説明

長手方向掃気式2ストローク大型ディーゼルエンジンの掃気行程の行程パラメータを監視するための掃気性能監視システム及び方法

【課題】長手方向掃気式2ストローク大型ディーゼルエンジンの掃気行程の行程パラメータを最適化する掃気性能監視システムに関する。
【解決手段】大型ディーゼルエンジンはシリンダ内で滑り面に沿って下死点と上死点の間で前後に動作可能であるように配置されているピストンを含み、燃料は噴射ノズルによって大型ディーゼルエンジンのシリンダに送り込まれる。所定量の掃気を供給するためにシリンダの給気領域に掃気スロットが設けられ、燃焼ガスを排出するためにシリンダのシリンダカバーに出口弁が設けられる。運転状態では新鮮な空気が排ガスターボ過給機によって吸引され、掃気として所定の給気圧で掃気スロットを介してシリンダに供給され、シリンダ内で掃気及び燃料から点火混合気が生成される。大型ディーゼルエンジンのシリンダの掃気性能を評価するためにシリンダの滑り面に少なくとも第1の酸素センサ及び第2の酸素センサが設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項1及び8の前文により、長手方向掃気式2ストローク大型ディーゼルエンジンの掃気行程の行程パラメータを監視するための掃気性能監視システム並びに掃気行程の行程パラメータを監視するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、船舶又は発電用静止ユニットの大型ディーゼルエンジンのような往復ピストン燃焼機関のパワーを増加させるために、一般的に排気ターボ過給機として設計されている給気グループによって、燃焼ストローク後に高圧でシリンダの燃焼機関に新鮮な空気を導入する。これに関して、燃焼ストローク後にシリンダの燃焼機関を去る排気の熱エネルギーの一部を利用することができる。そのために、ホットガスを排出弁の開放によってシリンダの燃焼室から給気グループへと搬送する。給気グループは実質的にタービンを備え、これは圧力下で給気グループに入る高温の排気ガスによって駆動される。タービン側は圧縮機を駆動し、これを通して新鮮な空気が引き込まれ、圧縮される。タービン付きディフューザ、すなわち往々にして単にターボ過給機と呼ばれ、特に排他的ではないが2ストローク大型ディーゼルエンジンの場合に、圧縮機として遠心圧縮機を使用する装置は、いわゆるディフューザ、給気冷却器、水分離器及び給気受けが後に従い、そこから給気又は掃気としても知られる新鮮な圧縮空気が最終的に、大型ディーゼルエンジンのシリンダの個々の燃焼室に送られる。それ故、この種の給気グループを使用することにより、新鮮な空気の供給量が増加し、シリンダの燃焼室内における燃焼行程の効率を改良することができる。
【0003】
大型ディーゼルエンジンの場合、空気の送りはタイプに応じてシリンダの異なる位置で実行される。それ故、例えば、長手方向掃気式2ストロークエンジンでは、シリンダの下部領域の滑り面に配置された掃気スロットを介して燃焼室に空気が導入される。4ストロークエンジンでは、給気は一般的に、シリンダカバーに配置された1つ又は複数の給気弁を介して導入される。これに関しては、シリンダの下部領域にある掃気スロットの代わりに、シリンダカバー内の給気弁を装備した2ストロークエンジンも周知である。
【0004】
これに関して、ディーゼル燃焼機関の動作時に、大量の窒素酸化物(NO)が生じ、環境に悪影響を及ぼす。この理由から、環境を保護するために多大な努力がなされてきた。すなわち(NO)排出量が大幅に減少したディーゼルエンジンを開発することである。
【0005】
他方で、大型ディーゼルエンジンは、通常、常時運転では相当な期間にわたって動作し、これは運転の信頼性及び稼働率に対する要求を高くする。この理由から、特に長いサービスインターバル、すなわち高いオーバホール間隔(TBO:Time Between Overhaul)、少ない磨耗、及び燃料及び運転材料の経済的使用が、機械を選択する場合にオペレータにとって中心の基準となる。
【0006】
これに関して、一定のボアサイズ及びストロークでエンジンの出力を増加させると、シリンダの最大圧力を一定にした場合は燃料消費率が上昇することは周知の理論である。大抵の場合、出力の増加は、燃料消費率(sfoc)を一定に維持するか、又はより低い値を目標とするために、ピーク圧力の上昇によって実行される。しかし、既存の設計では、燃焼圧力の上昇は、構造的制限及び軸受け荷重などの他の要素によって上限を設けられる。
