説明

長鎖飽和ジカルボン酸の生産方法

【課題】長鎖飽和ジカルボン酸を効率よく生産できる方法の提供。
【解決手段】天然油脂から不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物又はそれらのエステルの混合物を生成し、該混合物を還元処理し、それをグリセロールとともに添加した培地中で、脂肪酸ω酸化活性を有する微生物を培養することを含む、飽和ジカルボン酸又はそのエステルを生産する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然油脂から長鎖飽和ジカルボン酸を効率よく生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長いアルキル鎖長をもち、その両末端にカルボキシル基を有する長鎖の飽和ジカルボン酸は、香料、合成高分子の改質材、接着剤などの原料として有用である。従来、飽和ジカルボン酸は、石油からの蒸留分離によって得られるn-パラフィン等のアルカンを原料とし、その両末端を酸化することによって生産されている。n-パラフィン等のアルカンの両末端の酸化には、酵母を用いた発酵法も用いられており、さらにこの発酵法ではn-パラフィン以外に脂肪酸や脂肪酸エステルを基質とする場合でもジカルボン酸を生産できることも知られている(例えば特許文献1〜3、非特許文献1)。しかし酵母を用いた発酵法においては、通常、脂肪酸のω末端の炭素原子が酸化(ω酸化)されてω−ジカルボン酸が生成した後、そのω−ジカルボン酸は、カルボキシル基末端から順次酸化的にアセチルCoA単位が除去(β酸化)されて炭素鎖長のより短いジカルボン酸へと代謝されてしまう。このため、脂肪酸を基質として目的の鎖長のジカルボン酸を生産することは困難であった。そこでβ酸化経路が阻害された酵母を使用することによりジカルボン酸の短鎖化を阻止する方法も報告されている(特許文献4)が、目的のジカルボン酸の生産効率は必ずしも満足のいくものではなかった。
【0003】
ところで、最近、地球温暖化防止や石油資源枯渇の危惧の観点から、従来の石油由来原料ではなく、バイオマス由来資源を原料とした長鎖飽和ジカルボン酸の効率的な製法の開発も求められている。しかしながら、これまでにバイオマス由来資源を原料として用いた長鎖飽和ジカルボン酸の効率的な生産法は確立されていない。
【0004】
通常、バイオマスから長鎖飽和ジカルボン酸を直接取得することは困難である。自然界には長鎖脂肪酸を含むトリグリセリドが主に天然油脂の形態で存在しており、このトリグリセリドを加水分解すれば、長鎖脂肪酸を得ることはできる。しかし、長鎖脂肪酸からジカルボン酸を生成するためには、そのω位の末端メチル基をさらにカルボキシル基へと酸化しなければならない。しかし天然油脂に含まれるトリグリセリドは不飽和脂肪酸を含むことが多いため、天然油脂由来の長鎖脂肪酸を単に酸化すると、飽和ジカルボン酸だけでなく不飽和ジカルボン酸が副生してしまう。ここで、天然油脂由来のトリグリセリドを構成する不飽和脂肪酸は通常、シス型であるため、それを酸化して得られる不飽和ジカルボン酸もほとんどがシス型である。シス型の不飽和ジカルボン酸は、高分子の可塑剤等に用いる場合、分子の直線性が乏しいために流動性などの点で十分な機能が発現されないという問題を有しており、実用性に乏しい。しかし不飽和ジカルボン酸と飽和ジカルボン酸の混合物からの飽和ジカルボン酸を分離精製することは困難である。このため、飽和ジカルボン酸を天然油脂から効率よく製造できる方法の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】昭56−26190号公報
【特許文献2】昭56−26191号公報
【特許文献3】昭56−26192号公報
【特許文献4】特表2002−525069号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】W. H. Eschenfeldt et al., Appl. Environ. Microbiol. (2003) 69(10), p.5992-5999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、例えば天然油脂のように不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸がその脂肪酸組成中に混在するものを原料とする場合でも、飽和ジカルボン酸を効率よく生産できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、例えば天然油脂由来の不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物から飽和脂肪酸を高濃度に含む組成物を生成できること、また不飽和脂肪酸側鎖を含む天然油脂(トリグリセリド)から飽和脂肪酸側鎖を高濃度で含む油脂を生成できること、そして天然油脂の加水分解等でも生成されるグリセロールの存在下で脂肪酸ω酸化活性を有する微生物を培養することにより脂肪酸から非常に効率よく飽和ジカルボン酸又はそのエステルを生成できること、その結果、天然油脂を原料として非常に効率よく飽和ジカルボン酸又はそのエステルを生産できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、天然油脂の還元処理及びグリセロール分離処理を行い、得られる脂肪酸化合物をグリセロールともに添加した培地中で、脂肪酸ω酸化活性を有する微生物を培養することを含む、飽和ジカルボン酸化合物を生産する方法を提供する。
【0010】
本発明は、好ましい一実施形態において、グリセロール分離処理により、天然油脂から不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物又はそれらのエステルの混合物と、グリセロールとをを生成し、該混合物を還元処理し、それをグリセロールとともに添加した培地中で、脂肪酸ω酸化活性を有する微生物を培養することにより、飽和ジカルボン酸又はそのエステルを生産することを含む、飽和ジカルボン酸化合物、具体的には、飽和ジカルボン酸又はそのエステルを生産する方法を提供する。
【0011】
本発明の好ましい別の実施形態においては、還元処理により、天然油脂の不飽和脂肪酸側鎖中の不飽和結合を飽和結合へと変換し、次いで加水分解又はエステル交換処理によりグリセロール分離処理して飽和脂肪酸又は飽和脂肪酸エステルとグリセロールとを生成し、得られた飽和脂肪酸又は飽和脂肪酸エステルをグリセロールともに添加した培地中で、脂肪酸ω酸化活性を有する微生物を培養することを含む、飽和ジカルボン酸化合物、具体的には飽和ジカルボン酸又はそのエステルを生産する方法も提供する。
【0012】
本発明の方法の好ましい態様では、上記飽和ジカルボン酸又はそのエステルとして、炭素数10以上のものを生産できる。
【0013】
本発明の方法の好ましい一実施形態では、脂肪酸ω酸化活性を有する微生物は、酵母であってよい。
【0014】
本発明の方法の好ましい一実施形態では、不飽和脂肪酸側鎖を含む天然油脂(トリグリセリド)を還元処理し、不飽和結合を飽和結合へ還元し、次いで本変換物を加水分解又はエステル交換により飽和脂肪酸又はそれらのエステルをグリセロールとともに生成させることができる。
