説明

間質性肺線維症で使用するための局所活性ステロイド

本発明は、別の方法では局所投与で治療するのが困難な炎症状態を治療するためのコルチコステロイド又はその代謝産物の送達方法を取り上げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間質性肺疾患及びそれに関連する治療の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
間質性肺疾患(ILD)は、各種の慢性肺障害を包含する包括的用語である。人がILDを有する場合、肺は、3つの過程で冒される。最初に、肺組織はいくつかの周知の又は未知の過程で傷害される。次に、肺中の肺胞壁が炎症を起こす。最終的に、間質(又は肺胞間組織)中で瘢痕化(又は線維化)が始まり、肺が硬くなる。
【0003】
運動中の息切れが、これらの疾患の最初の症状の1つであることがある。乾性咳も存在することがある。これらは、多くの人々が無視する一般的な症状である。これらの症状を有する者は、かなりの病苦を感じるまで待った後に受診する可能性がある。異なる種類のILDを有する人々が、同種の症状を有する可能性があるが、彼らの症状は、重症度を異にし得る。彼らの胸部X線は、似ていることもある。ある人が有するILDの具体的種類を同定するために、さらなる検査を勧められるのが通常である。ILDには、原因が知られているものも、不明であるものもある(特発性)。
【0004】
ILDは、線維症(瘢痕化)によって影響される組織が間質なので、その間質にちなんで命名されている。ILDは、時には「間質性肺線維症」としても知られる。間質性肺疾患、肺線維症及び間質性肺線維症という用語は、同一の状態を記述するのに使用されることが多く、本明細書中では互換的に使用される。
【0005】
これらの疾患の経過は予測できない。それらの疾患が進行すると、肺組織は、肥厚化し、硬くなる。次いで、呼吸の仕事が、より困難できつくなる。疾患の中には、炎症が生じた場合に治療すると、薬物療法で改善するものもある。治療の一部として酸素療法を必要とする人々もいる。疾患は、緩やかな経過又は急速な経過をたどる可能性がある。ILDを有する人々は、極めて穏やかなものから中程度、極めて重症なものまでの症状の変化に気づくことができる。彼らの状態は、長期間同じままであることもあり、或いは、急速に変化することもある。
【0006】
これらの疾患の進行及び症状は、人によって異なる可能性があるが、ILDの多くの形態の間には1つの共通の関連が存在する。それらは、すべて、炎症から始まる。炎症は、肺の種々の部分に、例えば、細気管支の壁(細気管支炎)、肺胞の壁及び気腔(肺胞炎)、小血管(血管炎)に影響を及ぼす可能性がある。
【0007】
肺のこれらの部分の炎症は、治ることもあれば、肺組織の永続的瘢痕化に至ることもある。肺組織の瘢痕化が起こると、その状態は肺線維症と呼ばれる。
【0008】
肺組織の線維症又は瘢痕化は、その組織の酸素輸送能力の永続的低下をもたらす。ある人が経験する障害のレベルは、組織瘢痕化の量に依存する。これは、肺胞、並びに肺胞と肺毛細血管との間の及びそれらの周辺の肺組織が、瘢痕組織の形成によって破壊されるためである。
【0009】
次のものを含む、肺線維症のいくつかの原因が知られている。
【0010】
感染症:これらには、サイトメガロウイルスなどのウイルス感染症(障害された免疫系を有する人々にとって特有の問題)、肺炎を含む細菌感染症、ヒストプラズマ症などの真菌感染症、及び寄生虫感染症。
【0011】
職業及び環境因子:いくつかの毒素又は汚染物質への長期暴露は、深刻な肺傷害をもたらすことがある。シリカ粉塵(珪肺症)、アスベスト繊維(石綿肺症)、又は硬質金属粉塵を日常的に吸入する労働者は、特に、肺疾患を悪化させる危険にさらされている。一定の化学煙霧(例えば、硫酸)及びアンモニア又は塩素ガスに暴露される人々がそうである。しかし、それらの多くが有機物である広範な範囲の物質への慢性暴露も、人々の肺を傷害することがある。これらの中には、穀物粉塵、サトウキビ、並びに鳥及び動物の糞がある。カビの生えた干草などのその他の物質は、それらが肺内で過敏反応(過敏性肺臓炎)を引き起こすと、問題であることもある。維持管理が不十分な加湿器及び温水浴槽中での細菌又は真菌の異常増殖でさえ、肺の傷害を引き起こすことがある。
【0012】
放射線:わずかな比率ではあるが、肺又は乳癌のための放射線療法を受けている人々は、最初の治療の数ヶ月後(時には、数年後)に肺傷害の徴候を示す。傷害の重症度は、肺のどれほど多くが放射線に暴露されるか、投与される放射線の総量、化学療法も使用されるかどうか、及び基礎をなす肺疾患の存否に依存する。
【0013】
薬物:ほぼ50種の薬物、特に、化学療法薬、心不整脈及びその他の心血管問題を治療するのに使用される薬剤、特定の精神系薬剤、並びにいくつかの抗生物質は、肺の間質を傷害することがある。
【0014】
その他の医学的状態:ILDは、他の障害を伴って生じることがある。多くの場合、それらの状態は、肺を直接的には攻撃しないが、代わりに、身体中のいたるところで組織に影響を及ぼす全身性過程を包含する。これらの中には、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、皮膚筋炎、多発性筋炎、シェーグレン症候群、及びサルコイドーシスを含む、結合組織障害及び血液疾患がある。
【0015】
特発性肺線維症:医師は、いくらかの人々ではILDを発症する理由を判断できるが、ほとんどの症例において、原因は不明である。既知の原因を有さない障害は、ILDの部分集合と見なされ、特発性肺線維症又は特発性ILDの標識の下に一緒に分類される。特発性疾患は、共通にいくつかの特徴を有するが、それぞれは、また、特有の特徴を有する。
【0016】
通常の間質性肺臓炎は、最も広く見受けられる特発性ILDである。それは、すべての症例の過半を占めて、一般的であり、用語「通常型間質性肺臓炎」及び「特発性肺線維症」が、互換的に使用されることが多い。通常型間質性肺臓炎はパッチ状に発症するので、肺のいくつかの領域は正常であり、別の領域は炎症を起こし、さらに他の領域は瘢痕組織によって特徴付けられる。該疾患は、女子の2倍の男子に影響を及ぼし、通常的には、40〜70歳で発症する。
【0017】
名称はほとんど同じであるが、肺臓炎は、肺炎と同一ではない。肺臓炎は、感染を伴わない肺の炎症であり、肺炎は、感染に由来する肺の炎症である。加えて、肺炎は、一般に、肺の1つ又は2つの領域に限定されるが、肺臓炎は、5つのすべての肺葉−左肺の2つ及び右肺の3つ−に影響を与える。
【0018】
