説明

間葉系細胞を有効成分とする体内投与用脳神経疾患治療薬

ラット骨髄より骨髄細胞を採取し、ラット脳梗塞モデルへ静脈投与した結果、脳梗塞治療に有効であることが分かった。またヒトおよびマウス骨髄幹細胞も同様の効果を有することが分かった。骨髄細胞、臍帯血細胞、あるいは末梢血細胞等の間葉系細胞は、脳神経疾患に対して静脈投与用の薬剤となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、間葉系細胞、特に骨髄細胞、臍帯血細胞、もしくは末梢血細胞、またはこれら細胞に由来する細胞を有効成分とする体内投与用脳神経疾患治療薬に関する。
【背景技術】
近年、再生医療が脚光を浴びている。再生医療においては、人体に備わっている自然の再生・治癒能力が及ばないような体の障害に対して、自己の細胞を人工的増殖により再生した器官等を障害部位に外科的に接合することによって、幅広い分野において障害部位の治癒を行なうことができるようになってきている。
稀突起膠細胞(オリゴデンドログリア:oligodendrocyte)(非特許文献1〜3参照)、またはシュワン細胞(非特許文献4、非特許文献2、非特許文献5参照)もしくはオルファクトリーエンシーシング細胞(olfactory ensheating cells)(非特許文献6〜8参照)などの髄鞘形成細胞を移植すると、動物モデルにおいて再有髄化が誘発され、電気生理学機能を回復させることができる(非特許文献9および非特許文献5参照)。このような細胞を患者若しくは他人から調製して、細胞治療法に用いることも不可能ではないが、組織材料を脳または神経から採取しなければならないため問題が多い。
脳から得られる神経前駆細胞または幹細胞には、自己複製能力があり、さまざまな細胞系譜の神経細胞や膠細胞に分化することが知られている(非特許文献10〜13参照)。胎児組織から採取したヒト神経幹細胞を新生仔マウスの脳に移植すると、神経細胞と星状細胞に分化したり(非特許文献14〜16参照)、また再有髄化させることもできる(非特許文献17参照)。脱髄化した齧歯類の脊髄に成人脳由来の神経前駆細胞を移植すると、再有髄化が行なわれて、インパルスの伝導を回復したことが報告されている(非特許文献18参照)。
これらの研究は、上記細胞が、神経系疾患の修復術に利用できるかもしれないことを示唆しているため、大きな関心を引いている。(非特許文献18、14〜16、19参照)。
最近の研究によって、神経幹細胞が、インビボで造血細胞を発生させうることが明らかになり、神経前駆細胞は神経細胞系譜には限定されないことが示された(非特許文献20参照)。さらに、骨髄間質細胞を新生仔マウスの側脳質に注入すると、ごくわずかではあるが星細胞のマーカーを発現する細胞へ分化したり(非特許文献21参照)、または、適当な細胞培養条件下では、インビトロで神経細胞のマーカーを発現する細胞が極わずかに出現することが報告されているが、神経再生に有用かどうかは不明である(非特許文献22参照)。
すでに本発明者らは、ヒト成人由来の神経系細胞(神経幹細胞、神経前駆細胞)を、脳より抽出・培養し、セルライン化し、その機能を検討し、当該神経系細胞には、自己複製機能と多分化機能が存在することを見出した(非特許文献18参照)。すなわち、脳より得た神経細胞の前駆細胞(progenitor cell)を単一細胞展開(single cell expansion)し、セルライン化したものをインビトロの系でクローン分析を行ったところ、自己複製能(すなわち、増殖能)と、多分化能[すなわち、ニューロン(neuron)、膠星状細胞(アストログリア;astrocytes)、稀突起膠細胞(オリゴデンドログリア;oligodendrocytes)への分化]が認められたことから、この細胞には神経幹細胞の性質があることが確認された。
また、自己の大脳より少量の神経組織を採取して、神経幹細胞を抽出・培養し、得られた神経幹細胞を、自己の脳や脊髄の損傷部位に移植することは、自家移植療法として、極めて応用性の高い治療法となるものと考えられる。しかしながら、大脳より神経幹細胞を含んだ組織を採取することは、採取にあたって神経脱落症状が発生しないとはいえ、容易なことではない。したがって、より安全で、かつ簡便な自家移植療法を確立することは、今日の複雑な各種疾患に対する治療法の確立という点から、極めて重要なことである。これに対し、本発明者らは、ドナー細胞の獲得のために、神経幹細胞の採取技術より容易である、骨髄細胞、臍帯血細胞、または胎児肝細胞より単核細胞分画等を採取する技術を開発した(特許文献1参照)。すなわち、骨髄細胞より調製した単核細胞分画が神経系細胞への分化能を有するものであることを示した。さらに、該単核細胞分画から分離した中胚葉幹細胞(間葉系幹細胞)を含む細胞分画、間質細胞を含む細胞分画、およびAC133陽性細胞を含む細胞分画が神経系細胞への分化能を有することを示した。
脳神経疾患に対しては、上記神経系細胞へ分化能を有する細胞を直接、脳患部へ投与する治療方法が考えられるが、非常に複雑かつ、危険性を伴う方法と言える。脳神経疾患に対する、簡便かつ、安全性の高い治療手段、治療薬の開発が望まれていた。
【特許文献1】WO02/00849
【非特許文献1】Archer DR,et al.1994.Exp Neurol 125:268−77.
【非特許文献2】Blakemore WF,Crang AJ.1988.Dev Neurosci 10:1−11.
【非特許文献3】Gumpel M,et al.1987.Ann New York Acad Sci 495:71−85.
【非特許文献4】Blakemore WF.1977.Nature 266:68−9.
【非特許文献5】Honmou O,et al.1996.J Neurosci 16:3199−208.
【非特許文献6】Franklin RJ,et al.1996.Glia 17:217−24.
【非特許文献7】Imaizumi T,et al.1998.J Neurosci 18(16):6176−6185.
【非特許文献8】Kato T,et al.2000.Glia 30:209−218.
【非特許文献9】Utzschneider DA,et al.1994.Proc Natl Acad Sci USA 91:53−7.
【非特許文献10】Gage FH,et al.1995.Proc Natl Acad Sci USA 92:11879−83.
【非特許文献11】Lois C,Alvarez−Buylla A.1993.Proc Natl Acad Sci USA 90:2074−7.
【非特許文献12】Morshead CM,et al.1994.Neuron 13:1071−82.
【非特許文献13】Reynolds BA,Weiss S.1992.Science 255:1707−10.
【非特許文献14】Chalmers−Redman RM,et al.1997.Neurosci 76:1121−8.
【非特許文献15】Moyer MP,et al.1997.Transplant Proc 29:2040−1.
【非特許文献16】Svendsen CN,et al.1997.Exp Neurol 148:135−46.
【非特許文献17】Flax JD,et al.1998.Nat Biotechnol 16:1033−9.
【非特許文献18】Akiyama Y,et al.2001.Exp Neurol.
【非特許文献19】Yandava BD,et al.1999.Proc Natl Acad Sci USA 96:7029−34.
【非特許文献20】Bjornson CR,et al.1999.Science 283:534−7.
【非特許文献21】Kopen GC,et al.Proc Natl Acad Sci USA 96:10711−6.
【非特許文献22】Woodbury D,et al.2000.J Neurosci Res 61:364−70.
【発明の開示】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、脳神経疾患に対する、安全性の高い治療手段、治療薬の提供を目的とする。より詳しくは、間葉系細胞、特に、骨髄細胞、臍帯血細胞、もしくは末梢血細胞、またはこれら細胞由来の細胞を有効成分として含む、脳神経疾患治療のための体内投与、特に静脈投与用薬剤を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。まず本発明者らは、マウスの骨髄より骨髄細胞を採取して、単核細胞分画だけを分離し、これをドナー細胞としてラット脳梗塞モデルへ静脈投与し、脳神経疾患に対する治療効果を検討した。その結果、驚くべきことに骨髄細胞を局所投与すること以外に、静脈投与することによっても、脳神経疾患(脳梗塞、脊髄損傷、脱髄疾患)に対して治療効果を有することを見出した。
さらに、骨髄幹細胞(mesenchymal stem cell、間葉系幹細胞)も同様に上記モデル動物へ静脈投与し、脳神経疾患に対する治療効果を検討した結果、骨髄幹細胞の静脈投与が脳神経疾患治療に非常に有効であることを見出した。
さらに、自家骨髄細胞もしくは間葉系幹細胞の静脈投与もしくは局所投与も、脳神経疾患治療に有効であることを見出した。自家移植は、他家移植や異種移植と比較して、免疫抑制剤を使用せずにすみ、治療効果の面からも非常に有利である。
上記の如く、本発明者らは間葉系細胞(間葉系幹細胞)、特に骨髄細胞もしくは間葉系幹細胞の静脈投与による脳神経疾患治療効果を見出し、本発明を完成させた。本発明者らは、後述の実施例で示すように、本発明の間葉系細胞の静脈投与による脳神経疾患治療効果を、医学的あるいは生物学的な種々の実験によって詳細に解析を行い、上記知見を実証するに至った。
即ち、間葉系細胞(間葉系幹細胞)、特に骨髄細胞自体は、脳神経疾患治療のための静脈投与用薬剤となるものと考えられる。
また、上記治療効果は、骨髄細胞もしくは間葉系幹細胞による神経保護効果と神経再生効果の相乗効果であるものと考察される。従って、骨髄細胞もしくは間葉系幹細胞は、静脈投与用脳神経保護剤、または脳神経再生剤となるものと期待される。
本発明は間葉系細胞、特に骨髄細胞、臍帯血細胞、もしくは末梢血細胞、またはこれら細胞に由来する細胞を有効成分として含む、脳神経疾患治療のための体内投与、特に静脈投与用薬剤に関する。さらに本発明は、上記間葉系細胞を有効成分として含む脳神経保護効果あるいは脳神経再生効果を有する体内投与用薬剤、並びに、上記薬剤の用途に関し、より具体的には、
〔1〕 間葉系細胞を有効成分として含む、脳神経疾患治療のための体内投与用薬剤、
〔2〕 脳神経疾患が脳梗塞である、〔1〕に記載の薬剤、
〔3〕 間葉系細胞を有効成分として含む、脳神経保護効果を有する体内投与用薬剤(体内投与用脳神経保護剤)、
〔4〕 間葉系細胞を有効成分として含む、脳神経再生効果を有する体内投与用薬剤(体内投与用脳神経再生剤)、
〔5〕 体内投与が静脈内投与である、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の薬剤、
〔6〕 間葉系細胞が、
(a)BDNF遺伝子、PLGF遺伝子、GDNF遺伝子、もしくはIL−2遺伝子が導入された間葉系細胞、または
(b)hTERT遺伝子が導入され不死化した間葉系細胞、
である、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の薬剤、
〔7〕 間葉系細胞が、間葉系幹細胞(MSC)である、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の薬剤、
〔8〕 間葉系細胞が骨髄細胞、臍帯血細胞、または末梢血細胞である、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の薬剤、
〔9〕 患者へ治療上有効量の〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の薬剤を体内投与することを含む、脳神経疾患の治療方法、
〔10〕 骨髄細胞が患者の自家細胞である、〔9〕に記載の治療方法、
〔11〕 脳神経疾患が脳梗塞である、〔9〕または〔10〕に記載の治療方法、
〔12〕 体内投与が静脈内投与である、〔9〕〜〔11〕のいずれかに記載の治療方法、
〔13〕 間葉系細胞が骨髄細胞、臍帯血細胞、または末梢血細胞である、〔9〕〜〔12〕のいずれかに記載の治療方法、を提供するものである。
本発明は、間葉系細胞(例えば、骨髄細胞、臍帯血細胞、末梢血細胞、間葉系幹細胞、またはこれら細胞に由来する細胞)を有効成分として含む、脳神経疾患治療のための体内投与用薬剤を提供する。
本発明における「体内投与」とは、通常、頭部(脳)以外の部位への投与を意味する。例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、腹腔内投与等を挙げることができるが、最も好ましくは、静脈内投与である。
本発明における間葉系細胞とは、好ましくは骨髄細胞(骨髄細胞の単画球分画成分;MCF(mononuclera cell fraction))、臍帯血細胞、あるいは末梢血細胞、間葉系幹細胞(MSC(mesenchymal stem cell))、またはこれら細胞に由来する細胞等を指す。また、本発明の間葉系細胞には、例えば、間葉系に関連する細胞、中胚葉幹細胞等が含まれる。尚、本発明において「間葉系細胞」として記述された細胞が、将来的に間葉系細胞以外の細胞として分類される場合であっても、本発明においては当該細胞を好適に利用することができる。
骨髄中には幹細胞として、造血幹細胞と「間葉系幹細胞(MSC:Mesenchymal Stem Cell)」とがある。ここで「幹細胞」とは、一般に、生体を構成する細胞の生理的な増殖・分化などの過程において、自己増殖能と、特定の機能を持つ細胞に分化する能力とをあわせ有する未分化細胞のことである。造血幹細胞は、赤血球、白血球、あるいは血小板に分化する幹細胞である。間葉系幹細胞は、神経幹細胞を経て神経に分化する場合、神経幹細胞を経ないで直接的に神経に分化する場合、ストローマ細胞を経て神経に分化する場合(ただし効率は悪い)、内臓に分化する場合、血管系に分化する場合、又は骨、軟骨、脂肪、あるいは筋肉に分化する場合があることが知られている。
本発明では、主として間葉系幹細胞(MSC)を利用するが、造血幹細胞や、体内の他の幹細胞(前駆細胞)を利用できる可能性があることにも言及しておく。間葉系幹細胞は骨髄から採取された骨髄細胞から分離して得られる。なお、間葉系幹細胞を分離していない骨髄細胞も、有効性は若干劣るものの、間葉系幹細胞と同じように治療に用いることができる。
また、間葉系幹細胞のような細胞が、末梢血中から調製できる可能性も考えられる。実際、本発明者らは、末梢血のなかに混じっている細胞から培養してきた細胞を、神経幹細胞や神経系細胞(神経細胞、グリア細胞)のマーカーを出現する細胞へ誘導できることに成功した。その際、末梢血に由来する細胞から神経系細胞への誘導には、必ずしも、G−CSFあるいはSCFを使用しなくともよい。即ち、本発明者らは既に、骨髄液または臍帯血から分離される単核細胞分画から調製した中胚葉幹細胞(間葉系幹細胞)、またはES細胞を、基礎的培養液で培養すると、該中胚葉幹細胞(間葉系幹細胞)または該ES細胞が神経幹細胞、神経細胞またはグリア細胞へ分化誘導することを見出した。従って、末梢血中の細胞を培養することにより、間葉系幹細胞と同等の機能を有する細胞を調製し、本発明に利用することも可能である。なお、上記「基礎的培養液」とは、細胞培養に使用される通常の培養液であれば特に制限はないが、好ましくは、DMEM(Dulbecco′s modified essential medium)またはNPBM(Neural progenitor cell basal medium:Clonetics)である。上記基礎的培養液のその他の成分としては、特に制限はないが、好ましくは、F−12、FCS、Neural survival factors(Clonetics)等が挙げられる。これらの培養液中の濃度としては、例えば、F−12は50%、FCSは1%である。また、培養液におけるCO濃度は好ましくは5%であるが、特に制限されない。
本発明において、中胚葉幹細胞とは、発生学的に中胚葉と分類される組織を構成している細胞を指し、血液細胞も含まれる。また、中胚葉幹細胞とは、自己と同じ能力を持った細胞をコピー(分裂、増殖)することができ、中胚葉の組織を構成している全ての細胞へ分化し得る能力を持った細胞を指す。中胚葉幹細胞は、例えば、SH2(+),SH3(+),SH4(+),CD29(+),CD44(+),CD14(−),CD34(−),CD45(−)の特徴を有する細胞であるが、これらマーカーに特に制限されない。また所謂、間葉系に関連する幹細胞も、本発明の中胚葉幹細胞に含まれる。
上記の間葉系に関連する細胞とは、間葉系幹細胞、間葉系細胞、間葉系細胞の前駆細胞、間葉系細胞から由来する細胞のことを意味する。
間葉系幹細胞とは、例えば、骨髄、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、血液、臍帯血、更には、種々の組織の初期培養物から得ることができる幹細胞のことである。また末梢血中の細胞を培養して得ることができる間葉系幹細胞と同等の機能を有する細胞も本発明の間葉系幹細胞に含まれる。
本発明において好ましい間葉系細胞としては、骨髄細胞、骨髄幹細胞(mesenchymal stem cell)を好適に示すことができる。その他、本発明の細胞の好ましい例として、臍帯血細胞、末梢血細胞、胎児肝細胞等を挙げることができる。
本発明における骨髄細胞、臍帯血細胞、末梢血細胞、胎児肝細胞の好ましい態様としては、骨髄、臍帯血、末梢血、または胎児肝より分離して得た細胞の一分画であって、神経系細胞へ分化し得る細胞を含む細胞分画を挙げることができる。
他の一つの態様において、該細胞分画は、SH2(+)、SH3(+)、SH4(+)、CD29(+)、CD44(+)、CD14(−)、CD34(−)、CD45(−)の特徴を有する中胚葉幹細胞を含む細胞分画である。
本発明において、上記以外の細胞分画の例としては、Lin(−)、Sca−1(+)、CD10(+)、CD11D(+)、CD44(+)、CD45(+)、CD71(+)、CD90(+)、CD105(+)、CDW123(+)、CD127(+)、CD164(+)、フィブロネクチン(+)、ALPH(+)、コラーゲナーゼ−1(+)の特徴を有する間質細胞を含む細胞分画、あるいはAC133(+)の特徴を有する細胞を含む細胞分画を挙げることができる。
また、本発明においては、上記細胞分画に含まれる細胞は、神経系細胞へ分化し得る細胞であることが好ましい。
本発明における細胞分画には、骨髄細胞より分離して得た単核細胞分画であって、神経系細胞へ分化しうることを特徴とする細胞が含まれる。その他の態様として、例えば臍帯血細胞、末梢血細胞、または胎児肝細胞より分離して得た単核細胞分画であって、神経系細胞へ分化しうることを特徴とする細胞が含まれる。その他の態様として、末梢血中に放出させられた骨髄中の間葉系幹細胞であって、神経系細胞へ分化しうることを特徴とする細胞が含まれる。末梢血中へ間葉系幹細胞が放出される際には、例えば活性物質や薬剤を用いてもよいが、これら物質を用いない場合であってもよい。なお、骨髄より採取した間葉系幹細胞と、末梢血由来の間葉系幹細胞とでは、神経幹細胞や神経細胞のマーカーを出すという共通の性質を有するものの、一部異なった面、例えば、増殖率や、分化誘導率等について相違が見られる。本発明の間葉系幹細胞は、必ずしも、骨髄より採取した間葉系幹細胞に限定されず、末梢血由来の間葉系幹細胞であってもよい。即ち、本発明の間葉系幹細胞には、これらの両者が含まれる。(なお、本発明においては、末梢血由来の間葉系幹細胞についても、単に「間葉系幹細胞」と記載する場合あり)
本発明の細胞分画に含まれる細胞の神経系細胞への分化は、いわゆる血液系細胞の神経系細胞への形質転換により生じるのか、それとも骨髄細胞、臍帯血細胞、あるいは末梢血細胞などの中に存在する神経細胞に分化できる未熟な細胞の分化によるものであるかは明確ではないが、神経系細胞へ分化する細胞は、主として、幹細胞、即ち、自己増殖能と多分化能を有する細胞であると考えられる。また、神経系細胞へ分化する細胞は、ある程度他の胚葉へ分化している幹細胞でありうる。
本発明の細胞分画に含まれる細胞は、栄養因子によって増殖することは要せず(栄養因子によって増殖することは可能である)、神経自己移植技術の開発という点では簡便で、かつ現実性の高いものであり、その医療産業上の有益性は多大なものであるといえる。本発明における骨髄細胞、臍帯血細胞、あるいは末梢血細胞(細胞分画)は、一般的には、脊椎動物に由来する。好ましくは哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、サル、ヒトなど)由来であるが、特に制限されない。
本発明における細胞分画は、例えば、脊椎動物から採取した骨髄細胞、臍帯血細胞を、2000回転で比重に応じた分離に十分な時間、溶液中にて密度勾配遠心を行ない、遠心後、比重1.07g/mlから1.1g/mlの範囲に含まれる一定の比重の細胞分画を回収することにより調製することができる。ここで「比重に応じた分離に十分な時間」とは、密度勾配遠心のための溶液内で、細胞がその比重に応じた位置を占めるのに十分な時間を意味する。通常、10〜30分間程度である。回収する細胞分画の比重は、好ましくは1.07g/mlから1.08g/mlの範囲(例えば、1.077g/ml)である。密度勾配遠心のための溶液としては、Ficol液やPercol液を用いることができるが、これらに制限されない。また、脊椎動物から採取した臍帯血細胞を上記と同様に調製し、細胞分画として利用することもできる。
具体例を示せば、まず、脊椎動物より採取した骨髄液(5−10μl)を溶液(IL−15を2ml+Ficolを3ml)に混合し、遠心(2000回転で15分間)し、単核細胞分画(約1ml)を抽出する。この単核細胞分画を細胞の洗浄のために培養溶液(NPBM 2ml)に混合して、再度、遠心(2000回転で15分間)する。次いで、上澄みを除去した後、沈降した細胞を回収する。本発明の細胞分画の採取源としては、大腿骨以外にも、胸骨や、骨盤を形成している腸骨から採取することもできる。これらの骨以外でも大きい骨であれば採取可能である。また、骨髄バンクに保存してある骨髄液や臍帯血から採取することも可能である。臍帯血細胞を利用する場合には、骨髄バンクに保存してある臍帯血から採取することも可能である。
本発明の細胞分画の他の態様は、骨髄細胞、臍帯血細胞、あるいは末梢血細胞より単離・精製して得た単核細胞分画であって、神経系細胞へ分化しうる中胚葉幹細胞(間葉系幹細胞)を含む細胞分画である。中胚葉幹細胞を含む細胞分画は、例えば、骨髄細胞、臍帯血細胞、あるいは末梢血細胞から遠心分離して得た上記の細胞分画の中から、上記SH2等の細胞表面マーカーを有する細胞を選択することにより得ることができる。
また、神経系細胞へ分化しうる中胚葉幹細胞(間葉系幹細胞)を含む細胞分画は、脊椎動物から採取した骨髄細胞、臍帯血細胞を、900gで比重に応じた分離に十分な時間、溶液中にて密度勾配遠心を行ない、遠心後、比重1.07g/mlから1.1g/mlの範囲に含まれる一定の比重の細胞分画を回収することにより調製することができる。ここで「比重に応じた分離に十分な時間」とは、密度勾配遠心のための溶液内で、細胞がその比重に応じた位置を占めるのに十分な時間を意味する。通常、10〜30分間程度である。回収する細胞分画の比重は、細胞の由来する動物の種類(例えば、ヒト、ラット、マウス)により変動しうる。密度勾配遠心のための溶液としては、Ficol液やPercol液を用いることができるが、これらに制限されない。
具体例を示せば、まず、脊椎動物から採取した骨髄液(25ml)または臍帯血を同量のPBS溶液に混合し、遠心(900gで10分間)し、沈降細胞をPBSに混合して回収(細胞密度は4×10細胞/ml程度)することにより、血液成分を除去する。その後、そのうち5mlをPercol液(1.073g/ml)と混合し、遠心(900gで30分間)し、単核細胞分画を抽出する。細胞の洗浄のために、抽出した単核細胞分画を培養溶液(DMEM,10% FBS,1% anti−biotic−antimycotic solution)に混合し、遠心(2000回転で15分間)する。次いで、遠心後の上澄みを除去し、沈降した細胞を回収し、培養する(37℃、5% CO in air)。
本発明の細胞分画の他の態様は、骨髄細胞、臍帯血細胞より分離して得た単核細胞分画であって、神経系細胞へ分化しうる間質細胞を含む細胞分画である。間質細胞は、例えば、Lin(−)、Sca−1(+)、CD10(+)、CD11D(+)、CD44(+)、CD45(+)、CD71(+)、CD90(+)、CD105(+)、CDW123(+)、CD127(+)、CD164(+)、フィブロネクチン(+)、ALPH(+)、コラーゲナーゼ−1(+)の特徴を有する細胞である。間質細胞を含む細胞分画は、例えば、骨髄細胞、臍帯血細胞から遠心分離して得た上記の細胞分画の中から、上記Lin等の細胞表面マーカーを有する細胞を選択することにより得ることができる。
また、脊椎動物から採取した骨髄細胞、臍帯血細胞を、800gで比重に応じた分離に十分な時間、溶液中にて密度勾配遠心を行ない、遠心後、比重1.07g/mlから1.1g/mlの範囲に含まれる一定の比重の細胞分画を回収することにより調製することができる。ここで「比重に応じた分離に十分な時間」とは、密度勾配遠心のための溶液内で、細胞がその比重に応じた位置を占めるのに十分な時間を意味する。通常、10〜30分間程度である。回収する細胞分画の比重は、好ましくは1.07g/mlから1.08g/mlの範囲(例えば、1.077g/ml)である。密度勾配遠心のための溶液としては、Ficol液やPercol液を用いることができるがこれらに制限されない。
具体例を示せば、まず、脊椎動物から採取した骨髄液または臍帯血を同量の溶液(PBS+2%BSA+0.6%クエン酸ナトリウム+1%ペニシリン−ストレプトマイシン)溶液に混合し、そのうちの5mlをFicol+Paque液(1.077g/ml)と混合し、遠心(800gで20分間)し、単核細胞分画を抽出する。この単核細胞分画を細胞の洗浄のために培養溶液(Alfa MEM,12.5% FBS,12.5% ウマ血清,0.2% i−イノシトール,20mM 葉酸,0.1mM 2−メルカプトエタノール,2mM L−グルタミン,1μM ヒドロコルチゾン,1% anti−biotic−antimycotic solution)に混合し、遠心(2000回転、15分間)する。次いで、遠心後の上澄みを除去した後、沈降した細胞を回収し、培養する(37℃、5% CO in air)。
