説明

間欠的な血液ガスサンプルから死腔率を継続的に決定するシステム及び方法

被検体の1つ以上の血液ガスパラメータが測定された場合に被検体の死腔率を更新するのみであるというよりむしろ、被検体の死腔率を実質的に継続的にモニタするように、システムが構成される。これは、呼吸療法の改善制御を被検体に提供することを容易にし、被検体の介護に関する決定を与え、且つ/或いはその他の増強を提供し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間欠的にのみ行われる血液ガス測定に基づいて被検体の死腔率を決定することに関する。
【背景技術】
【0002】
死腔率を決定するように構成されたシステムが知られている。一般に、死腔率は、呼吸死腔と1回換気量との間の比を意味する。呼吸死腔は、被検体による一呼吸のうちの、被検体の血液とのガス交換に関与しない容積を意味する。例えば、この容積は、肺の外側の被検体の気道と、換気はされるがかん流されないためにガス交換に関与しない被検体の肺内の容積とを含む。被検体の死腔率は、診断のため、治療を被検体のニーズに調整するため、且つ/或いはその他の目的のために使用されることができる。
【0003】
従来システムで死腔率を決定するためには、血液ガス測定を行わなければならない。これは一般的に、死腔率の決定の度に、被検体から血液を収集することを必要とする。従って、死腔率は典型的に、間欠的に(例えば、患者が集中治療されているときに約24時間の間隔で)更新されるのみである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
被検体の死腔率を実質的に継続的に決定するシステム及び方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様において、被検体の死腔率をモニタするように構成されたシステムが提供される。当該システムは、被検体の血液内の1つ以上の分子種の濃度を指し示す1つ以上の血液ガスパラメータに関する血液ガス情報を受信するように構成された血液ガス情報インタフェースと、前記被検体の呼吸の1つ以上の呼吸パラメータに関する呼吸情報を受信するように構成された呼吸情報インタフェースと、コンピュータプログラムモジュールを実行するように構成されたプロセッサとを含み。前記コンピュータプログラムモジュールは、前記血液ガス情報インタフェースを介して受信された血液ガス情報から1つ以上の血液ガスパラメータの値を取得するように構成された血液ガスモジュールと、前記呼吸情報インタフェースを介して受信された呼吸情報から1つ以上の呼吸パラメータの値を取得するように構成された呼吸パラメータモジュールと、前記血液ガスモジュールによって取得された前記1つ以上の血液ガスパラメータの値と、前記呼吸パラメータモジュールによって取得された前記1つ以上の呼吸パラメータの値とに基づいて、前記被検体の死腔率を決定するように構成された死腔率モジュールとを含む。前記死腔率モジュールは、複数の測定インターバルで前記被検体の死腔率を決定するように構成され、前記死腔率モジュールは、(i)或る測定インターバル中に前記血液ガス情報インタフェースによって受信されていない血液ガス情報と、(ii)該測定インターバル中に前記呼吸情報インタフェースによって受信されている呼吸情報とに応じて、該測定インターバルの終わりにおいて、前記被検体の死腔率を、先行する前記被検体の死腔率の決定にて使用された前記1つ以上の血液ガスパラメータの値と、該測定インターバル中に受信された前記呼吸情報から取得された前記1つ以上の呼吸パラメータの値と、に基づいて決定する。
【0006】
本発明のこれら及びその他の目的、機能及び特徴、並びに作動方法、関連する構造要素の機能、部分群の組み合わせ、及び製造の経済性が、本明細書の一部を形成する添付の図面を参照しながら以下の説明及び添付の請求項を検討することによって明らかになる。図面において、様々な図における対応し合う部分は似通った参照符号で指し示す。本発明の一実施形態において、ここに例示される構造要素は縮尺を変えて描かれる。しかしながら、明確に理解されるように、図面は、例示及び説明のみを目的とするものであり、本発明を限定するものではない。また、認識されるように、ここでの何れかの実施形態において図示あるいは説明される構造的な特徴は、その他の実施形態でも同様に用いられ得る。