【0007】
低い燃料消費率のためのこの最適化行程は、既存の排出規則に適合するために、NOの少ない状態で達成しなければならない。この最適化行程における重要な要素の1つは、個々のシリンダの掃気性能である。この性能は、例えば、ポートの汚れを識別するために、以前はループ及び横断掃気エンジンで主に使用されていたようなライトスプリングインジケータ線図(圧力−容積線図)によってある程度説明することができる。しかし、この方法は掃気及びシリンダライナを通る流動様式の効率を定量化しない。低速ディーゼルエンジンの現在の世代では、sfocとNO排出量とのトレードオフを向上させるために、この行程を理解し、その措置を提供することが重要である。
【0008】
この20年間で計算能力が改良されたので、ディーゼルエンジンの製造業者がその製品を開発するために必要とする高価なプロトタイプを開発する必要が低下した。何故なら、行程パラメータ間で必要な数学的及び物理的関係がすべて、現在ではRAM及び処理速度が高いコンピュータ上でシミュレートできるからである。一般的にCFDとして知られている計算流体力学は、以前は流体の流れを予測していた。力学は現在、ディーゼルエンジンの開発ばかりでなく、工学のあらゆる側面で使用される一般的な工学的ツールである。エンジンの開発にこのようなツールを使用することにより、それ以外では必要とされていた時間及び労働集約的な実験を実行する必要性が低下した。さらに、シミュレーションツールは、シリンダ内で発生する物理的行程に関してよりよい理解を与えるので、固定されたシリンダ寸法からの出力を増大させ、それと同時に費用節約に直接関係する安全係数を低下させるなどの野心的な目標を達成することが可能である。これが可能であるのは、モデルが、例えば、点火特性が知られている基準燃料を使用することにより、燃焼スペース内の炎のサイズ及び形状を予測することができるからである。
【0009】
特定のエンジンタイプで実行した一連の実験からのデータでCFDモデルを検証し、次にこれを補外ツールとして使用して、他のエンジンレイアウト線図をマッピングし、その性能を監視することが一般的な方法である。しかし、簡単な直線補外は必ずしも正確な結果を出さないことも周知の事実である。シミュレーションツールが予測できない多くの要素の1つが、使用中の燃料の品質に基づき燃焼から高温部品に与える熱負荷である。最適化されたエンジン設計は、パラメータがCFDモデルによって画定された境界内にある限り、満足する性能を発揮する。これは言うまでもなく、構成要素の経時劣化又は保守不良による劣化の影響を考慮に入れて境界を寛容に設定していない限り、実際には稀にしか生じない。
【0010】
このような分析ツールを使用した熱力学の開発においてディーゼルエンジンのテクノロジーが進歩しているので、性能を予測し、エンジン内の欠陥を識別することができる監視技術を開発することが必要不可欠である。エンジンの熱力学的性能を監視するために使用する最も一般的なパラメータは、サイクルの種々のポイントにおける圧力及び温度である。ディーゼルエンジンの性能を監視するために最も広く使用されている技術は、上記圧力容積線図で、これはディーゼルエンジンより古い技術で、一般的にはインジケータカードと呼ばれている。これは、シリンダによって生じる表示出力を計算するために使用され、ライトスプリング版とともに使用すると、ガス交換行程を視覚化する。インジケータ計器は、一般的に「draw card」と呼ばれる位相ずれ線図を入手するために使用され、これは噴射及び燃焼期間中に欠陥を検出するのに役立つ。この技術は、熱力学行程の特定の欠陥を示すことができない。何故なら、この技術が温度の関数である圧力の測定を利用し、より低い空燃比で動作する現在のディーゼルエンジンを監視する場合には制限があるからである。
【0011】
これは、簡単な言葉で説明することができる。すなわち、空気質量及び体積が一定に維持されている場合、最高サイクル温度が100℃変化すると、圧力が1.04倍変化し、これは小さくて、インジケータ線図では絶対的な確実性で検出することができない。ストイキ状態(stochiometric conditions)に近づけて動作させると、分離(生成物を反応物に分解する吸熱反応)が生じ、これがサイクル温度を低下させる。それ故、温度の、及びその後の圧力の有意な変化は観察されない。しかし、シリンダでの空燃比が一様でないディーゼルエンジンシリンダでは、混合気が豊富な領域で燃焼速度が低下する。これは炎のサイズ及び燃焼期間に影響し、燃焼室構成要素への熱伝達率を上昇させる。
