説明

防湿性カバーレイフィルム、及びそれを用いたフレキシブルプリント配線基板

【課題】 水蒸気透過度が小さく高水準の防湿性を長期安定して提供するカバーレイフィルムであり、フレキシブルプリント配線基板を被覆した場合に水蒸気により該基板上の負端子側が塩基性となること及び配線の剥離が生じることを抑える防湿性カバーレイフィルム、並びに、それを用いるフレキシブルプリント配線基板を提供すること。
【解決手段】 ポリイミドフィルムからなる基材フィルムと、該基材フィルムの一方の面に積層される有機防湿膜を備える防湿性カバーレイフィルムであって、該有機防湿膜がポリカルボン酸系重合体(A)の多価金属塩を少なくとも含み、赤外線吸収スペクトルの面積比α[ピーク(3700〜2500cm−1)/ピーク(1800〜1500cm−1)]が2.5以下、且つ赤外線吸収スペクトルのピーク比β[ピーク(1560cm−1)/ピーク(1700cm−1)]が1.2以上としてなることを特徴とする防湿性カバーレイフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルプリント配線基板を被覆するために用いられる防湿性カバーレイフィルム、及びそれを用いたフレキシブルプリント配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス製品の軽量化、小型化、薄肉化、高機能化に伴い、プリント基板の需要が高まっている。このようなプリント基板の中でも、フレキシブルプリント配線基板は繰り返し屈曲に耐えるという特性を有しており、狭い空間に立体的に高密度の実装が可能であることから、電子機器への配線、ケーブル、コネクター機能を付与した複合部品等としてその用途が拡大しつつある。特に近年では、ICチップをフレキシブルプリント配線基板に直接搭載したCOF(Chip on Flex)が実用化され、CSP(Chip Scale Packaging)、MCM(Multi Chip Module)のインターポーザとしてフレキシブルプリント配線基板が採用される等、フレキシブルプリント配線基板が半導体パッケージ構成材料として用いられている。そして、このようなフレキシブルプリント配線基板の回路保護、屈曲性及び防湿性の向上等のためにカバーレイフィルムが被覆されている。
【0003】
このようなカバーレイフィルムとしては、例えば、特開平10−235784号公報(特許文献1)においては、ポリイミドフィルムをライン中で赤外線または遠赤外線ヒータにより連続的に加熱して乾燥し、該フィルムの含水率を0.1重量%以下とし、その片面または両面に熱硬化性接着剤を塗布し、その上に離型材を積層し、該フィルム−離型材積層板の寸法変化率を、150度かける30分間熱処理後の測定値で、長手方向及び幅方向共に±0.05%以内にするカバーレイフィルムが開示されており、特開平2003−149804号公報(特許文献2)においては、20℃65%RHにて24時間調湿後の線間絶縁抵抗が、1×10の13乗Ω以上である感光性ドライフィルムレジストを用いてなるフレキシブルプリント配線板用感光性カバーレイフィルムが開示されている。また、特開2003−330005号公報(特許文献3)においては、予め定める第1の透湿度および予め定める第1の体積収縮率を有する合成樹脂から成り、基板に設けられる配線を覆い、かつ基板に接触して設けられる第1保護層と、予め定める第1の透湿度よりも小さな予め定める第2の透湿度、および予め定める第1の体積収縮率よりも大きな予め定める第2の体積収縮率を有する合成樹脂から成り、第1保護層が外部に露出しないように第1保護層を覆い、かつ基板に接触して設けられる第2保護層とを含むことを特徴とする配線基板の保護構造が開示されている。更に、特開2001−15876号公報(特許文献4)においては、フレキシブル基板用フィルム上に第一部材を介して回路が設けられ、この回路上に第二部材を介してカバーレイフィルムが設けられているフレキシブルプリント配線板が記載されており、このようなフレキシブル基板用フィルム及びカバーレイフィルムとしては、ポリイミドフィルムが記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1〜4に記載のカバーレイフィルムにおいては、防湿性の点では未だ十分なものではなかった。そのため、このような従来のカバーレイフィルムで覆われたフレキシブルプリント配線基板においては、長期間の使用によりフレキシブルプリント配線基板が水に曝されてしまうという問題が生じていた。そして、このように水に曝されたフレキシブルプリント配線基板においては、通電した場合に負極端子側で水の電気分解により水酸基が生じて塩基性となり、配線基板を損傷させるという問題があった。電気分解により生じる水酸基によりカバーレイフィルムの基材が溶けて穴が開いたり、カバーレイフィルムの基材にパイ生地状の凹凸を生じたりすることによって、カバーレイフィルムで覆われたフレキシブルプリント配線基板を用いた電化製品の故障の原因となる可能性が生じていた。また、水の比誘電率が約80と大きいことから、フレキシブルプリント配線基板が水に曝されることによって、回路インダクタンスが変わり高周波特性を求める通信機器、測定機器、電子計算機の電気的な回路特性に大きな影響を与えていた。更に、フレキシブルプリント配線基板が水に曝されることによって、フレキシブルプリント配線基板から配線が剥離してしまい、配線が切断するという問題もあった。また、水に曝されたフレキシブルプリント配線基板の配線ピッチが狭い場合においては、配線端子との接触抵抗が増すときに接触不良を生じ易いという問題もあった。更に、水に曝されたフレキシブルプリント配線基板の配線ピッチが狭い場合においては、配線表面の無電解メッキ被膜に存する配線母体金属よりも高純度の金属からウィスカ又はホイスカと称せられる微小な針状金属結晶が成長して、配線間を短絡させるという問題もあった。
【特許文献1】特開平10−235784号公報
【特許文献2】特開2003−149804号公報
【特許文献3】特開2003−330005号公報
【特許文献4】特開2001−15876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、水蒸気透過度が小さく高水準の防湿性を長期に亘り安定して発揮することが可能なカバーレイフィルムであって、フレキシブルプリント配線基板を被覆した場合に水蒸気によって配線基板上の負端子側が塩基性となること及び配線の剥離や短絡が生じることを十分に防止することが可能な防湿性カバーレイフィルム、並びに、それを用いたフレキシブルプリント配線基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリカルボン酸系重合体(A)の多価金属塩を少なくとも含む有機薄膜のポリカルボン酸系重合体(A)の親水性基や多価金属との塩形成等に起因して重合体分子構造の密度を大きくしてなる有機防湿膜をポリイミドフィルムに積層させることにより、水蒸気透過度が小さく高水準の防湿性を長期に亘り安定して発揮することが可能なカバーレイフィルムであって、フレキシブルプリント配線基板を覆った場合に水蒸気によって配線基板上の負端子側が塩基性となること及び配線の剥離が生じることを防止することを可能とするカバーレイフィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の防湿性カバーレイフィルムは、ポリイミドフィルムからなる基材フィルムと、該基材フィルムの一方の面に積層されている有機防湿膜を備える防湿性カバーレイフィルムであって、前記有機防湿膜が、
ポリカルボン酸系重合体(A)の多価金属塩を少なくとも含み、赤外線吸収スペクトルの面積比α[ピーク面積S1(3700〜2500cm−1)/ピーク面積S2(1800〜1500cm−1)]が2.5以下であり、且つ赤外線吸収スペクトルのピーク比β[ピークA1(1560cm−1)/ピークA2(1700cm−1)]が1.2以上としてなる、
ことを特徴とするものである。ここで、波長の単位にはカイザー(波数と云うこともある)を用い、カイザー=1/cm単位での波長で求められ、単位記号「cm−1」を用いる。
【0008】
上記本発明の防湿性カバーレイフィルムとしては、前記基材フィルムの一方の面に前記有機防湿膜が積層されていることが好ましい。
【0009】
また、上記本発明の防湿性カバーレイフィルムとしては、2枚の前記有機防湿膜を直接的に対向させ且つ密着せしめて形成されてなることが好ましい。
【0010】
さらに、上記本発明の防湿性カバーレイフィルムとしては、2枚の前記有機防湿膜を接着層を介して積層せしめて形成されてなることが好ましい。
【0011】
上記本発明の防湿性カバーレイフィルムとしては、前記有機防湿膜中の前記多価金属が、亜鉛、ジルコニウム、銅及びニッケルからなる群から選択される少なくとも一種の金属であることが好ましい。
【0012】
上記本発明の防湿性カバーレイフィルムとしては、前記多価金属が亜鉛であり、且つ亜鉛のオージェ電子スペクトル分析による結合エネルギーが496〜498eVの間に少なくとも一つのピークを有することが好ましい。
【0013】
上記本発明の防湿性カバーレイフィルムとしては、前記基材フィルムの他方の面に積層されている接着剤層を更に備えることが好ましい。
【0014】
また、本発明のフレキシブルプリント配線基板は、前記本発明の防湿性カバーレイフィルムで被覆されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水蒸気透過度が小さく高水準の防湿性を長期に亘り安定して発揮することが可能なカバーレイフィルムであって、フレキシブルプリント配線基板を被覆した場合に水蒸気によって配線基板上の負端子側が塩基性となること及び配線の剥離が生じることを抑えることが可能な防湿性カバーレイフィルム、並びに、それを用いたフレキシブルプリント配線基板を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0017】
先ず、本発明の防湿性カバーレイフィルムについて説明する。すなわち、本発明の防湿性カバーレイフィルムは、ポリイミドフィルムからなる基材フィルムと、該基材フィルムの一方の面に積層されている有機防湿膜とを備える防湿性カバーレイフィルムであって、前記有機防湿膜が、
ポリカルボン酸系重合体(A)の多価金属塩を少なくとも含み、赤外線吸収スペクトルの面積比α[ピーク面積S1(3700〜2500cm−1)/ピーク面積S2(1800〜1500cm−1)]が2.5以下であり、且つ赤外線吸収スペクトルのピーク比β[ピークA1(1560cm−1)/ピークA2(1700cm−1)]が1.2以上としてなる、ことを特徴とするものである。
【0018】
(有機防湿膜)
