長尺緊締体の締バックル
【課題】バックル自体を動かすことなく、ワンタッチ操作で、強圧接・迅速弛緩することにより物品の締め付けと解除を容易かつ確実に行う締バックルを提供。
【解決手段】バックル枠体101に側方から緊締体200の端部を挿入し軸に巻き付ける締バックル100に、バックル枠体に、長尺緊締体の他端部の挿入方向と直交する長尺緊締体変更軸301を設け、一端部を長尺緊締体変更軸の両側に回転可能に枢着した一対の回動アーム302を設け、一対の回動アームの他端部に長尺緊締体変更軸に対して平行に長尺緊締体掛け桿303を設け、回動アームを長尺緊締体変更軸を中心に回動してバックル枠体と回動ア−ムが平行又は略平行な状態となるようにバックル枠体内に収容移動可能にし、長尺緊締体の端部を長尺緊締体掛け桿にループ掛けし、このループの元部になる部分を長尺緊締体変更軸における長尺緊締体の方向変更側の周面に位置させて二重掛け状態に巻き付けた。
【解決手段】バックル枠体101に側方から緊締体200の端部を挿入し軸に巻き付ける締バックル100に、バックル枠体に、長尺緊締体の他端部の挿入方向と直交する長尺緊締体変更軸301を設け、一端部を長尺緊締体変更軸の両側に回転可能に枢着した一対の回動アーム302を設け、一対の回動アームの他端部に長尺緊締体変更軸に対して平行に長尺緊締体掛け桿303を設け、回動アームを長尺緊締体変更軸を中心に回動してバックル枠体と回動ア−ムが平行又は略平行な状態となるようにバックル枠体内に収容移動可能にし、長尺緊締体の端部を長尺緊締体掛け桿にループ掛けし、このループの元部になる部分を長尺緊締体変更軸における長尺緊締体の方向変更側の周面に位置させて二重掛け状態に巻き付けた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品をパレットに、あるいはトラックやコンテナの荷台に固定するのに用いる荷締めベルトやベルト長さ調節等に用いる長尺緊締体の締バックルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
市販の例えばベルトの長さを調整する器具はバックルと呼ばれ、ベルトを固定する・緩める、のようにオンとオフの機能しかない。また、経験的に摩擦を応用して固定する方法である。
最近、種々の用途のものに使用される紐、ベルト等を締結することができるとともに、バックル自身の位置設定を容易に行うことができる紐締バックルが特許文献1により提供された。
特許文献1に紹介された紐締バックルを図27に示す。図27において、上記紐締バックル010は、開口部035を与えるように一体に形成され所定の厚みを有する外周部032を備えた本体030と、三角形状の断面を有し、この断面の一辺を物体060の表面と平行な外側面とし、かつこの外側面に対向する頂部を物体側に位置するよう配置されているバー020と、互いに間隔を置いて配置された外周部032における縁部034であって、この縁部が物体の表面に平行な水平面部とバーに面する側に設けられ水平面部に垂直な垂直面部038とを備えた紐050を担持するための内側下端部を有してなる縁部034とを有し、縁部034の下端部には物品060の表面に平行な水平面部036、内方に面しかつ物体060に対して垂直な垂直面部038を備えている。水平面部036には、梨地状にあるいは細かな凹凸を有する表面にされていて、図示しない滑り止めが設けられている。
紐締バックル010は、物品に巻きつけたベルトの両端部各々を本体030の下方から挿入し各バー020に巻き付ける所謂ベルト050掛けし、そのリターン側ベルトを縁部034の下方を通して本体030の両外方に引き出して、このリターン側ベルトを引っ張り、そのベルト表面が接触する縁部034の下端水平面部036の滑り止めで巻きベルトの緩み戻りを防止しようとするものである。
【特許文献1】特開2003−9910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記紐締バックルは、前記リターン側紐を両外方に引っ張り、物品を強く締め付けなければ、リターン側紐の表面と、縁部034の下端水平面部036の滑り止めとの圧接による、紐の緩み戻りを防止することが出来ない。またこの紐による締め付け解除は、紐締バックル自体の一部を物品から離すなどして、リターン側紐の表面と前記滑り止めとの圧接を緩めなければならない煩雑さを伴うものである。
本発明は、簡単な機構によりバックル自体を動かすことなく、長尺緊締体掛けした回動アームのワンタッチ操作で、長尺緊締体変更軸に二重に巻き付けた長尺緊締体を強圧接・迅速弛緩することにより物品の締め付けとその解除を容易かつ確実に行う長尺緊締体の締バックルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、この課題を解決した優れた長尺緊締体の締バックルである。その特徴とするところは、つぎの(1)〜(3)の通りである。
(1)、被締め物体の表面に裏面を当接するバックル枠体にその側方から長尺緊締体の端部を挿入して軸に巻き付ける長尺緊締体の締バックルにおいて、前記バックル枠体の片側に、又は両側各々に、前記長尺緊締体の端部の挿入方向と直交する長尺緊締体変更軸を設けると共に、一端部を前記長尺緊締体変更軸の両側に回転可能に枢着しバックル表面側で回動可能にした一対の回動アームを設け、前記一対の回動アームの他端部に前記長尺緊締体変更軸に対して平行に長尺緊締体掛け桿を設け、前記回動アームを長尺緊締体変更軸を中心に長尺緊締体挿入側に回動移動可能にし、長尺緊締体の端部をバックル枠体の側方から挿入して、その表面を前記長尺緊締体変更軸の周面の一部に巻いて方向変更し、その後、前記長尺緊締体掛け桿の周面の一部に巻いてループ掛けし、次いで前記長尺緊締体変更軸の周面と、先に巻いた部分の表面との間に挿入して二重掛け状態に巻き付けて挿入側に引き出し(リターン側長尺緊締体)被締め物体を締めた後に回動アームを長尺緊締体の挿入側に倒し回動することを特徴とする長尺緊締体の締バックル。
(2)、バックル枠体に、回動アームを固定するストッパーを設けた前記(1)に記載の長尺緊締体の締バックル。
(3)、被締め付け物体の表面に裏面を当接するバックル枠体にその側方から長尺緊締体の端部を挿入して軸に巻き付ける長尺緊締体の締バックルにおいて、前記バックル枠体の片側に、又は両側各々に、前記長尺緊締体の端部の挿入方向と直交する長尺緊締体変更軸を設けると共に、この長尺緊締体変更軸に平行関係で且つバックルの長尺緊締体を挿入する側のバックル表面寄りにアーム後端の回動軸を枢着してバックル表面側で回動可能にした一対の回動アームを設け、前記一対の回動アームの先端部に前記長尺緊締体変更軸に対して平行に長尺緊締体掛け桿を設け、回動アームをアーム回動中心軸を中心に長尺緊締体挿入側に回動移動可能にし、長尺緊締体の端部をバックル枠体の側方から挿入して、その表面を前記長尺緊締体変更軸の周面の一部に巻いて方向変更し、その後、前記長尺緊締体掛け桿の周面の一部に巻いてループ掛けし、次いで前記長尺緊締体変更軸の周面と、先に巻いた部分の表面との間に挿入して二重掛け状態に巻き付けて挿入側に引き出し(リターン側長尺緊締体)被締め付け物体を締めた後に回動アームを長尺緊締体の挿入側に倒し回動して、長尺緊締体変更軸の外側巻きで長尺緊締体掛け桿に亘る直線状の長尺緊締体の位置をアーム後端の回動軸位置より被締め付け物体側にすることを特徴とする長尺緊締体の締バックル。
【発明の効果】
【0005】
本発明の長尺緊締体締バックルは、前記の簡単な機構によりバックル自体を動かすことなく、長尺緊締体掛けした回動アームのワンタッチ操作で、長尺緊締体変更軸に二重に巻き付けた長尺緊締体を強圧接・迅速弛緩することにより物品の締め付けとその解除を容易かつ確実に行うものである。
即ち、バックル枠体内に挿入した長尺緊締体の端部を長尺緊締体の変更軸に掛けてバックル表面側に変更し、バックル表面側に変更した長尺緊締体の端部を長尺緊締体掛け桿に長尺緊締体変更軸と同様の巻き方向に掛けてループを形成した後、長尺緊締体変更軸から変更された長尺緊締体部の裏面と前記長尺緊締体変更軸の周面間に挿入して、二重掛け状態に巻き付け、そして挿入側に引き出してリターン側長尺緊締体として物品を締め付けるものであり、この締めた後、回動アームを長尺緊締体の挿入側に倒し回動してバックル枠体と平行又はバックル裏面側に過回動させた状態にして該ループを更に緊張して二重掛け部を更に強く圧接して長尺緊締体の戻り弛緩のない物品緊締を確実に維持する。またこの状態は回動アームをバックル前面側に単に起こすのみで簡単に解除することが出来るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明において、長尺緊締体とは、ベルト状、帯状、ロープ、紐状などで柔軟で引張りに強い可撓性があるものを言い、実施例では単に長尺緊締体、ベルト、帯、ロープ、紐と言う。
本発明において、バックル枠体は、緊締する物品の形状に沿ったフラットな或いは長尺緊締体の引っ張り方向に湾曲した矩形型、又はそれに類似の形状のものでよい。
本発明において、長尺緊締体の変更軸は、回転軸型、棒型等にし、バックル枠体と一体に成型したものでもよい。
本発明において、特徴(1)の長尺緊締体掛け桿は、回転軸型、棒型等にし、回動アームはベルト変更軸と一体型に成型したものでもよい。また特徴(3)の長尺緊締体掛け桿は回転軸型、棒型等にし、回動アームと一体型に成型したものでもよい。
本発明において、特徴(1)と(3)の回動アームは、バックル枠体の前面側に突出した位置からバックル枠体に平行又は略平行な関係位置に倒し回動可能に配置する。また回動アームはバックル枠体の前面側に突出した位置からバックル枠体側への倒し回動とその戻し回動が迅速に行われるように引っ張りワイヤー、操作アームや取っ手又はそれに代わる適宜な操作具を付設してもよい。また特徴(3)の一対の回動アームは後端部の各回転軸をバックル枠体に設けて長尺緊締体掛け桿のように軸間を連結しないでフリーにして回動アームの倒し回動固定に影響を与えないようにする。
本発明の特徴(1)おいて、回動アームの倒し回動後の位置固定維持は、この時の回動アームがバックル枠体内で枠体と平行関係にあれば略安全であるが、更に安全を期して、ストッパーを設置することが好ましい。ストッパーとしては、回動アーム側部にロックボールを半球部が出入り可能に装備し、バックル枠体内面に該ロックボールの半球部を出入り可能に収容する凹陥部を形成したり、ラチェット機構のフックを回動アームに設け、フックの係合ピンをバックル枠体に設ける等その他適宜な公知の簡易ロック・解除機構を採用すればよい。特徴(3)おいては、前記の如く回動アームを倒し回動した際に、長尺緊締体変更軸の外側巻きで長尺緊締体掛け桿に亘る直線状の長尺緊締体の位置が、アーム後端の回動軸位置より被締め付け物体側になる自己締結保持型のため、ストッパーを設置しなくても被締め付け物体からの異常な振動あるいは直接外力が回動アームに作用しない限り被締め付け物の締結状態を健全に維持できる。
以下実施例を詳述するが本発明の前記特徴(1)、(2)の実施例は実施例1〜実施例6であり、前記特徴(3)の実施例は実施例7である。
【実施例1】
【0007】
実施例1の長尺緊締体の締バックルは、長尺緊締体としてベルトを対象とするベルトの締バックル例である。
図1は、実施例1のベルト締バックル自体を鳥瞰図で示す。
図2は、図1に示す実施例1のベルト締バックルを用いてのベルト装着・ベルト締状態を示す側断面説明図である。
図3は、図2に示すベルト装着・ベルト締状態から回動アームを回動させてバックル枠体内に収容しロックした状態を示す側断面説明図である。
実施例1は、図1に示すベルト締バックル100を用いて、バックル枠体101の一側に設けた横軸101bにベルト端部201を固定装着し、バックル枠体101の他側にベルト200の他端部を挿入ベルト202として巻き付けるタイプである。
【0008】
図1〜図3において、ベルト締バックル100は、バックル枠体101の中央部に、前記ベルト200の他端部202の挿入方向202aに直交するベルト変更軸301を固定設置し、ベルト変更軸301の両側に一対の回動アーム302の一端部を回転可能に枢着し、前記一対の回動アーム302の他端部間に前記ベルト変更軸301に対して平行にベルト掛け桿303を設け、回動アーム302をベルト変更軸301を中心に回動してバックル枠体101と回動ア−ム302が平行又は略平行状態となるようにバックル枠体101内に収容移動可能にしたものである。図中800sは回動アームストッパーであり、回動ア−ム302のバッックル裏面側への回動をここで阻止する。
この構成により、バックル枠体101内への挿入ベルト202をベルト変更軸301に掛けてバックル前面側に変更し、バックル前面側に変更した変更ベルト203をベルト掛け桿303にベルト変更軸301と同様の方向に掛けた後リターンベルト204とし、変更ベルト203とリターンベルト204によりループを形成し、更にベルト変更軸301から変更された変更ベルト部203の裏面203aと前記ベルト変更軸301の表面間に挿入して該ループの元部になる部分を前記ベルト変更軸301におけるベルトの方向変更側の周面に位置させて図示の如く二重掛け状態に巻き付ける。そして反挿入側方向202bに引き出してリターン変更ベルト205とし、これを引っ張ることにより物品Bをベルト200により締める。この後、回動アーム302をバックル枠体101内に回動収容して図3に示すように、ベルト掛け桿303の軸心を、ベルト200の物品B締め引っ張り方向線200a上に置いて、尚且つ棒状のストッパー401を回動アーム302のピン孔302aとバックル枠体101のピン孔101aに挿入して、回動アームの起き上がりを止める。
【0009】
これで挿入ベルト掛け桿303からのリターンベルト204は、ベルト変更軸301を経由して反挿入側202bに引き出されてリターン変更ベルト205になる際、ベルト202からベルト変更軸301経由でベルト203に至るベルトと、ベルト変更軸301との間に挟みこまれた二重巻き状態にすることで、挟み込まれたベルトの表裏両面に発生する強力な面接触摩擦抵抗により、ベルト200の緩みを完全に抑止してベルト200の物品B緊締を確実に維持するものである。またこの状態は、ストッパー401を引き抜くことにより、回動アーム302をバックル前面側に単に起こすのみで簡単に解除することが出来るものである。
【0010】
この作用効果についての原理を、図1〜図9とともに以下に詳細に説明する。以下の原理説明は、長尺緊締体としてベルトの例であるが、実施例6に紹介する紐の締バックルも同様の原理である。尚、図6〜図9に記載のベルト締バックルの展開角度ζとは、ベルト掛け桿303の軸心とベルト変更軸301の軸心とを結ぶ直線と、ベルト200の物品B緊締方向と平行で且つベルト変更軸301の軸心を通るバックル枠体101の中心線Xとが成す角度を言う。
図1、図2、図3に示すベルト掛け桿303とベルト変更軸301におけるベルト巻き状態の拡大を図4の(1)と(2)に示す。
図4(1)と(2)において、点P1〜P2の間は変更軸301にベルトを二重に巻き付けていることに特徴がある.そのベルト二重部の角度は,図1〜図3、図4(1)に示す回動アーム302の角ζを,点Oを中心に回動アーム302を回動させることで自由に変えることができる.ベルトの張力をTとすると,ベルト締バックル両端での張力はT1とT4である.ベルト202と軸301及び303との摩擦係数をμ,ベルト同士の摩擦係数をμbとする.点Pi〜点Pjまでの巻き付け角をθijで表す.T1とT4の関係は,T1>T4として解析すると数1で表わされる.
【0011】
【数1】
数1は分数の形であるので,分母が0となる条件ではT4の係数は無限大になる.そのことはベルトがバックルにより完全にロックされることを意味する.条件を簡単にするため数1においてμ=0とすると,数2となる.
【0012】
【数2】
μ=0 とすることは,図1のベルト変更軸301とベルト掛け桿303を,例えば転がり軸受で置き換えた状態と等価である.数3を満足する条件下では、数2の分母が0になるめT4の係数は無限大になる.そのことはベルト同士の摩擦力のみでベルトを完全に固定できることを意味する.
【0013】
【数3】
図5に数2の条件下でベルトが固定できる範囲を示している。例えばμb=0.3のベルトでは,ベルト二重巻き付け角を130°以上にすればベルトは完全に固定できるが,130°未満ではベルトは完全には固定されずに滑る可能性のあることを意味する。
【0014】
図6はベルト202と軸301との摩擦係数μはμ=0,ベルト同士の摩擦係数はμb=0.1〜0.3の範囲で変化させた場合,数1で計算したベルト締バックルの展開角度ζに伴うベルト張力比T1/T4の変化を示している.ベルトを固定した状態に対応する展開角度ζの小さい範囲では,摩擦係数μbが大きくなると,ベルト張力比T1/T4は急増して完全締結状態に至ることが分かる.計算を簡単にするため,μ=μbとして図6と同様に数1による計算結果を図7に示す.ベルト202と軸301との間に摩擦力があれば,図6に示した展開角度より大きい角度でもベルト張力比の大きいことが分かる.ベルトの摩擦係数は通常0.2以上あるので,発明したベルト締バックルで固定できないベルトはほとんどないと思われる.
数1はT1>T4の条件で得られた解析式であるが,ベルトを締め付ける場合にはT4側を引張るためにT4>T1となる.そこでT4>T1の条件下で解析すると,
数4となる。
【0015】
【数4】
この数4よりT4/T1≧1であることが分かる.数4においてμ=μb=0とすればT4=T1となる.図6と対応させるため,ベルト202と軸301との摩擦係数μ=0,ベルト同士の摩擦係数μb=0.1〜0.3の範囲で数4で計算した結果を図8に示す.縦軸のベルト張力比は図6と図8では逆になっていることに注意されたい.例えばT4側を強く引張った場合の結果である図8では,μb=0.3,ζ=60°の場合,T4側の張力として張力T1の2.75倍以上与えると,ベルト202と軸301との間に滑りが生じることを意味している.一方,T1>T4の条件下での解析結果である図6では,μb=0.3でζ=60°の場合,T1/T4=15であり,展開角度をさらに小さくすればT1/T4は急増して完全締結状態に至る.すなわち数1と数4を比較すると,本例のベルト締バックルは,ベルト二重部の内側ベルトであるT4側を引張れば常に締め付けることが可能でありながら,ベルト二重部の外側ベルトに大きな荷重T1が作用しても強固に固定できることになる.また固定力はベルト締バックルの展開角度ζに非常に敏感であるので,展開角度ζを変えることで自由に締めたり緩めたりすることが可能である。
図7と対応させるため,μ=μb=0.1〜0.2の範囲で数4を使い計算した結果を図9に示す.図8と同様に縦軸のベルト張力比は図7と図9では逆である.μによる摩擦力が加算されるため,図8と比較して図9のT4/T1の値は大きくなる.例えば図8ではμb=0.2,ζ=60°の場合,T4/T1=2.05であるが,図9ではT4/T1=6.4と約3倍になる.しかしながら図7のように完全締結状態にはならないので,大きなT4を与えさえすれば,ベルト202をさらに強く締め付けることができる。
数4はベルト同士やベルトと軸とが理想的に密着した状態での解析式である.ところが一般にはベルトは弱い弾性体であるため,ベルト202の張力の弱まれば,ベルト同士やベルト202と軸301との間に僅かな隙間ができる.そのような場所では摩擦力は全く発生しないので,ベルト張力が0の状態からベルト締バックルで締め付ける場合,図8や図9で示した張力比より小さい張力比でもベルトは締め付けられることになる.
