長周期波低減対策構造物の構築方法
【課題】港湾毎に水深と問題となる長周期波に対応し、必要な消波性能(反射率)を決定し、最適で経済的な長周期波の低減が可能な長周期波低減対策構造物の構築方法の提供
【解決手段】 長周期波低減対策構造物の、長周期波波長(L):前面壁と後面壁との間隔(遊水部の奥行きB)の比率(B/L)に対する長周期波反射率Krの関係を予め実験によって求めておき、該実験結果を用いて、実際の対象とする港湾や護岸において低減対策対象とする長周期波の波長と該対象とする港湾や護岸において得ようとする長周期波反射率とに対応する遊水部の奥行き(B)を決定する。
【解決手段】 長周期波低減対策構造物の、長周期波波長(L):前面壁と後面壁との間隔(遊水部の奥行きB)の比率(B/L)に対する長周期波反射率Krの関係を予め実験によって求めておき、該実験結果を用いて、実際の対象とする港湾や護岸において低減対策対象とする長周期波の波長と該対象とする港湾や護岸において得ようとする長周期波反射率とに対応する遊水部の奥行き(B)を決定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に船舶の荷役作業等が行われる港湾内において、岸壁、桟橋、護岸及び防波堤などの海洋構造物の港湾内側に設置し、長周期波を低減させるための長周期波低減対策構造物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、防波堤や海岸等に設置される波高低減構造物には、構造物の前部(海側)に消波ブロックを積み上げて消波工を設けたもの(例えば、特許文献1を参照)や、所謂スリットケーソンからなるもの(例えば、特許文献2を参照)が知られている。
【0003】
消波工による消波は、構造物の前部に消波ブロックを積み重ねて消波工を形成し、この消波工を波が通過する際にエネルギー損失を生じさせて消波する構造である。一方、スリットケーソンからなる波高低減構造物は、図8に示すように複数の縦向きスリット状の透孔10aが形成された遮壁10と、遮壁10の後方に十分な空間からなる遊水部11とを有し、波が透孔10aを通過する際に波動のエネルギー損失を生じさせて消波する構造である。
【0004】
このスリットケーソンでは、遮壁10の透孔10aを通過する際の流速が速いほど波のエネルギーの減衰が大きい。このスリットケーソン内では、図9に示すように、遮壁10の前面側からの入射波λ1が、遊水部2の最奥の反射面12にて反射された反射波λ2と重なり合って遊水室奥の反射面で腹となる重複波が形成され、該重複波の節a部分の水平速度が最大となる。そこで、透孔10aの位置をこの水平速度が最大となる節a位置となるように遊水部2奥行きBを設定することによって波のエネルギーを最も減衰させることができ、スリットケーソンの前面に進行してくる波の波長Lの1/4となる位置(B/L=0.25)に遮壁を設置することによって、スリットを通過する上記重複波の水平速度が最大となり、最も高い消波効果が得られることが知られている。
【0005】
一方、海側から打ち寄せる波には、通常の波と共に長周期波が存在し、この長周期波は周期が数十秒〜数分の長い周期を有している。この長周期波は、港湾内に進入すると港湾の形状や岸壁の位置等の諸条件によって多重反射し、岸壁に接岸された船舶を大きく動揺させ、このため荷役作業等に支障を生じる場合があり、また、船舶を係留していた係留索が切断されてしまう等の被害が発生している。
【0006】
特に、大型の船舶(数万〜数十万DWT)を破断強度の大きな合成繊維からなる係留索を用いて係留した場合、船の動揺の固有周期が数十秒〜数分であると、船の動揺の固有周期と長周期波の周期帯が一致するため、両者が共振を起こし船体を大きく動揺させる。
【0007】
このため、長周期波を消波ないし低減する対策が求められているが、長周期波は数百m〜数kmの長い波長を有するため、消波ブロックやスリットケーソンを用いた従来の上記消波対策によって十分な消波効果を得るためには、遊水部や消波工の奥行きが100m以上ある大規模な構造物とする必要があり、実現性に乏しいという問題があった。
【0008】
この長周期波を低減する手段として、図10、図11に示す構造を有する長周期波低減対策構造物も開発されている(特許文献3)。
【0009】
図10に示す構造物は、海側及び陸側にそれぞれスリット状の透水孔が形成された遮壁1,2を配した所謂両面スリットケーソン3を備え、そのスリットケーソン3の奥側に裏込材として大型の雑石を積層させた雑石層4を設けた構造となっている。
【0010】
また、図11に示す構造物は、海側にスリット状の開口5aを有する透水部5と、その奥側(陸側)に側部仕切り壁6を隔てて配置された遊水部7と、透水部5内に積み上げられた砕石等からなる消波材層8とを備え、透水部5内の水位変動に伴って、側部仕切り壁6に形成された透水孔6aを通して透水部5と遊水部7との間で水が出入りし、透水部5の海側部における水位変動を抑制するようにしたものである。
【0011】
図10及び図11に示す海洋構造物の長周期波に対する消波低減手段は有効なものではあるが、何れも十分な消波低減効果を得るためには50m程度の奥行きが必要であり、これより小規模な構造にするのが難しいと云う問題がある。また、長周期波低減対策を施した従来の構造物は、主にプレキャスト製コンクリート構造体などを用い、これを対象とする港湾や護岸に沈降させる等の方法によって構築されることが考えられる。このため、構造体を製造する工程と、これを現場に設置する工程とを必要とし、構造体製造のためのヤードや、製造のための時間及びコストがかかる等の問題がある。
