説明

長鎖ジカルボン酸を純化精製する方法及びその製品

【課題】有機溶剤を使用せずに,長鎖ジカルボン酸またはその塩を純化精製する方法を提供する。
【解決手段】粗製の長鎖ジカルボン酸をアルカリで水に溶解し、脱色剤で脱色後、pHを1〜2.5に酸性化して結晶化させる。この結晶を60〜100℃の水中で加熱濾過して得られた固体を水に再懸濁し、高圧条件でその混合物を100℃より高い高温に加熱した後冷却結晶化させる方法。これにより製品における蛋白質や色素などの不純物の含有量を効果的に低下させることができる。結晶化された長鎖ジカルボン酸の純度は99wt%より高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,長鎖ジカルボン酸を純化精製する方法及びその製品に関し,特に,有機溶剤を使用せずに,長鎖ジカルボン酸を純化精製する方法及びその製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
長鎖ジカルボン酸は,ナイロン,高級香料,可塑剤,潤滑剤,高級ホットメルト樹脂接着剤などを合成するための重要な原料である。従来,各種の長鎖ジカルボン酸は,主にn-アルカンをカンジダトロピカリスなどの微生物で発酵して製造される。しかし,カンジダトロピカリスにより発酵された発酵液体は,成分が複雑なもので,反応していないn-アルカンや,残留培地や,微生物細胞及びその含有物などを含み,特に,大量のタンパク質や色素などの不純物を含んでいるため,製品の純度及び外観品質に不利な影響を与えている。
【0003】
従来,長鎖ジカルボン酸を精製する方法としては,溶媒プロセスと水相プロセスの二つがある。溶媒プロセスは,上記問題を解決できるものの,多くの投資が必要で,生成物にはアルカンと溶媒の残留があり,生産の安全性などの問題によって大きな制約を受けている。水相プロセスは,溶媒プロセスによる欠陥を克服することができるものの,その生成物は,純度も色などの外観品質も低くなるものである。例えば,特開昭56−26193号公報及び特開昭56−26194号公報において,日本鉱業株式会社が提案したジカルボン酸を水相プロセスによって分離する方法が記載されている。当該方法によれば,その処理プロセスは,最終発酵液体をアルカリ化して放置し,遠心分離によって菌糸体を除去し,ケイ藻土を添加して未反応物質と副生成物を吸着した後に,濾過によって得られる液体からジカルボン酸の結晶体を析出し,最後で,濾過と乾燥の工程を経てジカルボン酸の生成物が得られる。当該方法を使用すれば,モノカルボン酸ナトリウム塩はジカルボン酸モノナトリウム塩及び二ナトリウム塩と共結晶を生成する。そのため,ジカルボン酸及びそれと類似するモノカルボン酸の塩とを分離することは困難である。
【0004】
CN1255483Aには,長鎖ジカルボン酸のモノナトリウム塩を結晶させる技術を利用して,長鎖ジカルボン酸を精製する方法が提案されている。当該技術では,アルカリの添加量を精確に制御することによって,ジカルボン酸のモノナトリウム塩だけを生成し,その二ナトリウム塩を生成しないとしたものである。しかし,ジカルボン酸のモルあたりの産出率を正確に確定できない場合,前記方法が実現されがたい。この問題によって,モノナトリウム塩濾液におけるジカルボン酸を回収しない場合に,生成物の収率は90wt%以下まで低下する。一方,モノナトリウム塩濾液におけるジカルボン酸を回収する場合には,生成物の収率が92wt%になるものの,モノナトリウム塩濾液におけるジカルボン酸を回収する工程が必要で,製造コストが高くなる。また,水相状態のモノナトリウム塩の結晶の純度が高くなく,反応後に残された少量のジカルボン酸モノナトリウム塩が除去されることはできない。CN1219530Aには,長鎖ジカルボン酸を精製する方法が提案されている。当該方法では,二ナトリウム塩の塩析を行って長鎖ジカルボン酸を精製できるが,生成物の収率が低く,塩析の母液におけるジカルボン酸を回収する必要があるため,処理コストが高くなる。
【0005】
