説明

防汚塗料

【課題】船舶、海中構造物、漁具等への海生生物の付着を、長期に渡って防ぐ技術を提供する。特に、大型の海生生物の付着を防ぐことを可能にする、環境に安全な防汚塗料を提供する。
【解決手段】ニトリル系抗菌剤、ピリジン系抗菌剤、ハロアルキルチオ系抗菌剤、有機ヨード系抗菌剤、及びチアゾール系抗菌剤及びベンツイミダゾール系抗菌剤からなる抗菌組成物、無機銅化合物、シリコーン含有率が3〜15質量%のシリコーン−アクリル樹脂、並びにシリコーンオイルを含む防汚塗料を、船舶、海中構造物、漁具等へ塗工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶、海中構造物、漁具等の海中で長期に渡って使用される物に、貝類、藻類等の海生生物が付着するのを防止するための防汚塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、海中構造物、漁具等は、海中で長期に渡って使用されるために、海藻類、フジツボ、セルプラ、コケムシ、軟体動物類などの海生生物が付着し、その保守には多大な労力及び費用がかかる。
この様な海生生物による海中構造物の腐食や船舶の航行速度の低下を防止するため、また、養殖用の網や金網等の漁具への海生生物の付着による魚介類の致死を防止するため、従来、有機錫化合物を含む防汚塗料が使用されてきた。
しかしながら、有機錫化合物は、環境毒性、特に魚類への毒性物質の蓄積が問題となり、その使用が制限されるようになっている。この様な中で、亜酸化銅等の無機銅化合物等の防汚成分の利用が注目されるようになっている。
例えば、ベリリウム銅合金粉末を分散させた防汚塗料が開発されている(特許文献1)。また、亜酸化銅等の無機銅化合物及び1,3−ジシアノ−2,4,5,6−テトラクロロベンゼンの防汚剤をカルボキシル基などの反応性官能基を有する樹脂に分散させ、防汚剤を長期に渡って放出する防汚塗料が開発されている(特許文献2)。また、銅および/または銅化合物とポリエーテルシリコーンを含む水性防汚組成物も開発されている(特許文献3)。
一方、重金属を含まない防汚剤も開発されている。例えば、トリフェニルボロンピリジンとシリコーンオイルを樹脂に含有させた魚網具防汚剤(特許文献4)、ポリエーテルシリコーンと、トリフェニルボロン・ロジンアミン錯体またはトリフェニルボロン・アルキルアミン錯体と樹脂と溶剤を含有する漁網用防汚剤(特許文献5)、ビスジメチルジチオカルバモイルエチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛と、(メタ)アクリレート樹脂と、ポリエーテルシリコーンと、一塩基酸を含む防汚塗料組成物(特許文献6)等が開発されている。
また、ポリシロキサンブロックとアクリル樹脂ブロックと特定の金属含有結合を含むブロック共重合体を防汚塗料の成分として使用する技術(特許文献7、特許文献8)が開発されている。
しかしながら、これまでの技術では、大型海生生物の付着を長期に渡って防ぐのは困難であり、更に防汚性が高い防汚塗料の開発が望まれていた。
【0003】
一方、ニトリル系抗菌剤、ピリジン系抗菌剤、ハロアルキルチオ系抗菌剤、有機ヨード系抗菌剤及びチアゾール系抗菌剤、及びベンツイミダゾール系抗菌剤を有効成分として含む抗菌組成物が知られている(特許文献9)。そして、この様な抗菌組成物は、各種細菌、真菌、微小藻の増殖を防止することが知られている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−228468号公報
【特許文献2】特開7−166107号公報
【特許文献3】特開2006−193731号公報
【特許文献4】特開平7−133207号公報
【特許文献5】特開平11−199414号公報
【特許文献6】特開2002−80778号公報
【特許文献7】特開2001−72869号公報
【特許文献8】特開2006−77095号公報
【特許文献9】特許3526919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、船舶、海中構造物、漁具等への海生生物の付着を、長期に渡って防ぐ技術を提供することを課題とする。特に、大型の海生生物の付着を防ぐことを可能にする、環境に安全な防汚塗料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために、大型海生生物の付着のメカニズム、付着防止に有効な成分について研究を重ねた。