説明

長時間注射装置

【課題】 例えば、皮膚表面に設置され、長時間にわたってインシュリンなどの薬液を皮膚内に注射することができる長時間注射装置に係り、特に、簡易且つ安価な構成となる長時間注射装置を提供すること。
【解決手段】 ケースと、ケースから突出・配置され流出口が設けられたマイクロニードルと、流出口と連通しその内部に薬液が充填される薬液充填部と、ケース内部に設けられ薬液充填部内に充填された薬液を上記流出口側へ押し出すピストンと、ケース内部に設けられピストンを薬液を押し出す方向に常時付勢する弾性部材と、ケース内部に設けられ弾性部材によるピストンの薬液の押し出し方向への移動を規制し環境変化により自身の状態が徐々に変化することによりピストンの薬液の押し出し方向への移動を漸次許容するスペーサと、を具備することを特徴とする長時間注射装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、予め薬液が充填されている長時間注射装置に係り、特に、簡易、且つ、安価な構成により微量の薬液を長時間かけて注射することができるように工夫したものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、連続的な投薬目的のため、点滴やシリンジポンプを用いた長時間注射装置を用いてきた。しかし、点滴やシリンジポンプを用いた長時間注射装置は大掛かりで携帯することができなかった。そのため、患者が場所を問わず使用できるものではなく、特に、家庭内での注射を行うインシュリン治療などには不向きであった。
そこで、長時間注射装置の小型化が図られ、例えば、特許文献1に記載された生体内薬剤放出装置及び生体内薬剤放出キットや特許文献2に記載された薬剤供給装置のようなものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−220766号公報
【特許文献2】特表2005−525149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の構成によると次のような問題があった。特許文献1に記載された生体内薬剤放出装置及び生体内薬剤放出キットや特許文献2に記載された薬剤供給装置の場合には、ポンプなどを駆動させるために電源が必要であり、且つ、長時間にわたって微量の薬液を注入するように制御するためのマイクロプロセッサや電気回路が必要であった。そのため、構成が複雑となり、又、高価な装置になってしまうという問題があった。
【0005】
本願発明は、このような点に基づいてなされたもので、その目的とするところは、簡易、且つ、安価な構成により薬液を長時間にわたって皮膚内に注射することができる長時間注射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するべく本願発明の請求項1に記載された長時間注射装置は、ケースと、上記ケースから突出・配置され流出口が設けられたマイクロニードルと、上記流出口と連通しその内部に薬液が充填される薬液充填部と、上記ケース内部に設けられ上記薬液充填部内に充填された薬液を上記流出口側へ押し出すピストンと、上記ケース内部に設けられ上記ピストンを上記薬液を押し出す方向に常時付勢する弾性部材と、上記ケース内部に設けられ上記弾性部材による上記ピストンの上記薬液の押し出し方向への移動を規制し環境変化により自身の状態が徐々に変化することにより上記ピストンの上記薬液の押し出し方向への移動を漸次許容するスペーサと、を具備することを特徴とするものである。
又、請求項2に記載された長時間注射装置は、請求項1記載の長時間注射装置において、上記スペーサは環境変化により溶解又は昇華することにより上記ピストンの上記薬液の押し出し方向への移動を漸次許容するものであり、上記スペーサは錐体形状を成していることを特徴とするものである。
又、請求項3に記載された長時間注射装置は、請求項1又は請求項2記載の長時間注射装置において、上記ケース内部にマイクロニードルユニット本体が設置され、上記マイクロニードルと上記マイクロニードルユニット本体からマイクロニードルユニットが構成されており、上記マイクロニードルは上記マイクロニードルユニット本体から突出・形成されたものであることを特徴とするものである。
又、請求項4に記載された長時間注射装置は、請求項3記載の長時間注射装置において、上記ケース内部には上記マイクロニードルユニットが収納・配置されるマイクロニードルユニット収納部と上記薬液充填部の一部を構成する流路が設けられた内部ブロックが設置されていることを特徴とするものである。
又、請求項5に記載された長時間注射装置は、請求項4記載の長時間注射装置において、上記内部ブロックには上記流路と連通し上記薬液充填部の一部を構成する延長流路が設けられた延長ブロックが接続されていることを特徴とするものである。