CN1552687Aには長鎖ジカルボン酸の融点まで加熱してから加水によりその温度を下げて,長鎖ジカルボン酸を結晶させて精製する方法が提案されている。当該方法では,加熱で長鎖ジカルボン酸の融点に達した後に,大気条件で水相の表面に浮かぶジカルボン酸を回収する。炭素数が偶数のジカルボン酸の大部は,融点が110度を超えるものであるため,当該発明では,高濃度の塩水を使用して水の沸点を向上させるという特別な方法が開示されている。このような方法を使用する必要があるため,当該発明の適用範囲は制限がある。また,溶融状態のジカルボン酸を分離することは困難であることが分っている。炭素数10,12,13の長鎖ジカルボン酸であれば,はっきりした浮上層が形成されない。また,加水による結晶ではモノカルボン酸とジカルボン酸が同時に沈澱することとなる。そして,結晶と無定形の沈澱物とが混合した結果,結晶が分離されにくくなる。当該技術はC5,C7,C9,C11のジカルボン酸の純化に役立つが,炭素数が偶数の長鎖ジカルボン酸の純化への適用は非常に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭56−26193号公報
【特許文献2】特開昭56−26194号公報
【特許文献3】CN1552687A
【特許文献4】CN1552687A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで,本発明は,上記した問題に鑑み,塩溶液または有機溶剤を使用しないで,かつ溶液の表面からジカルボン酸層を回収することはなく,溶液の結晶により長鎖ジカルボン酸を純化精製する方法及びその製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る長鎖ジカルボン酸の精製方法は下記の工程を含める。
(1)発酵完了後,発酵された発酵液に対して,菌糸体を除去してから酸性化して,ジカルボン酸を沈澱させ,沈殿したものを結晶または無定形の沈澱物とし,ジカルボン酸の粗製品が得られる;
(2)酸性化されて析出したジカルボン酸の粗製品をアルカリ溶液に添加した後に,加熱して溶解させ,濾過を行って不溶分を除去した後に,脱色剤で脱色する;
(3)発酵液を再度酸性化してそのpHを1〜2.5に調整し,遠心分離によりジカルボン酸沈澱物を収集する;
(4)ジカルボン酸沈澱物を水洗してそのpHを中性に調整した後に,ジカルボン酸の質量の3〜20倍の水を添加してジカルボン酸を再懸濁し,60〜100℃に加熱し,濾過,洗浄,乾燥で,ジカルボン酸の濾過ケークが得られる;
(5)得られた濾過ケークを水に入れ再懸濁し,高圧条件で水とジカルボン酸との混合物を100℃以上に加熱し,ジカルボン酸の融点以上の温度で20〜30分間に保持する;
(6)温度を室温まで緩やかに下げ,濾過分離して長鎖ジカルボン酸の結晶体を得る。また,工程(1)において酸性化された結晶は,pHが1〜2.5,温度が60〜100℃のものであることが望ましい。
また,工程(2)において,ジカルボン酸を加熱して溶解させるアルカリ溶液は5MNaOHであり,処理条件は80℃で1時間保持することが望ましい。
また,工程(2)において,不溶分を濾過する方法に使用されるろ過材はガーゼ,ナイロン膜,セラミック膜,金属膜,ガラス繊維のうちのいずれか一種または二種以上を含むことが好ましい。
また,工程(2)において,脱色に用いられる脱色剤は0.2%(質量)の活性炭または0.5%(質量)の珪藻土であることが好ましい。
また,工程(4)において,ジカルボン酸の沈澱物を水洗することにより,そのpHを6.5〜8.5に調整することが好ましい。
また,工程(4)において,再懸濁するための水の質量はジカルボン酸の5倍であることが好ましい。
また,工程(4)において,濾過した後にジカルボン酸を洗浄する水は,その温度が85℃,pHが中性であり,洗浄は1〜10回行われることが望ましい。
また,工程(5)において,加熱で達する温度は純化しようとするジカルボン酸の融点温度であり,10〜60分間に保持されることが望ましい。
また,工程(6)において,温度を下げる速度は10〜15℃/hであることが望ましい。
【0009】
本発明は,さらに請求項1−11に記載の方法で得られた長鎖ジカルボン酸を提供することを目的とする。当該方法で純化精製する際に有機溶剤を使用しない。