そして、大型海生生物の付着を防止するために、バクテリア増殖の抑制、及び付着忌避の誘引について検討を行った結果、ニトリル系抗菌剤、ピリジン系抗菌剤、ハロアルキルチオ系抗菌剤、有機ヨード系抗菌剤、及びチアゾール系抗菌剤及びベンツイミダゾール系抗菌剤からなる抗菌組成物、無機銅化合物、並びにシリコーン含有率が3〜15質量%のシリコーン−アクリル樹脂を含む防汚塗料を塗工した魚網及び船底は、長期に渡って、大型の海生生物を含む、各種海生生物の付着が起こらないことを知見し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)抗菌組成物、銅及び/又は無機銅化合物、シリコーン−アクリル樹脂、並びにシリコーンオイルを含む防汚塗料であって、前記抗菌組成物が、ニトリル系抗菌剤、ピリジン系抗菌剤、ハロアルキルチオ系抗菌剤、有機ヨード系抗菌剤、チアゾール系抗菌剤及びベンツイミダゾール系抗菌剤からなり、前記シリコーン−アクリル樹脂におけるシリコーン含有率が、3〜15質量%である、防汚塗料。
(2)前記抗菌組成物が、ハロイソフタロニトリル化合物、スルフォニルハロピリジン化合物及び/又はピリジンチオール−1−オキシド化合物、ハロアルキルチオスルフィミド化合物、ヨードスルフォニルベンゼン化合物、イソチアゾリン−3−オン化合物、並びに、ベンツイミダゾールカルバミン酸化合物及び/又はベンツイミダゾールの環式化合物誘導体からなる、(1)に記載の防汚塗料。
(3)前記抗菌組成物の含有量が、3〜15質量%である、(1)又は(2)に記載の防汚塗料。
(4)前記抗菌組成物が、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、2,3,5,6−テトラクロロ−4−メチルスルフォニルピリジン及び2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウム、N,N−ジメチル−N’−フェニル−N’−(フロロジクロロメチルチオ)スルフィミド、ジヨードメチル−p−トリルスルフォン、2−(n−オクチル)−4−イソチアゾリン−3−オン、並びに1H−2−ベンツイミダゾールカルバミン酸メチル及び2−(4−チアゾリル)−1H−ベンツイミダゾールからなる、(2)又は(3)に記載の防汚塗料。
【発明の効果】
【0008】
本発明の防汚塗料は、長期に渡って、大型の海生生物を含む各種海生生物の付着を防ぐ。また、環境にも安全であるため、実用性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の防汚塗料は、抗菌組成物、銅及び/又は無機銅化合物、シリコーン−アクリル樹脂、並びにシリコーンオイルを含む。
【0010】
(1)抗菌組成物
本発明の防汚塗料において、前記抗菌組成物は、ニトリル系抗菌剤、ピリジン系抗菌剤、ハロアルキルチオ系抗菌剤、有機ヨード系抗菌剤、チアゾール系抗菌剤、及びベンツイミダゾール系抗菌剤からなる。
なお、本発明において、「抗菌」とは細菌、原核藻類、カビ・酵母・キノコ等の真菌類、真核藻類に対する生育を阻害することをいう。
【0011】
ニトリル系抗菌剤として好ましくは、ハロアリールニトリル化合物、より好ましくはハロイソフタロニトリル化合物が挙げられる。ハロイソフタロニトリル化合物としては、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、5−クロロ−2,4,6−トリフロロイソフタロニトリル等を挙げることができる。
【0012】
ピリジン系抗菌剤として好ましくは、ハロゲン化されたピリジン誘導体、ピリジンチオール−1−オキシド化合物等が挙げられ、より好ましくは、スルフォニルハロピリジン化合物、ピリジンチオール−1−オキシド化合物等が挙げられる。
【0013】
上記ハロゲン化されたピリジン誘導体としては、2−クロロ−6−トリクロロメチルピリジン、2−クロロ−4−トリクロロメチル−6−メトキシピリジン、2−クロロ−4−トリクロロメチル−6−(2−フリルメトキシ)ピリジン、ジ(4−クロロフェニル)ピリジルメタノールや、スルフォニルハロピリジン化合物に分類される、2,3,5,6−テトラクロロ−4−メチルスルフォニルピリジン、2,3,5−トリクロロ−4−(n−プロピルスルフォニル)ピリジン等が挙げられ、ピリジンチオール−1−オキシド化合物としては、2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキシド亜鉛、ジ(2−ピリジンチオール−1−オキシド)等が挙げられる。
【0014】
ハロアルキルチオ系抗菌剤として好ましくは、ハロアルキルチオフタルイミド化合物、ハロアルキルチオテトラヒドロフタルイミド化合物、ハロアルキルチオスルファミド化合物、ハロアルキルチオスルフィミド化合物等が挙げられ、より好ましくは、ハロアルキルチオスルフィミド化合物等を挙げることができる。