【0012】
そこで本発明者らは、このような問題を解決できる長周期波低減対策構造物として、図1に示す如き、港湾内の船舶接岸岸壁や防波堤、護岸などの海洋構造物20の港湾内側面に、奥側に向かって後退する前面壁21を有し、該前面壁に開口率1〜3%縦向きのスリット状通水口24が開口し、該通水口24の背後にこれと連通した遊水部25を備えた長周期波低減対策構造物を開発した。
【0013】
この長周期波低減対策構造物による長周期波エネルギー減衰のメカニズムは、前述した従来のスリットケーソンの場合とは異なり、図12(a)〜(c)に示すように前面壁21の通水口24を波が通過後の落差や水平方向の広がりによって発生する渦によってエネルギーを消費させるものであり、小規模でも長周期波の影響を十分に低減することができ効果を有することが実験により確認された。
【特許文献1】特開2000−204528号公報
【特許文献2】特開2002−146746号公報
【特許文献3】特開2005−42528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、上述した図1に示す如き長周期波低減対策構造物の設計に際し、前述した図8に示す従来のスリットケーソンにおける遊水部2の奥行きBの決定手法、即ち、図9に示すように遊水室奥の反射面3で波が反射し、最も水平流速の大きい重複波の節の位置でスリットによりエネルギーを低減するという手法は、波のエネルギー消費のメカニズムが異なるため適応することができない。
【0015】
また、長周期波は全国各地の港湾で船体動揺などの問題を引起しており、港の形状や係留船舶により,問題となる長周期波の周期が異なる。更に、過去の実験では、長周期波の周期が長くなる(波長が長くなる)と対策構造物の消波性能が低下することが確認されており、周期が長い(波長が長い)場合は,構造物幅(遊水部の奥行き)を大きくすると反射率が低下することが確認されている。
【0016】
このように、港により問題となる長周期波の周期が異なるため、長周期波対策構造物の最適な構造物幅が一義的に決められないという問題があった。
【0017】
そこで、長周期波対策構造物の消波性能毎の最適な奥行き(B)を決定する際には,水理模型実験を行い構造物の寸法を決定することが望ましい。しかし、長周期波を造波することが可能な水槽長の長い施設が限られ、しかも長周期波は波長が長く、精度の良い造波を行うことが難しい。
【0018】
例えば、水深10m、周期60sの波の場合、縮尺を1/50にしても実験室スケールの波長は12mとなり、長さ50mの水槽を使用したとしても、有効な波数は3〜4波程度である。長さが50m程度で長周期波を精度良く造波し、実験するとこができる施設が限られ、対象とする港湾や護岸などの対象長周期波低減対策域ごとに実験で構造物の奥行きBを決定することは難しいという問題があった。
【0019】
本発明はこのような従来の問題に鑑み、対象とする港湾や護岸などの対象長周期波低減対策域ごとに実験を行うことなく、その対象とする港湾や護岸特有の長周期波の波長と、必要な消波性能(反射率)を決定することによって、最適な遊水部奥行きの長周期波低減対策構造物が構築できる長周期波低減対策構造物の構築方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは上述の如き従来の問題に鑑み、鋭意研究の結果、あらかじめ実験により求めた反射率Krと構造物幅B/波長Lの関係を用い、対象港湾や岸壁の条件にあった構造物幅を決めることは有効な手段であるとの知見を得、実験によって構造物幅B/波長Lと反射率Krの関係を求めたところ、B/L=0.07で最も高い消波性能を示すことが明らかとなり、これに基づいて本発明を完成させたものである。
【0021】
而して、上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載する発明の特徴は、港湾内側に面した前面壁を有し、該前面壁の背後に間隔を隔てて後面壁を備え、前記両壁間を遊水部とし、前記前面壁に縦向きのスリット状通水口が開口し、該通水口の背後に前記遊水部を連通させて周期30s以上の長周期波を低減させるようにしてなる長周期波低減対策構造物の構築に際し、前記長周期波低減対策構造物の、前記長周期波波長(L):前面壁と後面壁との間隔(遊水部の奥行きB)の比率(B/L)に対する長周期波反射率Krの関係を予め実験によって求めておき、該実験結果を用いて、実際の対象とする港湾や護岸において低減対策対象とする長周期波の波長と該対象とする港湾や護岸において得ようとする長周期波反射率とに対応する遊水部の奥行き(B)を決定することにある。
【0022】
請求項2に記載する発明の特徴は、請求項1の構成に加えて、前記長周期波波長(L):前面壁と後面壁との間隔(遊水部の奥行きB)の比率(B/L)に対する長周期波反射率の関係は、2次元水槽内に模型を設置し、水深、長周期波周期及び遊水部奥行きを変化させた実験ケース毎に反射率を測定することにより求めることにある。
【0023】