本発明にかかる有機防湿膜は、ポリカルボン酸系重合体(A)の多価金属塩を少なくとも含み、赤外線吸収スペクトルの面積比α[ピーク面積S1(3700〜2500cm−1)/ピーク面積S2(1800〜1500cm−1)]が2.5以下であり、且つ赤外線吸収スペクトルのピーク比β[ピークA1(1560cm−1)/ピークA2(1700cm−1)]が1.2以上であり、ガスバリア性及び防湿性を有する有機防湿膜である。尚、本発明においては、上記の面積比を簡略化して、赤外線吸収スペクトルの面積比α、或いは単に面積比αと表現したり、また、前記ピーク比を簡略化して赤外線吸収スペクトルのピーク比β、或いは単にピーク比βと表現する場合もある。さらに、本発明で云うガスバリア性とは、高湿度条件下において低酸素透過度を有することを意味している。特に断りのない限り、温度30℃、相対湿度(RH)80%における酸素透過度を云う。
【0019】
本発明にかかる有機防湿膜に含有されるポリカルボン酸系重合体(A)が以下の特定の要件を満たしている場合には、前記有機防湿膜は高湿度下でも酸素等のガスバリア性に優れ、多湿である熱帯地方という自然環境の下でも長期間の耐水性を有するため有機防湿膜の原料として好適に用いることができる。
【0020】
ここで、前記特定の要件とは、本発明にかかる有機防湿膜の原料であるポリカルボン酸系重合体(A)単独から形成される有機防湿膜の乾燥条件(温度30℃、相対湿度0%)における酸素透過係数が特定値以下であることをいう。また、ガスの種類、測定雰囲気、及びポリカルボン酸系重合体フィルムの調製法を限定することにより、ガス透過係数を、重合体の構造を反映する変数として採用することが可能となる。なお、重合体の分子構造とガス透過係数の関係については、Jhon Wiley & Sons,Inc.,ENCYCLOPEDIA OF POLYMER SCIENCE AND ENGINEERING,VOL.2,p.177(1985)を参照することができる。
【0021】
本発明にかかる有機防湿膜の原料として用いるポリカルボン酸系重合体(A)としては、既存のポリカルボン酸系重合体であれば特に制限はないが、本発明にかかる有機防湿膜のガスバリア性及び防湿性の向上という観点から、原料としてのポリカルボン酸系重合体(A)の乾燥条件下(30℃、相対湿度0%)で測定した前記酸素透過係数が、100cm3(STP)・μm/(m2・day・MPa)以下であることが好ましい。ここで、立方cmを単位記号「cm3」、平方mを単位記号「m2」で表記する。また温度と圧力の標準状態を記号「STP」と表記し、23℃で1気圧の条件下での測定値であることを示す。尚、このような酸素透過係数は、例えば以下の方法で求めることができる。すなわち、ポリカルボン酸系重合体(A)の10重量%水溶液を調製して、プラスチック基材上に厚さ1μmのポリカルボン酸系重合体層が形成されたコーティングフィルムを製造し、得られたコーティングフィルムを乾燥したときの30℃、相対湿度0%における酸素透過度を測定する。前記プラスチック基材としては、その酸素透過度が既知である任意のプラスチックフィルムを用いる。そして、得られたポリカルボン酸系重合体(A)のコーティングフィルムの酸素透過度が基材として用いたプラスチックフィルム単独の酸素透過度に対して、10分の1以下であれば、前記のようにして測定された酸素透過度の測定値が、ほぼポリカルボン酸系重合体(A)の層単独の酸素透過度と見なすことができる。そして、このようにして得られた酸素透過度の測定値に1μmを乗じることにより、酸素透過係数に変換することができる。
【0022】
本発明にかかる有機防湿膜の原料として用いるポリカルボン酸系重合体(A)としては、既存のポリカルボン酸系重合体を用いることができるが、既存のポリカルボン酸系重合体とは、分子内に2個以上のカルボキシ基を有する重合体の総称である。具体的には、重合性単量体として、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸を用いた単独重合体、単量体成分として、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸のみからなり、それらの少なくとも2種の共重合体、またα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸と他のエチレン性不飽和単量体との共重合体、更にアルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ペクチン等の分子内にカルボキシ基を有する酸性多糖類を例示することができる。これらのポリカルボン酸系重合体(A)は、それぞれ単独で、又は少なくとも2種のポリカルボン酸系重合体(A)を混合して用いることができる。
【0023】
ここで、前記α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等が代表的なものである。またそれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル等の飽和カルボン酸ビニルエステル類、アルキルアクリレート類、アルキルメタクリレート類、アルキルイタコネート類、アクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、スチレン等が代表的なものである。また、ポリカルボン酸系重合体(A)が、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸と酢酸ビニル等の飽和カルボン酸ビニルエステル類との共重合体の場合には、更にケン化することにより、飽和カルボン酸ビニルエステル部分をビニルアルコールに変換して使用することができる。
【0024】
また、本発明にかかる有機防湿膜の原料として用いるポリカルボン酸系重合体(A)が、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸とその他のエチレン性不飽和単量体との共重合体である場合には、得られる有機防湿膜のガスバリア性及び高温水蒸気や熱水に対する耐性の向上という観点から、その共重合組成はα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸単量体組成が、好ましくは60モル%以上であり、より好ましくは80モル%以上であり、更に好ましくは90モル%以上であり、最も好ましくは100モル%である。このように、本発明にかかる有機防湿膜の原料として用いるポリカルボン酸系重合体(A)としては、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸のみからなる重合体を用いることが好ましい。更にポリカルボン酸系重合体(A)がα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸のみからなる重合体の場合には、その好適な具体例は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合性単量体の重合によって得られる重合体、及びそれらの混合物が挙げられる。そして、このようなα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸のみからなる重合体の中でも、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸から選ばれる少なくとも1種の重合性単量体の重合によって得られる重合体、及び/又はそれらの混合物が用いることがより好ましく、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、及びそれらの混合物を用いることが最も好ましくい。また、ポリカルボン酸系重合体(A)がα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸単量体の重合体以外の例えば、酸性多糖類の場合には、アルギン酸を好ましく用いることができる。
【0025】
ポリカルボン酸系重合体(A)の数平均分子量については特に限定されないが、有機防湿膜の形成性の観点から、2,000〜10,000,000の範囲であることが好ましく、更に5,000〜1,000,000であることが好ましい。
【0026】
なお、本発明にかかる有機防湿膜には、ポリカルボン酸系重合体(A)以外にも有機防湿膜のガスバリア性及び防湿性を損なわない範囲で他の重合体を混合して用いることが可能であるが、ポリカルボン酸系重合体(A)のみを単独で用いることが好ましい。
【0027】
また、本発明にかかる有機防湿膜に含有されるポリカルボン酸系重合体(A)の多価金属塩に構成成分として含有される多価金属は、金属イオンの価数が2以上の多価金属原子単体である。このような多価金属の具体例としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属、チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛等の遷移金属、アルミニウム等を挙げることができる。このような多価金属の中でも、亜鉛、ジルコニウム、銅又はニッケルを用いることが好ましい。また、表示装置を備える電子部品に防湿性カバーレイフィルムを用いる場合には、有機防湿膜は透明であることが好ましく、このような有機防湿膜に含有させる多価金属としては、例えば亜鉛又はジルコニウムが挙げられる。更に、有機防湿膜は着色していてもよく、このような有機薄膜に含有させる多価金属としては、例えば淡い緑色に着色する銅が挙げられる。
【0028】
また、本発明にかかる有機防湿膜に含有される多価金属塩の原料としては、多価金属化合物(B)が用いられる。このような多価金属化合物(B)の具体例としては、前記多価金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩、無機酸塩、その他、多価金属のアンモニウム錯体や多価金属の2〜4級アミン錯体とそれら錯体の炭酸塩や有機酸塩等が挙げられる。前記有機酸塩としては、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、ステアリン酸塩、モノエチレン性不飽和カルボン酸塩等が挙げられる。前記無機酸塩としては、塩化物、硫酸塩、硝酸塩等を挙げることができる。それ以外には多価金属のアルキルアルコキシド等を挙げることができる。
【0029】