又、請求項6に記載された長時間注射装置は、請求項3〜請求項5の何れかに記載の長時間注射装置において、上記マイクロニードルユニットは分割要素を貼り合わせたものであることを特徴とするものである。
又、請求項7に記載された長時間注射装置は、請求項1〜請求項6の何れかに記載の長時間注射装置において、上記ケースの外壁の一部又は全部が熱伝導性材料からなることを特徴とするものである。
又、請求項8に記載された長時間注射装置は、請求項1〜請求項7の何れかに記載の長時間注射装置において、上記ケースには上記長時間注射装置の非使用時において上記スペーサの環境が変化しないようにケース内部と外部を遮断する栓が設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
以上述べたように、本願発明の請求項1記載の長時間注射装置によると、弾性部材により薬液を押し出す方向へ常時付勢されているピストンがあり、このピストンの薬液を押し出す方向への移動はスペーサによって規制されている。また、このスペーサは環境変化により状態が変化し、それによって上記ピストンの移動規制が漸次許容される構成となっている。そのため、モータや電気回路などの複雑で高価な構成によらなくても、薬液を長時間にわたって放出することができる長時間注射装置を提供することができる。
又、請求項2記載の長時間注射装置によると、例えば、スペーサを水によって少しずつ溶けていくような材料で作成し、ケース内部に任意に水を入れることができるようにすれば、スペーサが水中に没するという環境の変化により溶けることによってピストンの移動が漸次許容される構成を実現することができる。そのため、より安価で簡易な構成により、長時間注射器を提供することができる。
又、請求項3記載の長時間注射装置によっても、同様の効果を得ることができる。
又、請求項4記載の長時間注射装置によると、薬液充填部の一部を構成する流路が設けられた内部ブロックをケース内に設け、その内部ブロックにマイクロニードルユニットを収納・配置している。そのため、複数のマイクロニードルユニットを設置した際、内部ブロックの流路と複数のマイクロニードルユニットの薬液充填部を合流させて一つの薬液充填部とすることにより、ピストン、スペーサ及び弾性部材を一つずつ使用するだけで全てのマイクロニードルユニットのマイクロニードルに設けられた流出口から同時に薬液を放出することができる。また、ケースと内部ブロックの設計変更により、容易にマイクロニードルユニットの数を増減することができる。
又、請求項5記載の長時間注射装置によると、内部ブロックの流路と連通し上記薬液充填部の一部を構成する延長流路が設けられた延長ブロック設けられている。そのため、より柔軟に設計変更に対応することができる。
又、請求項6記載の長時間注射装置によると、マイクロニードルユニットは分割要素を貼り合わせたものである。そのため、例えば、樹脂成形などによって、容易にマイクロニードルユニットを製造することができる。
又、請求項7記載の長時間注射装置によると、ケースの外壁の一部又は全部が熱伝導性材料からなる。そのため、長時間注射器を設置した皮膚から体温をケース内部へ伝達することでケース内部の温度を体温付近で安定させ、スペーサの状態が変化する速度を一定に保ち、薬液の皮膚内への放出速度を安定させることができる。
又、請求項8記載の長時間注射装置によると、ケースには長時間注射装置の非使用時において、スペーサの環境が変化しないようにケース内部と外部を遮断する栓が設けられている。そのため、使用する前の長時間注射器が不用意に動作してしまうことを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本願発明の第1の実施の形態を示す図で、長時間注射装置の斜視図である。
【図2】本願発明の第1の実施の形態を示す図で、長時間注射装置の分解斜視図である。
【図3】本願発明の第1の実施の形態を示す図で、図1におけるIII−III断面図である。
【図4】本願発明の第1の実施の形態を示す図で、図4(a)は長時間注射装置に用いられるマイクロニードルの正面図、図4(b)は長時間注射装置に用いられるマイクロニードルの側面図、図4(c)は長時間注射装置に用いられるマイクロニードルの底面図である。
【図5】本願発明の第1の実施の形態を示す図で、図5(a)は長時間注射装置に用いられるスペーサを示す斜視図、図5(b)は長時間注射装置に用いられるピストンを示す斜視図である。
【図6】本願発明の第1の実施の形態を示す図で、長時間注射装置を皮膚表面に設置しマイクロニードルを皮膚に突き刺した状態で、スペーサがまだ溶解していない状態を示す断面図である。
【図7】本願発明の第1の実施の形態を示す図で、長時間注射装置を皮膚表面に設置しマイクロニードルを皮膚に突き刺した状態で、スペーサが溶解されて薬液が皮膚内に注入されている状態を示す断面図である。
