説明

防振ゴムブッシュ及びその製造方法

【解決課題】筒状のゴム弾性体の内部に中間スリーブを埋設した形態の防振ゴムブッシュを製造するに際して、中間スリーブに対する接着処理を不要として接着に要する工程を省略し、加硫成形後において絞り,圧入等の処理を施したときに中間スリーブの内側のゴム弾性体部分に対しても十分に予備圧縮を加えられるようにする。
【解決手段】内筒金具12と外筒金具14との間に筒状のゴム弾性体16を配して内筒金具12,外筒金具14に固着するとともに、ゴム弾性体16の肉厚方向中間部にPPE樹脂から成る中間スリーブ18を同心状に埋設固着する。その防振ゴムブッシュ10を製造するに際して、加硫成形後に絞り,圧入等を加えたとき中間スリーブ18の縮径方向の弾性変形に基づいて内側ゴム弾性体部分16Bに対し全体的に且つ均等に予備圧縮を加える。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は防振ゴムブッシュ及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】従来、内筒金具の外側に筒状のゴム弾性体を固着した形態の防振ゴムブッシュが、自動車のサスペンション装置等における防振部材として広く用いられている。この種形態の防振ゴムブッシュにおいて、ゴム弾性体の肉厚方向中間部位に中間スリーブ(インターリング)を同心状に埋設し、その補強効果によって防振ゴムブッシュの軸方向,軸直角方向のばね定数比を大きく設定するといったことが行われている。
【0003】従来、この中間スリーブとしては金属製のものが用いられており、そしてその中間スリーブには、内筒金具を成形型のキャビティにセットしてキャビティ内にゴム材料を注入し、これを加硫成形して防振ゴムブッシュを製造する際、中間スリーブの外側にもまた内側にも十分にゴム材料が回り込んで流動できるようにスリットが設けられるのが通例である。
【0004】ところでこのように中間スリーブとして金属製のものを用いる場合、中間スリーブとゴム弾性体との加硫接着のために予め中間スリーブに対して接着処理を施しておくことが必要である。
【0005】しかしながらこの接着処理に際しては、ブラスト処理及び化成皮膜処理等の表面処理後下塗り接着剤及び上塗り接着剤の二種類の接着剤を塗布処理しなければならず、加えて接着剤を塗布した後の乾燥処理も必要であることから、防振ゴムブッシュの製造工程数が多くなり、製造コスト増大の要因となっていた。また、接着剤によって中間スリーブとゴム弾性体とを固着する場合接着の信頼性の問題が残るし、また接着剤の塗り残しがあったりすると耐久性に悪影響が及ぶ問題がある。
【0006】防振ゴムブッシュにおいては、加硫成形後において耐久性向上の目的のために絞り,圧入等の処理、即ち外周面側から縮径方向に加圧変形力を加えてゴム弾性体に予備圧縮を加えることが一般に行われる。その際、上記中間スリーブに設けたスリットは圧縮力を伝達する部分として作用する。
【0007】即ち、中間スリーブの外側のゴム弾性体部分に生じた圧縮力がスリットを通じて内側のゴム弾性体部分に伝達され、これにより中間スリーブの外側のゴム弾性体部分のみならず内側のゴム弾性体部分にも予備圧縮が加えられる。
【0008】しかしながら、この場合スリット近傍部分においてゴム弾性体に大きな歪が発生し、防振ゴムブッシュの使用時に繰返し力が加わると、この部分から亀裂が発生・進行しやすいといった問題があるとともに、金属パイプにスリット加工を施すことは加工工数がかかり、コスト上の問題がある。
【0009】一方、このような防振ゴムブッシュにおける中間スリーブとしてポリアミド樹脂から成るものを用いることも提案されている。このポリアミド製の中間スリーブは、ゴム弾性体との接着性が他の樹脂材から成るものに比べて良好であるが、一方においてかかるポリアミド製の中間スリーブの場合、防振ゴムブッシュの加硫成形時、具体的にはゴム弾性体の加硫成形時の熱及び圧力で変形を起こしてしまうといった困難な問題がある。
【0010】防振ゴムブッシュの加硫成形温度は例えば140〜160℃と高温であり、しかも加硫成形時にはゴム材料の注入による大きな圧力が中間スリーブに対して作用するために、これら成形時の熱及び圧力によって中間スリーブが変形を起こしてしまうのである。而して中間スリーブが変形を起こしてしまうと、中間スリーブ本来の機能が発揮されず、防振ゴムブッシュにおけるばね特性,耐久性が設計通りに得られない問題を生ずる。
【0011】その対策として、(イ)中間スリーブを厚肉化し或いはリブ形成することによって剛性を高める方法、(ロ)加硫成形条件を変更する方法(低温加硫且つ長時間化)、或いは(ハ)加硫成形時において中間スリーブに作用する圧力を弱めるべくゴム材料の注入ゲートを成形型に追加する方法等が考えられるが、(イ)の方法の場合には寸法上の制約が多く、また十分な剛性を中間スリーブに付与することが困難である問題があり、また(ロ)の方法の場合、加硫成形時間が長時間化し、更に(ハ)の方法の場合には型設計上ゲートの追加が困難であったりゲート部分におけるバリ取りの問題があり、何れも防振ゴムブッシュの量産性を阻害するのみならず、それらの対策を施しても尚十分に中間スリーブの変形を防止できないといった問題がある。
【0012】
【課題を解決するための手段】本願の発明はこのような課題を解決するためになされたものである。而して請求項1は防振ゴムブッシュに係るもので、剛性内筒部材の外周面に筒状のゴム弾性体を固着するとともに、該ゴム弾性体の肉厚方向中間部位においてPPE樹脂から成る中間スリーブを該ゴム弾性体内部に埋設固着したことを特徴とする(請求項1)。
【0013】また請求項2の防振ゴムブッシュは、請求項1において、前記PPE樹脂から成る中間スリーブが補強ガラス繊維をPPEベースポリマーを基準として5〜25重量%の範囲で含有していることを特徴とする(請求項2)。
【0014】請求項3は防振ゴムブッシュの製造方法に係るもので、前記剛性内筒部材及び中間スリーブを成形型のキャビティにセットした状態でゴム材料を該キャビティに注入して前記ゴム弾性体を加硫成形すると同時に前記剛性内筒部材及び中間スリーブと一体化し、しかる後成形品に対して圧入,絞り加工等外周面側から縮径方向に加圧変形力を加える処理を施して中間スリーブの外周側と内周側の該ゴム弾性体を予備圧縮状態とすることを特徴とする(請求項3)。
【0015】
【作用及び発明の効果】上記のように、本発明は防振ゴムブッシュにおけるスリーブをPPE樹脂にて構成したことを特徴とするものである。ここでPPE樹脂は、ポリフェニレンエーテルを主成分とし、ポリアルケニレン,スチレン重合物等を配合した熱可塑性樹脂組成物である。このPPE樹脂は、事前に接着処理を施さなくても防振ゴムブッシュ、具体的にはゴム弾性体、特にSBRを含有するゴム弾性体の加硫成形時にゴム弾性体との一体接着が可能である特長を有しており(ポリマーの熱相溶性に基づく)、従って本発明によれば、従来必要とされていた中間スリーブに対する接着処理を不要となし得て、接着処理に要していた工程を省略することができ、防振ゴムブッシュの生産性を大幅に高め得、コストも低減することができる。
【0016】このPPE樹脂はまた高温での変形抵抗が大きく、且つ常温において弾性変形能に優れている特長を有している。即ち本発明によれば、防振ゴムブッシュの加硫成形時において中間スリーブが熱により或いはゴム材料の注入圧力により変形するのを防止でき、従って中間スリーブに本来の機能を十全に発揮させ得て、防振ゴムブッシュに設計通りのばね特性,耐久性を付与することが可能であるとともに、常温において防振ゴムブッシュに絞り,圧入等の処理を施したとき、中間スリーブの縮径弾性変形に基づいて中間スリーブの内側のゴム弾性体部分に対しても十分に且つ全体に亘って均一に予備圧縮を与えることが可能となるといった優れた効果が得られる。
【0017】本発明においては、PPE樹脂に対して補強ガラス繊維を含有させることが望ましい(請求項2)。この場合において、補強ガラス繊維を5%以上含有させることによりPPE樹脂の熱変形抵抗を効果的に高めることができる。一方において25%を超えて含有させると、熱変形抵抗は増大するものの接着性が望ましくないレベルまで低下してしまう。
【0018】請求項3の製造方法は、防振ゴムブッシュの加硫成形後において、これに縮径方向の加圧変形力を加えてゴム弾性体に予備圧縮を与えるもので、本製造方法によれば、PPE樹脂から成る中間スリーブの大きな弾性変形能を利用して、中間スリーブの内側のゴム弾性体部分に対しても十分に且つ全体に亘って均等に予備圧縮を与えることができ、防振ゴムブッシュの耐久性能を効果的に高めることができる。
【0019】
【実施例】次に本発明の実施例を図面に基づいて詳しく説明する。図1において、10は本例の防振ゴムブッシュであって、剛性内筒部材としての円筒形状の内筒金具12と、剛性外筒部材としての円筒形状の外筒金具14と、それらの間に介設され且つ内筒金具12,外筒金具14のそれぞれに加硫接着された円筒形状のゴム弾性体16とを有している。尚、ゴム弾性体16の材質はNR/SBR系である。
【0020】ゴム弾性体16の内部には、その肉厚方向中間位置においてPPE樹脂から成る中間スリーブ18が同心状に埋設されており、この中間スリーブ18によってゴム弾性体16が外側ゴム弾性体部分16Aと内側ゴム弾性体部分16Bとに分かれている。
【0021】但し中間スリーブ18には、図2に詳しく示しているようにほぼ全面に亘って小径の貫通孔20が均等に分散形成されており、この貫通孔20を通じて中間スリーブ18の外側ゴム弾性体部分16Aと内側ゴム弾性体部分16Bとが互につながった状態となっている。
【0022】ここで中間スリーブ18は、接着剤によらないでゴム弾性体16に対して接着固定されている。これら中間スリーブ18とゴム弾性体16との接着は界面におけるポリマーの熱相溶性に基づく。
【0023】この防振ゴムブッシュ10は、例えば次のようにして製造することができる。即ち、内筒金具12,外筒金具14及び中間スリーブ18を加熱状態の成形金型のキャビティにセットし、その状態でゴム材料を射出成形により成形金型のキャビティ内に注入し、加硫成形する。
【0024】その際のゴム材料の射出及び加硫成形温度は140〜160℃程度の高温であり、PPE樹脂から成る中間スリーブ18とゴム弾性体16とはその加硫成形時に同時に接着一体化される。
【0025】またゴム材料の射出,加硫成形時において、キャビティ内部に注入されたゴム材料は中間スリーブ18の貫通孔20を通じてその外側から内側にも十分に回り込んで流動し、これによって外側ゴム弾性体部分16Aと内側ゴム弾性体部分16Bとが貫通孔20部分でつながった状態となるとともに、貫通孔20を通じてのゴム材料の流れによって、中間スリーブ18に対するゴム材料注入時の圧力の作用が軽減し、中間スリーブ18の変形が抑制される。
【0026】本例において、中間スリーブ18には補強ガラス繊維がベースポリマーを基準として20重量%含有されており、この結果、中間スリーブ18における熱変形抵抗が高められている。但し補強ガラス繊維の含有量は多過ぎるとゴム弾性体16との接着性が阻害され、逆に少な過ぎると中間スリーブ18の熱変形抵抗の向上の程度が少なくなることから、一定の量範囲で含有させることが望ましい。
【0027】図3は、補強ガラス繊維(GF)の含有量と熱変形抵抗性,接着性との関係を示している。図示のように熱変形抵抗性と接着性とは相反する関係に立っており、補強ガラス繊維の含有量が増大すれば熱変形抵抗は増大するが一方で接着性は低下する。これは中間スリーブ18とゴム弾性体16との接着が加熱下でのポリマーの相溶性によることに基づく。
【0028】本発明の防振ゴムブッシュにおける中間スリーブ18に含有させる補強ガラス繊維の含有量としては、熱変形温度が10℃以上高くなる5%から、接着力が補強ガラス繊維を含有しない場合の約半分となる25%までの範囲とするのが良好である。
【0029】本例の防振ゴムブッシュ10は、上記に従って加硫成形された後に絞り,圧入等の処理、即ち外周面から縮径方向に加圧変形力を加える処理が施され、以てゴム弾性体16に予備圧縮が付加された状態で使用される。これにより防振ゴムブッシュ10に対して良好な耐久性能が付与される。
【0030】その絞り,圧入等の処理に際して、本例の防振ゴムブッシュ10の場合、PPE樹脂から成る中間スリーブ18が優れた弾性変形能を有しているため、外側ゴム弾性体部分16Aのみならず内側ゴム弾性体部分16Bに対しても十分に予備圧縮が加えられる特長を有する。
【0031】即ち、本例の防振ゴムブッシュ10においては、加硫成形時には中間スリーブ18が良好な熱変形抵抗を示して中間スリーブ18の熱,圧力による変形が防止される一方、常温での絞り,圧入等の処理の際には中間スリーブ18が良好に弾性変形してゴム弾性体16に対し均等に予備圧縮を与えるべく作用する。
【0032】図4は本例の防振ゴムブッシュ10におけるこのような優れた特長を、中間スリーブとしてポリアミドから成るものを用いた場合との比較において示したものである。図4に示しているようにPPE樹脂から成る中間スリーブ18は、ポリアミド(PA)樹脂から成る中間スリーブに対して加硫成形時の高温状態下では曲げ弾性率、つまり熱変形抵抗性が高く、一方において製品の使用温度である60℃以下の温度では曲げ弾性率が小さく、弾性変形能に優れていることが分かる。本例の防振ゴムブッシュ10は、PPE樹脂から成る中間スリーブのこのような特長を巧みに利用したものである。
【0033】図6は、図5に示す方法に従って常温(23℃)において中間スリーブ18単体を軸直角方向に圧縮試験したときの結果を、PA樹脂(ポリアミド樹脂)から成る中間スリーブとの比較において示したものである(但しこの試験は貫通孔20の形成されていない中間スリーブ18に対して行った)。ここでPPE樹脂から成る中間スリーブは補強ガラス繊維を20%含有させたもの,PA樹脂から成る中間スリーブは補強ガラス繊維を30%含有させたものを用いた。
【0034】この結果から、PPE樹脂から成る中間スリーブ18の場合、PA樹脂から成る中間スリーブに対して常温では約20%程度弾性変形能が高く、従って内側ゴム弾性体部分16Bに対して大きな予備圧縮を与え得ることが分かる。
【0035】上記のように、本例によれば防振ゴムブッシュ10製造に際して従来必要とされていた中間スリーブ18に対する接着処理を不要となし得て、接着処理に要していた工程を省略することができ、防振ゴムブッシュ10の生産性を大幅に高めることができ、コストも低減することができる。
【0036】また加硫成形後において絞り或いは圧入処理するに際し、中間スリーブ18の弾性変形能に基づいて内側ゴム弾性体部分16Bに対しても十分に且つ全体に均等に予備圧縮を与えることができ、以て防振ゴムブッシュ10の耐久性能を効果的に高めることができる。
【0037】尚、上例では中間スリーブ18に対して円形の貫通孔20を形成するようにしているが、図7(A)に示しているように中間スリーブ18に対して円周方向に延びる形態の貫通孔22を形成したり、或いは(B)に示しているように縦方向に延びる貫通孔24を形成し、更にはまた(C)に示しているように斜めに延びる形態の貫通孔26を形成することも可能であるし、また本発明は外筒金具14を有しない防振ゴムブッシュに対して適用することも可能であるし、またその外筒金具14が軸直角方向に二分割された二つ割タイプの防振ゴムブッシュに対しても適用可能であるなど、本発明はその主旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例である防振ゴムブッシュの縦断面及び横断面形状を示す図である。
【図2】図1における防振ゴムブッシュの中間スリーブの形状を示す斜視図である。
【図3】図2の中間スリーブにおける補強ガラス繊維の含有率と熱変形抵抗性,接着性との関係を示す図である。
【図4】図2の中間スリーブにおける温度と曲げ弾性率との関係をポリアミド樹脂から成る中間スリーブとの比較において示す図である。
【図5】図2の中間スリーブに対する圧縮試験方法を示す説明図である。
【図6】図5の方法にて試験を行った結果を示す図である。
【図7】図2の中間スリーブの他の形態例を示す図である。
【符号の説明】
10 防振ゴムブッシュ
12 内筒金具
14 外筒金具
16 ゴム弾性体
16A 外側ゴム弾性体部分
16B 内側ゴム弾性体部分
18 中間スリーブ
20,22,24,26 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】 剛性内筒部材の外周面に筒状のゴム弾性体を固着するとともに、該ゴム弾性体の肉厚方向中間部位においてPPE樹脂から成る中間スリーブを該ゴム弾性体内部に埋設固着したことを特徴とする防振ゴムブッシュ。
【請求項2】 請求項1において、前記PPE樹脂から成る中間スリーブが補強ガラス繊維をPPEベースポリマーを基準として5〜25重量%の範囲で含有していることを特徴とする防振ゴムブッシュ。
【請求項3】 請求項1又は2の防振ゴムブッシュの製造方法であって、前記剛性内筒部材及び中間スリーブを成形型のキャビティにセットした状態でゴム材料を該キャビティに注入して前記ゴム弾性体を加硫成形すると同時に前記剛性内筒部材及び中間スリーブと一体化し、しかる後成形品に対して圧入,絞り加工等外周面側から縮径方向に加圧変形力を加える処理を施して中間スリーブの外周側と内周側の該ゴム弾性体を予備圧縮状態とすることを特徴とする防振ゴムブッシュの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開平9−72365
【公開日】平成9年(1997)3月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−248422
【出願日】平成7年(1995)8月31日
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)