請求項3に記載する発明の特徴は、請求項1又は2のいずれかの請求項の構成に加えて、前記前面壁は、各通水口毎に奧側に向かって後退する凹部が形成されており、その奧側の位置に上記通水口が開口していることにある。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る長周期波構造物の構築方法は、港湾内側に面した前面壁を有し、該前面壁の背後に間隔を隔てて後面壁を備え、前記両壁間を遊水部とし、前記前面壁に縦向きのスリット状通水口が開口し、該通水口の背後に前記遊水部を連通させて周期30s以上の長周期波を低減させるようにしてなる長周期波低減対策構造物の構築に際し、前記長周期波低減対策構造物の、前記長周期波波長(L):前面壁と後面壁との間隔(遊水部の奥行きB)の比率(B/L)に対する長周期波反射率Krの関係を予め実験によって求めておき、該実験結果を用いて、実際の対象とする港湾や護岸において低減対策対象とする長周期波の波長と該対象とする港湾や護岸において得ようとする長周期波反射率とに対応する遊水部の奥行き(B)を決定することとしたことにより、対象とする港湾や護岸となる港湾毎に実験を行うことなく、その対象とする港湾や護岸特有の長周期波の波長と、必要な消波性能(反射率)を決定することによって、最適な遊水部奥行きの長周期波低減対策構造物が構築できる。
【0025】
更に、各通水口毎に海側に面する前面壁が奧に向かって後退する後退する凹部を形成させ、その奧側の位置に上記通水口を設けることにより、前面壁に押し寄せる波が前面壁に導かれて通水口に寄せ集められ、遊水部に流入する波のエネルギー損失が増大し、長周期波に効果的な消波効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に、本発明に係る長周期波低減対策構造物の実施形態を図に基づいて説明する。
【0027】
本発明により構築しようとする長周期波低減対策構造物の一例を図1、図2について説明する。図1に示す長周期波低減対策構造物20は、長周期波を受ける海側に面する前面壁21と、その両側の側部仕切り壁22、22と、陸側の後面壁23とを有しており、前面壁21には縦向き細長のスリット状をした通水口24が開口しており、通水口24の背部には通水口14に連通する遊水部25となっている。
【0028】
この遊水部25は側部仕切り壁22,22および後面壁23からなる周壁によって囲まれ、前面壁21が海側と遊水部25とを隔てる側部仕切り壁となっている。そして、側部仕切り壁22を隔てて複数の遊水部25,25……が側方に連続して造成されている。
【0029】
前面壁21は、各通水口24毎に奧側に向かって後退する凹部26が形成されており、その奧側の位置に上記通水口24が開口されている。通水口24は、海底面から通常の長周期波の最高波高よりも高い位置に到る長さに形成され、通水口24から遊水部25の内部に長周期波が出入りする際に、遊水部25内の空気が充分に出入りできる高さに達するように開口している。
【0030】
なお、図示する例では、通水口24は前面壁21の中央部に設けられているが、側部仕切り壁22に近づけて通水口24を設けても良い。
【0031】
また、通水口24のスリット幅は、遊水部25の前面壁21に対する開口率を1〜3%程度とし、例えば1の遊水部25の前面壁12の水平方向の長さが30mの場合、スリット幅を0.5m〜1.0mとする。
【0032】
更に、本発明により構築しようとする長周期波低減対策構造物は、図1に示すように側部仕切り壁22によって区切られた多数の遊水部を設けているが、図3に示すように、前面壁21と後面壁22間に側部仕切り壁の無い連続したものであってもよい。
【0033】
その構築は各壁21,22,23を場所打ちコンクリートによって形成したものであっても良く、矢板や杭を水底並べて打設することによって壁を造成してもよく、図示してないが、コンクリートの底版と一体にケーソン状に形成したものを水底に設置しても良い。また、後面壁22は、護岸や岸壁その他の港湾内構築物そのものをもって構成させてもよい。更に、図4に示すように、前面壁21の形状は凹部26を設けることなく平らな面に通水口24を設けてもよい。
【0034】
次に、上述したし長周期波低減対策構造物を、対象とする港湾や護岸などの対象長周期波低減対策域の設置箇所の特性に合わせて最も適切な長周期波低減効果が得られるための構築方法について説明する。この方法は、前述した長周期波低減対策構造物の形態を予め決定し、実験によって予め、その長周期波低減対策構造物の特性である、長周期波波長(L):前面壁と後面壁との間隔(遊水部の奥行きB)の比率(B/L)に対する長周期波反射率Krの関係を予め実験によって求めておき、その実験結果を用いて、実際の対象とする港湾や護岸において低減対策対象とする長周期波の波長と該対象とする港湾や護岸において得ようとする長周期波反射率とに対応する遊水部の奥行き(B)を決定するものである。
【0035】
先ず、はじめに所望の前述した長周期波低減対策構造物の特性である長周期波波長(L):前面壁と後面壁との間隔(遊水部の奥行きB)の比率(B/L)に対する長周期波反射率の関係を予め求める実験について説明する。
【0036】
長周期波低減対策構造物による長周期波低減効果、即ち反射率を、水深h、長周期波周期T、遊水部奥行きBを変化させて計測する。
【0037】
この計測は、図5に示すように2次元水槽を使用し、該水槽内に通水口25を有する前面壁21及びその後方に遊水部25を隔てて設置した後面壁22からなる模型を設置して実験により行う。
【0038】
次に上記実験例を具体的に説明する。
【0039】
実験に用いた2次元水槽は、長さ50m、幅60cm、深さ1.2mで、沖側には造波装置が設置されている。実験縮尺は1/50とした。以降の数値は全て現地スケールで示す。
【0040】
長周期波低減対策構造物模型は、水槽内に図5に示す前面壁21と後面壁22(導水板)とをアクリル板で製作して設置した。構造物模型寸法は表1に示すとおりであり、遊水部奥行きBは、25mと30mの2ケースとした。
【0041】
表1