【0015】
本発明の方法の好ましい別の実施形態では、グリセロール分離処理として、天然油脂の加水分解により、不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物をグリセロールとともに生成させることができる。
【0016】
本発明の方法の好ましいさらに別の実施形態では、グリセロール分離処理として、天然油脂のエステル交換により、不飽和脂肪酸エステルと飽和脂肪酸エステルの混合物をグリセロールとともに生成させることができる。
【0017】
このような天然油脂は、微細藻類由来の油脂又は植物油脂であってよい。
このような天然油脂の例としては、限定するものではないが、例えば、ケイ藻油、ダイズ油、又はアマニ油が挙げられる。
【0018】
本発明の方法では、上記不飽和脂肪酸の少なくとも1つがパルミトレイン酸であり、上記飽和脂肪酸の少なくとも1つがパルミチン酸であることも好ましい。本発明の方法の一実施形態では、用いる天然油脂の脂肪酸側鎖に、飽和脂肪酸としてパルミチン酸、不飽和脂肪酸としてパルミトレイン酸側鎖を含んでいることが好ましい。別の一実施形態では、天然油脂加水分解混合物中の少なくとも1つの飽和脂肪酸がパルミチン酸であり、少なくとも1つの不飽和脂肪酸がパルミトレイン酸であることも好ましい。
【0019】
本発明の方法の一実施形態では、不飽和脂肪酸エステルと飽和脂肪酸エステルの混合物から生成された飽和ジカルボン酸エステルを、加水分解して飽和ジカルボン酸に変換することをさらに含んでもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、飽和ジカルボン酸又は飽和ジカルボン酸エステルを、天然油脂を原料として効率よく生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明は、天然油脂の還元処理及びグリセロール分離処理を行い、得られる脂肪酸化合物をグリセロールともに添加した培地中で、脂肪酸ω酸化活性を有する微生物を培養することを含む、飽和ジカルボン酸化合物を生産する方法を提供する。この方法において、還元処理とグリセロール分離処理はどちらを先に行ってもよく、並行して行ってもよい。
【0023】
本発明は、より具体的な実施形態として、天然油脂から不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物又はそれらのエステルの混合物を生成し、該混合物を還元処理し、それをグリセロールとともに添加した培地中で、脂肪酸ω酸化活性を有する微生物を培養することを含む、飽和ジカルボン酸又はそのエステルを生産する方法を提供する。この方法は、グリセロール分離処理により、天然油脂から不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物又はそれらのエステルの混合物と、グリセロールとを生成し、該混合物を還元処理し、それをグリセロールとともに添加した培地中で、脂肪酸ω酸化活性を有する微生物を培養することにより、飽和ジカルボン酸又はそのエステルを生産する方法でありうる。
【0024】
本発明はまた、より具体的な実施形態として、天然油脂の不飽和脂肪酸側鎖中の不飽和結合を飽和結合へ還元処理し、加水分解またはエステル交換処理を行い、それをグリセロールともに添加した培地中で、脂肪酸ω酸化活性を有する微生物を培養することを含む、飽和ジカルボン酸又はそのエステルを生産する方法も提供する。この方法は、還元処理により、天然油脂の不飽和脂肪酸側鎖中の不飽和結合を飽和結合へと変換し、次いで加水分解又はエステル交換処理によりグリセロール分離処理して飽和脂肪酸又は飽和脂肪酸エステルとグリセロールとを生成し、得られた飽和脂肪酸又は飽和脂肪酸エステルをグリセロールともに添加した培地中で、脂肪酸ω酸化活性を有する微生物を培養することにより、飽和ジカルボン酸又はそのエステルを生産する方法でありうる。
【0025】
本発明において、還元処理とは、不飽和結合を飽和結合へ還元するために行う処理をいい、限定するものではないが、例えば水素添加(水添)等が挙げられる。
【0026】
本発明において、グリセロール分離処理とは、トリグリセリド分子を脂肪酸又は脂肪酸誘導体(典型例では、脂肪酸エステル)とグリセロール(グリセリン)に分離するために行う処理をいい、限定するものではないが、例えば加水分解又はエステル交換等が挙げられる。
【0027】
本発明の方法において天然油脂の還元処理及びグリセロール分離処理により得られる脂肪酸化合物は、そのグリセロール分離処理の種類に応じて脂肪酸又は脂肪酸誘導体であり、典型的には、脂肪酸又は脂肪酸エステルである。脂肪酸は加水分解反応、脂肪酸エステルはエステル交換反応により得られる。
【0028】
本発明は、例えば天然油脂から生成される不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物又はそれらのエステルの混合物を還元処理し、それをグリセロールとともに添加した培地中で、脂肪酸ω酸化活性を有する微生物を培養することを含む、飽和ジカルボン酸又はそのエステルを生産する方法に関する。本発明はまた、不飽和脂肪酸側鎖を含む天然油脂(トリグリセリド)を還元処理して不飽和結合を飽和結合へ還元(変換)し、次いで本変換物を加水分解又はエステル交換により飽和脂肪酸又はそれらのエステルとグリセロールとを生成し、それを添加した培地中で、脂肪酸ω酸化活性を有する微生物を培養することを含む、飽和ジカルボン酸又はそのエステルを生産する方法に関する。
【0029】
より具体的な態様では、本発明は、天然油脂から不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物又はそれらのエステルの混合物を生成し、該混合物を還元処理することにより調製された処理物を、グリセロールとともに添加した培地中で、脂肪酸ω酸化活性を有する微生物を培養することを含む、飽和ジカルボン酸又はそのエステルを生産する方法に関する。あるいは本発明は、不飽和脂肪酸側鎖を含む天然油脂(トリグリセリド)を還元処理して不飽和結合を飽和結合へ還元(変換)し、次いで本変換物を加水分解又はエステル交換により飽和脂肪酸又はそれらのエステルとグリセロールとを生成することにより調製された処理物を添加した培地中で、脂肪酸ω酸化活性を有する微生物を培養することを含む、飽和ジカルボン酸又はそのエステルを生産する方法に関する。
【0030】
本発明に係る方法では、不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物又はそれらのエステルの混合物を還元処理することにより、不飽和脂肪酸が飽和脂肪酸に、不飽和脂肪酸エステルが飽和脂肪酸エステルに変換される。さらに、そのような混合物を共存するグリセロールとともに添加した培地中で、脂肪酸ω酸化活性を有する微生物を培養することによって、飽和脂肪酸又は飽和脂肪酸エステル(混合物中に元から存在していたものと、不飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸エステルから還元により生成したものの両方を含む)のω末端(末端メチル基)の炭素原子が酸化され、それぞれ飽和ジカルボン酸又は飽和ジカルボン酸エステルに変換される。あるいは、本発明に係る方法では、不飽和脂肪酸側鎖を含む天然油脂(トリグリセリド)を還元処理して不飽和結合を飽和結合へ還元(変換)し、次いで本変換物を加水分解又はエステル交換することにより飽和脂肪酸又はそれらのエステルとグリセロールとが生成される。さらに、そのようにして得られた飽和脂肪酸又はそれらのエステルとグリセロールとを添加した培地中で、脂肪酸ω酸化活性を有する微生物を培養することによって、その飽和脂肪酸又は飽和脂肪酸エステルのω末端(末端メチル基)の炭素原子が酸化され、それぞれ飽和ジカルボン酸又は飽和ジカルボン酸エステルに変換される。