本発明の細胞分画の他の態様は、骨髄細胞、臍帯血細胞、末梢血細胞、または胎児肝細胞より分離して得た単核細胞分画であって、神経系細胞へ分化しうるAC133(+)の特徴を有する細胞を含む細胞分画である。この細胞分画は、例えば、骨髄細胞、臍帯血細胞、あるいは末梢血細胞から遠心分離して得た上記の細胞分画の中から、上記AC133(+)の細胞表面マーカーを有する細胞を選択することにより得ることができる。
また、その他の態様として、脊椎動物から採取した胎児肝細胞を、2000回転で比重に応じた分離に十分な時間、溶液中にて密度勾配遠心を行ない、遠心後、比重1.07g/mlから1.1g/mlの範囲に含まれる細胞分画を回収し、この細胞分画から、AC133(+)の特徴を有する細胞を回収することにより調製することができる。ここで「比重に応じた分離に十分な時間」とは、密度勾配遠心のための溶液内で、細胞がその比重に応じた位置を占めるのに十分な時間を意味する。通常、10〜30分間程度である。密度勾配遠心のための溶液としては、Ficol液やPercol液を用いることができるがこれらに制限されない。
具体例を示せば、まず、脊椎動物から採取した肝臓組織をL−15溶液内で洗浄し、酵素処理(L−15+0.01%DnaseI,0.25%トリプシン,0.1%コラーゲナーゼを含む溶液中で、37度で30分間)し、ピペッティングにより単一細胞にする。この単一細胞となった胎児肝細胞から、実施例1(1)において大腿骨から単核細胞分画を調製したのと同様に、遠心分離を行なう。これにより得られた細胞を洗浄し、洗浄後の細胞からAC133抗体を利用してAC133(+)細胞を回収する。これにより胎児肝細胞から神経系細胞へ分化しうる細胞を調製することができる。抗体を利用したAC133(+)細胞の回収は、マグネットビーズを利用して、または、セルソーター(FACSなど)を利用して行なうことができる。
これら中胚葉幹細胞(間葉系幹細胞)、間質細胞、あるいはAC133陽性細胞を含む細胞分画は、脊髄脱髄領域への移植後に、効率よく再有髄化する。特に、上記中胚葉幹細胞(間葉系幹細胞)を含む細胞分画は、脳梗塞モデルへの移植に用いても、良好に生着し、神経系細胞あるいはグリア細胞に分化することができる。
また、上記細胞分画に含まれる神経系細胞に分化し得る細胞として、例えば、上記細胞分画に含まれる神経幹細胞、中胚葉幹細胞(間葉系幹細胞)、および間質細胞、AC133陽性細胞が含まれるが、神経系細胞に分化し得る限り、これらに制限されない。
また、本発明における脳神経系疾患の治療ための体内投与用薬剤の有効成分としては、例えば、骨髄細胞、臍帯血細胞、あるいは末梢血細胞だけでなく、上記細胞分画も含まれる。本発明の間葉系細胞、例えば、骨髄細胞、臍帯血細胞、あるいは末梢血細胞はそのまま投与に用いることも可能であるが、投与による治療効率を向上させるために、種々の薬剤を添加した薬剤(組成物)として、または、治療効果を上昇させる機能を有する遺伝子を導入した細胞として投与することも考えられる。本発明の薬剤または遺伝子導入細胞の調製においては、例えば、
(1)細胞分画に含まれる細胞の増殖率を向上させるまたは神経系細胞への分化を促進する物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、
(2)細胞分画に含まれる細胞の損傷神経組織内での生存率を向上させる物質の添加、あるいはこのような効果(例えば、ラジカルの抑制等)を有する遺伝子の導入、
(3)細胞分画に含まれる細胞が、損傷神経組織から受ける悪影響を阻止する物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、
(4)ドナー細胞の寿命を延長させる物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子(例えば、hTERT遺伝子等)の導入、
(5)細胞周期を調節する物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、
(6)免疫反応の抑制を目的とした物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、
(7)エネルギー代謝を活発にする物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、
(8)ドナー細胞のホスト組織内での遊走能を向上させる物質、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、
(9)血流を向上させる物質、あるいはこのような効果を有する遺伝子(例えばVEGF,Angiopoietin,PGF等)の導入(血管新生誘導も含む)、
(10)神経保護作用を有する物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子(例えばBDNF,GDNF,NT,NGF,FGF,EGF,PFG等)の導入、
(11)アポトーシス抑制効果を有する物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子の導入、
(12)抗腫瘍効果を有する物質の添加、あるいはこのような効果を有する遺伝子(例えばIL−2,IF−β等)の導入、
を行うことが考えられるが、これらに制限されるものではない。
本発明者らは、後述の実施例で示すように間葉系幹細胞(MSC)に神経栄養因子であるBDNF(brain−derived neurotrophic factor)遺伝子を導入した細胞が、ラット脳梗塞モデルにおいて治療効果があることを実証した。さらに本発明者らは、該BDNF遺伝子を導入したMSCを、静脈内に移植した場合に、脳梗塞に対して治療効果を有することを確認した。同様に、PLGF(Placental growth factor)遺伝子をMSCへ導入した細胞を静脈内移植した場合にも、脳梗塞に対して治療効果を有することを確認した。
また、BDNF遺伝子以外の遺伝子、例えば、GDNF(glial cell line−derived neurotrophic factor),CNTF(cliary neurotrophic factor)、NT3(neurotrophin−3)遺伝子をMSCに導入した細胞についても、脳梗塞に対して治療効果を有することを見出した。さらに、間葉系幹細胞にIL−2遺伝子を導入した細胞が、ラット脳腫瘍モデルで治療効果を有することを実証した。従って、本発明の間葉系細胞の好ましい態様としては、BDNF遺伝子、PLGF遺伝子、GDNF遺伝子、またはIL−2遺伝子が導入された間葉系細胞である。即ち、外来のBDNF遺伝子、PLGF遺伝子、GDNF遺伝子、またはIL−2遺伝子を発現可能な状態で保有する間葉系細胞を、本発明の間葉系細胞として、好適に使用することができる。
また、上記以外の遺伝子、例えば、CNTF、NT3の各遺伝子が導入された間葉系幹細胞についても、本発明の間葉系細胞の具体例として、好適に示すことができる。(なお、本明細書において、○○遺伝子が導入された間葉系幹細胞(MSC)を、「MSC−○○」と記載する場合あり)
また、脳梗塞は血管が閉塞する病状を呈することから、脳梗塞の治療の際には、本発明の間葉系細胞を、血管新生を司る因子(遺伝子)と組み合わせることで著明な治療効果が期待できる。本発明者らは、後述の実施例で示すように、Angiopoietin遺伝子を、脳梗塞巣に直接注入することにより、著明な血管新生効果が発揮されることを見出した。即ち、血管新生に関与する遺伝子、例えば、Angiopoietin遺伝子が導入されたMSCは、特に、脳梗塞に対して治療効果を有することが期待される。
所望の遺伝子を発現可能な状態で導入させた間葉系細胞は、当業者においては、公知の技術を用いて、適宜作製することが可能である。
本発明において、骨髄液の採取は、例えば、採取源となる脊椎動物(ヒトを含む)を麻酔し(局所または全身麻酔)、骨に針を刺し、シリンジで吸引することにより行なうことができる。該骨としては、例えば大腿骨、胸骨、骨盤を形成している腸骨等が挙げられるが、これらに限定されない。また、出生時に臍帯に直接針を刺し、注射器で吸引して、臍帯血を採取保存しておくことは確立された技術となっている。一回の骨髄細胞の採取は被験者に局所麻酔を施した上で行い、その量は数ml程度が適切である。但しこの量は、下記のBとCの場合に適用されるが、Aの場合には適用されない。
以下に骨髄採取の一例を示すが、必ずしもこれに制限されない。
(A)骨髄細胞を生移植する場合
例えばヒトから採取する場合は、麻酔医による全身麻酔の安全性に関し十分な検討を行った上で、全身麻酔下にて患者(腸骨等)より骨髄液採取を行う。採取する目標細胞数は、単核球数で3x10個以上とする。おおよそ、200mlから400mlの骨髄液で目標細胞数が得られると推定している。なお、骨髄採取上限量の算定は、患者の負担を考慮し、骨髄採取上限量は骨髄採取直前の血色素量(Hb値)および患者の体重により算出する。ただし、高齢者で以下に定められた必要骨髄液採取が困難な場合には、骨髄液採取の担当医師の判断により、最大限の採取を行うこととする。
骨髄採取直前のHb値による採取上限量:
(1)12.5g/dl未満の場合、患者体重1kg当たり、12ml/kg以下の採取
(2)13.0g/dl未満の場合、患者体重1kg当たり、15ml/kg以下の採取
(3)13.5g/dl未満の場合、患者体重1kg当たり、18ml/kg以下の採取
(4)13.5g/dl以上の場合、患者体重1kg当たり、20ml/kg以下の採取
また、末梢血球減少(白血球数<2,000/ml,好中球数<1,000/ml,血色素量<11.0g/dl,血小板数<10万/ml)を認める患者および出血傾向のある患者は、骨髄液採取は行なわない。
さらに、抗凝固剤、抗血小板剤を使用している患者からの骨髄採取に関しては、骨髄採取、全身麻酔前に、出血時間とACTを含む、緊急検査可能な止血凝固検査(FDP、フィブリノーゲン、ATIII)を行い、慎重に検討する。
(1)抗血小板剤(パナルジン、バファリン、バイアスピリンなど)を使用している患者の場合
中止後7日間以上経過しないと血小板機能は回復しないため、急性期の骨髄採取は採取出血の原因となりうる。従って、慎重に骨髄採取を施行する。出血時間が10分間を越える時には骨髄採取を施行しない。
(2)抗凝固剤(ワーファリンなど)を使用している患者の場合
ビタミンK(K1またはK2)の静注によりACTが正常化した上で、骨髄採取を行う。
骨髄細胞の静脈内投与は、例えば、骨髄細胞(3x10個以上)を、同量の希釈液(抗生剤非添加RPMI 1640)に混注し、静脈内注射する。全体量は、約400〜2000cc程度と予想される。可及的速やかに投与を行なうが、この間の凝固を防止するために、通常、ヘパリンを混注する。
一例を示せば、採取された骨髄細胞液250cc毎に、ヘパリン2500単位と、同量の希釈液とを合わせ500ccとし、その場でフィルターを通過させ、静脈投与が可能な状態とし、その場で、すぐに患者へ静脈投与を開始する。この間も骨髄細胞液採取を続ける。この操作を2−6回行い、所定の骨髄細胞液の投与を行う。これにより投与されるヘパリンの量は、約5,000から15,000単位であり、すでに脳梗塞急性期におけるエビデンスが得られている安全有効な量とほぼ同等となる。ただ、この間、骨髄採取が続けられることを考慮し、ACTの測定を行い、必要があれば、プロタミンで中和するなどの処置を講ずる。採取に必要な時間はほぼ2時間程度であろうと考えられる。静脈内へ投与される骨髄液(希釈液を含む)の量は、全体で、2000cc程度である。従って、中心静脈圧などの右心負荷を十分にモニターしながら、3−4時間で静脈内投与を終了する。(注:静脈内に投与される骨髄液(希釈液を含む)は約2000ml、採取骨髄液は約1000ml、従って、実際に人体へ負荷する液量は1000ml/3−4時間であり、通常の脳梗塞治療時におけるボリューム負荷を考慮すると、決して多い量ではない。)
患者は、必ずしも制限されるものではないが、以下の条件で選択されることが好ましい。
1、年齢:20歳以上70歳以下
2、発症後24時間以内の患者
3、MRI拡散強調画像法にて、天幕上の大脳皮質、穿通枝領域あるいはその両方に異常を認める患者
4、NINDSIIIの分類におけるアテローム血栓性脳梗塞、ラクナー梗塞、心原性脳塞栓症のいずれのカテゴリーでもかまわない
5、今回の発作で、Modified Rankin Scaleが、3以上となった患者
6、意識障害がJapan Coma Scaleにおいて、0から100の患者
さらに以下の条件を満たす患者は除外されることが好ましい。
1、症状が改善してほぼ無症候あるいはTIAと診断された患者
2、CTまたはMRIから頭蓋内出血など閉塞性脳血管障害以外が責任病巣と診断された患者
3、心原性塞栓で、すでにCT上、出血性変化が出現している患者
4、意識障害が強く、Japan Coma Scaleにおいて、200以上の昏睡患者
5、妊婦あるいは妊娠している可能性のある患者
6、重篤な腎疾患、肝疾患、消化器疾患を有する患者
7、悪性腫瘍を合併する患者
8、重症な虚血性心疾患等、全身の心血管系統に重篤な異常が疑われる患者
9、骨髄液採取の除外基準にあてはまる患者
10、全身麻酔が危険と判断される患者
11、小脳梗塞、脳幹梗塞
12,急性期に血管内外科治療を行った患者
13、その他、治療担当主治医が本治療の対象として不適当と判断した患者
(B)骨髄液などから間葉系幹細胞(MSC)を採取・培養・保存し、投与する場合
さらに本発明の静脈投与の他の態様として、骨髄液などから採取・培養・保存したMSCを静脈内投与する方法を挙げることができる。骨髄細胞の採取・培養・保存については、以下に記載する条件に従うことが好ましい。
具体的には、
(1)局所麻酔で腸骨より約5mlの骨髄液を採取する
(2)採取骨髄液より、例えば、特許出願明細書(WO 02/00849)に記載の方法で、MSCを抽出・培養・増殖する
(3)保存液中で冷凍保存する
(4)必要時に解凍し、そのまま静脈内に投与する(2x10個以上のMSC)
本発明においては骨髄液は、初期の骨髄採取量が3〜5ml程度と身体への負担が少ないため、ほぼ全ての患者から局所麻酔で安全かつ容易に採取することができる。
採取された骨髄幹細胞等の間葉系幹細胞は、増殖培養することができるため、これを用いる治療に必要な量まで予め増殖させておくことができる。本発明におけるMSCは、好ましくはprimary culture MSCである。さらに好ましくは2x10個以上のprimary culture MSCである。上記方法を用いて増殖させられた間葉系幹細胞もしくは本発明の治療薬は、必要に応じて、凍結などの所定の方法により長期間保存しておくことができる。保存・解凍方法を以下に示す。
まず細胞凍結作業は以下のように行なう。最初にプログラムフリーザ、凍結バックF−100、液体窒素、チューブシーラー等の機材を準備する。また、Trypsin/EDTA、DMSO、デキストラン自己血清、D−MEM等の試薬を調整し準備する。
次いで、培養液を除去後、T/Eを添加し、付着培養MSC細胞を回収し、等量の細胞洗浄液(2% 自己血清含D−MEM)を加え、400gで5分遠心分離を行なう。細胞洗浄液(2% 自己血清含D−MEM)で細胞ペレットを攪拌し、400gで5分遠心分離を行なう。次いで、細胞保存液(50% 自己血清含D−MEM)41mlに細胞を攪拌する。この際、1mlシリンジを用いて0.5ml 2本の細胞溶液を分取し、細胞数をカウントする。攪拌した液体の細菌・ウイルス検査を実施し、細菌・ウイルスに汚染されていないことを確認する。次いで凍結保護液(DMSO(Cryoserv)5ml、10% デキストラン40 5ml)10mlを添加する。これを凍結バックに50mlずつ充填し、各バックに検体番号を記載する。バックをプログラムフリーザにて凍結開始し、凍結したバックは液体窒素タンクへ移動して保存する。
細胞解凍洗浄作業は以下のように行なう。まず、温浴槽、クリーンベンチ、遠心分離機、分離バック、チューブシーラー等の機材を準備する。また、20% ヒト血清アルブミン(または自己血清)、生理食塩水、10% デキストラン40等の試薬を調整し準備する。次いで、液体窒素タンクより細胞を保存した凍結バックを取り出し気相5分、室温2分に静置する。気相および室温に静置する理由は液体窒素気化による破裂を防止するためである。バックを滅菌済みビニール袋に入れ、バックのピンホール等による内容物流出を阻止する。このビニール袋を温浴槽に入れ解凍する。解凍後、細胞溶液を血液バック(閉鎖系)またはチューブ(開放系)に全液量を回収する。回収した細胞溶液に洗浄液(20% ヒト血清アルブミン25ml、生理食塩水75ml、10% デキストラン40 100ml)を等量添加する。室温で5分間静置して平衡状態にし、細胞内のDMSOを抜く。続いて400gで5分遠心分離を行なう。上記細胞洗浄液で細胞ペレットを攪拌する。このようにして得られた細胞溶液は患者の体内に投与され、また一方で、1mlシリンジを用いて0.5ml 2本細胞溶液を分取し、生存率検査および細菌検査を実施する。
さらに本発明では、このようにして予め採取・培養・保存しておいたprimary culture MSCは、必要時にはただちに解凍して活性状態に戻し、そのまま可及的速やかに静脈内へ投与し治療のために使用することができる。この際、ヘパリンは使用しない。また、投与される患者側にも特に制限される事項はない。
(C)hTERTで不死化した間葉系幹細胞を投与する場合
本発明者らは、多量に安定して細胞を増殖・分化させることができる誘導方法の開発に成功している(WO 03/038075)。通常、神経再生医療において中胚葉幹細胞(間葉系幹細胞)は有用であるが、培養条件下での増殖はある程度制限される。しかし、本発明者らの研究により、インビトロにおいてストローマ細胞や間葉系幹細胞にテロメラーゼのような不死化遺伝子を組み込んだウイルスベクターを導入すると、細胞分裂を繰り返しても細胞の増殖が継続し、細胞の寿命が飛躍的に延びるにもかかわらず、細胞形状が正常細胞と同じであることが明らかとなった。そして、本発明者らは、不死化遺伝子を導入することにより不死化した中胚葉幹細胞(間葉系幹細胞)を、適当な条件下で培養することにより効率的に神経幹細胞および神経系細胞へ分化誘導できることを見出した。
具体的には、不死化遺伝子であるhTERT遺伝子を中胚葉幹細胞(間葉系幹細胞)へ導入することにより不死化した中胚葉幹細胞(間葉系幹細胞)を、脂肪細胞、軟骨芽細胞、骨芽細胞等へ分化誘導させることに成功した。さらにhTERT遺伝子導入により不死化した中胚葉幹細胞(間葉系幹細胞)を培養条件下で高率に神経幹細胞を含む神経系細胞へ分化誘導し、またこれらの細胞(中胚葉幹細胞(間葉系幹細胞)そのもの、中胚葉幹細胞(間葉系幹細胞)より分化誘導した神経幹細胞、中胚葉幹細胞(間葉系幹細胞)より分化誘導した神経幹細胞を分化誘導した神経系細胞、中胚葉幹細胞(間葉系幹細胞)より分化誘導した神経系細胞)を移植することにより、脊髄脱髄部位が修復されることを明らかにした。
また、不死化遺伝子を導入した中胚葉幹細胞(間葉系幹細胞)自体、若しくは、本発明の上記方法によって分化誘導された神経幹細胞および神経系細胞は、神経再生に非常に有用であるものと期待される。
ガン遺伝子等を導入して細胞を不死化した場合、細胞そのものの形質転換が生じるのに対し、本発明において不死化遺伝子を導入することにより細胞を不死化した場合には、もとの細胞の性質を保持したままであり、さらに、不死化遺伝子の導入では、十分な増殖が得られた後、該遺伝子を取り去ることも可能である。
本発明においては、上記の不死化遺伝子が導入された間葉系細胞を、適宜静脈内投与に利用することも可能である。
(C)では得られる細胞が多量のため、静脈内投与する細胞数を多くすることができる。好ましくは1x10個以上の細胞を投与することができる。投与細胞数が多くなるほど治療効果が高まるため、これは大きな利点である。
本発明の間葉系細胞を有効成分として含む脳神経疾患治療のための体内投与用薬剤は、当業者に公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、必要に応じて水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、賦形剤、ビークル(vehicle)、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な容量が得られるようにするものである。また、注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなビークルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO−50と併用してもよい。
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
患者の体内への投与は、好ましくは非経口投与であり、具体的には、静脈への1回の投与が基本であるが、複数回の投与でもよい。また、投与時間は短時間でも長時間持続投与でもよい。さらに具体的には、注射剤型、経皮投与型などが挙げられる。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、動脈内注射、選択的動脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、脳室内注射、脳内注射、髄液腔内注射などにより投与することができるが、好ましくは静脈内注射である。
静脈内注射の場合、通常の輸血の要領での移植が可能となり、患者を手術する必要がなく、さらに局所麻酔も必要ないため、患者及び医者双方の負担が軽い。また病棟での移植操作が可能である点で好適である。将来の救急医療の発展を考慮すれば、救急搬送中、もしくは発症現場の投与も考えられる。
また、本発明の細胞分画に含まれる細胞は、その遊走能の高さから、遺伝子の運び屋(ベクター)として利用することも考えられる。例えば、脳梗塞を始めとした脳腫瘍などの各種神経疾患に対する遺伝子治療用ベクターとしての利用が期待される。
本発明における脳神経疾患としては、例えば、脳梗塞、脳卒中、脳出血、クモ膜下出血、脳腫瘍等を挙げることができるが、好ましくは、脳梗塞である。原因は、NINDS III(脳血管疾患分類第III版における臨床病型分類)の分類における、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症、ラクナー梗塞のいずれでもよい。その他にも、頭部外傷性の神経系疾患(頭部外傷、脳挫傷等)、虚血性脳神経損傷、外傷性脳神経損傷、脳神経変性疾患、代謝性神経疾患等が挙げられるが、脳神経の異常に起因する疾患であれば、特にこれらに制限されない。
また本発明の間葉系細胞は、静脈投与等の体内投与により、脳において脳神経の保護効果、および脳神経再生効果を有する。従って本発明は、間葉系細胞を有効成分として含む、脳神経保護効果を有する体内投与用薬剤を提供する。ここで、「脳神経保護効果」(Neuroprotection)とは、未治療の場合に損傷を受け死滅する脳神経細胞を救い生存させ続ける効果をいう。
また本発明は、間葉系細胞を有効成分として含む、脳神経再生効果を有する体内投与用薬剤を提供する。ここで「脳神経再生効果」とは、脳神経細胞を再生させ機能を回復させる効果もしくはこの効果によって得られる治療効果をいう。
さらに本発明は、患者へ治療上有効量の本発明の薬剤を体内投与(好ましくは、静脈内投与)することを含む、脳神経疾患の治療方法に関する。
上記治療方法に用いられる薬剤に含まれる骨髄細胞、臍帯血細胞、あるいは末梢血細胞等の間葉系細胞は、移植による拒絶反応の危険性を防止するために、免疫抑制などの特殊な操作を行なわない限りは、患者本人の体内から採取されたもの、あるいはそれに由来するもの(患者由来の自家細胞)であることが好ましい(自家移植療法)。これは、免疫抑制剤を併用しなければならない困難性がない点で好ましい。免疫抑制を行えば他家移植療法も可能であるが、自家移植療法の方が圧倒的に良好な治療効果が期待できる。
自家移植療法が困難な場合には、他人または他の医療用動物由来の細胞を利用することも可能である。細胞は冷凍保存したものであってもよい。
なお前記自家細胞は、患者の体内から未分化の状態で採取されたもの、患者の体内から未分化の状態で採取された間葉系幹細胞に遺伝子操作を加えたもの、または患者の体内から未分化の状態で採取された間葉系幹細胞を分化誘導させたもののいずれであってもよい。
また、本発明の治療方法において、本発明の薬剤(間葉系細胞、例えば骨髄細胞等)の患者への投与は、例えば、上述の方法に従って、好適に実施することができる。また、医師においては、上記方法を適宜改変して、本発明の薬剤を患者へ投与することが可能である。
また、本発明の上記治療方法は必ずしもヒトのみに限定されない。通常、ヒト以外の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、サル等)においても間葉系細胞を用いて、同様に本発明の方法を実施することが可能である。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
図1は、ラット脳梗塞モデル(中大脳動脈一時閉塞モデル)に対する、MCFの静脈内投与の治療効果を示す写真である。静脈内投与したMCF細胞が脳梗塞巣に集積した。
図2は、MCFの局所投与と静脈内投与の治療効果に及ぼす影響を検討した結果を示すグラフである。□が局所投与、■が静脈内投与であることを示す。
図3は、ラット脳梗塞モデル(中大脳動脈一時閉塞モデル:45分間)に対して、自家MCF(1x10cell)を移植した治療効果を示す写真である。A:脳梗塞後3時間、B:脳梗塞後6時間、C:脳梗塞後12時間、D:脳梗塞後24時間、E:脳梗塞後72時間、F:非治療群。
図4は、上記図3の結果を定量化したグラフである。□が非移植群、■が移植群を示す。*<0.001。