【0015】
上記ハロアルキルチオフタルイミド化合物としては、N−フロロジクロロメチルチオフタルイミド、N−トリクロロメチルチオフタルイミド等が挙げられ、ハロアルキルチオテトラヒドロフタルイミド化合物としては、N−1,1,2,2−テトラクロロエチルチオテトラヒドロフタルイミド、N−トリクロロメチルチオテトラヒドロフタルイミド等を挙げることができる。
【0016】
また、ハロアルキルチオスルファミド化合物としては、N−トリクロロメチルチオ−N−(フェニル)メチルスルファミド、N−トリクロロメチルチオ−N−(4−クロロフェニル)メチルスルファミド、N−(1−フロロ−1,1,2,2−テトラクロロエチルチオ)−N−(フェニル)メチルスルファミド、N−(1,1−ジフロロ−1,2,2−トリクロロエチルチオ)−N−(フェニル)メチルスルファミド等が挙げられ、ハロアルキルチオスルフィミド化合物としては、N,N−ジメチル−N'−フェニル−N'−(フロロジクロロメチルチオ)スルフィミド、N,N−ジクロロフロロメチルチオ−N'−フェニルスルフィミド、N,N−ジメチル−N'−(p−トリル)−N'−(フロロジクロロメチルチオ)スルフィミド等を挙げることができる。
【0017】
有機ヨード系抗菌剤として好ましくは、ヨードスルフォン化合物、ヨウ化不飽和脂肪族化合物等が挙げられ、より好ましくは、ヨードスルフォニルベンゼン化合物を挙げることができる。
【0018】
上記ヨードスルフォニル化合物としては、ヨードスルフォニルベンゼン化合物である、ジヨードメチル−p−トリルスルフォン、1−ジヨードメチルスルフォニル−4−メチルベンゼン、1−ジヨードメチルスルフォニル−4−クロロベンゼン等が挙げられ、また、ヨウ化不飽和脂肪族化合物としては、3−ヨード−2−プロパルギルブチルカルバミン酸
、4−クロロフェニル−3−ヨードプロパルギルホルマール、3−エトキシカルボニルオキシ−1−ブロム−1,2−ジヨード−1−プロペン、2,3,3−トリヨードアリルアルコール等を挙げることができる。
【0019】
チアゾール系抗菌剤として好ましくは、イソチアゾリン−3−オン化合物、ベンツチアゾール化合物等が挙げられ、より好ましくは、イソチアゾリン−3−オン化合物等を挙げることができる。
【0020】
上記イソチアゾリン−3−オン化合物としては、1,2−ベンツイソチアゾリン−3−オン、2−(n−オクチル)−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−シクロヘキシル−4−イソチアゾリン−3−オン等が挙げられ、ベンツチアゾール化合物としては、2−(4−チオシアノメチルチオ)ベンツチアゾール、2−メルカプトベンツチアゾールナトリウム、2−メルカプトベンツチアゾール亜鉛等を挙げることができる。
【0021】
ベンツイミダゾール系抗菌剤として好ましくは、ベンツイミダゾールカルバミン酸化合物、イオウ原子含有ベンツイミダゾール化合物、ベンツイミダゾールの環式化合物誘導体等を挙げることができ、より好ましくは、ベンツイミダゾールカルバミン酸化合物、ベンツイミダゾールの環式化合物誘導体等が挙げられる。
【0022】
上記ベンツイミダゾールカルバミン酸化合物としては、1H−2−ベンツイミダゾールカルバミン酸メチル、1−ブチルカルバモイル−2−ベンツイミダゾールカルバミン酸メチル、6−ベンゾイル−1H−2−ベンツイミダゾールカルバミン酸メチル、6−(2−チオフェンカルボニル)−1H−2−ベンツイミダゾールカルバミン酸メチル等が挙げられる。
【0023】
また、イオウ原子含有ベンツイミダゾール化合物としては、1H−2−チオシアノメチルチオベンツイミダゾール、1−ジメチルアミノスルフォニル−2−シアノ−4−ブロモ−6−トリフロロメチルベンツイミダゾール等を挙げることができる。
【0024】
ベンツイミダゾールの環式化合物誘導体としては、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンツイミダゾール、2−(2−クロロフェニル)−1H−ベンツイミダゾール、2−(1−(3,5−ジメチルピラゾリル))−1H−ベンツイミダゾール、2−(2−フリル)−1H−ベンツイミダゾール等が挙げられる。
【0025】
本発明の防汚塗料に使用する抗菌組成物は、この様なニトリル系抗菌剤、ピリジン系抗菌剤、ハロアルキルチオ系抗菌剤、有機ヨード系抗菌剤、チアゾール系抗菌剤及びベンツイミダゾール系抗菌剤の6つの抗菌剤群のそれぞれから少なくとも1種の化合物を選択して製造することができる。
