説明

防汚剤組成物

【課題】シリコーンによる防汚性は保持しながらも、固体表面のウォータースポットを抑制可能な防汚剤組成物を提供する。
【解決手段】側鎖及び/又は末端に親水基を有するシリコーンと、カルボン酸系ポリマーとを含有し、カルボン酸系ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸系ポリマーが好ましく、(メタ)アクリル酸系モノマーと、スルホン酸基を有する(メタ)アリルエーテル系モノマーとの共重合体がより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に溶解あるいは分散させた状態で、固体表面に適用することにより、該表面に汚れが付着するのを抑制するとともに、乾燥後も固体表面の美観を維持することが可能な防汚剤組成物に関するものであり、特に、陶磁器、ガラス、ステンレス等の硬質表面に好適に使用可能な防汚剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、便器等の固体表面に汚垢が付着するのを防止するコーティング剤として、特許文献1に記載されているように、固体表面に対して吸着性を示す基を側鎖及び/又は末端に有するシリコーンを含有するものが知られている。
【0003】
上記コーティング剤は、放水タップからの水及び/又はトイレ水タンク中の水に分散又は溶解した状態で、固体表面にフラッシュすると、該表面にシリコーンが吸着し、このシリコーンが有するオルガノポリシロキサン骨格により、固体表面に優れた撥水性を付与するものである。これにより、例えば、大便のように、65〜70%もの水分を含む含水汚垢の付着を効果的に抑制することが可能となる。
【特許文献1】特開2002−88313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コーティング処理された固体表面におけるシリコーンは、固体表面に対して吸着しているだけで化学的に結合しているわけではないため、使用とともに撥水効果は薄れるが、コーティング剤を分散又は溶解させた水(以下、処理液という)を繰返し固体表面にフラッシュすることにより、良好な撥水効果を持続させることが可能となる。
【0005】
しかしながら、コーティング処理された固体表面に処理液をフラッシュすると、固体表面が有する撥水性により処理液がスムーズに流下せず、水滴となって固体表面に残存しやすくなる。
【0006】
一般に、上水中にはケイ酸を主成分とするミネラル分が含まれている。したがって、固体表面に処理液の水滴が残存すると、水滴が乾燥して、水滴中のミネラル分が斑点状に残る、いわゆるウォータースポットが発生し、見た目が悪くなるという問題が生じていた。特に、コーティング剤中に着色料が含まれている場合には、着色ウォータースポット(斑点状の色じみ)になって固体表面の美観を著しく低下させていた。
【0007】
そこで、本発明は、シリコーンによる防汚性は保持しながらも、固体表面のウォータースポットを抑制可能な防汚剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る防汚剤組成物は、側鎖及び/又は末端に親水基を有するシリコーンと、カルボン酸系ポリマーとを含有することを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、親水性ポリマーであるカルボン酸系ポリマーによって側鎖及び/又は末端に親水基を有するシリコーンの撥水性を低減させることが可能となり、これにより固体表面に処理液が水滴として残りにくくなって、ウォータースポットを効果的に防止することが可能となる。
【0010】
ここで、側鎖及び/又は末端に親水基を有するシリコーンとは、側鎖及び/又は末端にアミノ基、アミド基、ポリエーテル基(−(C24O)a(C36O)b−R)、シラン基等の親水基を有するシリコーンであって、水中に溶解又は分散可能なものをいう。側鎖及び/又は末端に親水基を有するシリコーンとしては、具体的に、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メタクリル変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、フェノール変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノ・ポリエーテル変性シリコーン、アミド・ポリエーテル変性シリコーン、高級脂肪酸エステル変性シリコーン等を例示することができる(以下、単にシリコーンという)。