他のより一般的ではない種類の特発性肺線維症には、非特異的間質性肺臓炎、器質化肺炎を伴う閉塞性細気管支炎(BOOP)、呼吸細気管支炎関連性ILD、剥離性間質性肺臓炎、リンパ球性間質性肺臓炎、急性間質性肺臓炎、及び気管支肺異形成症が含まれる。
【0019】
息切れが、特発性肺線維症の主要症状である。これは、多くの種類の肺疾患の症状であるので、正しい診断を下すことが困難であることもある。息切れは、初期には、運動中に発生する。次いで、その状態は、いかなる作業も不可能である段階まで進行することがある。
【0020】
その他の症状としては、乾性咳(痰を伴わない)を挙げることができる。疾患が、重症で、且つ長期にわたると、脚の腫脹を伴う心不全が発生することもある。
【0021】
極めて注意深い患者の履歴が、特発性肺線維症を診断するための重要なツールである。履歴には、環境及び職業因子、趣味、合法及び非合法薬物の使用、関節炎、及び免疫系に影響を及ぼす疾患に関する危険因子が含まれる。理学的検査、胸部X線、肺機能検査、及び血液検査が重要である。
【0022】
下気道由来の細胞の取り出し及び調査を可能にする検査である気管支肺胞洗浄(BAL)を利用して、特発性肺線維症を診断することができる。この検査は、肺組織中の炎症を同定するのを助け、さらに患者の症状の原因としての感染及び悪性腫瘍(癌)を除外するのを助ける。該検査は、肺の特殊調査である気管支鏡検査中に行われる。
【0023】
肺生験も、気管支鏡検査中に、又は医師が研究用に肺組織のサンプルを取り出す外科的処置としてのどちらかで実施することができる。この処置は、特発性肺線維症の診断のために通常的に必要とされる。
【0024】
特発性肺線維症のためのその他の診断検査には、数例を挙げれば、血液検査、肺機能検査、胸部X線、及びCTスキャンが含まれる。
【0025】
ILD及び関連する状態で使用するために、次のものを含むいくつかの異なる治療措置が存在する:
【0026】
肺移植:これは、他の治療選択肢から利益を得られそうにない重症形態のILDを有する若年者のための選択肢であり得る。移植が考慮されるためには、喫煙しているなら禁煙に同意し、手術及び移植後治療を受けるのに十分な健康状態であり、リハビリ及び移植チームによって略述される医療計画に同意し従うことができ、且つ供与者の臓器を待つことに耐えるための忍耐、感情的強さ、及び支援を有さなければならない。供与者の臓器は不足しているので、最後の事項が特に重要である。一般に、ILDを有する人々において、片肺移植は、両肺移植よりも成功的である。そして、肺移植を受けた多くの人々は良好な生活の質を享受するが、生存率は、他の種類の移植の場合よりも低い。加えて、拒絶反応抑制薬の終生にわたる投与による、感染症への感染性の増大、高血圧、糖尿病及び癌に関わる生活の質の問題点が存在する。
【0027】
酸素療法:酸素は、肺の傷害を止めることはできないが、呼吸及び運動をより楽にし、低い血中酸素濃度に由来する合併症を予防又は少なくし、且つ睡眠及び苦しむ患者にとっての安寧感を改善することができる。それは、心臓右側での血圧を低下させることもできる。ILDを有する子供は、特に、酸素療法を必要とする可能性が高い。
【0028】
細胞障害性薬物:移植後の臓器拒絶反応を予防するのに通常的に使用されるアザチオプリン、及び抗癌薬シクロホスファミドは、炎症を抑制することによってILDを治療するのに使用することができる。該薬物は、コルチコステロイドが症状を改善しない場合に、又はさらにはコルチコステロイドと併用した一次治療として処方される。細胞障害性薬物は、赤血球の産生低下、皮膚癌、及びリンパ腫を含む深刻な副作用を引き起こすことがある。
【0029】
抗線維化薬:これらの薬物は、瘢痕組織の発生を低減するのを助けるために使用される。臨床研究において、これらの薬物は、免疫系を抑制することなしに肺傷害の進行を減速する徴候を示したが、現実の結果は、失望させるものであった。
【0030】
全身性コルチコステロイド薬:プレドニゾン又はメチルプレドニゾロンなどの全身性抗炎症薬は、最上の初期治療であるが、それらは、ILDを有する5名中の約1名を助けるにすぎない。最も利益を得られそうな人々は、彼らの肺に非特発性障害及び可逆的変化を有する。全身性コルチコステロイドは、特発性肺線維症を有する人々の肺機能をあまり改善しない。利益が示されても、それらの利益は、本質的に一時的であるのが通常である。一般に、コルチコステロイドの投与は、症状が改善するまで数ヶ月間継続され、改善された時点で投与を漸減する。症状が再発したら、さらなるステロイド療法、又はアザチオプリンなどの免疫抑制薬が、推奨されることもある。長期間又は大量投薬量で服用すると、全身性コルチコステロイドは、緑内障、骨減少、糖尿病につながる高い血糖濃度、不十分な創傷治癒、及び感染症への感染性の増大を含む、いくつかの副作用を引き起こすことがある。コルチコステロイドを投与して、IPFを有する若干の人々に存在する炎症を治療することができる。多くの形態の肺線維症に関するこの治療の成功は、一定せず、なお研究中である。コルチコステロイドが疾患を逆転するのに有効でないことが明白であるなら、他の薬物が臨時的に使用される。最初に診断が確立されると、コルチコステロイドを他の薬物と併用して使用する医師もいるであろう。どの薬物治療計画が有効であるか、及び該薬物をどれぐらい長期に使用するかは、現在の研究の重点である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
同種間造血細胞移植(HCT)後の肺合併症は、相変わらず罹病率及び死亡率の主要原因である。毎年実施される推定で50,000〜60,000例の造血細胞移植(www.ibmtr.org)の中で、移植受容者のおよそ30%〜60%が肺合併症を経験する(Cordonnier C.ら、Cancer、1986;58:1047〜1054;Jules−Elysee Kら、Am Rev Respir,Dis 1992;146:485〜491)。この分野では、ILD及び関連する状態の進行に立ち向かうための治療選択肢を開発する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明は、経口剤形のジプロピオン酸ベクロメタゾン(BDP)を投与し、肺循環をBDPの代謝産物である17−モノプロピオン酸ベクロメタゾンに暴露することによってILDを治療する新規な手法を提供する。
【0033】
一態様において、本発明は、対象に経口投与量のコルチコステロイドを投与することによって対象の肺動脈にコルチコステロイド又はその代謝産物を送達する方法を提供する。一実施形態において、コルチコステロイドはBDPであり、代謝産物は17−BMPである。別法として、本発明は、炎症系を緩和するのに使用される任意のコルチコステロイド投与並びにその代謝産物を包含する。