上記2次元水槽において、表2に示す周期の規則波を造波させ、水深を8m,10m,15mと変化させた。表3に示す実験ケースについて実験し、これにより幅広い波長のデータを取得した。尚、遊水部奥行き25mの模型を使った実験に関しては、水深7mについての実験も行った。
【0042】
前面壁21の前面の水位を実験室スケールでサンプリング周波数20Hz、造波開始から300秒間のデータを収録した.長周期波対策構造物の反射率は,合田らによる入反射分離推定法により算出した。
【0043】
表2
表3
この実験による水深と反射率の関係は図6に示すごとくであった。遊水部の奥行き25mと30mの結果を比較すると,周期の長い60s,90sでは幅30mで反射率が小さく消波性能が高いことが確認できたが,周期30sではその違いは確認されなかった。また,周期60s,90sでは水深が大きくなると波長が大きくなるため反射率が大きくなる傾向が現れている。
【0044】
上記実験の結果から、この模型による長周期波波長(L):前面壁と後面壁との間隔(遊水部の奥行きB)の比率(B/L)に対する長周期波反射率の関係を算出し、図7に示すグラフを得た。これによれば、B/Lが0.07〜0.08で反射率が最も小さくなる曲線を示している。
【0045】
上記の実験結果をもとにして、実際の対象とする港湾や護岸に対応させた遊水部の奥行きBの適切な長さを設定する。即ち、上記B/Lと反射率Krとの関係をもとにして長周期波低減対策構造物の必要な奥行きBの適切な長さを選定する。
【0046】
この反射率は対象とする港湾や護岸において長周期波対策として必要とされる反射率であり、先ず対象とする港湾や護岸において必要とする反射率Krを選定する。
【0047】
次いで、前記実験結果の図7に示すグラフからこの反射率Krに対応する遊水部奥行き/長周期波は長(B/L)を求める。また、長周期波波長Lは対象とする港湾や護岸となる港湾における水深hと、その港で問題となっている長周期波の周期Tとから、次の式−1で求める。長周期波の場合、式−1は式−2で近似できる。
【0048】
【0049】
(式−2)
この値Lに対応した遊水部の奥行きBが、対象とする港湾や護岸の港湾に最も適した値となる。即ち、図7において、対象とする港湾や護岸で必要とする反射率Krが0.7である場合、B/Lは0.045程度であり、その港湾において低減を必要とする長周期波の波長Lが600mであるとすると、適切な遊水部の奥行きBは、B=0.045×600=27mとなる。
【0050】
このようにして、所望の長周期波低減対策構造物について予め実験によって、該構造物の特性である長周期波反射率Krと長周期波波長(L):前面壁と後面壁との間隔(遊水部の奥行きB)の比率(B/L)に対する関係、即ちKrとB/Lとの関係を求めておくことによって、対象とする港湾や護岸の条件から、低減対策をようする長周期波の波長及び必要な反射率(長周期波低減率)を選定することによって、容易に最適な遊水部の奥行きを、対象とする港湾や護岸ごとに簡単に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に方法により構築しようとする長周期波低減対策構造物の一例を示す斜視図である。
【図2】同上の縦断面図である。
【図3】本発明に方法により構築しようとする長周期波低減対策構造物の他の例を示す平面図である。
【図4】本発明に方法により構築しようとする長周期波低減対策構造物の更に他の例を示す平面図である。
【図5】本発明において使用する試験水槽の一例の平面図である。
【図6】本発明における実験例の水深と反射率の関係を示すグラフである。
【図7】同じく反射率と遊水部奥行き/長周期波波長との関係を示すグラフである。
【図8】従来のスリットケーソンを縦断して示す斜視図である。
【図9】同スリットケーソンの波のエネルギー消費メカニズムを示す説明図である。
【図10】長周期波低減対策構造物の従来例を示す縦断面図である。
【図11】長周期波低減対策構造物の他の従来例を示す縦断面図である。
【図12】図1に示す長周期波低減対策構造物の波のエネルギー消費メカニズムを示す説明図であり、(a)は寄せ波の動きを示す平面図、(b)は引き波の動きを示す平面図、(c)は寄せ波、引き波の動きを示す平面図である。
【符号の説明】
【0052】
20 長周期波低減対策構造物
21 前面壁
22 側部仕切り壁
23 後面壁
24 通水口
25 遊水部
a 通水口のスリット幅
h 水深
B 遊水部奥行き
L 長周期波波長
T 長周期波周期
Kr 反射率
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に船舶の荷役作業等が行われる港湾内において、岸壁、桟橋、護岸及び防波堤などの海洋構造物の港湾内側に設置し、長周期波を低減させるための長周期波低減対策構造物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、防波堤や海岸等に設置される波高低減構造物には、構造物の前部(海側)に消波ブロックを積み上げて消波工を設けたもの(例えば、特許文献1を参照)や、所謂スリットケーソンからなるもの(例えば、特許文献2を参照)が知られている。
【0003】
消波工による消波は、構造物の前部に消波ブロックを積み重ねて消波工を形成し、この消波工を波が通過する際にエネルギー損失を生じさせて消波する構造である。一方、スリットケーソンからなる波高低減構造物は、図8に示すように複数の縦向きスリット状の透孔10aが形成された遮壁10と、遮壁10の後方に十分な空間からなる遊水部11とを有し、波が透孔10aを通過する際に波動のエネルギー損失を生じさせて消波する構造である。