しかしながら、明確に理解されるように、図面は、例示及び説明のみを目的とするものであり、本発明の範囲を定めるものではない。本明細書及び請求項において、単数形の“a”、“an”及び“the”は、特に断らない限り、それによって指示されるものが複数あることを含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の1つ以上の実施形態に従った被検体の死腔率をモニタするように構成されたシステムを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、被検体12の死腔率をモニタ(監視)するように構成されたシステム10を例示している。特に、システム10は、被検体12の1つ以上の血液ガスパラメータが測定された場合に被検体12の死腔率を更新するのみであるというよりむしろ、被検体12の死腔率を実質的に継続的にモニタするように構成される。これは、呼吸療法の改善制御を被検体12に提供することを容易にし、被検体12の介護に関する決定のための情報を与え、且つ/或いはその他の増強を提供し得る。一実施形態において、システム10は、電子ストレージ14、ユーザインタフェース16、血液ガス情報インタフェース18、呼吸情報インタフェース20、プロセッサ22、及び/又はその他の構成要素を含む。
【0009】
一実施形態において、電子ストレージ14は、情報を電子的に記憶する電子的記憶媒体を有する。電子ストレージ14の電子的記憶媒体は、システム10と一体的に(すなわち、実質的に脱着不可能に)設けられたシステムストレージと、例えばポート(例えば、USBポート、ファイヤーワイヤー(登録商標)ポートなど)又はドライブ(例えば、ディスクドライブなど)を介して、システム10に脱着可能に接続可能なリムーバブルストレージと、のうちの一方又は双方を含み得る。電子ストレージ14は、光学的に読み取り可能な記憶媒体(例えば、光ディスクなど)と、磁気的に読み取り可能な記憶媒体(例えば、磁気テープ、磁気ハードドライブ、フロッピー(登録商標)ドライブなど)と、電荷に基づく記憶媒体(例えば、EEPROM、RAMなど)と、ソリッドステート記憶媒体(例えば、フラッシュドライブなど)と、電子的に読み取り可能なその他の記憶媒体と、のうちの1つ以上を含み得る。電子ストレージ14は、ソフトウェアアルゴリズム、プロセッサ22によって決定された情報、ユーザインタフェース16を介して受信された情報、及び/又はシステム10が適切に機能することを可能にするその他の情報を格納し得る。電子ストレージ14は、システム10内の別個のコンポーネントであってもよいし、システム10の1つ以上のその他のコンポーネント(例えば、プロセッサ22)と一体的に設けられてもよい。
【0010】
ユーザインタフェース16は、システム10とユーザ(例えば、ユーザ、介護者、治療決定者など)との間のインタフェースを提供するように構成され、ユーザはそれを介して、システム10に情報を提供したりシステム10から情報を受け取ったりし得る。これは、データ、結果、命令、及び/又はその他の通信可能な項目(これらを総称して“情報”と呼ぶ)がユーザとシステム10との間で通信されることを可能にする。ユーザインタフェース16に含めるのに好適なインタフェース装置の例には、キーパッド、ボタン、スイッチ、キーボード、つまみ、レバー、表示スクリーン、タッチスクリーン、スピーカー、マイク、インジケータ光、可聴アラーム、及びプリンタが含まれる。
【0011】
理解されるように、本発明によれば、有線若しくは無線の何れであろうと、その他の通信技術もユーザインタフェース16として意図される。例えば、本発明により意図されることには、電子ストレージ14によって提供されるリムーバブルストレージにユーザインタフェース16が統合されてもよい。この例において、ユーザがシステム10の実装をカスタマイズすることを可能にする情報が、リムーバブルストレージ(例えば、スマートカード、フラッシュドライブ、リムーバブルディスクなど)からシステム10にロードされ得る。ユーザインタフェース16としてシステム10とともに使用されるように適応されるその他の典型的な入力装置及び技術には、以下に限られないが、RS−232ポート、RFリンク、IRリンク、モデム(電話、ケーブル又はその他)が含まれる。要するに、システム10と情報を通信するための如何なる技術も、本発明によって、ユーザインタフェース16として意図される。
