説明

長い寿命および熱抵抗値の僅かな変化を有する鉄−クロム−アルミニウム合金

次のもの(質量%で):Al 4.5〜6.5%、Cr 16〜24%、W 1.0〜4.0%、Si 0.05〜0.7%、Mn 0.001〜0.5%、Y 0.02〜0.1%、Zr 0.02〜0.1%、Hf 0.02〜0.1%、C 0.003〜0.030%、N 0.002〜0.03%、S 最大0.01%、Cu 最大0.5%、残分鉄および通常の製鋼に必然的な不純物を有する、長い寿命および熱抵抗値の僅かな変化を有する鉄−クロム−アルミニウム合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融冶金により製造された、長い寿命および熱抵抗値の僅かな変化を有する鉄−クロム−アルミニウム合金に関する。
【0002】
単数または複数の鉄−クロム−アルミニウム−タングステン合金は、電気的発熱素子および触媒担体の製造に使用される。この材料は、緻密に固着する酸化アルミニウム層を形成し、この酸化アルミニウム層は、前記材料を高い温度(例えば、1400℃まで)で保護する。この保護層は、いわゆる反応性元素、例えばCa、Ce、La、Y、Zr、Hf、Ti、Nbを0.01〜0.3%の範囲内で添加することによって改善され、この反応性元素は、なかんずく酸化物層の付着能を改善しおよび/または層の成長を減少させ、例えばこの反応性元素は、例えば"Ralf Buergel,Handbuch der Hochtemperatur−Werkstofftechnik,Vieweg Verlag,Braunschweig 1998"、第274頁以降に記載されている。
【0003】
酸化アルミニウム層は、金属材料を急速な酸化から保護する。この場合、この酸化アルミニウム層それ自体は、極めて緩徐であっても、成長する。この成長は、前記材料のアルミニウム含量を使用しながら行なわれる。アルミニウムは、もはや存在しないので、別の酸化物(酸化クロムおよび酸化鉄)が成長し、この材料の金属含量は、極めて急速に消耗され、この材料は、破壊性の腐蝕によって使用不能になる。使用不能までの時間は、寿命として定義される。アルミニウム含量を高めると、寿命は延長される。
【0004】
明細書中ならびに特許請求の範囲の全ての濃度の記載の場合、%は、質量%での記載を意味する。
【0005】
WO 02/20197A1の記載によって、フェライト系の不銹鋼合金は、殊に熱伝導素子としての使用に公知である。前記合金は、粉末冶金法により製造されたFe−Cr−Al合金によって形成され、C0.02%未満、Si0.5%未満、Mn0.2%未満、Cr10.0〜40.0%、Ni0.6%未満、Cu0.01%未満、Al2.0〜10.0%、0.1〜1.0%の含量の反応性元素、例えばSc、Y、La、Ce、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Taの群からの1つ以上の元素、残分鉄ならびに回避不可能な不純物を含む。
【0006】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第19928842号明細書A1には、Cr16〜22%、Al6〜10%、Si0.02〜1.0%、Mn最大0.5%、Hf0.02〜0.1%、Y0.02〜0.1%、Mg0.001〜0.01%、Ti最大0.02%、Zr最大0.03%、SE最大0.02%、Sr最大0.1%、Ca最大0.1%、Cu最大0.5%、V最大0.1%、Ta最大0.1%、Nb最大0.1%、C最大0.03%、N最大0.01%、B最大0.01%、残分鉄ならびに排ガス触媒のための担体フィルムとして、熱導体として、ならびに工業用炉建設における構造部材としておよびガスバーナー中の構造部材としての使用のために溶解に必然的な不純物を有する合金が記載されている。
【0007】
欧州特許第0387670号明細書B1には、Cr20〜25%(質量%で)、Al5〜8%、イットリウム0.03〜0.08%、窒素0.004〜0.008%、炭素0.020〜0.040%、ならびにほぼ同部でTi0.035〜0.07%およびジルコニウム0.035〜0.07%、および燐最大0.01%、マグネシウム最大0.01%、マンガン最大0.5%、硫黄最大0.005%、残分鉄を有する合金が記載されており、この場合TiおよびZrの含量の総和は、CおよびNの含量の百分率での総和ならびに溶解に必然的な不純物の1.75〜3.5%倍の大きさである。TiおよびZrは、全部または部分的にハフニウムおよび/またはタンタルまたはバナジウムによって代替されていてよい。
【0008】
