説明

防曇ガラス

【課題】実用上十分な防曇性及びガラス基材に対する密着性を発揮することができると共に、優れた耐摩耗性を発揮することができる防曇ガラスを提供する。
【解決手段】防曇ガラスは、ガラス基材上にシランカップリング剤、多官能(メタ)アクリレート及び光ラジカル重合開始剤を含有するプライマー組成物が固化されて形成されるプライマー層と、該プライマー層上に活性エネルギー線硬化型防曇剤が活性エネルギー線により硬化されて形成される防曇層が積層されて構成されている。プライマー層及び防曇層は、ガラス基材上にプライマー組成物が塗布、乾燥されてプライマー乾燥膜が形成され、該プライマー乾燥膜上に防曇剤が塗布されて活性エネルギー線の照射によりプライマー乾燥膜及び防曇剤が硬化されて形成されるものが好ましい。多官能(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基間の分子量が30以上、10万以下の長鎖構造を有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実用上十分な防曇性及びガラス基材に対する密着性を発現することができると共に、優れた耐摩耗性を発揮することができる防曇ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラスチック成形品やガラスなどの表面には、その表面温度が露点温度以下になると、大気中の水分が細かい水滴となって結露し、曇りが生じるという重大な問題があった。このような曇りを防ぐため、従来から種々の研究がなされてきた。特に、ガラスの防曇化はショーウィンドウの防曇化や自動車ガラスの防曇化などの要望から種々の提案がなされている。しがしながら、ガラスに防曇性被膜を施すとガラスと比較して耐摩耗性が低下し、傷が付きやすくなるため、実際の使用に耐えることができない。これまでに耐摩耗性と防曇性を両立させるため様々な改良の試みがなされてきた。
【0003】
具体的には、防曇性薄膜として、アルミナ微粒子、チタニア微粒子及び非晶質のシリカとの複合酸化物膜が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。また、防曇性被膜として、アクリルポリオール及びポリオキシアルキレン系ポリオールとイソシアネートとの反応により得られるウレタン樹脂よりなるものが提案されている(例えば、特許文献2を参照)。さらに、(メタ)アクリル酸エステルと水酸基含有アクリレートとの共重合体、シランカップリング剤、ジシクロペンテニルオキシ(アルキル)(メタ)アクリレートからなる下塗り剤と、多官能(メタ)アクリレート、リン酸エステル系単量体からなる上塗り剤とからなる無機ガラス用防曇性塗装剤が提案されている(例えば、特許文献3を参照)。下塗り剤を用いることにより、ガラス基材に対する防曇層の密着性を高めることができる。
【特許文献1】特許3788532号公報(第1頁及び第2頁)
【特許文献2】特開2007−76999号公報(第2頁及び第6頁)
【特許文献3】特許2600231号公報(第2頁及び第3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されている防曇性薄膜は無機成分で構成されているため、ガラス並みの耐摩耗性が発現されるものの、硬化の際に600〜700℃という高温にする必要があるため特別な設備が必要となり、生産性が悪く現実的ではない。また、特許文献2に記載の防曇性薄膜では、吸水量を抑えることでスリップ性を向上させている。しかしながら、実使用環境下ではガラスに砂が付着したり、布以外の物が接触したりすることから、その程度のスリップ性(耐布摩耗性)の向上では不十分であった。しかも、防曇性薄膜の膜強度も2H程度であって非常に弱く、ガラス並みの耐摩耗性を得るまでには到っていなかった。
【0005】
さらに、特許文献3に記載の無機ガラス用防曇性塗装剤では、シランカップリング剤を含有する下塗り剤中に防曇性成分である(メタ)アクリル酸エステルと水酸基含有アクリレートとの共重合体が含まれている。しかしながら、この下塗り剤を硬化させた硬化物には架橋構造が形成されないため、摩耗時における衝撃を吸収、緩和することができず、ガラスに近い耐摩耗性を発現することができなかった。このように、従来技術では実用上十分な防曇性とガラスに近い優れた耐摩耗性とを両立させるには到っていなかった。
【0006】
そこで本発明の目的とするところは、実用上十分な防曇性及びガラス基材に対する密着性を発揮することができると共に、優れた耐摩耗性を発揮することができる防曇ガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、第1の発明の防曇ガラスは、ガラス基材上にシランカップリング剤、多官能(メタ)アクリレート及び光ラジカル重合開始剤を含有するプライマー組成物が固化されて形成されるプライマー層と、該プライマー層上に活性エネルギー線硬化型防曇剤が活性エネルギー線により硬化されて形成される防曇層が積層されて構成されていることを特徴とする。
【0008】
第2の発明の防曇ガラスは、第1の発明において、前記プライマー層及び防曇層は、ガラス基材上にプライマー組成物が塗布、乾燥されてプライマー乾燥膜が形成され、該プライマー乾燥膜上に活性エネルギー線硬化型防曇剤が塗布されて活性エネルギー線の照射により前記プライマー乾燥膜及び活性エネルギー線硬化型防曇剤が硬化されて形成されるものであることを特徴とする。
【0009】
第3の発明の防曇ガラスは、第1又は第2の発明において、前記プライマー層を形成する多官能(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基間の分子量が30以上、10万以下の長鎖構造を持つ多官能(メタ)アクリレートであることを特徴とする。
【0010】
第4の発明の防曇ガラスは、第1から第3のいずれか1項の発明において、前記プライマー層を形成するシランカップリング剤と多官能(メタ)アクリレートとの合計量中におけるシランカップリング剤の割合が1〜60質量%であり、多官能(メタ)アクリレートの割合が40〜99質量%であることを特徴とする。
【0011】
第5の発明の防曇ガラスは、第1から第4のいずれか1項の発明において、前記プライマー層を形成するシランカップリング剤及び活性エネルギー線硬化型防曇剤が(メタ)アクリロイル基を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
第1の発明の防曇ガラスは、ガラス基材上にシランカップリング剤、多官能(メタ)アクリレート及び光ラジカル重合開始剤を含有するプライマー組成物が固化されて形成されるプライマー層と、該プライマー層上に活性エネルギー線硬化型防曇剤が活性エネルギー線により硬化されて形成される防曇層が積層されて構成されている。このため、多官能(メタ)アクリレートにより形成された網目構造(架橋構造)を有するプライマー層に基づいて、防曇ガラス表面における摩耗時の衝撃が吸収又は緩和される。また、活性エネルギー線により活性エネルギー線硬化型防曇剤が硬化されて形成される防曇層に基づいて、防曇作用が発現される。従って、防曇ガラスは、防曇層により実用上十分な防曇性を発揮することができると共に、プライマー層により優れた耐摩耗性及びガラス基材に対する密着性を発揮することができる。
【0013】
第2の発明の防曇ガラスでは、プライマー層及び防曇層はガラス基材上にプライマー組成物が塗布、乾燥されてプライマー乾燥膜が形成され、該プライマー乾燥膜上に活性エネルギー線硬化型防曇剤が塗布されて活性エネルギー線の照射により前記プライマー乾燥膜及び活性エネルギー線硬化型防曇剤が硬化されて形成されるものである。このため、第1の発明の効果に加え、プライマー層及び防曇層を別々に形成する場合に比べてそれらの層を同時に形成することができると共に、プライマー層と防曇層との間の密着性を向上させることができる。
【0014】
第3の発明の防曇ガラスでは、プライマー層を形成する多官能(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基間の分子量が30以上、10万以下の長鎖構造を持つ多官能(メタ)アクリレートである。このため、第1又は第2の発明の効果に加えて、プライマー層の弾力性が良くなって負荷に対応する変形が容易になり、耐摩耗性を向上させることができる。
【0015】
第4の発明の防曇ガラスでは、プライマー層を形成するシランカップリング剤と多官能(メタ)アクリレートとの合計量中におけるシランカップリング剤の割合が1〜60質量%であり、多官能(メタ)アクリレートの割合が40〜99質量%である。このため、第1から第3のいずれかの発明の効果に加えて、ガラス基材に対するプライマー層の密着性と耐摩耗性とをバランス良く発揮させることができる。