【実施例2】
【0016】
実施例2は、図10〜図12に示すベルト締バックル例であり、図1の実施例1を左右対称に一体的に組み合わせた例である。
図10〜図12において、本例は、バックル枠体11の両側からベルト20の両端部22a,22bの各々を巻き付けてベルト20を物品Bの表面に締めて回動アーム32a、32bをロックするタイプのベルト締バックル10である。図11は、バックル枠体11の両側からベルト20の両端部を巻き付け・締めた状態を示す側断面説明図であり、図10はそのモデル的鳥瞰図であり、図12はベルト20を締めた後に回動アーム32a、32bを回動してバックル枠体11内に収容しロックした状態を示す側断面説明図である。
即ち本実施例2は、ベルト締バックル10のバックル枠体11内の左右に、ベルト変更軸31a、31b、回動アーム32a、32b、ベルト掛け桿33a、33bを各一対設置したものであり、実施例1と同一機能部分には同一名称を付してある。
図10〜図12において、ベルト締バックル10は、バックル枠体11の中央部に、ベルト挿入方向に直交する平行な一対のベルト変更軸31a、31bを設け、各ベルト変更軸31a、31bの両側各々に、回動アーム32a、32bの一端を回転可能に枢着し、回動アーム32a、32bの各他端部間に、前記ベルト変更軸31a、31bに対して平行にベルト掛け桿33a、33bを設け、各対の回動アーム32a、32bを当該ベルト変更軸31a、31bを中心に回動してバックル枠体11の前面側への突出回動とバックル枠体11の横枠と平行状態でバックル枠体11内に収容可能にしたものである。各々バックル枠体11は、両側からベルト20の両端部22a,22bを挿入ベルトとしこれをベルト変更軸31a、31bとベルト掛け桿33a、33bに巻き付ける。以下のベルトの巻き付け操作は、実施例1と全く同一である。
つまりベルト20の両端部22a,22bをベルト掛け桿33a,33bにループ掛けし、このループの元部になる部分をベルト変更軸31a,31bのベルトを方向変更する側に位置させて、その周面に二重掛け状態とする巻き付け操作は、両該端部22a,22bを挿入ベルト22a,22bとしこの挿入ベルトをバックル枠体11内のベルト変更軸31a,31bに掛けてバックル前面側に変更して変更ベルト23a,23bとし、この変更ベルト23a,23bをベルト掛け桿33a,33bにベルト変更軸31a,31bと同様の方向に掛けてリターンベルト24a,24bとし、これをベルト変更軸31a,31bから変更された変更ベルト23a,23bの裏面と前記ベルト変更軸31a,31bの表面間に挿入して反挿入側方向に引き出してリターン変更ベルト25a,25bとし、これを引っ張ることにより物品Bをベルト20により締める。この後、回動アーム32a、32bを図12に示すようにバックル枠体11内に回動収容して且つ棒状のストッパー(図示していないが実施例1のストッパー401と同一のもの)を回動アーム32a、32bのピン孔32c,32dとバックル枠体11のピン孔11a,11bに挿入して、回動アーム32a、32bの起き上がりを確実に止める。
【0017】
これで挿入ベルト掛け桿33a,33bからのリターンベルト24a,24bは、ベルト変更軸31a,31bを経由して反挿入側方向に引き出されてリターン変更ベルト25a,25bになる際、挿入ベルト22a,22bからベルト変更軸31a,31b経由で変更ベルト23a,23bに至るベルトと、ベルト変更軸31a,31bの表面との間に挟みこまれることで、挟み込まれたベルトの表裏面に発生する強力な面接触摩擦抵抗により、その滑りを阻止し、締ベルト20の緩みを完全に抑止してベルト20により物品Bを確実に緊締維持するものである。またこの状態は、前記ストッパーをピン孔32c,32dとピン孔11a,11bから引き抜くことにより、回動アーム32a、32bをバックル前面側に単に起こすのみで簡単に物品Bの緊締(締め付け)を解除することが出来るものである。
以上の図10〜図12に示す本例のベルト締バックルは、図13の(1)に示すように荷物Nの梱包用などに利用できる.図13の(2)は図13の(1)のベルト締バックルを示す拡大斜視図である。
【実施例3】
【0018】
実施例3のベルト締バックル例は、図14のモデル鳥瞰図に示し、実施例1のベルト締バックルを桝枠Mの四方向に配置して十字型に組み合わせて結合したものであるが、実施例2のベルト締バックルをクロス配置した形式のものでもある。この為、本例は実施例2と同一部分は、同一符号を付してその詳細は省略する。
【実施例4】
【0019】
実施例4のベルト締バックルは、図15のモデル鳥瞰図に示し、実施例2のベルト締バックルの変形例である。ベルトの締め付け方向を90度に変更するため,斜めに連結棒Rで連結することで,実施例3で示す2箇所のベルト締バックルを省略することができるものである。本例も実施例2と同一部分は、同一符号を付してある。
連結棒Rの利用法は、例えば図15の左側のベルト締バックルに巻き付けた後、回動アーム32aを枠体11内に回動収容することでベルトをベルト締バックルに固定する。その後ベルト22aを物品に廻して一旦連結棒Rに中継巻きすることでベルトの方向を変更させて、再び物品に廻して図15の上側のベルト締バックルに巻き付ける等に利用する。
【実施例5】
【0020】
実施例5のベルト締バックルは、図16のモデル鳥瞰図に示し、これも実施例2のベルト締バックルの変形例である。本例のベルト締バックルは、バックル枠体同士をリンクして折れ曲げ可能にして、角や表面が球や円筒など曲面を有する物品をベルトで固定する際に利用するベルト締バックルで、中央部を軸連結構造の連結機構RRで連結し物品の表面形状に合わせて中央で折れ曲がる構造にしたものである。
本例も実施例2と同一部分は、同一符号を付してその詳細は省略する。
【実施例6】
【0021】
実施例6の長尺緊締体の締バックルは、長尺緊締体として紐を対象とする紐の締バックル例であり、図17にそのモデル鳥瞰図を示す。
図17の(1)は紐の締バックル例のモデル鳥瞰図を示し、その矢視A-Aからの側断面図で紐を巻き付けた状態を(2)に示す。
実施例6の紐の締バックル1は、バックル枠体2の一側に設けた溝M1付の横軸2aに紐3の端部3eを固定装着し、バックル枠体2の他側に紐3の他端部3tを挿入紐として巻き付けるタイプであり実施例1のベルト用を紐用に変形した例である。
図17の(1) (2)において、紐の締バックル1は、バックル枠体2の中央部に、紐3の他端部3tの挿入方向4aに直交する溝M2付の紐変更軸5を固定設置し、紐変更軸5の両側に一対の回動アーム6の一端部を回転可能に枢着し、前記一対の回動アーム6の他端部間に前記紐変更軸5に対して平行に溝M3付の紐掛け桿7を設け、回動アーム6を紐変更軸5を中心に回動してバックル枠体2と回動ア−ム6が平行又は略平行状態となるようにバックル枠体2内に収容移動可能にしたものである。
この構成により、バックル枠体2の一側から裏側(物品Bの表面間)に挿入した紐3の他端部3tは、紐変更軸5の溝M2に掛けてバックル前面側(表側)に変更し、次いで紐掛け桿7の溝M3に紐変更軸5と同様の方向に掛けて紐変更軸5側にリターンさせ、次いで前記紐変更軸5の溝M2に挿入してその表面に直に巻き付け、反挿入側方向4bに引き出し、これを引っ張ることにより物品Bを紐3により締める。この後、回動アーム6をバックル枠体2内に回動収容して紐掛け桿7の軸心を、紐3の物品B締め引っ張り方向に置いて、尚且つ棒状のストッパー90等を回動アーム6のピン孔8とバックル枠体2のピン孔9に挿入して、回動アーム6の起き上がりを止める。
【0022】
これで紐3の他端部3tは、該紐変更軸5の溝M2で二重になり、この二重の紐3部の表裏面に発生する強力な面接触摩擦抵抗により、紐3の緩みを完全に抑止して紐3の物品B緊締を確実に維持するものである。またこの状態は、前記ストッパー90を引き抜くことにより、回動アーム6をバックル前面側に単に起こすのみで簡単に解除することが出来るものである。
【実施例7】
【0023】
本例は、前述のバックルを更に改良した前記特徴の(3)に記載の「自己締結保持型の長尺緊締体の締バックル」である。
図18〜図26と共に詳細に説明する。
本例の「自己締結保持型の長尺緊締体の締バックル」の1例を、図18に概略図を示す.図18ではバックルの構造を分かり易くするためベルトを省略して描いている.図19は図18の矢視A−Aからの縦断面図であり,ベルト(長尺緊締体)900の一端部を巻きつけた状態は実線で描いている.ベルト締結時である回動ア−ム700を閉じた状態は二点鎖線で描いている.
図18と図19において、ベルト900の締バックルは、被締め物体の表面に裏面を当接するバックル枠体800の片側に前記ベルト900の端部の挿入方向と直交する長尺緊締体変更軸710を設けると共に、この長尺緊締体変更軸710に平行関係で且つベルト900を挿入する側のバックル表面寄りにアーム後端の回動軸704を枢着してバックル表面側で回動可能にした一対の回動アーム700を設け、前記一対の回動アーム700の先端部に前記長尺緊締体変更軸710に対して平行に長尺緊締体掛け桿702を設けると共に回動ア−ムストッパ−800sを設け、回動アーム700をアーム回動軸704を中心にベルト挿入側に回動移動可能にし、ベルト900の端部をバックル枠体800の側方から挿入してその表面を前記締体変更軸710の周面の一部に巻いて方向変更し、その後、前記長尺緊締体掛け桿702の周面の一部に巻いてループ掛けし、次いで前記長尺緊締体変更軸710の周面と先に巻いた部分の表面900aとの間に挿入して二重掛け状態に巻き付けて挿入側に引き出し(リターン側長尺緊締体)被締め付け物体を締めた後に回動ア−ム700を倒し回動させた際に、その長尺緊締体掛け桿702と長尺緊締体変更軸710間にあるベルト900が回動ア−ム700の軸芯705位置からバックル裏面側に外れた位置に来て回動ア−ム700の戻り回転を阻止する関係にするのである。図中801はバックル枠体800に設けたベルト他端部を巻き付け固定する軸である。
本例の締バックルは、長尺緊締体変更軸710と一対の回動アーム700と長尺緊締体掛け桿702と回動ア−ムストッパ−800sをバックル枠体800の片側に1セット設けたが、バックル枠体800の両側各々1セットづつ設けてもよい。
即ち、この締めバックルは回動ア−ム700の回転軸704の中心705と,長尺緊締体変更軸710の軸中心711とがオフセットしていることに特徴がある。
図20は自己締結保持型の締バックルを解析するための力学モデルである.xy座標の原点Oを長尺緊締体変更軸710(以下主軸710とも言う)の軸心711とする.x軸はバックル枠体800と平行にとる.回動ア−ム700の長尺緊締体掛け桿702(以下副軸702とも言う)の中心をO1,回動ア−ム700の回転軸704の中心705をO2とする.点O2はx軸から角度φ,原点Oから距離L1の位置にある.主軸710の半径をR,副軸702の半径をrとする.L2は軸心705から副軸702の軸心701までの長さである.L1とL2の為す角をβとする.T1,T2,T3,T4はベルト張力でありT1>T4とする.角度ζはx軸と,直線O−O1のなす角度であり,αはx軸と回動ア−ムの軸中心を結ぶ直線L2のなす角度である.Lは主軸710中心Oから副軸702の中心O1(701)までの長さであり,角度αあるいはζに伴いLは変化する.
長さLはL1,L2,α,φの関数であり数5で表される.角度ζはL1,L2,α,φの関数であり数6で表される.
【0024】
【数5】
【0025】
【数6】
実際にベルトを締結する際は,回動ア−ム700をバックルの表面前方側に突出位置させた所謂回動アームを開いた状態(αの大きい状態)で図19に示すようにバックルにベルトを通し,張力T4を加えることでベルトの弛みを取り,図19に二点鎖線で描いた状態となるように回動ア−ム700を回動させれば良い.アームの回動に伴いベルトは強力に締め上げられ主軸710に強く巻きつけられる.この回動に伴い増加する副軸702に巻きつけられたベルトの張力T2,T3は,回動ア−ム700の回転軸(ピン支持O2)により支持されるが,ベルト張力T2,T3によるア−ム回転軸中心O2回りのトルクMはここO2では支持できない.ベルト張力T2,T3によるトルクMは,数7で表される.
【0026】
【数7】
ここでc2,c3は主軸710と副軸702間に亘るループ状のベルトと、主軸710と副軸702の周面との接触境界点であるP2,P3,P4,P5の位置とともに変わる変数である.数7をベルト張力T1によるO点回りのトルクで除して無次元化したトルクを数8のNで表わす.