このような多価金属化合物(B)はそれぞれ単独で、また少なくとも2種の多価金属化合物を混合して用いることができる。このような多価金属化合物(B)の中でも、有機防湿膜のガスバリア性、防湿性及び製造性の向上という観点から、2価の金属化合物が好ましく用いられる。更に、このような多価金属化合物(B)の中でも、アルカリ土類金属、ジルコニウム、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛の酸化物、水酸化物、炭酸塩又はアルカリ土類金属、ジルコニウム、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛のアンモニウム錯体或いは前記錯体の炭酸塩を用いることが好ましく、マグネシウム、カルシウム、ジルコニウム、銅、亜鉛の各酸化物、水酸化物、炭酸塩、及びジルコニウム、銅、ニッケルもしくは亜鉛のアンモニウム錯体とその錯体の炭酸塩を用いることがより好ましい。
【0030】
また、本発明にかかる有機防湿膜のガスバリア性及び防湿性を損なわない範囲で、1価の金属からなる金属化合物、例えばポリカルボン酸系重合体(A)の1価金属塩を混合又は含まれたまま用いることができる。このような1価の金属化合物の好ましい添加量は、前記有機防湿膜のガスバリア性及び防湿性の観点で、ポリカルボン酸系重合体(A)のカルボキシ基に対して、0.2化学当量以下である。なお、前記1価の金属化合物は、部分的にポリカルボン酸系重合体の多価金属塩の分子中に含まれていてもよい。
【0031】
本発明にかかる有機防湿膜の原料として用いられる多価金属化合物(B)の形態は、特別限定されない。しかし、後述するように、本発明にかかる有機防湿膜中では、多価金属化合物(B)の一部又は全部がポリカルボン酸系重合体(A)のカルボキシ基とイオン結合により塩を形成している。
【0032】
従って、本発明にかかる有機防湿膜にカルボン酸塩形成に関与しない多価金属化合物(B)が存在する場合には、有機防湿膜の透明性の観点で多価金属化合物(B)は、粒状で、その粒径が小さい方が好ましい。また、後述する本発明にかかる有機薄膜を製造するための溶液又は分散液を調製する上でも、調製時の効率化及びより均一な溶液又は分散液を得る観点で多価金属化合物は粒状で、その粒径は小さい方が好ましい。多価金属化合物の平均粒径としては、好ましくは5μm以下、更に好ましくは1μm以下、最も好ましくは0.1μm以下である。
【0033】
本発明にかかる有機防湿膜は、前記のようにポリカルボン酸系重合体(A)の多価金属塩を少なくとも含み、赤外線吸収スペクトルの特定領域を測定し、これから求められる面積比αが2.5以下であり、且つピーク比βが1.2以上であることを特徴としている。このような特徴を有する本発明にかかる有機防湿膜は、酸素等のガスバリア性と防湿性とが満足なものとなる。
【0034】
次に、有機防湿膜の赤外線吸収スペクトルの面積比α[ピーク面積S1(3700〜2500cm−1)/ピーク面積S2(1800〜1500cm−1)]について説明する。
【0035】
本発明において、赤外線吸収スペクトルの面積比αは、有機防湿膜中の水分量を表す指標として代用する。有機防湿膜中の水分の状態は明確ではないが、本発明にかかる有機防湿膜中の水分は、全て有機防湿膜中に吸着された状態のものを指し、吸着水とする。水分に起因するO−H伸縮振動は、3700〜2500cm−1の赤外光波数領域に幅広い吸収を与える。そこで本発明においては、3700〜2500cm−1の赤外線吸収スペクトルのピーク面積をピーク面積S1(3700〜2500cm−1)と規定した。ピーク面積S1(3700〜2500cm−1)は、3700cm−1の吸光度と2500cm−1の吸光度の2点を結ぶ直線を基線として、3700〜2500cm−1の範囲の面積積分により求めることができる。
【0036】
また、ポリカルボン酸系重合体(A)中のカルボキシ基(−COOH)に帰属されるC=O伸縮振動は、1800〜1600cm−1の赤外光波数領域に、1700cm−1付近に吸収極大を有するピークを与える。また、カルボキシ基の塩(−COO−)に帰属されるC=O伸縮振動は、1600〜1500cm−1の赤外光波数領域に1560cm−1付近に吸収極大を有するピークを与える。
【0037】
このようなカルボキシ基(−COOH)及びカルボキシ基の塩(−COO−)に帰属されるピークは、本発明にかかる有機防湿膜の特徴的なピークである。ここで、カルボキシ基の塩の負イオンの価数=−1であり、記号「COO−」で表記する。従って、このピークを含む1800〜1500cm−1の赤外線吸収スペクトルの面積は、本発明にかかる有機防湿膜の特徴的なピーク面積となる。本発明においては、この面積を、ピーク面積S2(1800〜1500cm−1)と規定した。ピーク面積S2(1800〜1500cm−1)は、1800cm−1の吸光度と1500cm−1の吸光度の2点を結んだ直線を基線として、1800〜1500cm−1の範囲の面積積分により求めることができる。
【0038】
以上から、赤外線吸収スペクトルのピーク面積S1(3700〜2500cm−1)と赤外線吸収スペクトルのピーク面積S2(1800〜1500cm−1)との比、即ち、ピーク面積S1(3700〜2500cm−1)/ピーク面積S2(1800〜1500cm−1)を、赤外線吸収スペクトルの面積比αと規定し、有機防湿膜中の水分量を表す指標として用いることとした。本発明において、この赤外線吸収スペクトルの面積比αは、2.5以下、好ましくは0.01以上、2.3以下、更に好ましくは、0.01以上、2.0以下である。面積比αが2.5を超えるものは、防湿性が不十分となる。
【0039】
具体的には、本発明において、赤外線吸収スペクトルは、透過法、ATR法(全反射減衰法)、KBrペレット法、拡散反射法、光音響法(PAS法)等で測定し、前記赤外線吸収スペクトルのピーク面積S1及びピーク面積S2を計算し、両者の比を求める。代表的な測定条件例としては、本発明にかかる有機防湿膜が基材上に形成された積層体を試料として、ATR法で、ATRプリズムとしては、KRS−5(Thallium Bromide−Iodide)を用い、入射角45度、分解能4cm−1、積算回数30回での測定を挙げることができる。
【0040】
本発明において、有機防湿膜の赤外線吸収スペクトルのピーク比β[ピークA1(1560cm−1)/ピークA2(1700cm−1)]は、有機防湿膜中のポリカルボン酸系重合体(A)と多価金属化合物(B)との金属塩形成の度合いを表す指標として用いる。赤外線吸収スペクトルのピーク比βを構成するピークA1(1560cm−1)は、カルボキシ基の塩(−COO−)に帰属される1560cm−1付近のC=O伸縮振動の赤外線吸収スペクトルの吸収ピーク面積又はピーク高さである。即ち、通常カルボン酸塩(−COO−)に帰属されるC=O伸縮振動は、1600〜1500cm−1の赤外光波数領域に1560cm−1付近に吸収極大を有する吸収ピークを与える。ピークA1(1560cm−1)は、1600cm−1の吸光度と1500cm−1の吸光度の2点を結んだ直線を基線として、1600〜1500cm−1の範囲の面積積分からピーク面積、1600〜1500cm−1の範囲の吸収極大の高さからピーク高さを求めることができる。
【0041】
また、ピーク比βを構成するピークA2(1700cm−1)は、前記ピークA1(1560cm−1)とは分離独立した赤外線吸収ピークであり、カルボキシ基(-COOH)に帰属される1700cm−1付近のC=O伸縮振動の赤外線吸収スペクトルのピーク面積又はピーク高さである。即ち、通常、カルボキシ基(−COOH)に帰属されるC=O伸縮振動は、1800〜1600cm−1の赤外光波数領域に1700cm−1付近に吸収極大を有する吸収ピークを与える。ピークA2(1700cm−1)は、1800cm−1の吸光度と1600cm−1の吸光度の2点を結んだ直線を基線としてと1800〜1600cm−1の範囲の面積積分からピーク面積、1800〜1600cm−1の範囲の吸収極大の高さからピーク高さを求めることができる。有機防湿膜の吸光度は、有機防湿膜中に存在する赤外活性を持つ化学種の量と比例関係にある。従って、前記赤外線吸収スペクトルのピークの比、即ち、ピークA1(1560cm−1)/ピークA2(1700cm−1)を赤外線吸収スペクトルのピーク比βと規定し、有機防湿膜中で多価金属と塩を形成したカルボキシ基の塩(−COO−)と遊離カルボキシ基(−COOH)の量比を表す尺度として代用することができる。
【0042】
本発明にかかる有機防湿膜の赤外線吸収スペクトルのピーク比βは、1.2以上10000以下であるが、有機防湿膜の防湿性の観点から、ピーク比βは2.0以上10000以下であることが好ましく、4.0以上10000以下であることが更に好ましい。赤外線吸収スペクトルの吸光度のベースラインは、測定限界に係わる僅かな揺らぎを有する。カルボキシ基の塩(−COO−)に帰属される1560cm−1付近のC=O伸縮振動の赤外線吸収を用いる吸光度ピークA1(1560cm−1)のベースラインに係わる測定限界から、ピーク比βの上限値は10000である。ピーク比β(イオン化度)が大きいとは、遊離カルボキシ基の塩(−COO−)が錯体形成により拘束されている状態であり、吸光度ピークA1(1560cm−1)が小さいことである。
【0043】
更に、本発明にかかる有機防湿膜に酸素ガスバリア性及び防湿性を損なわない範囲で、1価の金属からなる金属化合物を混合して用いた場合には、カルボン酸の1価金属塩(−COO−)に帰属されるC=O伸縮振動は、1600〜1500cm−1の赤外光波数領域に1560cm−1付近に吸収極大を有する吸収ピークを与える。従って、この場合には、赤外線吸収ピーク中のカルボン酸の1価金属塩とカルボン酸多価金属塩に由来する二つのC=O伸縮振動が含まれる。このような場合にも、前記同様、ピーク比β[ピークA1(1560cm−1)/ピークA2(1700cm-1)]は、カルボキシ基の多価金属塩(−COO−)と遊離カルボキシ基(−COOH)の量比を表す尺度としてそのまま用いる。
【0044】
ピーク比βを求めるための赤外線吸収スペクトルの測定は、例えばPERKIN−ELMER社製FT−IR2000を用いて行うことができる。
【0045】
具体的には、本発明にかかる有機防湿膜の赤外線吸収スペクトルを透過法、ATR法(全反射減衰法)、KBrペレット法、拡散反射法、光音響法(PAS法)等で測定し、前記両吸収スペクトルのピーク高さ(極大吸収波数における)又はピーク面積を計測し、両者の比を求める。
【0046】
代表的な測定条件例としては、本発明の有機防湿膜を露出する検体を用い、全反射赤外分析法(ATR法とも云う)で、ATRプリズムとしてはKRS−5(Thallium Bromide−Iodide)を用い、入射角45度、分解能4cm−1、積算回数30回での測定を挙げることができる。FT−IRを用いた赤外線吸収スペクトル測定法については、例えば田隅三生 編者、「FT−IRの基礎と実際」を参照することができる。
【0047】
