説明

関節炎の予防又は治療方法

【課題】 患者への負担が少なく、優れた効果を有する関節炎の予防・治療方法の提供。
【解決手段】 2.78×10−9〜2.78×10−7Gy/sの放射線を全身に連続照射することを特徴とする関節炎の予防・治療方法;かかる予防・治療のための放射線の照射方法;並びに2.78×10−9〜2.78×10−7Gy/sの放射線を全身に連続照射することを特徴とするIgG2a、IgM抗体産生抑制方法、IgG2b抗体産生亢進方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節炎の予防・治療方法、放射線の照射方法、IgG2a、IgM抗体産生抑制方法、及びIgG2b抗体産生亢進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関節炎には、関節リウマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎等がある。このうち、例えば、関節リウマチは、手指、足趾、手首の関節の痛みと腫れが数週間から数ヶ月の間に徐々に起こり、病状が進行すると、関節の骨や軟骨が破壊されて関節の変形が生じる。
【0003】
かかる関節炎の治療方法としては、非ステロイド性抗炎症薬、副腎皮質ステロイド剤、免疫抑制剤等の薬物療法、温熱療法、関節可動域体操等の理学療法、滑膜切除手術、人工関節弛緩手術等の手術療法等が挙げられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記治療方法は、患者の肉体的、精神的負担が多い場合や、必ずしも十分な治療効果が得られない場合が多かった。
【0005】
したがって、本発明は、患者への負担が少なく、優れた効果を有する関節炎の予防・治療方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、一定量の放射線を連続照射することにより、関節炎の予防、治療効果が顕著に得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明の第1の発明は、2.78×10−9〜2.78×10−7Gy/sの放射線を全身に連続照射することを特徴とする関節炎の予防・治療方法を提供するものである。
また、本発明の第2の発明は、2.78×10−9〜2.78×10−7Gy/sの放射線を全身に連続照射して関節炎を予防又は治療するための放射線の照射方法を提供するものである。
また、本発明の第3の発明は、2.78×10−9〜2.78×10−7Gy/sの放射線を全身に連続照射することを特徴とするIgG2a、IgM抗体産生抑制方法を提供するものである。
また、本発明の第4の発明は、2.78×10−9〜2.78×10−7Gy/sの放射線を全身に連続照射することを特徴とするIgG2b抗体産生亢進方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法により、患者への肉体的、精神的負担が少なく、かつ高い関節炎の予防・治療効果をあげることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
放射線には、放射性同位体の原子核自体から放射される波長の短い電磁波であるγ線、原子核外の現象によって起こるX線からなる電磁放射線、α線、β線、陽子線、重陽子線等からなる高速粒子線があるが、本発明の予防・治療方法に用いられる放射線は、γ線を用いることが好ましい。
【0010】
本発明の第1の発明及び第2の発明において、放射線の照射量は、2.78×10−9〜2.78×10−7Gy/sであることが必要であり、1×10−8〜5×10−8Gy/sであることが好ましく、約2.78×10−8Gy/sであることが特に好ましい。かかる範囲であれば、放射線障害を惹起せず、しかも関節炎を有効に予防・治療することができる。ここで、連続照射するとは、上記照射量を物理的に連続照射する場合だけでなく、ある定期的又は不定期的な間隔をもって断続的に照射する場合も含む。したがって、上記放射線照射量は、関節炎の予防・治療期間中に照射する平均照射量である。なお、断続的に照射する場合の間隔は、30日以下であることが好ましく、300時間以下であることが特に好ましい。また、断続的に照射する場合の瞬間最大照射量は、放射線障害を惹起しないという観点から、2.78×10−5Gy/sであることが好ましい。
【0011】
上記範囲の放射線を全身的に照射することにより、関節炎の抑制効果が得られるが、特に炎症のピーク前における抑制効果が著しい。また、ピーク後の炎症の沈静化が遅延することもない。すなわち、放射線の連続照射は、関節炎の進行の遅延と沈静化に有効である。
【0012】