【0012】
血液ガス情報インタフェース18は、システム10への血液ガス情報を受信するように構成される。血液ガス情報は、1つ以上の血液ガスパラメータに関する情報を含む。血液ガスパラメータは、被検体12の血液内の1つ以上の分子種の濃度(例えば、分圧)を指し示す。非限定的な例として、上記1つ以上の分子種は、酸素、二酸化炭素、重炭酸塩、及び/又はその他の分子種、のうちの1つ以上を含み得る。一実施形態において、血液ガス情報インタフェース18は、電子ポート、リード、無線受信器、及び/又はシステム10への血液ガス情報の電子的な受信を可能にするその他のコンポーネントを含む。血液ガス情報は、上記1つ以上の血液ガスパラメータを測定するように構成された検出器から電子的に受信され得る。一実施形態において、血液ガス情報インタフェース18は、ユーザがそれを介して血液ガス情報を手動で入力することが可能なユーザインタフェース(例えば、ユーザインタフェース16)を含む。一実施形態において、血液ガス情報は、印刷出力、患者カルテ、日誌(ログブック)、及び/又はその他の参照物から手動で入力される。
【0013】
呼吸情報インタフェース20は、呼吸情報を受信するように構成される。呼吸情報は、被検体12の呼吸の1つ以上の呼吸パラメータを含む。上記1つ以上の呼吸パラメータは、圧力、流量、1回換気量、肺胞の1回換気量、組成(例えば、分圧、濃度など)、吐出二酸化炭素、呼吸速度、吐出二酸化炭素の容積、欠損吐出二酸化炭素率、気道死腔量、器具死腔量、及び/又はその他の呼吸パラメータ、のうちの1つ以上を含み得る。一実施形態において、呼吸情報インタフェース20は、電子ポート、リード、無線受信器、及び/又は呼吸検出器24からの呼吸情報の電子的な受信を可能にするその他のコンポーネントを含む。
【0014】
呼吸検出器24は、被検体12の気道又はその付近からガス(気体)を取得し、取得されたガスから取られた測定結果から得られる情報を伝達する出力信号を生成するように構成される。一実施形態において、呼吸検出器24はサンプリング(標本抽出)チャンバ26とセンサ28とを含む。
【0015】
サンプリングチャンバ26は、被検体12の気道又はその付近で取得されたガスを受け入れるように構成される。ガスは、吸気口30からサンプリングチャンバ26を通って排気口32へと流れる。ガスは、被検体インタフェース器具34及び/又は導管36を介してサンプリングチャンバ26へと伝えられる。被検体インタフェース器具34は、被検体12の気道の1つ以上の開口部に気密的あるいは非気密的に係合し得る。被検体インタフェース器具34の例は、例えば、気管内チューブ、鼻カニューレ、気管切開チューブ、鼻マスク、鼻/口マスク、フルフェースマスク、トータルフェースマスク、部分再呼吸式マスク、又は被検体の気道との間でガス流を伝達するその他のインタフェース器具を含み得る。本発明は、これらの例に限定されるものではなく、如何なる被検体インタフェースの使用をも意図するものである。サンプリングチャンバは導管36内に直接的に配置されてもよい。この構成においては、ポンプが必要とされないことがある。
【0016】
導管36は、サンプリングチャンバ26の吸気口30を被検体インタフェース器具34と流体的に連通させるように構成され、それにより、被検体インタフェース34によって被検体12の気道又はその付近から取得されたガスはが、導管36を介して吸気口30に供給される。一実施形態において、呼吸検出器24は副流(サイドストリーム)サンプリング用に構成される。この構成においては、導管36は更に、被検体インタフェース器具34を呼吸可能物質源と流体的に連通させるように構成される。例えば、治療法に従って制御される1つ以上のパラメータを有する呼吸可能なガスの流れが、導管36を介して送達される。制御される呼吸可能ガス流の上記1つ以上のパラメータは、圧力、流量、組成、湿度、温度、及び/又はその他のパラメータ、のうちの1つ以上を含み得る。一実施形態において、呼吸検出器24は本流(メインストリーム)サンプリング用に構成される。この構成においては、サンプリングチャンバ26は、(図1に示すように)側方に外して配置されるのではなく、サンプリングチャンバ26を通り抜ける流路内に配置される。呼吸検出器24が副流サンプリング用に構成される、あるいは導管36が被検体12の気道に呼吸可能物質を提供しない一実施形態において、ポンプ38は、導管36から吸気口30を介してサンプリングチャンバ26内にガスを引き込むように構成される。