【0034】
別の態様において、本発明は、ILDに由来する傷害を治療するための、17−BMPを含有する医薬組成物を提供する。
【0035】
別の態様において、本発明は、ILDに由来する傷害を予防、改善及び/又は治療するための方法を提供し、該方法は、経口投与されたコルチコステロイドの代謝産物を対象の肺動脈に送達することを含む。
【0036】
さらに別の態様において、本発明は、薬剤の肺組織への送達を増大させる方法を提供する。
【0037】
本発明は、局所活性コルチコステロイドを経口投与すると、肺に送達される活性薬物の量が、吸入経路を介して送達される活性薬物の量の4〜8倍になるという発見に基づく。それゆえ、通常的には全身性コルチコステロイドに帰せられる副作用は、活性薬物を肺動脈に送達し、また肺内での組織の炎症を抑制しながらこのような薬物を体循環から急速に排除することによって、最小化される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】治療無作為化後の非感染性肺合併症の累積発生率を描いた図である。垂直の断続線は、治療無作為化の200日後を示す。治療無作為化後の200日目に先立って、BDPで治療された患者の間に非感染性肺合併症の症例は発生しなかった。
【図2】治療無作為化後の肺感染症の累積発生率を描いた図である。垂直の断続線は、治療無作為化の200日後を示す。無作為化の200日後又は1年後の時点で2つの治療群間に肺感染症の危険に関して統計的有意差は存在しなかった。
【発明を実施するための形態】
【0039】
定義
用語「有効量」は、本明細書中で使用される場合、患者へ単回又は多回投与で経口投与すると、炎症によって引き起こされる又は炎症に関連する肺の構造に対する傷害を予防、改善及び/又は治療するのに有効である局所活性コルチコステロイドの量を指す。
【0040】
用語「予防する、改善する及び/又は治療する」は、本明細書中で使用される場合、経口コルチコステロイドを投与しない場合に発生したであろう傷害と比較して、続いて起こる傷害を低減又は排除することを、及び傷害が発生した後に経口コルチコステロイドを投与する症例において、このような傷害を低減又は排除することを指す。
【0041】
用語「傷害」は、本明細書中で使用される場合、正常な構造又は機能のなんらかの変化を指す。
【0042】
「内膜」とは、表面を覆い、又は空洞などを内張りし、且つ保護、遮蔽及び/又はその他の機能を果たす任意の生物学的材料を意味する。
【0043】
「局所的活性のある」又は「局所活性のある」は、化合物が、薬物が存在する部位に近い組織を通してその重要な薬理学的作用を示すことを意味する。局所活性コルチコステロイド(TAC)の場合には、限定された吸収、肝臓及び/又は消化管による初回通過代謝、腸肝再循環、タンパク質結合、或いは体循環からの急速な排除、並びにこれらの任意の組合せのいずれかにより、全身暴露は限定される。
【0044】
「体循環」とは、肺循環に対して解剖学的に遠位である循環部分、又は左心室から大動脈、動脈、細動脈、毛細管、及び静脈系への流出をもたらす循環を意味し、その循環中で、薬物の定常状態濃度が達成されている。
【0045】
「医薬として許容し得る担体又は賦形剤」とは、組成物中の他の成分と適合性があり、且つ患者に対して有害でない担体又は賦形剤を意味する。
【0046】
用語「有効量」は、研究者又は臨床医によって求められている、組織、系、動物又はヒトの生物学的又は医学的応答を誘発する薬物又は医薬の量を意味する。
【0047】
用語「治療上有効な量」は、このような量を受け入れていない類似の対象と比較して、疾患又は障害の治療、治癒、予防又は改善の向上をもたらす、或いは疾患又は障害の進行速度を低下させる任意の量を意味し、正常な生理学的機能を高めるのに有効な量も包含する。
【0048】
本発明の実施において、記載のTACは、錠剤、カプセル剤(それぞれ、時限放出及び維持放出製剤を包含する)、丸剤、散剤、顆粒剤、エリキシル剤、チンキ剤、懸濁剤、シロップ剤、及び乳剤などのバッカル及び舌下剤形で投与することができる。
【0049】
本発明の化合物を利用する投与措置は、患者の種類、種、年齢、体重、性別、及び医学的状態;治療すべき状態の重症度;投与経路;患者の腎及び肝機能;及び採用される個々の化合物又はその塩を含む、各種の因子に従って選択される。通常的に熟練した医師は、腸炎及び/又は粘膜病の状態に立ち向かうのに要求される薬物の有効量を容易に決定し、処方することができる。
【0050】
本発明の実施において、経口投与量は、指摘された効果のために使用される場合、1日につき約0.01〜約100mg/kg体重、特に、1日につき約0.1〜10mg/kg体重の範囲のTACである。経口投与単位は、一般に、0.1〜約250mg、より好ましくは約1〜約16mgの範囲で投与される。70kgのヒトの1日当たり投与量は1mg〜16mgである。
【0051】
本発明の投与計画は、送達される親TAC(すなわち、BDP)は、体循環中に少しも見出すことはできないが、代謝産物(すなわち、17−BMP)の20〜40%が体循環に到達するという考えに基づく。したがって、親化合物の投与を増やすことは、体循環に対して負荷をもたらさないが、肺循環中の活性代謝産物を増加させると考えられる。
【0052】
本発明の方法において、本明細書中で詳細に説明される化合物は、活性成分を構成することができ、典型的には、意図した投与形態、すなわち、経口錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、シロップ剤などに配慮して適切に選択され、且つ通常的な薬学上の実践と矛盾しない適切な医薬用希釈剤、賦形剤又は担体(本明細書では、集合的に「担体」材料と呼ばれる)との混合物の状態で投与される。
【0053】
例えば、錠剤又はカプセル剤の形態での経口投与の場合、活性薬物成分は、エタノール、グリセロール、水などの、経口用の非毒性の医薬として許容し得る非活性担体と組み合わせることができる。散剤は、化合物を適切な微細な大きさにすること、及び同様に粉砕された例えばデンプン又はマンニトールのような食用炭水化物などの医薬用担体と混合することによって調製される。着香料、保存剤、分散剤及び着色剤が存在することもできる。
【0054】