【0011】
上記シリコーンの中でも、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノ・ポリエーテル変性シリコーン、アミド・ポリエーテル変性シリコーンが、固体表面への吸着性に優れている点でより好ましい。
【0012】
上記シリコーンは、親水基が固体表面に対して吸着性を有するため、固体表面にシリコーンをコーティングすることが可能となり、固体表面への汚垢の付着を効果的に抑制することが可能となる。
【0013】
本発明で重要なのは、シリコーンと、カルボン酸系ポリマーとを併用することによって、固体表面における撥水性は低減するものの、防汚性は低下せず、その性能を保持可能な点である。
【0014】
すなわち、シリコーンによってコーティング処理された固体表面は、良好な撥水性を発揮するため、含水汚垢の付着量は確かに少なくなる。しかしながら、固体表面の防汚性を評価するに当たってより重要なのは、いったん固体表面に付着した汚垢を容易に除去することができるかどうかである。特に、油性の汚垢は、流水によっても流れにくいため、固体表面が油をはじく性質(撥油性)を有しているがどうかが防汚性に大きく影響する。
【0015】
シリコーンによってコーティング処理された固体表面は、撥水性のみならず良好な撥油性を発揮するため、油性汚垢が固体表面に付着しても、流水によって容易に除去することが可能となる。
【0016】
以上を踏まえて、本発明者は、シリコーンの撥水性を低減させることができれば、たとえ多少汚垢が固体表面に付着しやすくなったとしても、付着した汚垢はシリコーンの撥油性によって容易に除去可能であり、結果として良好な防汚性を維持しつつ、ウォータースポットを抑制することが可能になるのではないかとの発想を基に鋭意検討を重ねた結果、カルボン酸系ポリマーがシリコーンの撥水性を選択的に低減させることができることを見いだして本発明を完成させるに至ったものである。
【0017】
すなわち、従来は、シリコーンの持つ撥水性及び撥油性については特に区別されることなく、両者が一体となって良好な防汚性が得られると考えられていたところ、本発明においては、あえてそのうちの撥水性を低下させることで、防汚性を維持しつつ、水滴残りによるウォータースポットの発生を抑制可能としたものである。
【0018】
カルボン酸系ポリマーは、カルボキシル基を有するポリマーを意味し、例えば、カルボキシル基を有する不飽和カルボン酸又はその塩を重合することによって得られる。不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸等の一塩基酸や、マレイン酸、フマル酸等の多塩基酸が挙げられる。重合体は、ホモポリマーであってもよいし、コポリマーであってもよい。その中でも特に、(メタ)アクリル酸又はその塩を重合させて得られる(メタ)アクリル酸系ポリマーが、撥油性に対する影響度が小さく、かつ撥水性の低減効果が大きい点で好ましい。
【0019】
(メタ)アクリル酸系ポリマーの中でも、シリコーンの撥水性の低減効果からいえば、下記一般式(1)で示す(メタ)アクリル酸系モノマーと、下記一般式(2)で示す(メタ)アリルエーテル系モノマーとの共重合体が特に好ましい。
一般式:CH2=C(R1)−COOX・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
一般式:CH2=C(R2)−CH2−O−CH2−CH(Y)−CH2−Z・・・・(2)
(式中、R1およびR2は、水素原子又はメチル基を表し、Xは、水素原子、金属原子、アンモニウム基、有機アミン基のいずれかを表し、YおよびZの少なくとも一方はスルホン酸基(但し、1価金属塩、2価金属塩、アンモニウム塩、若しくは有機アミン基の塩を含む。)であり、他方は水酸基又はスルホン酸基である。)
【0020】