本発明に係る上記方法はジカルボン酸及び/又はその塩を含む有機溶液及び固体粗製品からジカルボン酸を純化精製することに適用されることができる。有機溶液である場合,その有機溶剤を除去した後に,上記工程(2)から純化精製の工程を行う;固体粗製品である場合,上記工程(2)から,ジカルボン酸及び/又はその塩を含む水溶液である場合,上記工程(1)から純化精製の工程を行う。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば,例えば酢酸などの有機溶剤を使用してジカルボン酸の純化精製を行う従来の方法より簡単となる。そのため,生成物の収率を向上することができる。また,ジカルボン酸を結晶させた後の水は,濾過ケークの洗浄に用いられることができる。また,酢酸を使用しないため,刺激的な酢酸が排出されることはなく,環境の保護に有利で,作業場の作業環境を向上することとなる。また,水溶液の温度を下げてジカルボン酸を析出する方法を使用するため,純度のより高い98.6%以上に達することができる長鎖ジカルボン酸が得られるとともに,従来の精製方法により精製された長鎖ジカルボン酸の結晶と異なる,特有の形態を持つ結晶が得られることができる。このような特有の形態を持つ結晶の長鎖ジカルボン酸は,例えば高級香料や高級ホットメルト樹脂接着剤の合成などにとても好適に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1aは本発明に係る方法で得られたドデカンジカルボン酸の結晶体を示す図である。 図1bは特許文献であるCN102061316Aに係る方法により得られたドデカンジカルボン酸の結晶体と無定形の粉末との混合物(商品)を示す図である
【図2】図2Aは本発明に係る方法で得られたジカルボン酸の結晶体のHPLCクロマトグラム図である。 図2Bは特許文献であるCN102061316Aに係る方法により得られたジカルボン酸の結晶体のHPLCクロマトグラム図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る実施例において,使用される菌はカンジダトロピカリスCandidatropicalis
UH-2-48(deposit number CGMCC 0239,CN1130685Aに開示されたもの)である。しかし,他の菌株での発酵によって得られるジカルボン酸の粗製品または化学合成などの方法により得られるジカルボン酸の粗製品でも,本発明に係る方法により精製されることができる。
ジカルボン酸の製造原料は,鎖の長さの異なるアルカン,脂肪酸またはそのエステルのうちから選択することができる。本発明の実施例において,ドデカンとバルミチン酸ナトリウム塩を用いた。他の各種の原料を用いて鎖の長さの異なるジカルボン酸を得ることができる。ジカルボン酸混合物の最終の加熱温度は下記の表1を参考することができる。
【0013】
表1は,各種のジカルボン酸と水との混合物の好ましい加熱温度を示す。
【0014】
【表1】

【0015】
次に,本発明に係る実施例を説明する。
【実施例1】
【0016】
実施例1 ドデカンジカルボン酸(dodecanedicarboxylic acid)の発酵及び精製
1.菌株の培養と発酵でドデカンジカルボン酸の生産
本発明に係る実施例において,使用される菌株はカンジダトロピカリス uH−2−48(deposit number CGMCC 0239)である。通常スラント培養で種菌を50ml準備し,16時間培養した後に,1L の培地に移し,16時間二次培養する。培地は,0.2〜0.5%(w/v)のコーンシロップ,0.3〜0.7%(w/v)の酵母エキス,0.2〜0.5%(w/v)の尿素,2〜5%(w/v)の蔗糖,0.5〜1%(w/v)のKH2PO4,0.03〜0.05%(w/v)の消泡剤を含むものである。
最後に,上記二次培養用培地を10リットルの発酵タンクに移して最終の発酵を行う。発酵タンクにおける4リットルの基礎培地は,2〜7%(w/v)のコーンシロップ,0.1〜0.3%(w/v)のNaCl,0.15〜0.3%(w/v)の酵母エキス,0.1〜0.25%(w/v)の尿素,3〜7%(w/v)のブドウ糖,0.5〜2%(w/v)の蔗糖,1〜2%(w/v)のKNO3,0.5〜2%(w/v)のKH2PO4,3〜7%(w/v)の細胞調節剤,0.001〜0.05%(w/v)の乳化剤,0.03%(w/v)の消泡剤を含むものである。30℃,1:0.5の通気率で144〜156時間発酵する。16時間発酵後,50ml/hの流量でドデカンを150g(約2リットル)流加する。10M NaOH溶液を用いてpHを7.2に調整するとともに,回転数を調整することによって溶解酸素を20%に保持するように制御を行う。
【0017】
2,ドデカンジカルボン酸の粗製品の生産
(1)上記工程により得られた,酸含有量187g/Lである7リットルの発酵液を80℃に加熱し,60分間保持する;
(2)NaOH(10M)を用いてpHを9.5に調整した後に,遠心分離により酵母細胞を除去する;
(3)最終の濃度の0.5%(w/v)の割合で上澄液に活性炭を入れ,濾液を70℃に60分間保持する;
(4)0.44μmのナイロン膜を用いて真空濾過をすることによって活性炭を除去する;
(5)濾過された溶液をpHを2.5に調整するように98%の濃硫酸を用いて酸性化し,80℃に2時間保持する;
(6)遠心分離により工程(5)で生成された沈澱物(ジカルボン酸の粗製品)を得て,水で洗い流して再懸濁した後に,再度遠心分離をした後に,真空乾燥をすることによってドデカンジカルボン酸の粗製品を得る。
【0018】
3.結晶前の前処理工程
(1)長鎖ジカルボン酸の粗製品を1.74g/mlの割合で5M NaOHに再溶解した後に,80℃に加熱し,1時間保持した後に,80℃の乾燥器において再溶解したジカルボン酸を含んだ溶液を濾紙を用いて濾過することによって不溶性の不純物を除去する;
(2)濾液に最終濃度の0.2%(w/v)の活性炭または0.5%(w/v)の珪藻土を入れ,60℃で処理し,温度を保持して1時間脱色する;
(3)脱色後,0.44μmのナイロン膜を用いて真空濾過をすることによって活性炭または珪藻土を除去する;
(4)濾液をpH≤2.5に調整するように濃硫酸を用いて酸性化して,ドデカンジカルボン酸を溶液から析出する;
(5)遠心分離によりドデカンジカルボン酸の沈澱物を収集する;
その後,得られたドデカンジカルボン酸をその重量の3倍の水を用いて再懸濁及び洗浄した後に,沈澱させる。当該洗浄工程を上澄み液のpHが6.5より大きくなるように重複する。通常,当該洗浄工程は3回行われればよい。ジカルボン酸の重量の5倍の水を入れ,懸濁液を80℃に再加熱した後に,濾過して濾過ケークを得る。85℃で濾過ケークを水で3回洗い流す。
【0019】
4.ドデカンジカルボン酸の結晶工程
(1)洗浄した後に得られたドデカンジカルボン酸の濾過ケークをその重量の5倍の水に再懸濁し,加圧容器(GSHA−2(2L),中国威海恒達化工製造)を用いて混合物を128〜130℃に加熱し,20〜30分間保持する;
(2)10℃/hの速度で混合物の温度を緩やかに室温まで下げる。温度を下げる過程において結晶したドデカンジカルボン酸が生成される;
(3)遠心分離によりドデカンジカルボン酸の結晶が得られる。混合物の液体表面に浮かぶ物質には,モノカルボン酸が含まれるが,本発明に係る方法によりこれが分離されて,除去されることとなる;
(4)ドデカンジカルボン酸の結晶を真空乾燥箱において乾燥して残された水分を除去することによって,純化されたドデカンジカルボン酸が得られる。
【0020】
本実施例において,得られたドデカンジカルボン酸は,合計138.2g,純度99.2%,収率95.2%である。本実施例1に係る方法により得られたドデカンジカルボン酸は結晶体の外観を呈する(図1a)。CN102061316Aの実施例1に係る方法により得られたジカルボン酸は無定形の外観を呈する(図1b)。本発明に係る方法により得られたドデカンジカルボン酸は,例えばポリウレタンの高分子の合成などの,高純度の原料が必要である製品の製造にとても好適に応用することができる。
【0021】
図2Aは210ナノメートル(nm)でのHPLCクロマトグラム図であり,図2Bは254ナノメートル(nm)でのHPLCクロマトグラム図である。高速液体クロマトグラフィーの条件は,Agilent1260,クロマトカラム Zorbax Eclipseplus C18,G1315Dダイオードアレイ検出器である。移動相について,最初は50%の水:50%のアセトニトリル,最後は100%のアセトニトリルであり,30分で洗脱完了,流量は1ml/minである。図2Aと図2Bから,本発明で得られたジカルボン酸はCN102061316Aで得られた商品と比較して,品質がほぼ同じであるものの,純度がより高い。それにより,本発明の純化精製により,従来の製品の品質とほぼ同じであるものの,不純物の含有量がより少ないものが得られることができる。
【実施例2】
【0022】
実施例2 トリデカンジカルボン酸の発酵及び精製
1.菌株の培養と発酵によりトリデカンジカルボン酸の生産