【0027】
【数8】
一例として,ベルト張力T1,T4がx軸方向の場合,φ=45°,L2/L1=2,L1/R=2,R=r,μ=μbとして数8を計算した結果を図21に示す.ここでμはベルトと主軸710と副軸702の周面との摩擦係数,μbはベルト同士の摩擦係数である.
図21から分かるように,摩擦係数による僅かな違いはあるものの,回動アーム700の倒し回動角度αを小さくしていくと,回動トルクの符号がプラスからマイナスに変化する.図21ではα≒16°を境に回動トルクの方向が逆転する.このことはベルトを締結しようとしてαを小さくするためのトルクを回動ア−ムに加えていくと,数7で表わされるトルクMが0となる臨界角度αcを境に,αをさらに小さくする方向のトルクになることを意味する.しかしながら図18または図19から分かるように,回動ア−ム700はバックル裏面側に設けた回動ア−ムストッパ−800sに当接して停止する.回動ア−ムストッパ−800sはアームトルクをバックル枠体に伝える役割をしており,ア−ムストッパ−800sが無ければアームトルクはバックルを押上げようとする.停止状態ではベルト張力により回動角度αをさらに小さくしようとするトルクMが回動ア−ムストッパ−800sに対し常に作用しているため,締結状態は安定して維持される.そのため一般のベルト締結具にあるようなラチェットや緩み止めストッパ−などの機構は不要となる.ベルトを締結状態から解除するには,回動ア−ム700にαを大きくする方向の外部トルクを最初だけ与えればよい.すると回動トルクの符号の逆転する臨界角度αcを境に,ベルト張力によるトルクが締結状態を解放する方向に作用することで締結状態は急激に解除される.このように回動ア−ム700を単に回動させるだけで,ベルトの締結と解除をワンタッチで切り変えることができる.なお,締結状態の解除に必要な初期トルクは,図19に示すように,副軸702の直ぐ下(バックル表面側)にある引き出しベルト端部を上に引き上げて回動ア−ム700を僅かに戻り回動させるだけで良いため非常に簡単である.このバックルは極めて簡単な操作でベルトの確実な緊締ロックとその解除ができるため,あらゆる被締め物体の梱包や搬送荷造りベルト用、靴紐・ベルト締め用等々他方面に利用することができる.
本実施例7の締めバックルにおける、両端のベルト張力比T4/T1を計算した結果の一例を図22に示す.計算条件は図21と同じである.回動アームの倒し回動角度αの減少とともにベルト張力比は減少して負の値となるが,ベルトでは圧縮力を負担できないため,張力比が負であることはベルトは完全ロック状態になったことを意味する.例えば図22のμ=μb=0.15の場合,α<105°ではベルトはバックルにより完全ロックされたことを表わす.図22においてベルト張力比T4/T1=0になる角度αが,図21で示した無次元ア−ム回動トルクN=0になる角度より大きいことが,完全ロック状態を安定して維持できる必要条件である.たとえばμ=μb=0.15の場合,図21において、N=0となる角度αを読むとα≒16°であり,図22でT4/T1=0の角度αを読むとα=105°となるため必要条件は十分に満足されている.市販のベルトの摩擦係数は通常μ>0.2であるため,ほとんどこの必要条件は満たされる.そのため本例の締めバックルを使えばベルトを完全にロックすることができる.
図23は、回動ア−ムの倒し回動角度αに対するバックル枠体内のベルト長さを計算した一例である.角度αの減少に伴いベルト長さは長くなり,最大値に達した後は少し減少することが分かる.このことは回動ア−ムの倒し回動角度αを小さくするとベルトはバックル内に巻き上げられることを意味しており,完全ロック状態となった以降もさらにαを小さくすると,それに対応するバックル内のベルト長さの増分はベルト或いは被締結体の弾性変形によって補われることでベルトには大きな張力が発生する.
図24は回動ア−ムを簡略化した例を示す.図25は回動ア−ム700をバックル枠体の外側から嵌め込むようにした変形例である.図26はバックル枠体800を湾曲させた例である.このような曲線形状のバックルを例えば靴を固定する紐やベルトに利用すれば,一般に使われている靴の結び紐やマジックベルトに比べて遥かに簡単でしかも確実に靴を足に固定することができる.一方,靴を脱ぐ際には回動ア−ムを回動するだけで楽に靴を脱ぐことができる.図26では大きなベルト張力が作用した場合には回動ア−ム自身が湾曲側に変形して撓むことで,過度のベルト張力が作用しないようにする機能もある。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の長尺緊締体の締バックルは、前記の簡単な機構によりバックル自体を動かすことなく、長尺緊締体掛けした回動アームのワンタッチ操作で、長尺緊締体変更軸に二重に巻き付けた長尺緊締体を強圧接・迅速弛緩することにより物品の締め付けとその解除を容易かつ確実に行うものである。
これにより各種物品の梱包、荷造り、荷役作業、貨物の固定、靴紐、レジャー用品、住宅や構造物などの簡易的地震補強対策なども簡単迅速にしかも安価に実施することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の長尺緊締体の締バックルの実施例1としてベルト締バックル例を示す鳥瞰図である。
【図2】図1に示す実施例1のベルト締バックルを用いてのベルト装着・ベルト締状態を示す側断面説明図である。
【図3】図2に示すベルト装着・ベルト締状態から回動アームを回動させてバックル枠体内に収容した状態を示す側断面説明図である。
【図4】本発明の長尺緊締体の締バックルの原理をベルト締バックルを例に説明するものであり、回動アームとベルト変更軸とこれらへのベルト巻き付け状態を(1)に示し、説明のため径を拡大したベルト変更軸にベルトを部分的に二重巻きに巻き付けた状態を(2)に示す拡大説明図である。
【図5】図4におけるベルト二重部のベルト同士の摩擦力のみでベルトを固定する際のベルト同士の摩擦係数とベルト二重巻き付き角度の関係を示すグラフである。
【図6】数1によるベルト締バックルの展開角度に伴うベルト張力比の変化を示すグラフである。
【図7】図6と同様に数1によるベルト締バックルの展開角度に伴うベルト張力比の変化を示すグラフである。
【図8】数4によるベルト締バックルの展開角度に伴うベルト張力比の変化を示すグラフである。
【図9】数4によるベルト締バックルの展開角度に伴うベルト張力比の変化を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例2のベルト締バックルで作成したモデルの鳥瞰図である。
【図11】本発明の実施例2のベルト締バックルでベルト装着・ベルト締状態を示す側断面説明図である。
【図12】図11に示すベルト装着・締状態から一対の回動アームを両サイドに回動させてバックル枠体内に収容した状態を示す側断面説明図である。
【図13】実施例2のベルト締バックルを荷物の梱包に適用したモデルの鳥瞰図である。
【図14】実施例2を四方向ベルト対応に変形した実施例3のモデルの鳥瞰図である。
【図15】実施例2を90度の2方向対応に変形した実施例4のモデルの鳥瞰図である。
【図16】実施例2の変形例で、折れ曲がり、球面、円筒などの曲面を有する物品をベルトで固定する際に利用するベルト締バックルで中央部を回転軸で連結し折れ曲がる構造にした実施例5のモデルの鳥瞰図である。
【図17】実施例6の紐の締バックル例のモデルの鳥瞰図を(1)に示し、その矢視A-Aからの側断面図で紐を巻き付けた状態を(2)に示す。
【図18】実施例7の自己締結保持型長尺体バックルを示す斜視説明図である。
【図19】図18の矢視A−Aからの縦断面説明図である。
【図20】実施例7の自己締結保持型長尺体バックルの力学モデルを示す。
【図21】実施例7の回動ア−ムの回動に伴う無次元回動トルクNの変化を示すグラフである。
【図22】実施例7の回動ア−ムの回動に伴うベルト張力比の変化を示すグラフである。
【図23】実施例7の回動ア−ムの角度αとバックル内ベルト長の関係を示すグラフである。
【図24】実施例7の回動ア−ムを丸棒で製作した変形例を示す斜視説明図である。
【図25】実施例7の回動ア−ムを丸棒で製作した変形例(外側から嵌め込むタイプ)を示す斜視説明図である。
【図26】実施例7のバックルのフレ−ムと回動ア−ムを曲線にした変形例を示す斜視説明図である。
【図27】従来例を示す側断面である。
【符号の説明】
【0030】
10 100 ベルト締バックル
11 101 800 バックル枠体
200 900 ベルト
202 ベルトの他端部
301 ベルト変更軸
32a、32b 302 700 回動アーム
303 702 ベルト掛け桿
31a、31b 710 ベルト変更軸
33a、33b ベルト掛け桿
1 紐の締バックル
800s 回動アームストッパー
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品をパレットに、あるいはトラックやコンテナの荷台に固定するのに用いる荷締めベルトやベルト長さ調節等に用いる長尺緊締体の締バックルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
市販の例えばベルトの長さを調整する器具はバックルと呼ばれ、ベルトを固定する・緩める、のようにオンとオフの機能しかない。また、経験的に摩擦を応用して固定する方法である。
最近、種々の用途のものに使用される紐、ベルト等を締結することができるとともに、バックル自身の位置設定を容易に行うことができる紐締バックルが特許文献1により提供された。
特許文献1に紹介された紐締バックルを図27に示す。図27において、上記紐締バックル010は、開口部035を与えるように一体に形成され所定の厚みを有する外周部032を備えた本体030と、三角形状の断面を有し、この断面の一辺を物体060の表面と平行な外側面とし、かつこの外側面に対向する頂部を物体側に位置するよう配置されているバー020と、互いに間隔を置いて配置された外周部032における縁部034であって、この縁部が物体の表面に平行な水平面部とバーに面する側に設けられ水平面部に垂直な垂直面部038とを備えた紐050を担持するための内側下端部を有してなる縁部034とを有し、縁部034の下端部には物品060の表面に平行な水平面部036、内方に面しかつ物体060に対して垂直な垂直面部038を備えている。水平面部036には、梨地状にあるいは細かな凹凸を有する表面にされていて、図示しない滑り止めが設けられている。
紐締バックル010は、物品に巻きつけたベルトの両端部各々を本体030の下方から挿入し各バー020に巻き付ける所謂ベルト050掛けし、そのリターン側ベルトを縁部034の下方を通して本体030の両外方に引き出して、このリターン側ベルトを引っ張り、そのベルト表面が接触する縁部034の下端水平面部036の滑り止めで巻きベルトの緩み戻りを防止しようとするものである。
【特許文献1】特開2003−9910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記紐締バックルは、前記リターン側紐を両外方に引っ張り、物品を強く締め付けなければ、リターン側紐の表面と、縁部034の下端水平面部036の滑り止めとの圧接による、紐の緩み戻りを防止することが出来ない。またこの紐による締め付け解除は、紐締バックル自体の一部を物品から離すなどして、リターン側紐の表面と前記滑り止めとの圧接を緩めなければならない煩雑さを伴うものである。