【0031】
本発明に係る方法の好ましい一実施形態では、天然油脂を加水分解又はエステル交換して得られる、不飽和脂肪酸(好ましくは長鎖不飽和脂肪酸)又は不飽和脂肪酸エステル(好ましくは不飽和長鎖脂肪酸エステル)を還元することにより、それぞれ飽和脂肪酸(好ましくは長鎖飽和脂肪酸)又はそのエステルに変換し、そのようにして得られた飽和脂肪酸(好ましくは長鎖飽和脂肪酸)又はそのエステルをグリセロール(天然油脂を加水分解又はエステル交換した際に副生したものを用いることができる)とともに含む培地中で脂肪酸ω酸化活性を有する微生物(ω末端酸化活性を有する微生物触媒)とそれらの添加成分を接触させる(好ましくは当該微生物を培養する)ことにより、飽和ジカルボン酸(好ましくは長鎖飽和ジカルボン酸)又は飽和ジカルボン酸エステル(長鎖ジカルボン酸エステル)を効率よく生産することができる。あるいは、不飽和脂肪酸側鎖を含む天然油脂を還元処理して不飽和結合を飽和結合へ還元(変換)し、次いで本変換物を加水分解又はエステル交換により飽和脂肪酸又はそれらのエステルとグリセロールとに変換し、それを添加した培地中で脂肪酸ω酸化活性を有する微生物(ω末端酸化活性を有する微生物触媒)とそれらの添加成分を接触させる(好ましくは当該微生物を培養する)ことにより、飽和ジカルボン酸(好ましくは長鎖飽和ジカルボン酸)又は飽和ジカルボン酸エステル(長鎖ジカルボン酸エステル)を効率よく生産することができる。
【0032】
本発明に係る方法では、天然油脂から不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物又はそれらのエステルの混合物を常法により生成することができる。しかし不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物又はそれらのエステルの混合物は、天然油脂の直接的処理により生成するだけでなく、合成脂肪酸又は合成脂肪酸エステルを含む混合物として生成してもよい。好ましい実施形態では、不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物又はそれらのエステルの混合物は、天然油脂を加水分解又はエステル交換等のグリセロール分離処理をすることにより生成できる。
【0033】
本発明において天然油脂としては、微細藻類(典型的には、ケイ藻等の珪藻綱に属する藻類)由来の油脂、植物油脂、又は動物油脂が挙げられる。微細藻類由来の油脂の例としては、ケイ藻油がある。植物油脂の例としては、ダイズ油、パーム油又はアマニ油等がある。動物油脂の例としては、牛脂、豚脂、羊脂、魚油、肝油、海獣油等がある。天然油脂は、各種脂肪酸とグリセロール(グリセリン)とがエステル結合したトリグリセリド(トリアシルグリセロール)を主成分とする。天然油脂は、通常は、常温で液体の脂肪油(植物油、動物油)又は、常温で固体の脂肪(バター、ラード、羊脂等)の形態を取る。天然油脂の主成分のトリグリセリドは、通常は1分子のグリセロール(グリセリンとも呼ばれる)の3つの水酸基に3分子の長鎖脂肪酸がそれぞれエステル結合したものであり、1つのトリグリセリド分子種には一種又は2種以上の長鎖脂肪酸が結合している。本発明では、任意の天然油脂を、その脂肪酸組成に含まれる脂肪酸(好ましくはより多量に含まれる脂肪酸)と同じ炭素数の飽和ジカルボン酸(又はそのエステル)を生産するために用いることができる。
【0034】
例えば、不飽和脂肪酸側鎖を含む天然油脂を水素還元処理(水添処理)することにより、分子内部の不飽和結合を飽和結合へ還元することができ、飽和脂肪酸側鎖を有するトリグリセリドを生成させることができる。次いで本変換物を加水分解又はエステル交換により飽和脂肪酸又はそれらのエステルとグリセロールの混合物を生成させることができる。
【0035】
さらに、例えば天然油脂を加水分解処理することにより、各トリグリセリド分子を個々の脂肪酸とグリセロール(グリセリン)に分離することができる。また天然油脂をエステル交換処理することにより、各トリグリセリド分子を構成していた個々の脂肪酸のエステルと、グリセロール(グリセリン)とを生成させることができる。
【0036】
天然油脂は、通常、トリグリセリド分子の構成脂肪酸として不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の両方を含む。そこで本発明では、その脂肪酸組成に不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の両方が含まれる天然油脂を原料として用いて、その天然油脂の加水分解又はエステル交換を行うことにより、不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物又はそれらのエステルの混合物をそれぞれ生成することができる。この天然油脂の加水分解又はエステル交換によって得られる生成物は、不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物又はそれらのエステルの混合物とともに、グリセロールを含む。
【0037】
本発明において天然油脂から生成される混合物中の不飽和脂肪酸に含まれる二重結合の数は特に限定されないが、例えば1〜7個、好ましくは1〜5個である。天然油脂から生成される不飽和脂肪酸及び飽和脂肪酸は、比較的長鎖のものが多く、通常は炭素数10以上、多くは炭素数12以上であり、炭素数16〜20のものが最も一般的である。一実施形態では、該混合物中に含まれる不飽和脂肪酸及び飽和脂肪酸は、特に限定されないが、炭素数4〜30、好ましくは炭素数10以上、より好ましくは炭素数12〜20のものが好ましく、長鎖(炭素数10以上、典型的には12以上、より好ましくは16以上)のものがより好ましい。
【0038】
不飽和脂肪酸としては、限定するものではないが、例えば、クロトン酸(炭素数4;ハズ油等に含まれる)、ミリストレイン酸(炭素数14;バター、鯨油等に含まれる)、パルミトレイン酸(炭素数16;タラ肝油、イワシ油、ニシン油等に含まれる)、オレイン酸(炭素数18のcis-9-モノ不飽和脂肪酸;オリーブ油等に含まれる)、エライジン酸(炭素数18のtrans-9-モノ不飽和脂肪酸;ヤギやウシの乳等に含まれる)、バクセン酸(炭素数18のcis-11-モノ不飽和脂肪酸;牛脂、羊脂、バター等に含まれる)、リノール酸(炭素数18(C18:2(9,12));多くの植物油に含まれる)、α-リノレン酸(炭素数18(C18:3(9,12,15));アマニ油等の多くの植物の種油に含まれる)、γ-リノレン酸(炭素数18(C18:3(6,9,12));月見草油等に含まれる)、ピノレン酸(炭素数18(C18:3(5,9,12));松の実油等に含まれる)、エレオステアリン酸(炭素数18(C18:3(9,11,13));キリ油等に含まれる)、ステアドリン酸(炭素数18(C18:4(6,9,12,15));イワシ油やニシン油等に含まれる)、ガドレイン酸(炭素数20のcis-9-モノ不飽和脂肪酸;タラ肝油や海産動物油に含まれる)、エイコセン酸(炭素数20のcis-11-モノ不飽和脂肪酸;多くの植物油に含まれる)、エイコサペンタエン酸(炭素数20(C20:5);海産動物油や魚油等に含まれる)、エルカ酸(炭素数22のcis-13-モノ不飽和脂肪酸;ナタネ油、カラシ油等に含まれる)、ドコサヘキサエン酸(炭素数22(C22:6);海産動物油や魚油等に含まれる)、ネルボン酸(炭素数24のcis-15-モノ不飽和脂肪酸;ルナリア油等に含まれる)が挙げられる。
【0039】
飽和脂肪酸としては、限定するものではないが、炭素数が偶数のものが好ましく、例えば、酪酸(炭素数4;バター等に含まれる)、カプロン酸(炭素数6;バター等に含まれる)、カプリル酸(炭素数8;ココナッツ油や母乳に含まれる)、カプリン酸(炭素数10;ヤシ油等に含まれる)、ラウリン酸(炭素数12;ココナッツ油やヤシ油に含まれる)、ミリスチン酸(炭素数14;ヤシ油やパーム油に多く含まれる)、パルミチン酸(炭素数16;動物性油脂や植物性油脂に含まれる)、ステアリン酸(炭素数18;動物性油脂や植物性油脂に多く含まれる)、アラキジン酸(炭素数20;ピーナッツ油等に含まれる)、ベヘン酸(炭素数22;ナタネ油、ビーナッツ油、モリンガ油等に含まれる)、リグノセリン酸(炭素数24;ラッカセイ油、ナタネ油等に含まれる)、セロチン酸(炭素数26;ミツロウ等に含まれる)、モンタン酸(炭素数28)、メリシン酸(炭素数30)が挙げられる。
【0040】
本発明の好ましい一実施形態において、不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物は、特定の炭素数(1又は2種以上の特定の炭素数)の不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸を、混合物中の脂肪酸総含量に対して合計で60質量%以上、例えば80質量%以上含むことが好ましい。一例では、不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物は、混合物中の脂肪酸総含量に対し、炭素数16である不飽和脂肪酸(パルミトレイン酸)と飽和脂肪酸(パルミチン酸)の合計量で80質量%以上含むことも好ましい。同様に、不飽和脂肪酸エステルと飽和脂肪酸エステルの混合物は、特定の炭素数(1又は2種以上の特定の炭素数)の不飽和脂肪酸エステルと飽和脂肪酸エステルを、混合物中の脂肪酸/脂肪酸エステル総含量に対して合計で60質量%以上、例えば80質量%以上含むことが好ましい。特定の1種の炭素数の不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸を高濃度に含む混合物を用いることにより、目的とする飽和ジカルボン酸を高濃度で生産することができる。特定の2種以上の炭素数の不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物を用いれば、目的とする飽和ジカルボン酸の混合物を高濃度で生産することができる。不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物は、特定の炭素数の不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸のみを含むことも好ましい。このような混合物を用いれば、その原料に用いた炭素数と同一の炭素数の飽和ジカルボン酸のみが生産されることになり、取得時の精製度を顕著に高めることができる。
【0041】
このような不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物を生成するため、本発明において不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物又はそれらのエステルの混合物の生成に供する天然油脂は、その脂肪酸組成において、特定の(好ましくは1又は2種以上の特定の)炭素数の脂肪酸(不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の合計)が、脂肪酸総含量の60質量%以上、例えば80質量%以上含まれているものが好ましい。そのような天然油脂としては、例えばケイ藻油、ダイズ油、アマニ油等があるが、これらに限定されるものではない。本発明では、そのような脂肪酸組成を有する天然油脂を選択して用いることによって、鎖長の均質性がより高い飽和ジカルボン酸(好ましくは長鎖飽和ジカルボン酸)含有組成物を調製することができる。
【0042】
本発明の一つの実施形態では、天然油脂から生成される不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物は、不飽和脂肪酸としてパルミトレイン酸、飽和脂肪酸としてパルミチン酸を少なくとも含むことも好ましい。同様に天然油脂から生成される不飽和脂肪酸エステルと飽和脂肪酸エステルの混合物は、不飽和脂肪酸エステルとしてパルミトレイン酸エステル、飽和脂肪酸エステルとしてパルミチン酸エステルを少なくとも含むことも好ましい。
【0043】
ケイ藻油は、ケイ藻(ケイソウ;珪藻綱に属する微細藻類)から抽出される、微細藻類由来の油脂である。最近、ナビクラ(Navicula)属ケイ藻において、パルミチン酸(C16:0)及びパルミトレイン酸(C16:1)を非常に高い比率で含む天然油脂を生産する株が報告された(Matsumoto et al., Appl. Biochem. Biotechnol., Published online: 08, September 2009; Vol.161, Nos.1-8, p. 483-490)。Matsumoto et al.の報告によれば、そのナビクラ・エスピー(Navicula sp.)JPCC DA0580株から産生された脂肪酸について、脂肪酸総含量のおよそ44.9%がパルミチン酸(C16:0)、およそ52.7%がパルミトレイン酸(C16:1)であり、その合計はおよそ97.6%であった。このケイ藻油を天然油脂として使用する場合、そこから得られる不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物又はそれらのエステルの混合物は、不飽和脂肪酸としてパルミトレイン酸、飽和脂肪酸としてパルミチン酸を多量に含む。したがってこのようなケイ藻油は、本発明における天然油脂として好適に使用することができ、本発明に係る方法により、C16ジカルボン酸(ヘキサデカン二酸)又はそのエステルを効率よく生産するのに用いることができる。
【0044】