【0016】
第5の発明の防曇ガラスでは、プライマー層を形成するシランカップリング剤及び活性エネルギー線硬化型防曇剤が(メタ)アクリロイル基を有する。従って、第1から第4のいずれかの発明の効果に加え、プライマー層と防曇層との密着性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の最良と思われる実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の防曇ガラスは、ガラス基材上にシランカップリング剤、多官能(メタ)アクリレート及び光ラジカル重合開始剤を含有するプライマー組成物が固化されて形成されるプライマー層と、該プライマー層上に活性エネルギー線硬化型防曇剤が活性エネルギー線により硬化されて形成される防曇層が積層されて構成されている。すなわち、プライマー層は、防曇層と同時に形成される場合と防曇層とは別に形成される場合とが含まれている。ここで、上記固化は、乾燥による固化及び反応硬化による固化の双方を含む意味である。
【0018】
プライマー層が防曇層と同時に形成される場合には、プライマー層及び防曇層は、ガラス基材上にプライマー組成物が塗布、乾燥されてプライマー乾燥膜が形成され、該プライマー乾燥膜上に活性エネルギー線硬化型防曇剤が塗布されて活性エネルギー線の照射により前記プライマー乾燥膜及び活性エネルギー線硬化型防曇剤が硬化されて形成される。一方、プライマー層が防曇層とは別に形成される場合には、プライマー組成物が硬化されてプライマー層が形成された後、活性エネルギー線硬化型防曇剤が硬化されて防曇層が形成される。プライマー層と防曇層とが同時に形成され、しかもプライマー層と防曇層との密着性が良い点から、前者の場合が好ましい。
【0019】
まず、ガラス基材について説明する。ガラス基材としては一般のケイ酸ガラス(ケイ酸塩ガラス)のほか、ソーダ石灰ガラス、カリガラス等のいずれも用いられ、さらに強化ガラス、合せガラス、耐熱ガラス等のいずれも用いられる。また、ガラス基材は自動車用の窓ガラス、建築用の窓ガラス、レンズ、鏡、ゴーグルなどいずれの用途に用いられるものであってもよい。ガラス基材の形状は通常板状であるが、シート状、塊状等のどのような形状であっても差し支えない。
【0020】
次に、プライマー層について説明する。プライマー層は、シランカップリング剤、多官能(メタ)アクリレート及び光ラジカル重合開始剤を含有するプライマー組成物が活性エネルギー線照射により硬化されて形成される。
【0021】
シランカップリング剤は、無機材料と反応するメトキシ基、エトキシ基等の加水分解性官能基及び有機材料と結合するビニル基、グリシドキシ基、(メタ)アクリロイル基等の置換基をもつ有機官能性基を有する化合物である。このシランカップリング剤は、加水分解性官能基が加水分解してシラノール基となり、該シラノール基がガラス基材表面のシラノール基と縮合反応し、化学結合することによってガラス基材に対する密着性が発現されるようになっている。
【0022】
係るシランカップリング剤としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらの中では、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の分子中に(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤が好ましい。この分子中に(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤は、プライマー層中の多官能(メタ)アクリレートと共重合し、プライマー層の耐水性を高めることができると共に、防曇層中の(メタ)アクリロイル基と化学結合し、プライマー層と防曇層との密着性を強固なものにすることができる。また、これらのシランカップリング剤を数種類組合せて使用することも可能である。
【0023】
プライマー組成物中におけるシランカップリング剤の含有量は、シランカップリング剤と多官能(メタ)アクリレートとの合計量中に好ましくは1〜60質量%、より好ましくは10〜50質量%である。この含有量が1質量%より少ない場合にはガラス基材に対するプライマー層の密着性が不十分になり、60質量%より多い場合には防曇ガラスの耐摩耗性を損なう傾向にある。
【0024】
前記多官能(メタ)アクリレートは(メタ)アクリロイル基を2個以上有するものであればよく、公知の多官能(メタ)アクリレートを全て使用することができる。これらの中では分子量が好ましくは30以上、10万以下、より好ましくは30以上、2万以下の長鎖構造を持つ多官能(メタ)アクリレートが防曇ガラスの耐摩耗性の観点から望ましい。この分子量が30を下回る場合には防曇ガラスの耐摩耗性が低下し、10万を上回る場合にはプライマー組成物が増粘してガラス基材に対する塗布性が低下する。ここで、分子量は質量基準であり、混合物の場合には平均を意味する。また、長鎖構造としてはアルキレン鎖、アルキレンオキサイド鎖、ポリウレタン鎖、ポリエステル鎖、ポリ(メタ)アクリル鎖等が挙げられる。
【0025】
アルキレン鎖を長鎖構造とする多官能(メタ)アクリレートとしては、1,3−ブチレンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4―ブチレンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ECH変性1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、ECHはエピクロルヒドリンを表す。
【0026】
アルキレンオキサイド鎖を長鎖構造とする多官能(メタ)アクリレートとしては、EO変性1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、PO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、EO、PO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、PO及びテトラメチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA−ジエポキシ−(メタ)アクリル酸付加物、EO変性ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、EO変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、PO変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、EO変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、PO変性グリセロールトリアクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、EOはエチレンオキサイド、POはプロピレンオキサイドを表す。
【0027】
ポリウレタン鎖を長鎖構造とする多官能(メタ)アクリレートとしては、ポリオールと、ポリイソシアネートと、水酸基含有(メタ)アクリレートとを反応させて得られる化合物〔ウレタン(メタ)アクリレート〕が挙げられる。用いられるポリオールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メンチルペンタンジオール、3−メチルペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、3,3,5−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、2,3,5−トリメチルペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等のジオール類、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の脂肪族トリオール、グリセリン、トリ(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトール等の脂肪族テトラオール、ジトリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0028】
ポリイソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、2,6−イソホロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−ジメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジメチレンジイソシアネート、1,5―ナフタレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物、上記のジイソシアネート化合物の3量体イソシアヌレートや、トリメチロールプロパン等のトリオール化合物1モルと上記ジイソシアネート化合物3モルとのアダクト体等のトリイソシアネート化合物、イソシアヌレート型、ビュウレット型及びアダクト型等のポリイソシアヌレート化合物等が挙げられる。
【0029】
水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート;ピロカプロラクトン変性の(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートとポリオール化合物との反応により得られる化合物等が挙げられる。
【0030】
ポリエステル鎖を長鎖構造とする多官能(メタ)アクリレートとしては、ポリオールと多塩基酸又はその無水物及び(メタ)アクリル酸の反応により得られる化合物が挙げられる。この場合ポリオールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチルペンタンジオール、3−メチルペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、3,3,5−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、2,3,5−トリメチルペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等のジオール類、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の脂肪族トリオール、グリセリン、トリ(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトール等の脂肪族テトラオール、ジトリメチロールプロパン等が挙げられる。多塩基酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸のような芳香族多価カルボン酸、コハク酸、アジピン酸のような脂肪族飽和多価カルボン酸やその無水物等が挙げられる。
【0031】
ポリ(メタ)アクリル鎖を長鎖構造とする多官能(メタ)アクリレートとしては、例えばアクリル酸重合体とグリシジル(メタ)アクリレートとの反応物、グリシジルメタクリレート重合体と(メタ)アクリル酸との反応物、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート重合体とイソシアネート基含有(メタ)アクリレートとの反応物等が挙げられる。
【0032】
これらの長鎖構造のうち、耐熱性及び耐候性の観点からはアルキレン鎖が好ましく、ガラス基材に対する密着性の観点からはポリウレタン鎖が好ましいが、防曇ガラスに要求される性能に応じて適宜選択される。
【0033】
多官能(メタ)アクリレートとしては、前記多官能(メタ)アクリレート以外のその他の単量体、そのオリゴマー等を単独で、又は前記多官能(メタ)アクリレートと共に用いることができる。そのような単量体、オリゴマーとしては、グリセロール(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性(メタ)アクリレート、エピクロルヒドリン変性エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリグリセロールジアクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリストリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、エピクロルヒドリン変性グリセロールトリアクリレート、エピクロルヒドリン変性1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、エピクロルヒドリン変性プロピレングリコールジアクリレート、エピクロルヒドリン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、エピクロルヒドリン変性フタル酸ジアクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸トリ(メタ)アクリレート、ブタンカルボン酸ジ{(メタ)アクリロイルオキシエチル}エステル、オリゴトリアクリレート、変性ポリエーテルアクリレート等のアクリル系オリゴマー、ポリエステルアクリレート、酸変性ポリエステルアクリレート等のポリエステル系オリゴマー、ビスフェノールAエポキシアクリレート、脂肪族エポキシアクリレート等のエポキシ系オリゴマー、ポリオール系ウレタンアクリレート、ポリエステル系ウレタンアクリレート等のウレタンオリゴマー等が挙げられる。
【0034】
プライマー組成物中における多官能(メタ)アクリレートの含有量は、シランカップリング剤と多官能(メタ)アクリレートとの合計量中に好ましくは40〜99質量%、より好ましくは50〜90質量%である。この含有量が40質量%より少ない場合には防曇ガラスの耐摩耗性が不十分になり、99質量%より多い場合にはガラス基材に対するプライマー層の密着性が損なわれる傾向にある。
【0035】
前記光ラジカル重合開始剤は、活性エネルギー線の照射によってラジカルを発生し、多官能(メタ)アクリレートを重合硬化させるためのものであって、一般的に知られている化合物が用いられる。光ラジカル重合開始剤として具体的には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等のベンゾイン又はベンゾインアルキルエーテル類、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、メチル−2−ベンゾイルベンゾエート等の芳香族ケトン類、ベンジル等のα−ジカルボニル類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等のベンジルケタール類、アセトフェノン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパノン等のアセトフェノン類、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン等のアントラキノン類、2,4−ジメチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム等のα−アシルオキシム類、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等のアミン類、3,3’, 4,4’−テトラ−(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン等の過酸化結合含有化合物類等である。
【0036】
これらのうち、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン等のアセトフェノン類、ベンゾフェノン、メチル−2−ベンゾイルベンゾエート等の芳香族ケトン類、ベンジルジメチルケタール等のベンジルケタール類、3,3’,4,4’−テトラ−(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン等の過酸化結合含有化合物類等が取り扱いが容易で、重合開始能力が高いために特に好ましい。また、これらの光ラジカル重合開始剤を数種類組合せて使用することも可能である。
【0037】
プライマー組成物中における光ラジカル重合開始剤の含有量は、多官能(メタ)アクリレート100質量部に対して好ましくは0.01〜20質量部、より好ましくは0.05〜10質量部である。この含有量が0.01質量部より少ない場合には多官能(メタ)アクリレートの硬化が不十分になり、20質量部より多い場合には過剰の光ラジカル重合開始剤によりプライマー層の性能が損なわれる傾向にある。
【0038】
また、プライマー組成物には、前記シランカップリング剤、多官能(メタ)アクリレート及び光ラジカル重合開始剤のほかに、その他の添加剤を配合することができる。そのような添加剤としては、シランカップリング剤の加水分解反応を促進し、その反応時間を短縮させ、ガラス基材との密着性を高めるための硬化剤、プライマー層の耐久性及び耐候性を向上させるための酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、プライマー層表面の平滑性を向上させるためのレベリング剤等が挙げられる。それらの添加剤を添加することにより、添加剤の機能に応じた性能を発現させることができる。また必要に応じて、通常の塗膜を形成する際に用いられる上記以外の単官能単量体及びそれらの重合体、オリゴマー、無機フィラー等の添加剤を添加することもできる。