欧州特許第0290719号明細書B1には、(質量%で)Cr12〜30%、Al3.5〜8%、炭素0.008〜0.10%、珪素最大0.8%、マンガン0.10〜0.4%、燐最大0.035%、硫黄最大0.020%、モリブデン0.1〜1.0%、ニッケル最大1%および添加物ジルコニウム0.010〜1.0%、チタン0.003〜0.3%および0.003〜0.3%窒素、カルシウムおよびマグネシウム0.005〜0.05%、ならびに0.003〜0.80%の希土類金属、0.5%のニオブ、残分鉄および通常の随伴元素を有する合金が記載されており、この合金は、例えば電気的加熱される炉のための発熱素子用線材として、および熱負荷される部材のための構成材料として、ならびに触媒担体を製造するためのフィルムとして使用される。
【0009】
米国特許第4277374号明細書には、(質量%で)クロム26%まで、アルミニウム1〜8%、ハフニウム0.02〜2%、イットリウム0.3%まで、炭素0.1%まで、珪素2%まで、残分鉄を有し、クロム12〜22%およびアルミニウム3〜6%の好ましい範囲を有する合金が記載されており、この合金は、触媒担体を製造するためのフィルムとして使用される。
【0010】
米国特許第4414023号明細書の記載によれば、(質量%で)不可避の不純物を含めてCr8.0〜25.0%、Al3.0〜8.0%、希土類金属0.002〜0.06%、Si最大4.0%、Mn0.06〜1.0%、Ti0.035〜0.07%、Zr0.035〜0.07%を有する鋼が公知である。
【0011】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第10 2005 016722号明細書A1には、長い寿命を有し、(質量%で)Al4〜8%およびCr16〜24%ならびにSi0.05〜1%、Mn0.001〜0.5%、Y0.02〜0.2%、Zr0.1〜0.3%および/またはHf0.02〜0.2%の添加物、C0.003〜0.05%、Mg0.0002〜0.05%、Ca0.0002〜0.05%、N最大0.04%、P最大0.04%、S最大0.01%、Cu最大0.5%および溶解に必然的な通常の不純物、残分鉄を有する鉄−クロム−アルミニウム合金が開示されている。
【0012】
鉄−クロム−アルミニウム合金の寿命の詳細なモデルは、I. Gurrappa,S.Weinbruch,D.Naumenko,W.J.Quadakkers,Materials and Corrosions 51(2000),第224〜235頁の刊行物に記載されている。この刊行物中には、鉄−クロム−アルミニウム合金の寿命がアルミニウム含量および試験片形に依存する1つのモデルが説明されているが、この場合1つの式で予想される剥離は、未だ考慮されていない(アルミニウム貧有モデル)。
【0013】
【数1】

B=酸化アルミニウム以外の酸化物が発生するまでの時間として定義される寿命、
O=酸化の開始時のアルミニウム濃度、
B=酸化アルミニウム以外の酸化物の発生時のアルミニウム濃度、
ρ=金属合金の比重、
κ=酸化速度定数、
n=酸化速度指数。
【0014】
前記剥離を考慮すると、厚さd(f*d)を有する、幅および長さが無限の平らな試験片に対して次の式が判明する:
【数2】

【0015】
この場合、Δm*は、剥離が開始した際の臨界的な質量の変化である。
【0016】
双方の式は、アルミニウム含量が減少し、体積に対する表面積の割合が大きくなると(或いは試験片の厚さが薄くなると)寿命が短くなることを表している。
【0017】
これは、約20μm〜約300μmの寸法範囲内の薄手のフィルムが特定の用途に使用されなければならない場合には、重要なことである。
【0018】
薄手のフィルム(例えば、1ミリメートルまたは数ミリメートルの範囲での幅で約20〜300μmの厚さ)からなる熱伝導体は、体積に対する表面積の割合が大きいことを示す。これは、急速な加熱時間および冷却時間が達成される場合に好ましく、加熱を急速に目視可能にさせ、およびガスコンロと同様に急速な加熱を達成させるために、例えば前記時間は、ガラスセラミック分野において使用される熱伝導体の場合に要求される。しかし、同時に体積に対する表面積の割合が大きいことは、熱伝導体の寿命に対して不利である。
【0019】
合金を熱伝導体として使用する場合には、なお熱抵抗値の挙動に注意すべきである。熱伝導体には、一般に一定の応力が印加されている。発熱素子の寿命の経過中に抵抗が一定のままである場合には、前記発熱素子の電流および出力も変化しない。
【0020】