図5は、ラット脳梗塞モデルに対して自家MCF(1x10cell)を静脈内投与した結果を示す写真である。A;脳梗塞巣に集積する移植MCFG細胞(青色)。B;Aの□部の強拡大図(HE染色)。C;同部位をx−galで処理し、ドナー細胞を青く視覚化したもの。移植MCF細胞(青色)が多数集積している。LacZ陽性細胞(D)がNSE陽性(E)となっている。F;DとEのマージしたもの。LacZ陽性細胞(G)がGFAP陽性(H)となっている。I;GとHのマージしたもの。
図6は、移植MCF細胞が高率に脳内へ遊走していることを示す写真である。A:脳梗塞後3時間、B:脳梗塞後12時間、C:脳梗塞後72時間、D:Aの□部を染色したもの、E:Bの□部を染色したもの、F:Cの□部を染色したもの、G:Aの□部を染色したもの、H:Bの□部を染色したもの、I:Cの□部を染色したもの。
図7は、移植治療効果を示すグラフである。A:モーリスの水迷路試験で、脳高次機能(記憶、学習)を検討した結果を示す。B:トレッドミル運動負荷試験の結果を示すグラフである。▲は非治療群、□は治療群を示す。*p<0.05、**p<0.01であることを示す。
図8は、脳梗塞ラットをMRIで検査した結果を示す写真である。上段は脳梗塞直後のもの、下段は脳梗塞1週間後のものである。スケールバー:5mm。
図9は、MSCを使用した治療効果を示す写真である。上段は脳梗塞直後治療直前のもの、下段は脳梗塞1週間後治療後のものを示す。スケールバー:5mm。
図10は、脳梗塞後12時間後に、MSC(1x10〜1x10個)を静脈内投与した結果を示す写真およびグラフである。
図11は、図10での結果を、組織学的にも裏付けした結果を示す写真およびグラフである。非治療群(A)に比較して治療群(B:1x10個の移植)では、著明な治療効果が見られる。Cは組織学的結果を定量化したものである。
図12は、ラット脳梗塞モデルに対してMSC(1x10cell)を静脈内投与した結果を示す写真である。移植ドナー細胞は、脳梗塞局所に集積した(A,B,C、D)。AとCは蛍光撮影。CとDは蛍光撮影に光学写真をマージさせたものである。非移植群では、ドナー細胞は見られなかった(E,F)。また、その一部は、神経細胞(G,I,K)やグリア細胞(H,J,L)に分化した。LacZ陽性細胞(G)がNSE陽性(I)となっていた。K;GとIのマージしたもの。LacZ陽性細胞(H)がGFAP陽性(J)となっていた。L;HとJのマージしたもの。スケールバー:250μm(A,B)、10μm(C−F),5μm(G−L)。
図13は、脳梗塞に対するMSC静脈内投与の治療効果を、Magnetic Resonance Spectroscopy(MRS)により検討した結果を示す写真およびグラフである。
図14は、MSCの移植治療効果について、行動学的検査より検討した結果を示すグラフである。
図15は、ラット中大脳動脈永久閉塞モデルを用いた、MSCの治療効果を検討した結果を示す写真である。
図16は、重症脳梗塞(ラット中大脳動脈永久閉塞モデル)においても、脳梗塞巣に一致してMRI検査で異常信号が検出されることを示す写真である。
図17は、上記の図16の脳梗塞巣の異常信号(MRIでHIA)が無治療の場合、時間経過(12時間後、3日後、7日後)とともに明瞭化することを示す写真である。
図18は、ラット中大脳動脈永久閉塞モデルに対して間葉系幹細胞(MSC)(1x10cell)を静脈内投与した結果を画像として示すMRI画像写真である。障害発生からMSCの投与までの経過時間ごとに分けて結果を示した。上段から、未処理、3時間後に治療、6時間後に治療、12時間後に治療、24時間後に治療、及び72時間後に治療の結果の画像である。それぞれ脳梗塞発生の1週間後におけるMRI検査(TWI)によるものである。画像において、脳梗塞巣は白く描出される。
図19は、重症脳梗塞(ラット中大脳動脈永久閉塞モデル)に対して間葉系細胞(1×10cell)を静脈内投与した結果、脳梗塞の範囲を測定し体積として定量化したグラフである。
図20は、重症脳梗塞に対する超急性期のMSC静脈内投与による経時的な治療効果を示す写真である。
図21は、重症脳梗塞に対する急性期のMSC静脈内投与による経時的な治療効果の例を示す写真である。
図22は、間葉系幹細胞(MSC)(1×10cell)の静脈内投与による重症脳梗塞(ラット中大脳動脈永久閉塞モデル)における障害発生後の生存率を示すグラフである。障害発生から間葉系幹細胞の投与までの経過時間毎に分けて結果を示している。nはサンプル数である。
図23は、重症脳梗塞に対してMSCの移植治療を行なった臨床症状を示すグラフである。
図24は、無処置群、若しくは、G−CSFやSCFの因子を、事前に皮下に注射した群の、末梢血から得られた間葉系幹細胞のような付着培養細胞を示す写真である。
図25左は、得られた付着培養細胞から神経幹細胞(Neurosphere)への分化誘導が可能であったことを示す写真である。また図25右は、RT−PCRでNestinの発現の確認も可能であったことを示す写真である。
図26上段は、図25に示す細胞が神経細胞(NF陽性細胞)やグリア細胞(GFAP陽性細胞)への分化誘導が可能であったことを示す写真である。また図26下段はRT−PCRで、それぞれNFやGFAPの発現の確認も可能であったことを示す写真である。
図27は、MSCを培養してBDNFが産生された結果を示すグラフである。それぞれ100,300,1000,および3000pu/cellのMOIのAxCAhBDNF−F/RGD(MSC−BDNF)でトランスフェクトしたMSCは、48時間後に0.230±0.110,0.434±0.122,0.931±0.101,および1.860±0.41ng/10cellsの割合でBDNFを分泌した。トランスフェクトしていないMSCもBDNFを産生した(0.0407±0.0059ng/10cells/48hr)。
図28は、脳虚血誘導性神経欠損の評価を示すグラフである。
A:脚プレースメントにおける不足を以下の尺度で評価した。0:高度の神経欠損、16:神経欠損なし。MCAOの1日後で脳内にMSCを投与する前では、4つの虚血集団間で脚プレースメントスコアに統計学的な差は見られなかった。MCAOの8日後では、MSC−BDNF処理ラットは、コントロールDMEMラット(P=0.0001)および線維芽細胞処理ラット(P=0.003)と比較して、有意に高い脚プレースメントスコアに達した。MCAOの15日後、MSC−BDNF処理ラットのスコアはDMEM集団(P=0.024)と比較したところ同じく上昇した。
B:MCAOの前に、トレッドミル速度の平均を集団間で比較した。MCAOの8日後、MSC−BDNF集団におけるラットは、コントロールDMEM(P=0.001)および線維芽細胞処理(P=0.017)集団の動物と比較して、有意に速い速度に達した。これらの差は、MSC−BDNF集団における速度は、コントロールDMEM(P=0.002)および線維芽細胞集団(P=0.023)と比較して有意に高いまま15日目まで持続した。
図29Aは、DMEM、線維芽細胞、MSC、あるいはMSC−BDNFを投与したラットにおけるMCAOの2、7、14日後に撮ったT2強調画像(T2W)を表す写真である。MCAOの7日後、DMEM(P=0.002)、線維芽細胞(P=0.015)あるいはMSC(P=0.028)で処理したラットと比較して、MSC−BDNFで処理したラットでは、HLV(%)に有意な減少が見られた。14日後、DMEM処理したラット(P=0.011)と比較して、MSC−BDNFで処理したラットのHLV(%)に有意な減少が観察された。
図29Bは、DMEM、MSCあるいはMSC−BDNFを投与したラットにおいてMCAOの2および7日後に得た代表的なT2W画像を表す写真である。7日目の他の集団と比較して、虚血損傷体積の減少がMSC−BDNF集団にて検出された。
図30は、BDNF産生のインビボのレベルを示すグラフである。BDNFレベルは、DMEM(P=0.0002)あるいはMSC(P=0.0006)を処理ラットと比較して、MCAOの7日後にMSC−BDNF−移植ラットの虚血脳半球において有意に上昇した。BDNFのレベルはまた、DMEM処理ラットと比較してMSC処理した虚血脳半球において有意に上昇した(P=0.0124)。
図31は、DNA断片を有する細胞が、MCAO後の虚血半影および投与部位に存在することを示す図である。
A:DMEM処理ラットと比べて、MSC−BDNF処理ラットではTUNEL陽性細胞が殆ど見られないことを示す写真である。FITC=緑(TUNEL陽性)、PI=赤(核)、倍率200倍。
B:Aを630倍した写真である。
図31Cは、虚血境界域をMSC−BDNFで処理した動物では、DMEMを投与した動物と比較してTUNEL陽性細胞が有意に減少した(P=0.013)ことを示すグラフである。
図31Dは、MSC−BDNF処理ラットではMSC処理ラットと比較して、より少ない陽性細胞が検出されたことを示す写真である。多くのDsR陽性MSCが投与部位の<2mm以内で検出された。FITC(緑、TUNEL陽性)、DsR(赤、MSC)。
図32は、ラット脳における、外因性MSCおよび内因性脳細胞の形態学的な特徴を示す顕微鏡写真である。二重免疫蛍光染色を用いたところ、EGFP細胞は投与部位の近くに局在していた。レシピエントラットの脳において、レーザー走査性共焦点顕微鏡により、EGFP細胞(緑色)、神経性核抗原(NeuN;A)および神経膠線維酸性蛋白質(GFAP;B)が見出された。スケールバー=20μm。
図33a〜eは、ラットMSCにおける表面抗原の発現をフローサイトメトリーで分析した写真である。MSCは提示される抗原に特異的なモノクローナル抗体で標識された。死亡細胞は前面および側面散乱によって除去した。f〜iは、ラットMSCの典型的な間葉細胞への分化を示す写真である。初代MSCあるいはMSC−IL2の骨形成分化は、フォン−コッサ染色によって検出した。初代MSC(h)あるいはMSC−IL2(i)の脂肪細胞形成分化は、オイルレッド0染色によって検出した。
図34は、MSCの抗腫瘍効果および遊走能を示すグラフである。■はNRK細胞、□はMSC細胞を示す。(a) 9L細胞(5x10/ウェル)をMSCあるいはNRK細胞(5x10/ウェル)と共培養した。(b) MSCあるいはNRK細胞を1x10cellの濃度でトランスウェルインサートに蒔き、9L細胞を5x10細胞/ウェルの濃度でウェルに置床した。4日後、9L細胞数を数えた。全データは、増殖阻害率(%)=[1−(MSCあるいはNRK細胞と共培養した9L細胞数/単独で培養した9L細胞数)]x100で表示した。(c) 遊走アッセイの結果を示す。8μm孔径で単離した125I−デオキシウリジン標識細胞(5x10)を、トランスウェルの上部チャンバー内に置いた。9L細胞は下部チャンバー内に置いた。インキュベーション24時間後、下部チャンバーにおける放射活性を測定した。細胞遊走アッセイの結果は、チャンバーにおける総細胞数に対する下部チャンバーにおける数の比として示した。
図35は、神経膠腫をもつラットにおけるMSCの分布および遊走を示す写真である。9L−DsR細胞(4x10)細胞を移植し、続いて腫瘍接種の3日後に、4x10のMSC−EGFPを腫瘍内投与あるいは反対側の脳半球へ投与した。腫瘍接種の14日後にラットを安楽死させ、脳を切り出した。(a)および(b)は、MSC−EGFPを腫瘍内投与した脳標本の顕微鏡像。(c)および(d)は、反対側の脳半球へMSC−EGFPを投与した脳標本の顕微鏡像。(a)および(c)はH−E染色、(b)および(d)は抗GFPモノクローナル抗体で免疫組織化学的に染色した。(e)−(h)は、MSC−EGFPを腫瘍内投与した脳の蛍光顕微鏡像。(e)は、神経膠腫および正常実質の間の境界域。(f)は腫瘍の内側、(g)は末端ののマイクロサテライト。(h)は反対側の脳半球にMSC−EGFPを投与した腫瘍および正常実質の間の境界域の蛍光顕微鏡像。
図36は、9L細胞を接種した生存ラットのIL2遺伝子改変MSCの効果を示すグラフである。生存の解析は、Kaplan−Meier方法に基づく対数順位検定によって行なった。(a)は9L細胞を接種して、MSCを接種したあるいはしないラットの生存率。(b)は腫瘍接種の3日後にMSCを腫瘍内へ接種したあるいはしないラットの生存率。
図37は、代表的なMRI(Gd−DTPAで増強したT1強調冠状イメージ)の写真である。9L神経膠腫は、腫瘍接種の3日後にMSCを接種あるいは接種しない処理をした。磁気共鳴映像法は、7日毎に全動物に対して行なった。腫瘍体積(mm)は、映像の厚さに各映像領域(mm)のGd−DTPAで増強された部分を掛けた合計として計算した。
図38は、遺伝子改変MSCを投与した神経膠腫の組織学的解析結果を示す写真である。非改変MSC(a,b)あるいはMSC−IL2(c,d)の接種による神経膠腫の組織学的解析は、ヘマトキシリンおよびエオジンで染色して行なった。非改変MSC(e)あるいはMSC−IL2(f)の接種による神経膠腫におけるCD4陽性リンパ球の浸潤は、モノクローナル抗体W3/25によって検出した。非改変MSC(g)あるいはMSC−IL2(h)の接種による神経膠腫におけるCD8陽性リンパ球の浸潤はモノクローナル抗体OX−8によって検出した。
図39は、BDNF、GDNF、CNTFおよびNT3遺伝子をMSCに導入し、培養した細胞のBDNF、GDNF、CNTFおよびNT3の産生について検討した結果を示すグラフである。縦軸はサイトカイン産生(ng/10cell/48時間)、横軸は感染多重度(pu/cell)を示す。
図40は、脳虚血により誘発される神経学的障害について評価した結果を示すグラフである。BDNFに加え、GDNF、CNTF、NT3遺伝子をMSCに導入した細胞を脳梗塞局所へ移植し脚プレースメント試験を行なった。縦軸は脚プレースメントスコア、横軸はそれぞれMCAO前、MCAO1日後(注射前)、MCAO8日後、MCAO15日後を示す。
図41は、MSC−BDNFおよびMSC−GDNFの局所移植治療後の梗塞体積(HLV)を示すグラフである。縦軸は梗塞体積(%)、横軸はそれぞれMCAO2日後、7日後、14日後を示す。
図42は、DMEM、MSC−BDNF、MSC−GDNF、MSC−CNTFまたはMSC−NT3を局所投与したラットにおける、MCAOの2日後および7日後に得た代表的なT2強調(T2W)画像写真である。
図43は、MSC−BDNF静脈内投与群、MSC静脈内投与群、および未処理群(対照)における、MCAOの24時間後、72時間後、7日後のMRI画像写真である。
図44は、MSC−BDNF静脈内投与群、MSC静脈内投与群、および未処理群(対照)における、MCAO後の脳梗塞体積の変化を示すグラフである。縦軸は梗塞容積、横軸はそれぞれMCAOの6時間後、24時間後、72時間後、7日後を示す。
図45は、MSC−BDNF静脈内投与群、MSC静脈内投与群、および未処理群(対照)における、MCAO後のトレッドミル試験の結果を示すグラフである。縦軸は最大走行速度、横軸はそれぞれMCAOの24時間後、72時間後、7日後を示す。
図46は、MCAOの3時間後、24時間後、3日後、7日後の未処理群(対照)、および、MSC−PLGF静脈内投与群(MCAO3時間後)についてMRIにより、脳梗塞巣を観察した結果を示す写真である。それぞれDW2(b=1000)画像およびTWI画像を示す。
図47は、MCAO後に出現した異常信号を示す体積をMRI検査で時間の経過とともに定量した結果を示すグラフである。上段はDWI画像による結果を示すグラフであり、下段はTWI画像による結果を示すグラフである。
図48は、MCAOの7日後に、未処理群(対照)およびMSC−PLGF静脈内投与群の脳組織をTTC染色した結果を示す写真である。上段はMSC−PLGF投与群の写真であり、下段の写真は未処理群(対照)の写真である。
図49は、正常なラットの血管系をEvans BlueおよびFITCデキストランで視覚化した結果を示す写真である。Evans Blueによる結果を左側に、FITCデキストランによる結果を右側に示す。
図50は、angiopoietin遺伝子をadenovirusベクターで局所注入処理をしたMCAOモデルラットと、遺伝子注入処理をしていないMCAOモデルラットの血管形成誘導についてFITCで視覚的に比較した結果を示す写真である。遺伝子注入処理をしたMCAOモデルラット(Angiopoietin)の結果を左側に、遺伝子注入処理をしていないMCAOモデルラット(対照)の結果を右側に示す。
図51は、FITCで同側/対側(ipsilateral/contralateral)を定量化した結果を示すグラフである。図中「Ang」はAngiopoitin処理を示す。
図52は、遺伝子注入処理をしたMCAOモデルラットと、遺伝子注入処理をしていないMCAOモデルラットの血管形成誘導についてEvans Blueで視覚的に比較した結果を示す写真である。遺伝子注入処理をしたMCAOモデルラット(Angiopoietin)の結果を左側に、遺伝子注入処理をしていないMCAOモデルラット(対照)の結果を右側に示す。
図53は、脳梗塞後慢性期にMSCを局所投与した後、MSC投与群および未処理群(対照)におけるトレッドミル試験の結果を示すグラフである。縦軸は最大走行速度、横軸はMSC投与後の日数を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
〔実施例1〕 中大脳動脈一時閉塞モデル
ラット中大脳動脈閉塞モデルを脳卒中モデルとして用いた。以前に記載された血管内腔閉塞法(E.Z.Longa,P.R.Weinstein,S.Carlson,R.Cummins,Reversible middle cerebral artery occlusion without craniectomy in rats,Stroke 20(1989)84−91.)を用いて、45分間、中大脳動脈一時閉塞(MCAO)を生じさせた。
体重250〜300gの雄のSprague−Dawleyラット成体(n=113)を、まず5%イソフルランで麻酔し、その後機械的に人工換気下で70%NOおよび30%O混合ガス中の1.5%イソフルランにより麻酔を維持した。赤外線加熱ランプを用いて、直腸温を37℃に保った。手術中は血液pH、pOおよびpCOを測定するために、左大腿動脈にカニューレを挿入した。長さ20.0〜22.0mmの3−0号縫合糸(Dermalon:Sherwood Davis & Geck,UK)の先端を炎の近くで加熱して丸め、外頸動脈から内頸動脈の内腔へと押し進め、中大脳動脈(MCA)の起始部を閉塞させた。MCAOの45分後に、縫合糸の先端を内頸動脈から外れるまで抜去して再灌流を行った。
全マウスの生理的指標(直腸温、血液pH、PO、PCO、血圧)は、手術および移植処置中は正常範囲内に維持され、実験群の間に統計的な差はみられなかった。
〔実施例2〕 骨髄細胞の調製
骨髄細胞移植の1時間半前に、MCAOラットの大腿骨から自家性の骨髄を採取した。
ラットはケタミン(75mg/kg)およびキシラジン(10mg/kg;i.p.)で麻酔した。皮膚を1cm切開して大腿骨にエアドリルで小さな孔(2×3mm)を開け、22ゲージ針を用いて骨髄1mlを吸引した。試料はFicoll(Amersham Biosciences)3mlを含むL−15培地(2ml)中に希釈した。遠心処理(2,000rpm、15分間)後に単核細胞画分を回収し、2mlの無血清培地(神経前駆細胞維持培地:NPMM;Clonetics,San Diego,CA,U.S.A)中に再懸濁した。2回目の遠心処理(2,000rpm、15分間)後に細胞を1mlのNPMM中に懸濁した。
〔実施例3〕 実験群
実験は11群により構成した(n=88)。第1群(対照)のラットにはMCAO後に何も投与しなかった(n=8)。第2〜6群のラットには、MCAOからそれぞれ3、6、12、24、72時間後に培地のみ(ドナー細胞は投与せず)を静脈内投与した(各群n=8)。第7〜11群のラットには、MCAOからそれぞれ3、6、12、24、72時間後に自家骨髄細胞(1.0×10個)を静脈内投与した(各群n=8)。各群のラットのうち6匹を梗塞巣体積の算出に用い、残りを他の組織学的分析に用いた。
〔実施例4〕 ラット脳梗塞モデルへの自家骨髄細胞の静脈内投与
骨髄細胞(mononuclera cell fraction:MCF)はラット脳梗塞モデル(中大脳動脈一時閉塞モデル)へ移植する前にLacZ遺伝子を導入した。
骨髄細胞へのLacZ遺伝子の導入には、Adex1CAlacZアデノウイルスを用いた。構築手順の詳細は別の文献に記載されている(I.Nakagawa,M.Murakami,K.Ijima,S.Chikuma,I.Saito,Y.Kanegae,H.Ishikura,T.Yoshiki,H.Okamoto,A.Kitabatake,T.Uede,Persistent and secondary adenovirus−ediated hepatic gene expression using adenovirus vector containing CTLA4IgG,Hum.Gene Ther.9(1998)1739−1745.Y.Nakamura,H.Wakimoto,J.Abe,Y.Kanegae,I.Saito,M.Aoyagi,K.Hirakawa,H.Hamada,Adoptive immunotherapy with murine tumor−specific T lymphocytes engineered to secrete interleukin 2,Cancer Res.54(1994)5757−5760.M.Takiguchi,M.Murakami,I.Nakagawa,I.Saito,A.Hashimoto,T.Uede,CTLA4IgG gene delivery prevents autoantibody production and lupus nephritis in MRL/lpr mice,Life Sci.66(2000)991−1001.)。このアデノウイルスベクターは、ウイルス複製を防ぐためにE1A、E1BおよびE3各領域が欠失したアデノウイルス血清型−5のゲノムを有しており、E1A領域およびE1B領域の代わりに、大腸菌のβ−ガラクトシダーゼ遺伝子であるlacZ遺伝子を、サイトメガロウイルスエンハンサーおよびニワトリβ−アクチンプロモーターから構成されるCAGプロモーター(H.Niwa,K.Yamamura,J.Miyazaki,Efficient selection for high−expression transfectants with a novel eukaryotic vector,Gene 108(1991)193−199.)とウサギβ−グロビンポリアデニル化シグナルとの間に含む。この組換えアデノウイルスを293細胞内で増殖させて単離した。ウイルス溶液は使用時まで−80℃で保存した。1.0×10個の自家骨髄細胞を50 MOIのAdex1CAlacZとともに、10%ウシ胎仔血清を含む37℃のDMEM中に1時間置き、アデノウイルスをインビトロで感染させた。
その後、骨髄細胞を採取したのと同じラットに、MCAOを実施した。そして自家骨髄から調製したばかりの約1×10個の単核細胞を含む総容量1mlの液体(NPMM)を左大腿静脈へ投与した。
移植2週間後に、インビボでのβ−ガラクトシダーゼ発現細胞を検出した。
まず、深麻酔したラットの脳を摘出し、0.5%グルタルアルデヒドを加えたリン酸緩衝液中に1時間置いて固定した。ビブラトームで脳切片(100μm)を切り出し、この切片をX−Gal現像液(35mM KFe(CN)/35mM KFe(CN).3HO/2mM MgClを含むリン酸緩衝食塩液)中に、最終濃度1mg/mlのX−Galとともに37℃で一晩インキュベートした。青色の反応産物を細胞内に形成させ、β−ガラクトシダーゼ発現細胞を検出した。
各脳切片の断面を解剖顕微鏡で観察し、画像解析装置に記録した。続いて切片を、4%パラホルムアルデヒドを加えたリン酸緩衝液中に一晩置いて固定し、脱水した上でパラフィン中に包埋した。切片(5μm)を切り出し、光学顕微鏡(Zeiss:Axioskop FS)により青色反応産物(β−ガラクトシダーゼ反応産物)の存在を評価した。一部の切片にはヘマトキシリンおよびエオジンによる対比染色を行った。
その結果、X−galはホスト脳組織中で青く発色するため、ドナーMCF細胞はホスト脳組織内で青い細胞として視覚化された(図1)。静脈内投与したMCF細胞が脳梗塞巣に集積した。
〔実施例5〕 MCFの局所投与および静脈内投与の治療効果に及ぼす影響
実験の結果、移植細胞数が増加するほど治療効果が高まった(図2)。また、静脈内投与では、局所投与と同程度の治療効果を得るためには約100倍の細胞数を要したが、逆に、100倍の細胞数を投与すれば、静脈内投与でも、局所投与と同程度の治療効果が期待できることが判明した。
〔実施例6〕 ラット脳梗塞モデルへの自家MCF移植による治療効果
ラット脳梗塞モデル(中大脳動脈一時閉塞モデル:45分間)に対して、自家MCF(1x10cell)を移植した。
梗塞巣の程度は、2,3,5−塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)染色を用いて評価した(J.B.Bederson,L.H.Pitts,S.M.Germano,M.C.Nishimura,R.L.Davis,H.M.Bartkowski,Evaluation of 2,3,5−triphenyltetrazolium chlorideas a stain for detection and quantification of experimental cerebral infarction in rats,Stroke 17(1986)1304−1308.)。正常脳はこの方法で赤く染色される。
移植2週間後に、ラットをペントバルビタール・ナトリウム(50mg/kg、i.p.)で深麻酔した。脳を注意深く摘出し、ビブラトームを用いて切り出して1mm厚の冠状切片とした。新たな脳切片を、2%2,3,5−塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)を加えた37℃の生理食塩水中に30分間浸漬した。
その結果、MCAOモデルラットの脳内の脳梗塞領域(皮質と大脳基底核の両方)では染色が弱く、脳梗塞巣は白く明瞭に描出された(図3)。
また、各脳切片における梗塞の断面積は解剖顕微鏡で評価し、画像解析ソフトウエアNIH imageを用いて計測した。すべての脳切片の梗塞面積を合計し、各々の脳の総梗塞体積を算出した。
梗塞巣の体積は統計学的に分析した。データは平均値±SDとして表した。群間差は、個々の群の差を同定するためのScheffe多重比較検定を用いるANOVAによって評価した。差はp<0.05の場合に統計的に有意であるとみなした。