本発明の第3の発明は、全身的に上記範囲の放射線を連続照射することにより、IgG2a、IgM抗体の産生を抑制する方法である。関節炎は、その進行の早期から、IgG2a、IgM抗体の産生が増加するが、本発明の方法によりIgG2a、IgM抗体の産生を抑制することができ、結果的に関節炎の進行を有効に遅延及び沈静化させることができる。
【0013】
本発明の第4の発明は、上記範囲の放射線を全身的に連続照射することにより、IgG2b抗体の産生を亢進する方法である。関節炎が進行しても、IgG2b抗体の産生は比較的遅れて上昇するが、本発明の方法により、IgG2b抗体の産生を亢進させることができ、結果的に関節炎の進行を有効に遅延及び沈静化させることができる。
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
試験に用いたDBA1マウスは、MHCとリンクすることが知られており、適当な免疫源で免疫することにより、関節炎が頻発し、ひざ及び全身の関節の炎症と発赤・浮腫が生じることが知られている。
DBA1マウス 匹を4群に分け、それらの尾皮下にフロイントの完全アジュバントとともに、鶏コラーゲンを50μg注射して免疫した。なお、第1群は放射線を照射せず、第2群は放射線を1.95×10−9Gy/s免疫1週間前より連続照射し、第3群は放射線を2.70×10−8Gy/s免疫1週間前より連続照射し、第4群は放射線を2.61×10−7Gy/s免疫1週間前より連続照射した。なお、本実施例において、連続照射とは、γ線照射室内において一定線量率のγ線を物理的に連続照射することである。
【0015】
第1群〜第4群の各群について、免疫後の経過日数と症状の重症度の関係を図1に示す。なお、重症度(スコア)は、目視により、以下の評価基準で評価し、各群について平均値を算出して重症度とした。
◎重症度の評価基準
0:発症が認められない。
1:足関節に軽度の発赤と浮腫が認められる。
2:足関節に中程度の発赤と浮腫が認められる。
3:足関節と足全体に渡って激しい発赤と浮腫が認められる。
4:足関節及びあらゆる関節に最高度の炎症が認められる。
【0016】
第1群では、免疫後1週間程度で発症し、約50日をピークとして進行し、その後炎症が沈静化していった。第2群〜第4群では、第1群に対して関節炎の抑制効果が現れた。特に、免疫後2〜3週においては第2群〜第4群、免疫後5週においては第2群及び第4群について、危険率5%で統計的有意差が見られた(図1)。また、第2群〜第4群においても、第1群と同様に、炎症のピークは約50日であるが、その後の炎症の沈静化は遅延しなかった。すなわち、かかる範囲の放射線の連続照射は、関節炎の進行の遅延と沈静化に有効であることが明らかとなった。
【0017】
第1群〜第4群について、コラーゲンに対する抗体価をELISA法により測定したところ、第2群〜第4群は、第1群に比べて、炎症の早期から上昇してくるIgG2aとIgMには抑制効果が現れ、逆に比較的遅れて上昇してくるIgG2bの抗体価は亢進した(図2)。IgG1の抗体価は最も遅延して上昇してくるが低線量率放射線の連続照射は大きな影響を与えなかった。IgG2aとIgMの抑制効果は2〜5週の関節炎の発症期において認められ、放射線による関節炎の遅延効果と相関している。これに対し、IgG2bの促進効果は炎症の中期から後期に現れてくる。IgG2aとIgMの抑制効果については第2群と第4群において有意差が認められ、IgG2bの亢進効果については第2群〜第4群の全ての線量率範囲で有意差が現れた。関節炎の進行は50日をピークとして沈静化するが、抗体価は3か月におよぶ観察期間の間減少することなく維持された。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、リウマチ等の関節炎の治療・予防に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】免疫後の経過日数と関節炎の重症度との関係を、各群毎に示したものである。
【図2】免疫後の経過日数と各抗体の抗体価を、各群毎に示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2.78×10−9〜2.78×10−7Gy/sの放射線を全身に連続照射することを特徴とする関節炎の予防・治療方法。
【請求項2】
2.78×10−9〜2.78×10−7Gy/sの放射線を全身に連続照射して関節炎を予防又は治療するための放射線の照射方法。
【請求項3】
2.78×10−9〜2.78×10−7Gy/sの放射線を全身に連続照射することを特徴とするIgG2a、IgM抗体産生抑制方法。
【請求項4】
2.78×10−9〜2.78×10−7Gy/sの放射線を全身に連続照射することを特徴とするIgG2b抗体産生亢進方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate