説明

防振アクチュエータ、及びそれを備えたレンズユニット、カメラ

【課題】大型化を回避しつつ、駆動用磁石とヨークの間に作用する磁力を抑制することができる防振アクチュエータを提供する。
【解決手段】本発明は、像振れ防止用レンズ(16)を移動させる防振アクチュエータ(10)であって、固定部(12)と、像振れ防止用レンズが取り付けられた可動部(14)と、この可動部を、光軸に直交する平面内で移動可能に支持する可動部支持手段(18)と、固定部又は可動部の一方に取り付けられた複数の駆動用コイル(20)と、これらの駆動用コイルと夫々向かい合うように、固定部又は可動部の他方に取り付けられた複数の駆動用磁石(22)と、駆動用コイルの、駆動用磁石とは向かい合っていない側に配置された一又は複数のヨーク(26)と、を有し、ヨークには、駆動用コイルと重なる位置に、駆動用磁石から受ける磁力を抑制するための磁力抑制用切取部(26a)が設けられていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防振アクチュエータに関し、特に、像振れ防止用レンズを移動させる防振アクチュエータ、及びそれを備えたレンズユニット、カメラに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2011−22269号公報(特許文献1)には、防振アクチュエータが記載されている。この防振アクチュエータにおいては、移動枠に像振れ防止用レンズが取り付けられると共に、この移動枠には、3つの駆動用磁石が取り付けられている。一方、固定板には、各駆動用磁石と向かい合うように、3つの駆動用コイルが取り付けられている。また、移動枠と固定板の間には3つのスチールボールが配置され、これら3つのスチールボールにより、移動枠は固定板に対し、光軸に直交する平面内で移動可能に支持される。さらに、駆動用コイルに電流を流すことにより、向かい合う駆動用磁石との間に駆動力が発生し、移動枠を所定の方向に駆動することができる。なお、駆動用磁石に与えられる磁気は、駆動用磁石と駆動用コイルとの間で、所望の駆動力を得ることができるように選択される。
【0003】
また、駆動用コイルの背面側、即ち、駆動用コイルの、駆動用磁石と向かい合っていない側には、吸着用ヨークが配置されている。この吸着用ヨークと駆動用磁石の間に作用する磁力により、移動枠が固定板に吸着される。また、移動枠が固定板に吸着されることにより、移動枠と固定板の間に配置された3つのスチールボールが、それらの間に挟持され、保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−22269号公報(特許文献1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、吸着用ヨーク(ヨーク)と駆動用磁石の間に作用する磁力が、防振アクチュエータの作動に悪影響を及ぼすという問題がある。即ち、駆動用磁石と駆動用コイルの間で大きな駆動力を発生させるためには、駆動用磁石に強い磁気を与える必要がある。特に、近年駆動すべき像振れ防止用レンズが大型化する傾向があり、大きな駆動力が必要とされるため、駆動用磁石に付与される磁気も強くなる。これに伴い、駆動用磁石とヨークの間に作用する磁力(吸着力)も増大することになるが、この磁力が不必要に強くなり過ぎるため、種々の問題が発生する。
【0006】
まず、移動枠をボールベアリングで支持しているタイプのアクチュエータにおいては、間に挟まれているボールと、移動枠、固定板との接触圧力が高くなりすぎ、接触面の摩耗の原因となるという問題がある。また、駆動用磁石とヨークの間に作用する磁力には、移動枠を光軸方向に引き付ける成分ばかりでなく、光軸に直交する方向の成分も含まれている。このような光軸に直交する平面内に作用する力の成分は、駆動用磁石と駆動用コイルの間に発生する駆動力と重畳され、移動枠を駆動する制御の外乱となる。また、移動枠を駆動する際には、駆動用磁石とヨークの間の磁力に打ち勝つ駆動力を発生させる必要があるため、駆動用コイルに流すべき電流が大きくなり、無駄な電力が消費されるという問題がある。
【0007】
さらに、駆動用磁石とヨークの間に作用する磁力を弱くするために、ヨークを形成する鋼板等の厚さを薄くすることが考えられるが、商業的に容易に入手できる厚さの鋼板等では、磁力を十分に弱くすることができない。また、駆動用磁石とヨークの間に作用する磁力を弱くするために、ヨークを、駆動用磁石から光軸方向に遠ざけることが考えられるが、ヨークを遠ざけることにより防振アクチュエータが大型化するという問題がある。
【0008】
従って、本発明は、大型化を回避しつつ、駆動用磁石とヨークの間に作用する磁力を抑制することができる防振アクチュエータ、及びそれを備えたレンズユニット、カメラを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明は、像振れ防止用レンズを移動させる防振アクチュエータであって、固定部と、像振れ防止用レンズが取り付けられた可動部と、この可動部を、像振れ防止用レンズの光軸に直交する平面内で固定部に対して移動可能に支持する可動部支持手段と、固定部又は可動部の一方に取り付けられた複数の駆動用コイルと、これらの駆動用コイルと夫々向かい合うように、固定部又は可動部の他方に取り付けられた複数の駆動用磁石と、駆動用コイルの、駆動用磁石とは向かい合っていない側に配置された一又は複数のヨークと、を有し、ヨークには、駆動用コイルと重なる位置に、駆動用磁石から受ける磁力を抑制するための磁力抑制用切取部が設けられていることを特徴としている。
【0010】
このように構成された本発明においては、像振れ防止用レンズが取り付けられた可動部が、可動部支持手段によって、像振れ防止用レンズの光軸に直交する平面内で固定部に対して移動可能に支持される。複数の駆動用コイルが固定部又は可動部の一方に取り付けられ、複数の駆動用磁石が駆動用コイルと夫々向かい合うように、固定部又は可動部の他方に取り付けられている。さらに、一又は複数のヨークが、駆動用コイルの、駆動用磁石とは向かい合っていない側に配置されており、ヨークの、駆動用コイルと重なる位置に設けられた磁力抑制用切取部が、駆動用磁石から受ける磁力を抑制する。
【0011】