一方、他の各種植物油や微細藻類由来の油脂の脂肪酸組成についても多数の調査がされており(Oiang Hu. et al., The Plant Journal, 54, p.621-639 (2008);"Minor oil crops" FAO Agricultural Services Bulletin No. 94, FOOD AND AGRICULTURE ORGANIZATION OF THE UNITED NATIONS (1992)等)、ダイズ油及びアマニ油の脂肪酸組成として以下のような報告がある。
【0045】
・ダイズ油: C14:0 0.3%, C16:0 7〜11%, C16:1 0〜1%, C18:0 3〜6%, C18:1 22〜34%, C18:2 50〜60%, C18:3,4,5 2〜10%, C20:0/C22:0 5〜10%
・アマニ油: C14:0 0.2%, C16:0 5〜9%, C18:0 0〜1%, C18:1 9〜29%, C18:2 8〜29%, C18:3,4,5 45〜67%
【0046】
脂肪酸組成が示すように、これらの油脂は、その脂肪酸組成において脂肪酸総含量の80%以上がC18脂肪酸であることから、本発明に係る方法によるC18ジカルボン酸の高効率な生産のために好適に使用することができる。
【0047】
天然油脂からの不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物の生成は、典型的には、天然油脂の加水分解により実施することができる。天然油脂の加水分解により、天然油脂の主成分であるトリグリセリドがその構成成分である脂肪酸とグリセロール(グリセリン)へと加水分解される。天然油脂の加水分解は、常法によって行えばよい。具体的には、加水分解法としては、酸加水分解(酸触媒)、アルカリ加水分解(塩基触媒)、リパーゼやエステラーゼ等の加水分解酵素を用いる方法などが例示できる。
【0048】
天然油脂からの不飽和脂肪酸エステルと飽和脂肪酸エステルの混合物の生成は、典型的には、エステル交換反応に基づいて常法により実施することができる。エステル交換は、以下に限定するものではないが、例えば天然油脂を原料とするバイオディーゼル燃料の製法(バイオディーゼルのすべて、坂志朗編、アイピーシー、2006年)などを利用して、低級アルコールと油脂を反応させることにより実施すればよい。具体的には、例えば、天然油脂に、メタノールやエタノール等の低級アルコールを添加して、酸触媒や塩基触媒等の触媒(苛性ソーダ、アルカリ金属含有酸化マグネシウム触媒、硫酸-酸化カルシウム触媒等)の存在下で、加熱するか又は加熱せずに反応させることにより、触媒作用によるエステル交換反応を引き起こし、不飽和脂肪酸エステル及び飽和脂肪酸エステルを含む脂肪酸エステルとグリセロールとを生成させることができる。
【0049】
天然油脂の加水分解又はエステル交換等によって不飽和脂肪酸及び飽和脂肪酸とともに生じたグリセロール(グリセリン)は、分離することなく、それら脂肪酸と共に、後の微生物による酸化反応工程のために用いる培地に添加することができる。その場合、グリセロールは、ジカルボン酸合成のための酸化反応を担う微生物のエネルギー源として消費され得る。
【0050】
天然油脂は通常、その脂肪酸組成の少なくとも一部として不飽和脂肪酸を含む。したがって天然油脂の加水分解又はエステル交換等は、飽和脂肪酸だけでなく不飽和脂肪酸(不飽和結合を有する脂肪酸)も生成する。本発明の方法では、天然油脂から生成される不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物又はそれらのエステルの混合物を、還元処理することにより、混合物中の不飽和脂肪酸を飽和脂肪酸に、不飽和脂肪酸エステルを飽和脂肪酸エステルに変換(転換)することができる。これにより、天然油脂由来の脂肪酸(エステル)組成物を用いて飽和脂肪酸/飽和脂肪酸エステルを効率よく生成させることができる。あるいは、天然油脂の加水分解又はエステル交換等に先立ち、不飽和脂肪酸側鎖を含むトリグリセリドを還元処理し、分子内不飽和結合を飽和結合に変換した油脂を用い、加水分解又はエステル交換等を行うことによっても、天然油脂由来の脂肪酸(又は脂肪酸エステル)組成物を用いて飽和脂肪酸/飽和脂肪酸エステルを効率よく生成させることができる。これは飽和ジカルボン酸/飽和ジカルボン酸エステルを高収量で生産する上で重要な役割を果たす。例えば非特許文献(植村、化学と工業、 38, 424-429, 1987)によれば、n-パラフィンを基質としてジカルボン酸を生産する酵母において、基質を炭素鎖内部に不飽和結合を有する内部オレフィン化合物を用いた場合、反応性が異なり、シス(cis)型(天然油脂に多い)では酸化を受けにくいことが記載されている。本発明で用いることのできる脂肪酸のω末端酸化活性を有する微生物も同様の基質特異性を示すと推定されることから、不飽和脂肪酸を基質にするのではなく、あらかじめ当該不飽和脂肪酸を還元し、飽和脂肪酸として反応に供する方が反応効率を高める上で重要であると考えられた。そこで、本発明では、微生物酸化反応に先立ち、基質となる脂肪酸及びそのエステルを還元処理し、不飽和脂肪酸を飽和脂肪酸に転化させた基質を用いて微生物による酸化反応を行い、ジカルボン酸を生産する。
【0051】
還元処理は、通常の還元反応に基づいて常法により実施することができる。還元処理は、例えば、水素添加により行うことができる。水素添加は、食用油脂加工分野で植物油脂から硬化油を合成する際などに一般的に使用される技術であり、一般に「水添」とも呼ばれる。水素添加反応は、脂肪酸の炭素-炭素二重結合を水素化する反応である。一般的な水添は、反応温度100〜250℃、水素雰囲気下及び触媒存在下で、常圧又は高圧下で、液状油脂を撹拌して行われる。水素圧力は、常圧〜20 kg/cm2程度(好ましい一つの例では1〜5 kg/cm2)が使用される。触媒としては、一般的にはニッケル、コバルト、銅、銅−クロム、白金、パラジウムを含有する化合物が用いられ、還元ニッケル、ギ酸ニッケル、ラネーニッケル、ホウ化ニッケル等のニッケル触媒が好ましく用いられるが、これらに限定されるものではない。なお還元処理は、グリセロール(グリセリン)の存在下で行ってもよい。
【0052】
不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物又はそれらのエステルの混合物は、還元処理を施した後(この還元段階で不飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸エステルは飽和脂肪酸/飽和脂肪酸エステルに変換されている)、その末端メチル基の炭素原子の酸化反応に供するため、微生物培養用の培地に添加する。このとき、グリセロールも、還元処理後の脂肪酸/脂肪酸エステルと共に培地に添加することが好ましい。
【0053】
天然油脂の加水分解やエステル交換等では不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物(還元処理を先に行う場合は飽和脂肪酸)又はそれらのエステルの混合物(還元処理を先に行う場合は飽和脂肪酸エステル)とともにグリセロールが生成することから、本発明の方法では、天然油脂の加水分解やエステル交換等による生成物(脂肪酸又は脂肪酸エステルとグリセロールを含む)を、上記還元処理及びグリセロール分離処理後に培地にそのまま添加することにより、グリセロールも同時に培地に添加できる。このことは、工程をより単純化することができて有利である。しかしながら、グリセロールをさらに添加してもよい。