【0017】
センサ28は、サンプリングチャンバ26内のガスの1つ以上のパラメータに関する情報を伝達する出力信号を生成するように構成される。非限定的な例として、該ガスの上記1つ以上のパラメータは、組成、圧力、流量、及び/又はその他のパラメータを含み得る。一実施形態において、サンプリングチャンバ26内のガスは被検体12の気道又はその付近から取得されたものであるので、センサ28によって生成される出力信号が、呼吸情報インタフェース20を介してシステム10に伝達される呼吸情報となる。一実施形態において、サンプリングチャンバ26は、呼吸情報インタフェース20を介してシステム10に呼吸情報を伝達する前にセンサ28の出力信号を(少なくとも間欠的に)処理する1つ以上の要素を含む。
【0018】
認識されるように、図1においてセンサ28を単一のコンポーネントとして図示しているのは、限定を意図したものではない。一実施形態において、センサ28は複数のセンサを含む。また、サンプリングチャンバ26内としたセンサ28の位置は、限定を意図したものではない。センサ28は、導管36内、被検体インタフェース器具34内、呼吸可能物質源の位置、ポンプ38の位置若しくはその付近、及び/又はサンプリングチャンバ26の外部のその他の位置、に配置された1つ以上のセンシングユニットを含み得る。例えば、センサ28は、気道死腔量、1回換気量、吐出二酸化炭素容積、及び/又はその他のパラメータを測定するように導管36内に配置されたセンサを含み得る。
【0019】
プロセッサ22は、システム10の情報処理能力を提供するように構成される。従って、プロセッサ22は、デジタルプロセッサ、アナログプロセッサ、情報を処理するように設計されたデジタル回路、情報を処理するように構成されたアナログ回路、状態機械、及び/又は情報を電子的に処理するその他の機構、のうちの1つ以上を含み得る。図1においてプロセッサ22は単一のエンティティとして示されているが、これは単に例示のためである。一部の実装例において、プロセッサ22は複数の処理ユニットを含み得る。それらの処理ユニットは同一デバイス内に物理的に配置されてもよく、あるいは、プロセッサ22は、協働する複数のデバイスの演算処理機能を表してもよい。
【0020】
図1に示すように、プロセッサ22は、1つ以上のコンピュータプログラムモジュールを実行するように構成される。上記1つ以上のコンピュータプログラムモジュールは、血液ガスモジュール40、呼吸パラメータモジュール42、死腔率モジュール44、のうちの1つ以上を含み得る。プロセッサ22は、モジュール40、42及び/又は44を、ソフトウェア;ハードウェア;ファームウェア;ソフトウェア、ハードウェア及び/又はファームウェアの組み合わせ;及び/又は、プロセッサ22の演算処理能力を構成するその他の機構;によって実行するように構成され得る。
【0021】
認識されるように、図1においてモジュール40、42及び44は単一の処理ユニット内に共通配置されるように示されているが、プロセッサ22が複数の処理ユニットを含む実装例において、モジュール40、42及び44のうちの1つ以上がその他のモジュールから遠隔に配置されてもよい。後述の異なるモジュール40、42及び44によって提供される機能の説明は、例示のためであって、限定を意図したものではなく、モジュール40、42及び44の何れかが、説明されるより多くの機能又は少ない機能を提供してもよい。例えば、モジュール40、42及び44のうちの1つ以上が排除されて、その機能の一部又は全てをモジュール40、42及び44のうちの他のモジュールが提供してもよい。他の一例として、プロセッサ22は、モジュール40、42及び44のうちの1つに帰属する機能の一部又は全てを実行し得る1つ以上の追加モジュールを実行するように構成されてもよい。
【0022】