【0012】
現在まで、インジケータ計器から入手した線図でこのような欠陥を識別することは不可能であった。
【0013】
新しい技術を開発するために、ディーゼルエンジンとその負荷との相互作用、及び炎のサイズと空燃比との関係を理解することが必須である。エンジンを熱的過負荷状態に近づけて動作させると、燃焼室構成要素の使用寿命が短縮し、場合によっては破局的故障を引き起こすことがある。特定の異常シリンダ状態は、わずかしか上昇しないことがある平均排ガス温度によっては予測できないことが懸念されている。この数年は、ピストンの滑り問題が増加し、同じシリンダ寸法で出力を増加するとともに、シリンダライナのスカッフィングの発生率が上昇する。幾つかの要素がスカッフィングの開始に寄与し、不適切な燃焼がその1つである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
それ故、本発明の目的は、シリンダライナを失い、及びその結果として隣接するユニットが損傷するのを防止するために十分に先だってシリンダ状態を予測できる監視システム、さらに個々の方法を提案することである。また、本発明の別の目的は、ディーゼルエンジン設計のあらゆる態様で、その信頼性及び稼働率を同時に改良することにより、安全限界を低下させることである。
【0015】
すなわち、サービスインターバルを延長し、磨耗を減少させ、燃料及び運転材料の使用をさらに経済的にして、NO排出が大幅に減少した改良型の2ストローク大型ディーゼルエンジンを使用可能にすることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
これらの目的を満足する本発明の主題は、独立請求項1及び8の特徴によって特徴付けられる。
【0017】
従属請求項は、本発明の特に有利な実施形態に関する。
【0018】
それ故、本発明は、長手方向掃気式2ストローク大型ディーゼルエンジンの掃気行程の行程パラメータを最適化する掃気性能監視システムに関する。大型ディーゼルエンジンは、シリンダ内で滑り面に沿って下死点と上死点の間で前後に動作可能であるように配置されたピストンを含み、燃料は噴射ノズルによって大型ディーゼルエンジンのシリンダに送り込まれる。所定の量の掃気を供給するために、掃気スロットがシリンダの給気領域に設けられ、燃焼ガスを排除するために、排出弁がシリンダのシリンダカバーに設けられる。運転状態では、新鮮な空気が排ガスターボ過給機によって吸引され、所定の給気圧で掃気スロットを介して掃気としてシリンダに供給され、それ故、シリンダ内で掃気空気と燃料から点火混合気が生成される。本発明によれば、大型ディーゼルエンジンのシリンダの掃気性能を評価するために、少なくとも第1の酸素センサ及び第2の酸素センサがシリンダの滑り面に設けられる。
【0019】
本発明にとって、大型ディーゼルエンジンのシリンダの掃気性能を評価するために、少なくとも第1の酸素センサ及び第2の酸素センサを、実際には好ましくは複数の酸素センサをシリンダの滑り面に設けることが必須である。
【0020】
本発明による方法を使用して、個々のシリンダ内で捕捉した空気と燃料との比率、及び最高サイクル温度を初めて局所的に予測することができ、これによって標準的なインジケータカード技術に加えて熱状態システムを監視することができ、シリンダ状態をより正確に示す。本発明によるシステム及び方法は、言うまでもなく必要に応じてシステムに追加的に組み込むことができるインジケータカード技術とは別個に作用することができる。
【0021】
その結果、エンジンのシリンダの掃気改良が達成され、その結果、シリンダ内の純度が上昇し、捕捉された空気と燃料との比率が改良される。すなわちシリンダ内の混合気のλ値が最適になる。その効果は、燃焼継続時間の最適化であり、これは排ガス温度及び燃焼室構成要素温度の低下として観察することができ、構成要素の故障の危険性を低下させ、それと同時にTBO(オーバホール間隔)を長くする。
【0022】
これに関して、低速の長手方向掃気式大型ディーゼルエンジンのシリンダ内で生じる掃気行程は、周知の酸素センサ、例えば、既知のλ−ゾンデを使用して、シリンダ内の混合気の比率の時間分解並びに位置分解変化を監視できるように、十分低速で動作する。