【0054】
脂肪酸又は脂肪酸エステルの末端メチル基の炭素原子(ω末端の炭素原子)の酸化は、脂肪酸ω酸化活性を有する微生物を培地中で培養することで実施することができる。脂肪酸ω酸化活性を有する微生物は、脂肪酸又は脂肪酸エステルの末端メチル基の炭素原子(ω末端の炭素原子)を酸化してカルボン酸に変換する活性(本明細書では脂肪酸ω酸化活性と称する)を有する。脂肪酸ω酸化活性を有する微生物は、限定するものではないが、アルカン資化性微生物、例えばCandida albicans、Candida cloacae、Candida guillermondii、Candida intermedia、Candida lipolytica、Candida maltosa、Candida parapsilosis、Candida zeylenoides、Candida tropicalis、Yarrowia lipolytica等の酵母であり得る。脂肪酸ω酸化活性を有する微生物としては、例えば、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)やキャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)等がより好ましい。脂肪酸ω酸化活性を有する微生物は、野生型酵母であっても変異株酵母であってもよいし、遺伝子破壊や突然変異導入により酸化活性を増強したものであってもよい。脂肪酸ω酸化活性を有する微生物は、酸化反応によって生成したジカルボン酸が過度に消費されることを抑制するため、例えば遺伝子工学的に又は育種により、ジカルボン酸資化性を低下若しくは欠損させたもの等であってもよい。脂肪酸ω酸化活性を有する微生物は、長鎖脂肪酸の資化性が低下した酵母であってもよい。あるいは脂肪酸ω酸化活性を有する微生物は、アルカンモノオキシゲナーゼ遺伝子を導入した形質転換細胞であってもよい。アルカンモノオキシゲナーゼ遺伝子を導入することにより、本来は長鎖脂肪酸のω末端酸化活性を有しない細胞であっても、同酸化活性を細胞に付与することができる。例えば、大腸菌、枯草菌、放線菌等の細胞に、CYPシリーズとして知られるω−水酸化活性を有するシトクロームP450モノオキシゲナーゼ類の遺伝子を導入することにより、ω−水酸化活性を付与した形質転換細胞を、脂肪酸ω酸化活性を有する微生物として使用してもよい。
【0055】
上記の還元処理及びグリセロール分離処理後の飽和脂肪酸/飽和脂肪酸エステルは、直接培地に添加してもよいし、適当な溶媒で希釈してから添加してもよい。好適に用いることのできる溶媒としては、脂肪酸や脂肪酸エステルをよく溶解するが、これらの酸化反応に悪影響を与えず、かつ酸化反応の基質とならないものが好ましい。例えば還元処理及びグリセロール分離処理で得られる飽和脂肪酸がパルミチン酸の場合、そのような溶媒としては、シクロヘキサン、デカリンなどの環状の炭化水素、プリスタン(2,6,10,14-テトラメチルペンタデカン)、2,2,4,4,6,8,8-ヘプタメチルノナン、ラノリン、フィタン、スクワランなどのイソアルカン類、イソステアリルアルコールなどのイソアルキルアルコール類、イソステアリルカルボン酸などのイソアルキルカルボン酸類などを例示できる。培地への上記の還元処理及びグリセロール分離処理後の飽和脂肪酸/脂肪酸エステルの添加は、任意の手法で行えばよく、例えば一括添加、逐次添加、連続添加などが挙げられる。酸化反応の基質となる還元処理及びグリセロール分離処理後の飽和脂肪酸/脂肪酸エステルの培地中の濃度は、生産効率が最大になるように調整されることが好ましく、例えば0.1g/l〜2000g/l、例えば0.1g/l〜200g/l、好ましくは1g/l以上、好ましくは10g/l以上の濃度となるように培地に添加すればよい。
【0056】
酸化反応を行う培地としては、用いる微生物の培養に適した培地を用いればよい。炭素源、窒素源、塩類など適当な栄養源を含む任意の培地を使用することができるが、酵母の場合、例えばYPD培地、SD培地、YPG培地、YPDG培地、YPAD培地、SMM培地等(酵母遺伝子実験マニュアル、丸善、2002年を参照のこと)を用いることができる。
【0057】
酸化反応を行う際には、還元処理後の脂肪酸/脂肪酸エステル及びグリセロールを添加した培地に、上記のような脂肪酸ω酸化活性を有する微生物を接種して培養を行えばよい。酸化反応に必要な酸素を供給するため、この培養は好気的に行う必要がある。このため、培養には通気攪拌培養槽を好適に使用することができる。培養条件は、用いる微生物に応じて決定すればよいが、例えば、pHは弱酸性〜中性、温度は30℃前後とする。反応時間は添加した基質が全てジカルボン酸へ変換されるのに十分な時間継続されるように設定すればよいが、通常は1〜3日間程度でよい。
【0058】
この培養においては、酸化反応の進行に応じて培地のpHが低下するため、NaOHやKOH、アンモニア(水)などのアルカリ試薬を添加して培地のpHを上記範囲に保つことが好ましい。また天然油脂を構成する脂肪酸は多くが長鎖脂肪酸であり、水溶性が乏しいことから、還元処理後の脂肪酸/脂肪酸エステル(基質層)と微生物が懸濁されている水層との接触を増加させるために攪拌を行うことが好ましい。さらに、好気的培養に必要な酸素の供給のため、反応系内に酸素又は空気などの酸素を含有する気体を通気し、攪拌により気泡を微分散させることも好ましい。反応系を加圧することにより液中の飽和溶存酸素濃度を上げる方法も、反応をより効率的に行うために実施することができる。
【0059】
培地は、微生物の生存活性を維持し、酸化反応に必要な補酵素を再生するために適切なエネルギー源を含むことが好ましい。天然油脂の加水分解又はエステル交換等により生成され得るグリセロールは、培地に添加することによりこの役割を果たすことができる。培地には、別の炭素源をさらに添加してもよい。好ましい炭素源としては、グルコース、デンプン、シュークロースなどの糖類、エタノール、グリセロールなどのアルコール類、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸などの有機酸類を例示できるがこの限りではない。
【0060】
さらに培地には、微生物の生育促進と酸化反応促進の目的で、適切な有機栄養素を添加してもよい。好ましい有機栄養源としては、酵母エキス、コーンスティープリカー(CSL)、大豆かす、カゼイン加水分解物などが例示できるがこの限りではない。
【0061】
培地での培養を完了し、酸化反応が終了した後の反応液(培養液)中では、還元処理後の脂肪酸/脂肪酸エステルから酸化により生成した飽和ジカルボン酸/飽和ジカルボン酸エステルが生産されている。この飽和ジカルボン酸又は飽和ジカルボン酸エステルの炭素数は、通常、天然油脂から生成して用いた不飽和脂肪酸/飽和脂肪酸又はそれらのエステルの炭素数と同じであり、炭化水素鎖は短縮されない。なおここで直接生産される飽和ジカルボン酸エステルは、通常は飽和ジカルボン酸モノエステルである。
【0062】