血液ガスモジュール40は、血液ガス情報インタフェース18を介してシステム10が受信した血液ガス情報から、1つ以上の血液ガスパラメータに関する値を取得するように構成される。一実施形態において、血液ガス情報は、(例えばユーザインタフェース16を介して)ユーザによってシステム10に入力された値を含み得る。この実施形態において、血液ガスモジュール40は、ユーザによって入力された値にアクセスすることによって値を取得する。一実施形態において、上記1つ以上の血液ガスパラメータの値を取得するために、血液ガス情報インタフェース18を介してシステムが受信した血液ガス情報を処理しなければならない。この実施形態において、血液ガスモジュール40は、血液ガス情報を処理して、上記1つ以上の血液ガスパラメータの値を取得する。血液ガスパラメータは、動脈血酸素の分圧、動脈血二酸化炭素の分圧、酸素飽和度、ヘモグロビン濃度、及び/又はその他のパラメータ、のうちの1つ以上を含み得る。
【0023】
呼吸パラメータモジュール42は、呼吸情報インタフェース20にてシステム10が受信した呼吸情報から、1つ以上の呼吸パラメータの値を取得するように構成される。一実施形態において、センサ28の出力信号が、呼吸情報インタフェース20にて受信され、1つ以上の呼吸パラメータの値を取得するために処理される。呼吸パラメータモジュール42によって取得される上記1つ以上の呼吸パラメータは、圧力、流量、1回換気量、肺胞の1回換気量、呼吸速度、組成(例えば、分圧、濃度など)、呼気終末二酸化炭素、吐出二酸化炭素容積、混合吐出二酸化炭素率、気道死腔量、器具死腔量、及び/又はその他の呼吸パラメータ、のうちの1つ以上を含み得る。
【0024】
死腔モジュール44は、血液ガスモジュール40によって取得された1つ以上の血液ガスパラメータの値と、呼吸パラメータモジュール42によって取得された1つ以上の呼吸パラメータの値とに基づいて、被検体12の死腔率を決定するように構成される。それから血液ガスパラメータが取得される血液ガス情報は頻度が比較的低い。これは、血液ガス情報を得ることが、被検体12から血液を引き出し、そして、引き出した血液を検査することを伴うからである。一方、呼吸情報は、被検体12の気道からのガスをサンプリングすること(これは実質的に被検体12にあまり煩わしくない)のみを必要とし、呼吸検出器24からの出力信号は実質的に継続的に生成され得る。従来システムにおいては、死腔率の決定は一般的に、(例えば、被検体12から血液を引き出すことによって)1つ以上の血液ガス情報が更新されるときにのみ行われる。しかしながら、死腔率は比較的動的なものであることがあり、実質的に継続的に死腔率を決定することによって、被検体12の診断及び/又は処置の様々な観点が強化され得る。
【0025】
死腔率は、1回換気量に対する呼吸死腔容積の比である。死腔容積パラメータには主要な要素が2つ存在する。第1の要素は気道死腔、すなわち、被検体12の外口と被検体12の肺内の肺胞との間の気道の容積であり、第2の要素は肺胞死腔、すなわち、肺胞が肺血とともに血液内のガスを交換するように適正に機能しない肺内の容積である。気道死腔は実質的に不変のままである。肺胞死腔は時間とともに変化し得るが、それらの変化は、肺の損傷状態が急激に変化するか、あるいは換気/かん流マッチングが実質的に変化されるかしない限り、特段に動的なものではない。対照的に、死腔率の他方のパラメータである1回換気量は、特に、被検体12の換気が(例えば、被検体12によって試みられた吸息及び吐息に基づいて)自然発生的に引き起こされている場合に、比較的動的なものになり得る。
【0026】
死腔率の実質的に継続的な決定を実現するため、死腔モジュール44は、単一組の血液ガス情報に対して複数回の死腔率の決定を行うように構成される。第1組の血液ガス情報が受信されるのと第2組の血液ガス情報が受信されるのとの間に行われる複数回の死腔率の決定の各々に対して、第1組の血液ガス情報から取得された1つ以上の血液ガスパラメータが使用されながら、継続的な死腔率決定の各々に対して、更新された呼吸パラメータ(例えば、新たに受信された呼吸情報から取得される)が使用される。
【0027】