また、本発明にかかる有機防湿膜としては、前記多価金属が亜鉛であり、且つ亜鉛のオージェ電子スペクトル分析による結合エネルギーが496〜498eVの間に少なくとも一つのピークを有することが好ましい。
【0048】
このようにオージェ電子スペクトル分析を用いて、本発明にかかる有機防湿膜のより好適な条件を導き出すことができる。ここで、このようなオージェ電子スペクトル分析は、原子の励起エネルギー源をX線とするときはX線光電子分析法(XPS)ともいう。このようなオージェ電子スペクトル分析において、例えば、亜鉛に注目した場合には、亜鉛の化学量論的又は非化学量論的結合状態を、結合エネルギーの値で知ることができ、更には、亜鉛の錯体形成の結合状態をも知ることができる。このような亜鉛に注目したオージェ電子スペクトル分析において励起エネルギー源としてX線を用いた場合には、X線照射で亜鉛の内殻電子が電離されて空孔を生じ、上の準位にある電子が落ち込んで亜鉛は安定した状態に変わる。このとき、このような準位間のエネルギー差が別の電子に受け渡されて放出される。この放出された電子をオージェ電子と呼ぶ。また、エネルギー差がX線として放出されれば、かかるX線は特性X線である。本発明にかかる有機防湿膜に含有される多価金属として亜鉛を用いた場合において、オージェ電子スペクトル分析を行うと、亜鉛のL内殻電子が照射X線で電離されてL殻に空孔を生じてその一つ上位軌道のM殻の電子がL殻に遷移し、これに誘起されて更に一つ上位軌道のN殻の電子がM殻に遷移する。そして、このような電子が遷移していく過程に相当するZn−LMN遷移過程のオージェ電子の放出量の大きさと、有機防湿膜が防湿性を有することとが正相関することを本発明者は見出した。すなわち、Zn−LMN遷移過程のオージェ電子エネルギーは496〜498eVであり、このエネルギー間に少なくとも一つのピークを有することが、有機防湿膜が防湿性を有することと正相関する。なお、このような分析に用いる測定装置としては特に制限されず、適宜公知の測定装置を用いることができ、具体的には、PHI社製の商品名称Quantera SXM等を用いることが挙げられる。
【0049】
本発明にかかる有機防湿膜は、高湿度下においても水蒸気、酸素等のガスバリア性に優れる。
【0050】
また、本発明にかかる有機防湿膜は、酸素等のガスバリア性と共に防湿性にも優れる点で特徴がある。即ち、本発明で云う有機防湿膜の防湿性とは、温度40℃、相対湿度90%の雰囲気下で、水蒸気透過度が100g/(m2・day)以下、好ましくは60g/(m2・day)以下(水蒸気供給側の相対湿度を90%)であることを云う。ここで、平方mを単位記号「m2」で表記する。
【0051】
また、本発明にかかる有機防湿膜の密度は、1.80g/cm3以上であることが好ましく、1.80〜2.89g/cm3であることがより好ましく、1.85〜2.89g/cm3であることが更に好ましい。ここで、立方cmを単位記号「cm3」で表記する。密度が1.80g/cm3未満の有機防湿膜を用いると、防湿性が不十分で目標とする防湿性能を有する防湿膜用積層フィルムが得られない傾向にある。一方、密度が2.89g/cm3を超える有機防湿膜は、使用する多価金属化合物の添加量が増え、塗工後の有機防湿膜の製膜が困難になる。このような有機防湿膜の密度は、JIS K7112(プラスチックの密度と比重の測定方法)に従って、測定することができる。
【0052】
本発明にかかる有機防湿膜において、1枚の有機防湿膜の厚さは特に限定されないが、防湿性カバーレイフィルムのハンドリング性の観点から、1枚の有機防湿膜の厚さが0.001μm〜200μmであることが好ましく、0.01μm〜100μmであることがより好ましく、0.1μm〜10μmであることが特に好ましい。このような有機防湿膜において、1枚の有機防湿膜の厚さが、0.001μm未満になると、有機防湿膜の製膜が困難になり、安定的な製造ができなくなる傾向にある。一方、有機防湿膜の厚さが200μmを超えるものは、塗工が難しく、製造する上で問題が生ずる傾向にある。
【0053】
本発明にかかる有機防湿膜としては、60℃、相対湿度90%の予備加湿条件下で250時間静置後に、40℃、相対湿度90%における水蒸気透過度が0.02g/(m2・day)以下に維持されるものであることが好ましい。
【0054】
また、本発明にかかる有機防湿膜としては、2枚の前記有機防湿膜を直接的に対向させ且つ密着せしめて形成されている有機層と、該有機層の両面に積層されてなる、又は2枚の前記有機薄膜を接着層を介して積層せしめて形成されてなることを好適に用いることができる。
【0055】
このような防湿性カバーレイフィルムにおいては、2枚の前記有機防湿膜を直接的に又は接着層を介して積層せしめて形成されている。従って、1枚の有機防湿膜の膜厚方向にミクロピンホールができたときでも、更にもう1枚の有機防湿膜が積層されているのでミクロピンホールが連結することを防ぎ、このため高いガスバリア性と防湿性とを維持させることが可能となる。
【0056】
また、前記接着層の厚さは特に制限されないが、得られるガスバリヤ性及び防湿性の低下を防止するという観点から、0.1〜100μmであることが好ましく、0.5〜10μmであることがより好ましい。接着層の厚さが0.1μm未満では有機防湿膜の接着が困難となる傾向にあり、一方100μmを超えると塗工が難しく製造上で問題を生じる傾向にある。
【0057】
(ポリイミドフィルム(基材フィルム))
本発明において、基材フィルムとして用いられるポリイミドフィルムは特に制限されず、適宜公知のポリイミドフィルムを用いることができる。このようなポリイミドフィルムとしては、厚さが10〜200μmであることが好ましく、30〜100μmであることがより好ましい。ポリイミドフィルムの厚さが前記下限未満では、ハンダ付け作業時の耐熱性が不足する傾向にあり、他方、前記上限を超えると組み付け作業時に扱い難い傾向にある。
【0058】
(防湿性カバーレイフィルム)
本発明の防湿性カバーレイフィルムは、前記ポリイミドフィルムからなる基材フィルムの一方の面に積層されている前記有機防湿膜を備えるものである。
【0059】
さらに、このような防湿性カバーレイフィルムとしては、60℃、相対湿度90%の予備加湿条件下で250時間静置後に、40℃、相対湿度90%における水蒸気透過度が0.02g/(m2・day)以下に維持されるものであることが好ましい。
【0060】
このような本発明の防湿性カバーレイフィルムとしては、前記基材フィルムの一方の面に前記有機防湿膜が積層されている防湿性カバーレイフィルム(イ)、前記基材フィルムの一方の面に、2枚の前記有機防湿膜を接着層を介して積層せしめて形成されてなる防湿性カバーレイフィルム(ロ)、及び前記基材フィルムの一方の面に、2枚の前記有機防湿膜を直接的に対向させ且つ密着せしめて形成されてなる防湿性カバーレイフィルム(ハ)、が好ましい。
【0061】
また、このような防湿性カバーレイフィルムは、更に他の層を積層した積層体であってもよい。例えば、防湿性カバーレイフィルムへの耐磨耗性付与、光沢性付与、ヒートシール性付与、強度付与または更なる防湿性付与等の目的に併せて、1種以上の層を積層させることが挙げられる。
【0062】
また、このような防湿性カバーレイフィルムとしては、前記基材フィルムの他方の面に積層されている接着剤層を更に備えることが好ましい。
【0063】
このような接着剤層を形成する接着剤の材質は特に制限されず、ドライラミネーション等で通常用いられている樹脂を用いることができる。また、このような接着剤としては特に制限されないが、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤、アクリル系接着剤又はエポキシ系接着剤を用いることが好ましい。更に、このようなウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤、アクリル系接着剤及びエポキシ系接着剤としては、本発明の防湿性カバーレイフィルムの防湿性の向上という観点からは、ビカット軟化点が50℃〜140℃である接着剤が好ましく、50℃〜98℃である接着剤がより好ましい。ここで、接着剤のビカット軟化点は接着剤を硬化させた状態での軟化温度である。なお、ビカット軟化点はJIS K−7206に準拠して測定することができる。このような接着剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0064】
(防湿性カバーレイフィルムの製造方法)
以下、本発明の防湿性カバーレイフィルムを製造するための好適な実施形態を説明する。
【0065】
先ず、前記有機防湿膜を製膜する際に用いる溶液又は分散液(塗工液)について説明する。このような溶液又は分散液(塗工液)としては、ポリカルボン酸系重合体(A)と、多価金属化合物(B)と、揮発性塩基(C)又は酸(D)のいずれか一方と、溶媒とを含む混合物の溶液又は分散液(塗工液)を用いることができる。
【0066】
ここで原料として用いられるポリカルボン酸系重合体(A)、多価金属化合物(B)については、前記説明した通りである。ポリカルボン酸系重合体(A)と多価金属化合物(B)は水溶液中では、容易に反応し、不均一な沈殿を形成することがあるため、ポリカルボン酸系重合体(A)と多価金属化合物(B)と溶媒として水からなる均一な塗工液を得るために、揮発性塩基(C)又は酸(D)のいずれか一方を溶媒としての水と混合する。
【0067】
このような揮発性塩基(C)としては、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モルフォリン、エタノールアミンが用いられる。このような揮発性塩基(C)の中でも、形成される有機防湿膜の防湿性の向上という観点から、アンモニアが好ましく用いられる。また、酸(D)としては、塩酸、酢酸、硫酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の無機酸、有機酸が用いられる。
【0068】
前記溶液又は分散液(塗工液)の調製に際して、ポリカルボン酸系重合体(A)の量に対する多価金属化合物(B)の配合量は、有機防湿膜のガスバリア性、防湿性の観点で、ポリカルボン酸系重合体(A)中の全てのカルボキシ基に対して、0.5化学当量以上であることが好ましく、0.8化学当量以上であることがより好ましい。更に、上記観点に加え、有機防湿膜の成形性や透明性の観点から10化学当量以下であることが好ましく、1化学当量以上5化学当量以下の範囲であることが特に好ましい。また、得られる有機防湿膜の赤外線吸収スペクトルのピーク比βを、1.2以上(好ましくは2.0以上、更に好ましくは4.0以上)とするという観点からは、ポリカルボン酸系重合体(A)の量に対する多価金属化合物(B)の配合量は、ポリカルボン酸系重合体(A)中の全てのカルボキシ基に対して0.5〜10化学当量であることが好ましい。なお、ここで化学当量とは、化学反応性に基づいて定められた元素(単体)又は化合物の一定量である。本発明における化学当量は、ポリカルボン酸系重合体(A)中の、カルボキシ基に対する化学当量であるため、1化学当量とは酸として作用する1当量のカルボキシ基の量を中和する塩基の量を云う。ここで塩基とは多価金属化合物(B)を構成する多価金属である。