結果、細胞を投与しなかった虚血巣(対照巣)の組織学的分析では、再現性および一貫性のある虚血巣が認められ、平均体積は258±55mmであった(n=6)(図3F)。梗塞巣モデルに用いた閉塞指標では、TTCにより同定された虚血は線条体(尾状核−被殻)、淡蒼球、中隔核で最も高度であり、皮質内の虚血は比較的軽度であった。
同じ梗塞巣指標を用いて、梗塞巣誘導から3、6、12、24および72時間後に骨髄細胞を静脈内投与した。これらのすべての時点で、移植により梗塞巣体積が縮小したが、虚血誘導から早期に移植した方が優れた結果となった。自家骨髄細胞をMCAOの3時間後に静脈内投与した場合には、梗塞巣はほとんど検出されなかった(図3A);TTC染色の変化はほとんど検出されなかったが、標的梗塞巣部に若干の炎症反応が観察された。MCAOの6時間後に細胞を投与した場合は、大脳基底核における梗塞巣内部のTTC染色の低下が明らかとなった(40±28mm、n=6)(図3B)。MCAOから12時間後(80±25mm、n=6、図3C)、24時間後(140±18mm、n=6、図3D)および72時間後(180±22mm、n=6、図1E)に細胞を投与した場合、梗塞巣は徐々に増加した。
この治療効果は、移植時間が早いほど著明であったが、脳梗塞後72時間を経過した時点で治療した場合でも、ある程度の治療効果が見られたことは特記すべきことである。
治療効果は、神経保護効果と神経再生効果の相乗効果と考察される。脳梗塞後、早期に移植した場合ほど、神経保護効果が強く、また、比較的遅く治療した場合には、相対的に神経保護効果が弱くなるが、そのかわり、神経再生効果が強くなる。
さらに、得られた結果を定量化し、図4のヒストグラムに、対照(細胞非移植群)、ならびに3、6、12、24および72時間後に細胞を投与した梗塞モデル動物(細胞移植群)における梗塞体積をまとめて示した。
〔実施例7〕 ラット脳梗塞モデルへの自家MCF静脈内投与による効果
ラット脳梗塞モデルに対して、MCAO誘導後に、LacZを導入した自家MCF(1x10cell)を静脈内投与した。該骨髄細胞を、インビボで同定した。
インビボの移植細胞の表現型分析はレーザー走査共焦点顕微鏡を用いて行った(n=5)。ラットをペントバルビタール・ナトリウム(50mg/kg、i.p.)で深麻酔し、心臓を最初にPBS、次に0.14Mソーレンセンリン酸緩衝液、pH7.4中に4%パラホルムアルデヒドを含む固定液により灌流した。脳を摘出し、4%パラホルムアルデヒドを含む4℃のリン酸緩衝液中に24時間置いて固定した上で、30%スクロースを含む0.1M PBS溶液中に一晩置いて脱水した。続いて組織をO.C.T.compound(Miles Inc.)中に浸漬して、液体窒素中で凍結させ、クリオスタットで10μ厚の冠状切片を切り出した。シランをコーティングしたスライド上で切片を乾燥させた。
ドナー骨髄由来細胞の種類を特定するために、β−ガラクトシダーゼ(Alexa Fluor 594で標識したウサギ・ポリクローナル抗β−ガラクトシダーゼ抗体(IgG)、CHEMICON)、ニューロン(Alexa Fluor 488で標識したマウス・モノクローナル抗ニューロン特異的エノラーゼ抗体(IgG)[NSE]、DAKO)およびアストロサイト(Alexa Fluor 488で標識したマウス・モノクローナル抗グリア線維酸性タンパク質抗体(IgG)[GFAP]、SIGMA)に対する抗体を用いる二重標識試験を行った。一次抗体は、ZenonマウスまたはウサギIgG標識キット(Molecular Probes)を製造者の指示に従って用いて、Alexa Fluor 488またはAlexa Fluor 594で標識した。シランをコーティングしたスライド上で乾燥させた組織切片をPBSで洗い(5分間、3回)、0.1%Triton−Xを含むPBSにより室温で30分間処理して、ブロッキング溶液(Protein Block Serum Free、DAKO)とともに室温で10分間インキュベートした。これをさらに2種類の一次抗体と室温で60分間反応させ、PBSで洗った(5分間、3回)。免疫染色後に、蛍光用封入培地(DAKO)を用いてスライドをカバーグラスで覆った。Alexa Fluor 488(緑色)の励起にはアルゴンレーザーによって生じた488nmのレーザー光を用い、Alexa Fluor 594(赤色)の励起にはHeNeレーザーによる543nmのレーザー光を用いた。Zeiss社のレーザー走査共焦点顕微鏡を用い、Zeiss社製のソフトウエアを用いて共焦点画像を入手した。
また、移植MCFG細胞をX−galで処理し、ドナー細胞を青く視覚化した。
結果、移植ドナー細胞は、脳梗塞の内部および周囲に集積した。図5Aは、蓄積したLacZ陽性細胞を含む、梗塞部の冠状切片を示す。光学顕微鏡検査により、虚血病巣の内部および周囲に多数の細胞が存在し(図5B)、その多くはLacZ陽性ドナー細胞であることが示された(図5C)。免疫組織化学分析からは、LacZ陽性ドナー細胞の一部は、ニューロンのマーカーであるNSE(図5E)またはアストロサイトのマーカーであるGFAP(図5H)を発現することが示された。LacZ、NSEおよびGFAPのそれぞれを合成した画像を図5FおよびIに示した。対照群には明らかな蛍光シグナルは認められなかった。以上の結果は、移植骨髄細胞の少なくとも一部が、梗塞巣部位で神経細胞(図5E,F)およびグリア細胞(図5H,I)の系に分化しうる可能性を示唆した。
〔実施例8〕 移植MCF細胞の脳内への遊走
移植MCF細胞が高率に脳内へ遊走した(図6)。また、この遊走は、脳梗塞後の移植時期で異なった。例えば、MCAOの3時間後に細胞を静脈内投与し梗塞巣体積が縮小した場合(図6A)、保護を受けた梗塞巣の血管組織および実質脳組織の双方でLacZ陽性細胞が観察され、治療しなければ脳梗塞に陥って非可逆的に損傷されてしまう部位へ移植細胞が遊走し、著明な神経保護効果を発揮し、本来であれば死滅してしまう神経系細胞を救ったことが示された(図6DおよびG)。MCAOの12時間後に自家骨髄細胞を投与した場合(図6B)、病態生理学的な特徴の点で複雑であった。虚血負荷によって高度の損傷を受けたと思われる領域には比較的多数の青色ドナー細胞が観察されたが、梗塞巣の非損傷領域に存在するドナー細胞の数はこれよりも少なかった(図6EおよびH)。上記(図6A、D、G)で見られた神経保護効果とともに、神経再生効果も見られた。これに対し、MCAOの72時間後に自家骨髄細胞を投与した場合、虚血損傷の程度がはるかに大きく(図6C)、梗塞巣内に認められた移植細胞の数も少なかった(図6F、I)。上記(図6A、D、G)で見られた神経保護効果は比較的少なく、むしろ神経再生効果が強く見られた。しかし、この群でも、骨髄細胞の移植により、TTCによるアッセイでは脳虚血巣が抑制されたことに注目すべきである。
〔実施例9〕 行動学的検査によるMCF移植治療効果確認
MCF移植治療効果について、学習および記憶行動を評価するため、モーリスの水迷路試験、ならびに運動機能を評価するためのトレッドミル負荷試験という、2種類の行動学的検査を行なった。
モーリスの方法(R.G.M.Morris,Spatial localization does not depend upon the presence of local cues,Learn Motiv.12(1981)239−260.)を改変した水迷路試験で、脳高次機能(記憶、学習)を検討した(n=10)。梗塞誘導から12時間後に静脈内への自家骨髄投与またはシャム投与を行った。
本装置は直径1.3mの白色のスチール製タンク内に、白色テンペラ絵の具で不透明化し、24℃に保った水を、深さ30cmとなるように満たしたものから構成される。その空間の壁には視覚的手がかりが含まれ、これは実験の間を通じて同じ位置に保たれた。訓練試行時にはすべて、タンクの四分円のうち1つに、直径8cmのセラミック製円形プラットフォームを水面下2.5cmの深さに置いた。訓練第1日には、各ラットを隠されたプラットフォームの上に60秒間乗せておくことにより、単一の馴化試行を行った。ラットがプラットフォームから落ちたり飛び降りたりした場合には、水から取り上げてプラットフォームの上に戻した。四分円の探索と泳速を、天井に装着しコンピュータ追跡画像解析システムと接続したビデオカメラによって観測した。
また、トレッドミル運動負荷試験を行った。梗塞誘導から12時間後に静脈内への自家骨髄投与またはシャム投与を行った。
ラットを週2日の頻度で1日20分間、勾配0°としたモーター駆動式トレッドミルの上を20m/分の速度で走らせて訓練した。ラットの背面に通電グリッドが位置するように移動ベルトの上に乗せ、ベルトの動きと反対の向きに走るようにさせた。すなわち、足へのショック(強度1.0mA)を避けるために、ラットは前方に進まなければならない。弱い電気ショックを避けることを学習したラットのみを、この試験に含めた(n=10)。モーター駆動式トレッドミル上をラットが走行しうる最大速度を記録した。
モーリス水迷路試験およびトレッドミル負荷試験で記録した行動スコアは統計学的に分析した。データは平均値±SDとして表した。群間差は、個々の群の差を同定するためのScheffe多重比較検定を用いるANOVAによって評価した。差はp<0.05の場合に統計的に有意であるとみなした。
実験の結果、どちらの試験でも行動の改善が観察された(それぞれn=10)(図7AおよびB)。通常時の観察では非移植群、移植群ともに運動障害は明らかでなかったが、トレッドミル試験では、処置したラットのモーター駆動式トレッドミル上での最大走行速度が非処置ラットよりも高いことが示された(図7B)。脳梗塞によって低下した運動機能が移植により著明に改善することが判明した。重度の運動障害は泳ぐ速度に影響する可能性があるが、本発明における軽度の運動機能不全はモーリス水迷路試験の成績の低さにはつながりにくいと考えられる。
〔実施例10〕 MRIによる治療効果の経時的な確認
治療効果を生きたまま経時的に検討するために、MRIを用いた。この方法は、実際の臨床の現場での検査・治療で使用されているものであり、これにより得られるデータは、そのまま臨床に応用できるため、非常に価値が高い。
まず、ラットをケタミン(75mg/kg)およびキシラジン(10mg/kg、i.p)で麻酔した。各ラットを動物保持器/MRIプローブ装置に設置し、磁石内部に入れた。ラット頭部は画像化コイル内部に固定した。MRI測定にはすべて、7テスラ、内径18−cmの超伝導磁石(Oxford Magnet Technologies)をBiospec I分光計(Bruker Instruments)に接続したものを用いた。0.5−mm厚の冠状切片から、視野3cm、TR=3000ms、TE=30msを用いてT2強調像を入手し、128×128の画像マトリックスを再構成した。
上記の脳梗塞ラットをMRIで検査したところ、脳梗塞後約3時間後から、異常信号が検出された。すなわち、脳虚血領域はMRI(TWI)でHigh Intensity Area(HIA)として検出された(図8上段)。この異常信号は、非治療群では、そのまま存続し(図8下段)、最終的には脳梗塞巣となった。
〔実施例11〕 間葉系幹細胞使用による治療効果
脳梗塞の治療において、骨髄細胞(mononuclera cell fraction:MCF)の静脈内投与はかなりの治療効果を発揮したが、MCFの約0.1%程度に存在する間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell)も治療に使用し、その治療効果を確認した。MSCは容易に抽出・培養・増殖・保存が可能である。
上記(図8)の脳梗塞ラットに、MSC(1x10個)を投与した。脳梗塞後12時間で静脈内投与したところ、脳梗塞後にMRI検査で一旦出現した異常信号(HIA)は(図9上段)、治療後1週間後の再検査で消失した(図9下段)。
このように、現在の医療レベルでは治療不可能な脳梗塞が、MSCの静脈内投与により、治療されたことが実証された。
〔実施例12〕 MSC移植細胞数と治療効果の関係
脳梗塞後12時間後に、MSC(1x10〜1x10個)を静脈内投与した。
虚血巣体積の縮小効果に対するMSCおよびMSC−hTERT移植の有効性を明らかにするために、種々の濃度(1x10〜1x10個)の細胞を梗塞誘導から12時間後に静脈内投与し、全実験動物の脳画像(T2強調像)をMCAOの12時間後、および種々の濃度のMSC−hTERTの静脈内投与から1週間後に再び入手した。梗塞巣サイズの初期推計値は、インビボでのMRIを用いて得た。
図10の写真の左列(A1−E1)に、損傷12時間後にラット5匹から得た単一の脳画像を示す。これらの冠状前脳切片は尾状核−被殻複合体のレベルで入手した。虚血損傷部位は高輝度領域として描出される。対側の脳組織は正常信号を呈しているため、対比が可能である。
梗塞巣体積(mm)は、大脳全体から収集した連続画像の高輝度領域を分析することによって評価した。梗塞巣の体積推計値は実験動物の間で一定していた(214±23mm、n=25)。
溶媒(培地)のみを投与した場合には、MRIによる評価で梗塞サイズに変化はなかった(図10A2)。梗塞巣体積は、静脈内投与するMSC−hTERTの数の増加伴って縮小した。10個のMSC−hTERTを投与した場合、梗塞巣体積がわずかに縮小し、治療効果はわずかであった(図10B2)(176±21mm、n=5)。梗塞巣体積の縮小は、10個(138±36mm、n=5)、10個(56±18mm、n=5)の投与によって増大し治療効果は明らかとなり(図10C2、D2)、10個の細胞を投与した場合、梗塞巣体積が最大に縮小しほぼ完全な治療効果が期待できた(図10E2)(23±31mm、n=5)。治療前に見られた異常信号(HIA)(図10A1,B1,C1,D1,E1)は、治療しなければそのまま存続したが(図10A2)、治療すると部分的若しくは、ほぼ完全に消失した(図10B2,C2,D2,E2)。
別の試験において、初期のMSC(primary MSC)も静脈内に移植された。移植された10個の初期MSCによって、同じ細胞数で試験した場合のMSC−hTERTのように、梗塞巣体積は等しく減少を示した(図10F)(61±18mm,n=5,vs56±18mm,n=5,p=0.69)。10個の皮膚線維芽細胞を用いて、追加のシャム対照実験を実施した(図10F)。10個の皮膚線維芽細胞を移植したところ、梗塞巣体積の減少は見られなかった(240±27mm,n=5,p=0.95)。
脳梗塞に対するMSC静脈内投与の治療効果は、移植細胞数に相関していた。すなわち、移植細胞数が多いほど、治療効果が高いことが判明した。
さらに組織学的にも裏付けを行なった(図11)。
MRI分析による病変体積の評価を終えて、細胞の投与を行う前後に、ラットに灌流処置をし、2,3,5−塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)で染色して、梗塞体積に関する第2の独立した測定値を得た。正常脳組織は通常TTCによって染色されるが、梗塞病変は染色を示さないか、染色の低下を示した。細胞移植を行わずにMCAOの1週間後に行ったTTC染色の結果を図11Aに示す。病変側の染色は主として線条体に認められた。病変体積は、TTC染色が低下した前脳内の領域を測定することによって算出した。MRI分析の場合と同じく、移植細胞の数が多いほど梗塞サイズの縮小がみられた。10個のMSC−hTERTの静脈内投与により、TTC染色による評価で病変体積が大幅に縮小した(図11B、C)。
〔実施例13〕 移植ドナー細胞の集積
上記ラット脳梗塞モデルに対して、LacZまたはGFPを導入したMSC(1x10cell)をMCAOの12時間後に静脈内投与した。
培養細胞をリン酸緩衝食塩液(PBS)ですすぎ洗いし、0.14Mソーレンセンリン酸緩衝液、pH7.4中に4%パラホルムアルデヒドを含む4℃の固定液で15分間かけて固定した。固定した細胞を、0.2%Triton X−100および5%正常ヤギ血清を含むブロッキング溶液中で15分間インキュベートし、続いて一次抗体とインキュベートした。用いた一次抗体は、抗ニューロン特異的エノラーゼ(NSE;1:1000ウサギポリクローナル抗NSE、Nitirei)抗体、抗グリア線維酸性タンパク質(GFAP;1:200ウサギポリクローナル抗GFAP、Nitirei)抗体および抗ネスチン(ネスチン;1:5000モノクローナルマウス抗ネスチン、Chemicon)抗体である。一次抗体の画像化には、フルオレセイン(FITC)を有するヤギ抗マウスIgG抗体およびヤギ抗ウサギIgG抗体(1:100、Jackson ImmunoResearch Laboratories,Inc.)、またはアルカリホスファターゼ反応(Zymed)を製造者の指示に従って用いた。免疫染色後に、顕微鏡用スライドに対して細胞が下側になるように、封入培地(Dako)を用いてカバーガラスをかけた。Zeiss社製の免疫蛍光顕微鏡(Axioskop FS)を用いて写真を撮影した。
FITC蛍光色素(緑色)の励起にはアルゴンレーザーにより生じた488nmのレーザー光を用い、ローダミン蛍光色素(赤色)にはHeNeレーザーによる543nmのレーザー光を用いた。Zeiss社のレーザー走査共焦点顕微鏡を用い、Zeiss社製のソフトウエアを用いて共焦点画像を入手した。
図10および11に示すように、移植治療により梗塞巣体積は大きく縮小したが、GFPを発現するMSC−hTERTは主として、線条体(非移植ラットで梗塞が最も同定された領域)に認められた。
梗塞巣側の線条体におけるGFP蛍光および透過光像を低倍率および高倍率で示した合成共焦点画像をそれぞれ図12AおよびBに示した。GFP陽性細胞と思われる因子が多く存在することが注目される。GFP発現細胞は主として線条体に集まっていたが、罹患半球の全域にわたって若干数が認められた。梗塞を誘導していない対側線条体から得た画像ではGFP発現は観察されなかった。これらのデータは、全身投与によって細胞が梗塞巣部位に到達したことを示唆する。
LacZ導入MSC−hTERTを移植したラットの梗塞巣領域における未熟ニューロン(NeuN)およびアストロサイト(GFAP)を同定するために、免疫組織化学検査を行った。
結果、少数のNeuN陽性細胞およびGFAP陽性細胞がLacZによって同時染色された(図12G−L)。
結果、移植ドナー細胞は、脳梗塞局所に集積した(図12A,B,C、D)。MSCはホスト脳組織内で蛍光顕微鏡下において緑に発色する。非移植群では、ドナー細胞は見られなかった(図12E,F)。また、その一部は、神経細胞(図12G,I,K)やグリア細胞(図12H,J,L)に分化した。
〔実施例14〕 物質代謝の検討によるMSC静脈内投与治療効果確認
脳梗塞に対するMSC静脈内投与の治療効果について、物質代謝の面から検討した。
詳しくは、Magnetic Resonance Spectroscopy(MRS)を用いて、細胞移植の前後の脳内でのNAAおよび乳酸レベルを調べた。MRSにおけるNAAシグナルは健常ニ ューロンの存在と相関し、乳酸の増加は神経細胞死と相関することが示されている(Barker,P.B.,Gillard,J.H.,van Zijl,P.C.,Soher,B.J.,Hanley,D.F.,Agildere,A.M.,Oppenheimer,S.M.and Bryan,R.N.,Acute stroke:evaluation with serial proton MR spectroscopic imaging,Radiology,192(3)(1994)723−32.)。脳梗塞巣のある半球と脳梗塞巣のない半球におけるNAAおよび乳酸のレベルについて、MCAO誘導から12時間後にMRS分析を行った。
MRSは、TR=1500msec、TE=20msec、平均=1024、ボクセルサイズ2.5×2.5×2.5mmを用いて行った。脳の正確な位置決定は、ラット頭部をflat skull positionに保持した上で、画像用切片の中心を嗅脳溝の後方5mmに置くことによって行った。
その結果、脳梗塞に対するMSC静脈内投与の治療効果は、物質代謝の面からも証明された。正常の半球は最も高いレベルのNAAを示し、乳酸シグナルは認められなかった(図13A、D)。その反対に、脳梗塞巣側ではNAAレベルが低く、乳酸シグナルが高度であった(図13A、E)。細胞移植を行わない場合、梗塞誘導から1週間後のNAAシグナルは低値であり、乳酸シグナルは高値であった(図13B,F)。しかし、10個のMSC−hTERTの静脈内投与後に、NAAシグナルが存在し、乳酸シグナルが低かったことから、移植処置によって脳組織が保護されたことが示唆された(n=5)(図13C,G)。
〔実施例15〕 行動学的検査によるMSC移植治療効果確認
梗塞誘導ラットおよび移植ラットの行動能力を評価するために、モーリス水迷路試験およびトレッドミル負荷試験という2種類の試験を行なった。行動試験は梗塞誘導を単独または細胞移植と併用して行ってから1週間後に開始した。
モーリス水迷路試験は1日おきに行った。対照ラットは数秒以内にプラットフォームの上に乗ることを学習した(Morris,R.G.M.,Spatial localization does not depend upon the presence of local cues.,Learn Motiv,12(1981)239−260.)。MCAOを行ったラットはこの試験を遂行するのに約140秒を要した。移植を行わなかったラットは段階的な改善を示し、試験第26日には約40秒でプラットフォームの上に乗った。MCAOを誘導し、MSC−hTERTの静脈内注射を行ったラットでもプラットフォームの上に乗るまでの時間は徐々に短くなり、第26日までには数秒でプラットフォームに乗れるようになった。その結果、移植により、著明な改善が見られた(図14A)。
トレッドミル負荷試験で、対照ラット(梗塞巣無し)のトレッドミル最大速度は約60m/分に達した。MCAOを単独または移植と併用して1週間後のトレッドミル試験での最大速度は約35m/分であった(図14B)。非処理ラットでは、梗塞誘導11日後からトレッドミル速度の上昇がみられるようになり、最長25日にわたって徐々に改善した(46.3+6.1、n=10)。細胞移植群では、速度の改善の程度がさらに大きく、損傷25日後には対照値と近くなった(62.0+7.2、n=10)。脳梗塞によって低下した運動機能が移植により著明に改善することが判明した
〔実施例16〕 重症脳梗塞へのMSCの治療効果
ラット重症脳梗塞(中大脳動脈永久閉塞モデル)を用いて、MSCによる再生医療によって、どの程度障害を受けた組織を回復させることができるのか、その治療効果を検討した。上記実施例15までに使用した中大脳動脈一過性閉塞モデルと異なり、中大脳動脈を永久に閉塞させたモデルを使用した。閉塞時間以外は上記実施例15までに使用したモデルと同様の条件である。
ラット重症脳梗塞では、前述のラット脳梗塞モデル(中大脳動脈一時閉塞モデル:45分間)と比較して、広範囲の脳梗塞領域が見られた(図15、TTC染色で白く抜ける部分)。
また、重症脳梗塞においても、脳梗塞巣に一致してMRI検査で異常信号が検出された(図16)。さらに脳梗塞巣の異常信号(MRIでHIA)が無治療の場合、時間経過(12時間後、3日後、7日後)とともに明瞭化した(図17)。
ラット重症脳梗塞(ラット中大脳動脈永久閉塞モデル)に対して、MSC(1x10cell)を静脈内投与した。脳梗塞1週間後にMRI検査(TWI)を行い治療効果を検討した。脳梗塞巣は白く描出される。移植時期は、脳梗塞後3時間、6時間、12時間、24時間、72時間とした。結果、非治療群(最上段)では明確に認められた脳梗塞巣は、脳梗塞後3時間でMSCを静脈内投与した群では、ほとんど見られなかった(図18)。つまり重症脳梗塞においても、MSCの静脈内投与が著明な治療効果を示した。この治療効果は、移植時間が早いほど著明であったが、脳梗塞後24時間以上を経過した時点で治療した場合でも、ある程度の治療効果が見られることは特記すべきことである。
治療効果は、神経保護効果と神経再生効果の相乗効果と考察される。脳梗塞後、早期に移植した場合ほど、神経保護効果や抗浮腫作用が強く、また、比較的遅く治療した場合には、相対的に神経保護効果が弱くなるが、そのかわり、神経再生効果が強くなる。
さらに、重症脳梗塞(ラット中大脳動脈永久閉塞モデル)に対してMSC(1×10cell)を静脈内投与した結果を脳梗塞領域の体積として測定し、定量化しグラフとした(図19)。障害発生からMSC投与までの経過時間ごとに分けて結果を示した。このグラフから分かるように、未処理の場合では約500mmに及んでいた障害部位が、3時間後に治療の場合では200mmにしか及んでおらず、著明な効果が得られた。12時間後までに治療の場合、未処理の場合と比較して、明らかに障害部位の体積が小さくなった。また、治療が早ければ早いほど、障害部位の体積が小さくなっており、予後が良好であることが分かる。
〔実施例17〕 重症脳梗塞への超急性期のMSC静脈内投与効果
重症脳梗塞に対する超急性期のMSC静脈内投与による経時的な治療効果を検討した。
重症脳梗塞に対して、脳梗塞後3時間でMSC(1x10cell)を静脈内投与した場合、MRI検査で一旦出現した異常信号(HIA)は、治療後数日でほぼ消失し、その効果が持続した(図20)。MSCによる治療効果が、投与後、比較的早期に発揮され、その効果が継続することより、脳梗塞急性期におけるMSC静脈内投与の主な治療効果は神経保護効果と抗浮腫作用が強いと思われる。
〔実施例18〕 重症脳梗塞への急性期のMSC静脈内投与効果
重症脳梗塞に対する急性期のMSC静脈内投与による経時的な治療効果を検討した。重症脳梗塞に対して、脳梗塞後6時間でMSC(1x10cell)を静脈内投与した場合、治療直前にMRI検査で出現した異常信号(HIA)は、治療後(移植治療後18時間、1週間後、2週間後、4週間後)次第に消失した(図21)。非治療群では、これらの治療効果は認められなかった(データなし)。
〔実施例19〕 重症脳梗塞へのMSCの静脈内投与による生存率
重症脳梗塞(ラット中大脳動脈永久閉塞モデル)に対してMSC(1×10cell)を静脈内投与し、障害発生後の生存率の変化を検討し、グラフとした。
このグラフから、MSCの静脈内投与による治療は、重症脳梗塞(ラット中大脳動脈永久閉塞モデル)における生存率を著明に向上させたことがわかる(図22)。同脳梗塞モデルラットは、無治療の場合90%が死亡したが、MSC(1x10cell)を脳梗塞後3時間で静脈内投与した場合、約80%が生存した。治療開始時期が速いほど生存率が高まることが判明した。また治療後の生存率も、画期的な数値である。