【図8】本願発明の第1の実施の形態及び比較例を示す図で、図8(a)は第1の実施の形態を示す図で円錐形状のスペーサがまだ溶解されていない状態を示す拡大断面図、図8(b)は第1の実施の形態を示す図で円錐形状のスペーサがある程度溶解された状態を示す拡大断面図、図8(c)は比較例を示す図で円柱形状のスペーサがまだ溶解されていない状態を示す拡大断面図、図8(d)は比較例を示す図で円柱形状のスペーサがある程度溶解された状態を示す拡大断面図である。
【図9】本願発明の第2の実施の形態を示す図で、長時間注射装置を皮膚表面に設置しマイクロニードルを皮膚に突き刺した状態の断面図である。
【図10】本発明の第3の実施の形態を示す図で、長時間注射装置を示す断面図である。
【図11】本発明の第4の実施の形態を示す図で、長時間注射装置を示す断面図である。
【図12】本発明の第5の実施の形態を示す図で、長時間注射装置の中空部内にスペーサの材料を気化したガスが充填されたとなっている状態を示す断面図である。
【図13】本発明の第5の実施の形態を示す図で、長時間注射装置の中空部内に空気が入った状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図1乃至図8を参照して、本発明の第1の実施の形態について説明する。
【0010】
本実施の形態による長時間注射装置1には、図1に示すように、ケース3がある。上記ケース3は蓋3aとケース本体3bから構成されている。また、図2に示すように、上記蓋3aの中央付近には貫通孔5が穿孔されている。また、上記蓋3aの図2中下側の面の四隅には係合用凸部7、7、7、7が形成されている。
【0011】
上記ケース本体3bには、図2中上側に開口した中空部9が設けられている。また、図2に示すように、上記中空部9の底面(図2中下側の面)の中央付近には、ばね用係合凸部11が突出・形成されている。また、上記中空部9の底面(図2中下側の面)には、上記中空部9と外部とを連絡する注入口13が設けられている。また、上記ケース本体3bの外壁上端の四隅には、上記係合用凸部7、7、7、7が係合される係合用凹部15、15、15、15が形成されている。上記係合用凸部7、7、7、7を上記係合用凹部15、15、15、15に係合させることにより、上記蓋3aを上記ケース本体3bに取り付け、それによって、上記ケース3が構成されることになる。
【0012】
上記蓋3aの反係合用突部7側の面(図1中上側の面)の全面には、剥離紙19が、シート状の接着剤17を介して、貼り付けられている。
【0013】
又、図3に示すように、上記ケース3の中空部9内にはマイクロニードルユニット21が設置されている。上記マイクロニードルユニット21は、略直方体形状のマイクロニードルユニット本体23と、このマイクロニードルユニット本体23の図4(a)中上側の面から突出・形成された略円柱形状の基部25と、この基部25の先端面(図4(a)中上側の面)から垂直に突出・形成されたマイクロニードル27とから構成されている。
【0014】
また、図4(a)に示すように、上記マイクロニードルユニット21内には、その底面(図4中下側の面)に開口した薬液充填部29が形成されている。上記薬液充填部29内には薬液30が充填されている。上記マイクロニードルユニット21は、上記マイクロニードルユニット21を二つ割り(均等に二分割した構成)にした分割要素31a、31bを貼りあわせることにより構成されている。
尚、上記分割要素31a、31bの先端側は非接着となっていて隙間が形成されており、この隙間が流出口33となっている。
【0015】
上記マイクロニードルユニット21は、図3に示すように、上記ケース3に固定されることになる。その際、上記マイクロニードルユニット本体23は上記ケース3の中空部9内に配置され、且つ、上記基部25は上記ケース3の貫通孔5に係合されることになる。また、上記マイクロニードルユニット21を上記ケース3に固定した状態では、上記マイクロニードルユニット21のマイクロニードル27は、上記ケース3の上面(図3中上側の面)側の外部へと、上記接着剤17及び上記剥離紙19を貫通した状態で、突出・配置されることになる。
【0016】
又、図3に示すように、上記マイクロニードルユニット21の図3中下面側にスペーサ35が介挿されている。上記スペーサ35は、図5(a)に示すように、略逆円錐形状をなしており、その中心軸位置には貫通孔37が穿孔・形成されている。又、上記スぺーサ35の側面36は傾斜した状態となっている。また、上記スペーサ35は、例えば、水中において徐々に溶解される性質を有するプラスチックなどから成形されたものである。上記マイクロニードルユニット21と上記スペーサ35は、上記スペーサ35の底面(図3中上側の面)と上記マイクロニードルユニット21の底面(図3中下側の面)とを当接させた状態で配置されている。