【0004】
このスリットケーソンでは、遮壁10の透孔10aを通過する際の流速が速いほど波のエネルギーの減衰が大きい。このスリットケーソン内では、図9に示すように、遮壁10の前面側からの入射波λ1が、遊水部2の最奥の反射面12にて反射された反射波λ2と重なり合って遊水室奥の反射面で腹となる重複波が形成され、該重複波の節a部分の水平速度が最大となる。そこで、透孔10aの位置をこの水平速度が最大となる節a位置となるように遊水部2奥行きBを設定することによって波のエネルギーを最も減衰させることができ、スリットケーソンの前面に進行してくる波の波長Lの1/4となる位置(B/L=0.25)に遮壁を設置することによって、スリットを通過する上記重複波の水平速度が最大となり、最も高い消波効果が得られることが知られている。
【0005】
一方、海側から打ち寄せる波には、通常の波と共に長周期波が存在し、この長周期波は周期が数十秒〜数分の長い周期を有している。この長周期波は、港湾内に進入すると港湾の形状や岸壁の位置等の諸条件によって多重反射し、岸壁に接岸された船舶を大きく動揺させ、このため荷役作業等に支障を生じる場合があり、また、船舶を係留していた係留索が切断されてしまう等の被害が発生している。
【0006】
特に、大型の船舶(数万〜数十万DWT)を破断強度の大きな合成繊維からなる係留索を用いて係留した場合、船の動揺の固有周期が数十秒〜数分であると、船の動揺の固有周期と長周期波の周期帯が一致するため、両者が共振を起こし船体を大きく動揺させる。
【0007】
このため、長周期波を消波ないし低減する対策が求められているが、長周期波は数百m〜数kmの長い波長を有するため、消波ブロックやスリットケーソンを用いた従来の上記消波対策によって十分な消波効果を得るためには、遊水部や消波工の奥行きが100m以上ある大規模な構造物とする必要があり、実現性に乏しいという問題があった。
【0008】
この長周期波を低減する手段として、図10、図11に示す構造を有する長周期波低減対策構造物も開発されている(特許文献3)。
【0009】
図10に示す構造物は、海側及び陸側にそれぞれスリット状の透水孔が形成された遮壁1,2を配した所謂両面スリットケーソン3を備え、そのスリットケーソン3の奥側に裏込材として大型の雑石を積層させた雑石層4を設けた構造となっている。
【0010】
また、図11に示す構造物は、海側にスリット状の開口5aを有する透水部5と、その奥側(陸側)に側部仕切り壁6を隔てて配置された遊水部7と、透水部5内に積み上げられた砕石等からなる消波材層8とを備え、透水部5内の水位変動に伴って、側部仕切り壁6に形成された透水孔6aを通して透水部5と遊水部7との間で水が出入りし、透水部5の海側部における水位変動を抑制するようにしたものである。
【0011】
図10及び図11に示す海洋構造物の長周期波に対する消波低減手段は有効なものではあるが、何れも十分な消波低減効果を得るためには50m程度の奥行きが必要であり、これより小規模な構造にするのが難しいと云う問題がある。また、長周期波低減対策を施した従来の構造物は、主にプレキャスト製コンクリート構造体などを用い、これを対象とする港湾や護岸に沈降させる等の方法によって構築されることが考えられる。このため、構造体を製造する工程と、これを現場に設置する工程とを必要とし、構造体製造のためのヤードや、製造のための時間及びコストがかかる等の問題がある。
【0012】
そこで本発明者らは、このような問題を解決できる長周期波低減対策構造物として、図1に示す如き、港湾内の船舶接岸岸壁や防波堤、護岸などの海洋構造物20の港湾内側面に、奥側に向かって後退する前面壁21を有し、該前面壁に開口率1〜3%縦向きのスリット状通水口24が開口し、該通水口24の背後にこれと連通した遊水部25を備えた長周期波低減対策構造物を開発した。
【0013】
この長周期波低減対策構造物による長周期波エネルギー減衰のメカニズムは、前述した従来のスリットケーソンの場合とは異なり、図12(a)〜(c)に示すように前面壁21の通水口24を波が通過後の落差や水平方向の広がりによって発生する渦によってエネルギーを消費させるものであり、小規模でも長周期波の影響を十分に低減することができ効果を有することが実験により確認された。
【特許文献1】特開2000−204528号公報
【特許文献2】特開2002−146746号公報
【特許文献3】特開2005−42528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、上述した図1に示す如き長周期波低減対策構造物の設計に際し、前述した図8に示す従来のスリットケーソンにおける遊水部2の奥行きBの決定手法、即ち、図9に示すように遊水室奥の反射面3で波が反射し、最も水平流速の大きい重複波の節の位置でスリットによりエネルギーを低減するという手法は、波のエネルギー消費のメカニズムが異なるため適応することができない。
【0015】
また、長周期波は全国各地の港湾で船体動揺などの問題を引起しており、港の形状や係留船舶により,問題となる長周期波の周期が異なる。更に、過去の実験では、長周期波の周期が長くなる(波長が長くなる)と対策構造物の消波性能が低下することが確認されており、周期が長い(波長が長い)場合は,構造物幅(遊水部の奥行き)を大きくすると反射率が低下することが確認されている。
【0016】
このように、港により問題となる長周期波の周期が異なるため、長周期波対策構造物の最適な構造物幅が一義的に決められないという問題があった。
【0017】