本発明に係る実施例において,使用される菌はカンジダトロピカリス uH−2−48(deposit number CGMCC 0239)である。通常スラント培養で,種菌を50ml準備し,16時間培養した後に,1リットルの培地に移し,16時間二次培養する。培地は,0.2〜0.5%(w/v)のコーンシロップ,0.3〜0.7%(w/v)の酵母エキス,0.2〜0.5%(w/v)の尿素,2〜5%(w/v)の蔗糖,0.5〜1%(w/v)のKH2PO4,0.03〜0.05%(w/v)の消泡剤を含むものである。
最後に,上記二次培養用培地を10リットルの発酵タンクに移して最終の発酵を行う。発酵タンクにおける4リットルの基礎培地は,2〜7%(w/v)のコーンシロップ,0.1〜0.3%(w/v)のNaCl,0.15〜0.3%(w/v)の酵母エキス,0.1〜0.25%(w/v)の尿素,3〜7%(w/v)のブドウ糖,0.5〜2%(w/v)の蔗糖,1〜2%(w/v)のKNO3,0.5〜2%(w/v)のKH2PO4,3〜7%(w/v)の細胞調節剤,0.001〜0.05%(w/v)の乳化剤,0.03%(w/v)の消泡剤を含むものである。30℃,1:0.5の通気率で144〜156時間発酵する。16時間発酵後,50ml/hの流量でトリデカンを150g(約2リットル)流加する。10M NaOH溶液を用いてpHを7.2に調整するとともに,回転数を調整することによって溶解酸素を20%に保持するように制御を行う。
【0023】
2,トリデカンジカルボン酸の粗製品の生産
(1)上記工程により得られた,酸含有量177g/Lである7リットルの発酵液を80℃に加熱し,60分間保持する;
(2)NaOH(10M)を用いてpHを9.5に調整した後に,遠心分離により酵母細胞を除去する;
(3)最終の濃度の0.5%(w/v)の割合で上澄液に活性炭を入れ,濾液を70℃に60分間保持する;
(4)0.44μmのナイロン膜を用いて真空濾過をすることによって活性炭を除去する;
(5)濾過された溶液をpHを2.5に調整するように98%の濃硫酸を用いて酸性化し,80℃に2時間保持する;
(6)遠心分離により工程(5)で生成された沈澱物(ジカルボン酸の粗製品)を得て,水で洗い流して再懸濁した後に,再度遠心分離をした後に,真空乾燥をすることによってトリデカンジカルボン酸の粗製品を得る。
【0024】
3.結晶前の前処理工程
(1)長鎖ジカルボン酸の粗製品を1.65g/mlの割合で5M NaOHに再溶解した後に,80℃に加熱し,1時間保持した後に,80℃の乾燥器において再溶解したジカルボン酸を含んだ溶液を濾紙を用いて濾過することによって不溶性の不純物を除去する;
(2)濾液に最終濃度の0.2%(w/v)の活性炭または0.5%(w/v)の珪藻土を入れ,60℃まで処理し,温度を保持して1時間脱色する;
(3)脱色後,0.44μmのナイロン膜を用いて真空濾過をすることによって活性炭または珪藻土を除去する;
(4)濾液をpH≤2.5に調整するように濃硫酸を用いて酸性化して,トリデカンジカルボン酸を溶液から析出する;
(5)遠心分離によりトリデカンジカルボン酸の沈澱物を収集する;
その後,得られたトリデカンジカルボン酸をその重量の3倍の水を用いて再懸濁及び洗浄した後に,沈澱させる。当該洗浄工程を上澄み液のpHが6.5より大きくなるように重複する。通常,当該洗浄工程は3回行われればよい。ジカルボン酸の重量の5倍の水を入れ,懸濁液を80℃に再加熱した後に,濾過して濾過ケークを得る。85℃で濾過ケークを水で3回洗い流す。
【0025】
4.トリデカンジカルボン酸の結晶工程
(1)洗浄した後に得られたトリデカンジカルボン酸の濾過ケークをその重量の5倍の水に再懸濁し,加圧容器(GSHA−2(2L),中国威海恒達化工製造)を用いて混合物を118〜120℃に加熱し,20〜30分間保持する;
(2)10℃/hの速度で混合物の温度を緩やかに室温まで下げる。温度を下げる過程において結晶したトリデカンジカルボン酸が生成される;
(3)遠心分離によりトリデカンジカルボン酸の結晶が得られる。混合物の液体表面に浮かぶ物質には,モノカルボン酸が含まれるが,本発明に係る方法によりこれが分離されて除去されることとなる;
(4)トリデカンジカルボン酸の結晶を真空乾燥箱において乾燥して残された水分を除去することによって,純化されたトリデカンジカルボン酸が得られる。
本実施例において,得られたトリデカンジカルボン酸は,合計124.4g,純度98.