【0017】
また、図3に示すように、上記ケース3の中空部9内にはピストン39が設置されている。上記ピストン39は、図5(b)に示すように、円盤状の頭部39aと、この頭部39aの中央から垂直に突出・形成された軸部39bから構成されている。図3に示すように、上記軸部39bは上記スペーサ35の貫通孔37を貫通し、上記マイクロニードルユニット21の薬液充填部29内に挿入されている。上記頭部39aは上記スペーサ35の図3中下側に当接・配置されている。
【0018】
また、図3に示すように、上記ケース3の中空部9内には、弾性部材としてのコイルばね41が設置されている。上記コイルばね41は、その下端側(図3中下側)を上記ケース3のばね用係合凸部11に係合され、その上端(図3中上端)を上記ピストン39の頭部39aに当接させた状態で設置されている。上記コイルばね41は、上記ピストン39を図3中上側に向かって常時付勢している。
【0019】
上記ピストン39の軸部39bの長さ(図5(b)中上下方向長さ)や上記スペーサ35の高さ(図5(a)中上下方向長さ)等を調整することにより、上記スペーサ35が完全に溶けるまでの間に上記ピストン39により押し出される上記薬液30の体積、すなわち、最終的に上記流出口33から外部へ流出する上記薬液30の量を調整することができる。
また、上記スペーサ35の溶ける速度はその材料の種類に依存する。そのため、上記スペーサ35の材料を変更することにより、上記薬液30の流出速度を調整することができる。
【0020】
また、上記ケース3の中空部9内には、上記注入口13を塞ぐようにシール43が貼り付けられている。上記シール43はシリコンゴムなどの弾性体からなる円形の小片である。
【0021】
次に、本実施の形態による長時間注射装置1の使用方法、及び、作用について説明する。
まず、剥離紙19を上記長時間注射装置1から剥がし、接着剤17を露出させる。そして、図6に示すように、上記接着剤17側の面(図6中上側の面)を皮膚45側に向け、上記長時間注射装置1を上記皮膚45表面に貼り付けて固定する。
【0022】
そして、ケース3の注入口13から図示しない注射器の注射針を差し込んでシール43を貫通させ、上記ケース3の中空部9内に水47を注入する。上記中空部9内を上記水47によって満たした後、上記注射器を抜き取る。このとき、上記シール43には注射器の針によって穴が開くが、上記シール43の弾性力により穴は塞がれ、上記中空部9内と外部との気密は保たれる。
【0023】
上記中空部9内が上記水47で満たされるとスペーサ35が水によって外周側から徐々に溶け始め、図7に示すように、上記スペーサ35の高さHは時間と共に徐々に減少していく。図6及び図8(a)には上記中空部9内に上記水47を注入した直後の状態が示されており、図7及び図8(b)には上記中空部9内に上記水47を注入してから一定時間が経過した状態が示されている。
【0024】
上記中空部9内に上記水47を注入した直後は、図6及び図8(a)に示すように、上記スペーサ35の高さ(マイクロニードルユニット21とピストン39の頭部39aの間の距離)HはHmaxとなっている。この状態から一定時間が経過すると、図7及び図8(b)に示すように、上記スペーサ35の高さ(マイクロニードルユニット21とピストン39の頭部39aの間の距離)HはHmaxよりも小さいH1となっている。
【0025】
上記スペーサ35が上記水47によって溶けていく過程を、図8を用いて詳細に説明する。まず、上記中空部9内に上記水47を注入した直後は、図8(a)に示すように、上記スペーサ35まだ溶けてはいない。上記スペーサ35は前述したように略逆円錐形状をなしており、上端(図8(a)中下側端)はピストン39の頭部39aと当接・密着しており、底面(図8(a)中上側端)は上記マイクロニードルユニット21の底面(図8(a)中下側の面)と当接・密着している。そのため、上記水47と上記スペーサ35が接するのは、その側面36のみとなる。よって、上記スペーサ35は、上記側面36が上記水47によって溶かされていくことになる。
【0026】
上記スペーサ35の側面36は傾斜しているため、上記スペーサ35が上記側面36側から溶かされていくに従って、図8(b)に示すように、上記スペーサ35の高さHが減少していく。
因みに、図8(c)に示すように、上記スペーサ35の代わりに円柱形状のスペーサ49を用いたとする。この場合には、上記水47を注入した直後の図8(c)に示す状態から徐々に上記スペーサ49が溶けていっても、図8(d)に示すような状態となるだけである。つまり、その高さ(マイクロニードルユニット21とピストン39の頭部39aの間の距離)hは殆ど変化しないこととなる。
