説明

鏡筒、および、望遠鏡

【課題】例えば、メンテナンス性・肉薄・低収差の点で有利な鏡筒を提供する。
【解決手段】鏡筒1(6)は、光学素子20と、該光学素子20を移動させる駆動機構とを内蔵する。ここで、鏡筒1(6)の外壁は、駆動機構の構成要素22〜27に対面して形成された開口30を有する。例えば、この開口30は、対面する構成要素22〜27を取り出せる大きさを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子を保持する鏡筒(例えば、大口径の光学素子を保持するのに適した鏡筒)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天体望遠鏡において、特に反射望遠鏡の大口径化が進み、それに伴い搭載される光学素子も大口径化の傾向にある。例えば、大型の反射望遠鏡では、直径1m程度の口径を有する光学素子が用いられることもあり、この場合、レンズなどの光学素子(光学系)を支持する鏡筒の重量が重くなる。ここで、この反射望遠鏡のような観測装置では、観測目標によって鏡筒の姿勢が変化するため、鏡筒にかかる荷重の方向(重力方向)も変化する。したがって、荷重の方向がどのように変化しても、収差に影響を及ぼす鏡筒内部の光学素子の位置や姿勢を許容範囲内に維持する必要がある。この荷重の方向の変化に対応するために鏡筒の剛性を高くすると、鏡筒が大型となり重量が増すこととなる。ところが、望遠鏡の大きさや重量に制約があるため、鏡筒は、なるべく小さく、軽い方が良い。そこで、高い剛性を保ちつつも小さく軽くするため、剛性を担う鏡筒の肉厚は、可能な限り薄くしたい。
【0003】
一方、大型望遠鏡に搭載される光学系は、内部に設置された光学素子を移動させる駆動系を有する。例えば、特許文献1は、天頂以外の観測時における光の波長の違い及び大気分散による星像のずれを、レンズを光軸方向とその垂直方向とに移動させることにより補正する収差補正系を含む天体望遠鏡を開示している。ここで、このような駆動系を鏡筒内に搭載する場合には、駆動系を加えることによる大型化や剛性の低下を最小限に抑える必要がある。さらに、大型望遠鏡は、一般に長期間に渡って稼働するので、駆動系に対するメンテナンス作業を適宜行う必要がある。大型望遠鏡では、駆動系の駆動対象となる光学素子の重量が100kgを超えるものもあるため、グリス補給などの定期的なメンテナンスを必要とする大型モーターやガイド機構などを駆動系に採用している場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3057946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、鏡筒内の光学系を駆動する駆動系の配置としては、例えば、駆動系を鏡筒の内部に配置する構成と、駆動系を鏡筒の外部に配置し、鏡筒の側面に設けた開口から内部の光学系を駆動する構成とが考えられる。まず、駆動系を鏡筒の内部に配置する構成は、鏡筒の外壁部を回転対称とし、かつ、外壁部の直径を大きくとることができるので、比較的コンパクトなサイズ(肉薄)としつつ剛性を高めることができるという利点がある。しかしながら、この構成では、駆動系に異常が発生した場合の確認修理作業や定期的なメンテナンス作業などのたびに、鏡筒を分解して駆動系を露出させなければならない。大型望遠鏡の重量は、例えば1000kg程度あるため、このような作業の実施は、クレーンなどの大型機器を利用した非常に大掛かりなものとなりコストおよび工数が増加する。一方、駆動系を鏡筒の外部に配置する構成は、上記のような作業の際には駆動系へのアクセス性が良いので、作業を比較的容易に実施できるという利点がある。しかしながら、この構成では、外壁部の直径が小さくなる上、外壁部の一部に開口を設けるので、剛性を得るための補強が必要となり、鏡筒全体の重量が大きくなる。また、鏡筒の外部に駆動系が突出するため、鏡筒全体の寸法も大きくなる。このように、鏡筒の内部に駆動系を配置する構成および鏡筒の外部に駆動系を配置する構成には、それぞれ一長一短がある。
【0006】
本発明は、メンテナンス性・肉薄・低収差の点で有利な鏡筒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、光学素子と、該光学素子を移動させる駆動機構とを内蔵する鏡筒であって、鏡筒の外壁は、駆動機構の構成要素に対面して形成された開口を有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば、メンテナンス性・肉薄・低収差の点で有利な鏡筒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る鏡筒の外観を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る第5副鏡筒の構成を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る望遠鏡の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について図面等を参照して説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る鏡筒1の外観を示す平面図である。