しかし、これは、絶えずアルミニウムが消耗される上記プロセスに基づく場合のものではない。アルミニウムの消耗によって、前記材料の比電気抵抗は、減少する。しかし、これは、原子が金属マトリックスから除去されることにより、行なわれ、即ち断面積は減少し、このことは、抵抗の増加を結果として生じる(Harald Pfeifer, Hans Thomas, Zunderfeste Legierungen, Springer Verlag, Berlin/Goettingen/Heidelberg/ 1963 第111頁も参照のこと)。酸化物層が成長した際の応力および熱伝導体を加熱および冷却した際の金属および酸化物の異なる膨脹係数による応力によって、フィルムの変形、ひいては寸法の変化を結果として生じうる、さらなる応力が発生する(H. Echsler, H. Hattendorf, L. Singheiser, WJ. Quadakkers, Oxidation behaviour of Fe-Cr-Al alloys during resistance and furnace heating, Materials and Corrosion 57 (2006) 115-121をも参照のこと)。寸法の変化と比電気抵抗の変化とが相互作用することに応じて、利用時間の経過中に熱伝導体の熱抵抗値の増加または減少を生じうる。この寸法の変化は、熱伝導体の加熱および冷却がよりいっそう頻繁になるとそれだけ一層重要であり、即ちサイクルが急速になるにつれて、サイクルは、ますます短くなる。この場合、フィルムは、時計ガラス状に変形される。これは、フィルムを付加的に損ない、したがってフィルムの場合には、極めて短く急速なサイクルでの前記の寸法の変化は、サイクルおよび温度、場合によってはむしろ一定の故障機構に応じてさらにいっそう重要である。
【0021】
鉄−クロム−アルミニウム合金からなる線材の場合、一般に時間の経過と共に熱抵抗値が増加することが観察され(Harald Pfeifer, Hans Thomas, Zunderfeste Legierungen, Springer Verlag, Berlin/Goettingen/Heidelberg/ 1963 第112頁)(図1)、鉄−クロム−アルミニウム合金からなるフィルムの形の熱伝導体の場合には、一般に時間の経過と共に熱抵抗値の減少が観察される(図2)。
【0022】
時間の経過中に熱抵抗値Rwが上昇すると、完成された発熱素子の電圧が一定に維持された際に出力Pは、減少し、この出力は、P=U*I=U2/Rwにより算出される。発熱素子の出力が減少すると、発熱素子の温度も低下する。熱伝導体の寿命は、延長され、ひいては発熱素子の寿命も延長される。しかし、発熱素子に対してしばしば出力の下限が存在し、したがって前記効果は、任意の寿命の延長に利用することができない。これとは異なり、熱抵抗値Rwが時間の経過中に減少すると、発熱素子の出力が一定に維持された際に出力Pは、上昇する。しかし、出力の上昇と共に、温度も上昇し、それによって熱伝導体または発熱素子の寿命は、短縮される。従って、時間に依存する熱抵抗値のずれは、狭く制限された範囲内でほぼ零に維持される。
【0023】
熱抵抗値の寿命および挙動は、例えば加速寿命試験で測定されてよい。このような試験は、例えばHarald Pfeifer,Hans Thomas,Zunderfeste Legierungen,Springer Verlag,Berlin/Goettingen/Heidelberg/1963第113頁に記載されている。前記試験は、120秒のスイッチサイクルを用いて一定の温度で0.4mmの直径を有する、コイルに変形された線材で実施される。試験温度として、1200℃または1050℃の温度が提案される。しかし、この場合には、特に薄手のフィルムの挙動が問題であるので、試験は、次のように変更された:
厚さ50μmおよび幅6mmのフィルムストリップは、2本のリード線(Stromdurchfuehrungen)の間に張圧され、電圧の印加によって1050℃にまで加熱された。1050℃への加熱は、それぞれ15秒間行なわれ、次に電流供給は、5秒間で中断された。フィルムは、寿命の終結時に残りの横断面が完全に溶融することによって使用不能となった。温度は、寿命試験中に高温計を用いて自動的に測定され、プログラム制御によって場合により目標温度に修正される。
【0024】
燃焼期間は、寿命の基準とみなされる。燃焼期間または燃焼時間は、試験片が加熱された時間の合計である。この場合、燃焼期間は、試験片が使用不能になるまでの時間であり、燃焼時間は、試験中の運転時間である。以下の全ての図および表には、燃焼期間または燃焼時間が参照試験片の燃焼期間に対する%での相対値として記載されており、相対燃焼期間または相対燃焼時間と呼称される。
【0025】
上記の公知技術水準から、Y、Zr、Ti、Hf、Ce、La、Nb、V等の取るに足りない記載がFeCrAl合金の寿命に大きな影響を及ぼすことは、公知である。
【0026】
当該市場から、前記合金のよりいっそう長い寿命およびよりいっそう高い使用温度を必要とする、製品に対する高められた要件が課されている。
【0027】
本発明には、これまで使用された鉄−クロム−アルミニウム合金より長い寿命を有し、同時に所定の使用温度で時間の経過中に熱抵抗値の僅かな変化を有する、具体的な用途範囲に対して鉄−クロム−アルミニウム合金を準備するという課題が課された。更に、短く急速なサイクルが規定され、同時に特に長い寿命が要求される具体的な使用の場合のための合金が設けられるはずである。