カプセル剤は、上述のような散剤混合物を調製し、形成されたゼラチン被覆に充填することによって作製される。充填操作の前に、散剤混合物にコロイド状シリカ、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム又は固体状ポリエチレングリコールなどの流動促進剤及び滑沢剤を添加することができる。寒天、炭酸カルシウム又は炭酸ナトリウムなどの崩壊又は可溶化剤を添加して、カプセル剤が消化された場合の薬剤のアベイラビリティーを向上させることもできる。
【0055】
TACに加えて、許容し得る担体及び/又は希釈剤を採用することができ、それらは当業者にとって周知である。丸剤、カプセル剤、微小球、顆粒剤又は錠剤の形態の製剤は、1種又は複数のTACに加えて、希釈剤、分散及び界面活性剤、結合剤、並びに滑沢剤を含有することができる。当業者は、さらに、適切な方式で、且つ参照により本明細書中に組み込まれるRemington’s Pharmaceutical Sciences(Gennaro編、Mack Publishing Co.、イーストン、ペンシルヴェニア州、1990年)中に開示されているような許容された実践に従って、TACを製剤することができる。さらに、所望又は必要なら、混合物中に、適切な結合剤、滑沢剤、崩壊剤、及び着色剤を組み込むこともできる。適切な結合剤には、デンプン、ゼラチン、天然の糖類(ブドウ糖又はβ−乳糖など)、コーン甘味料、天然及び合成のゴム(アラビアゴム、トラガカントゴム又はアルギン酸ナトリウムなど)、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックスなどが含まれる。これらの剤形中で使用される滑沢剤には、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが含まれる。崩壊剤には、限定はされないが、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンゴムなどが含まれる。錠剤は、例えば、散剤混合物を調製し、顆粒化又はスラグ化し、滑沢剤及び崩壊剤を添加し、圧縮して錠剤にすることによって製剤される。散剤混合物は、適切に粉砕された化合物を上記のような希釈剤又は基剤と、場合によってはカルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン又はポリビニルピロリドンなどの結合剤、パラフィンなどの溶解遅延剤、第4級塩などの再吸収加速剤、及び/又はベントナイト、カオリン又はリン酸二カルシウムなどの吸収剤と混合することによって調製される。散剤混合物は、シロップ剤、デンプンペースト、アラビアゴム糊、又はセルロース系若しくはポリマー材料の溶液などの結合剤を用いて湿潤化することによって、また強制的に網を通すことによって顆粒化することができる。顆粒化のための別法として、散剤混合物を、打錠機に通すことができ、生じるものは、顆粒に破壊される不完全に形成されたスラグである。顆粒剤は、錠剤形成用金型への固着を防止するために、ステアリン酸、ステアリン酸塩、タルク、又はミネラルオイルを添加することによって滑沢化することができる。次いで、滑沢化された混合物を圧縮して錠剤とする。本発明の化合物は、また、自由流動性の不活性担体と組み合わせ、顆粒化又はスラグ化段階を経由しないで直接的に圧縮して錠剤にすることもできる。密封用被覆のセラックからなる透明又は不透明保護被覆、糖又はポリマー材料の被覆、及びワックスの光沢性被覆を提供することができる。これらの被覆に染料を添加して、種々の単位剤形を区別することができる。
【0056】
溶液シロップ剤及びエリキシル剤などの経口用流体は、所定の量が、所定の量の化合物を含むような単位剤形で調製することができる。シロップ剤は、化合物を適切に着香された水性溶液中に溶解することによって調製することができ、エリキシル剤は、非毒性のアルコール性ビヒクルを使用することによって調製される。懸濁剤は、化合物を非毒性ビヒクル中に分散させることによって製剤できる。エトキシル化イソステアリルアルコール及びポリオキシエチレンソルビトールエーテルなどの可溶化剤及び乳化剤、保存剤、ペパーミントオイルなどの着香用添加剤、或いは天然甘味料又はサッカリン若しくはその他の人工甘味料などを添加することもできる。
【0057】
適切なら、経口投与のための単位投与製剤は、マイクロカプセル化することができる。製剤は、例えば、粒子状材料を被覆することによって又はポリマー、ワックスなどの中に包埋することによって、放出を延長又は維持するように調製することもできる。
【0058】
本発明により使用するための化合物は、また、小さな単層小胞、大きな単層小胞、及び複層小胞などのリポソーム送達系の形態で投与できる。リポソームは、コレステロール、ステアリルアミン又はホスファチジルコリンなどの各種リン脂質から形成することができる。
【0059】
化合物は、賦形剤又は薬物担体などの可溶性ポリマーと共投与することもできる。このようなポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、ピランコポリマー、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミドフェノール、ポリヒドロキシエチルアスパルタミドフェノール、又はパルミトイル残基で置換されたポリエチレンオキシドポリリシンが挙げられる。さらに、化合物を、薬物の制御放出を達成するのに有用である部類の生分解性ポリマー、例えば、ポリ乳酸、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリジヒドロピラン、ポリシアノアクリレート、及びヒドロゲルの架橋又は両親媒性ブロックコポリマーに連結することができる。
【0060】
別法として、計量済みの化合物をバイアル瓶に入れ、バイアル瓶及びその内容物を、滅菌し、密封する。投与に先立つ混合のために、付随のバイアル瓶又はビヒクルを準備することができる。非毒性塩及び塩溶液を添加して、注射液に等張性を付与できる。安定剤、保存剤及び乳化剤を添加することもできる。
【0061】
本発明の組成物中で使用するための好ましい薬物は、BDP、及びその代謝産物である17−BMPである。しかし、本発明は、それらに限定されるものではなく、局所活性があり、且つ炎症性間質性肺疾患を効果的に治療するために親薬物又は活性代謝産物のどちらかとして肺動脈に送達される任意のコルチコステロイド薬に関する。代表的なTACには、限定はされないが、17,21−ジプロピオン酸ベクロメタゾン、ジプロピオン酸アルクロメタゾン、ブデソニド、22Sブデソニド、22Rブデソニド、17−モノプロピオン酸ベクロメタゾン、プロピオン酸クロベタソール、二酢酸ジフロラゾン、フルニソリド、フルランドレノリド、プロピオン酸フルチカゾン、プロピオン酸ハロベタゾール、ハルシノシド、フランカルボン酸モメタゾン、及びトリアムシノロンアセトニドが含まれる。本発明を実施する際に有用な適切なTACは、次の特徴:腸及び肝臓における急速な初回通過代謝、低い全身性バイオアベイラビリティー、高い局所活性、肺動脈への活性薬物の送達、及び急速な排泄を有する任意のTACである(例えば、参照により本明細書に組み込まれるThiesenら、Alimentary Pharmacology & Therapeutics10:487〜496、1996を参照されたい)。