本発明は、簡単な機構によりバックル自体を動かすことなく、長尺緊締体掛けした回動アームのワンタッチ操作で、長尺緊締体変更軸に二重に巻き付けた長尺緊締体を強圧接・迅速弛緩することにより物品の締め付けとその解除を容易かつ確実に行う長尺緊締体の締バックルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、この課題を解決した優れた長尺緊締体の締バックルである。その特徴とするところは、つぎの(1)〜(3)の通りである。
(1)、被締め物体の表面に裏面を当接するバックル枠体にその側方から長尺緊締体の端部を挿入して軸に巻き付ける長尺緊締体の締バックルにおいて、前記バックル枠体の片側に、又は両側各々に、前記長尺緊締体の端部の挿入方向と直交する長尺緊締体変更軸を設けると共に、一端部を前記長尺緊締体変更軸の両側に回転可能に枢着しバックル表面側で回動可能にした一対の回動アームを設け、前記一対の回動アームの他端部に前記長尺緊締体変更軸に対して平行に長尺緊締体掛け桿を設け、前記回動アームを長尺緊締体変更軸を中心に長尺緊締体挿入側に回動移動可能にし、長尺緊締体の端部をバックル枠体の側方から挿入して、その表面を前記長尺緊締体変更軸の周面の一部に巻いて方向変更し、その後、前記長尺緊締体掛け桿の周面の一部に巻いてループ掛けし、次いで前記長尺緊締体変更軸の周面と、先に巻いた部分の表面との間に挿入して二重掛け状態に巻き付けて挿入側に引き出し(リターン側長尺緊締体)被締め物体を締めた後に回動アームを長尺緊締体の挿入側に倒し回動することを特徴とする長尺緊締体の締バックル。
(2)、バックル枠体に、回動アームを固定するストッパーを設けた前記(1)に記載の長尺緊締体の締バックル。
(3)、被締め付け物体の表面に裏面を当接するバックル枠体にその側方から長尺緊締体の端部を挿入して軸に巻き付ける長尺緊締体の締バックルにおいて、前記バックル枠体の片側に、又は両側各々に、前記長尺緊締体の端部の挿入方向と直交する長尺緊締体変更軸を設けると共に、この長尺緊締体変更軸に平行関係で且つバックルの長尺緊締体を挿入する側のバックル表面寄りにアーム後端の回動軸を枢着してバックル表面側で回動可能にした一対の回動アームを設け、前記一対の回動アームの先端部に前記長尺緊締体変更軸に対して平行に長尺緊締体掛け桿を設け、回動アームをアーム回動中心軸を中心に長尺緊締体挿入側に回動移動可能にし、長尺緊締体の端部をバックル枠体の側方から挿入して、その表面を前記長尺緊締体変更軸の周面の一部に巻いて方向変更し、その後、前記長尺緊締体掛け桿の周面の一部に巻いてループ掛けし、次いで前記長尺緊締体変更軸の周面と、先に巻いた部分の表面との間に挿入して二重掛け状態に巻き付けて挿入側に引き出し(リターン側長尺緊締体)被締め付け物体を締めた後に回動アームを長尺緊締体の挿入側に倒し回動して、長尺緊締体変更軸の外側巻きで長尺緊締体掛け桿に亘る直線状の長尺緊締体の位置をアーム後端の回動軸位置より被締め付け物体側にすることを特徴とする長尺緊締体の締バックル。
【発明の効果】
【0005】
本発明の長尺緊締体締バックルは、前記の簡単な機構によりバックル自体を動かすことなく、長尺緊締体掛けした回動アームのワンタッチ操作で、長尺緊締体変更軸に二重に巻き付けた長尺緊締体を強圧接・迅速弛緩することにより物品の締め付けとその解除を容易かつ確実に行うものである。
即ち、バックル枠体内に挿入した長尺緊締体の端部を長尺緊締体の変更軸に掛けてバックル表面側に変更し、バックル表面側に変更した長尺緊締体の端部を長尺緊締体掛け桿に長尺緊締体変更軸と同様の巻き方向に掛けてループを形成した後、長尺緊締体変更軸から変更された長尺緊締体部の裏面と前記長尺緊締体変更軸の周面間に挿入して、二重掛け状態に巻き付け、そして挿入側に引き出してリターン側長尺緊締体として物品を締め付けるものであり、この締めた後、回動アームを長尺緊締体の挿入側に倒し回動してバックル枠体と平行又はバックル裏面側に過回動させた状態にして該ループを更に緊張して二重掛け部を更に強く圧接して長尺緊締体の戻り弛緩のない物品緊締を確実に維持する。またこの状態は回動アームをバックル前面側に単に起こすのみで簡単に解除することが出来るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明において、長尺緊締体とは、ベルト状、帯状、ロープ、紐状などで柔軟で引張りに強い可撓性があるものを言い、実施例では単に長尺緊締体、ベルト、帯、ロープ、紐と言う。
本発明において、バックル枠体は、緊締する物品の形状に沿ったフラットな或いは長尺緊締体の引っ張り方向に湾曲した矩形型、又はそれに類似の形状のものでよい。
本発明において、長尺緊締体の変更軸は、回転軸型、棒型等にし、バックル枠体と一体に成型したものでもよい。
本発明において、特徴(1)の長尺緊締体掛け桿は、回転軸型、棒型等にし、回動アームはベルト変更軸と一体型に成型したものでもよい。また特徴(3)の長尺緊締体掛け桿は回転軸型、棒型等にし、回動アームと一体型に成型したものでもよい。
本発明において、特徴(1)と(3)の回動アームは、バックル枠体の前面側に突出した位置からバックル枠体に平行又は略平行な関係位置に倒し回動可能に配置する。また回動アームはバックル枠体の前面側に突出した位置からバックル枠体側への倒し回動とその戻し回動が迅速に行われるように引っ張りワイヤー、操作アームや取っ手又はそれに代わる適宜な操作具を付設してもよい。また特徴(3)の一対の回動アームは後端部の各回転軸をバックル枠体に設けて長尺緊締体掛け桿のように軸間を連結しないでフリーにして回動アームの倒し回動固定に影響を与えないようにする。
本発明の特徴(1)おいて、回動アームの倒し回動後の位置固定維持は、この時の回動アームがバックル枠体内で枠体と平行関係にあれば略安全であるが、更に安全を期して、ストッパーを設置することが好ましい。ストッパーとしては、回動アーム側部にロックボールを半球部が出入り可能に装備し、バックル枠体内面に該ロックボールの半球部を出入り可能に収容する凹陥部を形成したり、ラチェット機構のフックを回動アームに設け、フックの係合ピンをバックル枠体に設ける等その他適宜な公知の簡易ロック・解除機構を採用すればよい。特徴(3)おいては、前記の如く回動アームを倒し回動した際に、長尺緊締体変更軸の外側巻きで長尺緊締体掛け桿に亘る直線状の長尺緊締体の位置が、アーム後端の回動軸位置より被締め付け物体側になる自己締結保持型のため、ストッパーを設置しなくても被締め付け物体からの異常な振動あるいは直接外力が回動アームに作用しない限り被締め付け物の締結状態を健全に維持できる。
以下実施例を詳述するが本発明の前記特徴(1)、(2)の実施例は実施例1〜実施例6であり、前記特徴(3)の実施例は実施例7である。
【実施例1】
【0007】
実施例1の長尺緊締体の締バックルは、長尺緊締体としてベルトを対象とするベルトの締バックル例である。
図1は、実施例1のベルト締バックル自体を鳥瞰図で示す。
図2は、図1に示す実施例1のベルト締バックルを用いてのベルト装着・ベルト締状態を示す側断面説明図である。
図3は、図2に示すベルト装着・ベルト締状態から回動アームを回動させてバックル枠体内に収容しロックした状態を示す側断面説明図である。
実施例1は、図1に示すベルト締バックル100を用いて、バックル枠体101の一側に設けた横軸101bにベルト端部201を固定装着し、バックル枠体101の他側にベルト200の他端部を挿入ベルト202として巻き付けるタイプである。
【0008】
図1〜図3において、ベルト締バックル100は、バックル枠体101の中央部に、前記ベルト200の他端部202の挿入方向202aに直交するベルト変更軸301を固定設置し、ベルト変更軸301の両側に一対の回動アーム302の一端部を回転可能に枢着し、前記一対の回動アーム302の他端部間に前記ベルト変更軸301に対して平行にベルト掛け桿303を設け、回動アーム302をベルト変更軸301を中心に回動してバックル枠体101と回動ア−ム302が平行又は略平行状態となるようにバックル枠体101内に収容移動可能にしたものである。図中800sは回動アームストッパーであり、回動ア−ム302のバッックル裏面側への回動をここで阻止する。
この構成により、バックル枠体101内への挿入ベルト202をベルト変更軸301に掛けてバックル前面側に変更し、バックル前面側に変更した変更ベルト203をベルト掛け桿303にベルト変更軸301と同様の方向に掛けた後リターンベルト204とし、変更ベルト203とリターンベルト204によりループを形成し、更にベルト変更軸301から変更された変更ベルト部203の裏面203aと前記ベルト変更軸301の表面間に挿入して該ループの元部になる部分を前記ベルト変更軸301におけるベルトの方向変更側の周面に位置させて図示の如く二重掛け状態に巻き付ける。そして反挿入側方向202bに引き出してリターン変更ベルト205とし、これを引っ張ることにより物品Bをベルト200により締める。この後、回動アーム302をバックル枠体101内に回動収容して図3に示すように、ベルト掛け桿303の軸心を、ベルト200の物品B締め引っ張り方向線200a上に置いて、尚且つ棒状のストッパー401を回動アーム302のピン孔302aとバックル枠体101のピン孔101aに挿入して、回動アームの起き上がりを止める。
【0009】
これで挿入ベルト掛け桿303からのリターンベルト204は、ベルト変更軸301を経由して反挿入側202bに引き出されてリターン変更ベルト205になる際、ベルト202からベルト変更軸301経由でベルト203に至るベルトと、ベルト変更軸301との間に挟みこまれた二重巻き状態にすることで、挟み込まれたベルトの表裏両面に発生する強力な面接触摩擦抵抗により、ベルト200の緩みを完全に抑止してベルト200の物品B緊締を確実に維持するものである。またこの状態は、ストッパー401を引き抜くことにより、回動アーム302をバックル前面側に単に起こすのみで簡単に解除することが出来るものである。
【0010】
この作用効果についての原理を、図1〜図9とともに以下に詳細に説明する。以下の原理説明は、長尺緊締体としてベルトの例であるが、実施例6に紹介する紐の締バックルも同様の原理である。尚、図6〜図9に記載のベルト締バックルの展開角度ζとは、ベルト掛け桿303の軸心とベルト変更軸301の軸心とを結ぶ直線と、ベルト200の物品B緊締方向と平行で且つベルト変更軸301の軸心を通るバックル枠体101の中心線Xとが成す角度を言う。
図1、図2、図3に示すベルト掛け桿303とベルト変更軸301におけるベルト巻き状態の拡大を図4の(1)と(2)に示す。
図4(1)と(2)において、点P1〜P2の間は変更軸301にベルトを二重に巻き付けていることに特徴がある.そのベルト二重部の角度は,図1〜図3、図4(1)に示す回動アーム302の角ζを,点Oを中心に回動アーム302を回動させることで自由に変えることができる.ベルトの張力をTとすると,ベルト締バックル両端での張力はT1とT4である.ベルト202と軸301及び303との摩擦係数をμ,ベルト同士の摩擦係数をμbとする.点Pi〜点Pjまでの巻き付け角をθijで表す.T1とT4の関係は,T1>T4として解析すると数1で表わされる.