【0023】
すなわち、シリンダの滑り面に設けた任意の酸素センサに関して、酸素センサは、酸素センサの位置で、掃気中の酸素濃度の時間による変化を監視することができる。
【0024】
他方で、第1の酸素センサをシリンダの滑り面の任意の第1の位置に配置し、第2の酸素センサをシリンダの滑り面の任意の第2の位置に配置した場合、本発明による掃気性能システムは、第1の酸素センサの第1の位置と第2の酸素センサの第2の位置との間で掃気中の酸素濃度の差を監視することができる。
【0025】
3つ以上の酸素センサを使用して、これを、例えば、シリンダの入口、特にシリンダの給気受け、シリンダの出口、特に排ガスダクトに、さらに複数の酸素センサを周囲に、さらにシリンダの滑り面の縦軸に沿って配置することにより、掃気の流れの時間及び位置分解輪郭を入手することができ、例えば、シリンダ内の酸素濃度の時間及び位置分解パターンを設定して、燃料消費量、NO排出量、温度及び機械的負荷など、大型ディーゼルエンジンの様々な行程パラメータを最適化することができる。
【0026】
すでに述べたように、実質的に非常に重要な特定の実施形態では、複数の酸素センサをシリンダの滑り面に周方向に設け、及び/又は複数の酸素センサをシリンダの縦軸に沿ってシリンダの滑り面に設ける。
【0027】
また、給気受けから排ガスダクトへの掃気の流れを監視するために、酸素センサを掃気スロット付近の入口に、特に給気受けに設けることが好ましく、及び/又はさらなる酸素センサをシリンダの出口に、特に大型ディーゼルエンジンの排ガスダクト及び/又は排ガスマニホールドに設ける。
【0028】
酸素センサからのデータを記録して、評価するために、データ収集装置を設けて、酸素センサからの信号を、特に大型ディーゼルエンジンのクランク角に対するシリンダの掃気性能を定量化するために、特にリアルタイム信号を入手する。
【0029】
運転状態で最適化すべき行程パラメータは、掃気性能そのもの、燃焼行程、燃料消費率、構成要素の磨耗率、エンジンの熱力学的行程パラメータ、2つのシリンダ間の力の平衡、NOと燃料消費率のトレードオフ、煤煙の発生、エネルギー消費及び/又は大型ディーゼルエンジンの掃気行程の別の行程パラメータでよく、行程パラメータは、掃気性能に従って最適化することが好ましい。
【0030】
本発明は、また、長手方向掃気式2ストローク大型ディーゼルエンジンの掃気行程の行程パラメータを掃気性能監視システムによって最適化するための方法に関する。2ストローク大型ディーゼルエンジンは、シリンダ内で滑り面に沿って下死点と上死点の間で前後に動作可能であるように配置されたピストンを含む。運転状態では、燃料が噴射ノズルによって大型ディーゼルエンジンのシリンダに送り込まれ、掃気スロットが、所定の量の掃気を供給するためにシリンダの給気領域に設けられ、出口弁が、燃焼ガスを排出するためにシリンダのシリンダカバーに設けられ、新鮮な空気が排ガスターボ過給機によって吸引され、掃気として所定の給気圧で掃気スロットを介してシリンダに供給され、それ故、シリンダ内で掃気及び燃料から燃焼混合気が生成される。本発明によれば、酸素濃度は、シリンダの滑り面に設けられている第1の酸素センサ及び第2の酸素センサによって検出され、大型ディーゼルエンジンのシリンダの掃気性能は、酸素濃度から評価される。
【0031】
第1の実施形態では、酸素濃度及び/又は掃気の流れの脈動及び/又は酸素シグネチャの輪郭が、シリンダの滑り面に周方向に設けられた複数の酸素センサによって、及び/又はシリンダの縦軸に沿ってシリンダの滑り面に設けられた複数の酸素センサによって、シリンダの複数の位置で入手される。
【0032】
実質的に非常に重要な特定の実施形態に関して、酸素濃度及び/又は掃気の流れの脈動及び/又は酸素シグネチャの輪郭が、掃気スロットの入口に設けられた酸素センサによって入手される、及び/又はシリンダの出口に、特に排ガスダクト及び/又は排ガスマニホールドに設けた酸素センサによって入手される。
【0033】
酸素センサからの信号、特にリアルタイム信号は、データ収集装置によって収集し、シリンダの掃気性能は、特に大型ディーゼルエンジンのクランク角に対して定量化することが好ましい。
【0034】