抗菌組成物における各抗菌剤群の含有率は特に制限されないが、通常、ニトリル系抗菌剤及び、ピリジン系抗菌剤が10〜30質量%、好ましくは、15〜25質量%、ハロアルキルチオ系抗菌剤が2〜20質量%、好ましくは5〜15質量%、有機ヨード系抗菌剤が15〜35質量%、好ましくは22〜32質量%、チアゾール系抗菌剤が5〜25質量%、好ましくは10〜20質量%、及びベンツイミダゾール系抗菌剤が2〜20質量%、好ましくは5〜15質量%である。
【0026】
上記化合物は何れもよく知られた化合物であり、通常の製造方法により容易に製造することができる。また、一般に市販されているものを用いることもできる。
【0027】
本発明の防汚塗料における、抗菌組成物の含有量は、好ましくは3〜15質量%、さらに好ましくは4〜10質量%、さらに好ましくは5〜9質量%である。
【0028】
(2)銅及び/又は無機銅化合物
無機銅化合物としては、亜酸化銅、チオシアン化銅(ロダン銅)、塩基性硫酸銅、塩基性酢酸銅、塩基性炭酸銅、水酸化第二銅等が挙げられる。
本発明の防汚塗料には、銅、亜酸化銅、ロダン銅等が好ましく用いられる。
【0029】
本発明の防汚塗料における銅及び/又は無機銅化合物の含有量は、好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.2〜7質量%、さらに好ましくは0.5〜3.5質量%である。
銅及び/又は無機銅化合物は、通常の方法により配合することができ、例えば粉末として配合することが好ましい。
【0030】
(3)シリコーン−アクリル樹脂
本発明において、「シリコーン−アクリル樹脂」とは、有機基を有するシロキサン(オルガノシロキサン)と(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルを構成単位として含む樹脂である。
オルガノシロキサンとしては、例えばジメチルシロキサン又はそのメチル基をアルキル基、アラルキル基、エポキシ基、カルボキシル基、アミノ基、アシル基、イミノ基、フッ素若しくは水素等に置換したものが挙げられる。中でもジメチルシロキサンが好ましい。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル等が挙げられる。
【0031】
シリコーン−アクリル樹脂における、オルガノシロキサンの含有率は、3〜15質量%であり、好ましくは5〜13質量%であり、さらに好ましくは7〜11質量%である。また、シリコーン−アクリル樹脂における、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルの含有率は、好ましくは80〜97質量%であり、さらに好ましくは82〜95質量%であり、さらに好ましくは84〜93質量%である。
【0032】
また、シリコーン−アクリル樹脂は、オルガノシロキサンと(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステル以外のモノマー構成単位を含んでいてもよいが、その含有率は好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。また、シリコーン−アクリル樹脂は、オルガノシロキサンと(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルのランダム共重合体であることが好ましい。
【0033】
シリコーン−アクリル樹脂の粘度は、塗料の樹脂成分として通常使用できる範囲であればよい。例えば、20℃における粘度は、好ましくは1〜1000mm2/s、さらに好ましくは10〜5000mm2/sである。また、数平均分子量もこの様な粘度となるように適宜決定すればよい。例えば、数平均分子量は、50〜50000、好ましくは500〜10000である。
【0034】
シリコーン−アクリル樹脂は、上記範囲の質量のモノマー構成単位を原料とし、常法により重合することにより製造することができる。
【0035】
本発明の防汚塗料における上記シリコーン−アクリル樹脂の含有量は、好ましくは50〜90質量%、さらに好ましくは70〜85質量%である。
【0036】
(4)シリコーンオイル
本発明の防汚塗料におけるシリコーンオイルとしては、ジメチルポリシロキサン、又はジメチルポリシロキサンのメチル基の一部を、他の置換基、例えばフェニル基、アルキル基、アラルキル基、エポキシ基、カルボキシル基、アミノ基、アシル基、イミノ基、フッ素若しくは水素などに置換した変性ジメチルポリシロキサンなどが挙げられる。中でも、ジメチルポリシロキサンが好ましい。シリコーンオイルの粘度は、通常塗料の成分として使用される範囲であればよい。
