説明

開始剤

プロトン酸に加えてプロトン酸の塩を含有するカチオン重合開始剤が開示される。プロトン酸と塩のモル比は、1:0.01〜1:2000である。本発明に従う開始剤は、例えばトリオキサンをカチオン単独重合または共重合するために使用され、この重合方法の安定でかつ柔軟な実施を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン重合用開始剤に関する。本発明は、また、開始剤の存在下でモノマーをカチオン重合する方法、およびその方法によって生成されたポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン重合は、正に帯電した活性部位におけるモノマー分子の段階的反応によって進行するイオン重合である。この方法で、いくつかのモノマーを重合することができる。このようなモノマーの例は、オレフィン類、ビニルエーテル類、スチレンなどのビニルアレーン類であるが、特にエーテル類、チオエーテル類、オキシラン類、オキサゾリン類、エステル類、およびアセタール類などヘテロ原子を含む化合物である。周知のカチオン重合用開始剤は、過塩素酸やトリフルオロメタンスルホン酸などのプロトン酸、または三フッ化ホウ素や三塩化アルミニウムなどのルイス酸である。
カチオン重合は、カルボニル二重結合の開裂によるアルデヒド類の重合、またはトリオキサンなどの環状アセタール類の開環によって、大半はバルク重合による工業的大規模で調製されるポリアセタール類の生成に関して特に重要である。
【0003】
しかしながら、周知のカチオン重合用開始剤には、一般にいくつかの欠点がある。三フッ化ホウ素は、一般に高圧下で気体として貯蔵され、取扱いが非常に困難である。同様に、それを用いて生成されたポリアセタール類の品質、特にその長期安定性には、やはり改善の余地がある。
【0004】
独国特許出願公開第2141600号公報には、開始剤として1個〜18個の炭素原子を含むトリフルオロメタンスルホン酸およびその同族体の存在下でトリオキサンを単独重合および共重合する方法が記載されている(特許文献1)。
欧州特許第0 678 535号明細書には、開始剤としてトリフルオロメタンスルホン酸ならびにその同族酸および無水物を使用したカチオン重合によるポリオキシメチレンコポリマーの生成が記載されている(特許文献2)。開始剤は、主モノマーに対して5×10−6〜2×10−5モル%の濃度範囲で使用される。
【0005】
引用された従来技術の開始剤は、極めて活性が高いが、まさにその理由のため、わずかな用量の変動でさえ、重合反応器において圧力変動を招く恐れがあるという欠点を有する。さらに、これらの活性開始剤は、プロセス安定性に直接影響を与えるモノマー中の、少量の不純物にさえ非常に鋭敏に反応する。したがって、これらの開始剤は、現在その高い活性にもかかわらず工業的に使用されていない。これらは、信頼性および生産一貫性の点から商業的製造の要件を満たしていないのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許出願公開第2141600号公報
【特許文献2】欧州特許第0 678 535号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、活性が非常に高く、高品質ポリマーをもたらすだけでなく、信頼性および生産一貫性に関して商業的製造の高い要件を満たす新規なカチオン重合用開始剤を提供することである。さらに、開始剤は、その反応性に関して広範な限度内で特異的に調節できるものとし、したがって製造操作の特定の要件に適合するものとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、本発明に従って、プロトン酸の塩およびプロトン酸を含むカチオン重合用開始剤によって実現される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例の開始剤溶液を使用してカチオン重合した場合の、重合時間に対する反応混合物の温度経過を記録したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の目的において、プロトン酸は、モノマーに対してプロトン供与体として働く化合物である。開始剤として特に有用な本発明に従うプロトン酸としては、硫酸、テトラフルオロホウ酸、または過塩素酸などの無機酸が挙げられるが、フッ素化または塩素化されたアルキルスルホン酸またはアリールスルホン酸などの有機酸も挙げられる。さらなる例には、ペンタフルオロエタンスルホン酸、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、パーフルオロペンタンスルホン酸、パーフルオロヘキサンスルホン酸、およびパーフルオロヘプタンスルホン酸などのトリフルオロメタンスルホン酸の同族体も含まれる。
【0011】
本発明の塩のカチオンは、無機物だけでなく、有機物とすることもできる。アルカリ金属またはアルカリ土類金属カチオンは、無機カチオンとして特に有用である。リチウム塩は、多くのモノマー中で溶解性が良好であるため特に好ましい。無機カチオンとのプロトン酸塩の例は、トリフルオロスルホン酸リチウムおよびトリフルオロスルホン酸ナトリウムである。
【0012】
有用な有機カチオンは、特にアンモニウムイオン、例えばトリエチルアンモニウム、またはテトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、もしくはテトラエチルアンモニウムなどの第四級アンモニウムイオンである。例えば、過塩素酸テトラエチルアンモニウムをプロトン酸塩として使用することができる。プロトン酸およびモノマー中で、その塩が良好な溶解性を示すカチオンが好ましい。
【0013】
一般式(I)の置換されたアンモニウムイオンが特に好ましく、式中、R〜Rは、独立に、水素;メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、もしくはイソブチルなどのアルキル基;またはフェニル、もしくは4−メトキシフェニルなどのアリール基である:
【0014】
【化1】

【0015】
置換されたアンモニウムイオンはまた、その対応する塩が、プロトン酸と対応するアミンを混合することによって非常に容易に調製されるので好ましい。したがって、トリエチルアミンとトリフルオロメタンスルホン酸を混合すると、トリエチルアンモニウムトリフラートが生成する。
【0016】
有用な有機カチオンには、さらにプロトン化した窒素化合物が含まれ、例としては、プロトン化イミダゾールおよびプロトン化アミド類が挙げられる。有用なアミド類には、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、およびN−メチルピロリドンが含まれる。
【0017】
塩のアニオンは、低い求核性および良好な熱安定性で選択される。例としては、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、テトラフェニルホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、および好ましいトリフルオロメタンスルホン酸イオンが挙げられる。
【0018】
本発明によれば、プロトン酸と塩のモル比は、広範な範囲内で変えることができる。これは、まさに新規な開始剤の特定の驚くべき利点とみなされなければならない。原理的には、1:0.01〜1:2000の範囲、好ましくは1:0.5〜1:10の範囲、より好ましくは1:0.8〜1:8の範囲、最も好ましくは1:1〜1:4の範囲のプロトン酸と塩のモル比(塩に対するプロトン酸のモル比)が可能である。
【0019】
本発明に従って使用される開始剤の量は、使用するモノマーの全重量に基づき、10−6重量%〜1重量%の範囲、好ましくは10−5重量%〜10−3重量%の範囲、より好ましくは2×10−5重量%〜5×10−4重量%の範囲である。使用する開始剤の量は、プロトン酸の化学組成およびモノマーまたはモノマー混合物の化学組成に依存する。例えば、1,3,5−トリオキサンの単独重合の場合、トリオキサンとジオキソランの共重合の場合よりも典型的には少ない開始剤が使用される。
【0020】
本発明の開始剤は、特に1,3,5−トリオキサン(トリオキサン)の単独重合または共重合のために好ましい。しかし、原理的には、テトロキサンをモノマーとして使用することもできる。有用なコモノマーには、トリオキサンと共重合できることが知られているモノマーが含まれ、モノマー混合物中のそのモノマーの割合は、すべて、全混合物の重量に基づき、0.1重量%〜25重量%、好ましくは0.5重量%〜10重量%である。
【0021】
周知の適当なコモノマーには、少なくとも2個の隣接する炭素原子、および3〜9環員を有する環状エーテル類、特に環状アセタール類が含まれる。その例としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、トリメチレンオキシド、テトラヒドロフラン、ブタジエンオキシド、1,3−ジオキソラン、1,4−ブタンジオールホルマール、ジエチレングリコールホルマール、o−キシレングリコールホルマール、チオジグリコールホルマール、もしくは1,3−オキサチオラン、またはそれらの混合物が挙げられる。さらなる共重合性コモノマーとしては、スチレン、イソブチレン、またはポリジオキソランなどの線状ポリアセタール類などのオレフィン性不飽和化合物が挙げられる。
【0022】
本発明の開始剤を使用して調製されたホモポリマーまたはコポリマーのモル質量は、適切な場合には慣例の制御因子によって所望の値に調整される。一価アルコール類のアセタール類またはホルマール類が、制御因子として通常使用される。メチラールが特に好ましい。
【0023】
本発明の開始剤は、希釈しないで、または希釈した形で使用することができる。開始剤が、希釈した形で使用されるとき、開始剤は溶媒に溶解される。溶媒中の開始剤の濃度は、10−4重量%〜10重量%の範囲、好ましくは10−3重量%〜0.2重量%の範囲、より好ましくは10−2重量%〜0.1重量%の範囲である。開始剤に有用な溶媒には、4個〜10個の炭素原子を有する脂肪族または脂環式のエーテル類、ハロゲン化炭化水素、グリコールエーテル類、ギ酸メチルなど不活性の有機溶媒が含まれる。メチラールおよび1,3−ジオキソランが、溶媒としての使用に特に好ましい。
【0024】
典型的には、プロトン酸および塩を溶媒に溶解することによって開始剤を調製し、この溶液を使用して、重合を開始させる。
【0025】
しかしながら、その場で開始剤に含まれている塩を調製することも可能である。例えば、モノマーの混合物は塩基を含むことができ、この混合物は、塩基に対してモル過剰のプロトン酸と混合される。次いで、プロトン酸は塩基と反応して、塩が生成され、したがって塩と同様に、過剰のプロトン酸が存在することになる。
【0026】
プロトン酸と塩のモル比は、以下の通り算出することができる。
【0027】
baseをモノマー混合物に添加された塩基のモル数とし、nacidを塩基を含有するモノマー混合物に添加されて重合を開始させるプロトン酸のモル数とすれば、重合混合物中のプロトン酸と塩のモル比(Vps)は、
Vps=(nacid−nbase)/nbase
である(この式は、nacid>nbaseのとき、すなわち酸と塩基の塩基性度が同じである場合に、塩基に対してモル過剰のプロトン酸が存在するときのみ有効である)。
【0028】
開始剤のこのようなその場での調製は、ポリマーの連続生成において特に有利に使用することができる。この場合、開始剤溶液は、プロトン酸および塩基またはそれらの溶液を混合装置に連続供給することによって調製され、化学量論的に過剰なプロトン酸が供給される。酸および塩基またはそれらの溶液の供給速度を変えることによって、酸濃度だけでなく、酸と塩の比も任意所望の値に設定することができ、したがって要件に適合させることができる。この場合、プロトン酸と塩のモル比(Vps)contは、次式によって算出することができる:
(Vps)cont=(F×C/MG−F×C/MG)×MG(F×C
式中、
:プロトン酸溶液の流量(kg/時間)
:プロトン酸溶液中のプロトン酸の濃度(重量%)
MG:プロトン酸のモル質量(g/モル)
:塩基溶液の流量(kg/時間)
:塩基溶液中の塩基の濃度(重量%)
MG:塩基のモル質量(g/モル)
(この式も、酸と塩基の塩基性度が同じであるということを前提とする)。
【0029】
本発明の開始剤のさらなる利点は、その活性が、(塩が添加されていない)純粋なプロトン酸から成る開始剤に比べて、モノマー混合物中の不純物の影響をより受けないことである。
【0030】
特に驚くべきことに、本発明のカチオン重合用開始剤の反応性は、プロトン酸と塩の比により非常に広範囲にわたって正確に設定可能である。これによって、重合の時間経過を、開始剤の化学組成によって所与の重合反応器に正確に適合させることが可能になる。
【0031】
本発明は、プロトン酸の塩およびプロトン酸を含む開始剤の存在下でモノマーをカチオン重合または共重合する方法にも関する。重合は、60℃〜180℃の範囲の温度、および1バール〜100バールの範囲、好ましくは2バール〜60バールの範囲の圧力下で実施されることが好ましい。
【0032】
上記の方法は、好ましくはトリオキサンとコモノマーを共重合させるのに利用され、出発混合物の全重量に基づき、0.1重量%〜25重量%の範囲、好ましくは0.5重量%〜10重量%の範囲の量のコモノマーが出発混合物中に存在する。
【0033】
本発明は、さらにプロトン酸の塩およびプロトン酸を含む上記開始剤の、モノマーをカチオン重合または共重合するための使用にも関する。
【0034】
次に、本発明を具体例によってさらに詳細に説明するが、本発明は、開始剤およびカチオン重合について説明した特定の実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
実施例1
開始剤溶液1〜4の調製:
表1に報告する様々な量のトリエチルアンモニウムトリフラート(triflate)を、撹拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸(triflic)のメチラール溶液に溶解した。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例2〜5
異なる4つの実験では、いずれの場合にも、撹拌しながら一度に100gのトリオキサンを実施例1で調製された100マイクロリットルの開始剤溶液(No.1〜4)と混合し、それによってカチオン重合した。熱電対を用いて、時間に対する反応混合物の温度経過を測定し、記録した。測定された曲線を図1に示す。開始剤溶液は、時間t=0秒において添加した。
【0038】
この曲線から、誘導時間、および重合速度と比例する温度上昇速度dT/dtを読み取ることができる。表2に結果を示す。
【0039】
【表2】

【0040】
実施された具体例から、重合の遅延の増大は、同じプロトン酸濃度において、塩とプロトン酸の比(プロトン酸に対する塩の比)の増大と共に起こることが明らかである。
【0041】
実施例2〜5のポリマーのメルトインデックスは、誤差限度内で同一、すなわち4.5ml/10分(DIN ISO 1133;190℃、荷重5kg)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン重合することができるモノマーの重合用開始剤であって、少なくとも1つのプロトン酸および少なくとも1つのプロトン酸の塩を含む開始剤。
【請求項2】
プロトン酸として、硫酸、テトラフルオロホウ酸、もしくは過塩素酸などの無機酸、および/またはフッ素化もしくは塩素化されたアルキルスルホン酸もしくはアリールスルホン酸などの有機スルホン酸を含む、請求項1に記載の開始剤。
【請求項3】
有機スルホン酸が、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、パーフルオロペンタンスルホン酸、パーフルオロヘキサンスルホン酸、およびパーフルオロヘプタンスルホン酸からなる群から選択される、請求項2に記載の開始剤。
【請求項4】
塩として、プロトン酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩、および/またはプロトン酸の置換アンモニウム塩を含み、このアンモニウム塩のカチオンが、一般式(I):
【化1】

を有する(式中、R〜Rは、独立に、水素;メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、もしくはイソブチルなどのアルキル基;またはフェニル、もしくは4−メトキシフェニルなどのアリール基である)、請求項1から3のいずれか一項に記載の開始剤。
【請求項5】
プロトン酸と塩のモル比が、1:0.01〜1:2000の範囲、好ましくは1:0.5〜1:10の範囲、より好ましくは1:0.8〜1:8の範囲、最も好ましくは1:1〜1:4の範囲である、請求項1から4のいずれか一項に記載の開始剤。
【請求項6】
使用されるモノマーの全重量に基づき、10−6重量%〜1重量%の量で使用される、請求項1から5のいずれか一項に記載の開始剤。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の開始剤の存在下でモノマーをカチオン重合または共重合する方法であって、60℃〜180℃の範囲の温度、および1バール〜100バールの範囲、好ましくは2バール〜60バールの範囲の圧力下で重合を実施することを含む方法。
【請求項8】
主モノマーとしてトリオキサン、および全混合物の重量に基づき、0.1重量%〜25重量%の範囲、好ましくは0.5重量%〜10重量%の範囲の量のコモノマーを利用する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか一項に記載の開始剤の、モノマーをカチオン重合または共重合するための使用。

【図1】
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【公表番号】特表2010−504380(P2010−504380A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528633(P2009−528633)
【出願日】平成19年9月17日(2007.9.17)
【国際出願番号】PCT/EP2007/008067
【国際公開番号】WO2008/034571
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(598029656)ティコナ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (32)
【氏名又は名称原語表記】Ticona GmbH
【Fターム(参考)】