一実施形態において、死腔モジュール44は、複数の測定間隔(インターバル)で被検体12の死腔率を決定するように構成される。これらのインターバルは、周期的であってもよいし、呼吸情報(例えば、呼吸検出器24の出力信号)のサンプリングレートによってトリガーされてもよいし、あるいはその他の方法で予め定められてもよい。死腔率を実質的に継続的に提供するため、これらのインターバルは、約5時間未満、約2時間未満、約1時間未満、約30分未満、約10分未満、約5分未満、又は約2分未満にされ得る。所与のインターバルの終わりにおいて、最後の死腔率決定以降に新たな血液ガス情報が受信されていない場合、死腔モジュール44は、死腔率の先行決定(例えば、先行インターバルでの決定)で使用された1つ以上の血液ガスパラメータから死腔率を決定する。一方、一般的に、測定間隔は呼吸情報インタフェース20によって呼吸情報が受信される間隔と同じにされるか、それより長くされる。従って、所与のインターバルの終わりで行われる死腔率の決定は、最後の死腔率決定以降に取得された呼吸情報に基づいて行われることになる。(肺胞死腔に関係する)血液ガスパラメータは呼吸パラメータに対して比較的低速で変化する傾向にあるので、死腔率を決定するためにこのように“古い”血液ガスパラメータを“新しい”呼吸パラメータとともに使用することは、正確性及び/又は精度を有意に犠牲にすることなく、死腔率の継続的な決定を可能にする。
【0028】
一実施形態において、死腔モジュール44は被検体12の死腔率を、関係:
【0029】
【数1】

に従って決定するように構成される。ただし、Vd/Vtは死腔率を表し、PaCOは動脈血液内の二酸化炭素の分圧を表し、PeCOは所与の呼吸に関する混合吐出二酸化炭素(例えば、平均、中間、及び/又はその他の集合測定値であってもよいし、あるいは単一の呼吸に対して測定されてもよい)を表す。認識されるように、PaCOは血液ガスパラメータであり、PeCOは呼吸パラメータである。従って、所与の死腔率決定において、PaCOに使用される値は“古い”(例えば、先行死腔率決定においてと同じ)が、PeCOに使用される値は“新しい”(例えば、先行死腔率決定以降に取得)。
【0030】
一実施形態において、死腔モジュール44は被検体12の死腔率を、関係:
【0031】
【数2】

に従って決定するように構成される。ただし、Vdalvは肺胞死腔を表し、Vdawは気道死腔を表し、TVは総1回換気量を表す。気道死腔は基本的に定数である。1回換気量は、呼吸検出器24によって生成される出力信号から呼吸パラメータモジュール42によって継続的に取得されることが可能な呼吸パラメータである。肺胞死腔は、血液ガス情報及び/又はパラメータと呼吸情報及び/又はパラメータとの組み合わせから取得されるパラメータである。一実施形態において、新たな血液ガス情報が受信されていない所与のインターバルでの死腔率決定を支援するため、先行する死腔率決定で使用された肺胞死腔の値が、該所与のインターバルでの肺胞死腔の推定を提供するよう更新される。この更新は、該所与のインターバル中に受信された呼吸情報及び/又は取得された呼吸パラメータを用いて、先行死腔率決定で使用された肺胞死腔の値を調整することを含み得る。
【0032】
例えば、肺胞死腔は、関係:
【0033】
【数3】

に従って調整されることができる。ただし、Vdalvは肺胞死腔の更新あるいは調整された決定値(この測定インターバルで上記数式(2)にて使用されることになる)を表し、Vdalv0は先行死腔率決定で使用された肺胞死腔の値を表し、Vtalv0は先行死腔率決定で使用された肺胞1回換気量の値を表し、Vtalvは該所与のインターバルに関して呼吸パラメータモジュールによって決定された肺胞1回換気量の値を表す。Vtalvは、呼吸情報インタフェース20を介して受信された呼吸情報から呼吸パラメータモジュール42によって決定される呼吸パラメータである。一実施形態において、値Vtalv0は、Vdalv0を取得するために使用された血液ガス情報と同時にシステム10によって受信された呼吸情報から決定された値である(すなわち、Vdalv0を決定するために使用されたのと同じ呼吸情報から取得されたものである)。
【0034】
新たな血液ガス情報が受信されていない間のインターバル群での死腔率を決定するための、以前に取得された肺胞死腔の値に対する調整は、死腔モジュール44によって実行される。一実施形態において、同時に受信された血液ガス情報及び呼吸情報からの肺胞死腔の決定は、血液ガスモジュール40によって実行される。従って、この開示の目的では、肺胞死腔の決定(以前の決定に対する調整ではない)は、血液ガスパラメータを考慮した決定である。