8%,収率92.8%であった。
【実施例3】
【0026】
実施例3 パルミチン酸の発酵及び精製
1.菌株の培養と発酵によりパルミチン酸の生産
本発明に係る実施例において,使用される菌はカンジダトロピカリス uH−2−48(deposit number CGMCC 0239)である。通常スラント培養で,種菌を50ml準備し,16時間培養した後に,1リットルの培地に移し,16時間二次培養する。培地は,0.2〜0.5%(w/v)のコーンシロップ,0.3〜0.7%(w/v)の酵母エキス,0.2〜0.5%(w/v)の尿素,2〜5%(w/v)の蔗糖,0.5〜1%(w/v)のKH2PO4,0.03〜0.05%(w/v)の消泡剤を含むものである。
最後に,上記二次培養用培地を10リットルの発酵タンクに移して最終の発酵を行う。発酵タンクにおける4リットルの基礎培地は,2〜7%(w/v)のコーンシロップ,0.1〜0.3%(w/v)のNaCl,0.15〜0.3%(w/v)の酵母エキス,0.1〜0.25%(w/v)の尿素,3〜7%(w/v)のブドウ糖,0.5〜2%(w/v)の蔗糖,1〜2%(w/v)のKNO3,0.5〜2%(w/v)のKH2PO4,3〜7%(w/v)の細胞調節剤,0.001〜0.05%(w/v)の乳化剤,0.03%(w/v)の消泡剤を含むものである。30℃,1:0.5の通気率で144〜156時間発酵する。16時間発酵後,50ml/hの流量で0.5Mのパルミチン酸ナトリウム(約2リットル)を流加する。10M NaOH溶液を用いてpHを7.2に調整するとともに,回転数を調整することによって溶解酸素を20%に保持するように制御を行う。
【0027】
2,パルミチン酸の粗製品の生産
(1)上記工程により得られた,酸含有量248.5g/Lである7リットルの発酵液を80℃に加熱し,60分間保持する;
(2)NaOH(10M)を用いてpHを9.5に調整した後に,遠心分離により酵母細胞を除去する;
(3)最終の濃度の0.5%(w/v)の割合で上澄液に活性炭を入れ,濾液を70℃に60分間保持する;
(4)0.44μmのナイロン膜を用いて真空濾過をすることによって活性炭を除去する;
(5)濾過された溶液をpHを2.5に調整するように98%の濃硫酸を用いて酸性化し,80℃に2時間保持する;
(6)遠心分離により工程(5)で生成された沈澱物(ジカルボン酸の粗製品)を得て,水で洗い流して再懸濁した後に,再度遠心分離をした後に,真空乾燥をすることによってパルミチン酸の粗製品を得る。
【0028】
3.結晶前の前処理工程
(1)長鎖ジカルボン酸の粗製品を1.40g/mlの割合で5M NaOHに再溶解した後に,80℃に加熱し,1時間保持した後に,80℃の乾燥器において再溶解したジカルボン酸を含んだ溶液を濾紙を用いて濾過することによって不溶性の不純物を除去する;
(2)濾液に最終の濃度0.2%(w/v)の活性炭または0.5%(w/v)の珪藻土を入れ,60℃まで処理し,温度を保持して1時間脱色する;
(3)脱色後,0.44μmのナイロン膜を用いて真空濾過により活性炭または珪藻土を除去する;
(4)濾液をpH≤2.5に調整するように濃硫酸を用いて酸性化して,パルミチン酸を溶液から析出する;
(5)遠心分離によりパルミチン酸の沈澱物を収集する;
その後,得られたパルミチン酸をその重量の3倍の水を用いて再懸濁及び洗浄した後に,沈澱させる。当該洗浄工程を上澄み液のpHが6.5より大きくなるように重複する。通常,当該洗浄工程は3回行われればよい。ジカルボン酸の重量の5倍の水を入れ,懸濁液を80℃に再加熱した後に,濾過して濾過ケークを得る。85℃で濾過ケークを水で3回洗い流す。
【0029】
4.パルミチン酸の結晶工程
(1)洗浄した後に得られたパルミチン酸の濾過ケークをその重量の5倍の水に入れ再懸濁し,加圧容器(GSHA−2(2L),中国威海恒達化工製造)を用いて混合物を124〜126℃に加熱し,20〜30分間保持する;