本発明による方法で最適化すべき行程パラメータは、掃気性能そのもの、燃焼行程、燃料消費率、構成要素の磨耗率、エンジンの熱力学的行程パラメータ、2つのシリンダ間の力の平衡、NOと燃料消費率のトレードオフ、煤煙の発生、エネルギー消費及び/又は大型ディーゼルエンジンの掃気行程の別の行程パラメータでよく、及び/又は行程パラメータは、掃気性能に従って最適化する。
【0035】
さらなる特定の実施形態に関して、掃気スロット周辺の逆流の継続時間及び/又はシリンダ内に捕捉された残留ガスの質量及び/又は流動様式のタイプ及び/又は掃気性能のサイクル毎の変動及び/又は未燃焼燃料の表示は、掃気性能監視システムによって識別される。
【0036】
以下で、図面の助けにより本発明をさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明による掃気性能監視システムを有する長手方向掃気式2ストローク大型ディーゼルエンジンを概略的に示す。
【図2】大型2ストロークディーゼルエンジンの好ましい実施形態である。
【図3】図2によるI−Iに沿った断面の一領域である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1は、様々な構成要素の協働を説明するために、排ガスターボ過給機システムを有する大型ディーゼルエンジンの原理的構造を略図で示し、ディーゼルエンジンは、長手方向に掃気する2ストローク大型ディーゼルエンジンとして形成され、本発明による掃気性能監視システムを有する。以下では、掃気性能監視システムを参照番号1で言及する。
【0039】
原則として、従来技術から周知の大型ディーゼルエンジン2は、通常、それ自身周知の方法で、自身のシリンダカバー9内に配置された出口弁8を有する複数のシリンダ4と、シリンダ4内で滑り面5に沿って下死点UTと上死点OTの間で動作可能であるように配置されたピストン3とを含む。シリンダカバー9があるシリンダ4のシリンダ壁とピストン3とが、周知の方法でシリンダ4の燃焼空間41の境界となる。複数の掃気開口部6がシリンダ4の給気領域に設けられ、掃気スロット6として設計される。ピストン3の位置に応じて、掃気スロット6はそれに覆われるか、露出する。給気7とも呼ばれる掃気7は、掃気スロット6を通してシリンダ4の燃焼空間41に送り込むことができる。燃焼中に発生する燃焼ガス10は、シリンダカバー9内に配置された出口弁8を通り、往々にして出口弁8に隣接する排ガスマニホールド14として設計された排ガスダクト14を通って、排ガスターボ過給機12内に流れる。
【0040】
それ自身周知の方法で、排ガスターボ過給機12は、基本的構成要素として新鮮な空気11を圧縮する圧縮機ロータ121を有する圧縮機、及びシャフトによって自身に固定状態で接続された圧縮機ロータ121を駆動するタービンロータ122を有するタービンも含む。タービン及び圧縮機はハウジング内に配置され、排ガスターボ過給機12を形成し、これはこの場合、圧縮機側に遠心圧縮機として形成される。タービンは、シリンダ4の燃焼空間41から流入する高温の燃焼ガス10によって駆動される。
【0041】
シリンダ4の燃焼室41に掃気7を給気するために、新鮮な空気11を給気スタブを介して圧縮機ロータ121に通して吸引し、排ガスターボ過給機12内で高圧に圧縮し、これはシリンダ4内で最終的に優勢になる給気圧よりも多少高い。圧縮された新鮮な空気11は、掃気7として排ガスターボ過給機12を通過し、後続のディフューザ1200及び給気冷却器1201を通り、水分離器1202を介して給気受け1203に入り、これは受け空間1203として形成することが好ましく、そこから圧縮された新鮮な空気11は、掃気7として最終的に上昇した給気圧で掃気スロット6を通過し、シリンダ4の燃焼空間41に入る。
【0042】
本発明によれば、大型ディーゼルエンジン2のシリンダ4の掃気性能を評価するために、第1の酸素センサ131及び第2の酸素センサ132を有する掃気性能監視システム1をシリンダ4の滑り面5に設ける。
【0043】
図2及び図3で、実質的に非常に重要である大型2ストロークディーゼルエンジンの好ましい実施形態を示す。図3は、図2による線I−Iに沿った断面の一領域である。
【0044】
