設定温度(TC)、上限温度(TU)、下限温度(TL)をそれぞれ適宜変更できるようになっていてもよい。
【0042】
次に、図8を参照しつつ、本実施形態における鍵盤装置の作用について説明する。
鍵盤装置100の図示しない電源スイッチをユーザ(演奏者)がONすると、ヒータ7もONとなり、電源部70からヒータ7への電力供給が開始される。
鍵盤シャーシ1の温度は、随時温度センサ17によって検出され、検出結果は温度調整制御部21の第2I/Oポート26を介してCPU22に送られる。そして、CPU22は、鍵盤シャーシ1の温度が15度以上になると、図8に示す温度調整処理を行う。
【0043】
すなわち、温度センサ17により鍵盤シャーシ1の温度(シャーシ温度(t))を取得すると(ステップS1)、CPU22は、この温度がTC>t>TLの範囲内であるか否かを判断する(ステップS2)。そして、鍵盤シャーシ1の温度がTC>t>TLの範囲内である場合(ステップS2;YES)には、ヒータ7をONとし、電源部70からヒータ7に対して電力供給を行わせる(ステップS3)。なお、ヒータ7がすでにONとなっている場合には、ON状態を維持させる。ヒータ7がONとなっている間も随時温度センサ17による鍵盤シャーシ1の温度の検出は行われ、検出結果は温度調整制御部21の第2I/Oポート26を介してCPU22に送られる。この場合、CPU22は、ステップS1に戻って、判断処理を繰り返す。
【0044】
他方、鍵盤シャーシ1の温度がTC>t>TLの範囲内でない場合(ステップS2;NO)には、CPU22は、さらに鍵盤シャーシ1の温度がTU>t>TCの範囲内であるか否かを判断する(ステップS4)。そして、鍵盤シャーシ1の温度がTU>t>TCの範囲内である場合(ステップS4;YES)には、CPU22は、電源部70からヒータ7に対する電力供給を停止させてヒータ7をOFFとする(ステップS5)。
ヒータ7をOFFした場合にも、随時温度センサ17による鍵盤シャーシ1の温度の検出は行われ、検出結果は温度調整制御部21の第2I/Oポート26を介してCPU22に送られる。この場合、CPU22は、ステップS1に戻って、判断処理を繰り返す。
また、鍵盤シャーシ1の温度が、TC>t>TLの範囲内でなく(ステップS2;NO)、かつ、TU>t>TCの範囲内でもない場合(ステップS4;NO)、すなわち、鍵盤シャーシ1の温度(t)が設定温度(TC)と等しい場合には、ヒータ7がON状態であればONのまま、OFF状態であればOFFのままとし、CPU22は、ステップS1に戻って、判断処理を繰り返す。
【0045】
なお、温度調整制御部21による温度調整処理は、図8に示した例に限定されない。例えば、一定の設定温度(閾値)のみを設定しておき、鍵盤シャーシ1の温度がこの設定温度よりも低ければヒータ7をONとし、設定温度よりも高ければヒータ7をOFFとする処理フローとしてもよい。
【0046】
以上のように、本実施形態によれば、潤滑剤としてのグリス9が塗布されている鍵ガイド部11(白鍵ガイド部11a、黒鍵ガイド部11b)、ハンマー支持部13、及び鍵支持部15を加熱するヒータ7a〜7dを設けて、鍵盤シャーシ1の温度が低下しすぎないように適宜加熱を行うので、温度の低下によるグリス9の硬度上昇を防止して、連打性等の演奏性を良好なレベルに維持することができる。
【0047】
また、本実施形態では、鍵盤シャーシ1は、樹脂によって成型されており、加熱手段であるヒータ7は、インサート成型によって鍵盤シャーシ1内に設けられているため、簡易にヒータ7を設けることができ、生産性が向上する。
【0048】
また、ヒータ7は、1オクターブ分の鍵3に対応する範囲を1セットとして設けられているため、大型の鍵盤装置100の場合でも、長尺のヒータ7を用意する必要がなく、また、ヒータ7の組み込みも容易であるため、生産性に優れている。
また、1オクターブ分ずつが1セットとなっているため、同じセットを複数用意して、これを組み合わせることによって、鍵3の数が多い大型の鍵盤装置100にも簡易に対応することができる。
また、電源部70も1オクターブ分の1セットごとに設けられているため、ヒータ7に供給する電力が大きい場合でも、これを分散させることができる。
【0049】
また、温度センサ17を備え、この温度センサ17によって検出された鍵盤シャーシ1の温度に応じてヒータ7のON/OFFを切り替えるように制御するため、無駄な加熱等を行うことなく、適切に鍵盤シャーシ1の温度を一定に保つことができる。
また、本実施形態では、CPU22は、鍵盤シャーシ1の温度が常に所定の設定温度(例えば20度)から一定の範囲内(例えば±5度の範囲内)となるようにヒータ7のON/OFFを切り替えるように制御するため、グリス9の硬度を常に一定に保つことができ、環境温度の変化による演奏性のばらつきを高精度に防止することが可能となる。