【0011】
【数1】
数1は分数の形であるので,分母が0となる条件ではT4の係数は無限大になる.そのことはベルトがバックルにより完全にロックされることを意味する.条件を簡単にするため数1においてμ=0とすると,数2となる.
【0012】
【数2】
μ=0 とすることは,図1のベルト変更軸301とベルト掛け桿303を,例えば転がり軸受で置き換えた状態と等価である.数3を満足する条件下では、数2の分母が0になるめT4の係数は無限大になる.そのことはベルト同士の摩擦力のみでベルトを完全に固定できることを意味する.
【0013】
【数3】
図5に数2の条件下でベルトが固定できる範囲を示している。例えばμb=0.3のベルトでは,ベルト二重巻き付け角を130°以上にすればベルトは完全に固定できるが,130°未満ではベルトは完全には固定されずに滑る可能性のあることを意味する。
【0014】
図6はベルト202と軸301との摩擦係数μはμ=0,ベルト同士の摩擦係数はμb=0.1〜0.3の範囲で変化させた場合,数1で計算したベルト締バックルの展開角度ζに伴うベルト張力比T1/T4の変化を示している.ベルトを固定した状態に対応する展開角度ζの小さい範囲では,摩擦係数μbが大きくなると,ベルト張力比T1/T4は急増して完全締結状態に至ることが分かる.計算を簡単にするため,μ=μbとして図6と同様に数1による計算結果を図7に示す.ベルト202と軸301との間に摩擦力があれば,図6に示した展開角度より大きい角度でもベルト張力比の大きいことが分かる.ベルトの摩擦係数は通常0.2以上あるので,発明したベルト締バックルで固定できないベルトはほとんどないと思われる.
数1はT1>T4の条件で得られた解析式であるが,ベルトを締め付ける場合にはT4側を引張るためにT4>T1となる.そこでT4>T1の条件下で解析すると,
数4となる。
【0015】
【数4】
この数4よりT4/T1≧1であることが分かる.数4においてμ=μb=0とすればT4=T1となる.図6と対応させるため,ベルト202と軸301との摩擦係数μ=0,ベルト同士の摩擦係数μb=0.1〜0.3の範囲で数4で計算した結果を図8に示す.縦軸のベルト張力比は図6と図8では逆になっていることに注意されたい.例えばT4側を強く引張った場合の結果である図8では,μb=0.3,ζ=60°の場合,T4側の張力として張力T1の2.75倍以上与えると,ベルト202と軸301との間に滑りが生じることを意味している.一方,T1>T4の条件下での解析結果である図6では,μb=0.3でζ=60°の場合,T1/T4=15であり,展開角度をさらに小さくすればT1/T4は急増して完全締結状態に至る.すなわち数1と数4を比較すると,本例のベルト締バックルは,ベルト二重部の内側ベルトであるT4側を引張れば常に締め付けることが可能でありながら,ベルト二重部の外側ベルトに大きな荷重T1が作用しても強固に固定できることになる.また固定力はベルト締バックルの展開角度ζに非常に敏感であるので,展開角度ζを変えることで自由に締めたり緩めたりすることが可能である。
図7と対応させるため,μ=μb=0.1〜0.2の範囲で数4を使い計算した結果を図9に示す.図8と同様に縦軸のベルト張力比は図7と図9では逆である.μによる摩擦力が加算されるため,図8と比較して図9のT4/T1の値は大きくなる.例えば図8ではμb=0.2,ζ=60°の場合,T4/T1=2.05であるが,図9ではT4/T1=6.4と約3倍になる.しかしながら図7のように完全締結状態にはならないので,大きなT4を与えさえすれば,ベルト202をさらに強く締め付けることができる。
数4はベルト同士やベルトと軸とが理想的に密着した状態での解析式である.ところが一般にはベルトは弱い弾性体であるため,ベルト202の張力の弱まれば,ベルト同士やベルト202と軸301との間に僅かな隙間ができる.そのような場所では摩擦力は全く発生しないので,ベルト張力が0の状態からベルト締バックルで締め付ける場合,図8や図9で示した張力比より小さい張力比でもベルトは締め付けられることになる.
【実施例2】
【0016】
実施例2は、図10〜図12に示すベルト締バックル例であり、図1の実施例1を左右対称に一体的に組み合わせた例である。
図10〜図12において、本例は、バックル枠体11の両側からベルト20の両端部22a,22bの各々を巻き付けてベルト20を物品Bの表面に締めて回動アーム32a、32bをロックするタイプのベルト締バックル10である。図11は、バックル枠体11の両側からベルト20の両端部を巻き付け・締めた状態を示す側断面説明図であり、図10はそのモデル的鳥瞰図であり、図12はベルト20を締めた後に回動アーム32a、32bを回動してバックル枠体11内に収容しロックした状態を示す側断面説明図である。
即ち本実施例2は、ベルト締バックル10のバックル枠体11内の左右に、ベルト変更軸31a、31b、回動アーム32a、32b、ベルト掛け桿33a、33bを各一対設置したものであり、実施例1と同一機能部分には同一名称を付してある。
図10〜図12において、ベルト締バックル10は、バックル枠体11の中央部に、ベルト挿入方向に直交する平行な一対のベルト変更軸31a、31bを設け、各ベルト変更軸31a、31bの両側各々に、回動アーム32a、32bの一端を回転可能に枢着し、回動アーム32a、32bの各他端部間に、前記ベルト変更軸31a、31bに対して平行にベルト掛け桿33a、33bを設け、各対の回動アーム32a、32bを当該ベルト変更軸31a、31bを中心に回動してバックル枠体11の前面側への突出回動とバックル枠体11の横枠と平行状態でバックル枠体11内に収容可能にしたものである。各々バックル枠体11は、両側からベルト20の両端部22a,22bを挿入ベルトとしこれをベルト変更軸31a、31bとベルト掛け桿33a、33bに巻き付ける。以下のベルトの巻き付け操作は、実施例1と全く同一である。
つまりベルト20の両端部22a,22bをベルト掛け桿33a,33bにループ掛けし、このループの元部になる部分をベルト変更軸31a,31bのベルトを方向変更する側に位置させて、その周面に二重掛け状態とする巻き付け操作は、両該端部22a,22bを挿入ベルト22a,22bとしこの挿入ベルトをバックル枠体11内のベルト変更軸31a,31bに掛けてバックル前面側に変更して変更ベルト23a,23bとし、この変更ベルト23a,23bをベルト掛け桿33a,33bにベルト変更軸31a,31bと同様の方向に掛けてリターンベルト24a,24bとし、これをベルト変更軸31a,31bから変更された変更ベルト23a,23bの裏面と前記ベルト変更軸31a,31bの表面間に挿入して反挿入側方向に引き出してリターン変更ベルト25a,25bとし、これを引っ張ることにより物品Bをベルト20により締める。この後、回動アーム32a、32bを図12に示すようにバックル枠体11内に回動収容して且つ棒状のストッパー(図示していないが実施例1のストッパー401と同一のもの)を回動アーム32a、32bのピン孔32c,32dとバックル枠体11のピン孔11a,11bに挿入して、回動アーム32a、32bの起き上がりを確実に止める。
【0017】
これで挿入ベルト掛け桿33a,33bからのリターンベルト24a,24bは、ベルト変更軸31a,31bを経由して反挿入側方向に引き出されてリターン変更ベルト25a,25bになる際、挿入ベルト22a,22bからベルト変更軸31a,31b経由で変更ベルト23a,23bに至るベルトと、ベルト変更軸31a,31bの表面との間に挟みこまれることで、挟み込まれたベルトの表裏面に発生する強力な面接触摩擦抵抗により、その滑りを阻止し、締ベルト20の緩みを完全に抑止してベルト20により物品Bを確実に緊締維持するものである。またこの状態は、前記ストッパーをピン孔32c,32dとピン孔11a,11bから引き抜くことにより、回動アーム32a、32bをバックル前面側に単に起こすのみで簡単に物品Bの緊締(締め付け)を解除することが出来るものである。
以上の図10〜図12に示す本例のベルト締バックルは、図13の(1)に示すように荷物Nの梱包用などに利用できる.図13の(2)は図13の(1)のベルト締バックルを示す拡大斜視図である。
【実施例3】
【0018】
実施例3のベルト締バックル例は、図14のモデル鳥瞰図に示し、実施例1のベルト締バックルを桝枠Mの四方向に配置して十字型に組み合わせて結合したものであるが、実施例2のベルト締バックルをクロス配置した形式のものでもある。この為、本例は実施例2と同一部分は、同一符号を付してその詳細は省略する。
【実施例4】
【0019】
実施例4のベルト締バックルは、図15のモデル鳥瞰図に示し、実施例2のベルト締バックルの変形例である。ベルトの締め付け方向を90度に変更するため,斜めに連結棒Rで連結することで,実施例3で示す2箇所のベルト締バックルを省略することができるものである。本例も実施例2と同一部分は、同一符号を付してある。
連結棒Rの利用法は、例えば図15の左側のベルト締バックルに巻き付けた後、回動アーム32aを枠体11内に回動収容することでベルトをベルト締バックルに固定する。その後ベルト22aを物品に廻して一旦連結棒Rに中継巻きすることでベルトの方向を変更させて、再び物品に廻して図15の上側のベルト締バックルに巻き付ける等に利用する。
【実施例5】
【0020】
実施例5のベルト締バックルは、図16のモデル鳥瞰図に示し、これも実施例2のベルト締バックルの変形例である。本例のベルト締バックルは、バックル枠体同士をリンクして折れ曲げ可能にして、角や表面が球や円筒など曲面を有する物品をベルトで固定する際に利用するベルト締バックルで、中央部を軸連結構造の連結機構RRで連結し物品の表面形状に合わせて中央で折れ曲がる構造にしたものである。
本例も実施例2と同一部分は、同一符号を付してその詳細は省略する。
【実施例6】
【0021】
実施例6の長尺緊締体の締バックルは、長尺緊締体として紐を対象とする紐の締バックル例であり、図17にそのモデル鳥瞰図を示す。
図17の(1)は紐の締バックル例のモデル鳥瞰図を示し、その矢視A-Aからの側断面図で紐を巻き付けた状態を(2)に示す。
実施例6の紐の締バックル1は、バックル枠体2の一側に設けた溝M1付の横軸2aに紐3の端部3eを固定装着し、バックル枠体2の他側に紐3の他端部3tを挿入紐として巻き付けるタイプであり実施例1のベルト用を紐用に変形した例である。
図17の(1) (2)において、紐の締バックル1は、バックル枠体2の中央部に、紐3の他端部3tの挿入方向4aに直交する溝M2付の紐変更軸5を固定設置し、紐変更軸5の両側に一対の回動アーム6の一端部を回転可能に枢着し、前記一対の回動アーム6の他端部間に前記紐変更軸5に対して平行に溝M3付の紐掛け桿7を設け、回動アーム6を紐変更軸5を中心に回動してバックル枠体2と回動ア−ム6が平行又は略平行状態となるようにバックル枠体2内に収容移動可能にしたものである。
この構成により、バックル枠体2の一側から裏側(物品Bの表面間)に挿入した紐3の他端部3tは、紐変更軸5の溝M2に掛けてバックル前面側(表側)に変更し、次いで紐掛け桿7の溝M3に紐変更軸5と同様の方向に掛けて紐変更軸5側にリターンさせ、次いで前記紐変更軸5の溝M2に挿入してその表面に直に巻き付け、反挿入側方向4bに引き出し、これを引っ張ることにより物品Bを紐3により締める。この後、回動アーム6をバックル枠体2内に回動収容して紐掛け桿7の軸心を、紐3の物品B締め引っ張り方向に置いて、尚且つ棒状のストッパー90等を回動アーム6のピン孔8とバックル枠体2のピン孔9に挿入して、回動アーム6の起き上がりを止める。
【0022】
これで紐3の他端部3tは、該紐変更軸5の溝M2で二重になり、この二重の紐3部の表裏面に発生する強力な面接触摩擦抵抗により、紐3の緩みを完全に抑止して紐3の物品B緊締を確実に維持するものである。またこの状態は、前記ストッパー90を引き抜くことにより、回動アーム6をバックル前面側に単に起こすのみで簡単に解除することが出来るものである。
【実施例7】
【0023】
本例は、前述のバックルを更に改良した前記特徴の(3)に記載の「自己締結保持型の長尺緊締体の締バックル」である。
図18〜図26と共に詳細に説明する。
本例の「自己締結保持型の長尺緊締体の締バックル」の1例を、図18に概略図を示す.図18ではバックルの構造を分かり易くするためベルトを省略して描いている.図19は図18の矢視A−Aからの縦断面図であり,ベルト(長尺緊締体)900の一端部を巻きつけた状態は実線で描いている.ベルト締結時である回動ア−ム700を閉じた状態は二点鎖線で描いている.