【0069】
また、均一な混合物の溶液又は分散液(塗工液)を得るために必要な揮発性塩基(C)の量は、ポリカルボン酸系重合体(A)中のカルボキシ基に対して1化学当量である。しかし多価金属化合物がコバルト、ニッケル、銅、亜鉛の酸化物、水酸化物、炭酸塩であるような場合には、1化学当量以上の揮発性塩基(C)を加えることにより、それら金属が揮発性塩基(C)と錯体を形成し、ポリカルボン酸系重合体(A)と多価金属化合物(B)と揮発性塩基(C)、及び溶媒としての水からなる透明、均一な溶液が得られる。揮発性塩基(C)の好適な添加量は、ポリカルボン酸系重合体(A)中の全てのカルボキシ基に対して、1化学当量以上60化学当量以下、更には2化学当量以上30化学当量以下であることが好ましい。1化学当量未満の添加量では、均一な溶液(塗工液)が得難く、一方、60化学当量を超えるとフィルムの製造(製膜)に問題が生じる。また、多価金属化合物として亜鉛化合物を用いる場合には、亜鉛のオージェ電子スペクトル分析の結合エネルギーが496〜498eVの間に少なくとも一つのピークを有するような有機防湿膜を製造するという観点からは、亜鉛化合物1モルに対して、揮発性塩基(C)を2〜120モル配合することが好ましく、特に揮発性塩基(C)がアンモニアである場合には、亜鉛化合物1モルに対して4〜60モル配合することが好ましい。
【0070】
一方、酸(D)を用いる場合に、均一な混合物の溶液又は分散液(塗工液)を得るために必要な酸(D)の量は、ポリカルボン酸系重合体(A)中のカルボキシ基に対して1化学当量以上、60化学当量以下であり、2化学当量以上、30化学当量以下であることが好ましい。この量が1化学当量未満では、均一な溶液(塗工液)が得難く、一方、60化学当量を超えるとフィルムの製造(製膜)に問題が生じる。酸(D)としては、塩酸が好ましく用いられる。また、多価金属化合物として亜鉛化合物を用いる場合には、亜鉛のオージェ電子スペクトル分析の結合エネルギーが496〜498eVの間に少なくとも一つのピークを有するような防湿膜用積層フィルムを製造するという観点からは、亜鉛化合物1モルに対して、酸(D)を2〜120モル配合することが好ましい。
【0071】
また、このような塗工液を得る際、原材料の混合順序には特別な順序はない。用いる溶媒の具体例としては、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、ジメチルスルフォキシド、ジメチルフォルムアミド、ジメチルアセトアミド、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチル等を挙げることができる。塗工時の廃液処理や、溶媒がフィルムに残留する可能性が生じる等の問題から水を用いることが好ましい。例えば、溶媒として加えた水の中へ、ポリカルボン酸系重合体(A)としてポリアクリル酸(水溶液状で入手される)、揮発性塩基(C)としてアンモニア(水溶液状態)、多価金属化合物(B)として酸化亜鉛(粉末状)をこの順序で加え、超音波ホモジナイザーで混合し塗工液を得ることができる。溶媒としての水の量は、塗工装置の塗工適性に合うように、他の添加剤との組合せにより適宜調整する。溶媒は、単一の種類であっても、混合して用いても差しつかえない。
【0072】
溶液又は分散液(塗工液)には、前記成分の他に樹脂、柔軟剤、安定剤、膜形成剤、アンチブロッキング剤、粘着剤等を適宜添加することができる。特に過剰に存在する多価金属化合物の分散性、塗工性を向上させる目的で、用いた溶媒系に可溶な樹脂を混合して用いることが好ましい。樹脂の好適な例としては、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、硝化綿、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂等の塗料用に用いる樹脂を挙げることができる。塗工液中のポリカルボン酸系重合体(A)の多価金属塩、多価金属化合物、樹脂、その他の添加剤の総量は、塗工適性の観点から、1重量%〜50重量%の範囲であることが好ましい。
【0073】
なお、このような溶液又は分散液としては、ポリカルボン酸系重合体(A)と多価金属化合物(B)と揮発性塩基(C)、炭酸アンモニウム(E)を溶媒の水と混合して得られる溶液又は分散液を用いることもできる。炭酸アンモニウム(E)は、多価金属化合物(B)を、炭酸多価金属アンモニウム錯体の状態にして、ポリカルボン酸系重合体(A)の全てのカルボキシ基に対して1化学当量以上の量の多価金属を含む均一な溶液を調製するために添加するものである。炭酸アンモニウム(E)の添加量は、多価金属化合物(B)に対して、モル比、即ち、炭酸アンモニウム(E)のモル数/多価金属化合物(B)のモル数が0.05〜10の範囲、好ましくは1〜5の範囲である。モル比が0.05未満では、ポリカルボン酸系重合体(A)の全てのカルボキシ基に対して1化学当量を越える量の多価金属塩を含む均一な溶液(塗工液)が得難く、10を超えると有機薄膜の製膜に問題が生じる。以後の説明では、ポリカルボン酸系重合体(A)と多価金属化合物(B)と揮発性塩基(C)又は酸(D)と溶媒として水を用いた塗工液を例として記述する。炭酸アンモニウム(E)を用いる場合も、特別に断りがない限り同様に考えて差しつかえない。
【0074】
次に、本発明の防湿性カバーレイフィルムを製造するための好適な製造方法を説明するため、先ず、前記の防湿性カバーレイフィルム(ロ)を製造する一実施形態を説明する。
【0075】
〔防湿性カバーレイフィルム(ロ)の製造方法〕
防湿性カバーレイフィルム(ロ)の製造方法は、(1)基材フィルムの表面上に有機防湿膜を形成させたフィルムを2枚得る工程、(2)2枚の有機防湿膜を接着剤層を介して積層せしめる工程(防湿性カバーレイフィルム(ロ)を得る工程)を含む製造方法である。
【0076】
(1)基材フィルムの表面上に有機防湿膜を形成させたフィルムを2枚得る工程、有機防湿膜を2枚得る工程では、2枚の基材フィルムの上に、前記溶液又は分散液(塗工液)を塗工して乾燥させることで、有機防湿膜(有機防湿膜積層体)を得る。
【0077】
塗工液を基材フィルムの上に塗工する方法は、公知の塗工方法が特に制限なく使用可能であり、浸漬(ディッピング)やスプレー、及びコーター、印刷機、或いは刷毛を用いて行う。コーター、印刷機の種類、塗工方式としては、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、キスリバースグラビア方式、オフセットグラビア方式等のグラビアコーター、リバースロールコーター、マイクログラビアコーター、エアナイフコーター、デイップコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター等を用いることができる。
【0078】
本発明においては、前記溶液又は分散液を基材フィルムの上に塗工した直後の状態(wet)における塗工厚み(wet)としては、0.02μm〜1mmであることが好ましく、0.5μm〜500μmであることがより好ましい。他方、前記塗工層を加熱下で乾燥した場合には、前記溶液又は分散液の塗工厚み(dry)としては、0.001μm〜1mmであることが好ましく、0.01μm〜100μmであることがより好ましい。このような乾燥厚さとなるように1〜4回繰り返して塗工と乾燥をすることで所望の厚さを得ることができる。
【0079】
他方、上記した塗工厚み(dry)は、厚みが5μmを越える場合には、オリンパス光学工業(株)製、透過ノルマルスキー微分干渉顕微鏡を用い、フィルム断面から実測した値を用いる。また、該厚みが5μm以下の場合には、大塚電子(株)製、瞬間マルチ測光システムMCPD−2000を用いて測定した値を用いる。
【0080】
本発明において、前記溶液又は分散液を基材フィルムの上に塗工する直前の状態における前記溶液又は分散液は、適宜粘度を調整することができる。
【0081】
塗工液を基材フィルムの表面上に塗布後、溶媒を蒸発、乾燥させる方法は特に限定されない。自然乾燥による方法や、所定の温度に設定したオーブン中で乾燥させる方法、前記コーター付属の乾燥機、例えばアーチドライヤー、フローティングドライヤー、ドラムドライヤー、赤外線ドライヤー等を用いることができる。乾燥の条件は、基材、及びポリカルボン酸系重合体(A)の多価金属塩、その他の添加剤が熱による損傷を受けない範囲で任意に選択できる。
【0082】
基材フィルムの上のポリカルボン酸系重合体(A)、多価金属化合物(B)、揮発性塩基(C)又は酸(D)からなる層中で、多価金属化合物(B)は未反応分子状、ポリカルボン酸系重合体(A)との多価金属塩、及びポリカルボン酸との金属錯体塩として存在する。ここで金属錯体塩とは、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム等と揮発性塩基との錯体を意味する。具体的な金属錯体塩としては、亜鉛や銅のテトラアンモニウム錯体塩を例示することができる。このようにして、前記溶液又は分散液を基材フィルムの上に塗布し、乾燥して有機防湿膜を形成せしめる。
【0083】
そして、基材フィルムの表面上に積層されている有機防湿膜を60℃〜400℃、好ましくは100〜300℃、更に好ましくは150〜250℃の範囲の温度で熱処理を行い、基材フィルムの表面上に有機防湿膜を形成することができる。上記温度範囲内であれば、熱処理に際し、特別な制限はない。通常、好ましくは、不活性ガス雰囲気下、0.1〜600MPa、更に好ましくは0.1〜100MPaの加圧下で、好ましくは0.1〜3000分、更に好ましくは1〜2000分で熱処理が行われる。熱処理温度が400℃を超えるものや熱処理時間が3000分を超えるものでは、目的とする酸素ガスバリア性や防湿性を持つフィルムが得難く、また、生産上の観点からも問題がある。熱処理温度が60℃未満のものや、熱処理時間が0.1分未満のものでは、水分の除去が充分ではなく、特に防湿性の点から問題が生じる傾向にある。また、得られる有機防湿膜積層体中の有機防湿膜が、より確実に赤外線吸収スペクトルの面積比αを2.5以下(好ましくは0.01〜2.3、より好ましくは0.01〜2.0)とするという観点からは、0.1〜600MPa下、60〜400℃の条件で熱処理することが好ましい。熱処理温度が前記下限未満では、十分に水分を除去できない傾向にあり、熱処理温度が前記上限を超えると、有機防湿膜を構成する樹脂の熱分解による黒色乃至褐色の熱分解物を生じる傾向にある。