【0035】
一実施形態において、ユーザインタフェース16は電子ディスプレイを含む。プロセッサ22は、死腔モジュール44による死腔率の決定をユーザに伝えるよう、電子ディスプレイを制御するように構成される。これにより、死腔率の更新値が実質的に継続的にユーザに提供される。これにより、ユーザによる被検体12の診断及び/又は処置が促進され得る。一実施形態において、システム10は、被検体12に治療を提供する1つ以上のコンポーネントを含む。例えば、システム10は、被検体12による呼吸を容易にするように構成された人工呼吸器を含んでいてもよい。人工呼吸器の複数の設定のうちの1つ以上が、死腔率の継続的な決定に基づいて、プロセッサ22によって自動調整され得る。
【0036】
認識されるように、以上の説明では、死腔率を決定するために特定の関係を使用した。本開示の範囲は少なくとも、新しい呼吸情報と1つ以上の先行死腔率決定で使用された血液ガス情報とに基づいて死腔率の更新決定を行うことを可能にするその他の関係をも含むものである。
【0037】
最も実用的且つ好適な実施形態であると現段階で考えられるものに基づいて、例示目的で、本発明を詳細に説明したが、理解されるように、このような詳細事項は単に例示のためである。本発明は、開示した実施形態に限定されるものではなく、それとは対照的に、添付の請求項の精神及び範囲に入る変更及び均等構成にも及ぶものである。例えば、理解されるように、本発明が意図することには、何れかの実施形態の1つ以上の特徴は、可能な範囲で、その他の実施形態の1つ以上の特徴と組み合わされることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の死腔率をモニタするように構成されたシステムであって、当該システムは:
被検体の血液内の1つ以上の分子種の濃度を指し示す1つ以上の血液ガスパラメータに関する血液ガス情報を受信するように構成された血液ガス情報インタフェース;
前記被検体の呼吸の1つ以上の呼吸パラメータに関する呼吸情報を受信するように構成された呼吸情報インタフェース;並びに
コンピュータプログラムモジュールを実行するように構成されたプロセッサであり、前記コンピュータプログラムモジュールは:
前記血液ガス情報インタフェースを介して受信された血液ガス情報から1つ以上の血液ガスパラメータの値を取得するように構成された血液ガスモジュール;
前記呼吸情報インタフェースを介して受信された呼吸情報から1つ以上の呼吸パラメータの値を取得するように構成された呼吸パラメータモジュール;及び
前記血液ガスモジュールによって取得された前記1つ以上の血液ガスパラメータの値と、前記呼吸パラメータモジュールによって取得された前記1つ以上の呼吸パラメータの値とに基づいて、前記被検体の死腔率を決定するように構成された死腔率モジュール;
を有する、プロセッサ;
を有し、
前記死腔率モジュールは、複数の測定インターバルで前記被検体の死腔率を決定するように構成され、前記死腔率モジュールは、(i)或る測定インターバル中に前記血液ガス情報インタフェースによって受信されていない血液ガス情報と、(ii)該測定インターバル中に前記呼吸情報インタフェースによって受信されている呼吸情報とに応じて、該測定インターバルの終わりにおいて、前記被検体の死腔率を、先行する前記被検体の死腔率の決定にて使用された前記1つ以上の血液ガスパラメータの値と、該測定インターバル中に受信された前記呼吸情報から取得された前記1つ以上の呼吸パラメータの値と、に基づいて決定する、
システム。
【請求項2】
前記測定インターバルは周期的である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記測定インターバルは約10分未満である、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記血液ガス情報インタフェースは、前記血液ガス情報の手動入力を支援するユーザインタフェースを有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記死腔率モジュールにより決定された死腔率をユーザに伝えるように構成されたユーザインタフェース、を更に有する請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