シリコーンオイルは、一般に市販されているものを使用することができる。
【0037】
本発明の防汚塗料におけるシリコーンオイルの含有量は、好ましくは0.05〜10質量%、さらに好ましくは0.1〜5質量%である。
【0038】
(5)他の成分
また、本発明の防汚塗料は、シリコーン−アクリル樹脂の他に、用途に応じて、塗工をしやすくするための樹脂をさらに含有していても良い。この様な樹脂は、通常塗料に使用されているものから選択することができ、例えば、ポリウレタン、ポリエステル等が挙げられる。中でも、ポリウレタンが好ましい。
【0039】
この様な樹脂の含有量は、好ましくは0.1〜20質量%、さらに好ましくは0.5〜10質量%、さらに好ましくは0.8〜4質量%である。
【0040】
本発明の防汚塗料は、使用性を向上させるために、通常溶剤を含む。溶剤としては、通常塗料に使用されるものであれば特に制限されないが、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール類、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類等が挙げられる。
本発明の防汚塗料における溶剤の量は、塗料の粘度、塗工方法、塗工対象等に応じて決定することができるが、好ましくは1〜30質量%、さらに好ましくは2〜20質量%である。
【0041】
本発明の防汚塗料は、さらに通常防汚塗料に使用される添加剤を含んでいてもよい。
この様な添加剤として、例えば、着色顔料、タレ止め剤、可塑剤、分散剤、消泡剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0042】
(6)本発明の防汚塗料
本発明の防汚塗料は、上記成分を常法により、混合することにより製造することができる。
【0043】
本発明の防汚塗料は、海生生物が付着する物に塗工して使用する。この様な物としては、例えば、船舶、海中構造物、漁具が挙げられる。
船舶の場合は、特に海中に長期に渡って浸水する船底に使用することが好ましい。
また、海中構造物としては、港湾施設、湾岸道路、パイプライン、橋梁、海底基地、海底トンネル、護岸、取水口、ブイなどが挙げられる。
また、漁具としては、養殖用、定置用などの魚網、ブイ、ロープなどが挙げられる。
【0044】
塗工は、対象物に応じて常法により行うことができる。例えば、本発明の防汚塗料を、魚網へ塗工する場合には、防汚塗料の中に魚網を浸漬させた後、乾燥させる方法により行うことができる。
【0045】
本発明の防汚塗料は、海藻類、フジツボ、イガイ、セルプラ、コケムシ、軟体動物類など種々の海生生物の付着を防ぐ。
【実施例】
【0046】
(1)本発明の防汚塗料の製造
2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、2,3,5,6−テトラクロロ−4−メチルスルフォニルピリジン及び2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウム、N,N−ジメチル−N'−フェニル−N'−(フロロジクロロメチルチオ)スルフィミド、ジヨードメチル−p−トリルスルフォン、2−(n−オクチル)−4−イソチアゾリン−3−オン、ならびに1H−2−ベンツイミダゾールカルバミン酸メチル及び2−(4−チアゾリル)−1H−ベンツイミダゾールを表1に示す割合で配合し、抗菌組成物1を製造した。
【0047】
【表1】

【0048】
続いて、下記表2の処方に従って、本発明の防汚塗料(実施例1〜3)を製造した。また、上記抗菌組成物を含有しない防汚塗料(比較例1)も製造した。シリコーン−アクリル樹脂は、以下の組成比のモノマーを用いて、常法により共重合し、シリコーン−アクリル樹脂(シリコーン:アクリル=1:9(質量比)、粘度(20℃):170±20mm2/s、数平均分子量:3800)を得た。
シリコーンオイルは、KF−96−100cs(信越化学工業(株)、ジメチルシリコーンオイル、動粘度(25℃):100mm2/s)を用いた。
無機銅粉を含む塗料として、バイオテックトレード製の「サンカイR」(組成:無機銅粉16質量%、ポリウレタン18質量%、キシレン66質量%)を用いた。
抗菌組成物1以外の原料を予め混合し、続いて抗菌組成物1を加えることにより本発明の防汚塗料を製造した。
【0049】
【表2】

【0050】
(2)海中試験
(1)で製造した実施例1〜3及び比較例1の防汚塗料について、6ヶ月に渡る海中試験を行った。
試験場所:神奈川県水産総合研究所相模湾試験場 小田原市漁業協同組合定置部石橋漁場