分かりやすくするために、大型ディーゼルエンジン2のシリンダ4を1つのみ示す。シリンダ4は、従来技術から周知のように、シリンダカバー9と、シリンダ4内で滑り面5に沿って前後に動作可能であるように配置されたピストン3とを有する。シリンダカバー9を有するシリンダ4のシリンダ壁及びピストン3が、周知の方法でシリンダ4の燃焼空間41の境界となる。複数の掃気開口部6をシリンダ4の給気領域に設け、これは掃気スロット6として設計される。掃気7は、運転状態で、掃気7を排ガスターボ過給機12(図12には図示せず)から受ける受け空間1203から流出し、掃気スロット6を通ってシリンダ4の燃焼空間41に入る。燃焼中に発生する燃焼ガス10は、シリンダカバー9内に配置された出口弁8を通り、出口弁8に隣接する排ガスダクト14を通って排ガスターボ過給機12に流入する。
【0045】
図2及び図3の好ましい実施形態に関して、酸素濃度及び/又は掃気7の流れの脈動及び/又は酸素シグネチャの輪郭をそれぞれ、図3に示すようにシリンダ4の滑り面5に周方向に、及び図2から見られるようにシリンダ4の縦軸Aに沿って滑り面5に両方とも設けられた複数の酸素センサ130、131、132によって、シリンダ4内の複数の位置で入手する。また、酸素センサ130は、受け空間1203内の掃気スロット7に、及び排ガスダクト14に設けられる。
【0046】
図2及び図3による掃気性能監視システムを使用することにより、給気受け1203からシリンダ4を通って排ガスダクト14へと至る掃気7の流れを、各酸素センサ130、131、132によってリアルタイムで監視することができ、それ故、酸素濃度及び/又はシリンダ内の流れの時間及び位置分解パターンを設定し、燃料消費量、NO排出量、温度及び機械的負荷のような大型ディーゼルエンジンの様々な行程パラメータを最適化するために使用することができる。
【0047】
検討の最後に、本発明による掃気性能監視システムの技術的背景及び概念は、以下のように要約することができる。
【0048】
すべての低速2ストロークディーゼルエンジンは、掃気マニホールドと排気マニホールドの間の圧力差を利用して、シリンダの燃焼生成物を掃除し、以降のサイクルで燃焼するために新鮮な空気をそれに給気する。プロトタイプ及び実用試験中に、燃料消費率とNOとのトレードオフを改良するために重要であるのは、このガス交換行程の最適化である。最適化された現世代の低速ディーゼルエンジンでは、ガス交換行程が部分的に損傷すると、TBOが低下し、場合によっては構成要素が故障する。他の行程パラメータとともにガス交換行程を評価すると、エンジンの熱力学的性能が示される。エンジンの熱力学的性能を監視するために使用される最も一般的なパラメータは、サイクルの種々のポイントにおける圧力及び温度である。
【0049】
ディーゼルエンジンの性能を監視するために従来技術で最も広く使用されている技術は、圧力容積線図であり、これはディーゼルエンジンより古い技術で、一般的にインジケータカードと呼ばれる。今日の低速ディーゼルエンジンでは、エンジンの性能にとって重要な熱力学的行程の特定の障害を、試験及び運転中に示すことができない。掃気性能監視システムは、一連の酸素センサを使用してエンジンの掃気性能を評価する。システムのセンサは、エンジンの個々のシリンダ又は全シリンダ上で以下の位置にて1つ又は複数のポイントに取り付けられる。
1.掃気ポートの入口
2.ライナの周方向
3.ライナのストローク沿い
4.シリンダの出口
【0050】
それ故、本発明の掃気性能監視システムは、掃気行程で以下の行程パラメータを識別するために使用される。
1.掃気行程の開始中にポートの周囲の逆流の継続時間
2.排気弁が閉じた瞬間にシリンダ内に捕捉された残留ガスの質量、すなわち圧縮の開始時のシリンダ純度
3.流動様式のタイプ、すなわちプラグフロー、シリンダを通る完全な混合及び/又は短絡、及びクランク角の関数としてのその継続時間、又はポート及び排気弁の開放部分
4.個々のシリンダ又は複数のシリンダにおける掃気性能のサイクル毎の変動
5.シリンダ内の燃焼延長及び排ガス中の未燃焼燃料の表示
6.複数の位置で入手した酸素シグネチャの輪郭が、シリンダを通る流れのいかなる脈動も表示する。
【0051】
センサからのリアルタイム信号は、データ収集システムによってエンジンのクランク角に対して収集され、掃気性能を定量化するために評価される。システムは、特に以下の用途で使用することができる。
1.試験台上で、及び運転中の燃焼行程の監視及び最適化
2.燃料消費率
3.設計中の構成要素の磨耗率の最適化、及び運転中のリアルタイムの構成要素磨耗測定に基づく再最適化