【0050】
なお、本実施形態では、各ヒータ7は、それぞれ1オクターブ分の鍵3に対応する範囲を1セットとして複数セット設けられている例について説明したが、ヒータ7は1オクターブ分を1セットするものに限定されない。さらに細かく分割して配置してもよいし、さらに広い範囲を1セットとして設けてもよい。
また、本実施形態では、各ヒータ7が直列接続されて1つの電源部に接続されている例を示したが、ヒータ7の接続の仕方はこれに限定されず、各ヒータが並列接続されていてもよい。
【0051】
また、本実施形態では、温度センサ17を、鍵支持部15に対応する位置又はその近傍に1つ設ける構成としたが、温度センサ17を設ける位置はこれに限定されない。
また、鍵盤シャーシ1の複数箇所に温度センサ17を配置するようにしてもよい。この場合には、複数の温度センサ17の検出結果の平均値等を算出して、これに基づいて各ヒータ7に電力を供給するか否かのON/OFFを切り替えるようにしてもよい。
【0052】
また、本実施形態では、鍵ガイド部11(白鍵ガイド部11a、黒鍵ガイド部11b)、ハンマー支持部13、及び鍵支持部15にグリス9が塗布されている構成としたが、グリス9の塗布位置はこれに限定されない。例えば、この一部のみでもよいし、これ以外の部分で鍵盤シャーシと鍵3とが摺接する摺接部分、鍵盤シャーシ1とハンマー部材4とが摺接する摺接部分がある場合には、その部分にも潤滑剤としてのグリス9が塗布される。
そして、この場合も、ヒータ7は、グリス9の塗布位置に対応して設けられる。
このようにした場合でも、グリス9の塗布されている箇所を適切にヒータ7で加熱することにより、グリス9の硬度が上昇せず、鍵盤シャーシ1の温度を一定に維持することができるため、連打性等の演奏性を良好なレベルに保つことができる。
【0053】
その他、本発明が上記実施形態に限らず適宜変更可能であるのは勿論である。
【符号の説明】
【0054】
1 鍵盤シャーシ
3 鍵
4 ハンマー部材
7 ヒータ
9 グリス
11 鍵ガイド部
13 ハンマー支持部
15 鍵支持部
17 温度センサ
100 鍵盤装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵盤シャーシと、
一端側が前記鍵盤シャーシに対して回動自在に支持され、他端側に押下部を備えた複数の鍵と、
これら各鍵の下側に対応して設けられ、前記鍵の押鍵動作に伴って回動変位し当該鍵に対してアクション荷重を付与する複数のハンマー部材と、を備え、
前記鍵の押鍵動作時に前記鍵盤シャーシと前記鍵及び/又は前記ハンマー部材とが摺接する摺接部分に潤滑剤が塗布され、
前記鍵盤シャーシにおける前記潤滑剤の塗布位置に対応する位置に加熱手段を配置したことを特徴とする鍵盤装置。
【請求項2】
前記鍵盤シャーシは、前記複数の鍵を支持する鍵支持部と、前記ハンマー部材を支持するハンマー支持部と、前記各鍵の前記押下部をガイドする鍵ガイド部と、を備え、
前記鍵支持部、前記ハンマー支持部、前記鍵ガイド部は、前記潤滑剤が塗布される前記摺接部分を構成し、前記加熱手段は、前記鍵盤シャーシ内であって、これらに対応する位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤装置。
【請求項3】
前記鍵盤シャーシは、樹脂によって成型されており、
前記加熱手段は、インサート成型によって前記鍵盤シャーシ内に設けられたヒータであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鍵盤装置。
【請求項4】
前記加熱手段は、1オクターブ分の鍵に対応する範囲を1セットとして設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の鍵盤装置。
【請求項5】
温度センサと、
この温度センサの検出した温度に応じて前記加熱手段のON/OFFを切り替える制御手段と、
をさらに備えていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の鍵盤装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−257579(P2011−257579A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131727(P2010−131727)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】