このように構成された本発明によれば、磁力抑制用切取部が駆動用磁石から受ける磁力を抑制するので、防振アクチュエータの大型化を回避しつつ、駆動用磁石とヨークの間に作用する磁力を抑制することができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、さらに、駆動用コイルの内側に配置された、位置検出用の磁気センサーを有し、磁力抑制用切取部は、磁気センサーとは重ならない位置に設けられている。
【0013】
このように構成された本発明によれば、磁力抑制用切取部が磁気センサーとは重ならない位置に設けられているので、磁気センサーが検知すべき磁気が大きく抑制されることがなく、磁気センサーにより感度良く位置検出を行うことができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、磁力抑制用切取部は、対応する駆動用コイル、及びこの駆動用コイルに向かい合う駆動用磁石の間に作用する駆動力の作用線に直交する直線に沿って設けられている。
【0015】
このように構成された本発明によれば、磁力抑制用切取部が駆動力の作用線に直交する直線に沿って設けられているので、光軸に直交する平面内で駆動力の方向に作用する磁力を効果的に抑制することができ、可動部の制御に対する外乱を低減することができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、各駆動用磁石は、像振れ防止用レンズの光軸に直交する平面内に延びる磁極境界線を有し、磁力抑制用切取部は、各駆動用磁石の磁極境界線に沿って設けられている。
【0017】
このように構成された本発明によれば、磁力抑制用切取部が駆動用磁石の磁極境界線に沿って設けられているので、ヨーク内において強い磁場が形成されやすい部分が切り取られ、磁力を効果的に抑制することができる。
【0018】
本発明において、好ましくは、磁力抑制用切取部は、各駆動用磁石の磁極境界線に沿って配置された複数の穴により構成されている。
このように構成された本発明によれば、駆動用磁石の磁極境界線に沿った磁力抑制用切取部を簡単な加工で形成することができる。
【0019】
本発明において、好ましくは、複数の駆動用磁石のうちの少なくとも2つは、その磁極境界線が光軸を中心とする円の接線方向に向くように配置され、上記磁力抑制用切取部は、上記磁極境界線に沿うように、上記円の接線方向に並べて配置された複数の穴により構成されている。
【0020】
本発明において、好ましくは、複数の駆動用磁石のうちの少なくとも3つは、その磁極境界線が光軸を中心とする円の半径方向に向くように配置され、磁力抑制用切取部は、磁極境界線に沿うように、円の半径方向に並べて配置された複数の穴により構成されている。
【0021】
また、本発明は、防振アクチュエータを備えたレンズユニットであって、レンズ鏡筒と、このレンズ鏡筒の内部に配置された撮像用レンズと、本発明の防振アクチュエータと、を有することを特徴としている。
さらに、本発明は、防振アクチュエータを備えたカメラであって、カメラ本体と、本発明のレンズユニットと、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明の防振アクチュエータ、及びそれを備えたレンズユニット、カメラによれば、大型化を回避しつつ、駆動用磁石とヨークの間に作用する磁力を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態によるカメラの断面図である。
【図2】レンズユニットに内蔵されている防振アクチュエータを拡大して示す側面断面図である。
【図3】防振アクチュエータの可動部を取り外した状態を示す背面図である。
【図4】防振アクチュエータの可動部の正面図である。
【図5】防振アクチュエータの可動部に取り付けられている吸着用ヨークの正面図である。
【図6】本発明の第2実施形態による防振アクチュエータの側面断面図である。
【図7】防振アクチュエータの可動部を取り外した状態を示す正面図である。
【図8】防振アクチュエータの可動部を固定部の側から見た背面図である。
【図9】固定部の裏側を示す背面図である。
【図10】磁力抑制用切取部の効果を示す磁気シミュレーションモデルを示す図である。
【図11】磁力抑制用切取部の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
まず、図1乃至図5を参照して、本発明の第1実施形態によるカメラを説明する。図1は本実施形態によるカメラの断面図である。
図1に示すように、本発明の第1実施形態のカメラ1は、レンズユニット2と、カメラ本体4と、を有する。レンズユニット2は、レンズ鏡筒6と、このレンズ鏡筒の中に配置された複数の撮像用レンズ8と、像振れ防止用レンズ16を所定の平面内で移動させる防振アクチュエータ10と、レンズ鏡筒6の振動を検出する振動検出手段であるジャイロ34と、を有する。
【0025】
本実施形態のカメラ1は、ジャイロ34によって振動を検出し、検出さた振動に基づいて防振アクチュエータ10を作動させて像振れ防止用レンズ16を移動させ、カメラ本体4内のフィルム面Fに合焦される画像を安定化させている。本実施形態においては、ジャイロ34として、圧電振動ジャイロを使用している。なお、本実施形態においては、像振れ防止用レンズ16は、1枚のレンズによって構成されているが、画像を安定させるためのレンズは、複数枚のレンズ群であっても良い。本明細書において、像振れ防止用レンズとは、画像を安定させるための1枚のレンズ及びレンズ群を含むものとする。
【0026】
レンズユニット2は、カメラ本体4に取り付けられ、入射した光をフィルム面Fに結像させるように構成されている。
概ね円筒形のレンズ鏡筒6は、内部に複数の撮像用レンズ8を保持しており、一部の撮像用レンズ8を移動させることによりピント調整を可能としている。
【0027】
次に、図2乃至図5を参照して、防振アクチュエータ10を説明する。図2は、レンズユニット2に内蔵されている防振アクチュエータ10を拡大して示す側面断面図である。図3は防振アクチュエータ10の可動部を取り外した状態を示す背面図であり、図4は防振アクチュエータ10の可動部の正面図である。図5は防振アクチュエータ10の可動部に取り付けられている吸着用ヨークの正面図である。なお、図2は、防振アクチュエータ10を図3のII−II線に沿って破断した状態を示す断面図である。
【0028】