【0039】
硬化剤としては、例えば無機酸又は有機酸の水溶液、アミン、アルカリ、金属触媒等が用いられる。無機酸としては塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、リン酸、有機酸としてはパラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、活性白土、塩化ホスホニトリル、アミンとしてはトリエチレンジアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、ピペリジン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、アルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルホスニウムハイドロオキサイド、金属触媒としてスズ、ニッケル、パラジウム、白金、ジブチルスズジラウレート、第一スズオレエート、ジブチルスズオキサイド等が挙げられる。
【0040】
酸化防止剤としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル3−(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]、ベンゼンプロパン酸、3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシアルキルエステル、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスホネート、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサブチル−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−クレゾール等のヒンダードフェノール系、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート等の硫黄系等が挙げられる。
【0041】
紫外線吸収剤としては、例えば2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス−(2,4−ジメチルフェニル)1,3,5−トリアジン等のヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤、2,4−ヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、2−(2’−ヒドロキシ−4’−n−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート系紫外線吸収剤、p−t−ブチルフェニルサリシレート等のサリシレート系紫外線吸収剤、エチル−シアノ−3、3−ジフェニルアクリレート等のシアノアクリレート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0042】
光安定剤としては、例えばビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバシン等のヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられる。レベリング剤としては、例えばポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等のシリコーン系のレベリング剤、アクリル系のレベリング剤、フッ素系のレベリング剤等が挙げられる。
【0043】
通常の塗膜を形成する際に用いられる他の単官能単量体及びそれらの重合体やオリゴマーとしては、例えば1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体モノ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性フタル酸モノ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド変性フタル酸のモノ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸モノ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性フェノキシ化リン酸モノ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性オクトキシ化リン酸モノ(メタ)アクリレート、アルコキシ変性リン酸モノ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性コハク酸モノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノアクリレートモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0044】
また、プライマー組成物は、配合成分の種類、添加量を適宜選択することにより、比較的低粘度の液体となる。その場合、特に溶媒を添加することなく塗布可能である。このことは、加工ラインにおいて特に溶媒の乾燥工程を必要とせず、極めて有利である。さらに必要に応じて、膜厚調整、粘度調整等の目的で溶媒を添加しても差し支えない。この際に使用される溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、メトキシエトキシブタノール等のアルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類、ポリプロピレングリコール等のグリコール類、アセトン、ジメチルケトン、ジプロピルケトン、メチルエチルケトン等のケトン類が好ましい。
【0045】
次に、防曇層について説明する。係る防曇層を形成する紫外線硬化型防曇剤などの活性エネルギー線硬化型防曇剤(単に防曇剤ともいう)は、水酸基、スルホ基、アミド基等の親水性基と、活性エネルギー線硬化可能な(メタ)アクリロイル基等のラジカル重合性反応基とを含む防曇性単量体と、他の単官能又は多官能単量体及びそれらの重合体やオリゴマー、光ラジカル重合開始剤、耐久性や耐候性を向上させるための酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防曇層表面の平滑性を向上させるためのレベリング剤等から形成される。
【0046】
防曇性単量体として具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、t−ブチルスルホン酸アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド、EO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、EO変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、EO変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールとポリイソシアネートと水酸基含有(メタ)アクリレートの反応物からなるウレタンオリゴマー等が挙げられる。単官能単量体は親水性や吸水性が高いため、防曇性を向上させる上で好ましく、多官能単量体、オリゴマーは硬化性や耐水性を向上させる上で好ましい。ウレタンオリゴマーは、密着性向上や耐摩耗性向上の観点からさらに好ましい。
【0047】
単官能又は多官能単量体及びそれらの重合体及びオリゴマーは、前記プライマー組成物を調製する際に用いた単官能又は多官能単量体及びそれらの重合体及びオリゴマーと同じものを使用することができる。これらの中でも多官能単量体及びオリゴマーは硬化性や耐水性を向上させる上で好ましく、ウレタンオリゴマーは密着性向上や耐摩耗性向上の観点からさらに好ましい。活性エネルギー線硬化型防曇剤には耐久性や耐候性を向上させるための酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防曇層表面の平滑性を向上させるレベリング剤を添加することにより各性能を向上させることができる。また必要に応じて、無機フィラー等その他添加剤を添加してもよい。