【0062】
好ましい薬物は、その極めて高い局所的抗炎症活性、及び肺動脈に送達される強力な代謝産物(17−BMP)の腸管内産生のために、BDPである。それゆえ、BDPは、本発明の組成物中で極めて小さな用量で効果的に使用することができ、体循環に任意の有意な程度まで入ることはない。加えて、BDPの代謝産物である17−BMPは、親化合物の経口投与を介して利用できる。その他のコルチコステロイド薬(ブデソニドなど)も使用される。BDPは、Schering−Plough社(Kenilworth、ニュージャージー州)などのいくつかの商業的供給源から大きな結晶形態で入手可能な化合物であり、次の構造(すなわち、17,21−ジプロピオン酸ベクロメタゾン)を有する:
【化1】

【0063】
患者は、治療上許容し得る量のTACを経口投与によって服用する。適切なカプセル剤又はピルは、一般に、0.1mg〜8mgのTACを、典型的には約1mgのTACを、乳糖などの任意選択の増量剤を加えて含有し、酢酸フタル酸セルロースなどの各種材料で被覆されていてもよい。このような量は、周知の用量−反応研究によって当業者が容易に決定することができ、一般には、約0.1mg/日〜8mg/日、より典型的には4mg/日〜8mg/日の範囲であり、或いはこの特定の適応症ではより多く使用される。
【0064】
本明細書中で、本発明の特定の実施形態を、例示の目的で説明してきたが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく各種の修正をなし得ることを認識されたい。
【0065】
BDPは、経口で服用された場合に、腸管腔及び粘膜中で、相当より強力なグルココルチコイド代謝産物である17−BMPに代謝されるグルココルチコイドである。正常なヒト志願者での研究は、親化合物(BDP)は、体循環中に少しも見出すことができないが、体循環に到達する経口薬物の20〜40%は、17−BMPとして到達することが立証された(Daley−Yatesら)。次いで、17−BMPは、循環から急速に排除される。17−BMPが循環に到達する経路は、次の通りである:腸内での形成に続いて、17−BMPは、門脈循環を介して肝臓へ、次いで肝静脈、次いで右心房及び右心室へ、次いで肺動脈、肺静脈、次いで左心房、左心室及び大動脈へ進む。肺循環を高度に強力な免疫抑制性グルココルチコイドである17−BMPに暴露することは、肺の炎症性及び線維炎症性疾患、特に肺間質に影響を与える疾患を、グルココルチコイドのプロドラッグBDPの経口送達によって効果的且つ安全に治療できるという考えのための基盤である。吸入されたBDPは、炎症性の基盤を有する反応性気道疾患、例えば、喘息、及び慢性気管支炎を伴う慢性閉塞性肺疾患を治療する上で有効であるが、吸入されたBDP製剤は、吸入された薬物の多くが気管支、より小さな気道、及び肺胞に到達するので、間質空間に比較的少量の17−BMPを送達する。
【0066】
プレドニゾン療法は、反応性気道疾患及びいくつかの種類のILDを治療するのに有効であるが、全身毒性によって制約される。プレドニゾンの全身毒性を回避できるような肺へのグルココルチコイドの送達を可能にするために、局所活性のある吸入性BDPが開発された。
【0067】
肺障害の人に吸入を介してBDPを与える場合、BDPの総1日量は最大400μg(0.4mg)である。肺中でBDPは17−BMPに代謝されるが、肺に到達する17−BMPの最大1日量は0.4mgに制約される。対照的に、1日量8mgの経口BDPを与え、その量の20〜40%が17−BMPとして肺動脈に送達されると、肺に送達される17−BMPの総1日量は、1.6〜3.2mgであり、肺に送達される薬物量が吸入経路の4〜8倍である。
【0068】
2箇所の多施設、無作為化、プラセボ対照、二重盲検治験を実施して、経口でのジプロピオン酸ベクロメタゾン(BDP)が、胃腸移植片対宿主病(GVHD)の治療に対して有効な療法であるかどうかを調べた(MacDonald GBら、Gastroenterology、1998;115:28〜35;Hockenbery DMら、Blood、2007;109:4557〜4563)。これらの研究の結果は、経口BDPが、胃腸GVHDを治療するのに有効であり、全身性コルチコステロイド療法の急速漸減及びより少ない使用を可能にし、無作為化の1年後の時点で死亡リスクの45%の低減をもたらすことを示している。これらの利益に加えて、最近の治験は、また、BDP治療が、より少ない、サイトメガロウイルスの再活性化(28%対39%)、真菌感染症(7%対14%)、及び多発性菌血症状の発現(0%対9%)と関連していることも明らかにした(Hockenbery DMら、Blood、2007;109:4557〜4563)。
【0069】
肺疾患の集団にとって興味のあることは、80日の研究期間中に、プラセボアーム上の67名の患者中の12名(18%)が肺の非感染性浸潤性傷害を発症したのに比較して、BDP治療アームの患者では62名中0名であった(17)。この最初の観察に基づき、経口BDPは、肺機能を保存し、且つ同種HCT後の初期の非感染性肺合併症の発症を予防するのに有効である可能性があると考えられた。この仮説を検定するために、これらの2つの無作為化治験に参加したすべての患者からの、医療記録の遡及的再検討及び将来を見越した肺機能検査(PFT)結果の収集が存在した。
【0070】
これらの結果は、HCT後の肺機能を保護するだけではなくHCT後の早期に発生するほとんど一様に致命的な非感染性肺合併症の予防で有用である可能性のある治療戦略を立証する無作為化治験データに関する文献中の最初の報告になる。経口BDPを受け入れるために無作為化された患者において、プラセボに比較して、肺拡散能の統計的に有意な保存、及び非感染性肺合併症のより少ない症状発現が存在した。経口BDPに関する2つの無作為化、プラセボ対照治験のそれぞれにおける主たる目的は肺疾患の結果を評価することではなかったが、これらの発見は、BDPに対して無作為化された群におけるより好ましい結果を示唆する治験の死亡率の結果と一致している。これらの治験は、この局所活性グルココルチコイドが、全身性プレドニゾン暴露を最小化しながら胃腸GVHDの徴候及び症状を制御する能力を評価した。双方の治験において、GVHD治療の失敗頻度は、プラセボに比較して、BDPに対して無作為化された患者間で、治療期間の終末時点で及び経過観察後に有意に低下した。これらの結果は、また、同種HCTの直後における特発性肺損傷の病態生理学及び経口BDP及びその強力な代謝産物である17−BMPの薬理学に関して周知であるものと一致している。