4.運転中に遭遇する様々な燃料等級でのエンジンの熱力学的行程パラメータの最適化
5.試験台上及び運転中のエンジンの性能監視
6.シリンダ間の力の平衡
7.NOとsfocとのトレードオフの最適化
8.無煙運転の達成
9.比較的大きい発電所の一部としてのエンジンのエネルギー節約
【0052】
本明細書で述べた本発明による実施形態はすべて、単なる例示としてのものとして理解され、特に説明したような又は明らかに本発明の文脈に入るすべての実施形態は、単独で、又は本発明による実施形態の特定の例ではすべての適切な組合せで提供することができ、それ故、本発明で説明する実施形態のすべての適切な組合せは本発明に包含され、含まれる。
【符号の説明】
【0053】
1 掃気性能監視システム
2 大型ディーゼルエンジン
3 ピストン
4 シリンダ
5 滑り面
6 掃気スロット
7 掃気
8 出口弁
9 シリンダカバー
10 燃焼ガス
12 排ガスターボ過給機
14 排ガスマニホールド
41 燃焼室
121 圧縮機ロータ
122 タービンロータ
130,131,132 酸素センサ
1200 ディフューザ
1201 給気冷却器
1202 水分離器
1203 給気受け

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向掃気式2ストローク大型ディーゼルエンジン(2)の掃気行程の行程パラメータを最適化するために、シリンダ(4)内で滑り面(5)に沿って下死点(UT)と上死点(OT)の間で前後に動作可能であるように配置されているピストン(3)を有する掃気性能監視システムであって、燃料が、噴射ノズルによって前記大型ディーゼルエンジン(2)の前記シリンダ(4)に送り込まれ、所定の量の掃気(7)を供給するために、前記シリンダ(4)の給気領域に掃気スロット(6)が設けられ、燃焼ガス(10)を排出するために前記シリンダ(4)のシリンダカバー(9)に出口弁(8)が設けられ、運転状態で、新鮮な空気(11)が排ガスターボ過給機(12)によって吸引され、掃気(7)として所定の給気圧力で掃気スロット(6)を介してシリンダ(4)に供給され、それ故、点火混合気が前記シリンダ(4)内で前記掃気(7)及び前記燃料から生成され、前記大型ディーゼルエンジン(1)の前記シリンダ(4)の掃気性能を評価するために、前記シリンダ(4)の前記滑り面(5)に少なくとも第1の酸素センサ(130,131)及び第2の酸素センサ(130、132)を設けることを特徴とする掃気性能監視システム。
【請求項2】
複数の酸素センサ(130,131,132)が、前記シリンダ(4)の前記滑り面(5)に周方向に設けられる、請求項1に記載の掃気性能監視システム。
【請求項3】
複数の酸素センサ(130,131,132)が、前記シリンダ(4)の縦軸(A)に沿って前記シリンダ(4)の前記滑り面(5)に設けられる、請求項1又は2のいずれか1項に記載の掃気性能監視システム。
【請求項4】
酸素センサ(130)が、前記掃気スロット(6)の入口に、特に給気受け(1302)に設けられる、請求項1から3のいずれか1項に記載の掃気性能監視システム。
【請求項5】
酸素センサ(130)が、前記シリンダの出口に、特に排ガスダクト(14)及び/又は排ガスマニホールド(14)に設けられる、請求項1から4のいずれか1項に記載の掃気性能監視システム。
【請求項6】
特に前記大型ディーゼルエンジン(2)のクランク角に対して、シリンダ(4)の前記掃気性能を定量化するために、前記酸素センサ(130,131,132)からの信号、特にリアルタイム信号を収集するデータ収集装置(1000)が設けられる、請求項1から5のいずれか1項に記載の掃気性能監視システム。
【請求項7】
前記行程パラメータが、前記掃気性能そのもの、燃焼行程、燃料消費率、構成要素の磨耗率、エンジンの熱力学的行程パラメータ、2つのシリンダ(4)間の力の平衡、NOと燃料消費率のトレードオフ、煤煙の発生、エネルギー消費及び/又は前記大型ディーゼルエンジン(2)の前記掃気行程の別の行程パラメータであり、及び/又は前記行程パラメータが、前記掃気性能に従って最適化される、請求項1から6のいずれか1項に記載の掃気性能監視システム。
【請求項8】