【0028】
この課題は、
Al 4.5〜6.5%
Cr 16〜24%
W 1.0〜4.0%
Si 0.05〜0.7%
Mn 0.001〜0.5%
Y 0.02〜0.1%
Zr 0.02〜0.1%
Hf 0.02〜0.1%
C 0.003〜0.030%
N 0.002〜0.030%
S 最大0.01%
Cu 最大0.5%
残分鉄および溶解に必然的な通常の不純物を有する長い寿命および熱抵抗値の僅かな変化を有する鉄−クロム−アルミニウム合金によって解決される。
【0029】
本発明の対象の好ましいさらなる実施態様は、従属請求項から確認することができる。
【0030】
前記合金は、有利にMg0.0001〜0.05%、Ca0.0001〜0.03%およびP0.010〜0.030%と一緒に溶解されていてよく、最適な材料特性をフィルム中で調節することができる。
【0031】
更に、前記合金が次の関係式(式1)を満たす場合には、有利である:
I=−0.015+0.065*Y+0.030*Hf+0.095*Zr+0.090*Ti−0.065*C<0
上記式中、Iは、材料の内部酸化を反映し、この場合Y、Hf、Zr、Ti、Cは、質量%での合金元素の濃度である。
【0032】
元素Yは、必要に応じて元素Scおよび/またはLaおよび/またはCerの少なくとも1つによって全部または部分的に代替されていてよく、この場合、部分的な置換の場合には、0.02〜0.1%の範囲を考えることができる。
【0033】
元素Hfは、必要に応じて元素Scおよび/またはTiおよび/またはCerの少なくとも1つによって全部または部分的に代替されていてよく、この場合、部分的な置換の場合には、0.01〜0.1%の範囲を考えることができる。
【0034】
好ましくは、S最大0.005%を有する合金が溶解されていてよい。
【0035】
好ましくは、溶解後の合金は、O最大0.010%を含有することができる。
【0036】
好ましいFe−Cr−Al合金は、次の組成を示す:
Al 4.8〜6.2% 4.9〜5.8%
Cr 18〜23% 19〜22%
W 1.0〜3% 1.5〜2.5%
Si 0.05〜0.5% 0.05〜0.5%
Mn 0.005〜0.5% 0.005〜0.5%
Y 0.03〜0.1% 0.03〜0.09%
Zr 0.02〜0.08% 0.02〜0.08%
Hf 0.02〜0.08% 0.02〜0.08%
C 0.003〜0.020% 0.003〜0.020%
Mg 0.0001〜0.05% 0.0001〜0.05%
Ca 0.0001〜0.03% 0.0001〜0.03%
P 0.002〜0.030% 0.002〜0.030
S 最大0.01% 最大0.01%
N 最大0.03% 最大0.03%
O 最大0.01% 最大0.01%
Cu 最大0.5% 最大0.5%
Ni 最大0.5% 最大0.5%
Mo 最大0.1% 最大0.1%
Fe 残分 残分。
【0037】
本発明による合金は、有利に発熱素子、殊に電気的に加熱可能な発熱素子のためのフィルムとしての使用に使用可能である。
【0038】
本発明による合金がフィルムのために0.02〜0.03mm、殊に20〜200μmまたは20〜100μmの厚さ範囲で使用されることは、特に有利である。
【0039】
また、調理分野、殊にガラスセラミック調理分野における使用のためのフィルム熱伝導体としての合金の使用は、有利である。
【0040】
更に、加熱可能な金属排ガス触媒における担体フィルムとしての使用のための合金の使用も同様に考えられ、ならびに燃料電池におけるフィルムとしての合金の使用も考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、公知技術水準に相応して線材の熱伝導体試験に記載の熱抵抗値の経過を例示的に示す略図である。
【図2】図2は、例示的に装入量T6に関して、Cr 20.7%,Al 5.2%,Si 0.15%,Mn 0.22%,Y 0.04%,Zr 0.04%,Ti 0.04%,C 0.043%,N 0.006%,S 0.001%,Cu 0.03%の組成を有する鉄−クロム−アルミニウム合金(Aluchrom Y)についての熱伝導体試験に記載の熱抵抗値の経過を示す略図である。
【図3】図3は、相対的燃焼時間25%後の第1表に記載のA4の内部酸化(I)を示す略図である。
【0042】
本発明の詳細および利点は、次の実施例において詳説される。
【実施例】
【0043】
第1表には、固有の大工業的に溶解された鉄−クロム−アルミニウム合金T1〜T6、固有の実験室用溶融液L1〜L7、A1〜A5、V1〜V17および本発明による合金E1が表わされている。
【0044】
実験室用に溶解された合金の場合、ブロックで鋳造された材料から熱間変形および冷間変形ならびに適当な中間灼熱により厚さ50μmのフィルムが製造された。このフィルムは、幅約6mmのストリップに裁断された。