【0071】
同種HCT後の最初の120日間において報告されたIPSの発生率は、3〜15%であり、より低い発生率は、低減された強度の前処置レジメンの使用と関連して報告された。呼吸機能不全は、概して一般的であり、通常的には急速に始まり、死亡率は一様に高く、機械的換気を必要とする患者の場合、60%〜95%超の範囲である。全身照射による前処置、急性GVHD、及び受容者の高齢を含む少数の臨床的危険因子が、以前の研究で一貫して確認されたが、同種HCT後の肺損傷についてのマウスモデルからの蓄積証拠は、炎症が、IPSの病因論において重要な役割を果たすことを強力に示唆している。マウスでのこれらの研究のいくつかは、IPSの発症におけるTNF−αに関する原因となる役割を確立し、TNF−α結合性タンパク質(rhTNFR:Fc)の投与は、HCT後の4〜6週間の間、肺損傷の進行を低減する。他の研究は、また、前処置及び急性GVHDによって傷害された消化間粘膜を横切って移動することによって移植期間後の早期に体循環に入り込むことの多いリポ多糖(LPS)が、肺損傷をもたらす肺中で重要な炎症性サイトカイン環境をもたらす可能性があることを示唆した。(Cooke KRら、J Clin Invest、1998;102:1882〜1891)。集合的に、これらのデータは、肺内での圧倒的な炎症が、HCT後の早期非感染性肺合併症の発病において重要な役割を果たすらしいという強力な証拠を提供する。これらの研究は、肺に対する炎症及び免疫エフェクター細胞のケモカインで駆動される増加、オキシダント及び炎症促進性サイトカインの放出、並びに同種移植の場合における同種抗原反応性Tリンパ球で仲介される第二波の損傷を含む一連の事象が、IPSの発症につながる可能性があることを示している。
【0072】
本明細書に記載の無作為化治験中で使用される経口BDPの製剤には、胃及び上部小腸にBDPを分配するための胃放出性ピル、及び遠位小腸及び結腸に分配するための腸溶性被覆型ピルが含まれていた。右心臓からの血液中での17−BMPの存在は、本発明者らのデータによって立証されるように、BDPの胃腸粘膜での加水分解の産物である17−BMPが、胃腸管中でおそらくは吸収され、門脈循環を介して右心臓に入り込んだことを示唆している。HCTの状況において、本発明者らは、17−BMPの肺循環中への、及び最終的には臨床的に検出可能な疾患の開始に先立つ間質空間への定常送達が、肺の炎症を低減する原因であり、無作為化後の最初の200日以内の肺拡散能の保存によって、及び非感染性肺浸潤の不在によって反映されたと推測する。
【0073】
これらの非感染性肺合併症のための先制薬剤として経口BDPを考慮することは、いくつかの利点を有する可能性がある。BDP自体は、比較的弱い免疫抑制性グルココルチコイドであるが、その活性代謝産物である17−BMPは、高度に強力なグルココルチコイドである。蒼白化(血管収縮)の程度が抗炎症活性を示すと解釈されたヒト皮膚の血管収縮モデルにおいて、17−BMPは、Azmacort吸入エーロゾル(Kos Pharmaceuticals)中の活性成分であるトリアムシノロン−16,17−アセトニドに比べて3.6倍より強力であり、デキサメタゾンに比べて450倍より強力であった(Harris DMら、J Steroid Biochem、1975;6:711〜716)。
【0074】
17−BMPは、また、グルココルチコイド受容体−α活性に関してさらにより強力である。デキサメタゾンに対する親和性値を任意に100に設定し、他のコルチコステロイドの親和性値を、それらの放射性標識化されたデキサメタゾンの特異的結合の低下に基づいて計算する競合結合アッセイにおいて、17−BMPの結合親和性は、デキサメタゾンのおよそ13倍強力であった(相対的結合親和性は、BDP:43、:17−BMP:1345)(Wurthwein Gら、Biopharm Drug Dispos、1990;11:381〜394)。最終的に、BMP及びその代謝産物の相対的バイオアベイラビリティーは、より一般的に使用されるコルチコステロイドと比較してより低い。12名の健康な対象に対して経口及び静脈内でBDPを与えた経口BDPのバイオアベイラビリティー研究において、BDPは、経口投与後の血漿中で検出されなかった。しかし、活性な代謝産物である17−BMPの経口での総バイオアベイラビリティーは、21〜41%(未公表データ)であった。17−BMPへの全身暴露は、そのタンパク質結合及びクリアランスによって制約され、その結果、2mgの経口BDPは、2.5mgの経口プレドニゾン又は1mg未満の静脈内デキサメタゾンの投与計画に相当する全身暴露を与える。
【実施例】
【0075】
(実施例I):経口のジプロピオン酸ベクロメタゾンを用いる肺拡散能の保存
生検で立証された急性の胃腸GVHDを有する患者は、経口BDPピル(4回に分割した投与量で8mg/日、半分は胃放出性製剤として、半分は腸溶性被覆型製剤として)又はプラセボのどちらかに加えた、プレドニゾン(1mg/kg/日を10日間)の導入過程を受け入れた。治験10日目に症状が制御されていた患者は、プレドニゾンの投与量を急速に漸減しながら、治験薬を継続した。症状が追加のプレドニゾンを必要とする患者は、治療失敗と見なされた。治療失敗の日に治験薬を中止した。治験薬での治療継続期間は、1回目の治験では10日間の経過観察期間を伴う30日間、2回目の治験では30日間の経過観察期間を伴う50日間とした。
【0076】
肺機能検査
肺機能の評価には、PFTが行われている時点でのヘモグロビンレベルに対して調整された、努力肺活量(FVC)、1秒努力呼気量(FEV1)、全肺気量(TLC)、及び一酸化炭素拡散能(DLCO)を含めた。すべてのPFT値は、公表された等式により計算された予測値のパーセントとして表現した(Crapo ROら、Am Rev Respir Dis、1981;123:659〜664;Crapo ROら、Am Rev Respir Dis、1981;123:185〜189)。症状の存否にかかわらず、移植前及び80日目のPET値を得た。退院後、患者は、移植の1年後に来診するよう奨励され、その時点で、別のPFT値を得た。本研究の目的の場合、60日目と100日目の間に実施されたPFTは、80日目のPFTとして妥当であり、265日目と465日目の間に実施された検査は、1年目のPFTとして妥当であると考えた。肺機能の変化は、前処置の開始に先立って実施されたPFTパラメーターを、移植後80日目及び1年目の時点で得られたものと比較することによって評価した。肺機能の変化に関する分析は、盲検を維持しながら経口BDP又はプラセボへの無作為割付によって、包括解析基準(intent−to−treat basis)で行われた。