図18と図19において、ベルト900の締バックルは、被締め物体の表面に裏面を当接するバックル枠体800の片側に前記ベルト900の端部の挿入方向と直交する長尺緊締体変更軸710を設けると共に、この長尺緊締体変更軸710に平行関係で且つベルト900を挿入する側のバックル表面寄りにアーム後端の回動軸704を枢着してバックル表面側で回動可能にした一対の回動アーム700を設け、前記一対の回動アーム700の先端部に前記長尺緊締体変更軸710に対して平行に長尺緊締体掛け桿702を設けると共に回動ア−ムストッパ−800sを設け、回動アーム700をアーム回動軸704を中心にベルト挿入側に回動移動可能にし、ベルト900の端部をバックル枠体800の側方から挿入してその表面を前記締体変更軸710の周面の一部に巻いて方向変更し、その後、前記長尺緊締体掛け桿702の周面の一部に巻いてループ掛けし、次いで前記長尺緊締体変更軸710の周面と先に巻いた部分の表面900aとの間に挿入して二重掛け状態に巻き付けて挿入側に引き出し(リターン側長尺緊締体)被締め付け物体を締めた後に回動ア−ム700を倒し回動させた際に、その長尺緊締体掛け桿702と長尺緊締体変更軸710間にあるベルト900が回動ア−ム700の軸芯705位置からバックル裏面側に外れた位置に来て回動ア−ム700の戻り回転を阻止する関係にするのである。図中801はバックル枠体800に設けたベルト他端部を巻き付け固定する軸である。
本例の締バックルは、長尺緊締体変更軸710と一対の回動アーム700と長尺緊締体掛け桿702と回動ア−ムストッパ−800sをバックル枠体800の片側に1セット設けたが、バックル枠体800の両側各々1セットづつ設けてもよい。
即ち、この締めバックルは回動ア−ム700の回転軸704の中心705と,長尺緊締体変更軸710の軸中心711とがオフセットしていることに特徴がある。
図20は自己締結保持型の締バックルを解析するための力学モデルである.xy座標の原点Oを長尺緊締体変更軸710(以下主軸710とも言う)の軸心711とする.x軸はバックル枠体800と平行にとる.回動ア−ム700の長尺緊締体掛け桿702(以下副軸702とも言う)の中心をO1,回動ア−ム700の回転軸704の中心705をO2とする.点O2はx軸から角度φ,原点Oから距離L1の位置にある.主軸710の半径をR,副軸702の半径をrとする.L2は軸心705から副軸702の軸心701までの長さである.L1とL2の為す角をβとする.T1,T2,T3,T4はベルト張力でありT1>T4とする.角度ζはx軸と,直線O−O1のなす角度であり,αはx軸と回動ア−ムの軸中心を結ぶ直線L2のなす角度である.Lは主軸710中心Oから副軸702の中心O1(701)までの長さであり,角度αあるいはζに伴いLは変化する.
長さLはL1,L2,α,φの関数であり数5で表される.角度ζはL1,L2,α,φの関数であり数6で表される.
【0024】
【数5】
【0025】
【数6】
実際にベルトを締結する際は,回動ア−ム700をバックルの表面前方側に突出位置させた所謂回動アームを開いた状態(αの大きい状態)で図19に示すようにバックルにベルトを通し,張力T4を加えることでベルトの弛みを取り,図19に二点鎖線で描いた状態となるように回動ア−ム700を回動させれば良い.アームの回動に伴いベルトは強力に締め上げられ主軸710に強く巻きつけられる.この回動に伴い増加する副軸702に巻きつけられたベルトの張力T2,T3は,回動ア−ム700の回転軸(ピン支持O2)により支持されるが,ベルト張力T2,T3によるア−ム回転軸中心O2回りのトルクMはここO2では支持できない.ベルト張力T2,T3によるトルクMは,数7で表される.
【0026】
【数7】
ここでc2,c3は主軸710と副軸702間に亘るループ状のベルトと、主軸710と副軸702の周面との接触境界点であるP2,P3,P4,P5の位置とともに変わる変数である.数7をベルト張力T1によるO点回りのトルクで除して無次元化したトルクを数8のNで表わす.
【0027】
【数8】
一例として,ベルト張力T1,T4がx軸方向の場合,φ=45°,L2/L1=2,L1/R=2,R=r,μ=μbとして数8を計算した結果を図21に示す.ここでμはベルトと主軸710と副軸702の周面との摩擦係数,μbはベルト同士の摩擦係数である.
図21から分かるように,摩擦係数による僅かな違いはあるものの,回動アーム700の倒し回動角度αを小さくしていくと,回動トルクの符号がプラスからマイナスに変化する.図21ではα≒16°を境に回動トルクの方向が逆転する.このことはベルトを締結しようとしてαを小さくするためのトルクを回動ア−ムに加えていくと,数7で表わされるトルクMが0となる臨界角度αcを境に,αをさらに小さくする方向のトルクになることを意味する.しかしながら図18または図19から分かるように,回動ア−ム700はバックル裏面側に設けた回動ア−ムストッパ−800sに当接して停止する.回動ア−ムストッパ−800sはアームトルクをバックル枠体に伝える役割をしており,ア−ムストッパ−800sが無ければアームトルクはバックルを押上げようとする.停止状態ではベルト張力により回動角度αをさらに小さくしようとするトルクMが回動ア−ムストッパ−800sに対し常に作用しているため,締結状態は安定して維持される.そのため一般のベルト締結具にあるようなラチェットや緩み止めストッパ−などの機構は不要となる.ベルトを締結状態から解除するには,回動ア−ム700にαを大きくする方向の外部トルクを最初だけ与えればよい.すると回動トルクの符号の逆転する臨界角度αcを境に,ベルト張力によるトルクが締結状態を解放する方向に作用することで締結状態は急激に解除される.このように回動ア−ム700を単に回動させるだけで,ベルトの締結と解除をワンタッチで切り変えることができる.なお,締結状態の解除に必要な初期トルクは,図19に示すように,副軸702の直ぐ下(バックル表面側)にある引き出しベルト端部を上に引き上げて回動ア−ム700を僅かに戻り回動させるだけで良いため非常に簡単である.このバックルは極めて簡単な操作でベルトの確実な緊締ロックとその解除ができるため,あらゆる被締め物体の梱包や搬送荷造りベルト用、靴紐・ベルト締め用等々他方面に利用することができる.
本実施例7の締めバックルにおける、両端のベルト張力比T4/T1を計算した結果の一例を図22に示す.計算条件は図21と同じである.回動アームの倒し回動角度αの減少とともにベルト張力比は減少して負の値となるが,ベルトでは圧縮力を負担できないため,張力比が負であることはベルトは完全ロック状態になったことを意味する.例えば図22のμ=μb=0.15の場合,α<105°ではベルトはバックルにより完全ロックされたことを表わす.図22においてベルト張力比T4/T1=0になる角度αが,図21で示した無次元ア−ム回動トルクN=0になる角度より大きいことが,完全ロック状態を安定して維持できる必要条件である.たとえばμ=μb=0.15の場合,図21において、N=0となる角度αを読むとα≒16°であり,図22でT4/T1=0の角度αを読むとα=105°となるため必要条件は十分に満足されている.市販のベルトの摩擦係数は通常μ>0.2であるため,ほとんどこの必要条件は満たされる.そのため本例の締めバックルを使えばベルトを完全にロックすることができる.
図23は、回動ア−ムの倒し回動角度αに対するバックル枠体内のベルト長さを計算した一例である.角度αの減少に伴いベルト長さは長くなり,最大値に達した後は少し減少することが分かる.このことは回動ア−ムの倒し回動角度αを小さくするとベルトはバックル内に巻き上げられることを意味しており,完全ロック状態となった以降もさらにαを小さくすると,それに対応するバックル内のベルト長さの増分はベルト或いは被締結体の弾性変形によって補われることでベルトには大きな張力が発生する.