【0045】
大工業的に溶解された合金の場合、大工業的な完成品からブロック鋳造またはストランド鋳造ならびに熱間成形および冷間成形、および必要に応じて必要とされる中間灼熱により、テープの厚さ50μmのサンプルが取り出され、約6mmの幅に切断された。
【0046】
このフィルムストリップにつき、フィルムのための前記の熱伝導体試験が実施された。
【0047】
抵抗値は、この抵抗値の初期値に対して測定の開始時に示されている。この抵抗値は、熱抵抗値の減少を示す。試験片が完全に燃焼する直前のさらに経過する終了頃に、熱抵抗値は、著しく上昇する(図1において、約100%の相対燃焼時間から)。以下、試験の開始時の出発値1.0(または移行抵抗の形成後の開始直後)から急激な上昇が開始されるまでの熱抵抗値の比の最大のずれは、Awと呼称される。
【0048】
この材料(Aluchrom Y)は、典型的には約100%の相対的燃焼期間および約−1〜−3%のAwを有し、例えば第3表中の実施例T4〜T6に示されている。
【0049】
寿命試験の結果は、第2表から確認することができる。第2表中にそれぞれ記載された相対的燃焼期間は、少なくとも3つの試験片の平均値によって形成される。更に、全ての装入量に対して一定のAwがプロットされている。T4〜T6は、クロム約20%、アルミニウム約5.2%、炭素約0.03%、およびそれぞれ約0.05%のY、ZrおよびTiの添加物の組成を有する鉄−クロム−アルミニウム合金Aluchrom Yの3つの装入量である。前記装入量は、91%(T4)〜124%(T6)の相対燃焼期間および−1〜−3%のAwの優れた値を達成する。
【0050】
更に、第2表には、Cr19〜22%、アルミニウム5.5〜6.5%、Mn最大0.5%、Si最大0,5%、炭素最大0.05%、およびY最大0.01%、Zr最大0.07%およびHf最大0.1%の添加物を有する材料Aluchrom YHfの装入量T1〜T3が記入されている。前記材料は、例えば触媒担体のためのフィルムとして使用されることができるが、しかし、熱伝導体としても使用されることができる。装入量T1〜T3がフィルムのための前記熱伝導体試験を受ける場合には、188%を有するT1および152%を有するT2および189%を有するT3の明らかに高められた寿命(燃焼期間)を確認することができる。T1は、T2より高い寿命を有し、このことは、5.6%から5.9%へ上昇されたアルミニウム含量で説明することができる。T1は、−5%のAwおよび−8%のT2を示す。殊に、−8%のAwは、高すぎ、経験によれば、構造部材の明らかな温度上昇をまねき、この温度上昇は、前記材料のよりいっそう長い寿命を補償し、即ち全体的に全く利点をもたらさない。第1表および第2表は、T1およびT2のように、Cr20.1%、アルミニウム6.0%、Mn0.12%、Si0.33%、炭素0.008%、およびY0.05%、Zr0.04%およびHf0.03%の添加物を有する鉄−クロム−アルミニウム合金を有する装入量T3を示す。しかし、前記装入量T3は、L1およびL2とは異なり、0.008%だけの極めて低い炭素含量を含有する。
【0051】
更に、この目的は、寿命がT3で達成された、189%の水準を超えて上昇し、その際、約1%〜−3%のAwが達成されることにあった。
【0052】
そのために、実験室用装入量L1〜L7、A1〜A5、V1〜V17および本発明の対象E1は、前記の記載と同様に溶解され、試験された。
【0053】
262%を有する実験室用装入量A1、212%を有するA3、268%を有するA4および237%を有するA5、224%を有するV9、271%を有するV10および323%の最大で達成される値を有する本発明の対象E1は、T3より長い寿命を有していた。
【0054】
同様に良好な合金A1、A3、A4、A5およびV9は、既にドイツ連邦共和国特許出願公開第10 2005 016722号明細書A1に記載されていた。しかし、前記合金は、2を上廻るAwを示し、このことは、時間の経過中に発熱素子への使用の際に出力の許容できない高い減少をまねく。
【0055】
更に、強化された内部酸化(I)の傾向を有する合金は、望ましくない(図3)。同様に、寿命の経過中に熱伝導体の強化された脆さをまねき、このことは、発熱素子において、望ましいことではない。
【0056】
これは、前記合金が次の関係式(式1)を満たす場合には、回避されうる:
I=−0.015+0.065*Y+0.030*Hf+0.095*Zr+0.090*Ti−0.065*C<0
上記式中、Iは、内部酸化のための値である。
【0057】
第2表に指摘されている:
合金T1〜T6、V8、V11〜V13および本発明の対象E1は全てが、零より小さいIを有し、内部酸化を全く示さない。合金A1〜A5、V9、V10は、零より大きいIを有し、強化された内部酸化を示す。