(2)10℃/hの速度で混合物の温度を緩やかに室温まで下げる。温度を下げる過程において結晶したパルミチン酸が生成される;
(3)遠心分離によりパルミチン酸の結晶が得られる。混合物の液体表面に浮かぶ物質に,モノカルボン酸は含まれるが,本発明に係る方法によりこれが分離されて除去されることとなる;
(4)パルミチン酸の結晶を真空乾燥箱において乾燥して残された水分を除去することによって,純化されたパルミチン酸が得られる。
本実施例において,得られたパルミチン酸は,合計218.2g,純度98.8%,収率87.8%であった。
【実施例4】
【0030】
実施例4 パルミチン酸の発酵及び精製
実施例4にかかる方法と実施例3に係る方法との相違点は,実施例3において使用された原料が2リットル,0.5Mのパルミチン酸ナトリウムであり,本実施例において使用されたのが160gのヘキサデカン酸メチルであることだけにある。本実施例により,パルミチン酸(炭素数16のジカルボン酸)が得られ,その純度が98.6%,収率が91.6%である。
【0031】
実施例1−4のジカルボン酸収率及び精製純度は表2に示す。表2は,異なる原料で発酵により生産したジカルボン酸収率及び精製純度を示す。
【0032】
【表2】

【0033】
表2中の記号は以下の通りである。
a:論理上の含有量であり,CN1130685Aの実施例1(3)に記載された水酸化ナトリウム滴定法により測定されたものである。
b:モル数で示す転化率であり,即ち,最後に得られたジカルボン酸のモル数/消耗された原料のモル数×100%ことである。
c:(実際に得られた酸の総重量/発酵液が含んだ酸の総含有量)×100%で算出された。
d:高速液体クロマトグラフィーにより測定する。
上記は本発明の好ましい実施例に過ぎず,本発明は上記実施例に限られず,本発明の趣旨に基づく修正,置き替え,改良のいずれの場合も本発明の保護範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)長鎖ジカルボン酸またはその塩を含んだ原料を酸性化させ,固体の長鎖ジカルボン酸の沈澱物の粗製品を収集する工程;
(2)アルカリ溶液を用いて前記粗製品を加熱して溶解させ,濾過を行って不溶分を除去した後に,脱色剤で脱色する工程;
(3)濾液をそのpHを1〜2.5に調整するように再度酸性化させて,遠心分離することによってジカルボン酸の沈澱物を収集する工程;
(4)ジカルボン酸の沈澱物をそのpHを中性に調整するように水洗した後に,ジカルボン酸の重量の3〜20倍の水を入れて再懸濁させ,60〜100℃に加熱し,濾過し,洗浄し,乾燥することによって,ジカルボン酸の濾過ケークが得られる工程;
(5)得られた濾過ケークを水に入れ再懸濁させ,高圧条件でその混合物を100℃より高い高温に加熱し,当該高温がジカルボン酸の融点となった状態で20〜30分間保持する工程;
(6)温度を室温まで緩やかに下げ,濾過分離することによって長鎖ジカルボン酸の結晶体が得られる工程を,含んでいることを特徴とする長鎖ジカルボン酸またはその塩の精製方法。
【請求項2】
前記工程(1)である濾液を酸性化させる及び沈澱させる過程において,pHが1〜2.5,温度が60〜100℃とされることを特徴とする請求項1に記載の長鎖ジカルボン酸またはその塩の精製方法。
【請求項3】
前記工程(2)において,ジカルボン酸を加熱して溶解させるアルカリ溶液は5M NaOHであり,その処理条件は80℃で1時間保持することを特徴とする請求項1に記載の長鎖ジカルボン酸またはその塩の精製方法。
【請求項4】
また,前記工程(2)において,使用されたろ過材はガーゼ,ナイロン膜,セラミック膜,金属膜,ガラス繊維のうちのいずれか一種または二種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の長鎖ジカルボン酸またはその塩の精製方法。
【請求項5】
前記工程(2)において,脱色に用いられる脱色剤は0.2%(質量)の活性炭または0.5%(質量)の珪藻土であることを特徴とする請求項1に記載の長鎖ジカルボン酸またはその塩の精製方法。