【0048】
活性エネルギー線硬化型防曇剤は(メタ)アクリロイル基を有することが好ましく、その場合プライマー組成物に含まれる(メタ)アクリロイル基と共重合乃至化学結合し、防曇層とプライマー層との密着性の向上に貢献することができる。
【0049】
次に、防曇ガラスの製造方法について説明する。まず、シランカップリング剤、多官能(メタ)アクリレート及び光ラジカル重合開始剤を含有するプライマー組成物をガラス基材上に塗布、乾燥してプライマー乾燥膜を形成する。その際、プライマー乾燥膜の膜厚は好ましくは0.1〜100μm、さらに好ましくは1〜50μmである。塗布方法としては、グラビア法、ロールコート法、ディップコート法、ハケ塗り法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ダイコート法、スピンコート法等の常法に従ったいずれの方法も採用される。塗布に際しては、必要に応じてガラス基材とプライマー乾燥膜との密着性を向上させるために、予めガラス基材表面にコロナ放電やアルカリ処理などの前処理を施しておいてもよい。
【0050】
次いで、加熱によりシランカップリング剤中のメトキシ基、エトキシ基等の加水分解性官能基とガラス基材のシラノール基とを反応させ、ガラス基材に対するプライマー乾燥膜の密着性を発現させる。この際、加熱は通常使用される加熱装置を用いればよく、加熱温度としては60〜200℃が好ましい。加熱温度が60℃より低い場合、ガラス基材のシラノール基との反応が進行せず、ガラス基材に対するプライマー乾燥膜の密着性が低下する。一方、加熱温度が200℃より高い場合、多官能(メタ)アクリレートが揮発するおそれがある。加熱時間は5分から2時間程度が好ましい。加熱時間が5分より短いとガラス基材のシラノール基との反応が進行せず、ガラス基材に対するプライマー乾燥膜の密着性が低下し、加熱時間が2時間より長いと防曇ガラスの生産性が低下する。
【0051】
続いて、プライマー乾燥膜上に防曇剤を塗布する。塗布方法としては、グラビア法、ロールコート法、ディップコート法、ハケ塗り法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ダイコート法、スピンコート法等の常法に従ったいずれの方法でもよい。
【0052】
次に、塗布された防曇剤に対して活性エネルギー線を照射し、防曇剤を硬化させて防曇層を形成すると同時に、プライマー乾燥膜中の多官能(メタ)アクリレートを硬化させてプライマー層を形成する。この際、塗布された防曇剤を乾燥させて防曇乾燥膜を形成する。この防曇乾燥膜の膜厚は、防曇層による防曇性を有効に発現させるために、好ましくは1〜100μm程度である。また、プライマー乾燥膜中の多官能(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイル基と、防曇剤中の防曇性単量体の(メタ)アクリロイル基とをプライマー層と防曇層との界面で化学結合させることで、プライマー層と防曇層との間の密着性を発現させることができる。活性エネルギー線としては、放射線、紫外線及び可視光線が使用可能であって、放射線の場合には、α線、β線、γ線又は電子線を使用できるが、硬化速度を速めることができる点、操作の簡便性の点及びガラス基材に及ぼす悪影響の点などを考慮して、紫外線が好ましく、また低エネルギーで高出力の電子線も好ましい。活性エネルギー線の線量は、好ましくは0.1〜20Mrad、より好ましくは0.5〜5Mradである。
【0053】
活性エネルギー線が紫外線又は可視光線照射の場合には、用いる光ラジカル重合開始基が吸収できる光の波長であれば特に限定されないが、具体的には光の波長が好ましくは200〜800nm、さらに好ましくは300〜600nmである。また、紫外線又は可視光線の照射量は、100mJ/cm〜5J/cmであることが好ましい。この照射量が100mJ/cm未満では(メタ)アクリロイル基の反応が不足し、防曇ガラスの耐水性等の性能が低下する。一方、照射量が5J/cmを超えると、防曇層の黄変が起って好ましくない。光源としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯、ハロゲンランプ、キセノンランプ、エキシマーレーザ、色素レーザ、YAGレーザ、太陽光等を挙げることができる。紫外線又は可視光線照射の場合には、空気中で反応を行ってもよいし、酸素による硬化阻害を低減させるために、不活性ガス雰囲気下、或いは透明プラスチックフィルム、ガラス板等によってラミネートした状態で照射を行ってもよい。
【0054】
以上の実施形態によって発揮される作用、効果につき、以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態の防曇ガラスは、ガラス基材上にシランカップリング剤、多官能(メタ)アクリレート及び光ラジカル重合開始剤を含有するプライマー組成物が固化されて形成されるプライマー層と、該プライマー層上に活性エネルギー線硬化型防曇剤が活性エネルギー線により硬化されて形成される防曇層が積層されて構成されている。このため、多官能(メタ)アクリレートにより形成された網目構造(架橋構造)を有するプライマー層に基づいて、防曇ガラス表面における摩耗時の衝撃が吸収又は緩和される。また、プライマー層に含まれるシランカップリング剤の加水分解性官能基により、ガラス基材に対する防曇層の接合力を高めることができる。さらに、活性エネルギー線により活性エネルギー線硬化型防曇剤が硬化されて形成される防曇層に基づいて防曇作用が発現され、防曇層表面に結露した水滴が吸収される。
【0055】
従って、防曇ガラスは、防曇層により実用上十分な防曇性を発揮することができると共に、プライマー層によりガラスに近い優れた耐摩耗性及びガラス基材に対する優れた密着性を発揮することができる。さらに、プライマー層が有する網目構造に基づいて、防曇ガラスはその硬度、例えば鉛筆硬度が5H〜7Hというガラスに近い硬度を発揮することができる。加えて、防曇ガラスは優れた耐水性、耐熱性、耐湿性及び耐候性を発揮することができる。よって、防曇ガラスを自動車用の窓ガラス、建築用の窓ガラスなどに好適に使用することができる。
【0056】
・ 前記プライマー層及び防曇層は、ガラス基材上にプライマー組成物が塗布、乾燥されてプライマー乾燥膜が形成され、該プライマー乾燥膜上に活性エネルギー線硬化型防曇剤が塗布されて活性エネルギー線の照射により前記プライマー乾燥膜及び活性エネルギー線硬化型防曇剤が硬化されて形成される。この場合、プライマー層及び防曇層を別々に形成する場合に比べてそれらの層を同時に形成することができると共に、プライマー層と防曇層との間の密着性を向上させることができる。
【0057】
・ プライマー層を形成する多官能(メタ)アクリレートは(メタ)アクリロイル基間の分子量が30以上、10万以下の長鎖構造を持つ多官能(メタ)アクリレートであることにより、プライマー層の弾力性が良くなって負荷に対応する変形が容易になり、耐摩耗性を向上させることができる。
【0058】
・ プライマー層を形成するシランカップリング剤と多官能(メタ)アクリレートとの合計量中におけるシランカップリング剤の割合が1〜60質量%であり、多官能(メタ)アクリレートの割合が40〜99質量%であることにより、ガラス基材に対するプライマー層の密着性と耐摩耗性とをバランス良く発揮させることができる。
【0059】
・ プライマー層を形成するシランカップリング剤及び活性エネルギー線硬化型防曇剤が(メタ)アクリロイル基を有することにより、(メタ)アクリロイル基間の化学的結合に基づいてプライマー層と防曇層との密着性を向上させることができる。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の範囲に限定されるものではない。実施例及び比較例中における物性の評価は以下に示す測定方法に従って行った。
(a)呼気防曇性
温度20℃、相対湿度50%の恒温室内で試験片の防曇層に息を吹きかけ、曇りの様態を目視により次の基準にて判定した。
【0061】
○:全く曇らない、△:やや曇りが観察される、×:全面が曇る。
(b)蒸気防曇性
60℃の恒温水槽上の水面から1cmの位置に試験片を固定し、10分後の曇りの状態を目視により次の基準に基づき評価した。
【0062】
◎:水滴が全くない、○:直径5mm以下の水滴がない、△:直径5mm以下の水滴が部分的にある、×:全面に直径5mm以下の水滴がある。
(c)耐水性
室温の水道水を満たしたビーカー中に試験片を1000時間浸漬し、取り出した後、温度20℃、相対湿度50%RHの雰囲気下で24時間放置した。その後、呼気防曇性試験を行った。
(d)密着性