【0058】
E1は、本発明によれば、厚さ20μm〜0.300mmの使用範囲内でフィルムに使用可能であるような合金を示す。
【0059】
本発明による合金E1は、323%の要求された明らかに高い寿命と共に、−1.3%の平均Awを有する熱抵抗値の極めて有利な挙動を示し、0未満のIの条件を満たす。
【0060】
意外なことに、前記合金E1は、W4%未満、特に3%未満の添加によって前記の長い寿命を示す。タングステンは、実際に強化された酸化を導くが、しかし、この場合添加された量は、寿命に対して不利に作用しない。従って、タングステンの最大含量は、4%に制限される。
【0061】
タングステンは、合金を固化する。これは、周期的な変形の際に形状安定性に貢献し、ひいてはAwが−3〜1%の範囲内にあることに貢献する。従って、タングステンは、1%の下限を下廻るべきではない。
【0062】
タングステンに当てはまることは、MoおよびCoにも当てはまる。
【0063】
Yの酸化安定性を上昇させる作用を得るためには、Y0.02%の最少含量が必要とされる。上限は、経済的な理由から0.1%である。
【0064】
良好な寿命および僅かなAwを得るためには、Zr0.02%の最少含量が必要とされる。上限は、費用の理由からZr0.1%である。
【0065】
Hfの酸化安定性を上昇させる作用を得るためには、Hf0.02%の最少含量が必要とされる。上限は、経済的な理由からHf0.1%である。
【0066】
wの僅かな値を得るためには、炭素含量は、0.030%未満であるべきである。このAwは、良好な加工可能性を保証するために0.003%を上廻るべきである。
【0067】
窒素含量は、加工可能性に不利な影響を及ぼす窒化物の形成を回避させるために最大0.03%であるべきである。この窒素含量は、合金の良好な加工可能性を保証するために0.003%を上廻るべきである。
【0068】
燐の含量は、0.030%未満であるべきである。それというのも、この界面活性の元素は、酸化安定性を損なうからである。P含量は、有利に0.002%以上である。
【0069】
硫黄の含量は、できるだけ少ないように維持されるべきである。それというのも、この界面活性元素は、酸化安定性を損なうからである。従って、この硫黄の含量は、最大0.01%に確定される。
【0070】
酸素の含量は、できるだけ少ないように維持されるべきである。それというのも、酸素アフィン元素、例えばY、Zr、Hf、Ti等が主に酸化物の形で結合するからである。酸化安定性に対する酸素アフィン元素のプラスの作用は、なかんずく、酸化物の形で結合された酸素アフィン元素が極めて不均一に材料中に分布し、材料中の至る所で必要な範囲で自由の使用され得ないことによって損なわれる。従って、Oの含量は、最大0.01%に確定される。
【0071】
16〜24質量%のクロム含量は、例えばJ.Kloewer,Materials and Corrosion51(2000),第373〜385頁に記載されているように、寿命に対して決定的な影響を及ぼさない。しかし、或る程度のクロム含量は、必要である。それというのも、クロムは、特に安定なα−Al23保護層の形成を促進するからである。
【0072】
従って、この下限は、16%である。24%を上廻るクロム含量は、合金の加工可能性を困難にする。
【0073】
4.5%のアルミニウム含量は、十分な寿命を有する合金を得るために、少なくとも必要とされる。6.5%を上廻るAl含量は、フィルム熱伝導体の場合に寿命をもはや延ばさない。
【0074】
J.Kloewer,Materials and Corrosion51(2000),第373〜385頁の記載によれば、珪素の添加は、被覆層の付着力の改善によって寿命を延ばす。従って、珪素少なくとも0.05質量%の含量が必要とされる。高すぎるSi含量は、前記合金の加工可能性を困難にする。従って、この上限は、0.7%である。
【0075】
加工可能性の改善のために、Mn0.001%の最少含量が必要とされる。マンガンは、0.5%に制限される。それというのも、この元素は、酸化安定性を減少させるからである。
【0076】
銅は、最大0.5%に制限される。それというのも、この元素は、酸化安定性を減少させるからである。同様のことは、ニッケルについても言えることである。
【0077】
マグネシウムおよびカルシウムの含量は、0.0001〜0.05質量%の範囲内、それぞれ0.0001〜0.03質量%の範囲内で調節される。
【0078】
Bは、最大0.003%に制限される。それというのも、この元素は、酸化安定性を減少させるからである。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次のもの(質量%で):
Al 4.5〜6.5%
Cr 16〜24%
W 1.0〜4.0%
Si 0.05〜0.7%
Mn 0.001〜0.5%