本発明の一つの実施形態では、天然油脂から生成された不飽和脂肪酸エステルと飽和脂肪酸エステルの混合物をまず還元し、不飽和脂肪酸エステルを飽和脂肪酸エステルへ転化させたものを用いて上記微生物を用いた酸化を行い、飽和ジカルボン酸エステル(飽和ジカルボン酸モノエステル)を生成し、これを加水分解して飽和ジカルボン酸に変換することを行ってもよい。さらに当該飽和ジカルボン酸モノエステルにアルコールを付加し、飽和ジカルボン酸ジエステルに変換することを行ってもよい。
【0063】
このような工程を含めることにより、ジカルボン酸のモノエステルを生産する場合、ジカルボン酸を生産する場合、ジカルボン酸のジエステルを生産する場合の3通りの生産様式に対応することができる。
【0064】
反応液(培養液)中の上記生産物の回収は、常法によって実施できる。例えば、反応液(培養液)にアルカリ試薬を添加して反応液をアルカリ性としてから加温し、生成した飽和ジカルボン酸を溶解させる。これを遠心分離や濾過等の固液分離法に供して菌体及び不溶分を液体成分から除去する。得られた濾液又は上澄液に硫酸などの酸を添加してpHを酸性とすることにより、溶解しているジカルボン酸を析出させることができる。晶析したジカルボン酸は、濾過や遠心分離などの固液分離法により回収することができる。
【0065】
ジカルボン酸及びそのエステルを溶解することのできる水に難溶な溶媒を添加し、ジカルボン酸及びそのエステルを抽出分離することもできる。抽出されたジカルボン酸及びそのエステルは、蒸留などにより単離することができる。
【0066】
以上の本発明に係る方法によれば、バイオマス由来資源等から得られる天然油脂を原料に利用して、飽和ジカルボン酸を効率よく大量に生産することができる。脂肪酸組成に偏りがある天然油脂を用いれば、特定の鎖長の飽和ジカルボン酸を高濃度に含む生成物を容易に製造することもできる。
【0067】
本発明に係る方法の好ましい一例を示すと、C16飽和ジカルボン酸を生産する方法として、例えば微細藻類の産生する天然油脂であるケイ藻油を加水分解し、高濃度のパルミチン酸及びパルミトレイン酸、並びにグリセロールを含む組成物を調製する。こうして生成されたパルミトレイン酸を始めとする不飽和脂肪酸を水添によりパルミチン酸に変換した後、酵母等を用いた微生物酸化反応を実施することにより、パルミチン酸から高純度のヘキサデカン二酸(タプシン酸)を生産することができる。この方法によれば、不飽和脂肪酸を飽和脂肪酸に変換してからジカルボン酸に変換するため、反応性の悪いシス型不飽和脂肪酸を反応系中に実質的に含まないので高い反応効率が得られ、しかも、ジカルボン酸生成後に、製造対象のC16:0飽和ジカルボン酸を、望ましくないC16:1不飽和ジカルボン酸から分離精製する必要がなく、有利である。さらに反応系に添加されたグリセロールはエネルギー源として消費されるため、分離の必要はない。
【0068】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0069】
なお下記実施例では、脂肪酸について以下の略語を使用している:C16:0(パルミチン酸);C16:1(パルミトレイン酸);C18:0(ステアリン酸);C18:1(オレイン酸);C18:2(リノール酸)。
【実施例1】
【0070】
天然油脂を、水と触媒(酸化マグネシウム)の存在下で加水分解させることにより、脂肪酸とグリセリンを生成させた。これにより得た、脂肪酸総量に対する各脂肪酸含量がC16:0 46%、 C16:1 53%、C18:0 0.5%、C18:1 1%、C18:2 0.5%である油脂加水分解物(パルミチン酸とパルミトレイン酸の合計含量が80%以上である)800gを、3リットルのステンレス製オートクレーブに取り、水添触媒(パラジウムカーボン触媒)を油脂加水分解物に対し0.15重量%となる量で添加し、水素を2 kg/cm2 Gの圧力で0.05リットル/分で流入させて反応させた。この水素添加反応は温度210℃にて500rpmで5時間攪拌することにより行った。これにより、油脂加水分解物中の不飽和脂肪酸を水素で還元(水素添加)し、例えばパルミトレイン酸をパルミチン酸に変換した。
【0071】
次いで上記触媒を熱時ろ過により分離した後、活性炭処理により脱色し、放冷して固形物を得た。この固形物(以下、天然油脂加水分解物と称する)には実質的にパルミチン酸(油脂加水分解により生成したパルミチン酸とパルミトレイン酸から変換されたパルミチン酸とを含む)が脂肪酸総量の80質量%以上含まれていた。
【実施例2】
【0072】
アルカン資化性酵母キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)NBRC1977株(野生型酵母;Candida maltosa Komagata et al.;独立行政法人製品評価技術基盤機構(NBRC)保有株No. NBRC 1977)を、YPD培地(酵母エキス2%、ペプトン1%、グルコース2%) 5mlに接種し振盪培養した。この培養液を50mlの培地(表1)を分注した500ml坂口フラスコに接種し、一晩培養した。
【0073】
【表1】

【0074】
一晩培養液を遠心分離し、菌体を回収した。回収した菌体は新鮮な表1の培地50 mlに懸濁し、パルミチン酸 1gを添加して、振盪培養を行った。培養開始から2日目に反応液(培養液)の一部をサンプリングし、KOHを添加してpH11以上に調整した後、遠心分離して、菌体を除去した。菌体除去後の遠心上清を激しく攪拌し、均一化した後、サンプル1mlを採取し、そこに塩酸を添加してpHを2以下に調整した。これを5mlのメスフラスコへ移し、メチル化試薬(テトラメチルアンモニウムヒドロキシドメタノール溶液、東京化成)1mlを添加し、THF(テトラヒドロフラン)を用い5mlにフィルアップした。このようにして調製したサンプルについて、ガスクロマトグラフィー分析(GC分析)を行った。GC分析の結果、実験区のサンプルで、ヘキサデカン二酸(タプシン酸)に相当する位置(保持時間)にピークを検出した。ヘキサデカン二酸は、パルミチン酸のω末端が酸化された長鎖直鎖飽和ジカルボン酸である。一方、パルミチン酸を添加しないこと以外は上記と同様の手順で行った対照区のサンプルでは、GC分析によりヘキサデカン二酸(タプシン酸)に相当する位置にピークが検出されなかった。
【0075】
この結果から、培地中のパルミチン酸は、上記酵母による脂肪酸ω酸化により、ω末端が酸化されてジカルボン酸であるヘキサデカン二酸に効率良く変換されたことが示された。
【実施例3】
【0076】
実施例2と同様に、酵母キャンディダ・マルトーサNBRC1977株をYPD培地での振盪培養及び表1の培地での一晩培養により前培養した後、遠心分離により菌体を回収した。この菌体に、実施例2のパルミチン酸の代わりに実施例1で調製した天然油脂加水分解物1gを添加して、実施例2と同様の培養を行った。培養開始2日目に反応液(培養液)の一部をサンプリングし、実施例2と同じ方法によってGC分析を行った。GC分析の結果、ヘキサデカン二酸に相当する位置にピークが検出された。
【実施例4】
【0077】
実施例2で使用した菌株にEMS(エチルメタンスルホン酸)変異処理を行い、パルミチン酸を炭素源とする培地での生育が低下した変異株を選抜した。
【0078】
この変異菌株を用いる点以外は実施例2と同様の方法で実験を行った。GC分析の結果、ヘキサデカン二酸と同じ保持時間(retention time)に、実施例2よりも大きな生成物のピークが確認された。このことから、本菌株によりパルミチン酸がヘキサデカン二酸へ変換されたことが確認された。