JIS−K5600の碁盤目テープ法に準じて、試験片の防曇層(及びプライマー層)をカッターナイフでガラス基材に達する程度の深さで縦横方向に切断し、100個のクロスカット(切断片)を作り、セロハン粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名:セロテープ)を貼り付け、貼り付け面に対して垂直方向に剥離し、剥がれずに残ったクロスカットの数を測定した。
(e)耐摩耗性
試料表面をテーバー摩耗試験機(摩耗輪CS−10F)を用い、荷重250gの条件で500回転摩耗した前後のヘイズ値の変化量(単位:%)を測定した。
(f)鉛筆硬度
JIS−K5600に準じて、1kgの荷重をかけた鉛筆で試験片の防曇層(及びプライマー層)表面を5回引っ掻き、防曇層の破れが2回未満であった鉛筆を鉛筆硬度として測定した。
(g)耐布摩耗性
試験片の防曇層(及びプライマー層)表面に荷重4.9N/4cmでネル(綿300番)を5000回往復させたときの外観と呼気防曇性を測定し、異常がなかったものを合格(○)、異常があったものを不合格(×)とした。
(h)耐熱性
試験片を80℃の環境に500時間静置して取り出した後、温度20℃、相対湿度50%RHの雰囲気下で24時間放置した。その後、呼気防曇性試験を行い、異常がなかったものを合格(○)、異常があったものを不合格(×)とした。
(i)耐湿性
試験片を温度80℃、相対湿度99%RHの環境に500時間静置して取り出した後、温度20℃、相対湿度50%RHの雰囲気下で24時間放置した。その後、呼気防曇性試験を行い、異常がなかったものを合格(○)、異常があったものを不合格(×)とした。
(j)耐候性
試験片をサンシャインウエザーメーター〔スガ試験機(株)製、S300〕にて温度60℃、相対湿度70%RHの環境に500時間静置し、取り出した後、温度20℃、相対湿度50%RHの雰囲気下で24時間放置した。その後、呼気防曇性試験を行い、異常がなかったものを合格(○)、異常があったものを不合格(×)とした。
(実施例1)
<プライマー組成物の調製>
シランカップリング剤として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、KBM503〕20質量部、多官能(メタ)アクリレートとしてペンタエリストールトリアクリレート(PETA)80質量部、光重合開始剤として1−ヒドロキシーシクロヘキシルーフェニルーケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、IRGACURE184)5質量部、触媒として1%−硝酸水溶液1質量部、溶媒としてエタノール900質量部からなるプライマー組成物をガラス基材上に乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコーターで塗布した後、100℃で1時間乾燥してプライマー乾燥膜を形成させた。プライマー組成物の組成を表1に示した。
<紫外線硬化型防曇剤の調製>
紫外線硬化型防曇剤としてポリエチレングリコール#600ジアクリレート(#はポリエチレングリコールの数平均分子量)60質量部、ジペンタエリストールヘキサアクリレート(DPHA)40質量部、光重合開始剤として1−ヒドロキシーシクロヘキシルーフェニルーケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、IRGACURE184)5質量部、レベリング剤として変性ジメチルシロキサン〔信越化学工業(株)製、KF351〕0.5質量部、光安定剤としてビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリディニル)セバシンを主成分とするヒンダードアミン系光安定剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、TINUVIN292)0.5質量部、紫外線吸収剤として2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス−(2,4−ジメティルフェニル)1,3,5−トリアジンを主成分とするヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、TINUVIN400)0.5質量部、酸化防止剤としてペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、IRGANOX1010)0.5質量部、溶剤としてメチルエチルケトン(MEK)100質量部からなる組成物を調製した。紫外線硬化型防曇剤の組成を表2に示した。
<防曇ガラスの調製>
前記プライマー乾燥膜上に紫外線硬化型防曇剤をバーコーターにて乾燥膜厚が20μmとなるように塗布、乾燥した後、紫外線〔日本電池(株)製、120W高圧水銀灯〕3J/cmを照射して紫外線硬化型防曇剤及びプライマー乾燥膜を硬化させ、ガラス基材上にプライマー層及び防曇層が積層された防曇ガラスを得た。そして、得られた防曇ガラスについて前記各種の性能評価試験を行なった。その結果を表3に示した。
(実施例2)
シランカップリング剤として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、KBM503〕20質量部、多官能(メタ)アクリレートとして1,6−ヘキサンジオールジアクリレート〔新中村化学工業(株)製、NKエステルA−HD)80質量部、光重合開始剤として1−ヒドロキシーシクロヘキシルーフェニルーケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、IRGACURE184)5質量部、触媒として1%−硝酸水溶液1質量部、溶媒としてエタノール900質量部からなるプライマー組成物を調製した。このプライマー組成物をガラス基材上に乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコーターで塗布した後、100℃で1時間乾燥してプライマー乾燥膜を形成した。紫外線硬化型防曇剤は実施例1と同様のものを用いた。そして、実施例1と同様に操作して防曇ガラスを得た。得られた防曇ガラスについて前記各種の性能評価試験を行なった。その結果を表3に示した。なお、プライマー組成物の組成を表1に示し、紫外線硬化型防曇剤の組成を表2に示した。
(実施例3)
シランカップリング剤として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、KBM503〕70質量部、多官能(メタ)アクリレートとして1,6−ヘキサンジオールジアクリレート〔新中村化学工業(株)製、NKエステルA−HD〕30質量部、光重合開始剤として1−ヒドロキシーシクロヘキシルーフェニルーケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、IRGACURE184)5質量部、触媒として1%−硝酸水溶液1質量部、溶媒としてエタノール900質量部からなるプライマー組成物を調製した。このプライマー組成物をガラス基材上に乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコーターで塗布した後、100℃で1時間乾燥してプライマー乾燥膜を形成した。紫外線硬化型防曇剤は実施例1と同様のものを用いた。そして、実施例1と同様に操作して防曇ガラスを得た。得られた防曇ガラスについて前記各種の性能評価試験を行なった。その結果を表3に示した。なお、プライマー組成物の組成を表1に示し、紫外線硬化型防曇剤の組成を表2に示した。
(実施例4)
シランカップリング剤として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、KBM503)20質量部、多官能(メタ)アクリレートとして分子量3000のポリプロピレンオキサイドとヘキサメチレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチルアクリレートを反応させて形成される分子量5万のウレタンアクリレート80質量部、光重合開始剤として1−ヒドロキシーシクロヘキシルーフェニルーケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、IRGACURE184)5質量部、触媒として1%−硝酸水溶液1質量部、溶媒としてエタノール900質量部からなるプライマー組成物を調製した。このプライマー組成物をガラス基材上に乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコーターで塗布した後、100℃で1時間乾燥してプライマー乾燥膜を形成した。紫外線硬化型防曇剤は実施例1と同様のものを用いた。そして、実施例1と同様に操作して防曇ガラスを得た。得られた防曇ガラスについて前記各種の性能評価試験を行なった。その結果を表3に示した。なお、プライマー組成物の組成を表1に示し、紫外線硬化型防曇剤の組成を表2に示した。
(実施例5)
シランカップリング剤として3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン〔信越化学工業(株)製、KBE403〕20質量部、多官能(メタ)アクリレートとして1,6−ヘキサンジオールジアクリレート〔新中村化学工業(株)製、NKエステルA−HD〕80質量部、光重合開始剤として1−ヒドロキシーシクロヘキシルーフェニルーケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、IRGACURE184)5質量部、触媒として1%−硝酸水溶液1質量部、溶媒としてエタノール900質量部からなるプライマー組成物を調製した。このプライマー組成物をガラス基材上に乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコーターで塗布した後、100℃で1時間乾燥してプライマー乾燥膜を形成した。紫外線硬化型防曇剤は実施例1と同様のものを用いた。そして、実施例1と同様に操作して防曇ガラスを得た。得られた防曇ガラスについて各種の性能評価試験を行なった。その結果を表3に示した。なお、プライマー組成物の組成を表1に示し、紫外線硬化型防曇剤の組成を表2に示した。
(実施例6)
<プライマー組成物の調製>
シランカップリング剤として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、KBM503〕20質量部、多官能(メタ)アクリレートとして1,6−ヘキサンジオールジアクリレート〔新中村化学工業(株)製、NKエステルA−HD〕80質量部、光重合開始剤として1−ヒドロキシーシクロヘキシルーフェニルーケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、IRGACURE184)5質量部、触媒として1%−硝酸水溶液1質量部、溶媒としてエタノール900質量部からなるプライマー組成物を調製した。このプライマー組成物をガラス基材上に乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコーターで塗布した後、100℃で1時間乾燥してプライマー乾燥膜を形成した。プライマー組成物の組成を表1に示した。
〈紫外線硬化型防曇剤の調製〉
紫外線硬化型防曇剤としてポリエチレングリコール#2000(#はポリエチレングリコールの数平均分子量)60質量部とトリレンジイソシアネート30質量部と2−ヒドロキシエチルアクリレート10質量部を反応させてなるウレタンアクリレートオリゴマー100質量部、光重合開始剤として1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、IRGACURE184)5質量部、レベリング剤として変性ジメチルシロキサン〔信越化学工業(株)製、KF351〕0.5質量部、光安定剤としてビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリディニル)セバシンを主成分とするヒンダードアミン系光安定剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、TINUVIN292)0.5質量部、紫外線吸収剤として2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス−(2,4−ジメティルフェニル)1,3,5−トリアジンを主成分とするヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、TINUVIN400)0.5質量部、酸化防止剤としてペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−tert―ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、IRGANOX1010)0.5質量部、溶剤としてメチルエチルケトン(MEK)100質量部からなる組成物を調製した。紫外線硬化型防曇剤の組成を表2に示した。
<防曇ガラスの調製>
実施例6にて調製した前記プライマー乾燥膜上に紫外線硬化型防曇剤をバーコーターにて乾燥膜厚が20μmとなるように塗布、乾燥した後、紫外線〔日本電池(株)製、120W高圧水銀灯〕3J/cmを照射して紫外線硬化型防曇剤及びプライマー乾燥膜を硬化させ、ガラス基材上にプライマー層及び防曇層が積層された防曇ガラスを得た。そして、得られた防曇ガラスについて各種の性能評価試験を行なった。その結果を表3に示した。
(実施例7)
シランカップリング剤として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、KBM503〕20質量部、多官能(メタ)アクリレートとして分子量10000のポリエチレンオキサイドとヘキサメチレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチルアクリレートを反応させて形成される分子量10万のウレタンアクリレート80質量部、光重合開始剤として1−ヒドロキシーシクロヘキシルーフェニルーケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、IRGACURE184)5質量部、触媒として1%−硝酸水溶液1質量部、溶媒としてエタノール900質量部からなるプライマー組成物を調製した。このプライマー組成物をガラス基材上に乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコーターで塗布した後、100℃で1時間乾燥してプライマー乾燥膜を形成した。紫外線硬化型防曇剤は実施例1と同様のものを用いた。そして、実施例1と同様に操作して防曇ガラスを得た。得られた防曇ガラスについて各種の性能評価試験を行なった。その結果を表3に示した。なお、プライマー組成物の組成を表1に示し、紫外線硬化型防曇剤の組成を表2に示した。
(比較例1)
シランカップリング剤として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、KBM503〕100質量部、触媒として1%−硝酸水溶液1質量部、溶媒としてエタノール900質量部からなる組成物を調製した。この組成物をガラス基材上に乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコーターで塗布した後、100℃で1時間乾燥して乾燥膜を形成した。紫外線硬化型防曇剤は実施例1と同様のものを用いた。そして、実施例1と同様に操作して防曇ガラスを得た。得られた防曇ガラスについて前記各種の性能評価試験を行なった。その結果を表3に示した。
(比較例2)
多官能(メタ)アクリレートとして1,6−ヘキサンジオールジアクリレート〔新中村化学工業(株)製、NKエステルA−HD)95質量部、光重合開始剤として1−ヒドロキシーシクロヘキシルーフェニルーケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、IRGACURE184)5質量部、触媒として1%−硝酸水溶液1質量部、溶媒としてエタノール900質量部からなる組成物を調製した。この組成物をガラス基材上に乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコーターで塗布した後、100℃で1時間乾燥して乾燥膜を形成した。紫外線硬化型防曇剤は実施例1と同様のものを用いた。そして、実施例1と同様に操作して防曇ガラスを得た。得られた防曇ガラスについて前記各種の性能評価試験を行なった。その結果を表3に示した。
(比較例3)
シランカップリング剤として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、KBM503〕20質量部、メタクリル酸メチル57質量部とヒドロキシエチルメタクリレート3質量部から形成される重合体80質量部、光重合開始剤として1−ヒドロキシーシクロヘキシルーフェニルーケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、IRGACURE184)5質量部、触媒として1%−硝酸水溶液1質量部、溶媒としてエタノール900質量部からなる組成物を調製した。この組成物をガラス基材上に乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコーターで塗布した後、100℃で1時間乾燥して乾燥膜を形成した。紫外線硬化型防曇剤は実施例1と同様のものを用いた。そして、実施例1と同様に操作して防曇ガラスを得た。得られた防曇ガラスについて前記各種の性能評価試験を行なった。その結果を表3に示した。
(比較例4)
ヘキサメチレンジイソシアネートのビューレットタイプポリイソシアネート〔住友バイエルウレタン(株)製、N3200〕25質量部、平均分子量1000のポリエチレングリコール32質量部及び平均分子量3000のアクリルポリオールを50重量%有する溶液〔住友バイエルウレタン(株)製、デスモフェンA450MPA/X〕43質量部、酢酸イソブチル100質量部からなる組成物を調製した。この組成物をガラス基材上に乾燥膜厚が16μmとなるようにバーコーターで塗布した後、100℃で30分間乾燥して防曇ガラスを得た。得られた防曇ガラスについて前記各種の性能評価試験を行なった。その結果を表3に示した。
(比較例5)
メタクリル酸メチル57質量部と、ヒドロキシエチルメタクリレート3質量部から形成される重合体60質量部、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート〔日立化成(株)製、ファンクリルFA−512A〕35質量部、γ―メルカプトプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、KBM803〕5質量部、溶剤としてメチルイソブチルケトン(MIBK)30質量部、キシレン20質量部、触媒としてジクロルベンゾフェノン1質量部からなる組成物を調製した。この組成物をガラス基材上に乾燥膜厚が10μmとなるようにバーコーターで塗布した後、80℃で5分間間乾燥し、紫外線〔日本電池(株)製、120W高圧水銀灯〕1J/cmを照射して乾燥膜を硬化させてプライマー層を形成した。
【0063】
ペンタジエリスリトールヘキサアリレート〔日本化薬(株)製、DPHA〕70質量部、プロピレンオキサイド含有リン酸エステルアクリレート〔第一工業製薬(株)製、ニューフロンティアA−229E〕25質量部、溶剤としてイソプロピルアルコール350質量部、触媒としてジクロルベンゾフェノン3質量部からなる組成物をプライマー層上に乾燥膜厚が7μmとなるようにバーコーターで塗布した。その後、80℃で5分間乾燥して塗膜を形成し、紫外線〔日本電池(株)製、120W高圧水銀灯〕1J/cmを照射することでその塗膜を硬化させて防曇ガラスを得た。得られた防曇ガラスについて前記各種の性能評価試験を行なった。その結果を表3に示した。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

表3に示したように、実施例1〜7の防曇ガラスでは、優れた呼気防曇性及び蒸気防曇性を発揮することができ、優れた密着性を発揮することができると共に、ヘイズ値が9%以下という優れた耐摩耗性を発揮することができた。また、防曇ガラスは鉛筆硬度が5H〜7Hというガラスに近い硬度を発揮することができた。さらに、防曇ガラスは優れた耐水性、耐熱性、耐湿性及び耐候性を発揮することもできた。
【0067】
これに対し、比較例1ではプライマー層中に多官能アクリレートが含まれないため、耐摩耗性が不足する結果を招いた。比較例2ではプライマー層中にシランカップリング剤が含まれていないため、ガラス基材に対する密着性及び耐水性、さらには耐湿性及び耐候性が不足する結果であった。比較例3及び5ではプライマー層中に重合体は含まれるが、多官能(メタ)アクリレートが含まれないため、プライマー層中に架橋構造が形成されず、耐摩耗性が不足した。比較例4ではプライマー層がないため耐摩耗性が悪く、また防曇層中の防曇性単量体の量が少ないため、蒸気防曇性も不足した。このように、比較例1〜5では防曇性、耐水性、密着性、耐摩耗性、耐湿性、耐候性のいずれかの性能の点で劣っていることが明らかとなり、本発明の有用性が実証された。
【0068】
なお、前記実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・ プライマー組成物におけるシランカップリング剤の(メタ)アクリロイル基、多官能(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイル基及び活性エネルギー線硬化型防曇剤における防曇性単量体の(メタ)アクリロイル基が同一になるように構成することができる。
【0069】
・ プライマー組成物を形成するシランカップリング剤及び多官能(メタ)アクリレートをそれぞれ複数種類組合せて使用することもでき、光ラジカル重合開始剤も複数種類使用することができる。
【0070】
・ 活性エネルギー線硬化型防曇剤の特に防曇性単量体について、複数種類のものを適宜組合せて使用することもできる。
・ プライマー層又は防曇層に、二酸化チタン、二酸化ケイ素等の無機微粒子を配合することも可能である。
【0071】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記プライマー層を形成するシランカップリング剤及び活性エネルギー線硬化型防曇剤が同一の(メタ)アクリロイル基を有することを特徴とする請求項5に記載の防曇ガラス。このように構成した場合、請求項5に係る発明の効果を最も有効に発揮することができる。
【0072】
・ 前記活性エネルギー線硬化型防曇剤は、紫外線硬化型防曇剤であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の防曇ガラス。このように構成した場合、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加えて、プライマー層及び防曇剤の良好な硬化性及び硬化操作の簡便性を得ることができる。
【0073】
・ ガラス基材上にシランカップリング剤、多官能(メタ)アクリレート及び光ラジカル重合開始剤を含有するプライマー組成物を塗布、乾燥してプライマー乾燥膜を形成した後、該プライマー乾燥膜上に活性エネルギー線硬化型防曇剤を塗布し、活性エネルギー線を照射して前記プライマー乾燥膜及び活性エネルギー線硬化型防曇剤を硬化してプライマー層上に防曇層を積層することを特徴とする防曇ガラスの製造方法。この製造方法によれば、実用上十分な防曇性及びガラス基材に対する密着性を発揮することができると共に、優れた耐摩耗性を発揮することができる防曇ガラスを効率良く製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基材上にシランカップリング剤、多官能(メタ)アクリレート及び光ラジカル重合開始剤を含有するプライマー組成物が固化されて形成されるプライマー層と、該プライマー層上に活性エネルギー線硬化型防曇剤が活性エネルギー線により硬化されて形成される防曇層が積層されて構成されていることを特徴とする防曇ガラス。
【請求項2】
前記プライマー層及び防曇層は、ガラス基材上にプライマー組成物が塗布、乾燥されてプライマー乾燥膜が形成され、該プライマー乾燥膜上に活性エネルギー線硬化型防曇剤が塗布されて活性エネルギー線の照射により前記プライマー乾燥膜及び活性エネルギー線硬化型防曇剤が硬化されて形成されるものであることを特徴とする請求項1に記載の防曇ガラス。
【請求項3】
前記プライマー層を形成する多官能(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基間の分子量が30以上、10万以下の長鎖構造を持つ多官能(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の防曇ガラス。
【請求項4】
前記プライマー層を形成するシランカップリング剤と多官能(メタ)アクリレートとの合計量中におけるシランカップリング剤の割合が1〜60質量%であり、多官能(メタ)アクリレートの割合が40〜99質量%であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の防曇ガラス。
【請求項5】
前記プライマー層を形成するシランカップリング剤及び活性エネルギー線硬化型防曇剤が(メタ)アクリロイル基を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の防曇ガラス。

【公開番号】特開2009−102208(P2009−102208A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277773(P2007−277773)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】