この点、本実施の形態の場合には、略逆円錐形状のスペーサ35を用いるようしているので、後述するように、上記ピストン39は上記スペーサ35の高さ(マイクロニードルユニット21とピストン39の頭部39aの間の距離)Hの減少とともに図6中上方向に上昇していくことになる。
【0027】
上記スペーサ35の図6中下側には上記ピストン39の頭部39aが配置されており、上記ピストン39はコイルばね41によって、図6中上側に付勢されている。また、上記ピストン39の図6中上側への移動は上記スペーサ35によって規制されている。そのため、上記スペーサ35の溶解に従って高さ(マイクロニードルユニット21とピストン39の頭部39aの間の距離)Hが減少していくとともに、上記ピストン39も図6中上側に向かって徐々に上昇していくことになる。
【0028】
上記ピストン39の上昇によって、上記マイクロニードルユニット21の薬液充填部29内に充填された薬液30が付勢され、図6中上側に向かって押し上げられる。そして、上記薬液30はマイクロニードル27先端の流出口33から皮膚45内へと放出される。上記ピストン39は、前述のように、上記スペーサ35が溶解するに従って徐々に上昇していくため、上記薬液30の流出速度も非常に遅いものであり、少量の上記薬液30は長時間にわたって上記皮膚45内に放出されることになる。
【0029】
以上、本実施の形態による長時間注射装置1によると次のような効果を奏することができる。
まず、本実施の形態による長時間注射装置1の場合には、スペーサ35が徐々に溶けていくことにより、ピストン39がコイルばね41のスプリング力によって徐々に上昇していき、それによって、薬液30をマイクロニードル27先端の流出口33から外部へ徐々に押し出す構成となっている。そのため、上記長時間注射装置1は、電池やマイクロプロセッサなどの複雑で高価な構成を必要とせずに、所定の量の上記薬液30を所定の速度で皮膚45内に放出することができ、構成の簡略化とコストの低減を図ることができる。
また、上記長時間注射装置1は、前述のような簡易な構成からなり、小型化も容易である。
また、シール43によってケース3の中空部9内と外部が完全に遮断されているため、使用開始前に上記長時間注射器1が不用意に動作してしまうのを防止することができる。
【0030】
次に、図9を用いて、本願発明の第2の実施の形態について説明する。
本実施の形態による長時間注射装置53は、図9に示すような構成のものである。本実施の形態による長時間注射装置53は、ケース3の蓋3aには熱伝導部55が設けられている。上記熱伝導部55は、熱伝導性の高い銅などから構成されており、上記蓋3aの貫通孔5周辺から外周部付近までの広い範囲を構成している。
尚、その他の部分は前記第1の実施の形態の場合と同一であり、よって、同一部分には同一と背符号を付して示しその説明は省略する。
【0031】
本実施の形態による上記長時間注射装置53の使用方法は、前述した第1の実施の形態の場合と略同様である。
又、上記長時間注射装置53は、前述した第1の実施の形態による長時間注射装置1による作用に加え、以下のような作用を奏する。すなわち、上記長時間注射装置1を皮膚45表面に取り付けた際、ケース3の上記皮膚45側(図9中上側)に設けられた熱伝導部55によって上記皮膚45から中空部9内の水47に体温による熱が伝導される。その結果、水47の温度が体温付近で安定することになり、それによって、スペーサ35の溶解速度が安定すると共に薬液30の上記皮膚45内への放出も一定速度で安定するようになる。
【0032】
よって、前述した第1の実施の形態による長時間注射装置1による効果に加え、以下のような効果を奏する。すなわち、熱伝導部55によって中空部9内の水47に体温による熱が伝導されるため、上記水47の温度が体温付近で安定し、スペーサ35の溶解速度が安定すると共に薬液30の上記皮膚45内への放出も一定速度で安定するようになる。
また、上記スペーサ35の材質を、体温付近での溶解速度によって適宜選択することにより、上記薬液30の上記皮膚45内への放出速度を調整することができる。
【0033】
次に、図10を用いて、本願発明の第3の実施の形態について説明する。
本実施の形態による長時間注射装置57は、図10に示すような構成のものである。本実施の形態による長時間注射装置57には、まず、ケース59がある。上記ケース59は、蓋59aとケース本体59bからなる。上記蓋59aには、一列に並んだ5つの貫通孔61、61、61、61、61が穿孔されている。また、上記蓋59aの図10中下側の面の四隅には、図示しない係合用凸部が一つずつ突出・形成されている。
【0034】