そこで、長周期波対策構造物の消波性能毎の最適な奥行き(B)を決定する際には,水理模型実験を行い構造物の寸法を決定することが望ましい。しかし、長周期波を造波することが可能な水槽長の長い施設が限られ、しかも長周期波は波長が長く、精度の良い造波を行うことが難しい。
【0018】
例えば、水深10m、周期60sの波の場合、縮尺を1/50にしても実験室スケールの波長は12mとなり、長さ50mの水槽を使用したとしても、有効な波数は3〜4波程度である。長さが50m程度で長周期波を精度良く造波し、実験するとこができる施設が限られ、対象とする港湾や護岸などの対象長周期波低減対策域ごとに実験で構造物の奥行きBを決定することは難しいという問題があった。
【0019】
本発明はこのような従来の問題に鑑み、対象とする港湾や護岸などの対象長周期波低減対策域ごとに実験を行うことなく、その対象とする港湾や護岸特有の長周期波の波長と、必要な消波性能(反射率)を決定することによって、最適な遊水部奥行きの長周期波低減対策構造物が構築できる長周期波低減対策構造物の構築方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは上述の如き従来の問題に鑑み、鋭意研究の結果、あらかじめ実験により求めた反射率Krと構造物幅B/波長Lの関係を用い、対象港湾や岸壁の条件にあった構造物幅を決めることは有効な手段であるとの知見を得、実験によって構造物幅B/波長Lと反射率Krの関係を求めたところ、B/L=0.07で最も高い消波性能を示すことが明らかとなり、これに基づいて本発明を完成させたものである。
【0021】
而して、上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載する発明の特徴は、港湾内側に面した前面壁を有し、該前面壁の背後に間隔を隔てて後面壁を備え、前記両壁間を遊水部とし、前記前面壁に縦向きのスリット状通水口が開口し、該通水口の背後に前記遊水部を連通させて周期30s以上の長周期波を低減させるようにしてなる長周期波低減対策構造物の構築に際し、前記長周期波低減対策構造物の、前記長周期波波長(L):前面壁と後面壁との間隔(遊水部の奥行きB)の比率(B/L)に対する長周期波反射率Krの関係を予め実験によって求めておき、該実験結果を用いて、実際の対象とする港湾や護岸において低減対策対象とする長周期波の波長と該対象とする港湾や護岸において得ようとする長周期波反射率とに対応する遊水部の奥行き(B)を決定することにある。
【0022】
請求項2に記載する発明の特徴は、請求項1の構成に加えて、前記長周期波波長(L):前面壁と後面壁との間隔(遊水部の奥行きB)の比率(B/L)に対する長周期波反射率の関係は、2次元水槽内に模型を設置し、水深、長周期波周期及び遊水部奥行きを変化させた実験ケース毎に反射率を測定することにより求めることにある。
【0023】
請求項3に記載する発明の特徴は、請求項1又は2のいずれかの請求項の構成に加えて、前記前面壁は、各通水口毎に奧側に向かって後退する凹部が形成されており、その奧側の位置に上記通水口が開口していることにある。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る長周期波構造物の構築方法は、港湾内側に面した前面壁を有し、該前面壁の背後に間隔を隔てて後面壁を備え、前記両壁間を遊水部とし、前記前面壁に縦向きのスリット状通水口が開口し、該通水口の背後に前記遊水部を連通させて周期30s以上の長周期波を低減させるようにしてなる長周期波低減対策構造物の構築に際し、前記長周期波低減対策構造物の、前記長周期波波長(L):前面壁と後面壁との間隔(遊水部の奥行きB)の比率(B/L)に対する長周期波反射率Krの関係を予め実験によって求めておき、該実験結果を用いて、実際の対象とする港湾や護岸において低減対策対象とする長周期波の波長と該対象とする港湾や護岸において得ようとする長周期波反射率とに対応する遊水部の奥行き(B)を決定することとしたことにより、対象とする港湾や護岸となる港湾毎に実験を行うことなく、その対象とする港湾や護岸特有の長周期波の波長と、必要な消波性能(反射率)を決定することによって、最適な遊水部奥行きの長周期波低減対策構造物が構築できる。
【0025】
更に、各通水口毎に海側に面する前面壁が奧に向かって後退する後退する凹部を形成させ、その奧側の位置に上記通水口を設けることにより、前面壁に押し寄せる波が前面壁に導かれて通水口に寄せ集められ、遊水部に流入する波のエネルギー損失が増大し、長周期波に効果的な消波効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に、本発明に係る長周期波低減対策構造物の実施形態を図に基づいて説明する。
【0027】
本発明により構築しようとする長周期波低減対策構造物の一例を図1、図2について説明する。図1に示す長周期波低減対策構造物20は、長周期波を受ける海側に面する前面壁21と、その両側の側部仕切り壁22、22と、陸側の後面壁23とを有しており、前面壁21には縦向き細長のスリット状をした通水口24が開口しており、通水口24の背部には通水口14に連通する遊水部25となっている。
【0028】
この遊水部25は側部仕切り壁22,22および後面壁23からなる周壁によって囲まれ、前面壁21が海側と遊水部25とを隔てる側部仕切り壁となっている。そして、側部仕切り壁22を隔てて複数の遊水部25,25……が側方に連続して造成されている。
【0029】