【0084】
なお、熱処理方法については、特別な制限はない。熱処理温度を複数回変えて、段階的に昇温し熱履歴を与えてもよい。熱処理装置についても、特に制限されない。例えば、常圧のオーブン、加圧下のオートクレーブ、プレス器、フローティング炉のような連続的加熱装置等で熱処理できる。また、熱処理の方法としては、例えば、熱風噴射、エアーフローティング、赤外線放射、マイクロ波照射、高周波誘電加熱等を挙げることができる。尚、熱処理が済んだ段階では、揮発性塩基(C)又は酸(D)或いは炭酸アンモニウム(E)は揮散しているか、或いは塩となりフィルム中に痕跡が残るがフィルムの性能には影響を与えない。
【0085】
(2)2枚の有機防湿膜を接着剤層を介して積層せしめる工程
工程(2)においては、前記のようにして得られた2枚の有機防湿膜積層体の有機防湿膜面同士を接着剤層を介して積層せしめて防湿性カバーレイフィルム(ロ)を得る。
【0086】
このような接着剤層を形成せしめるために用いられる接着剤は、前記接着材層を形成させるために用いられる接着剤と同様なものである。
【0087】
また、前記の有機防湿膜面に接着剤を塗工する方法としては特に制限されず、公知の塗工方法が使用可能であり、浸漬(ディッピング)やスプレー、及びコーター、印刷機、或いは刷毛を用いて行うことが可能である。コーター、印刷機の種類、塗工方式としては、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、キスリバースグラビア方式、オフセットグラビア方式等のグラビアコーター、リバースロールコーター、マイクログラビアコーター、エアナイフコーター、デイップコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター等を用いることができる。また、接着剤を塗工する際には、前記2枚の有機防湿膜の両方の面に接着剤を塗工してもよく、前記2枚の有機防湿膜のうちの1枚の面にのみ接着剤を塗工してもよい。更に、有機防湿膜に接着剤を塗工する際の塗工厚みとしては、前述の接着剤層の好適な厚みを実現するために十分なものとすることが好ましい。
【0088】
また、前記有機防湿膜面同士を接着せしめる方法としては特に制限されず、適宜公知の方法を用いることが可能であり、ドライラミネート法、エクストルージョンラミネート法、ホットメルトラミネート法等を用いることが可能である。
【0089】
このようにして有機防湿膜面同士を接着層を介して積層せしめることで、基材フィルム/有機防湿膜/接着剤層/有機防湿膜/基材フィルムの順で積層された本発明の防湿性カバーレイフィルム(ロ)を得ることができる。
【0090】
次に、前述の防湿性カバーレイフィルム(ロ)の製造工程(1)及び(2)を実施するために好適な防湿性カバーレイフィルム(ロ)を製造するための装置の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0091】
図1は、防湿性カバーレイフィルム(ロ)を製造するための装置の一実施形態を示す模式図である。
【0092】
図1に示す製造装置は、繰出し装置1を備え、かかる繰出し装置1には、前述の製造工程(1)に記載された基材フィルム3がロール状に巻かれた基材フィルムロール2が設置されている。
【0093】
また、図1に示す製造装置は、繰出し装置1から繰出された基材フィルム3が進行する方向にコロナ放電システム4及びグラビアロール5を備えており、かかるグラビアロール5の一部は、前述のようにして調整されたポリカルボン酸系重合体(A)と多価金属化合物(B)と揮発性塩基(C)と溶媒とを含む混合物の溶液6に接触している。さらに、図1に示す製造装置は、溶液6が塗工された基材フィルム3が進行する方向に第一の乾燥炉7を備えている。
【0094】
また、図1に示す製造装置は、上述のような繰出し装置1、コロナ放電システム4、グラビアロール5、第一の乾燥炉7の順に構成されたラインを2つ備えており、一方のラインには、第一の乾燥炉7の後に更にラミネート装置8が配置されている。
【0095】
また、図1に示す製造装置は、第一の乾燥炉7を通過した有機防湿膜積層体及びラミネート装置8を通過して接着剤が塗工された有機防湿膜積層体(以下「接着層形成有機防湿膜積層体」という)の進行方向に、加熱ロール9、第二の乾燥炉10、アキュームレー11、及び巻取り装置12を備えている。
【0096】
このような図1に示す製造装置を用いて有機防湿膜積層体を製造する際には、先ず、有機防湿膜積層体を得る工程として、繰出し装置1に基材フィルムロール2をセットして、基材フィルム3を繰出していく。そして、繰出されたフィルム3の表面は、コロナ放電システム4を通過することで、コロナ放電処理がなされる。このようなコロナ放電処理がなされた基材フィルム3はグラビアロール5に導かれ、前記放電処理された表面上に溶液6が塗工される。なお、基材フィルム3の表面は、上述のようなコロナ放電処理がなされていることから、溶液6を均一に塗工し易い。そして、溶液6が塗工された基材フィルム3は第一の乾燥炉7に導かれ、熱処理がなされる。このような操作は2つのラインで同時に行われ、有機防湿膜積層体が2枚得られる。
【0097】
次に、本実施形態において、防湿性カバーレイフィルム(ロ)を得る工程を説明する。先ず、前述のようにして得られた2枚の有機防湿膜積層体のうち、一方の有機防湿膜積層体の有機防湿膜面にラミネート装置8を用いて接着剤を塗工して接着層形成有機防湿膜積層体を得る。その後、もう一方の有機防湿膜積層体の有機防湿膜面と、接着層形成有機防湿膜積層体の接着層面とを加熱ロール9を用いて圧着する。このような圧着を行うことで、基材フィルム/有機防湿膜/接着層/有機防湿膜/基材フィルムの順に積層された防湿性カバーレイフィルム(ロ)を得ることができる。そして、加熱ロール9によって圧着がなされた防湿性カバーレイフィルム(ロ)は、第二の乾燥炉10に導かれて熱処理がなされる。なお、第一の乾燥炉7と加熱ロール9との間に、圧着の効果を高めるために必要に応じて、コロナ放電や常圧プラズマにより有機防湿膜積層体の有機防湿膜面の表面処理(図示せず)を行うことができる。更に、このような熱処理がなされた防湿性カバーレイフィルム(ロ)はアキュームレー11を通過し、巻取り装置12によってロール状に巻き取られる(防湿性カバーレイフィルムロール13)。このようにして、本実施形態においては、防湿性カバーレイフィルム(ロ)を得ることができる。
【0098】
以上、防湿性カバーレイフィルム(ロ)を製造するための装置の好適な実施形態について説明したが、防湿性カバーレイフィルム(ロ)を製造するための装置または方法は上記実施形態に限定されるものではない。
【0099】
〔防湿性カバーレイフィルム(イ)の製造方法〕
防湿性カバーレイフィルム(イ)の製造方法は、基材フィルム3の表面上に有機防湿膜を形成する工程(防湿性カバーレイフィルム(イ)を得る工程)を含む製造方法である。
【0100】
〔防湿性カバーレイフィルム(ロ)の製造方法〕
防湿性カバーレイフィルム(ロ)の製造方法は、(1a)基材フィルムの表面上に有機防湿膜を形成する工程(有機防湿膜積層体を得る工程)、(2a)基材フィルムの表面上に接着剤を塗工する工程(接着層形成有機防湿膜積層体を得る工程)、(3a)接着層形成有機防湿膜積層体の片方の表面に接着層を押出ラミネートする工程を含む製造方法である。このようにして基材フィルム/有機防湿膜/接着剤層/有機防湿膜/基材フィルム/接着層の順に積層された防湿性カバーレイフィルム(ロ)を得ることができる。
【0101】
また、前記2枚の有機防湿膜積層体の有機防湿膜面同士を直接的に対向させて圧着させる際には、加熱ロール等を用いて、60〜500℃の温度条件下、0.5KPa〜1×106MPaの圧力で圧着させることが好ましく、100〜300℃の温度条件下、1KPa〜1MPaの圧力で圧着させることがより好ましい。
【0102】
そして、得られた防湿性カバーレイフィルム(ロ)を60℃〜400℃、好ましくは100〜300℃、更に好ましくは150〜250℃の範囲の温度で熱処理を行う。上記温度範囲内であれば、熱処理に際し、特別な制限はない。通常、好ましくは、不活性ガス雰囲気下、0.1〜600MPa、更に好ましくは0.1〜100MPaの加圧下で、好ましくは0.1〜3000分、更に好ましくは1〜2000分で熱処理が行われる。熱処理温度が400℃を超えるものや熱処理時間が3000分を超えるものでは、目的とする酸素ガスバリア性や防湿性を持つフィルムが得難く、また、生産上の観点からも問題がある。熱処理温度が60℃未満のものや、熱処理時間が0.1分未満のものでは、水分の除去が充分ではなく、特に防湿性の点から問題が生じる傾向にある。また、得られる防湿性カバーレイフィルム(ロ)中の有機防湿膜が、より確実に赤外線吸収スペクトルの面積比αを2.5以下(好ましくは0.01〜2.3、より好ましくは0.01〜2.0)とするという観点からは、0.1〜600MPa下で、60〜400℃の条件で熱処理することが好ましい。熱処理温度が前記下限未満では、十分に水分を除去できない傾向にあり、熱処理温度が前記上限を超えると、有機層を構成する樹脂の熱分解による黒色乃至褐色の熱分解物を生じる傾向にある。
【0103】
熱処理方法については、特別な制限はない。熱処理温度を複数回変えて、段階的に昇温し熱履歴を与えてもよい。熱処理装置についても、特に制限されない。例えば、常圧のオーブン、加圧下のオートクレーブ、プレス器、フローティング炉のような連続的加熱装置等で熱処理できる。また、熱処理の方法としては、例えば、熱風噴射、エアーフローティング、赤外線放射、マイクロ波照射、高周波誘電加熱等を挙げることができる。尚、熱処理が済んだ段階では、揮発性塩基(C)又は酸(D)或いは炭酸アンモニウム(E)は、揮散しているか、或いは塩となりフィルム中に痕跡が残るがフィルムの性能には影響を与えない。
【0104】
(本発明のフレキシブルプリント配線基板)
次に、本発明のフレキシブルプリント配線基板について説明する。すなわち、本発明のフレキシブルプリント配線基板は、前記本発明の防湿性カバーレイフィルムで被覆されていることを特徴とするものである。
【0105】
このようなフレキシブルプリント配線基板の好適な一実施形態について図面を参照しながら、説明する。
【0106】
図2は、フレキシブルプリント配線基板の先端部付近を拡大して示す概略斜視図である。図2に示すフレキシブルプリント配線基板は、ポリイミドフィルムの細長い可撓性の基板本体(基材本体)20を備え、基板本体20の表面部分にスクリーン印刷法などの印刷法により塗布形成された複数本の配線の端部に接続された接続端子21を備えている。また、基板本体20の表面を被覆して積層されて本発明の防湿性カバーレイフィルム22が備えられている。