Y 0.02〜0.1%
Zr 0.02〜0.1%
Hf 0.02〜0.1%
C 0.003〜0.030%
N 0.002〜0.03%
S 最大0.01%
Cu 最大0.5%
残分鉄および通常の製鋼に必然的な不純物を有する、長い寿命および熱抵抗値の僅かな変化を有する鉄−クロム−アルミニウム合金。
【請求項2】
Al4.8〜6.2%を有する、請求項1記載の合金。
【請求項3】
Al4.9〜5.8%を有する、請求項1記載の合金。
【請求項4】
Al4.9〜5.5%を有する、請求項1記載の合金。
【請求項5】
Cr18〜23%を有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項6】
Cr19〜22%を有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項7】
W1.0〜3.0%を有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項8】
W1.4〜2.5%を有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項9】
Si0.05〜0.5%を有する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項10】
Mn0.005〜0.5%を有する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項11】
Y0.03〜0.09%を有する、請求項1から10までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項12】
Zr0.02〜0.08%を有する、請求項1から11までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項13】
Hf0.02〜0.08%を有する、請求項1から12までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項14】
C0.003〜0.020%を有する、請求項1から13までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項15】
15.Mg0.0001〜0.05%、Ca0.0001〜0.03%、P0.002〜0.030%を有する、請求項1から14までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項16】
Mg0.0001〜0.03%を有する、請求項1から15までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項17】
Mg0.0001〜0.02%を有する、請求項1から15までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項18】
Mg0.0002〜0.01%を有する、請求項1から15までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項19】
Ca0.0001〜0.02%を有する、請求項1から18までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項20】
Ca0.0002〜0.01%を有する、請求項1から18までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項21】
P0.003〜0.025%を有する、請求項1から20までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項22】
P0.003〜0.022%を有する、請求項1から20までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項23】
Wが全部または部分的に元素Moおよび/またはCoの少なくとも1つによって代替されている、請求項1から22までのいずれか1項に記載の合金
【請求項24】
Yが完全に元素Scおよび/またはLaおよび/またはCerの少なくとも1つによって代替されている、請求項1から23までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項25】
Yが部分的に元素Scおよび/またはLaおよび/またはCerの少なくとも1つによって0.02〜0.10%代替されている、請求項1から23までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項26】
Y、Hf、Zr、Ti、Cが式
I=−0.015+0.065*Y+0.030*Hf+0.095*Zr+0.090*Ti−0.065*C<0
〔式中、
Iは、内部酸化であり、および