図24は回動ア−ムを簡略化した例を示す.図25は回動ア−ム700をバックル枠体の外側から嵌め込むようにした変形例である.図26はバックル枠体800を湾曲させた例である.このような曲線形状のバックルを例えば靴を固定する紐やベルトに利用すれば,一般に使われている靴の結び紐やマジックベルトに比べて遥かに簡単でしかも確実に靴を足に固定することができる.一方,靴を脱ぐ際には回動ア−ムを回動するだけで楽に靴を脱ぐことができる.図26では大きなベルト張力が作用した場合には回動ア−ム自身が湾曲側に変形して撓むことで,過度のベルト張力が作用しないようにする機能もある。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の長尺緊締体の締バックルは、前記の簡単な機構によりバックル自体を動かすことなく、長尺緊締体掛けした回動アームのワンタッチ操作で、長尺緊締体変更軸に二重に巻き付けた長尺緊締体を強圧接・迅速弛緩することにより物品の締め付けとその解除を容易かつ確実に行うものである。
これにより各種物品の梱包、荷造り、荷役作業、貨物の固定、靴紐、レジャー用品、住宅や構造物などの簡易的地震補強対策なども簡単迅速にしかも安価に実施することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の長尺緊締体の締バックルの実施例1としてベルト締バックル例を示す鳥瞰図である。
【図2】図1に示す実施例1のベルト締バックルを用いてのベルト装着・ベルト締状態を示す側断面説明図である。
【図3】図2に示すベルト装着・ベルト締状態から回動アームを回動させてバックル枠体内に収容した状態を示す側断面説明図である。
【図4】本発明の長尺緊締体の締バックルの原理をベルト締バックルを例に説明するものであり、回動アームとベルト変更軸とこれらへのベルト巻き付け状態を(1)に示し、説明のため径を拡大したベルト変更軸にベルトを部分的に二重巻きに巻き付けた状態を(2)に示す拡大説明図である。
【図5】図4におけるベルト二重部のベルト同士の摩擦力のみでベルトを固定する際のベルト同士の摩擦係数とベルト二重巻き付き角度の関係を示すグラフである。
【図6】数1によるベルト締バックルの展開角度に伴うベルト張力比の変化を示すグラフである。
【図7】図6と同様に数1によるベルト締バックルの展開角度に伴うベルト張力比の変化を示すグラフである。
【図8】数4によるベルト締バックルの展開角度に伴うベルト張力比の変化を示すグラフである。
【図9】数4によるベルト締バックルの展開角度に伴うベルト張力比の変化を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例2のベルト締バックルで作成したモデルの鳥瞰図である。
【図11】本発明の実施例2のベルト締バックルでベルト装着・ベルト締状態を示す側断面説明図である。
【図12】図11に示すベルト装着・締状態から一対の回動アームを両サイドに回動させてバックル枠体内に収容した状態を示す側断面説明図である。
【図13】実施例2のベルト締バックルを荷物の梱包に適用したモデルの鳥瞰図である。
【図14】実施例2を四方向ベルト対応に変形した実施例3のモデルの鳥瞰図である。
【図15】実施例2を90度の2方向対応に変形した実施例4のモデルの鳥瞰図である。
【図16】実施例2の変形例で、折れ曲がり、球面、円筒などの曲面を有する物品をベルトで固定する際に利用するベルト締バックルで中央部を回転軸で連結し折れ曲がる構造にした実施例5のモデルの鳥瞰図である。
【図17】実施例6の紐の締バックル例のモデルの鳥瞰図を(1)に示し、その矢視A-Aからの側断面図で紐を巻き付けた状態を(2)に示す。
【図18】実施例7の自己締結保持型長尺体バックルを示す斜視説明図である。
【図19】図18の矢視A−Aからの縦断面説明図である。
【図20】実施例7の自己締結保持型長尺体バックルの力学モデルを示す。
【図21】実施例7の回動ア−ムの回動に伴う無次元回動トルクNの変化を示すグラフである。
【図22】実施例7の回動ア−ムの回動に伴うベルト張力比の変化を示すグラフである。
【図23】実施例7の回動ア−ムの角度αとバックル内ベルト長の関係を示すグラフである。
【図24】実施例7の回動ア−ムを丸棒で製作した変形例を示す斜視説明図である。
【図25】実施例7の回動ア−ムを丸棒で製作した変形例(外側から嵌め込むタイプ)を示す斜視説明図である。
【図26】実施例7のバックルのフレ−ムと回動ア−ムを曲線にした変形例を示す斜視説明図である。
【図27】従来例を示す側断面である。
【符号の説明】
【0030】
10 100 ベルト締バックル
11 101 800 バックル枠体
200 900 ベルト
202 ベルトの他端部
301 ベルト変更軸
32a、32b 302 700 回動アーム
303 702 ベルト掛け桿
31a、31b 710 ベルト変更軸
33a、33b ベルト掛け桿
1 紐の締バックル
800s 回動アームストッパー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被締め物体の表面に裏面を当接するバックル枠体にその側方から長尺緊締体の端部を挿入して軸に巻き付ける長尺緊締体の締バックルにおいて、前記バックル枠体の片側に、又は両側各々に、前記長尺緊締体の端部の挿入方向と直交する長尺緊締体変更軸を設けると共に、一端部を前記長尺緊締体変更軸の両側に回転可能に枢着しバックル表面側で回動可能にした一対の回動アームを設け、前記一対の回動アームの他端部に前記長尺緊締体変更軸に対して平行に長尺緊締体掛け桿を設け、前記回動アームを長尺緊締体変更軸を中心に長尺緊締体挿入側に回動移動可能にし、長尺緊締体の端部をバックル枠体の側方から挿入して、その表面を前記長尺緊締体変更軸の周面の一部に巻いて方向変更し、その後、前記長尺緊締体掛け桿の周面の一部に巻いてループ掛けし、次いで前記長尺緊締体変更軸の周面と、先に巻いた部分の表面との間に挿入して二重掛け状態に巻き付けて挿入側に引き出し(リターン側長尺緊締体)被締め物体を締めた後に回動アームを長尺緊締体の挿入側に倒し回動することを特徴とする長尺緊締体の締バックル。
【請求項2】
バックル枠体に、回動アームを固定するストッパーを設けた前記(1)に記載の長尺緊締体の締バックル。
【請求項3】
被締め付け物体の表面に裏面を当接するバックル枠体にその側方から長尺緊締体の端部を挿入して軸に巻き付ける長尺緊締体の締バックルにおいて、前記バックル枠体の片側に、又は両側各々に、前記長尺緊締体の端部の挿入方向と直交する長尺緊締体変更軸を設けると共に、この長尺緊締体変更軸に平行関係で且つバックルの長尺緊締体を挿入する側のバックル表面寄りにアーム後端の回動軸を枢着してバックル表面側で回動可能にした一対の回動アームを設け、前記一対の回動アームの先端部に前記長尺緊締体変更軸に対して平行に長尺緊締体掛け桿を設け、回動アームをアーム回動中心軸を中心に長尺緊締体挿入側に回動移動可能にし、長尺緊締体の端部をバックル枠体の側方から挿入して、その表面を前記長尺緊締体変更軸の周面の一部に巻いて方向変更し、その後、前記長尺緊締体掛け桿の周面の一部に巻いてループ掛けし、次いで前記長尺緊締体変更軸の周面と、先に巻いた部分の表面との間に挿入して二重掛け状態に巻き付けて挿入側に引き出し(リターン側長尺緊締体)被締め付け物体を締めた後に回動アームを長尺緊締体の挿入側に倒し回動して、長尺緊締体変更軸の外側巻きで長尺緊締体掛け桿に亘る直線状の長尺緊締体の位置をアーム後端の回動軸位置より被締め付け物体側にすることを特徴とする長尺緊締体の締バックル。
【請求項1】
被締め物体の表面に裏面を当接するバックル枠体にその側方から長尺緊締体の端部を挿入して軸に巻き付ける長尺緊締体の締バックルにおいて、前記バックル枠体の片側に、又は両側各々に、前記長尺緊締体の端部の挿入方向と直交する長尺緊締体変更軸を設けると共に、一端部を前記長尺緊締体変更軸の両側に回転可能に枢着しバックル表面側で回動可能にした一対の回動アームを設け、前記一対の回動アームの他端部に前記長尺緊締体変更軸に対して平行に長尺緊締体掛け桿を設け、前記回動アームを長尺緊締体変更軸を中心に長尺緊締体挿入側に回動移動可能にし、長尺緊締体の端部をバックル枠体の側方から挿入して、その表面を前記長尺緊締体変更軸の周面の一部に巻いて方向変更し、その後、前記長尺緊締体掛け桿の周面の一部に巻いてループ掛けし、次いで前記長尺緊締体変更軸の周面と、先に巻いた部分の表面との間に挿入して二重掛け状態に巻き付けて挿入側に引き出し(リターン側長尺緊締体)被締め物体を締めた後に回動アームを長尺緊締体の挿入側に倒し回動することを特徴とする長尺緊締体の締バックル。
【請求項2】
バックル枠体に、回動アームを固定するストッパーを設けた前記(1)に記載の長尺緊締体の締バックル。
【請求項3】
被締め付け物体の表面に裏面を当接するバックル枠体にその側方から長尺緊締体の端部を挿入して軸に巻き付ける長尺緊締体の締バックルにおいて、前記バックル枠体の片側に、又は両側各々に、前記長尺緊締体の端部の挿入方向と直交する長尺緊締体変更軸を設けると共に、この長尺緊締体変更軸に平行関係で且つバックルの長尺緊締体を挿入する側のバックル表面寄りにアーム後端の回動軸を枢着してバックル表面側で回動可能にした一対の回動アームを設け、前記一対の回動アームの先端部に前記長尺緊締体変更軸に対して平行に長尺緊締体掛け桿を設け、回動アームをアーム回動中心軸を中心に長尺緊締体挿入側に回動移動可能にし、長尺緊締体の端部をバックル枠体の側方から挿入して、その表面を前記長尺緊締体変更軸の周面の一部に巻いて方向変更し、その後、前記長尺緊締体掛け桿の周面の一部に巻いてループ掛けし、次いで前記長尺緊締体変更軸の周面と、先に巻いた部分の表面との間に挿入して二重掛け状態に巻き付けて挿入側に引き出し(リターン側長尺緊締体)被締め付け物体を締めた後に回動アームを長尺緊締体の挿入側に倒し回動して、長尺緊締体変更軸の外側巻きで長尺緊締体掛け桿に亘る直線状の長尺緊締体の位置をアーム後端の回動軸位置より被締め付け物体側にすることを特徴とする長尺緊締体の締バックル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
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【図15】
【図16】
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【図18】
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【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2009−1338(P2009−1338A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42279(P2008−42279)
【出願日】平成20年2月23日(2008.2.23)
【出願人】(304028726)国立大学法人 大分大学 (181)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月23日(2008.2.23)
【出願人】(304028726)国立大学法人 大分大学 (181)
【Fターム(参考)】
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