〔実施例20〕 重症脳梗塞へのMSC移植治療による臨床症状への効果
重症脳梗塞に対してMSCの移植治療を行ない、臨床症状について検討した。
MSCの移植治療は、重症脳梗塞に対しても臨床症状において著明に改善した(図23)。トレッドミル運動負荷試験では、脳梗塞によって低下した運動機能が移植により著明に改善した。
〔実施例21〕 末梢血より得た付着培養細胞の神経幹細胞あるいは神経系細胞への分化誘導
末梢血から間葉系幹細胞のような付着培養細胞が得られた。これらの細胞は、g−CSFやSCFの因子を事前に皮下に注射することで、多数得られることが判明した(図24)。
また、得られた付着培養細胞は、神経幹細胞(Neurosphere)へ分化誘導が可能であった。RT−PCRでNestinの発現の確認も可能であった(図25)。
さらに、得られた付着培養細胞は、神経細胞(NF陽性細胞)やグリア細胞(GFAP陽性細胞)への分化誘導が可能であった。また、RT−PCRで、それぞれ、NFやGFAPの発現の確認も可能であった(図26)。
下記の実施例22〜31は、脳梗塞発症後、比較的長時間が経過した状態において、脳実質内への遺伝子組み換え幹細胞移植が及ぼす治療効果を検討したものである。
〔実施例22〕 細胞の調製
健康な成人ボランティアからのヒト骨髄(BM)は、インフォームド・コンセントを得た後で、後腸骨稜から吸引して得た。本試験は、札幌医科大学の院内審査委員会の承認を得た。BM単核球を150cmのプラスチック製組織培養フラスコに播種して、一晩インキュベートした。浮遊細胞を洗浄後、接着細胞を10%熱不活化ウシ胎児血清(FBS)(GIBCO BRL、ロックビル、メリーランド州)を含むダルベッコ改変基本培地(DMEM)において5%COを含む湿潤大気中で37℃で培養した。
コンフルエンスに達した後、細胞を回収し、レトロウイルスベクターBABE−hygro−hTERTによる遺伝子トランスフェクションに用いた[Kawano,Y.,et al.(2003).Ex vivo expansion of human umbilical cord hematopoietic progenitor cells using a coculture system with human telomerase catalytic subunit(hTERT)−transfected human stromal cells.Blood 101,532−540.]。40集団倍加時間(population doublings:PD)以内のMSCを本研究に用いた。
MSCの形態学的特徴は、Kobuneら[Kobune,M.,et al.(2003).Telomerized human multipotent mesenchymal cells can differentiate into hematopoietic and cobblestone area−supporting cells.Exp Hematol 31,715−722.]が以前に記述した特徴と同じであった。成人正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF−Ad)は、タカラバイオインク(日本)から得て、上記のように10%FBSを含むDMEMにおいて培養した。
〔実施例23〕 アデノウイルスベクター
CAプロモーター(ニワトリβ−アクチンプロモーターと共にCMV−IEエンハンサー)の制御下で、RGD変異繊維の遺伝子と共にAequoria victoria緑色蛍光蛋白質(強化GFP:EGFP)のヒト化変種を有するアデノウイルスベクター(AxCAEGFP−F/RGD)を、既に記述されているように構築した[Nakamura,T.,Sato,K.and Hamada,H.(2002).Effective gene transfer to human melanomas via integrin−targeted adenoviral vectors.Hum Gene Ther 13,613−626.、Dehari,H.,et al.(2003).Enhanced antitumor effect of RGD fiber−modified adenovirus for gene therapy of oral cancer.Cancer Gene Ther 10,75−85.]。
EGFP遺伝子断片をpEGFPベクター(BDバイオサイエンシズクロンテック社、パロアルト、カリフォルニア州)から単離して、pCAccベクター(pCAEGFP)[Yamauchi,A.,et al.(2003).Pre−administration of angiopoietin−1 followed by VEGF induces functional and mature vascular formation in a rabbit ischemic model.J Gene Med in press]に挿入した。作製されたコスミドベクターpWEAxCAEGFP−F/RGDを、Ad5dlx−F/RGDからのClaIおよびEcoT221−消化DNA−TPCと共に、ヒト胎児腎293細胞に同時トランスフェクトした。単離されたプラークから得たアデノウイルスEGFP発現ベクター、AxCAEGFP−F/RGDを、これらの細胞において増殖させて、塩化セシウム超遠心によって精製した[Kanegae,Y.,et al.(1995).Efficient gene activation in mammalian cells by using recombinant adenovirus expressing site−specific Cre recombinase.Nucleic Acids Res 23,3816−3821.]。
CAプロモーターの制御下で、RGD変異繊維に関する遺伝子と共にヒト化Discosoma赤色蛍光蛋白質(DsR)を有するアデノウイルスベクター(AxCADsR−F/RGD)も、上記のように構築した。
ヒトBDNF cDNAは、初代培養MSCから抽出した総RNAを鋳型として用いるポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)法を用いてクローニングした。このようにして得られたBDNF cDNAの相同性は、配列決定し、それをGenBank配列XM_006027と比較して確認した。ヒトBDNFプライマー配列はフォワード5′−CGGAATTCCACCATGACCATCCTTTTCCTTACTATGGTTA−3′(配列番号:1)、およびリバース5′−CCAGATCTATCTTCCCCTTTTAATGGTCAATGTA−3′(配列番号:2)であった。
BDNF cDNAを、pCAccベクターのEcoRI部位とBglII部位の間に挿入して得られたプラスミドを、pCAhBDNFと命名した。プラスミドpCAhBDNFをClaIにで消化し、BDNF cDNA発現ユニットを含む断片を、アガロースゲル電気泳動によって単離した。アデノウイルスBDNF発現ベクターpWEAxCAhBDNF−F/RGDは、リポフェクタミン2000(インビトロジェン、東京、日本)を用いて調製した。
上記ウイルスベクターを使用する前に、ウイルス濃度および力価を評価し、ウイルス保存液をレプリコンコンピテントウイルスの混入の可能性に関して調べた。ウイルス濃度(粒子単位(pu)/ml)を決定するために、ウイルス溶液を0.1%ドデシル硫酸ナトリウム中でインキュベートして、A260を測定した[Nyberg−Hoffman,C.,Shabram,P.,Li,W.,Giroux,D.and Aguilar−Cordova,E.(1997).Sensitivity and reproducibility in adenoviral infectious titer determination.Nat Med 3,808−811.]。AxCAhBDNF−F/RGD、AxCAEGFP−F/RGD、およびAxCADsR−F/RGDのウイルス力価はそれぞれ、4.35×1011、5.38×1011および1.03×1012pu/mlであった。
〔実施例24〕 アデノウイルス感染
アデノウイルス媒介による遺伝子トランスフェクションは、これまでに記述されているように実施した[Tsuda,H.,et al.(2003).Efficient BMP2 gene transfer and bone formation of mesenchymal stem cells by a fiber−mutant adenoviral vector.Mol Ther 7,354−365.]。
簡単に説明すると、細胞を15cmプレートあたり2×10個の密度で播種した。MSCを、感染性のウイルス粒子を含むDMEM浮遊液7.5mlで37℃60分間曝露した。AxCAhBDNF−F/RGD、AxCAEGFP−F/RGD、およびAxCADsR−F/RGDをそれぞれ、MOI 1×10、4×10、および4×10pu/細胞で細胞に感染させた。次に培地を除去し、細胞をDMEMで1回洗浄してから、通常の培地で再度24時間培養し、その後脳内移植を行った。
〔実施例25〕 インビトロでの免疫反応性ヒトBDNFの検出と定量的分析
AxCAhBDNF−F/RGD(MSC−BDNF)を、MOI 100、300、1000および3000pu/細胞でトランスフェクトしたMSCはそれぞれ、0.230±0.110、0.434±0.122、0.931±0.101、および1.860±0.410ng/10個/48時間の速度でBDNFを分泌した。トランスフェクトしていないMSCも0.0407±0.0059ng/10個/48時間の速度でBDNF蛋白質を産生した。MOI 1000pu/細胞でトランスフェクトしたMSC−BDNFからのBDNF産生レベルは、非感染MSCの場合より23倍大きかった(図27)。
〔実施例26〕 一過性のMCAO動物モデルと脳内移植
本研究における動物の使用は、札幌医科大学の動物飼育使用に関する委員会の承認を得たものであり、技法は全て施設内ガイドラインに従って実施した。
ラットを3.5%ハロタンで麻酔し、顔用マスクを用いて70%NOおよび30%O中で1.0%〜2.0%ハロタンによって無意識を維持した。術後は動物を熱ランプの下に置いて体温を37℃に維持した。雄性Wistar系ラット(各250〜300g)の局所的脳虚血は、血管内中心脳動脈閉鎖[Tamura,A.,Gotoh,O.and Sano,K.(1986).[Focal cerebral infarction in the rat:I.Operative technique and physiological monitorings for chronic model].No To Shinkei 38,747−751.]によって誘導した。右総頚動脈の動脈切開部の中にシリコンコーティングしたチップを備えた5−0単フィラメントナイロン縫合糸を通して、内頚動脈の中を頚動脈分岐から約18mm遠位の点まで徐々に挿入した。一過性の閉鎖を実施して90分後、ナイロン糸を引き抜き脳の血流を回復させた。
ドナーMSCの脳内移植は、Gotoら[Goto,S.,Yamada,K.,Yoshikawa,M.,Okamura,A.and Ushio,Y.(1997).GABA receptor agonist promotes reformation of the striatonigral pathway by transplant derived from fetal striatal primordia in the lesioned striatum.Exp Neurol 147,503−509.]によって記述される方法に従って実施した。
下記の行動学試験によって虚血性脳損傷の誘導を確認後、動物を移植のためにランダム化した。動物はケタミン(2.7〜3mg/100g)およびキシラジン(0.36〜0.4mg/100g)の腹腔内(IP)注射によって麻酔して、ナリシゲ定位固定フレーム(モデルSR−6N、ナリシゲ社、日本)の中に入れた。26ゲージハミルトンシリンジを用いて、MSC 5×10個の血清不含DMEM浮遊液5μlを頭蓋表面の4mm下で前頂レベルに対して3m外側の右後外側線条体に2.5分かけて注射した[Paxinos,G.,Watson,C.,Pennisi,M.and Topple,A.(1985).Bregma,lambda and the interaural midpoint in stereotaxic surgery with rats of different sex,strain and weight.J Neurosci Methods 13,139−143.]。この位置はほぼ虚血境界域であった。ヒトMSC移植体の拒絶を防止するために、ラットにシクロスポリンA(10mg/kg毎日)を腹腔内投与した。
〔実施例27〕 MSC−BDNFの治療効果(実験1)
実験1は、MCAOの14日後にMSC−BDNFの治療的有効性を試験するために行った。実験群には以下が含まれた。
1群(対照):DMEMをMCAOの24時間後に虚血境界域に注射したラット(n=7)、
2群:線維芽細胞をMCAOの24時間後に虚血境界域に移植したラット(NHDF−Ad)(n=6)、
3群:MSCをMCAOの24時間後に虚血境界域に移植したラット(n=7)、および
4群:MSC−BDNFをMCAOの24時間後に虚血境界域に移植したラット(n=7)。
LPTはMCAOの1、8、および15日後に行い、トレッドミル試験はMCAOの8および15日後に行った。MRIは2、7、および14日後に行った。
(1)脚プレースメント(placement)試験(LPT)(図28A)
LPTには、Johanssonと共同研究者[Ohlsson,A.L.and Johansson,B.B.(1995).Environment influences functional outcome of cerebral infarction in rats.Stroke 26,644−649.]によって記述される小試験8個が含まれ、これらを虚血24時間後に行った。
簡単に説明すると、ラットの四肢をカウンター上面の上部と端部とを用いて評価した。各小試験に関して、動物が脚を載せることができなければスコア0、部分的および/または遅れて(2秒より遅れて)脚を載せた場合には1、そして動物が直ちにそして正しく脚を載せた場合には2を与えた。
結果、MCAO前の神経学的スコアは全ての動物において類似であった。MCAO1日後で、脳内MSC注射前の四つの虚血群における脚プレースメントスコアに統計学的な差は認められなかった。MCAOの8日後、MSC−BDNFを投与したラットは、対照のDMEMラット(3.71±0.49、P=0.0001)および線維芽細胞を投与したラット(5.00±1.10、P=0.003)と比較して、有意に高い脚プレースメントスコア(8.43±1.52)に達した。MCAOの15日後、MSC−BDNFを投与したラットのスコアは、9.14±2.61であり、これはDMEM群において認められたスコアより有意に高かった(5.00±1.73、P=0.024)。一方、MCSを投与したラットは、8日目および15日目においても、DMEMまたは線維芽細胞を投与した対照ラットより高いスコアに達しなかった。
(2)トレッドミル試験(図28B)
トレッドミル試験では、ラットを加速するトレッドミル(モデルMK−680、室町機械、日本)に載せた[Mokry,J.(1995).Experimental models and behavioural tests used in the study of Parkinson’s disease.Physiol Res 44,143−150.]。ラットに、最大速度が70m/sで、10秒間に10m/sずつ徐々に速度が増加するベルト上を走らせ、中央位置を維持する運動を行わせた。ラットが走ることができなくなった場合は試行を正式に終了した。各動物が走ることができる最大速度を測定した。ラットはMCAOの8日および15日後に試験した。
その結果、MCAO前のトレッドミルの平均速度は各群で同等であった。MCAOの8日後、MSC−BDNF群のラットは、対照DMEM(9.57±5.6m/s;P=0.001)および線維芽細胞処理(11.8±6.2m/s;P=0.017)群の動物と比較して有意に速い速度に達した(23.4±2.6m/s)。これらの差は15日目でも維持され、、MSC−BDNF、対照DMEM、および対照線維芽細胞群の速度はそれぞれ、36.6±9.5、12.1±9.4(P=0.002)、および15.8±11.3(P=0.023)であった。MSC処理ラットは、8日または15日での回復の増強を示さなかった。
(3)MRIによるMSC−BDNF処理後の梗塞体積の減少(図29Aおよび29B)
MRIは、MCAO2、7、および14日後に全ての動物について実施した。動物をMRIの前に麻酔した。MRI装置は、UNITYINOVAコンソール(オックスフォードインスツルメンツ、イギリス、およびバリアンインク、パロアルト、カリフォルニア州)にインターフェイスで接続した7T、口径18cmの超伝導磁石で構成された。造影中は、動物を同じ位置に固定した。マルチスライスT2強調スピンエコーMR画像(TR 3000msec、TE 40msec、撮像領域40×30mm、スライスの厚さ2mm、ギャップなし)を得た。
虚血領域の配置は、造影ソフトウェア(シオンイメージ、バージョンβ4.0.2、シオン社)を用いてT2強調画像から脳半球病変体積(%HLV)を計算して評価した。各切片の虚血組織に印をして、切片の厚さ(2mm/切片)を考慮に入れて梗塞体積を計算した。梗塞体積の過大評価を防止するために、Neumann−Haefelinら[Neumann−Haefelin,T.,et al.(2000).Serial MRI after transient focal cerebral ischemia in rats:dynamics of tissue injury,blood−brain barrier damage,and edema formation.Stroke 31,1965−1972;discussion 1972−1963.]に記述されるように、補正梗塞体積またはCIVを以下のように計算した。
CIV=(LT−(RT−RI))×d
式中LTは、左半球の面積(mmで表す)であり、RTは右半球の面積(mmで表す)、RIは梗塞面積(mmで表す)、およびdは切片の厚さ(2mm)である。相対梗塞体積(%HLV)は右脳半球体積の百分率として表記した。
その結果、T2強調画像での過剰強度領域を中心のMR画像6個に合計して、病変体積を反対側の半球体積の百分率(%HLV)として表記した。全ての群において、%HLVは、2日目から14日目まで減少した。MCAOの2日後、MSC−BDNF(35.0±4.8%)、DMEM(38.7±4.9%)、線維芽細胞(37.9±3.8%)、およびMSC(37.8±2.8%)群の%HLVに有意差は認められなかったが、MSC−BDNF群では%HLVはこれらの他の群と比較していくぶん減少した。
一方、MCAOの7日後、MSC−BDNF群のラットの%HLV(25.4±2.8%)は、対照群のDMEM(32.8±4.9%;P=0.002)、対照線維芽細胞処置(31.6±2.2%;P=0.015)、および対照MSC処置(30.8±4.3%;P=0.028)群のラットと比較して有意に減少した。14日後、%HLVはMSC−BDNF群(23.7±3.2%)群のラットではDMEM対照(29.6±3.6%;P=0.011)と比較して有意に減少した。MSC処理ラットは、7日(30.8±4.3%)または14日(26.2±2.9%)のいずれにおいても、対照DMEMおよび線維芽細胞群と比較して%HLVの如何なる有意な回復も示さなかった。
〔実施例28〕 インビボBDNF産生レベル(実験2;図30)
実験2では、増殖因子を以下の動物群において測定した。
1群(対照):正常ラット(n=3)、
2群(対照):DMEMを注射したラット(n=3)、
3群:MSCを注射したラット(n=3)、および
4群:MCAOの24時間後に虚血境界域にMSC−BDNFを注射したラット。
MCAOの7日後にラットを屠殺して、局所脳組織におけるBDNFの濃度を測定した。
サンドイッチELISAを用いて、本発明者らは、MCAOの7日後の局所脳組織におけるBDNFレベルを調べた。
MSCをインビトロで様々なMOI(pu/細胞)でトランスフェクトした48時間後、培養上清を分析用に採取した。さらに、MCAOの7日後、ラットをケタミン(4.4〜8mg/100g)およびキシラジン(1.3mg/100g)の腹腔内投与によって麻酔して、脳を摘出し、虚血半球の前頂の−1.0〜1.0mmまでの冠状断面(200mg)を氷中で解剖して使用するまで−80℃で保存した。その後、各組織試料を等重量のホモジネート緩衝液(1ml;137mM NaCl、20mMトリス、1%NP40、1mM PMSF、10μg/mlアプロチニン、1μg/mlロイペプチン、0.5mMバナジン酸ナトリウム)に浮遊させて、ダウンスホモジナイザーによってホモジナイズした。ホモジネートを4℃で10分間遠心して(10,000g)、上清(5μg/μl)を分析のために回収した。市販のBDNF ELISAキット(プロメガ社、マディソン、ウィスコンシン州)を用いて、各試料(1試料あたり3個ずつ)のBDNFの濃度を定量した。
その結果、BDNFレベルは、MSC−BDNF移植ラット(45.2±14.8pg/mg蛋白質)の虚血半球では、DMEM(12.5±1.9pg/mg蛋白質;P=0.0002)、またはMSC(19.3±5.5pg/mg蛋白質;P=0.0006)を注射したラットと比較して有意に増加した。BDNFレベルはまた、MSC処理ラットの虚血半球では、DMEM処理ラット(P=0.0124)と比較して有意に増加した。
〔実施例29〕 MSC−BDNF処置動物における核DNA断片化(実験3A、B;図31)
実験3Aは、虚血7日後に脳細胞のDNA断片化の程度を評価するために行った。実験群は、上記実験2に記述した群と同じものを使用した。ラットをMCAOの7日後に屠殺して、脳組織をTUNEL染色によって評価した。
MCAOの7日後、ラットを麻酔して、まずリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で頭蓋内還流後に4%パラホルムアルデヒド(PFA)を含むPBS溶液によって頭蓋内を還流した。脳を摘出して、4%PFAのPBS溶液に2日間浸漬し、低温層にて−20℃で30μm凍結切片(冠状座標前頂−1.0〜1.0mm)を切り出した。虚血境界域における細胞のDNA断片化は、インサイチューアポトーシス検出キット(タカラバイオメディカルズ、滋賀、日本)によって、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼdUTPニック末端標識(TUNEL)法を用いて検出した[Gavrieli,Y.,Sherman,Y.and Ben−Sasson,S.A.(1992).Identification of programmed cell death in situ via specific labeling of nuclear DNA fragmentation.J Cell Biol 119,493−501.]。つまりプロテアーゼ消化後、切片をターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼおよびフルオレセインイソチオシアネート標識dUTP(緑色)を含む混合物中でインキュベートした。切片を、赤色に染色するPI(ヨウ化プロピジウム)で対比染色した。AxCADsR−F/RGDをトランスフェクトしたMSCは、これらの切片では赤色に染色された。陽性の赤色細胞の総数を、内部境界域の3つの1×1mm領域において計数した[Hayashi,T.,Abe,K.and Itoyama,Y.(1998).Reduction of ischemic damage by application of vascular endothelial growth factor in rat brain after transient ischemia.J Cereb Blood Flow Metab 18,887−895.]。
ビブラトームを用いて調製した100ミクロンの切片を、3%BSAおよび0.1%トリトンX−100を含むPBSで希釈した一次抗体と共に、4℃で一晩インキュベートした。本研究において用いた一次抗体は以下の通りであった:抗ニューロン核抗原(NeuN:mAb377;ケミコン社、テメキュラ、カリフォルニア州)および抗グリア原線維酸性蛋白質(GFAP:G3893シグマ社)抗体。PBS中ですすいだ後、切片を蛍光二次抗体(Alexa Fluor 594ヤギ抗マウスIgG(H+L):A−11032、モレキュラープローブス社)と共に室温で1時間インキュベートした。
結果、MSC−BDNFを注射した動物では、MCAOの7日後に、DMEM注射群と比較して虚血境界域でのTUNEL陽性細胞(緑色)の数が有意に少なかった(それぞれ、275±73対55.0±41.0;P=0.013)。一方、これらの細胞は、MSCを注射した動物ではDMEMを注射した動物より有意に多かった(173.0±64.9対55.0±41.0;P=0.20)(図31A、B、およびC)。
実験3Bでは、7日目でのDNA断片化を、対照動物(1群;n=3)と共にMSC−DsR(2群;n=3)またはMSC−BDNF−DsR(3群;n=3)を移植した動物において調べた。
注射部位の2mm未満内に多くのDsR陽性MCSが検出された。移植したMSCのTUNEL陽性細胞は、注射部位において、MSC群と比較してMSC−BENFを処置した動物では減少した(図31D)。その上、MSC近傍のTUNEL陽性細胞は、注射部位においてMSC群と比較してMSC−BDNF処理動物では減少した。
〔実施例30〕 MSC表現型(実験4;図32)
実験4は、7日目の細胞形態を調べるために実施した。実験群には、DMEM(1群;n=3)を注射した対照ラット、MSC−EGFPを移植したラット(2群;n=3)、およびMSC−BDNF−EGFPを移植したラット(3群;n=3)が含まれた。ラットをMCAOの7日後に屠殺して、脳組織を形態学的に評価した。