【0107】
また、前記配線は複数の陽極配線23および複数の陰極配線24とから構成され、接続端子21は複数の陽極端子25及び複数の陰極端子26とから構成されている。また、陽極配線23及び陰極配線24は、基板本体20の先端部において陽極端子25及び陰極端子26にそれぞれ接続されている。複数の陽極端子25は、互いに隣接して纏まって配置され、陽極端子群を構成している。また、複数の陰極端子26は、互いに隣接して纏まって配置され、陰極端子群構成している。
【0108】
以上、本発明のフレキシブルプリント配線基板の好適な一実施形態を示したが、本発明のフレキシブルプリント配線基板はこのようなものに限定されるものではない。
【0109】
例えば、本実施形態においては、基板本体(基材本体)7としてポリイミドフィルムを用いているが、基板本体(基材本体)7は、ポリイミドフィルム以外にも、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、フェノール樹脂、ポリエチレンナフタレートなどで構成することも可能である。また、図2に示す配線は便宜上のものであって、このような配線も図2に示す配線に限られるものではなく、種々のパターンの配線とすることが可能である。
【0110】
以上、本発明のフレキシブルプリント配線基板について説明したが、以下において、本発明のフレキシブルプリント配線基板の好適な製造方法を説明する。
【0111】
本発明のフレキシブルプリント配線基板は、フレキシブルプリント配線基板を2枚の本発明の防湿性カバーレイフィルムで挟んで加熱ラミネ−トすることによりフレキシブルプリント配線基板に本発明の防湿性カバーレイフィルムを被覆せしめて製造することができる。すなわち、本発明の防湿性カバーレイフィルムと回路を形成したフレキシブル配線板を加熱下ラミネートすることにより、2枚の本発明の防湿性カバーレイフィルムで密着被覆されたフレキシブルプリント配線基板を製造することができる。
【0112】
このような本発明のフレキシブルプリント配線基板を製造の際には、前記防湿性カバーレイフィルムの一方の面に接着剤層が積層されている防湿性カバーレイフィルムを用いることが好ましい。そして、前記防湿性カバーレイフィルムの前記接着剤層の表面がフレキシブルプリント配線基板に対向するようにして2枚の本発明の防湿性カバーレイフィルムでフレキシブルプリント配線基板を挟むようにして密着被覆せしめる。このようにして防湿性カバーレイフィルム/フレキシブルプリント配線基板/防湿性カバーレイフィルムの順に積層された状態となる。
【実施例】
【0113】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0114】
先ず、予備試験で得られた積層フィルム、各実施例及び各比較例で得られた防湿性カバーレイフィルムの評価方法を説明する。
【0115】
(i)赤外線吸収スペクトルの面積比α(フィルム中の水分量の測定法)
各実施例で得られた防湿性カバーレイフィルムに関して、前記の方法の内、ATR法を用いて、フィルムの赤外線吸収スペクトルの面積比α[ピーク面積S1(3700〜2500cm−1)/ピーク面積S2(1800〜1500cm−1)]を求めた。
【0116】
ここでピーク面積S1(3700〜2500cm−1)は、3700cm−1の吸光度と2500cm-1の吸光度2点を結んだ直線を基線として、3700〜2500cm−1の範囲の面積積分により求めた。また、ピーク面積S2(1800〜1500cm−1)は、1800cm−1の吸光度と1500cm−1の吸光度の2点を結んだ直線を基線として、1800〜1500cm−1の範囲の面積積分により求めた。
【0117】
また、このような面積比αの測定は、各実施例で得られた防湿性カバーレイフィルムから有機防湿膜面を表面に出した検体を製造して、前記検体の有機防湿膜について前記ATR法を用いることで行った。このような有機防湿膜を表面に出した検体は、各実施例で得られた防湿性カバーレイフィルムを塩化メチレン液とその蒸気を満たしたガラス瓶に入れ、23℃の温度条件下で1日間保管して前記防湿性カバーレイフィルムの有機防湿膜と接着層とを剥離させて製造した。
【0118】
(ii)赤外線吸収スペクトルのピーク比β(イオン化度の測定方法)
各実施例で得られた防湿性カバーレイフィルムに関して、前記した方法の内、ATR法でフィルムの赤外線吸収スペクトルの吸光度のピーク高さの比からピーク比β[ピークA1(1560cm−1)/ピークA2(1700cm−1)]を求めた。
【0119】
ここでピークA1(1600cm−1)の吸光度とは、1600cm−1の吸光度と1500cm−1の吸光度の2点を結んだ直線を基線として、1600〜1500cm−1の範囲の吸収極大の高さから求めた。またピークA2(1700cm−1)は、1800cm−1の吸光度と1600cm−1の吸光度の2点を結んだ直線を基線としてと1800〜1600cm−1の範囲の吸収極大の高さから求めた。
【0120】
また、このようなピーク比βの測定は、各実施例で得られた防湿性カバーレイフィルムから有機防湿膜面を表面に出した検体を製造して、前記検体の有機防湿膜について前記ATR法を用いることで行った。このような有機防湿膜を表面に出した検体は、各実施例で得られた防湿性カバーレイフィルムを塩化メチレン液とその蒸気を満たしたガラス瓶に入れ、23℃の温度条件下で1日間保管して前記防湿性カバーレイフィルムの有機防湿膜と接着層とを剥離させて製造した。
【0121】
(iii)水蒸気透過度(WVTR)の測定方法
各実施例及び各比較例で得られた防湿性カバーレイフィルムの防湿性の評価として、水蒸気透過度の測定をJIS K7129−1992プラスチックフィルム及びシートの水蒸気透過度試験方法(機器測定法)のB法(赤外センサー法)に則って行った。具体的には、温度60℃、相対湿度90%の条件で予備加湿を行い、加湿開始から250時間が経過した後のWVTRを温度40℃、相対湿度90%において測定した。測定機器は、Modern Control社製水蒸気透過試験機の商品名称PERMA TRANを用いて、水蒸気供給側の相対湿度90%RHで行った。測定値は、単位g/m2・dayで表記した。この方法によるWVTRの測定値の限界は0.005g/m2・dayであるが、測定値の揺れを考慮して、0.02g/m2・day以下の値は全て0.02以下g/m2・dayと記載した。
【0122】
次に、各実施例及び比較例で得られた防湿性カバーレイフィルムを被覆して得られたフレキシブルプリント配線基板の評価方法を説明する。
【0123】
(iv)負極端子の塩基性
先ず、60℃の温度条件下で相対湿度90%の雰囲気において、各実施例及び各比較例で得られたフレキシブルプリント配線基板に電圧5Vで電流50mAを連続30日間通電させる耐環境加速試験を行った。その後、フレキシブルプリント配線基板の配線における負極端子側で透過した水蒸気の電気分解由来の水酸基による塩基性の程度を、PH試験紙を用いて測定した。
【0124】
(v)基材フィルム等の状態
前記耐環境加速試験後、フレキシブルプリント配線基板及び積層されている基材フィルムの状態を測定した。
【0125】
(vi)配線の剥離の測定方法
前記耐環境加速試験後のフレキシブルプリント配線基板の配線に剥離がないかを測定した。
【0126】
(予備試験)有機防湿膜のZnオージェ電子スペクトルの測定
サンプルとして基材フィルム(ポリイミドフィルム:米国デュポン社製の商品名称カプトンEN、厚さ38μm)の上に有機防湿膜を形成せしめた積層フィルムを製造し、前記有機防湿膜のZnオージェ電子スペクトルを測定した。かかる測定に際して、先ず、以下のような条件で、有機防湿膜を製造した。なお、積層フィルムから有機防湿膜の面を露出するように他の層を剥離して、この面を有機防湿膜の検体とすることも可能である。
【0127】
〈塗工液〉
ポリアクリル酸固形分濃度:2.5wt%、ZnO添加量:2.0化学当量、アンモニア添加量:5.0(ZnOに対する質量比)、炭酸アンモニウム添加量:5.5(ZnOに対する質量比)となるように塗工液を調製した。具体的には、東亞合成(株)製ポリアクリル酸(PAA)の商品名称アロンA−10H:200g(2.74モル)、ZnO(和光純薬社製):55.7g(2.74モル)、28%アンモニア水溶液(和光純薬社製):223g(3.67モル)、炭酸アンモニア(和光純薬社製):306g(3.19モル)を配合して塗工液を調製した。
【0128】
〈塗工方法〉
ダイレクトグラビア方式(グラビア版:45線、深度:800μ、wet塗布量:約22g・m2、平野テクシード社製マルチコーター商品名称TM−MC/5B、基材:ポリエチレンテレフタレート)。
【0129】
〈乾燥方法〉
インライン乾燥(乾燥炉設定:第一ゾーン 60℃ 15m/sec、第二ゾーン 60℃ 15m/sec、ライン速度:4m/min)。
【0130】
〈熱処理〉
有機防湿膜をフェロ板に固定して、210℃のギヤオーブン中で15min熱処理した。
【0131】
次に、得られた前記有機防湿膜を研摩法により傾斜をつけて面出しを行った。その後、有機防湿膜の元素の分布状態及び表面側から0.2μmの点と0.4μmの点とにおけるZnのオージェ電子スペクトルにつき測定を行った。測定方法は以下の条件にしたがった。
測定装置:PHI社製の商品名称Quantera SXM
X線源:Al mono(1486.6eV)
検出領域20μmφ
検出深さ4〜5nm(取り出し角45°)
測定スペクトル:ワイド(0〜1500eV)、ナロー(Zn−LMNオージェ電子に対応する490〜505eV)。
【0132】
測定により確認された元素の厚さ方向の分布状態を図3に示す。この厚さの単位はμm(ミクロンメーター)である。また、測定により確認されたZnのオージェ電子スペクトル分析による測定結果を図4に示す。また、図4中、◇は有機薄膜の表面におけるオージェ電子スペクトル分析による亜鉛の結合エネルギーと強度との関係を示し、□は有機薄膜の表面から0.2μmの位置におけるオージェ電子スペクトル分析による亜鉛の結合エネルギーと強度との関係を示し、△は有機薄膜の表面から0.4μmの位置におけるオージェ電子スペクトル分析による亜鉛の結合エネルギーと強度との関係を示す。図3及び図4の関係から、Znのオージェ電子スペクトル分析による結合エネルギーは496〜498eVにピークを有し、かかるピークが主に亜鉛とアンモニアとの化学的結合に由来するものであると推測された。
【0133】
なお、前述のようにして得られた有機防湿膜の赤外線吸収スペクトルの面積比α、赤外線吸収スペクトルのピーク比β、酸素透過度及び水蒸気透過度を上記のようにして測定したところ、面積比αは1.3であり、ピーク比βは8であり、水蒸気透過度は1g/(m2・day)であった。このような酸素透過度及び水蒸気透過度の測定結果から、上記のようにして製造された有機防湿膜は優れた防湿性を有することが確認された。