上記ケース本体59bには、図10中上側に開口した中空部65が設けられている。図10に示すように、上記中空部65の底面(図10中下側の面)の中央付近には、上記貫通孔61、61、61、61、61に対応した5つのばね用係合凸部67、67、67、67、67が突出・形成されている。また、上記中空部65の底面(図10中下側の面)には、上記中空部65と外部とを連絡する注入口69が設けられている。また、上記ケース本体59bの外壁上端の四隅には、上記係合用凸部に対応する図示しない係合用凹部が一つずつ形成されている。
【0035】
上記係合用凸部と上記係合用凹部によって上記蓋59aを上記ケース本体59bに係合させると、上記ケース59が構成されることになる。また、本実施の形態による長時間注射装置57には、マイクロニードルアレイ21、スペーサ35、ピストン39、コイルばね41が、それぞれ5つずつ設けられている。5つの上記コイルばね41は、5つの上記ばね用係合凸部67のそれぞれに一つずつ係合されている。
尚、尚、その他の部分は前記第1の実施の形態の場合と同一であり、よって、同一部分には同一と背符号を付して示しその説明は省略する。
【0036】
本実施の形態による長時間注射装置57の使用方法や作用は、前述した第1の実施の形態による長時間注射装置1と同様である。
そして、本実施の形態による長時間注射装置57は、前述した第1の実施の形態による長時間注射装置1と同様の効果に加え、以下のような効果を奏する。すなわち、上記長時間注射装置57は複数のマイクロニードルアレイ21、スペーサ35、ピストン39、コイルばね41が設けられているため、複数のマイクロニードルから連動させて薬液30を皮膚45内に放出させることができる。
【0037】
次に、図11を用いて、本願発明の第4の実施の形態について説明する。本実施の形態においては、マイクロニードルユニット21、スペーサ35、ピストン39、コイルばね41、シール43、皮膚45、水47が、前述した第1の形態の場合と共通している。よって、これらの構成要素については第1の実施の形態の場合と同じ符号を付して説明する。
【0038】
本実施の形態による長時間注射装置73には、まず、ケース75がある。上記ケース75は、蓋75aとケース本体75bからなる。上記蓋75aには、一列に並んだ5つの貫通孔77、77、77、77、77が穿孔されている。また、上記蓋75aの図11中下側の面の四隅には、図示しない係合用凸部が一つずつ突出・形成されている。
【0039】
上記ケース本体75bには、図11中上側に開口した中空部81が設けられている。図11に示すように、上記中空部81の底面(図11中下側の面)には、上記中空部81と外部とを連絡する注入口83が設けられている。また、前述した第1の実施の形態の場合と同様、上記中空部81内部には上記注入口83を塞ぐように、シール43が設けられている。
また、上記中空部81の後端側(図11中左側)の側面には、ばね用係合部82が突出・形成されている。
また、上記ケース本体75bの外壁上端の四隅には、上記係合用凸部に対応する図示しない係合用凹部が一つずつ形成されている。上記係合用凸部と上記係合用凹部によって上記蓋75aを上記ケース本体75bに係合させると、上記ケース75が構成されることになる。
【0040】
図11に示すように、上記ケース75の中空部81内には内部ブロック87が設置されている。上記内部ブロック87は、その高さ(図11中上下方向長さ)が上記中空部の高さ(図11中上下方向長さ)と略同一の略直方体形状を成しており、その上面側(図11中上側)に開口した5つのマイクロニードルユニット収納部89、89、89、89、89が設けられている。また、上記内部ブロック87には、上記マイクロニードルユニット収納部89、89、89、89、89側と上記内部ブロック87の後端(図11中左端)に開口した流路91が設けられている。
また、図11に示すように、上記マイクロニードルユニット収納部89、89、89、89、89のそれぞれには、マイクロニードルユニット21が一つずつ係合・固定されており、上記マイクロニードルユニット21の薬液充填部29と上記流路91が連通されている。
【0041】
また、上記内部ブロック87の後端(図11中左端)には延長ブロック93が接続されている。上記延長ブロック93には、その両端側(図11中左右端側)に開口した延長流路95が設けられており、上記延長流路95は上記内部ブロックの流路91と連通されている。
【0042】
また、上記マイクロニードルユニット21、21、21、21、21の薬液充填部29、29、29、29、29と上記内部ブロックの流路91と上記延長ブロック93の延長流路95によって、一つの大きな薬液充填部97が形成されている。
【0043】
また、図11に示すように、上記延長ブロック93の後端(図11中左端)にはスペーサ35が当接されている。また、図11に示すように、上記ケース75の中空部81内にはピストン39が設置されている。上記ピストン39の頭部39aは上記スペーサ35の図11中左側に当接・配置されており、上記ピストン39の軸部39bは上記スペーサ35の貫通孔37を貫通し、上記延長ブロック93の後端側(図11中左側)から上記薬液充填部97内に挿入されている。