前面壁21は、各通水口24毎に奧側に向かって後退する凹部26が形成されており、その奧側の位置に上記通水口24が開口されている。通水口24は、海底面から通常の長周期波の最高波高よりも高い位置に到る長さに形成され、通水口24から遊水部25の内部に長周期波が出入りする際に、遊水部25内の空気が充分に出入りできる高さに達するように開口している。
【0030】
なお、図示する例では、通水口24は前面壁21の中央部に設けられているが、側部仕切り壁22に近づけて通水口24を設けても良い。
【0031】
また、通水口24のスリット幅は、遊水部25の前面壁21に対する開口率を1〜3%程度とし、例えば1の遊水部25の前面壁12の水平方向の長さが30mの場合、スリット幅を0.5m〜1.0mとする。
【0032】
更に、本発明により構築しようとする長周期波低減対策構造物は、図1に示すように側部仕切り壁22によって区切られた多数の遊水部を設けているが、図3に示すように、前面壁21と後面壁22間に側部仕切り壁の無い連続したものであってもよい。
【0033】
その構築は各壁21,22,23を場所打ちコンクリートによって形成したものであっても良く、矢板や杭を水底並べて打設することによって壁を造成してもよく、図示してないが、コンクリートの底版と一体にケーソン状に形成したものを水底に設置しても良い。また、後面壁22は、護岸や岸壁その他の港湾内構築物そのものをもって構成させてもよい。更に、図4に示すように、前面壁21の形状は凹部26を設けることなく平らな面に通水口24を設けてもよい。
【0034】
次に、上述したし長周期波低減対策構造物を、対象とする港湾や護岸などの対象長周期波低減対策域の設置箇所の特性に合わせて最も適切な長周期波低減効果が得られるための構築方法について説明する。この方法は、前述した長周期波低減対策構造物の形態を予め決定し、実験によって予め、その長周期波低減対策構造物の特性である、長周期波波長(L):前面壁と後面壁との間隔(遊水部の奥行きB)の比率(B/L)に対する長周期波反射率Krの関係を予め実験によって求めておき、その実験結果を用いて、実際の対象とする港湾や護岸において低減対策対象とする長周期波の波長と該対象とする港湾や護岸において得ようとする長周期波反射率とに対応する遊水部の奥行き(B)を決定するものである。
【0035】
先ず、はじめに所望の前述した長周期波低減対策構造物の特性である長周期波波長(L):前面壁と後面壁との間隔(遊水部の奥行きB)の比率(B/L)に対する長周期波反射率の関係を予め求める実験について説明する。
【0036】
長周期波低減対策構造物による長周期波低減効果、即ち反射率を、水深h、長周期波周期T、遊水部奥行きBを変化させて計測する。
【0037】
この計測は、図5に示すように2次元水槽を使用し、該水槽内に通水口25を有する前面壁21及びその後方に遊水部25を隔てて設置した後面壁22からなる模型を設置して実験により行う。
【0038】
次に上記実験例を具体的に説明する。
【0039】
実験に用いた2次元水槽は、長さ50m、幅60cm、深さ1.2mで、沖側には造波装置が設置されている。実験縮尺は1/50とした。以降の数値は全て現地スケールで示す。
【0040】
長周期波低減対策構造物模型は、水槽内に図5に示す前面壁21と後面壁22(導水板)とをアクリル板で製作して設置した。構造物模型寸法は表1に示すとおりであり、遊水部奥行きBは、25mと30mの2ケースとした。
【0041】
表1
上記2次元水槽において、表2に示す周期の規則波を造波させ、水深を8m,10m,15mと変化させた。表3に示す実験ケースについて実験し、これにより幅広い波長のデータを取得した。尚、遊水部奥行き25mの模型を使った実験に関しては、水深7mについての実験も行った。
【0042】
前面壁21の前面の水位を実験室スケールでサンプリング周波数20Hz、造波開始から300秒間のデータを収録した.長周期波対策構造物の反射率は,合田らによる入反射分離推定法により算出した。
【0043】
表2
表3
この実験による水深と反射率の関係は図6に示すごとくであった。遊水部の奥行き25mと30mの結果を比較すると,周期の長い60s,90sでは幅30mで反射率が小さく消波性能が高いことが確認できたが,周期30sではその違いは確認されなかった。また,周期60s,90sでは水深が大きくなると波長が大きくなるため反射率が大きくなる傾向が現れている。
【0044】
上記実験の結果から、この模型による長周期波波長(L):前面壁と後面壁との間隔(遊水部の奥行きB)の比率(B/L)に対する長周期波反射率の関係を算出し、図7に示すグラフを得た。これによれば、B/Lが0.07〜0.08で反射率が最も小さくなる曲線を示している。
【0045】
上記の実験結果をもとにして、実際の対象とする港湾や護岸に対応させた遊水部の奥行きBの適切な長さを設定する。即ち、上記B/Lと反射率Krとの関係をもとにして長周期波低減対策構造物の必要な奥行きBの適切な長さを選定する。
【0046】
この反射率は対象とする港湾や護岸において長周期波対策として必要とされる反射率であり、先ず対象とする港湾や護岸において必要とする反射率Krを選定する。
【0047】
次いで、前記実験結果の図7に示すグラフからこの反射率Krに対応する遊水部奥行き/長周期波は長(B/L)を求める。また、長周期波波長Lは対象とする港湾や護岸となる港湾における水深hと、その港で問題となっている長周期波の周期Tとから、次の式−1で求める。長周期波の場合、式−1は式−2で近似できる。
【0048】
【0049】
(式−2)