【請求項6】
前記工程(4)において,ジカルボン酸の沈澱をそのpHを6.5〜7に調製するように水洗することを特徴とする請求項1に記載の長鎖ジカルボン酸またはその塩の精製方法。
【請求項7】
前記工程(4)において,再懸濁するための水の重量はジカルボン酸の5倍であることが好ましい。
【請求項8】
前記工程(4)において,濾過した後にジカルボン酸を洗浄するための水は,温度が85℃,pHが中性とされるものであり,その洗浄は1〜10回行われることを特徴とする請求項1に記載の長鎖ジカルボン酸またはその塩の精製方法。
【請求項9】
前記工程(5)において,加熱で達する温度は純化しようとするジカルボン酸の融点温度であり,10〜60分間保持されることを特徴とする請求項1に記載の長鎖ジカルボン酸またはその塩の精製方法。
【請求項10】
前記工程(6)において,温度を下げる速度は10〜15℃/hであることを特徴とする請求項1に記載の長鎖ジカルボン酸またはその塩の精製方法。
【請求項11】
請求項1−10に記載の方法で得られた長鎖ジカルボン酸であって,当該方法で純化精製する際に有機溶剤を使用しないことを特徴とする長鎖ジカルボン酸。
【請求項12】
(1)長鎖ジカルボン酸またはその塩を含んだ有機溶剤溶液からその有機溶剤を除去するとともに,アルカリ溶液を用い加熱して溶解させ,濾過を行って不溶分を除去した後,脱色剤で脱色する工程;
(2)濾液をそのpHを1〜2.5に調整するように再度酸性化させて,遠心分離することによってジカルボン酸の沈澱物を収集する工程;
(3)ジカルボン酸の沈澱物をそのpHを中性に調整するように水洗した後に,ジカルボン酸の重量の3〜20倍の水を入れて再懸濁させ,60〜100℃に加熱し,濾過し,洗浄し,乾燥することによって,ジカルボン酸の濾過ケークが得られる工程;
(4)得られた濾過ケークを水に入れ再懸濁させ,高圧条件でその混合物を100℃より高い高温に加熱し,当該高温がジカルボン酸の融点となった状態で20〜30分間保持する工程;
(5)温度を室温まで緩やかに下げ,濾過分離することによって長鎖ジカルボン酸の結晶体が得られる工程を,含んでいることを特徴とする長鎖ジカルボン酸またはその塩の精製方法。
【請求項13】
(1)長鎖ジカルボン酸またはその塩を含んだ固体粗製品を,アルカリ溶液を用いて加熱して溶解させ,濾過を行って不溶分を除去した後に,脱色剤で脱色する工程;
(2)濾液をそのpHを1〜2.5に調整するように再度酸性化させて,遠心分離することによってジカルボン酸の沈澱物を収集する工程;
(3)ジカルボン酸の沈澱物をそのpHを中性に調整するように水洗した後に,ジカルボン酸の重量の3〜20倍の水を入れて再懸濁させ,60〜100℃に加熱し,濾過し,洗浄し,乾燥することによって,ジカルボン酸の濾過ケークが得られる工程;
(4)得られた濾過ケークを水に入れ再懸濁させ,高圧条件でその混合物を100℃より高い高温に加熱し,当該高温がジカルボン酸の融点となった状態で20〜30分間保持する工程;
(5)温度を室温まで緩やかに下げ,濾過分離することによって長鎖ジカルボン酸の結晶体が得られる工程を,含んでいることを特徴とする長鎖ジカルボン酸またはその塩の精製方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−79224(P2013−79224A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−290412(P2011−290412)
【出願日】平成23年12月29日(2011.12.29)
【出願人】(512125792)インスティチュート オブ マイクロバイオロジー チャイニーズ アカデミー オブ サイエンスイズ (1)
【出願人】(512125806)シャンドン ハイリード バイオテクノロジー カンパニー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】