長手方向掃気式2ストローク大型ディーゼルエンジン(2)の掃気行程の行程パラメータを掃気性能監視システム(1)によって最適化するための方法であって、前記2ストローク大型ディーゼルエンジン(2)が、シリンダ(4)内で滑り面(5)に沿って下死点(UT)と上死点(OT)の間で前後に動作するように配置されているピストン(3)を含み、燃料が、噴射ノズルによって前記大型ディーゼルエンジン(2)の前記シリンダ(4)へと送り込まれ、所定の量の掃気(7)を供給するために前記シリンダ84の給気領域に掃気スロット(6)が設けられ、燃焼ガス(10)を排出するために前記シリンダ(4)のシリンダカバー(9)に出口弁(8)が設けられ、運転状態で、新鮮な空気(11)が排ガスターボ過給機(12)によって吸引され、掃気(7)として所定の給気圧力で掃気スロット(6)を介してシリンダ(4)に供給され、それ故、点火混合気が前記シリンダ(4)内で前記掃気(7)及び前記燃料から生成され、酸素濃度が、前記シリンダ(4)の前記滑り面(5)に設けられている第1の酸素センサ(130,131)及び第2の酸素センサ(130、132)によって検出され、前記大型ディーゼルエンジン(1)の前記シリンダ(4)の掃気性能が前記酸素濃度から評価されることを特徴とする方法。
【請求項9】
酸素濃度及び/又は前記掃気の流れの脈動及び/又は酸素シグネチャの輪郭が、前記シリンダ(4)の前記滑り面(5)に周方向に設けられた複数の酸素センサ(130,131,132)によって、前記シリンダ(4)の複数の位置で入手される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
酸素濃度及び/又は前記掃気の流れの脈動及び/又は酸素シグネチャの輪郭が、前記シリンダ(4)の縦軸(A)に沿って前記シリンダ(4)の前記滑り面(5)に設けられた複数の酸素センサ(130,131,132)によって、前記シリンダ(4)の複数の位置で入手される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
酸素濃度及び/又は前記掃気の流れの脈動及び/又は酸素シグネチャの輪郭が、前記掃気スロット(6)の入口に、特に給気受け(1302)に設けられた酸素センサ(130)によって入手される、請求項8から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
酸素濃度及び/又は前記掃気の流れの脈動及び/又は酸素シグネチャの輪郭が、前記シリンダ(4)の出口に、特に排ガスダクト(14)及び/又は排ガスマニホールド(14)に設けられた酸素センサ(130)によって入手される、請求項8から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記酸素センサ(130,131,132)からの信号、特にリアルタイム信号がデータ収集装置(1000)によって収集され、シリンダ(4)の前記掃気性能が、特に前記大型ディーゼルエンジン(2)のクランク角に対して定量化される、請求項8から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記行程パラメータが前記掃気性能そのもの、燃焼行程、燃料消費率、構成要素の磨耗率、エンジンの熱力学的行程パラメータ、2つのシリンダ(4)間の力の平衡、NOと燃料消費率のトレードオフ、煤煙の発生、エネルギー消費及び/又は前記大型ディーゼルエンジンの前記掃気行程の別の行程パラメータであり、及び/又は前記行程パラメータが、前記掃気性能に従って最適化される、請求項8から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記掃気スロット(6)周辺の逆流の継続時間及び/又は前記シリンダ(4)内に捕捉された残留ガスの質量及び/又は流動様式のタイプ及び/又は前記掃気性能のサイクル毎の変動及び/又は未燃焼燃料の表示が、前記掃気性能監視システム(1)によって識別される、請求項8から14のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−264372(P2009−264372A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67262(P2009−67262)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(501082602)ヴェルトジィレ シュヴァイツ アクチェンゲゼルシャフト (46)
【Fターム(参考)】