虚血領域におけるMSCがニューロンの表現型を呈するか否かを調べるために、MCAOの7日後に形態学的に調べた。移植したMSCのいくつかは、ニューロンマーカーNeuNおよび星状細胞マーカーGFAPに対して免疫陽性であった。繊維様突起を示す細胞もあったが、丸い形状を示す細胞も認められた。移植したMSC−BDNFは、MSCと類似の特徴を示した。
〔実施例31〕 データ分析
上記実施例22〜31までに示すデータは、平均値±標準偏差(SD)として表記した。脚のプレースメントおよびトレッドミル試験によるデータは、一元配置ANOVAを用いた後に、ゲームス・ハウウェル後hoc試験を用いて分析した。HLVデータは、一元配置ANOVAの後にテュキーのHSD後hoc試験を用いて行った。各群のELISAデータをスチューデントのt検定を用いて比較した。各群のTUNEL陽性細胞の数を、一元配置ANOVAの後にScheffeの後hoc検定を用いて比較した。P値が<0.05であれば有意とした。
下記の実施例32〜44は、脳腫瘍に対する遺伝子組み換え幹細胞移植が及ぼす治療効果を検討したものである。
〔実施例32〕 細胞株の確立
9Lラット神経膠腫細胞株(Fisher 344系ラットと同系)および正常ラット腎(NRK)細胞は、10%熱不活化ウシ胎児血清(FBS、インビトロジェン−ライフテクノロジーズインク、グランドアイランド、ニューヨーク州、アメリカ)、2mM L−グルタミン、50μgストレプトマイシン、および50単位/mlペニシリンを添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、シグマ−アルドリッチ社、セントルイス、ミズーリ州、アメリカ)において維持した。9L細胞を生物学的に標識するために、CMVプロモーターの制御下でヒト化Discosoma赤色蛍光蛋白質(DsRed2)をコードするpDsR2−N1プラスミドを、BDバイオサイエンシズクロンテック社(パロアルト、カリフォルニア州、アメリカ)から購入した。DNA 1μg:NeuroPORTER(ジーンセラピーシステムズインク、サンジエゴ、カリフォルニア州、アメリカ)試薬2.5μlの比で調製したDNA複合体を用いて、NeuroPORTERによって、50〜60%コンフルエンスの細胞にpDsR2−N1をトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後に、FACScalibur(ベクトン・ディッキンソン社、フランクリンレークス、ニュージャージー州、アメリカ)でDsRed2−陽性細胞を単離して、トランスフェクションの72時間後に選別を繰り返してさらに精製した。単離されたDsRed2陽性9L細胞を10%FBSおよび1mg/ml G418(インビトロジェン−ライフテクノロジーズ)を添加したDMEMにおいて14日間選択して、安定な細胞株(9L−DsR)を確立した。
〔実施例33〕 MSC調製
MSCは、既に記述されているとおりに骨髄から調製した(Tsuda H et al.Efficient BMP2 gene transfer and bone formation of mesenchymal stem cells by a fiber−mutant adenoviral vector.Mol Ther 2003;7:354−365.)。
簡単に説明すると、Fischer 344系ラット(9週齢、雄性)を頚部脱臼によって屠殺し、軟組織から大腿骨および脛骨を切り離し、骨鉗子で骨端を除去した。大腿骨および脛骨の中央骨幹骨髄組織を、通常の培地(10%FBS、100単位/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、0.25μg/mlアンフォテリシン−B、および2mM L−グルタミンを添加したDMEM)の中に洗い流した。大きさが次第に小さくなる針(それぞれ18、20、22ゲージ)を通して骨髄をシリンジの中に連続的に引き入れて単細胞浮遊液を得た。初代培養MSCを通常の培地に密度5×10個/10cm培養皿で播種した。非接着細胞を除去するために、初回培養後4日目に培地を新しい通常培地に交換した。MSCは、消費された培地を4日間隔で新鮮な培地に交換し、37℃、5%COで維持した。
〔実施例34〕 アデノウイルスベクターとインビボ遺伝子形質導入
ヒトIL−2をコードする改変繊維を有するアデノウイルスベクター(AxCAhIL2−F/RGD)は、既に記述されている(Dehari H et al.Enhanced antitumor effect of RGD fiber−modified adenovirus for gene therapy of oral cancer.Cancer Gene Ther 2003;10:75−85.)。CAプロモーター(ニワトリβ−アクチンプロモーターと共にCMV−IEエンハンサー)の制御下で、RGD−変異繊維と共にAequoria victoria緑色蛍光蛋白質(強化GFP:EGFP)のヒト化変種を有するアデノウイルスベクター(AxCAEGFP−F/RGD)は、既に記述されているとおりに構築した(Dehari H et al.Enhanced antitumor effect of RGD fiber−modified adenovirus for gene therapy of oral cancer.Cancer Gene Ther 2003;10:75−85.、Nakamura T,Sato K,Hamada H.Effective gene transfer to human melanomas via integrin−targeted adenoviral vectors.Hum Gene Ther 2002;13:613−626.)。
EGFP遺伝子断片を、pEGFPベクター(BDバイオサイエンシズ・クロンテック社、パロアルト、カリフォルニア州、アメリカ)から単離して、pCAccベクター(Yamauchi A et al.Pre−administration of angiopoietin−1 followed by VEGF induces functional and mature vascular formation in a rabbit ischemic model.J Gene Med 2003;5:994−1004.)(pCAEGFP)に挿入した。EGFP遺伝子を含む発現カセットは、ClaIによる制限酵素消化によって単離して、コスミドベクターpLのClaI部位に挿入した。このように生成されたコスミドベクターpLEGFPを、Ad5dlx−F/RGDからのClaIおよびEcoT22I消化DNA−TPCと共に、ヒト胎児腎293細胞に同時トランスフェクトした。トランスフェクトした293細胞から発生したプラークを単離して、ウイルスゲノムの制限酵素消化によって評価した。単離されたプラークから得たRGD繊維を有するアデノウイルスEGFP発現ベクター、AxCAEGFP−F/RGDを、293細胞において増殖させた。アデノウイルスベクターは全て、293細胞において増殖させて、塩化セシウム超遠心法によって精製した。精製後、ウイルスを10%グリセロールを含むリン酸緩衝生理食塩液(PBS)に対して透析して、−80℃で保存した。ウイルス力価は、A260nmでの分光光度測定によって粒子単位(pu)に関して決定した(Dehari H et al.Enhanced antitumor effect of RGD fiber−modified adenovirus for gene therapy of oral cancer.Cancer Gene Ther 2003;10:75−85.)。
初代培養MSCのエクスビボアデノウイルス遺伝子形質導入は、既に記述されている(Tsuda H et al.Efficient BMP2 gene transfer and bone formation of mesenchymal stem cells by a fiber−mutant adenoviral vector.Mol Ther 2003;7:354−365.)。
簡単に説明すると、アデノウイルス感染の1日前にMSC 5×10個を10cm培養皿に播種した。細胞を、AxCAEGFP−F/wtまたはAxCAhIL2−F/RGDのいずれか1000pu/細胞を含む保存ウイルス溶液5mlと共に、37℃で5%COにおいて1時間インキュベートすることによって感染させた。感染後、細胞をPBS(pH7.4)によって2回洗浄し、通常の培地10mlを加えた。
〔実施例35〕 初代培養ラットMSCの特性について
本発明者らは、フローサイトメトリーによってラット初代培養MSC上の表面抗原を分析した。
初代培養MSCの表現型分析は、FACScalibur(ベクトン・ディッキンソン社)によって行った。簡単に説明すると、細胞を0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBSで2回洗浄した。細胞を抗ラットCD73(SH3)、CD45、またはCD11b/c(ファーミンゲン社、サンジエゴ、カリフォルニア州、アメリカ)モノクローナル抗体によって標識後、二次抗体としてフルオレセインイソチオシアネートを結合させたヤギ抗マウスIgG抗体(イムノテック社、マルセイユ、フランス)によって標識した。アイソタイプをマッチさせた対照として、マウスIgG(イムノテック社)またはマウスIgG2a標識細胞を分析した。
その結果、培養したラットMSCは、CD73抗原陽性であった(図33b)。この抗原は、ヒトMSC上での典型的な間葉表面抗原の一つであると報告されている(Kobune M et al.Telomerized human multipotent mesenchymal cells can differentiate into hematopoietic and cobblestone area−supporting cells.Exp Hematol 2003;31:715−722.)。
造血細胞(CD45またはCD11/b)のコンタミネーションは、本発明者らのMSC培養では検出されなかった(図33c、e)。
〔実施例36〕 MSCのインビトロにおける間葉系への分化能
同様に本発明者らは、ラットMSCの典型的な間葉系列への分化についても調べた。
ラット初代培養MSCまたは遺伝子改変MSCの典型的な間葉系列へのインビトロ分化能の評価は、これまでに記述されているように(Tsuda H et al.Efficient BMP2 gene transfer and bone formation of mesenchymal stem cells by a fiber−mutant adenoviral vector.Mol Ther 2003;7:354−365.、Kobune M et al.Telomerized human multipotent mesenchymal cells can differentiate into hematopoietic and cobblestone area−supporting cells.Exp Hematol 2003;31:715−722.)実施した。
簡単に説明すると、MSCは、80μg/mlビタミンCホスフェート(和光純薬、大阪、日本)、10mM β−グリセロホスフェートナトリウム(カルビオケム社、サンジエゴ、カリフォルニア州、アメリカ)および10−7Mデキサメタゾン(シグマ−アルドリッチ社)を添加した骨形成性分化培地、または0.5μMヒドロコルチゾン、500μMイソブチルメチルキサンチン、および60μMインドメタシンを添加した脂肪形成性分化培地によって処理した。分化培地は、21日目まで3日毎に交換した。
骨形成性の分化を確認するために、細胞を10%ホルマリンによって10分間固定後、5%硝酸銀(シグマ−アルドリッチ社)で15分染色して、無機質の沈着(フォン・コッサ染色)を検出した。
脂肪細胞形成性の分化を検出するために、10%ホルマリンによって15分間固定し、細胞培養物における脂肪小滴の形成を、新しく調製したオイルレッドO溶液(オイルレッドOの0.5%イソプロパノール保存溶液3に対し、蒸留水2の混合物)によって染色した。
結果、本発明者らの培養ラットMSCは、骨細胞系列(図33f)および脂肪細胞系列(図33h)に分化できた。初代培養MSCの、骨形成性および脂肪細胞形成性分化能は、アデノウイルスベクターによるIL−2遺伝子改変によって影響を受けなかった(図33gおよび図33i)。
〔実施例37〕 インビトロで9L細胞の増殖に及ぼすMSCの影響
インビボで脳腫瘍へのMSCの投与が、腫瘍の増殖に対して何らかの影響を及ぼすか否かは明確にされていない。しかしMSCは、線維芽細胞増殖因子(GFG)のようなサイトカインおよび腫瘍の増殖を支持しうる他の腫瘍増殖因子(TGF)を産生できることが知られている(Tille JC,Pepper MS.Mesenchymal cells potentiate vascular endothelial growth factor−induced angiogenesis in vitro. Exp Cell Res 2002;280:179−191.)。従って本発明者らは、まずインビトロで9L神経膠腫細胞の増殖に及ぼすMSCの共培養の影響について評価した。
本発明者らは、Ds−Red2(ヒト化Discosoma赤色蛍光蛋白質)−標識9L細胞(9L−DsR)(5×10個/ウェル)を、6ウェルプレートにおいて単独、またはMSC(5×10個/ウェル)または正常ラット腎(NRK)細胞(5×10個/ウェル)と共に72時間培養した。その後に、細胞をトリプシン処理して計数した。9L−DsR細胞数は、フローサイトメーター(FACScalibur)を用いて決定した。
その結果、図34aに示すように、9L細胞の増殖は、MSC(24.5±1.9%阻害)との共培養ではNRK細胞(17.4±1.9%阻害、p<0.01)との共培養より有意に大きい程度に阻害された。
MSCから放出される可溶性因子が9L細胞の増殖に及ぼす影響を評価するために、本発明者らは、2チャンバー培養系を利用した。
MSCまたはNRK細胞をトランスウェルインサート(孔径0.4μm、コスター、ケンブリッジ、マサチューセッツ州、アメリカ)に、10%FBSを含むDMEMにおいて、1×10個/トランスウェルの密度で播種した。9L細胞を、10%FBSを含むDMEMにおいて5×10個/ウェルの密度でウェルに播種した。共培養物を72時間インキュベートして、細胞を直接計数して共培養系における増殖を直接決定した。データは全て、以下のように計算される%阻害として表記する。
%増殖阻害=[1−(MSCまたはNRK細胞と共培養した9L−DsR細胞数/単独で培養した9L−DsR細胞数)]×100。
その結果、図34bに示すように、9L細胞の有意な増殖抑制は、異なるチャンバーで培養したMSCによって影響を受けたが、NRK細胞による影響は受けなかった(それぞれ9.8±3.1%および1.8±1.2%、P<0.01)。
これらの結果は、インビトロでは可溶性因子によって媒介される9L神経膠腫細胞に対して、MSC自身はダイレクトな抗腫瘍効果を有することを示している。
〔実施例38〕 インビトロでのMSCの遊走能
本発明者らは、インビトロでの神経膠腫細胞に対するMSCの遊走特性を評価した。
細胞遊走アッセイは、2つのチャンバーを有する培養皿、トランスウェル(コスター)を用いて行った。細胞を125I−デオキシウリジン(125U−IUDR、アマシャムバイオサイエンシズ社、ピスキャタウェイ、ニュージャージー州、アメリカ)によって代謝的に標識した。
簡単に説明すると、細胞1×10個/mlを0.1μCi/ml125I−IUDRを含む培地において24時間培養した。次に、細胞をDMEMで3回洗浄して、同じ培地に再度浮遊させた。125I−IUDR標識細胞(5×10個)を孔径8μmの上部チャンバーに入れ、9L細胞を下部チャンバーに入れた。トランスウェルを37℃、5%COにおいて24時間放置した後、下部チャンバー中の細胞を1N NaOHによって溶解した。細胞溶解物における放射活性をガンマカウンターによって評価した。細胞遊走アッセイの結果は、百分率(総細胞数分の下部チャンバーの細胞数(%))として表記した。
その結果、MSCまたはNRK細胞はいずれも自発的に遊走しないが、いずれの細胞も、下部チャンバーに9L細胞を加えることによって、自発的に遊走するように刺激を受けた(図34c)。遊走活性は、9L細胞数を増加させるにつれて用量依存的に増加した。MSCはNRK細胞より有意に大きい遊走能を有することが判明した(p<0.01)。
〔実施例39〕 移植MSCの遊走と腫瘍向性
MSCのインビトロにおける遊走能は既に確立されたことから、本発明者らは、移植したMSCが、インビボで正常な脳実質の中を頭蓋内神経膠腫に向かって遊走するか否かを調べた。
MSCの頭蓋内分布について評価するために、9L−DsR神経膠腫細胞4×10個を右基底神経膠腫に頭蓋内に接種し、その腫瘍の接種3日後にEGFP(強化緑色蛍光蛋白質)−標識MSC(MSC−EGFP)4×10個を神経膠腫内または反対側脳半球のいずれかに直接注射した。腫瘍接種の14日後、深部麻酔下でラット脳をPBSで潅流後に4%パラホルムアルデヒドによって潅流した。摘出した脳を4%パラホルムアルデヒドによって一晩後固定後、30%ショ糖を含むPBSにおいて48時間平衡にした。固定した脳をOTC化合物(マイルスインク、エルクハート、インジアナ州、アメリカ)に抱埋して、液体窒素において瞬間凍結し、−70℃で保存した。組織を厚さ20μmの凍結切片にして、ヘマトキシリンおよびエオジン(H−E)によって染色、または抗GFPモノクローナル抗体(BDサイエンシズクロンテック社)によって免疫組織化学的に染色した。第一の抗体によって染色した切片をベクターラボラトリーズ(バーリンガム、カリフォルニア州、アメリカ)のベクタステインキットを用いて可視化した。造影は、ツァイス−パスカル顕微鏡(カール・ツァイスインク、ソーンウッド、ニューヨーク州、アメリカ)によって行った。
その結果、図35aおよび35cに示すように、9L細胞を接種した全てのラットにおいて、ヘマトキシリンによって強く染色される大きい神経膠腫塊を認め、これは右半球を占有して、正中線の左半球方向へのシフトを引き起こした。遺伝子標識MSCは、ほとんどが腫瘍と正常な実質との境界部に認められたが、腫瘍内注射後では比較的均一に腫瘍床にも浸潤した(図35b)。MSCは、遠位の脳実質または反対側脳半球には遊走しなかった。
共焦点レーザー顕微鏡により、EGFP−陽性MSCの蓄積が判明したが、そのほとんどが、DsRed陽性腫瘍の端部でその紡錘状の形状を保持していた(図35e)。MSCは、主な腫瘍から広がった神経膠腫細胞と一致して存在した(図35g)。一方、反対側脳半球に接種したMSCは、脳梁に沿って最初の注射部位から神経膠腫細胞へと遊走した(図35d)。これらのMSCのほとんどが、脳梁およびそれに隣接する腫瘍の端部に留まっていた(図35h)。さらに、腫瘍へのMSCの浸潤を認めた。頭蓋内移植後のこれらのMSCの優れた遊走能および神経膠腫向性が確認されたことから、次の段階では、実験的神経膠腫を治療するための治療的遺伝子改変細胞を調製した。
〔実施例40〕 遺伝子改変MSCによるヒトIL−2産生
9L神経膠腫細胞に対するIL−2の抗腫瘍効果は、ラットモデルにおいて十分に確立されていることから(Rhines LD et al.Local immunotherapy with interleukin−2 delivered from biodegradable polymer microspheres combined with interstitial chemotherapy:a novel treatment for experimental malignant glioma.Neurosurgery 2003;52:872−879;discussion 879−880.、Iwadate Y et al.Induction of immunity in peripheral tissues combined with intracerebral transplantation of interleukin−2−producing cells eliminates established brain tumors.Cancer Res 2001;61:8769−8774.)、治療用遺伝子としてヒトIL−2(hIL−2)を選択した。
ヒトIL−2形質導入MSC(MSC−IL2)は、既に記述されているように改変アデノウイルスベクターによる感染によって調製した(Tsuda H et al.Efficient BMP2 gene transfer and bone formation of mesenchymal stem cells by a fiber−mutant adenoviral vector.Mol Ther 2003;7:354−365.)。ラット初代培養MSCは、アデノウイルス受容体、コクサッキー−アデノウイルス受容体(CAR)の発現レベルが低いために、野生型アデノウイルス感染に対して比較的抵抗性であることから、この繊維変異体ベクターを用いた。
ヒトIL−2遺伝子を形質導入したMSCからのヒトインターロイキン−2(IL−2)産生を測定するために、MSCをアデノウイルス感染の12時間前に、24ウェルプレートにおいて10個/ウェルの密度で1試料あたり3ウェルずつ播種した。次に、細胞をAxCAhIL2−F/RGDに感染させて、72時間インキュベートした。培養上清におけるヒトIL−2濃度を、ELISA(IL−2イムノアッセイキット;R&Dシステムズ、ミネアポリス、ミネソタ州、アメリカ)によって測定した。
その結果、本発明者らのこれまでの知見と一致して、AxCAhIL2−F/RGDの比較的低濃度を感染させたMSCの上清において、高レベルのhIL−2を検出した(300および1000粒子単位/細胞でそれぞれ、8.6±0.5および24.0±1.7ng/ml/10細胞/72時間)。この高レベルhIL−2産生は、アデノウイルス濃度を増加させると用量依存的にさらに増加した。
〔実施例41〕 IL−2遺伝子形質導入MSCを移植した神経膠腫担癌ラットの延命
MSC−IL2がインビボで治療利益を提供できるか否かについて、本発明者らは検討した。
雄性Fisher 344系ラット(7〜8週齢、200〜240g)を日本SLCインク(浜松、日本)から購入した。動物を麻酔して定位装置に入れた(ナリシゲ科学機器研究所、東京、日本)。適当な位置に穿頭した(前頂の1mm後方で正中線の3mm右)。26−ゲージ針を硬膜から4mm腹側に挿入して、ここに9L腫瘍細胞のPBS浮遊液5μlを10μlマイクロシリンジ(ハミルトン社、リノ、ネバダ州、アメリカ)を用いて接種した。そして9L細胞4×10個をMSCまたはIL−2形質導入(AxCAhIL2−F/RGD 1000pu/細胞を感染させた)MSC(MSC−IL2)4×10個のPBS浮遊液5μlと混合してから、上記のように細胞浮遊液を頭蓋内に注射した(図35a)。9L細胞を非改変MSCまたはEGFP遺伝子改変MSC(MSC−EGFP)のいずれかと共に注射した結果も同様に評価した。
その結果、9L神経膠腫細胞およびMSC−IL2を共に注射したラットの生存(26.3±2.2日、P=0.0003対9L単独、P=0.0008対MSC、P=0.0007対MSC−EGFP)は、9L単独、または9L細胞を非改変MSCもしくはMSC−EGFPと共に注射した対照と比較して有意に長かった(17.1±1.1、22.0±0.8、21.3±1.5日)。9L細胞を非改変MSC(22.0±0.8日、P=0.0003)またはMSC−EGFP(21.3±1.5日、P=0.0003)と共に注射したラット群はいずれも、対照と比較して有意な延命を示したが、MSCとMSC−EGFP群の生存に差を認めなかった(P=0.5881)。
MSCのIL−2遺伝子改変は、MSCおよび9L神経膠腫細胞を共に注射したラットの生存にさらなる治療利益を付与したが、遺伝子改変そのものは生存に対して影響を及ぼさなかった。
MSC−IL2の治療利益はまた、神経膠腫担癌ラットの治療モデルにおいても確認された。本発明者らは、9L神経膠腫細胞4×10個を移植した。その後、MSCまたはMSC−IL2 4×10個のPBS浮遊液5μlを腫瘍接種後3日目に腫瘍内移植した(図36b)。
MSC−IL2の腫瘍内接種は、対照(17.1±1.1日)と比較して9L神経膠腫担癌ラットの生存を有意に延長した(27.7±1.1日、P=0.0002対9L単独)。MSC−EGFPを注射した神経膠腫担癌ラットの平均生存日数(23.2±0.8日)は、MSC−IL2を注射したラット(P=0.0024)より有意に短かったが、それでも前者は無処置対照より長く生存した(P=0.0006)。
〔実施例42〕 MRIによって評価したインビボ腫瘍増殖に及ぼす遺伝子改変MSCの影響
MSC−IL2またはMSCの注射後に認められた延命が、腫瘍の増殖阻害に関連しているか否かを評価した。本発明者らは、頭蓋内の腫瘍体積を推定するために、全ての動物について7日毎に磁気共鳴造影(MRI)を行った。
動物をケタミン(2.7〜3mg/100g)およびキシラジン(0.36〜0.4mg/100g)の腹腔内注射によって麻酔した。次に、動物にGd−DTPA(0.8〜1.0mg/kg、マグネビスト、シェーリング日本、東京、日本)0.2mlを注射して、UNITYINOVAコンソール(オックスフォードインスツルメンツKK、東京、日本)にインターフェースで接続した7T、口径18cmの超伝導磁石によって、冠状T1強調スピンエコー画像(TR 500msec、TE 10msec、撮像領域50×50mm、スライスの厚さ1.5mm、ギャップなし)を得た。腫瘍体積(mm)は、それぞれのMR−画像領域のGd−DTPA強化部分に撮像の厚さをかけた和として計算した。MRI上での推定される腫瘍体積は、造影試験の直後に得た実際の腫瘍重量と比例相関を有する(Namba H et al.Evaluation of the bystander effect in experimental brain tumors bearing herpes simplex virus−thymidine kinase gene by serial magnetic resonance imaging.Hum Gene Ther 1996;7:1847−1852.)。
結果、9L神経膠腫は、脳の冠状断面におけるT1強調造影によって強化領域として明確に認識された(図37)。表1および図37に示すように、9L神経膠腫の進行性の増殖は、無処置ラットの脳において認められ、腫瘍接種後14日で致死体積に達した。表1は、MRIにより計測した9L神経膠腫体積(mm)である。