Y、Hf、Zr、Ti、Cは、質量%での合金元素の濃度である〕を満たす、請求項1から25までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項27】
Hfおよび/またはZrが部分的に元素Scおよび/またはLaおよび/またはCerの少なくとも1つによって0.01〜0.1%代替されている、請求項1から26までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項28】
Hfおよび/またはZrが部分的に元素Ti0.01〜0.1%によって代替されている、請求項1から27までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項29】
Nb最大0.1%を有する、請求項1から28までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項30】
V最大0.1%およびTa最大0.1%を有する、請求項1から29までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項31】
N最大0.02%およびS最大0.005%を有する、請求項1から30までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項32】
N最大0.01%およびS最大0.003%を有する、請求項1から30までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項33】
O最大0.01%を有する、請求項1から32までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項34】
さらに、ニッケル最大0.5%を含む、請求項1から33までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項35】
さらに、Bor最大0.003%を含む、請求項1から34までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項36】
さらに、Bor最大0.002%を含む、請求項1から34までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項37】
発熱素子のためのフィルムとしての請求項1から36までのいずれか1項に記載の合金の使用。
【請求項38】
電気的に加熱可能な発熱素子におけるフィルムとしての使用のための請求項1から36までのいずれか1項に記載の合金の使用。
【請求項39】
厚さ0.020〜0.30mmの寸法範囲内の、発熱素子、殊に電気的に加熱可能な発熱素子のためのフィルムとしての請求項1から36までのいずれか1項に記載の合金の使用。
【請求項40】
20〜200μmの厚さを有する、発熱素子、殊に電気的に加熱可能な発熱素子におけるフィルムとしての使用のための請求項1から36までのいずれか1項に記載の合金の使用。
【請求項41】
20〜100μmの厚さを有する、発熱素子、殊に電気的に加熱可能な発熱素子におけるフィルムとしての使用のための請求項1から36までのいずれか1項に記載の合金の使用。
【請求項42】
調理分野、殊にガラスセラミック調理分野における使用のための熱伝導体フィルムとしての請求項1から36までのいずれか1項に記載の合金の使用。
【請求項43】
加熱可能な金属排ガス触媒における担体フィルムとしての請求項1から36までのいずれか1項に記載の合金の使用。
【請求項44】
燃料電池におけるフィルムとしての請求項1から36までのいずれか1項に記載の合金の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−516731(P2011−516731A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503335(P2011−503335)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際出願番号】PCT/DE2009/000450
【国際公開番号】WO2009/124530
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(399009918)ティッセンクルップ ファオ デー エム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (20)
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp VDM GmbH
【住所又は居所原語表記】Plettenberger Strasse 2 D−58791 Werdohl Germany
【Fターム(参考)】