【0077】
60名の患者を経口BDPへ、且つ同数をプラセボへ無作為化した。80日目の1回分のPFTは、プラセボ及びBDPに関してそれぞれ44名及び50名の患者から入手できた。移植の80日目までに拡散能の悪化した患者は、プラセボ(79%)に比較して、BDPへ無作為化された患者において有意により少数(55%)であった、p=0.02。このような差異は、他のPFTパラメーターでは示されなかった(表1参照)。ベースラインから80日目までのPFTの変化の解析には、80日目のPFTに先立って、治験薬での治療の最短5日目に判定基準に合致しなかった8名の患者(プラセボ群の5名、BDP群の3名)を含めなかった。無作為化のための平均時間は、第2相試験ではHCTの33.5日後(19〜105日の範囲)、第3相試験では31日後(16〜89日の範囲)であった。表1及び2に要約される適切な解析に寄与する患者の総数によって示されるように、幾人かの患者は、ベースライン、80日目及び1年目のPFTを欠席した。全般的に見て、大部分の患者は、移植に先立って、正常な予測値に対するパーセントが≧80%として定義される正常な肺機能を有した[FVC 94/114(82%);FEV1 88/114(77%);TLC 105/113(93%);DLCO 84/114(74%)]。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
移植前から移植後80日目までの肺機能の変化を表1に要約する。BDP治療及びプラセボ治療患者において、移植前から移植後80日目までに肺機能の低下(任意の大きさの)を経験した患者の比率は、FVC、FEV1、及びTLCについては類似しており、統計的有意差はなかった。しかし、DLCOの低下を経験した患者の比率については統計的有意差が存在した。BDPで治療された患者での49名中の27名(55%)に比較して、プラセボで治療された患者の中では、42名中の33名(79%)の患者が、移植前から移植後80日目までにDLCOの低下を経験した(p=0.02)。プラセボで治療された患者の間での平均低下は、7.95%(−40%〜+23%の範囲)であり、一方、BDPで治療された患者では、ベースラインから80日目までの平均変化は、実際に0.57%(−74%〜+115%の範囲)増大した(p=0.08)。
【0081】
移植後1年の時点で得られたPFTのさらなる解析は、治療と肺機能低下との統計的に有意な関連をなにも示さなかった。しかし、ベースラインから1年目までのDLCOの低下は、BDP群と比較して、プラセボ群においてより大きかった(プラセボ:データを有する27名の患者の中で15.27%の平均低下;BDP:データを有する32名の患者の中で7.67%の平均低下;p=0.11)。BDP群において、200日後に4件の非感染性事象が発生した(図1;207日目にCOP/BOOP、212日目にIPS、244日目に閉塞性細気管支炎症候群、269日目にDHA)。COP/BOOP及びDAHの症例は、骨髄破壊の前処置の後に発生し、IPS及び閉塞性細気管支炎症候群の症例は、強度を低減した前処置の後に発生した。プラセボ群において、骨髄破壊措置で前処置された患者での閉塞性細気管支炎症候群の症例は、無作為化後の311日目に診断された。無作為化後の最初の年からのすべてのデータを考慮した場合、非感染性合併症を発症する危険は、BDPで治療された患者の間でより低いままであるが、このことは、統計的な有意に到達しなかった(HR=0.70、95%信頼区間[CI]0.19〜2.57、p=0.58)。1年までに肺感染症を発症する総合的危険は、BDP群でより低いが、このことは、統計的に有意ではなかった(HR=0.67(0.27〜1.66、p=0.38))。
【0082】
プラセボで治療された60名の患者の間で、無作為化後の最初の200日以内に4件の非感染性合併症が発生した(図1)。これらの症例は、COP/BOOP(39日目)及びIPS(69、148、168日目)であった。これらの症例のすべては、骨髄破壊の前処置の後に発生した。BDPで治療された60名の患者の間で、無作為化後の最初の200日中に非感染性肺合併症の症例は存在しなかった(図1)。時間対事象終点(time−to−event endpoint)として考慮した場合、無作為化後の最初の200日以内に非感染性合併症を発症する危険は、BDPで治療された患者の間で低減された(ハザード比[HR]=0、p=0.04;正確対数順位検定(exact log rank test)を用いてp=0.06)。
【0083】
これらのデータは、経口BDPが、間質性肺損傷のために移植後の80日目までに一般には発生する肺拡散能の早期下落に対して保護効果を有する可能性があることを示唆している。本発明者らは、拡散能の保存は、強力な免疫抑制性代謝産物である17−BMPのGI粘膜、門脈、及び肺動脈を経由する肺への送達のためであったとの仮説を立てている。
【0084】
(実施例II)造血細胞移植の後の肺疾患の分類
無作為割付に対して盲目としながら、治験責任医師は、無作為化の時点から移植の1年後までに蓄積されたすべての患者の肺の放射線学的記録を再調査した。正常な肺の放射線学的知見を有するすべての患者の医療記録を再調査して、肺疾患が、臨床的に重要な非感染性又は感染性肺症候群であるかどうかを判定した。臨床的に重要な非感染性肺症候群には、HCT後に活動性下気道感染症の不在下で広範に拡大した肺胞損傷として定義される特発性肺炎症候群(IPS)(Freudenberger TDら、Blood、2003;102:3822〜3828)、漸進的により血性の回収液を示す細気管支肺胞洗浄を伴うIPSと定義されるびまん性肺胞出血(DAH)、又は器質化肺炎を伴う閉塞性肺炎(BOOP)としても知られる生検で証明された原因不明の器質化肺炎(COP)を含めた。臨床的に重要な肺感染症は、気管支鏡法、又は免疫抑制薬を付加しない経験的抗生物質療法の後の肺異常の解明を介する気道中の感染病原体の微生物学的裏づけを必要とした。
【0085】