上記表1中の、記号bは腫瘍接種後の日数を指し、記号cは未試験であることを表す。記号†はp<0.01vs.9L単独、記号‡はp<0.01vs.MSCを表す。
対照的にMSC−IL2またはMSCで処理した動物の脳の腫瘍体積は、有意に小さかった(腫瘍接種後14日での無処置対照と比較してP<0.01)。14日目では、非改変MSCおよびMSC−IL2で処理した群の腫瘍体積に有意差を認めなかった。しかし、IL−2遺伝子改変による治療効果は、腫瘍接種後21日にMRIで明らかに認識された。この時、非改変MSCで処理した動物における神経膠腫は、ほぼ致死体積に達していたが、MSC−IL2で治療した場合は腫瘍は小さいままであった。これらの認められた腫瘍体積の変化は、異なる治療群における生存期間と一致した。
〔実施例43〕 MSC−IL2の移植は神経膠腫へのリンパ球浸潤を誘導する
本発明者らは、MSC−IL2の9L神経膠腫への移植がインビボで免疫学的反応を誘発できるか否かを評価した。
MSC−IL2の処理後に神経膠腫へのCD4またはCD8陽性細胞浸潤を検出するために、9L−DsR細胞4×10個を移植し、MSC−EGFPまたはMSC−IL2 4×10個を腫瘍接種の3日後に腫瘍内に注射した。腫瘍接種の7日後にラットを屠殺して、摘出した脳をパラフィンに抱埋した。厚さ6μmの脳標本を抗ラットCD4(クローンW3/25、セロテックインク、オックスフォード、イギリス)、または抗ラットCD8(クローンOX−8、セロテックインク)モノクローナル抗体によって免疫組織化学的に染色して、ベクタステインABCキット(ベクターラボラトリーズ)によって可視化した。
MSC処理9L神経膠腫のHE染色の組織学分析を行ったところ、IL2遺伝子改変MSCで処理した9L神経膠腫において大量の単核球浸潤を認めた(図38c、d)。対照的に、非改変MSCを移植した神経膠腫では、炎症性細胞の浸潤は最小であった(図38a、b)。非改変MSCを移植した腫瘍の標本には、CD4およびCD8細胞の浸潤をほとんど認めなかった(図38e、g)。これとは明らかに対照的に、IL−2遺伝子改変MSCを接種した腫瘍では、CD4−およびCD8−陽性リンパ球の浸潤が検出された(図38f、h)。
〔実施例44〕 統計分析
上記実施例32〜43までに記載した細胞増殖アッセイおよび遊走アッセイに関する統計分析は、スチューデントのt検定によって行った。7日および14日での腫瘍体積評価に関するScheffe検定、および21日目にスチューデントt検定を行った。スチューデントt検定およびScheffe検定において、P値が0.05未満であれば有意であると見なした。生存に関する統計分析は、対数順位検定によって行った。
〔実施例45〕BDNF以外のサイトカイン遺伝子導入MSC
(1)サイトカイン産生能力
BDNF(brain−derived neurotrophic factor)遺伝子以外の遺伝子、例えば、GDNF(glial cell line−derived neurotrophic factor)、CNTF(cliary neurotrophic factor)、NT3(neurotrophin−3)遺伝子をMSCに導入し、培養した細胞のBDNF、GDNF、CNTFおよびNT3の産生について検討した。
その結果を図39に示す。AxCAhBDNF−F/RGD(MSC−BDNF)をMOI 100、300、1000または3000pu/cellにてトランスフェクトしたMSCは、BDNFをそれぞれ0.230±0.110、0.434±0.122、0.931±0.101および1.860±0.41ng/10個cell/48時間の速度で分泌した。非トランスフェクトMSCもBDNFを産生した(0.0407±0.0059ng/10cell/48時間)。
GDNFに関しては、AxCAhGDNF−F/RGD(MSC−GDNF)をMOI 300、1000または3000pu/cellにてトランスフェクトしたMSCは、GDNFをそれぞれ1.05±0.20、2.26±0.41および4.15±0.54ng/10cell/48時間の速度で分泌した。非トランスフェクトMSCもGDNFタンパク質を産生した(0.044±0.034ng/10個cell/48時間)。
CNTFに関しては、AxCAhCNT−F/RGD(MSC−CNTF)をMOI 300、1000または300pu/cellにてトランスフェクトしたMSCは、CNTFを0.136±0.028、0.854±0.145、3.58±0.43ng/10cell/48時間の速度で分泌した。非トランスフェクトMSCもCNTFタンパク質を産生した(0.0520±0.0150ng/10cell/48時間)。
また、NT3に関しては、AxCAhNT3−F/RGD(MSC−NT3)をMOI 300、1000または3000pu/cellにてトランスフェクトしたMSCは、NT3をそれぞれ2.67±0.09、4.24±0.16および6.88±0.07ng/10cell/48時間の速度で分泌した。非トランスフェクトMSCもNT3タンパク質を産生した(0.12±0.001ng/10cell/48時間)。
(2)脳虚血により誘発される神経学的障害評価
GDNF、CNTF、NT3遺伝子をMSCに導入した細胞を、上記実施例と同様の方法にて、脳梗塞局所へ移植し、脚プレースメント試験を行った。脚プレースメント試験は上記実施例27(1)の記載と同様にして実施した。脚プレースメントに関する障害は以下の尺度を用いて評価した。0:重度の神経学的障害、16:神経学的障害なし。脚プレースメント試験は、MCAOの1、8、および15日後に行なった。
その結果を図40に示す。MCAOの1日後(ただしMSC脳内注射の前)では、脚プレースメントスコアに関して4つの虚血群の間に統計学的な差はみられなかった。MCAOの8日後には、MSC−BDNFおよびMSC−GDNFを投与したラットでは、脚プレースメントスコアがDMEMラットと比較して有意に高かった(いずれもP<0.05)。MCAOの15日後には、MSC−BDNFおよびMSC−GDNFを投与したラットのスコアは、DMEM群で認められた値よりも有意に高かった(いずれもP<0.05)。
これに対して、MSC−CNTFおよびMSC−NT3を投与したラットでは、第8日および第15日のいずれの時点でも、DMEMを投与した対照ラットを上回るスコアは得られなかった。
(3)MRIによるMSC−BDNFおよびMSC−GDNF処理後の梗塞体積の減少
MRIは、MCAOの2、7、および14日後に全ての動物について実施した。実施手順および評価は上記実施例27(3)と同様の方法にて行った。
その結果、MCAOの7日後に、MSC−BDNF群およびMSC−GDNF群のラットでは、対照DMEM群のラットと比較してHLVの有意な低下がみられた(いずれもP<0.05)。14日後の時点でも同様に、MSC−BDNF群およびMSC−GDNF群のラットでは、DMEM対照と比較してHLVの有意な低下がみられた。MSC−CNTFまたはMSC−NT3を投与したラットでは、対照DMEM群およびMSC−EGFP群と比較して、7日後および14日後のいずれの時点でもHLVの有意な回復は認められなかった(いずれもP<0.05)。結果を図41に示す。
また、DMEM、MSC−BDNF、MSC−GDNF、MSC−CNTFまたはMSC−NT3を投与したラットにおける、MCAOの2日後および7日後に得た代表的なT2強調(T2W)画像を図42に示す。MSC−BDNF群およびMSC−GDNF群では、第7日の時点で、他の群と比較して虚血損傷体積の減少が検出された。
〔実施例46〕MSC−BDNF細胞の静脈内投与
MSCにBDNF遺伝子を導入した細胞(10個)は上記実施例に従って調製した。上記実施例16に記載のラット重症脳梗塞(中大脳動脈永久閉塞モデル)において脳梗塞作成後、上記細胞を12時間後に左大静脈内に投与した。
治療効果を生きたまま経時的に検討するために、MRIを用いた。MCAOの24時間後、72時間後、7日後の未処理群(対照)、MSC投与群、MSC−BDNF投与群の脳梗塞巣が観察された(図43)。
また、MCAOの6時間後、24時間後、72時間後、7日後の未処理群(対照)、MSC投与群、MSC−BDNF投与群の脳梗塞体積を計算し検討した(図44)
さらに、MCAOの24時間後、72時間後、7日後の未処理群(対照)、MSC投与群、MSC−BDNF投与群のトレッドミル試験を行い、運動回復について検討した(図45)。
いずれの結果も、MSC単独よりも、BDNF遺伝子を導入したMSCの方が、治療効果が高いことが分った。
〔実施例47〕MSC−PLGF細胞の静脈内投与
BDNF遺伝子の代わりにPLGF(PLGF:Placental growth factor)をMSCに導入した。MSC−PLGF細胞(10個)を、上記実施例16に記載のラット重症脳梗塞(中大脳動脈永久閉塞モデル)において脳梗塞作成後、3時間後に左大静脈内に投与した。
MCAOの3時間後、24時間後、3日後、7日後の未処理群(対照)およびMSC−PLGF投与群についてMRIにより、脳梗塞巣を観察した(図46)。DW2(b=1000)画像およびTWI画像で比較した。
また、MCAO後に出現した異常信号を示す体積をMRI検査で時間の経過とともに定量した。結果、DWI画像の場合はMCAOの24時間後、TWI画像の場合はMCAOの3日後から減少し始めた(図47)。
さらに、MCAOの7日後に、未処理群(対照)およびMSC−PLGF投与群の脳組織をTTC染色し脳梗塞体積を比較した(図48)。
いずれの結果もPLGF遺伝子を導入したMSCの方が治療効果が高いことが分かった。
〔実施例48〕脳梗塞モデルへのAngiopoietin遺伝子注入による血管新生効果
ラット脳梗塞モデル(中大脳動脈一時閉塞モデル:45分間)の脳梗塞巣に対して、Angiopoietin遺伝子を直接注入した。
Angiopoietin遺伝子の導入には、ベクターとしてアデノウイルスを使用した。
毛細血管を、FITCデキストランやEvans Blueで視覚化し、血管新生について評価した。
正常なラットの血管系をEvans BlueおよびFITCデキストランで視覚化したものを図49に示す。
遺伝子注入処理をしたMCAOモデルラットと、遺伝子注入処理をしていないMCAOモデルラットの血管形成誘導についてFITCで視覚的に比較した(図50)。またFITCで同側/対側(ipsilateral/contralateral)を定量化した(図51)。
さらに、遺伝子注入処理をしたMCAOモデルラットと、遺伝子注入処理をしていないMCAOモデルラットの血管形成誘導についてEvans Blueで視覚的に比較した(図52)。
結果として、著明な血管新生が認められた。脳梗塞は血管が閉塞する病気であるため、血管新生と組み合わせることで著明な治療効果が期待できる。
〔実施例49〕脳梗塞後慢性期におけるMSCの局所投与
上記実施例16に記載のラット重症脳梗塞(中大脳動脈永久閉塞モデル)を用いて、脳梗塞後慢性期にMSCを局所投与し、その治療効果を検討した。詳細には、MCAO後、2週間後に1x10個のMSCを脳梗塞局所に移植した。MSC投与の1日後、14日後、28日後、42日後にトレッドミル試験を行い、運動機能の回復についてMSC未処理群(対照)と比較した。その結果、運動機能の改善が見られた。結果を図53に示す。
急性期に移植した場合と比較して、治療効果はかなり落ちたが、それでも、治療効果が認められた。急性期に治療できた方が効果は高いため、できるだけ急性期の治療を試みるのが望ましいが、実際の臨床では、既に脳梗塞になってしまった患者のニーズも高いため、慢性期の患者の治療にも有効であると考えられる。
従って、本発明の薬剤は、急性期の脳神経疾患患者へ使用することが好ましいが、必ずしも急性期に限定されず、例えば、慢性期の患者であっても、本発明の薬剤は有効である。
産業上の利用の可能性
本発明者らは間葉系細胞(間葉系幹細胞)、特に骨髄細胞、臍帯血細胞、あるいは末梢血細胞を利用して、以下のような極めて大きな特徴を有する再生医療を行なうことができるという所見を得た。すなわち、骨髄細胞、臍帯血細胞、あるいは末梢血細胞を利用した再生治療では、従来は治療が事実上不可能であった神経系の損傷に対して、患者由来の骨髄細胞を体内に注射・点滴などで体内投与(例えば、静脈内投与)するだけで、その損傷部位を再生させることができ、障害を治癒させることができるということである。特に、脳梗塞については厳密な有効性の検証がなされた。更には、脳梗塞、脳出血、及び脊椎損傷などによる、神経系の損傷、心筋梗塞、クモ膜下出血を含む脳卒中、中枢性及び末梢性の脱髄疾患、中枢性及び末梢性の変性疾患、脳腫瘍、痴呆を含む高次機能障害、精神疾患、てんかん、頭部外傷や脳挫傷や脊髄損傷を含む外傷性の神経系疾患、炎症性疾患、及びヤコブ病を含む脳細胞損傷性の感染性疾患等、あらゆる神経系疾患に対してもこの治療は有効であると考えられる。そのような治療は、所定の専門的な治療施設においても、さらには一般的な治療現場(一般病院、救急搬送中、もしくは発症現場)においても行なうことができる。従来治療ができなかった障害を治癒させることができる点、及びそれが静脈内投与などの簡単な処置のよって可能である点を考えてみても、これがいかに画期的な治療法であるのかということがわかる。しかも、神経系の損傷は患者に重大な障害をもたらすものであるため、障害の治癒により患者が得られる恩恵は極めて大きく、ひいては社会的な意義も大きい。
本発明によって得られた再生医療の医学的な作用機序は、移植された骨髄細胞や間葉系幹細胞が患部(生体内損傷部位)まで遊走した上でそこに定着し、適切な物質を分泌したり、もともと備わっている自然治癒を促進したり、または、適切な細胞に分化して、その患部の機能を回復することによるものであると考えられる。このため、神経系の損傷を伴う、あらゆる種類の疾患や事故に効果が得られるものと考えられる。
【配列表】