また、上記中空部81内のばね係合部82にはコイルばね41が係合されている。上記コイルばね41は、その弾性力により上記ピストン39を図11中右側に向かって付勢している。
【0044】
また、本実施の形態による長時間注射装置73も、前述した第1の実施の形態による長時間注射装置1と同様、図11中上側の面には接着剤17が設けられている。本実施の形態による長時間注射装置73が未使用の状態においては、上記接着剤17の図11中上側に図示しない剥離紙19が着脱可能に貼り付けられている。
【0045】
次に、本実施の形態による長時間注射装置73の使用方法及びその作用について説明する。本実施の形態による長時間注射装置73の使用方法も、前述した第1の実施の形態の場合と同様である。
また、上記長時間注射装置73の作用も、前述した第1の実施の形態による長時間注射装置1と同様であるが、ピストン39がコイルばね41によって付勢される方向が、上方向(図11中上方向)ではなく、前方(図11中右方向)である点が異なっている。
【0046】
次に本実施の形態による長時間注射装置73の効果について説明する。上記長時間注射装置73による効果は、前述した第1の実施の形態における長時間注射装置1及び第3の実施の形態における長時間注射装置57によるものに加え、以下のような効果も奏する。すなわち、本実施の形態では、第3の実施の形態の場合に比べ、ピストン39、コイルばね41及びばね用係合凸部67がそれぞれ1つずつで済むため、より少ないピストン39等によって複数のマイクロニードル27、27、27、27、27から薬液30を皮膚45内に放出することができる。
また、ケース75及び内部ブロック87の設計変更により、設置可能なマイクロニードルユニット27の数を容易に増減することができ、様々なバリエーションの長時間注射装置を製造することができる。
また、延長ブロック93が設けられているため、上記内部ブロック87の大きさが設計変更に伴って変化した場合でも、この延長ブロック93も共に設計変更することで、上記ピストン39が適切に動作するように対応することができる。
【0047】
次に、図12及び図13を用いて、本願発明の第5の実施の形態について説明する。
本実施の形態における長時間注射装置99は、前述した第1の実施の形態における長時間注射装置1とほとんど同じ構成である。そのため、同一の構成については第1の実施の形態の場合と同一の符号を付し、説明を省略する。
【0048】
上記長時間注射装置99のスペーサ101は、空気中で昇華する材料によって形成されている。
また、上記長時間注射装置99が未使用の状態では、ケース3の中空部9内はスペーサ101の材料を気化したガス104が充填されており、その蒸気圧によってスペーサ101が昇華されないようになっている。また、図12に示すように、上記ケース3の注入口13には密閉栓103が挿入されており、上記中空部9内と外部とが完全に遮断されるようになっている。
【0049】
次に本実施の形態による長時間注射装置99の使用方法、及び、その作用について説明する。
上記長時間注射装置99の使用方法も前述した第1の実施の形態による長時間注射装置1の使用方法と略同様であるが、ケース3の注入口13から水を注入する代わりに、図13に示すように、密閉栓103が上記ケース3の注入口13から除去されると、外部から中空部9内に空気105が流入するとともにガス104が外部へ流出していくような構成となっている。
外部から上記中空部9内に上記空気105が流入するとともに、上記中空部9内から上記ガス104が流出すると、上記中空部9内の上記ガス104による蒸気圧が低下し、スペーサ101が徐々に昇華されていく。すると、上記スペーサ101は前述した第1の実施の形態の場合と同様にその高さ(図13中上下方向長さ)を減少させていき、ピストン39が徐々に上昇していくため、薬液30がマイクロニードル27先端の流出口33から少しずつ放出されていくことになる。
【0050】
本実施の形態の場合も、前述した第1の実施の形態の場合と同様の効果を得ることができる。
【0051】
なお、本願発明は前記第1〜第5の実施の形態に限定されない。
例えば、スペーサの材質は、液体や気体の存在下で徐々に溶解又は昇華していくもののほか、ある条件下においては弾性部材によるピストンの移動によって押圧されることで徐々に変形していくものなど、様々な場合が考えられる。
また、マイクロニードルユニットやマイクロニードルの個数についてはこれを特に限定するものではない。さらに、2次元的に配置してマイクロニードルアレイを構成することも考えられる。