肺感染症の原因を表3に要約する。プラセボで治療された60名の患者の間で、11症例の肺感染症が、無作為化後の初年度中に発生し、その中の5例(45%)は、無作為化後の最初の200日以内に発生した(図2)。BDPで治療された60名の患者の間で、8症例の肺感染症が、無作為化後の初年度中に発生し、その中の6例(75%)は、無作為化後の最初の200日の間に発生した(図2)。時間対事象終点として考慮した場合、肺感染症を発症する危険は、BDPとプラセボとの間で統計的有意差はなかった(HR=1.21(0.37〜3.96、p=0.75))。
【0086】
【表3】

【0087】
(実施例III):右心房からの血液中の17−モノプロピオン酸ベクロメタゾン(17−BMP)の測定
第3相の無作為化治験に登録した4名のFHCRC患者が、BDPの薬物動態の予備解析に参加した。治験50日目の時点で、朝に2mgの経口BDP(胃放出性及び腸溶性被覆型錠剤をそれぞれ1mg)を投与した後、Hickman留置カテーテルを介して頻繁な間隔で右心房から血液を抜き取った。血液サンプルをEDTA上に集め、4℃での遠心分離後に血漿を捕集し、高圧液体クロマトグラフィー及び質量分光光度法を使用して(MDS Pharma Services、Montreal、カナダ)BDP及び17−BMPについて分析するまで、アリコートを−20℃で凍結した。薬物動態パラメーターを、WinNonlin v.2.1(Pharsight Corp、Palo Alto、カリフォルニア州)を使用して計算した。血漿中濃度−時間のデータをプロットし、線形台形公式を使用してノンコンパートメントパラメーターを計算した。半減期の推定値は、回帰分析を使用し、対数濃度−線形時間データのほとんど直線の部分に適切な範囲の時点を指定することによって得られた。
【0088】
右心房血中の17−BMPのピーク濃度は、2mgのBDPを治験50日目の朝に経口投与して1.5時間後の平均時間で達成された。平均Cmaxは、1738pg/mL(632〜3701の範囲)であった。17−BMPに対する定常状態での平均暴露は、AUC0〜4hrで推定すると5347pg.hr/mL(3273〜5201の範囲)であった。17−BMPの平均半減期は、6.3時間(3.1〜6.8の範囲)であった。右心房血中にBDPは検出されなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
局所活性コルチコステロイドを、その代謝産物を対象の肺循環に暴露するのに十分な有効量で経口送達することを含む、間質性肺疾患の治療方法。
【請求項2】
局所活性コルチコステロイドがジプロピオン酸ベクロメタゾンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
代謝産物が17−モノプロピオン酸ベクロメタゾンである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
局所活性コルチコステロイドの有効量が少なくとも8mg/日である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
間質性肺疾患が、特発性肺線維症、非特異的間質性肺臓炎、器質化肺炎を伴う閉塞性細気管支炎、呼吸細気管支炎関連性間質性肺疾患、剥離性間質性肺臓炎、リンパ球性間質性肺臓炎、急性間質性肺臓炎、及び気管支肺異形成症からなる群の少なくとも1つのメンバーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
間質性肺疾患を治療するために、対象にコルチコステロイド又は代謝産物の有効量の経口投与量を投与することによって対象の肺動脈にコルチコステロイド又はその代謝産物を送達する方法。
【請求項7】
局所活性コルチコステロイドがジプロピオン酸ベクロメタゾンである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
代謝産物が17−モノプロピオン酸ベクロメタゾンである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
局所活性コルチコステロイドの有効量が少なくとも8mg/日である、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
間質性肺疾患が、特発性肺線維症、非特異的間質性肺臓炎、器質化肺炎を伴う閉塞性細気管支炎、呼吸細気管支炎関連性間質性肺疾患、剥離性間質性肺臓炎、リンパ球性間質性肺臓炎、急性間質性肺臓炎、及び気管支肺異形成症からなる群の少なくとも1つのメンバーを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
間質性肺疾患に由来する傷害を予防、改善及び/又は治療するための方法であって、経口投与されたコルチコステロイドの代謝産物を、コルチコステロイドが吸入を介して送達された場合の少なくとも5倍を超える用量で対象の肺動脈に送達することを含む上記方法。
【請求項12】
局所活性コルチコステロイドがジプロピオン酸ベクロメタゾンである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
代謝産物が17−モノプロピオン酸ベクロメタゾンである、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
局所活性コルチコステロイドの有効量が少なくとも8mg/日である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
間質性肺疾患が、特発性肺線維症、非特異的間質性肺臓炎、器質化肺炎を伴う閉塞性細気管支炎、呼吸細気管支炎関連性間質性肺疾患、剥離性間質性肺臓炎、リンパ球性間質性肺臓炎、急性間質性肺臓炎、及び気管支肺異形成症からなる群の少なくとも1つのメンバーを含む、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−510931(P2011−510931A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−544465(P2010−544465)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【国際出願番号】PCT/US2009/032015
【国際公開番号】WO2009/094641
【国際公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(510202318)ソリジェニックス、インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】