本発明の防汚剤組成物には、上記シリコーン、カルボン酸系ポリマーのほかに、界面活性剤、硫酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウム等の増量剤、着色料等を配合することができる。特に、防汚剤組成物中に着色料を含む場合、ウォータースポットが着色料によって着色され、固体表面の外観を著しく損なっていたが、本発明では、固体表面に水滴を残りにくくすることにより、このような着色ウォータースポットを効果的に防止することが可能となる。
【0021】
さらに、香料、消臭成分、油性成分の乳化可溶化剤、殺菌剤、キレート剤、溶解性調整剤、漂白剤、充填剤、pH調整剤、増粘剤、薬剤安定性向上剤、成形性向上剤、無機系ビルダー、有機系ビルダー、酵素等を適宜配合することもできる。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、側鎖及び/又は末端に親水基を有するシリコーンと、カルボン酸系ポリマーとを併用したため、防汚性を維持しつつ、水滴残りによるウォータースポットの発生を抑制することが可能となる。
【実施例】
【0023】
防汚剤組成物として、シリコーンにカルボン酸系ポリマーをはじめとする親水性ポリマーを加えて、さらに界面活性剤(洗浄成分)、硫酸ナトリウム(増量剤)、色素及び香料を加えてプレス成形したものを作製した。これをトイレ用防汚洗浄剤として用い、ウォータースポットの評価、及び、実際の便器の防汚性評価を行なった。以下に詳細を記す。
【0024】
[トイレ用防汚洗浄剤の調製]
トイレ用防汚洗浄剤して10種類の試料を作製した。各試料の処方を表1に記す。表中、シリコーンとしては、アミノ変性シリコーン(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製SF8417)と、ポリエーテル変性シリコーン(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製SH3371M)の2種類を使用した。
【0025】
親水性ポリマーとしては、カルボン酸系ポリマーの他に、ポリエチレングリコール(PEG)およびポリビニルアルコール(PVA)を使用した。カルボン酸系ポリマーとしては、アクリル酸および2-ヒドロキシ-3-アリロキシプロパンスルホン酸(CH2=CH−CH2−O−CH2−CH(OH)−CH2−SO3H)の共重合体ナトリウム塩(株式会社日本触媒製アクアリックGL366)、アクリル酸及びマレイン酸の共重合体ナトリウム塩(株式会社日本触媒製アクアリックTL37)、ポリアクリル酸ナトリウム塩(株式会社日本触媒製アクアリックDL100)の3種類を用いた。
【0026】
界面活性剤としては、洗浄力と持続性とを考慮してアニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤とを併用した。アニオン界面活性剤としては、アミノ酸塩、脂肪酸塩、スルホン酸塩型界面活性剤、硫酸エステル塩型界面活性剤を用い、これらを種々組み合わせて使用した。また、ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ポリオキシブチレンのブロック共重合体を使用した。
【0027】
本発明に係るトイレ用防汚洗浄剤としては、シリコーンにカルボン酸系ポリマーを添加し、さらに界面活性剤、硫酸ナトリウム、色素及び香料を加えた6種類の試料(本発明品No.1〜6)を作製した。
【0028】
比較品としては、カルボン酸系ポリマーは添加せずに、それ以外の成分は本発明品と同様に配合したもの(比較品No.1、2)と、カルボン酸系ポリマーのかわりにPEG又はPVAを配合したもの(比較品No.3、4)を作製した。なお、比較品No.1及び2においては、カルボン酸系ポリマーが減った分だけ増量剤である硫酸ナトリウムを増量し、その他成分の配合量は一定とした。
【0029】
【表1】

【0030】
[評価試験]
(1)ウォータースポットの評価
上記10種類のトイレ用防汚洗浄剤(本発明品NO.1〜6、比較品NO.1〜4)について、最終濃度が5ppmになるように各薬剤を上水に溶かした試験液を作製した。
【0031】
次に、INAX社製便器を2×3cmにカットしたテストパネルをアセトンで表面清浄化し、これを各試験液に4秒間浸漬した後、15分間自然乾燥させる動作を500回繰り返した(1ヶ月便器を使用したのと同じ状態)後のタイル表面の状態を評価した。なお、評価は以下の判定基準に基づいて行なった。結果を表1に示す。
◎:ウォータースポットが発生しない(5%以下)