図2乃至図5に示すように、防振アクチュエータ10は、レンズ鏡筒6内に固定された固定部である固定板12と、この固定板12に対して並進移動及び回転移動可能に支持された可動部である移動枠14と、この移動枠14を支持する可動部支持手段である3つのスチールボール18と、を有する。さらに、防振アクチュエータ10は、移動枠14に取り付けられた第1駆動用コイル20a、第2駆動用コイル20b、及び第3駆動用コイル20cと、固定板12の、各駆動用コイル20a、20b、20cに夫々向かい合う位置に取り付けられた第1駆動用磁石22a、第2駆動用磁石22b、及び第3駆動用磁石22cと、各駆動用コイル20a、20b、20cの内側に夫々配置された第1、第2、第3位置検出素子である第1磁気センサ24a、第2磁気センサ24b、第3磁気センサ24cと、を有する。
【0029】
また、防振アクチュエータ10は、各駆動用磁石の磁力によって移動枠14を固定板12に吸着させるために、移動枠14の裏側に取り付けられたヨークである吸着用ヨーク26と、各駆動用磁石の磁力を移動枠14の方に効果的に差し向けるように、各駆動用磁石の反対側の面に取り付けられたバックヨーク28と、を有する。なお、第1駆動用コイル20a、第2駆動用コイル20b、第3駆動用コイル20c、及びこれらに対応する位置に夫々取り付けられた第1駆動用磁石22a、第2駆動用磁石22b、第3駆動用磁石22cは、移動枠14を固定板12に対して駆動する第1、第2、第3駆動手段を夫々構成する。
【0030】
さらに、図1に示すように、防振アクチュエータ10は、ジャイロ34によって検出された振動と、第1、第2、第3磁気センサ24a、24b、24cによって検出された移動枠14の位置情報に基づいて、第1、第2、第3駆動用コイル20a、20b、20cに流す電流を制御する制御部であるコントローラ36を有する。
【0031】
防振アクチュエータ10は、移動枠14を、レンズ鏡筒6に固定された固定板12に対してフィルム面Fに平行な平面内で並進移動させ、これにより移動枠14に取り付けられた像振れ防止用レンズ16を移動させてレンズ鏡筒6が振動してもフィルム面Fに結像される像が乱れることがないように駆動される。
【0032】
図4に示すように、移動枠14は概ねドーナツ板状の形状を有し、中央の開口には、像振れ防止用レンズ16が取り付けられている。また、移動枠14の上に第1、第2、第3駆動用コイル20a、20b、20cが配置されている。これら3つの駆動用コイルは、その中心が、レンズユニット2の光軸Aを中心とする円の円周上にそれぞれ配置されている。本実施形態においては、第2駆動用コイル20bは光軸の鉛直下方に配置され、第1駆動用コイル20a、第2駆動用コイル20、駆動用コイル20cは、等間隔に、中心角約120゜隔てて配置されている。
【0033】
第1、第2、第3駆動用コイル20a、20b、20cは、夫々、その巻線が角の丸い概ね矩形状に巻かれており、それらの一方の中心線が、光軸を中心とする円周の接線方向に向けて配置されている。
【0034】
図3に示すように、固定板12は概ねドーナツ板状の部材であり、移動枠14は、固定板12と平行に配置される。また、固定板12上の円周の、第1、第2、第3駆動用コイル20a、20b、20cに向かい合う位置には、第1、第2、第3駆動用磁石22a、22b、22cが夫々配置されている。第1、第2、第3駆動用磁石22a、22b、22cは、概ね長方形状であり、それらの長辺を横切る中心線が、レンズユニット2の光軸を中心とする円の半径方向に向けられるように配置されている。
【0035】
また、第1、第2、第3駆動用磁石22a、22b、22cは、その長辺を横切る中心線が磁極境界線Cとなるように着磁されている。このため、各駆動用磁石は、その磁極境界線Cが光軸Aを中心とする円の半径方向に向くように配置される。これにより、第1駆動用コイル20aに電流が流れると、互いに向かい合う第1駆動用コイル20aと第1駆動用磁石22aとの間には、光軸Aを中心とする円の接線方向の駆動力が発生する。同様に、第2駆動用コイル20bと第2駆動用磁石22bとの間、第3駆動用コイル20cと第3駆動用磁石22cとの間にも光軸Aを中心とする円の接線方向の駆動力が発生する。
【0036】
なお、本明細書において、磁極境界線Cとは、駆動用磁石の両端を夫々S極、N極としたとき、その中間のS極からN極に極性が変化する点を連ねた線を言うものとする。また、図3に示すように、各駆動用磁石の磁極境界線Cは、長方形の駆動用磁石の各長辺の中点を通るように位置すると共に、図2に示すように、駆動用磁石は、その厚さ方向にも極性が変化している。従って、図3において、S極として示されている部分の裏側にはN極が形成され、N極として示されている部分の裏側にはS極が形成されている。
【0037】
図2及び図3に示すように、3つのスチールボール18は、固定枠12と移動枠14の間に挟持され、光軸Aを中心とする円の円周上に夫々、中心角120゜の間隔を隔てて配置されている。固定枠12には、各スチールボール18に対応する位置に凹部30が形成されている。また、移動枠14には、各スチールボール18に対応する位置に凹部31が形成されている。各スチールボール18は、これらの凹部30、31の中に配置され、脱落が防止される。また、後述するように、移動枠14は駆動用磁石により固定板12に吸着されるので、各スチールボール18は固定板12と移動枠14の間に挟持される。これにより、移動枠14は固定板12に平行な平面上に支持され、各スチールボール18が挟持されながら転がることによって、移動枠14の固定板12に対する任意の方向の並進運動及び回転運動が許容される。
【0038】
図2及び図4に示すように、各駆動用コイルの内側には、第1磁気センサ24a、第2磁気センサ24b、第3磁気センサ24cが夫々配置されており、各駆動用コイルの円周方向の変位を測定するように構成されている。これら第1、第2、第3磁気センサ24a、24b、24cによって検出された信号に基づいて、移動枠14が固定枠12に対して並進移動及び回転移動した位置を特定することができる。本実施形態においては、磁気センサとしてホール素子を使用している。
【0039】
バックヨーク28は概ねドーナツ板状であり、固定板12に対し、移動枠14とは反対の側に配置されている。このバックヨーク28により、各駆動用磁石の磁束が、移動枠14の方に効率良く差し向けられる。
【0040】