この鏡筒1は、例えば、大型のリッチー・クレチァン反射望遠鏡における副鏡として構成されたものであり、内部には主鏡の主焦点における結像性能を改善するための光学系を有する。鏡筒1全体の寸法は、例えば、長さが約1.5m、直径が約1mである。また、鏡筒1は、それぞれのフランジ部を介してボルト締結により結合された複数の副鏡筒(第1副鏡筒2〜第10副鏡筒11)を含む。このうち、第1副鏡筒2、第2副鏡筒3、第4副鏡筒5、第5副鏡筒6、および第8副鏡筒9は、レンズ(光学素子)を支持するための副鏡筒である。一方、第3副鏡筒4、第6副鏡筒7、第7副鏡筒8、第9副鏡筒10、および第10副鏡筒11は、鏡筒1内部のレンズとレンズとの間の空気間隔を設定するための空洞を有する副鏡筒である。
【0012】
図2は、第5副鏡筒6の構成を示す図であり、図2(a)は、その上部に位置する他の副鏡筒2〜5を取り外した状態の第5副鏡筒6の斜視図であり、図2(b)は、第5副鏡筒6の断面図である。まず、第5副鏡筒6は、その内部に、観測する天体の高度角と大気分散とによって生じる収差を補正するための補正光学系20を有する。この補正光学系20は、直径500mm以上の光学素子または光学素子群を含み、その外周部を駆動レンズ鏡筒(保持部)21により保持されている。また、駆動レンズ鏡筒21は、第5副鏡筒6の内側に設置(内蔵)された駆動系(駆動機構)により、その光軸に垂直な方向(例えば図中Y方向)に可動となっている。この駆動系は、直動ガイド22と、モーター23と、電気コネクタ24と、スイッチ25と、配管フィッティング26と、位置センサ27とを含む。直動ガイド22は、直線状に移動するように駆動レンズ鏡筒21を案内する案内機構である。モーター23は、駆動レンズ鏡筒21を直動ガイド22に沿って移動させるための駆動源である。なお、この駆動源は、モーターだけでなく、回転型モーターの回転運動を直線運動に変換するボールねじのような機構を含んでいてもよい。電気コネクタ24は、モーター23へ電力を供給したり制御信号を送信したりするために外部と接続するコネクタである。スイッチ25は、手動で駆動系を操作するためスイッチである。配管フィッティング26は、モーター23などの電装品の発熱により変化し得る鏡筒の温度を調整するための媒体(例えば冷却水)を取り込むための配管継手である。位置センサ27は、駆動レンズ鏡筒21の位置を検出するための検出器である。なお、図2の各図には、直動ガイド22が2箇所に記載されているが、不図示の位置にもう1つ設置されており、すなわち、第5副鏡筒6の内部には合計3つの直動ガイド22が設置されている。第5副鏡筒6は、このように駆動系の構成部品(構成要素)を内部に設置するので、鏡筒1(外壁部)を回転対称としつつ直径を大きくすることができ、このため、特に曲げに対する剛性を確保するのに有利である。
【0013】
ここで、本実施形態の第5副鏡筒6は、その外壁部に、作業者が鏡筒1を分解することなく、その内部の各構成部品に対面し、直接アクセス可能とする複数の開口部(開口)30を有する。この開口部30は、例えば、内部部品の調整、直動ガイド22へのグリス補給、または、故障などによる部品交換のための部品の出し入れなど、駆動系のメンテナンスのために有用である。また、日常点検として、作業者が開口部30から駆動系などを直接観察するのにも有用である。そのため、本実施形態では、第5副鏡筒6の内部に設置された駆動系等を構成する各メンテナンス対象部品は、開口部30に面する位置に配置している。例えば、図2(a)に示すように、直動ガイド22、モーター23、電気コネクタ24、スイッチ25、配管フィッティング26および位置センサ27は、全て開口部30から作業者がアクセス可能に設置されている。なお、この開口部30から塵などが入り込まないように、開口部30の全体を覆うカバーを設置してもよい。この場合、カバーの材質としては、第5副鏡筒6の外壁部に対して変形を与えないような柔軟な材質、例えば樹脂やゴムなどを採用することが望ましい。
【0014】
ここで、第5副鏡筒6に、単に内部へのアクセス性のみを考慮して開口部30をランダムに形成すると、鏡筒1の剛性が部位(光軸周りの角度等)によって異なることとなり、アンバランスな変形が生じる可能性がある。この変形は、補正光学系20の変形の原因となり、結果的に開口部30を設けたことによる収差を発生させうる。これに対して、第5副鏡筒6の外壁部の肉厚を厚くするなどの補強をすると重量が増加してしまい、好ましくない。そこで、開口部30は、光軸を中心として(光軸の周りに)等角度間隔となるように配置し、かつ、形状(大きさ)を同一となるようにするのが好ましい。このようにすることで、剛性の分布を調整し、好ましくない変形を低減できる。図1および図2に示す第5副鏡筒6の例では、開口部30を上記の条件で10箇所に配置している。ここで、メンテナンス対象となる駆動系の構成部品の断面の径dは、大きいもの(例えばモーター23)で80mm程度である。開口部30は、作業者がメンテナンス対象部品を取り出せるだけの大きさを有していればよいので、例えば、モーター23の断面径を参照して、本実施形態では140mm角としている。
【0015】
なお、本実施形態では、第5副鏡筒6の外壁部において等角度間隔で10箇所に開口部30を配置しているが、単に等角度間隔での配置であれば開口部30の設置数を何箇所としてもよい訳ではない。例えば、180度間隔で対向する2箇所に開口部30を配置した場合には、鏡筒の変形により収差(特に非点収差)が発生しやすい。また、例えば、120度間隔で3箇所に開口部30を配置した場合には、鏡筒の変形により収差(所謂3θの収差)が発生しやすい。また、4箇所、6箇所、および9箇所に等角度間隔で開口部30を配置した場合も、それに応じた鏡筒の変形・収差が生じうる。すなわち、本実施形態において等角度間隔で10箇所に開口部30を配置しているように、等角度間隔で10以上に開口部30を配置していれば、外壁部の変形による補正光学系20の収差の影響は低減しうる。一方、開口部30の設置を10箇所以下としても、等角度間隔で5箇所または7箇所に開口部30を配置することにより収差の影響を無視できる(許容範囲内にできる)場合がある。このように、等角度間隔に配置する開口部30の大きさ・数を鏡筒の材質・肉厚に応じて調整することにより、鏡筒が肉薄であっても収差の影響を許容範囲内に収めることができる。
【0016】
以上のように、本実施形態によれば、メンテナンス性・肉薄(省スペースかつ軽量)・低収差の点で有利な鏡筒を提供することができる。
【0017】
(望遠鏡)
次に、上記鏡筒を適用した実施形態に係る望遠鏡について説明する。図3は、本実施形態に係る望遠鏡(ここでは、大型の反射型望遠鏡)40の構成を示す概略図である。望遠鏡40は、筐体41と、該筐体41を、ジョイント43を介して支持し、観察する方向に筐体41の向きを変更する機能を有する架台42とを含む。筐体41は、その内部の底部に主反射鏡(放物面鏡)44を備え、光束の入射面には、フレーム45にて固定された鏡筒46を備える。例えば、図3に示すように右上の天体から筐体41の内部に入射した光束は、フレーム45の横を抜けて主反射鏡44で反射され、主反射鏡44で反射した光束は、放物面の焦点に向かう。鏡筒46は、この焦点近傍に、像を結ばせるための固体撮像素子47と、さらに、収差補正系を含む光学系48とを含み得る。上記実施形態に示す鏡筒は、上記鏡筒46として採用し得る。本実施形態の望遠鏡は、従来のものに比べて、メンテナンス性・省スペース(軽量)・低収差の少なくとも1つにおいて有利である。
【0018】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0019】
1 鏡筒
6 第5副鏡筒
20 補正光学系
21 駆動レンズ鏡筒
22 直動ガイド
23 モーター
24 電気コネクタ
25 スイッチ
26 配管フィッティング
27 位置センサ
30 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子と、該光学素子を移動させる駆動機構とを内蔵する鏡筒であって、
前記鏡筒の外壁は、前記駆動機構の構成要素に対面して形成された開口を有する、
ことを特徴とする鏡筒。
【請求項2】
前記開口は、対面する前記構成要素を取り出せる大きさを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の鏡筒。
【請求項3】
前記開口は、複数あり、前記光学素子の光軸の周りに等角度間隔で配置されている、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鏡筒。
【請求項4】
前記複数の開口の形状は、互いに同一である、ことを特徴とする請求項3に記載の鏡筒。
【請求項5】
前記開口の数は、5、7、または10以上である、ことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の鏡筒。
【請求項6】
前記光学素子は、500mm以上の直径を有する、ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の鏡筒。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の鏡筒を含む、ことを特徴とする望遠鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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