また、マイクロニードルは垂直に突出・形成されるものの他に、傾斜した状態で突出・形成される場合も考えられる。
また、前記第1〜第5の実施の形態では、長時間注射装置を接着剤で皮膚表面に貼り付けていたが、ベルトで固定する場合や、その他の取り付け装置やガイド装置を介して皮膚表面に固定されることも考えられる。
また、内部ブロックや延長ブロックなど、その他各要素の形状や個数等についても、これを特に限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、例えば、皮膚表面に設置され、長時間にわたって薬液を皮膚内に注射することができる長時間注射装置に係り、特に、簡易且つ安価な構成となるように工夫したものに係り、例えば、インシュリンなどの投与に用いられる長時間注射装置に好適である。
【符号の説明】
【0053】
1 長時間注射装置
3 ケース
21 マイクロニードルユニット
23 マイクロニードルユニット本体
27 マイクロニードル
29 薬液充填部
30 薬液
31a 分割要素
31b 分割要素
33 流出口
35 スペーサ
39 ピストン
41 コイルばね
43 シール
47 水
53 長時間注射装置
55 熱伝導部
57 長時間注射装置
59 ケース
73 長時間注射装置
75 ケース
87 内部ブロック
89 マイクロニードルユニット収納部
91 流路
93 延長ブロック
95 延長流路
97 薬液充填部
99 長時間注射装置
101 スペーサ
103 密閉栓
104 ガス
105 空気


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、
上記ケースから突出・配置され流出口が設けられたマイクロニードルと、
上記流出口と連通しその内部に薬液が充填される薬液充填部と、
上記ケース内部に設けられ上記薬液充填部内に充填された薬液を上記流出口側へ押し出すピストンと、
上記ケース内部に設けられ上記ピストンを上記薬液を押し出す方向に常時付勢する弾性部材と、
上記ケース内部に設けられ上記弾性部材による上記ピストンの上記薬液の押し出し方向への移動を規制し環境変化により自身の状態が徐々に変化することにより上記ピストンの上記薬液の押し出し方向への移動を漸次許容するスペーサと、
を具備することを特徴とする長時間注射装置。
【請求項2】
請求項1記載の長時間注射装置において、
上記スペーサは環境変化により溶解又は昇華することにより上記ピストンの上記薬液の押し出し方向への移動を漸次許容するものであり、
上記スペーサは錐体形状を成していることを特徴とする長時間注射装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の長時間注射装置において、
上記ケース内部にマイクロニードルユニット本体が設置され、
上記マイクロニードルと上記マイクロニードルユニット本体からマイクロニードルユニットが構成されており、
上記マイクロニードルは上記マイクロニードルユニット本体から突出・形成されたものであることを特徴とする長時間注射装置。
【請求項4】
請求項3記載の長時間注射装置において、
上記ケース内部には上記マイクロニードルユニットが収納・配置されるマイクロニードルユニット収納部と上記薬液充填部の一部を構成する流路が設けられた内部ブロックが設置されていることを特徴とする長時間注射装置。
【請求項5】
請求項4記載の長時間注射装置において、
上記内部ブロックには上記流路と連通し上記薬液充填部の一部を構成する延長流路が設けられた延長ブロックが接続されていることを特徴とする長時間注射装置。
【請求項6】
請求項3〜請求項5の何れかに記載の長時間注射装置において、
上記マイクロニードルユニットは分割要素を貼り合わせたものであることを特徴とする長時間注射装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項6の何れかに記載の長時間注射装置において、
上記ケースの外壁の一部又は全部が熱伝導性材料からなることを特徴とする長時間注射装置。
【請求項8】
請求項1〜請求項7の何れかに記載の長時間注射装置において、
上記ケースには上記長時間注射装置の非使用時において上記スペーサの環境が変化しないようにケース内部と外部を遮断する栓が設けられていることを特徴とする長時間注射装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−105791(P2012−105791A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256399(P2010−256399)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(391008537)ASTI株式会社 (73)
【Fターム(参考)】