図5に示すように、吸着用ヨーク26は概ねドーナツ板状であり、移動枠14の駆動用コイルとは反対側の面に取り付けられている。また、吸着用ヨーク26の、各駆動用コイル20a、20b、20cに対応する部分には、3つの拡張部26aが夫々形成されており、各駆動用コイル22a、22b、22cの背面側を覆っている。各駆動用磁石22a、22b、22cがこの吸着用ヨーク26に及ぼす磁力により、移動枠14は固定板12に吸着される。さらに、各拡張部26aには、各駆動用コイル20a、20b、20cと重なる位置に、磁力抑制用切取部である貫通穴26bが夫々2つずつ設けられている。なお、本明細書において、「各駆動用コイルと重なる位置に貫通穴が設けられている」とは、駆動用コイルの外形を、吸着用ヨーク26に対し光軸A方向に投影した領域に貫通穴が設けられていることを意味している。
【0041】
また、図3及び図4には、各貫通穴26bを光軸A方向に投影した位置を想像線で示している。図3の想像線に示すように、各拡張部26aに夫々形成されている2つの貫通穴26bは、各駆動用磁石22a、22b、22cの磁極境界線Cに沿うように、光軸Aを中心とする円の半径方向に並べて配置されている。さらに、上述したように、各駆動用コイル20a、20b、20cと向かい合う各駆動用磁石22a、22b、22cとの間に発生する駆動力の作用線は、光軸Aを中心とする円の接線方向に向けられているため、各拡張部26aに夫々形成されている2つの貫通穴26bは、駆動力の作用線に直交する直線(光軸Aを中心とする円の半径方向の直線)に沿って設けられているということができる。
【0042】
また、図4の想像線に示すように、各拡張部26aに夫々形成されている2つの貫通穴26bは、各駆動用コイル20a、20b、20cと重なる位置に設けられていると共に、各磁気センサー24a、24b、24cとは重ならない位置に設けられている。ここで、各駆動用磁石22a、22b、22cが形成する磁力線は、駆動用磁石のN極から、向かい合う駆動用コイル、吸着用ヨーク26、駆動用コイルを通って駆動用磁石のS極に戻るように形成される。この吸着用ヨーク26を通る磁力線の一部は、吸着用ヨーク26に設けられた貫通穴26bにより阻害されることになる。しかしながら、各磁気センサーと重なる位置には貫通穴26が設けられていないため、各磁気センサー付近においては、磁気が大幅に弱められることがなく、各磁気センサーは各駆動用磁石の磁気を十分に検出することができ、各駆動用磁石の移動量を高感度で検出することができる。
【0043】
このように、吸着用ヨーク26に、磁力抑制用切取部である貫通穴26bを設けることにより、各駆動用磁石22a、22b、22cが、移動枠14を光軸A方向に吸着する磁力は、適度な大きさに抑制される。また、各駆動用磁石22a、22b、22cと吸着用ヨーク26の間に作用する磁力は、光軸Aに直交する方向の成分も含んでおり、この力の成分は、移動枠14が光軸Aに直交する平面内で移動されたとき、移動枠14を初期位置(各磁気センサーと各駆動用磁石の磁極境界線が重なる位置)に引き戻すように作用する。吸着用ヨーク26に貫通穴26bを設けることにより、このような光軸Aに直交する方向の磁力も大幅に抑制される。
【0044】
次に、本発明の第1実施形態による防振アクチュエータ10の制御を説明する。
レンズユニット2の振動は、ジャイロ34によって時々刻々検出され、コントローラ36に入力される。コントローラ36に内蔵された演算回路(図示せず)は、ジャイロ34から時々刻々入力される角速度に基づいて、像振れ防止用レンズ16を移動させるべき位置を時系列で指令するレンズ位置指令信号を生成する。このようにして得られたレンズ位置指令信号に従って、像振れ防止用レンズ16を時々刻々移動させることにより、写真撮影の露光中にレンズユニット2が振動した場合にも、カメラ本体4内のフィルム面Fに合焦される像は乱れることなく安定化される。
【0045】
コントローラ36は、演算回路(図示せず)によって生成されたレンズ位置指令信号によって指示された位置に、像振れ防止用レンズ16が移動されるように、第1、第2、第3駆動用コイル20a、20b、20cに流す電流を制御する。
【0046】
コントローラ36は、各磁気センサによって測定された、各駆動用磁石に対する各駆動用コイルの移動量と、レンズ位置指令信号との差に比例した電流を各駆動用コイル20に流す。従って、レンズ位置指令信号によって指令されたレンズ位置と各磁気センサによって検出された位置に差がなくなると、各駆動用コイルには電流が流れなくなり、各駆動用コイルに作用する駆動力が0になる。
【0047】
次に、図1を参照して、本発明の第1実施形態によるカメラ1の作用を説明する。まず、カメラ1の手ブレ防止機能の起動スイッチ(図示せず)をONにすることにより、レンズユニット2に備えられた防振アクチュエータ10が作動される。レンズユニット2に取り付けられたジャイロ34は、所定周波数帯域の振動を時々刻々検出し、コントローラ36に内蔵された演算回路(図示せず)に出力する。ジャイロ34は角速度の信号を演算回路に出力し、演算回路は、入力された角速度信号を時間で積分して、振れ角度を算出し、これに所定の修正信号を加えてレンズ位置指令信号を生成する。演算回路によって時系列で出力されるレンズ位置指令信号によって指令される位置に、像振れ防止用レンズ16を時々刻々移動させることによって、カメラ本体4のフィルム面Fに合焦される像が安定化される。
【0048】
コントローラ36は、各磁気センサの検出信号と、各方向のレンズ位置指令信号の差に応じた電流を各駆動用コイルに流す。各駆動用コイルに電流が流れると電流に比例した磁界が発生する。この磁界により第1、第2、第3駆動用磁石22a、22b、22cに対応して配置された第1、第2、第3駆動用コイル20a、20b、20cは夫々駆動力を受け、移動枠14が移動される。また、移動枠14の制御に対して外乱となる、各駆動用磁石22a、22b、22cと吸着用ヨーク26との間に作用する光軸Aに直交する方向の磁力は、吸着用ヨーク26に設けられた貫通穴26bにより抑制される。移動枠14が駆動力によって移動され、各駆動用コイルがレンズ位置指令信号により指定された位置に到達すると、駆動力は0になる。また、外乱、又は、レンズ位置指令信号の変化等により、移動枠14がレンズ位置指令信号により指定された位置から外れると、再び各駆動用コイルに電流が流され、移動枠14はレンズ位置指令信号により指定された位置に戻される。
【0049】
以上の作用が時々刻々繰り返されることにより、移動枠14に取り付けられた像振れ防止用レンズ16が、レンズ位置指令信号に追従するように移動される。これにより、カメラ本体4のフィルム面Fに合焦される像が安定化される。