○:ウォータースポットがごくわずかに発生(5〜10%)
△:ウォータースポットが斑点状に広く薄く発生(10〜30%)
×:ウォータースポットが斑点状に広く濃く発生(30%以上)
(注)…( )内の数値は、テストパネル全面積に対するウォータースポットの占める
面積比率
【0032】
(2)実際の便器を使用した防汚性評価
トイレタンクの放水タップの下に表1で作製したトイレ用防汚洗浄剤を配し、タップから放出された水がトイレ用防汚洗浄剤に接触するようにセットした。次に、タンク内の水をフラッシュしてトイレ用防汚洗浄剤を溶解させ、タンク内に防汚洗浄剤の水溶液(およそ10〜15ppm)が貯蔵されるようにした。
【0033】
ここまで準備した上で、タンク内の防汚洗浄剤の水溶液をフラッシュして30分間室温で乾燥させる工程を3回繰返し、便器表面がコーティングされた状態にした。そこに大便のモデル汚垢を一定量塗り付けた後、トイレタンク内の防汚洗浄剤の水溶液を1回だけフラッシュし、便器の汚れの残り具合を目視で確認した。なお、モデル汚垢としては、サラダ油とカーボンブラックとを重量比で100:2の割合で混合したものを使用した。評価は以下の判定基準に基づいて行なった。結果を表1に示す。
◎:汚れが付いていない。
○:汚れが僅かに付いている。
△:汚れが少し付いている。
×:汚れがかなり付いている。
【0034】
[評価結果]
表1より、親水性ポリマーとしてカルボン酸系ポリマーを配合した防汚洗浄剤(本発明品No.1〜6)は、シリコーンの種類に拘らず、いずれもウォータースポットの評価が○以上となり、カルボン酸系ポリマーを含有しない防汚洗浄剤(比較品No.1、2)に比べて評価が向上しているのが判る。
【0035】
特に、カルボン酸系ポリマーとして、アクリル酸及び2-ヒドロキシ-3-アリロキシプロパンスルホン酸の共重合体ナトリウム塩(アクアリックGL366)を使用した本発明品No.5及び6は、ウォータースポットの評価が◎と、他の試料よりも高い評価となった。
【0036】
また、カルボン酸系ポリマーを加えても便器の防汚効果は低下せず、いずれも○の評価を維持しており、撥水性のみを選択的に低減することが確認された。
【0037】
上述したように、本実施例により、カルボン酸系ポリマーを加えることにより、便器の防汚効果を低下させることなくウォータースポットを改善可能であることが明らかになった。
【0038】
一方、親水性ポリマーとしてカルボン酸系ポリマーの代わりにPEG又はPVAを配合した防汚洗浄剤(比較品No.3、4)は、ウォータースポットの評価が比較品No.1と同等であり、いずれも撥水性の低減効果は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖及び/又は末端に親水基を有するシリコーンと、カルボン酸系ポリマーとを含有することを特徴とする防汚剤組成物。
【請求項2】
前記カルボン酸系ポリマーが、(メタ)アクリル酸系ポリマーであることを特徴とする請求項1記載の防汚剤組成物。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル酸系ポリマーが、下記一般式(1)で示す(メタ)アクリル酸系モノマーと、下記一般式(2)で示す(メタ)アリルエーテル系モノマーとの共重合体である請求項1又は2記載の防汚剤組成物。
一般式:CH2=C(R1)−COOX ・・・・(1)
一般式:CH2=C(R2)−CH2−O−CH2−CH(Y)−CH2−Z・・・・(2)
(式中、R1およびR2は、水素原子又はメチル基を表し、Xは、水素原子、金属原子、アンモニウム基、有機アミン基のいずれかを表し、YおよびZの少なくとも一方はスルホン酸基(但し、1価金属塩、2価金属塩、アンモニウム塩、若しくは有機アミン基の塩を含む。)であり、他方は水酸基又はスルホン酸基である。)
【請求項4】
さらに着色料を含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の防汚剤組成物。

【公開番号】特開2006−57027(P2006−57027A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−241720(P2004−241720)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】