試験期間:平成18年6月2日〜12月20日
試験方法:60cm×60cmの66ナイロン網テストピースに、実施例1〜3及び比較例1の防汚塗料を塗布し、定置網漁場のロープを利用し、水面下2〜3m垂下した。
沿岸水温:図1に示す(各日0:00及び12:00の水温をプロット。なお、2006.10.28〜2006.11.6は不測定)。
【0051】
35日目と202日目(最終日)にテストピースを引き上げ、写真撮影を行った。
写真撮影:第1回 平成18年7月6日(35日目)
第2回 平成18年12月20日(202日目)
【0052】
結果を図2〜5に示す。
第1回撮影(35日目)では、比較例1、実施例1〜3の防汚塗料を塗布したテストピースの何れにおいても海生生物の付着は、ほとんど認められなかった(図2−A、図3−A、図4−A、図5−A)。
第2回撮影(202日)では、比較例1の防汚塗料を塗布したテストピースには、大量の海生生物が付着していた(図2−B)。実施例1の防汚塗料を塗布したテストピースには海生生物が付着していたが、比較例1に比して付着量は少なかった(図3−B)。また、実施例2の防汚塗料を塗布したテストピースには、海生生物が少量付着していた(図4−B)。実施例3の防汚塗料を塗布したテストピースには、全く海生生物が付着していなかった(図5−B)。
以上より、本発明の防汚塗料は、海生生物の付着を抑制することが判った。さらに、抗菌組成物の含有量が3質量%の場合と5質量%の場合では、特に長期に渡る海生生物の付着の抑制の効果に顕著な差があることが判った。さらに、抗菌組成物の含有量が8質量%になると、海生生物の付着がほぼ完全に抑制されることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】試験期間の沿岸水温の推移を示すグラフ。
【図2A】35日目の比較例1のテストピースの写真。
【図2B】202日目の比較例1のテストピースの写真。
【図3A】35日目の実施例1のテストピースの写真。
【図3B】202日目の実施例1のテストピースの写真。
【図4A】35日目の実施例2のテストピースの写真。
【図4B】202日目の実施例2のテストピースの写真。
【図5A】35日目の実施例3のテストピースの写真。
【図5B】202日目の実施例3のテストピースの写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌組成物、銅及び/又は無機銅化合物、シリコーン−アクリル樹脂、並びにシリコーンオイルを含む防汚塗料であって、
前記抗菌組成物が、ニトリル系抗菌剤、ピリジン系抗菌剤、ハロアルキルチオ系抗菌剤、有機ヨード系抗菌剤、チアゾール系抗菌剤及びベンツイミダゾール系抗菌剤からなり、
前記シリコーン−アクリル樹脂におけるシリコーン含有率が、3〜15質量%である、防汚塗料。
【請求項2】
前記抗菌組成物が、ハロイソフタロニトリル化合物、スルフォニルハロピリジン化合物及び/又はピリジンチオール−1−オキシド化合物、ハロアルキルチオスルフィミド化合物、ヨードスルフォニルベンゼン化合物、イソチアゾリン−3−オン化合物、並びに、ベンツイミダゾールカルバミン酸化合物及び/又はベンツイミダゾールの環式化合物誘導体からなる、請求項1に記載の防汚塗料。
【請求項3】
前記抗菌組成物の含有量が、3〜15質量%である、請求項1又は2に記載の防汚塗料。
【請求項4】
前記抗菌組成物が、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、2,3,5,6−テトラクロロ−4−メチルスルフォニルピリジン及び2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウム、N,N−ジメチル−N’−フェニル−N’−(フロロジクロロメチルチオ)スルフィミド、ジヨードメチル−p−トリルスルフォン、2−(n−オクチル)−4−イソチアゾリン−3−オン、並びに1H−2−ベンツイミダゾールカルバミン酸メチル及び2−(4−チアゾリル)−1H−ベンツイミダゾールからなる、請求項2又は3に記載の防汚塗料。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2009−91468(P2009−91468A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263511(P2007−263511)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(597118854)タイメイテック株式会社 (1)
【Fターム(参考)】