【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

【図24】

【図25】

【図26】

【図27】

【図28】



【図30】




【図32】

【図33】

【図34】

【図35】

【図36】

【図37】

【図38】

【図39】

【図40】

【図41】

【図42】

【図43】

【図44】

【図45】

【図46】

【図47】

【図48】

【図49】

【図50】

【図51】

【図52】

【図53】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系細胞を有効成分として含む、脳神経疾患治療のための体内投与用薬剤。
【請求項2】
脳神経疾患が脳梗塞である、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
間葉系細胞を有効成分として含む、脳神経保護効果を有する体内投与用薬剤。
【請求項4】
間葉系細胞を有効成分として含む、脳神経再生効果を有する体内投与用薬剤。
【請求項5】
体内投与が静脈内投与である、請求項1〜4のいずれかに記載の薬剤。
【請求項6】
間葉系細胞が、
(a)BDNF遺伝子、PLGF遺伝子、GDNF遺伝子、もしくはIL−2遺伝子が導入された間葉系細胞、または
(b)hTERT遺伝子が導入され不死化した間葉系細胞、
である、請求項1〜5のいずれかに記載の薬剤。
【請求項7】
間葉系細胞が、間葉系幹細胞である、請求項1〜6のいずれかに記載の薬剤。
【請求項8】
間葉系細胞が骨髄細胞、臍帯血細胞、または末梢血細胞である、請求項1〜6のいずれかに記載の薬剤。
【請求項9】
患者へ治療上有効量の請求項1〜8のいずれかに記載の薬剤を体内投与することを含む、脳神経疾患の治療方法。
【請求項10】
骨髄細胞が患者の自家細胞である、請求項9に記載の治療方法。
【請求項11】
脳神経疾患が脳梗塞である、請求項9または10に記載の治療方法。
【請求項12】
体内投与が静脈内投与である、請求項9〜11のいずれかに記載の治療方法。
【請求項13】
間葉系細胞が骨髄細胞、臍帯血細胞、または末梢血細胞である、請求項9〜12のいずれかに記載の治療方法。

【国際公開番号】WO2005/007176
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【発行日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511811(P2005−511811)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009386
【国際出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(502455393)株式会社レノメディクス研究所 (5)
【出願人】(399106192)三井住友海上火災保険株式会社 (19)
【出願人】(000002990)あすか製薬株式会社 (39)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】