【0050】
本発明の第1実施形態のカメラ1によれば、磁力抑制用切取部である貫通穴26bが駆動用磁石から受ける磁力を抑制するので、防振アクチュエータ10の大型化を回避しつつ、駆動用磁石と吸着用ヨーク26の間に作用する磁力を抑制することができる。即ち、駆動用磁石と吸着用ヨーク26の間に作用する磁力は、吸着用ヨーク26を駆動用磁石から大きく離れた位置に配置することによっても抑制することはできるが、このように構成した場合、防振アクチュエータ10が光軸A方向に大型化してしまう。本実施形態によれば、このような大型化を回避しつつ駆動用磁石から受ける磁力を適度に抑制することができる。
【0051】
また、本実施形態のカメラ1によれば、貫通穴26bが各磁気センサー24a、24b、24cとは重ならない位置に設けられているので、磁気センサーが検知すべき磁気が大きく抑制されてしまうことがなく、磁気センサーにより感度良く位置検出を行うことができる。
【0052】
さらに、本実施形態のカメラ1によれば、貫通穴26bが駆動力の作用線に直交する直線に沿って設けられているので、光軸Aに直交する平面内で駆動力の方向に作用する磁力を効果的に抑制することができ、移動枠14の制御に対する外乱を低減することができる。
【0053】
また、本実施形態のカメラ1によれば、貫通穴26bが駆動用磁石の磁極境界線Cに沿って設けられているので、吸着用ヨーク26内において強い磁場が形成されやすい部分が切り取られ、磁力を効果的に抑制することができる。
【0054】
さらに、本実施形態のカメラ1によれば、磁力抑制用切取部が複数の貫通穴によって構成されているので、駆動用磁石の磁極境界線Cに沿った磁力抑制用切取部を簡単な加工で形成することができる。
【0055】
次に、図6乃至図9を参照して、本発明の第2実施形態によるカメラを説明する。本実施形態によるカメラは、内蔵されている防振アクチュエータの構造が、上述した第1実施形態とは異なる。従って、ここでは、本実施形態の、第1実施形態とは異なる点のみを説明し、同様の構成、作用、効果については説明を省略する。
【0056】
図6は本発明の第2実施形態による防振アクチュエータ110の側面断面図である。図7は防振アクチュエータ110の可動部を取り外した状態を示す正面図であり、図8は防振アクチュエータ110の可動部を固定部の側から見た背面図である。さらに、図9は、固定部の裏側を示す背面図である。なお、図6は、防振アクチュエータ110を図7のVI−VI線に沿って破断した状態を示す断面図である。
【0057】
図6乃至図9に示すように、防振アクチュエータ110は、レンズ鏡筒内に固定された固定部である固定板112と、この固定板112に対して並進移動及び回転移動可能に支持された可動部である移動枠114と、この移動枠114を支持する可動部支持手段である3つのスチールボール118と、を有する。さらに、防振アクチュエータ110は、固定板112に取り付けられた第1駆動用コイル120a、第2駆動用コイル120b、及び第3駆動用コイル120cと、各駆動用コイル120a、120b、120cに向かい合うように、移動枠114に取り付けられた第1駆動用磁石122a、第2駆動用磁石122b、及び第3駆動用磁石122cと、各駆動用コイル120a、120b、120cの内側に夫々配置された第1、第2、第3位置検出素子である第1磁気センサ124a、第2磁気センサ124b、第3磁気センサ124cと、を有する。
【0058】
また、防振アクチュエータ110は、各駆動用磁石の磁力によって移動枠114を固定板112に吸着させるために、固定板112の裏側に取り付けられた3つのヨークである第1、第2、第3吸着用ヨーク140、142、144と、各駆動用磁石の磁力を固定板112の方に効果的に差し向けるように、各駆動用磁石の背面側に取り付けられたバックヨーク128と、を有する。なお、第1駆動用コイル120a、第2駆動用コイル120b、第3駆動用コイル120c、及びこれらに対応する位置に夫々取り付けられた第1駆動用磁石122a、第2駆動用磁石122b、第3駆動用磁石122cは、移動枠114を固定板112に対して駆動する第1、第2、第3駆動手段を夫々構成する。
【0059】
さらに、防振アクチュエータ110は、ジャイロ(図示せず)によって検出された振動と、第1、第2、第3磁気センサ124a、124b、124cによって検出された移動枠114の位置情報に基づいて、第1、第2、第3駆動用コイル120a、120b、120cに流す電流を制御する制御部であるコントローラ(図示せず)を有する。
【0060】
固定板112は概ねドーナツ板状の形状を有し、その上に第1、第2、第3駆動用コイル120a、120b、120cが配置されている。図7に示すように、これら3つの駆動用コイルは、その中心が、レンズユニットの光軸を中心とする円周上にそれぞれ配置されている。本実施形態においては、第1駆動用コイル120aは光軸の鉛直上方に配置され、第2駆動用コイル120bは光軸に対して水平方向に配置され、駆動用コイル120cは、第1駆動用コイル120a及び第2駆動用コイル120bから夫々中心角135゜隔てた位置に配置されている。従って、第1駆動用コイル120aと第2駆動用コイル120bの間は中心角90゜、第2駆動用コイル120bと第3駆動用コイル120cの間は中心角135゜、駆動用コイル120cと120aの間は中心角135゜隔てられていることになる。
【0061】
第1、第2、第3駆動用コイル120a、120b、120cは、夫々、その巻線が角の丸い矩形状に巻かれている。第1、第2駆動用コイル120a、120bは、概ね矩形状であり、その長辺を横切る中心線が、Y軸、X軸と夫々一致するように配置されている。即ち、第1、第2駆動用コイル120a、120bは、像振れ防止用レンズの光軸Aを中心とする円の円周方向の長さが、半径方向の長さよりも長く、その長辺が円の接線方向に向けられている。また、第3駆動用コイル120cは、第1、第2駆動用コイルよりも小型の概ね長方形状であり、その短辺を横切る中心線が、光軸Aを中心とする円の半径方向に向くように配置されている。
【0062】
図8に示すように、移動枠114は、概ねドーナツ板状の形状を有し、固定板112と平行に、固定板112と重なるように配置されている。移動枠114の中央の開口には、像振れ防止用レンズ116が取り付けられている。移動枠114上の円周の、第1、第2、第3駆動用コイル120a、120b、120cと向かい合う位置には、第1、第2、第3駆動用磁石122a、122b、122cが夫々配置されている。上述した第1実施形態においては、各駆動用磁石は単一の磁石により構成されていたが、本実施形態においては各駆動用磁石は夫々2つの磁石から構成されている。図6に示すように、駆動用磁石122aは、移動枠114の厚さ方向に磁極が変化する細長い長方形の2つの磁石から構成されている。本実施形態においては、図6の上側に配置された磁石は駆動用コイルに向かい合う面がS極、その背面側がN極に着磁され、下側に配置された磁石は駆動用コイルに向かい合う面がN極、その背面側がS極に着磁されている。同様に、第2、第3駆動用磁石122b、122cも、2つの磁石から構成されている。
【0063】
また、第1、第2駆動用磁石122a、122bは、その長辺を横切る中心線が、Y軸、X軸と夫々一致するように配置されている。さらに、図8に示すように、第1、第2駆動用磁石122a、122bは、その短辺を横切る中心線、即ち、2つの細長い磁石の間を通る直線が磁極境界線Cとなるように構成されている。
【0064】
第3駆動用コイル120cは、第1、第2駆動用磁石よりも小型の概ね長方形状であり、その長辺を横切る中心線が、円周の半径方向と一致するように配置されている。一方、図8に示すように、第3駆動用磁石122cは、光軸Aを中心とする円の半径方向に延びるように配置された細長い2つの磁石から構成されている。従って、第3駆動用磁石122cの磁極境界線Cは円の半径方向に向けられている。このように、第1、第2駆動用磁石122a、122bは磁極境界線Cが光軸Aを中心とする円の接線方向に向くように、第3駆動用磁石122cは磁極境界線Cが円の半径方向に向くように夫々配置されている。
【0065】
このように着磁されていることにより、第1、第2駆動用磁石122a、122bは、主に長方形の第1、第2駆動用コイル120a、120bの長辺の部分に磁気を及ぼす。これにより、第1駆動用コイル120aに電流が流れると、第1駆動用磁石122aとの間にY軸に沿った鉛直方向の駆動力が発生し、第2駆動用コイル120bに電流が流れると、第2駆動用磁石122bとの間にX軸に沿った水平方向の駆動力が発生する。
【0066】
即ち、第1駆動用コイル120a及び第1駆動用磁石122aにより構成される第1駆動手段による駆動力の作用線は、像振れ防止用レンズ116の概ね半径方向に向けられ、第2駆動用コイル120b及び第2駆動用磁石122bにより構成される第2駆動手段による駆動力の作用線は、第1駆動手段による駆動力の作用線とほぼ直交すると共に、像振れ防止用レンズ116の概ね半径方向に向けられる。
【0067】
一方、図8に示すように、第3駆動用磁石122cは、磁極境界線Cが光軸Aを中心とする円の半径方向に向くように配置されている。このため、第3駆動用コイル120cに電流が流れたとき、第3駆動用磁石122cとの間に光軸Aを中心とする円の接線方向の駆動力が発生する。第3駆動手段を構成する第3駆動用コイル120c及び第3駆動用磁石122cは、第1、第2駆動用コイル及び第1、第2駆動用磁石よりも小型に構成されているため、駆動用コイルに同一の電流が流れた場合に第3駆動手段が発生する駆動力は、第1、第2駆動手段が発生する駆動力よりも小さくなる。
【0068】
図6及び図7に示すように、3つのスチールボール118は、固定枠112と移動枠114の間に挟持され、光軸Aを中心とする円の円周上に夫々、中心角120゜の間隔を隔てて配置されている。固定枠112には、各スチールボール118に対応するように凹部130が形成されており、各スチールボール118は、この凹部130中に配置され、脱落が防止される。また、移動枠114は駆動用磁石により固定板112に吸着されるので、各スチールボール118は固定板112と移動枠114の間に挟持される。これにより、移動枠114は固定板112に平行な平面上に支持され、各スチールボール118が挟持されながら転がることによって、移動枠114の固定板112に対する任意の方向の並進運動及び回転運動が許容される。
【0069】
また、本実施形態においては、スチールボール118として鋼製の球体を使用しているが、スチールボール118は必ずしも球体でなくても良い。即ち、防振アクチュエータ110の作動中において固定板112及び移動枠114と接触する部分が概ね球面の形状を有する形態であればスチールボール118として使用することができる。なお、本明細書において、このような形態を球状体という。また、球状体を鋼以外の金属、樹脂等で構成することもできる。
【0070】
バックヨーク128は概ね長方形状であり、駆動用磁石の背面(駆動用コイルと向かい合っていない側)を覆うように、移動枠114に夫々埋め込まれている。これらのバックヨーク128により、各駆動用磁石の磁束が、固定板112の方に効率良く差し向けられる。
【0071】
本実施形態においては、図9に示すように、吸着用ヨークは、各駆動用コイルごとに別々に3つ設けられている。これら第1、第2、第3吸着用ヨーク140、142、144は、概ね長方形状であり、第1、第2、第3駆動用コイル120a、120b、120cの裏側に夫々取り付けられている。各駆動用磁石がこれらの吸着用ヨーク140、142、144に及ぼす磁力により、移動枠114は固定板112に吸着される。また、第1吸着用ヨーク140には磁力抑制用切取部である2つの貫通穴140aが設けられ、第2吸着用ヨーク142には磁力抑制用切取部である2つの貫通穴142aが設けられている。
【0072】
図7及び図8には、各貫通穴140a、142aを光軸A方向に投影した位置を想像線で示している。図8の想像線に示すように、第1、第2吸着用ヨーク140、142に夫々2つずつ形成されているの貫通穴140a、142aは、第1、第2駆動用磁石122a、122bの磁極境界線Cに沿うように、光軸Aを中心とする円の接線方向に並べて配置されている。さらに、上述したように、第1、第2駆動用コイル120a、120bと向かい合う第1、第2駆動用磁石122a、122bとの間に発生する駆動力の作用線は、光軸Aを中心とする円の半径方向に向けられているため、第1、第2吸着用ヨーク140、142に夫々2つずつ形成されている貫通穴140a、142aは、駆動力の作用線に直交する直線(光軸Aを中心とする円の接線方向の直線)沿って設けられているということができる。
【0073】
また、図7の想像線に示すように、第1、第2吸着用ヨーク140、142に夫々2つずつ形成されているの貫通穴140a、142aは、第1、第2駆動用コイル120a、120bと重なる位置に設けられていると共に、第1、第2磁気センサー124a、124bとは重ならない位置に設けられている。このように、各磁気センサーと重なる位置には貫通穴が設けられていないため、各磁気センサー付近においては、磁気が弱められることがなく、各磁気センサーは各駆動用磁石の磁気を十分に検出することができ、各駆動用磁石の移動量を高感度で検出することができる。
【0074】
磁力抑制用切取部である貫通穴140a、142aを、第1、第2吸着用ヨーク140、142に設けることにより、第1、第2駆動用磁石122a、122bが、移動枠114を光軸A方向に吸着する磁力は、適度な大きさに抑制される。また、第3駆動用磁石122c及び第3吸着用ヨーク144は、第1、第2駆動用磁石及び第1、第2吸着用ヨークよりも小さく構成されているが、第1、第2吸着用ヨーク140、142に貫通穴140a、142aを設けることにより、第1、第2、第3駆動用磁石122a、122b、122cが、移動枠114を吸着する吸着力はほぼ等しくなる。これにより、移動枠114をバランス良く吸着することができ、移動枠114を円滑に移動させることが可能になる。また、各駆動用磁石による吸着力を等しくするために、第3吸着用ヨーク144の厚さを、第1、第2吸着用ヨーク140、142とは異なる厚さにすることもできる。
【0075】
また、貫通穴140a、142aを設けることにより、移動枠114が光軸Aに直交する平面内で移動されたとき、移動枠114を初期位置(各磁気センサーと各駆動用磁石の磁極境界線が重なる位置)に引き戻すように作用する、光軸Aに直交する方向の磁力も大幅に抑制される。
【0076】
図10は、磁力抑制用切取部の効果を示す磁気シミュレーションモデルを示す図である。図10(a)は本実施形態における第1駆動用磁石122aと第1吸着用ヨーク140をモデル化した図であり、図10(b)は比較例として、吸着用ヨークに貫通穴を設けていないモデルである。なお、駆動用磁石と吸着用ヨークの間に配置されている駆動用コイルは簡単のため省略されている。図10(a)(b)のモデルを使用して、駆動用磁石が吸着用ヨークを引っ張る力を磁気シミュレーションソフトで計算した。この結果を表1に示す。

【表1】

【0077】
表1に示すように、図10(a)の本発明の実施形態においては、Z軸(光軸A)方向の吸着力が1.55N、Y軸方向(第1駆動用コイル120aと第1駆動用磁石122aにより発生する駆動力の方向)の引張り力が3.51×10-2N、X軸方向の引張り力が1.57×10-5Nと計算された。一方、図10(b)の比較例においては、Z軸(光軸A)方向の吸着力が2.01N、Y軸方向の引張り力が9.97×10-2N、X軸方向の引張り力が2.95×10-4Nと計算された。まず、駆動用磁石と吸着用ヨークの間に作用する力の中で最も大きいZ軸方向の力の成分は、磁力抑制用切取部を設けることにより約23%抑制され、適度な大きさに調整されている。次に、X軸方向の力の成分は、本実施形態、比較例とも極めて小さく、この力が移動枠114の制御に悪影響を与えることは殆どない。これは、吸着用ヨークのX軸方向の長さが、駆動用磁石のX軸方向の長さよりも短く、吸着用ヨークと駆動用磁石がX軸方向に微少距離相対移動された場合でも、それらの間の磁力線の分布に大きな変化がないためである。
【0078】
これに対して、比較例において、吸着用ヨークと駆動用磁石がY軸方向に相対移動されると、Y軸方向の引張り力が9.97×10-2N発生する。この力は比較的大きなものであり、第1駆動用コイル120aと第1駆動用磁石122aの間で発生する駆動力に対して外乱となる。ここで、吸着用ヨーク140に2つの貫通穴140aを設けた本実施形態においては、このY軸方向の引張り力は3.51×10-2Nとなり、貫通穴140aを設けない場合に比して約65%抑制されている。このように、本実施形態においては、吸着用ヨークに磁力抑制用切取部である貫通穴を設けることにより、移動枠114の制御に悪影響を与える、光軸Aに直交する方向の磁力が、大幅に抑制される。
【0079】
なお、Y軸方向の引張り力についても、吸着用ヨークのY軸方向の長さを駆動用磁石のY軸方向の長さよりも短くし、或いは、吸着用ヨークのY軸方向の長さを駆動用磁石のY軸方向の長さよりも長くすることによって、微少距離の相対移動に対する引張り力を、X軸方向のように小さくすることも可能である。しかしながら、吸着用ヨーク及び駆動用磁石をこのように設計した場合、吸着用ヨーク又は駆動用磁石のY軸方向の長さを、必要な駆動力に対し不必要に長く構成する必要がある。このため、このような設計を採用すると、防振アクチュエータの外径が大型化するという問題がある。本実施形態のカメラによれば、防振アクチュエータ110の大型化を回避しながら、移動枠114の制御に対する外乱を効果的に抑制することができる。
【0080】
本発明の第2実施形態のカメラによれば、複数組の駆動用磁石及び吸着用ヨークのうち、一部の吸着用ヨーク140、142にのみ磁力抑制用切取部である貫通穴140a、142aを設けているので、各駆動用磁石122a、122b、122cによる磁力が異なる場合であっても、容易に吸着力を均一にすることができ、移動枠114を円滑に移動させることができる。
【0081】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。特に、上述した実施形態では、本発明をフィルムカメラに適用していたが、本発明は、デジタルカメラ、ビデオカメラ等、静止画又は動画撮像用の任意のカメラに適用することができる。また、本発明を、これらのカメラのカメラ本体と共に使用されるレンズユニットに適用することもできる。
【0082】
さらに、上述した実施形態においては、移動枠はスチールボールによって支持されていたが、移動枠を移動可能に支持する手段として任意の形式のものを使用することができる。特に、スチールボールによる支持では、移動枠の吸着が必要になるが、移動枠を吸着する必要のない支持手段を備えた防振アクチュエータにも本発明を適用することができる。即ち、本実施形態のような吸着用ヨークばかりでなく、単に磁気回路を形成するためのヨークに磁力抑制用切取部を設けることもできる。
【0083】
また、上述した実施形態においては、吸着用ヨークには、磁極境界線Cに沿って配置された2つの円形の貫通穴が、磁力抑制用切取部として設けられていたが、変形例として、図11に示すように磁力抑制用切取部を設けることもできる。なお、図11においても、駆動用磁石と吸着用ヨークの間に位置する駆動用コイルは省略して図示されている。
【0084】
図11(a)に示す変形例においては、吸着用ヨーク152に、3つの円形の貫通穴152aが磁力抑制用切取部として設けられており、これらの貫通穴152aは、駆動用磁石150の磁極境界線Cに沿って配置されている。
【0085】
図11(b)に示す変形例においては、吸着用ヨーク154に、3つの長円形の貫通穴154aが磁力抑制用切取部として設けられており、これらの貫通穴154aは、駆動用磁石150の磁極境界線Cに沿って配置されている。この変形例においては、各貫通穴154aは、磁極境界線Cに沿って並べて設けられているが、貫通穴自体は磁極境界線C直交する方向に延びている。
【0086】
図11(c)に示す変形例においては、吸着用ヨーク156に、2つの切欠部156aが磁力抑制用切取部として設けられており、切欠部156aは、駆動用磁石150の磁極境界線Cに沿って延びるように、吸着用ヨーク156の両側から形成されている。
【符号の説明】
【0087】
1 本発明の第1実施形態のカメラ
2 レンズユニット
4 カメラ本体
6 レンズ鏡筒
8 撮像用レンズ
10 防振アクチュエータ
12 固定板(固定部)
14 移動枠(可動部)
16 像振れ防止用レンズ
18 スチールボール(可動部支持手段)
20a 第1駆動用コイル
20b 第2駆動用コイル
20c 第3駆動用コイル
22a 第1駆動用磁石
22b 第2駆動用磁石
22c 第3駆動用磁石
24a 第1磁気センサ(第1位置検出素子)
24b 第2磁気センサ(第2位置検出素子)
24c 第3磁気センサ(第3位置検出素子)
26 吸着用ヨーク(ヨーク)
26a 拡張部
26b 貫通穴(磁力抑制用切取部)
28 バックヨーク
30 凹部
31 凹部
34 ジャイロ
36 コントローラ(制御部)
110 本発明の第2実施形態における防振アクチュエータ
112 固定板(固定部)
114 移動枠(可動部)
116 像振れ防止用レンズ
118 スチールボール(可動部支持手段)
120a 第1駆動用コイル
120b 第2駆動用コイル
120c 第3駆動用コイル
122a 第1駆動用磁石
122b 第2駆動用磁石
122c 第3駆動用磁石
124a 第1磁気センサ(第1位置検出素子)
124b 第2磁気センサ(第2位置検出素子)
124c 第3磁気センサ(第3位置検出素子)
128 バックヨーク
140 第1吸着用ヨーク(ヨーク)
140a 貫通穴(磁力抑制用切取部)
142 第2吸着用ヨーク(ヨーク)
142a 貫通穴(磁力抑制用切取部)
144 第3吸着用ヨーク(ヨーク)
150 駆動用磁石
152 吸着用ヨーク(ヨーク)
152a 貫通穴(磁力抑制用切取部)
154 吸着用ヨーク(ヨーク)
154a 貫通穴(磁力抑制用切取部)
156 吸着用ヨーク(ヨーク)
156a 切欠部(磁力抑制用切取部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
像振れ防止用レンズを移動させる防振アクチュエータであって、
固定部と、
上記像振れ防止用レンズが取り付けられた可動部と、
この可動部を、上記像振れ防止用レンズの光軸に直交する平面内で上記固定部に対して移動可能に支持する可動部支持手段と、
上記固定部又は上記可動部の一方に取り付けられた複数の駆動用コイルと、
これらの駆動用コイルと夫々向かい合うように、上記固定部又は上記可動部の他方に取り付けられた複数の駆動用磁石と、
上記駆動用コイルの、上記駆動用磁石とは向かい合っていない側に配置された一又は複数のヨークと、を有し、
上記ヨークには、上記駆動用コイルと重なる位置に、上記駆動用磁石から受ける磁力を抑制するための磁力抑制用切取部が設けられていることを特徴とする防振アクチュエータ。
【請求項2】
さらに、上記駆動用コイルの内側に配置された、位置検出用の磁気センサーを有し、上記磁力抑制用切取部は、上記磁気センサーとは重ならない位置に設けられている請求項1記載の防振アクチュエータ。
【請求項3】
上記磁力抑制用切取部は、対応する駆動用コイル、及びこの駆動用コイルに向かい合う駆動用磁石の間に作用する駆動力の作用線に直交する直線に沿って設けられている請求項1又は2記載の防振アクチュエータ。
【請求項4】
上記各駆動用磁石は、上記像振れ防止用レンズの光軸に直交する平面内に延びる磁極境界線を有し、上記磁力抑制用切取部は、上記各駆動用磁石の上記磁極境界線に沿って設けられている請求項1乃至3の何れか1項に記載の防振アクチュエータ。
【請求項5】
上記磁力抑制用切取部は、上記各駆動用磁石の上記磁極境界線に沿って配置された複数の穴により構成されている請求項4記載の防振アクチュエータ。
【請求項6】
上記複数の駆動用磁石のうちの少なくとも2つは、その磁極境界線が上記光軸を中心とする円の接線方向に向くように配置され、上記磁力抑制用切取部は、上記磁極境界線に沿うように、上記円の接線方向に並べて配置された複数の穴により構成されている請求項1乃至5の何れか1項に記載の防振アクチュエータ。
【請求項7】
上記複数の駆動用磁石のうちの少なくとも3つは、その磁極境界線が上記光軸を中心とする円の半径方向に向くように配置され、上記磁力抑制用切取部は、上記磁極境界線に沿うように、上記円の半径方向に並べて配置された複数の穴により構成されている請求項1乃至5の何れか1項に記載の防振アクチュエータ。
【請求項8】
防振アクチュエータを備えたレンズユニットであって、
レンズ鏡筒と、
このレンズ鏡筒の内部に配置された撮像用レンズと、
請求項1乃至7の何れか1項に記載の防振アクチュエータと、
を有することを特徴とするレンズユニット。
【請求項9】
防振アクチュエータを備えたカメラであって、
カメラ本体と、
請求項8記載のレンズユニットと、
を有することを特徴とするカメラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−83753(P2013−83753A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222816(P2011−222816)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000133227)株式会社タムロン (355)
【Fターム(参考)】