被検体の死腔率をモニタする方法であって、当該方法は:
被検体の血液内の1つ以上の分子種の濃度を指し示す1つ以上の血液ガスパラメータに関する血液ガス情報を受信し;
前記被検体の呼吸の1つ以上の呼吸パラメータに関する呼吸情報を受信し;
受信した前記血液ガス情報から1つ以上の血液ガスパラメータの値を取得し;
受信した前記呼吸情報から1つ以上の呼吸パラメータの値を取得し;且つ
取得された前記1つ以上の血液ガスパラメータの値と、取得された前記1つ以上の呼吸パラメータの値とに基づいて、前記被検体の死腔率を複数の測定インターバルで決定する;
ことを有し、
(i)或る測定インターバル中に受信されていない血液ガス情報と、(ii)該測定インターバル中に受信されている呼吸情報とに応じて、該測定インターバルの終わりにおいて、前記被検体の死腔率が、先行する前記被検体の死腔率の決定にて使用された前記1つ以上の血液ガスパラメータの値と、該測定インターバル中に取得された前記1つ以上の呼吸パラメータの値と、に基づいて決定される、
方法。
【請求項7】
前記測定インターバルは周期的である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記測定インターバルは約10分未満である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記血液ガス情報を受信することは、ユーザによって手動入力された血液ガス情報を受信することを有する、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
決定された死腔率をユーザに伝えることを更に有する請求項6に記載の方法。
【請求項11】
被検体の死腔率をモニタするように構成されたシステムであって、当該システムは:
被検体の血液内の1つ以上の分子種の濃度を指し示す1つ以上の血液ガスパラメータに関する血液ガス情報を受信する手段;
前記被検体の呼吸の1つ以上の呼吸パラメータに関する呼吸情報を受信する手段;
受信した前記血液ガス情報から1つ以上の血液ガスパラメータの値を取得する手段;
受信した前記呼吸情報から1つ以上の呼吸パラメータの値を取得する手段;及び
取得された前記1つ以上の血液ガスパラメータの値と、取得された前記1つ以上の呼吸パラメータの値とに基づいて、前記被検体の死腔率を複数の測定インターバルで決定する手段;
を有し、
(i)或る測定インターバル中に受信されていない血液ガス情報と、(ii)該測定インターバル中に受信されている呼吸情報とに応じて、該測定インターバルの終わりにおいて、前記被検体の死腔率が、前記決定する手段によって、先行する前記被検体の死腔率の決定にて使用された前記1つ以上の血液ガスパラメータの値と、該測定インターバル中に取得された前記1つ以上の呼吸パラメータの値と、に基づいて決定される、
システム。
【請求項12】
前記測定インターバルは周期的である、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記測定インターバルは約10分未満である、請求項11に記載のシステム。
【請求項14】
前記血液ガス情報を受信する手段は、ユーザによって手動入力される血液ガス情報を受信する手段を有する、請求項11に記載のシステム。
【請求項15】
決定された死腔率をユーザに伝える手段を更に有する請求項11に記載のシステム。

【図1】
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【公表番号】特表2013−515584(P2013−515584A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−546544(P2012−546544)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【国際出願番号】PCT/IB2010/056086
【国際公開番号】WO2011/080695
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】