この値Lに対応した遊水部の奥行きBが、対象とする港湾や護岸の港湾に最も適した値となる。即ち、図7において、対象とする港湾や護岸で必要とする反射率Krが0.7である場合、B/Lは0.045程度であり、その港湾において低減を必要とする長周期波の波長Lが600mであるとすると、適切な遊水部の奥行きBは、B=0.045×600=27mとなる。
【0050】
このようにして、所望の長周期波低減対策構造物について予め実験によって、該構造物の特性である長周期波反射率Krと長周期波波長(L):前面壁と後面壁との間隔(遊水部の奥行きB)の比率(B/L)に対する関係、即ちKrとB/Lとの関係を求めておくことによって、対象とする港湾や護岸の条件から、低減対策をようする長周期波の波長及び必要な反射率(長周期波低減率)を選定することによって、容易に最適な遊水部の奥行きを、対象とする港湾や護岸ごとに簡単に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に方法により構築しようとする長周期波低減対策構造物の一例を示す斜視図である。
【図2】同上の縦断面図である。
【図3】本発明に方法により構築しようとする長周期波低減対策構造物の他の例を示す平面図である。
【図4】本発明に方法により構築しようとする長周期波低減対策構造物の更に他の例を示す平面図である。
【図5】本発明において使用する試験水槽の一例の平面図である。
【図6】本発明における実験例の水深と反射率の関係を示すグラフである。
【図7】同じく反射率と遊水部奥行き/長周期波波長との関係を示すグラフである。
【図8】従来のスリットケーソンを縦断して示す斜視図である。
【図9】同スリットケーソンの波のエネルギー消費メカニズムを示す説明図である。
【図10】長周期波低減対策構造物の従来例を示す縦断面図である。
【図11】長周期波低減対策構造物の他の従来例を示す縦断面図である。
【図12】図1に示す長周期波低減対策構造物の波のエネルギー消費メカニズムを示す説明図であり、(a)は寄せ波の動きを示す平面図、(b)は引き波の動きを示す平面図、(c)は寄せ波、引き波の動きを示す平面図である。
【符号の説明】
【0052】
20 長周期波低減対策構造物
21 前面壁
22 側部仕切り壁
23 後面壁
24 通水口
25 遊水部
a 通水口のスリット幅
h 水深
B 遊水部奥行き
L 長周期波波長
T 長周期波周期
Kr 反射率
【特許請求の範囲】
【請求項1】
港湾内側に面した前面壁を有し、該前面壁の背後に間隔を隔てて後面壁を備え、前記両壁間を遊水部とし、前記前面壁に縦向きのスリット状通水口が開口し、該通水口の背後に前記遊水部を連通させて周期30s以上の長周期波を低減させるようにしてなる長周期波低減対策構造物の構築に際し、
前記長周期波低減対策構造物の、前記長周期波波長(L):前面壁と後面壁との間隔(遊水部の奥行きB)の比率(B/L)に対する長周期波反射率Krの関係を予め実験によって求めておき、該実験結果を用いて、実際の対象とする港湾や護岸において低減対策対象とする長周期波の波長と該対象とする港湾や護岸において得ようとする長周期波反射率とに対応する遊水部の奥行き(B)を決定することを特徴としてなる長周期波低減対策構造物の構築方法。
【請求項2】
前記長周期波波長(L):前面壁と後面壁との間隔(遊水部の奥行きB)の比率(B/L)に対する長周期波反射率の関係は、2次元水槽内に模型を設置し、水深、長周期波周期及び遊水部奥行きを変化させた実験ケース毎に反射率を測定することにより求める請求項1に記載の長周期波低減対策構造物の構築方法。
【請求項3】
前記前面壁は、各通水口毎に奧側に向かって後退する凹部が形成されており、その奧側の位置に上記通水口が開口している請求項1又は2何れか1の請求項に記載の長周期波低減対策構造物。
【請求項1】
港湾内側に面した前面壁を有し、該前面壁の背後に間隔を隔てて後面壁を備え、前記両壁間を遊水部とし、前記前面壁に縦向きのスリット状通水口が開口し、該通水口の背後に前記遊水部を連通させて周期30s以上の長周期波を低減させるようにしてなる長周期波低減対策構造物の構築に際し、
前記長周期波低減対策構造物の、前記長周期波波長(L):前面壁と後面壁との間隔(遊水部の奥行きB)の比率(B/L)に対する長周期波反射率Krの関係を予め実験によって求めておき、該実験結果を用いて、実際の対象とする港湾や護岸において低減対策対象とする長周期波の波長と該対象とする港湾や護岸において得ようとする長周期波反射率とに対応する遊水部の奥行き(B)を決定することを特徴としてなる長周期波低減対策構造物の構築方法。
【請求項2】
前記長周期波波長(L):前面壁と後面壁との間隔(遊水部の奥行きB)の比率(B/L)に対する長周期波反射率の関係は、2次元水槽内に模型を設置し、水深、長周期波周期及び遊水部奥行きを変化させた実験ケース毎に反射率を測定することにより求める請求項1に記載の長周期波低減対策構造物の構築方法。
【請求項3】
前記前面壁は、各通水口毎に奧側に向かって後退する凹部が形成されており、その奧側の位置に上記通水口が開口している請求項1又は2何れか1の請求項に記載の長周期波低減対策構造物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−214929(P2008−214929A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52554(P2007−52554)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】
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