【実施例5】
【0079】
実施例4で選抜した酵母変異株を、実施例2と同様に、YPD培地 5mlに接種し振盪培養した。本培養液を50mlの増殖培地(表1)を分注した500ml坂口フラスコに接種し、一晩培養した。一晩培養液を遠心分離し、菌体を回収した。
【0080】
表1に示した培地(実験区)、及び表1の培地からグリセロール(グリセリン)を除いた組成で調製した培地(対照区)を、それぞれ20mlずつ別個のフラスコへ分注した。これら培地にパルミチン酸メチル(基質)を2mlずつ添加して、反応液を調製した。回収した菌体をこの反応液に接種し、30℃で4日間、振盪培養を行った。振盪培養後の反応液(培養液)の一部をサンプリングし、KOHを添加してpH11以上に調整した後、遠心分離して、菌体を除去した。菌体除去後の遠心上清を激しく攪拌し、均一化した後、サンプル1mlを採取し、そこに塩酸を添加してpHを2以下に調整した。これを5mlのメスフラスコへ移し、メチル化試薬(テトラメチルアンモニウムヒドロキシドメタノール溶液、東京化成)1mlを添加し、THF(テトラヒドロフラン)を用い5mlにフィルアップした。本サンプルをガスクロマトグラフィー分析にかけて、反応液(培養液)中の残存基質及び生成物の分析を行った。ガスクロマトグラフィー分析の結果、グリセロールを含む培地を用いた実験区のサンプルにおいて転換率(変換率)25%、選択率100%でヘキサデカン二酸が生成しているのが確認された。一方、グリセロールを含まない培地を用いた対照区のサンプルでは、基質であるパルミチン酸メチルの減少は見られたものの、生成物であるヘキサデカン二酸のピークは検出されなかった。この結果は、グリセロール(グリセリン)存在下ではパルミチン酸からヘキサデカン二酸への変換(転換)量が顕著に増加することを示している。
【0081】
さらに、上記反応液から採取したサンプルをHPLC分析にかけて、反応液中のグリセロール濃度の測定を行った。本測定の結果、グリセロールのピークは検出されず、培地中のグリセロールは反応の間に消費されたことが確認された。
【0082】
本実施例の結果は、本反応系では、菌体によってグリセロール(グリセリン)がエネルギー源として消費され、グリセロールの消費によって得られたエネルギーを利用して効率良く脂肪酸の酸化反応が進行したことを示している。なお、グリセロールはトリグリセリドを加水分解する際に、パルミチン酸などの脂肪酸とともに生成する成分である。グリセロールが酸化反応においてエネルギー源として効果的に利用され、しかも反応の間に消費され尽くしたことから、トリグリセリドの加水分解物を原料としてジカルボン酸やそのエステルを製造する際、反応系からグリセロールを分離する必要は無く、むしろ、グリセロールを含む原料を用いることが飽和ジカルボン酸等の生産にはより好適であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、例えば不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の両方を含むバイオマス等の幅広い天然材料を原料として、飽和ジカルボン酸(好ましくは長鎖飽和ジカルボン酸)を効率よく製造するために用いることができる。例えば、パルミチン酸及びパルミトレイン酸を非常に高い比率で含むトリグリセリドを生産するある種のケイ藻由来の油脂を本発明の方法において原料として用いることにより、バイオマスを原料とした効率的なC16ジカルボン酸(ヘキサデカン二酸)の生産方法を確立できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然油脂の還元処理及びグリセロール分離処理を行い、得られる脂肪酸化合物をグリセロールともに添加した培地中で、脂肪酸ω酸化活性を有する微生物を培養することを含む、飽和ジカルボン酸化合物を生産する方法。
【請求項2】
前記グリセロール分離処理により、天然油脂から不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物又はそれらのエステルの混合物と、グリセロールとを生成し、該混合物を還元処理し、それをグリセロールとともに添加した培地中で、脂肪酸ω酸化活性を有する微生物を培養することにより、飽和ジカルボン酸又はそのエステルを生産することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記還元処理により、天然油脂の不飽和脂肪酸側鎖中の不飽和結合を飽和結合へと変換し、それを加水分解又はエステル交換によりグリセロール分離処理して飽和脂肪酸又は飽和脂肪酸エステルとグリセロールとを生成し、得られた飽和脂肪酸又は飽和脂肪酸エステルをグリセロールともに添加した培地中で、脂肪酸ω酸化活性を有する微生物を培養することにより、飽和ジカルボン酸又はそのエステルを生産することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
飽和ジカルボン酸又はそのエステルが、炭素数10以上のものである、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
脂肪酸ω酸化活性を有する微生物が、酵母である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
グリセロール分離処理が、天然油脂の加水分解により、不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の混合物をグリセロールとともに生成させるものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
グリセロール分離処理が、天然油脂のエステル交換により、不飽和脂肪酸エステルと飽和脂肪酸エステルの混合物をグリセロールとともに生成させるものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
天然油脂が、微細藻類由来の油脂又は植物油脂である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
天然油脂が、ケイ藻油、ダイズ油、又はアマニ油である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記不飽和脂肪酸の少なくとも1つがパルミトレイン酸であり、前記飽和脂肪酸の少なくとも1つがパルミチン酸である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
生産された飽和ジカルボン酸エステルを、加水分解して飽和ジカルボン酸に変換することをさらに含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2012−55258(P2012−55258A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203123(P2010−203123)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】