【0134】
(製造例1[溶液A])
有機防湿膜の成膜用の溶液Aを下記のようにして製造した。ポリカルボン酸系重合体(A)として、東亞合成(株)製ポリアクリル酸(PAA)の商品名称アロンA−10H(数平均分子量200,000、25重量%水溶液)を用いた。前記PAA水溶液に対して、揮発性塩基としてアンモニア水(和光純薬工業(株)製試薬アンモニア28重量%水溶液)、酸化亜鉛(和光純薬工業(株)製試薬)、蒸留水を下記組成で順次添加し超音波ホモジナイザーで混合して溶液Aを得た。揮発性塩基(アンモニア)による亜鉛の錯体形成性を利用し、酸化亜鉛が完全に溶解した均一な透明溶液であった。
溶液Aの組成
PAA25重量%水溶液 250g
28重量%アンモニア水 210g
酸化亜鉛 35g
蒸留水 505g
合計 1000g。
【0135】
溶液Aの構成中、アンモニアはPAA中のカルボキシ基に対して400mol%(4.0化学当量)、酸化亜鉛は50mol%(1.0化学当量)、PAA濃度は6.25重量%であった。
【0136】
(製造例2[フレキシブルプリント配線基板])
フレキシブルプリント配線基板(FPWB)を下記のようにして製造した。すなわち、厚さ38μmのポリイミドフィルム(基材(米国デュポン社製の商品名称カプトンEN))の片面にプラズマ処理を施した後、ニッケルクロムターゲット(ニッケル90質量%、クロム10質量%の合金)を用いて、前記ポリイミドフィルム上に厚さ約6nmのニッケルクロム蒸着層を常法の真空蒸着法を用いて形成し、更に純度99.99%の銅(Cu)を前記ニッケルクロム蒸着層の上に真空蒸着せしめて導電性金属層を形成した。次に、前記導電性金属層をエッチングして配線幅500μm、配線間隔300μm、長さ50mmの直線状配線パターンを作成した。その後、前記配線パターンに対して、無電解錫(Sn)メッキを施して、厚さ1μmの錫メッキ層を形成せしめ、フレキシブルプリント配線基板(FPWB)を製造した。
【0137】
(実施例1)
ポリイミドフィルム(基材フィルム(厚さ38μm))/有機防湿膜(厚さ0.7μm)の順に積層された本発明の防湿性カバーレイフィルムを製造した。
【0138】
前記2枚のポリイミドフィルムの表面上に、製造例1で得られた溶液Aを、それぞれバーコーター(RK PRINT−COAT IN STRUMENT社製の商品名称K303PROOFER)を用いて塗工し、その後、オーブン中、200℃の条件下で60分間熱処理して基材フィルムに有機防湿膜(厚さ0.7μm)とが積層された有機防湿膜積層体を2枚得た。
【0139】
そして、1枚の前記有機防湿膜積層体の有機防湿膜の表面上にウレタン系接着剤(大日本インキ社製の商品名称ディックドライLX500(主剤)、KW75(硬化剤)の混合剤)を乾燥後の厚さが1.5μmとなるように塗工し、もう1枚の前記有機防湿膜積層体と前記ウレタン系接着剤を塗工後の有機防湿膜積層体とを有機防湿膜面が接着層を介して積層されるように200℃に保ったサーマルプレスローラを用いて圧着せしめ本発明の防湿性カバーレイフィルムを得た。
【0140】
次いで、エチレンエチルアクリレート共重合体(エチルアクリレート含有率8%)を溶融せしめて押出ラミネート法により前記防湿性カバーレイフィルムの一方の基材フィルム面上にエチレンエチルアクリレート共重合体を積層せしめ接着剤層を更に積層せしめた本発明の防湿性カバーレイフィルムを得た。なお、このような接着剤層を有する防湿性カバーレイフィルムをBステージカバーレイフィルムと云う場合もある。
【0141】
このようにして得られた防湿性カバーレイフィルム中の赤外線吸収スペクトルの面積比α[ピーク面積S1(3700〜2500cm−1)/ピーク面積S2(1800〜1500cm−1)]、ピーク比β[ピークA1(1560cm−1)/ピークA2(1700cm−1)]、及び水蒸気透過度(WVTR)をそれぞれ前述の方法で測定した。得られた結果を表1に示す。
【0142】
次に、このようにして得られた防湿性カバーレイフィルム2枚と、製造例2で得られたフレキシブルプリント配線基板(FPWB)とを用い、前記防湿性カバーレイフィルムの接着剤層の面が共にFPWB側となるようにFPWBの両面を挟んで積層せしめ、200℃に保ったサーマルプレスローラ間を通過させて本発明のフレキシブルプリント配線基板を得た。
【0143】
このようにして得られた本発明のフレキシブルプリント配線基板について、負極端子の塩基性、基材フィルム等の状態、配線の剥離について、それぞれ前述のようにして測定した。結果は以下の通りである。
【0144】
このような塩基性の測定においては、PH値が7であり通電前と同じ水準であることが確認された。また、前記基材フィルム等の状態の測定においては、基材フィルム及びフレキシブルプリント配線基板の基材に用いられているポリイミドフィルムは共に溶けたり、穴が開いたりすることも無かった。さらに、このようにして得られた本発明のフレキシブルプリント配線基板においては、配線の剥離も生じていなかった。
【0145】
(実施例2)
ポリイミドフィルム(基材フィルム(厚さ38μm))/有機防湿膜(厚さ0.7μm)/接着層(厚さ1.5μm)/有機防湿膜(厚さ0.7μm)/ポリイミドフィルム(基材フィルム(厚さ38μm))/接着剤層(厚さ25μm)の順に積層された本発明の防湿性カバーレイフィルムを製造した。
【0146】
すなわち、先ず、基材フィルムとして2枚のポリイミドフィルム(米国デュポン社製の商品名称カプトンEN)を用い、蒸着法として真空蒸着法を用いて、前記2枚のポリイミドフィルムの表面上に厚さ0.7μmとなるように有機防湿膜を形成せしめ有機防湿膜形成基材フィルムを2枚得た。
【0147】
次に、前記1枚の有機防湿膜形成基材フィルムの有機防湿膜の表面上に、製造例1で得られた溶液Aをバーコーター(RK PRINT−COAT IN STRUMENT社製の商品名称K303PROOFER)を用いて塗工し、その後、オーブン中、200℃の条件下で60分間熱処理して基材フィルムに有機防湿膜(厚さ0.7μm)とが積層された有機防湿膜積層体を2枚得た。そして、前記有機防湿膜積層体の有機防湿膜の表面上にウレタン系接着剤(大日本インキ社製の商品名称ディックドライLX500(主剤)、KW75(硬化剤)の混合剤)を乾燥後の厚さが1.5μmとなるように塗工し、もう1枚の有機防湿膜積層体が接着剤層を介して積層されるように200℃に保ったサーマルプレスローラを用いて圧着せしめ前記のような構成の本発明の防湿性カバーレイフィルムを得た。
【0148】
次いで、エチレンエチルアクリレート共重合体(エチルアクリレート含有率8%)を溶融せしめて押出ラミネート法により前記防湿性カバーレイフィルムの一方の基材フィルム面上にエチレンエチルアクリレート共重合体を積層せしめた本発明の防湿性カバーレイフィルムを得た。
【0149】
このようにして得られた防湿性カバーレイフィルム中の赤外線吸収スペクトルの面積比α[ピーク面積S1(3700〜2500cm−1)/ピーク面積S2(1800〜1500cm−1)]、ピーク比β[ピークA1(1560cm−1)/ピークA2(1700cm−1)]、及び水蒸気透過度(WVTR)をそれぞれ前述の方法で測定した。得られた結果を表1に示す。
【0150】
次に、このようにして得られた防湿性カバーレイフィルム2枚と、製造例2で得られたフレキシブルプリント配線基板(FPWB)とを用い、前記防湿性カバーレイフィルムの接着剤層の面が共にFPWB側となるようにFPWBの両面を挟んで積層せしめ、200℃に保ったサーマルプレスローラ間を通過させて本発明のフレキシブルプリント配線基板を得た。
【0151】
このようにして得られたフレキシブルプリント配線基板について、負極端子の塩基性、基材フィルム等の状態、配線の剥離、及び配線の短絡について、それぞれ前述のようにして測定した。結果は以下の通りである。
【0152】
このような塩基性の測定においては、PH値が7であり通電前と同じ水準であることが確認された。また、前記基材フィルム等の状態の測定においては、基材フィルム及びフレキシブルプリント配線基板の基材に用いられているポリイミドフィルムは共に溶けたり穴が開いたりすることも無く、パイ生地状の凹凸が生じることも無かった。さらに、このようにして得られた本発明のフレキシブルプリント配線基板においては、配線の剥離も生じていなかった。また、このようにして得られた本発明のフレキシブルプリント配線基板においては、ウィスカの成長が抑えられており配線の短絡も生じていなかった。
【0153】
(比較例1)
ポリエステルテレフタレートフィルム(基材フィルム(厚さ50μm))/接着層(厚さ70μm)の順に積層された比較としての防湿性カバーレイフィルムを製造した。
【0154】
すなわち、基材フィルムとして延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム:東レ製の商品名称ルミラーS10、厚さ50μm)を用い、かかる基材フィルムの上に、エチレンエチルアクリレート共重合体(エチルアクリレート含有率8%)を溶融して押出ラミネート法により積層せしめて、基材フィルム面上にエチレンエチルアクリレート共重合体からなる接着層を積層させた比較としての防湿性カバーレイフィルムを得た。
【0155】
このようにして得られた防湿性カバーレイフィルムの水蒸気透過度(WVTR)を前述の方法で測定した。得られた結果を表1に示す。
【0156】
このようにして得られた防湿性カバーレイフィルム2枚と、製造例2で得られたフレキシブルプリント配線基板(FPWB)とを用い、前記防湿性カバーレイフィルムの接着層の面が共にFPWB側となるようにFPWBの両面を挟んで積層せしめ、200℃に保ったサーマルプレスローラ間を通過させて比較としてのフレキシブルプリント配線基板を得た。
【0157】
このようにして得られたフレキシブルプリント配線基板について、負極端子の塩基性、基材フィルム等の状態及び配線の剥離について、それぞれ前述のようにして測定した。結果は以下の通りである。
【0158】
このような負極端子の塩基性の測定において、PH値が12であり通電前よりも塩基性となっていた。また、前記基材フィルム等の状態は、基材フィルムに用いられているPETフィルムが溶け、更には配線基板に用いられている基材にも穴が開いていた。さらに、配線の剥離を測定すると、配線の剥離が一部に生じていることが確認された。
【0159】
(比較例2)
ポリエステルテレフタレートフィルム(基材フィルム(厚さ50μm))/接着剤層(厚さ1.5μm)/ポリエステルテレフタレートフィルム(基材フィルム(厚さ50μm))/接着層の順に積層された比較としての防湿性カバーレイフィルムを製造した。
【0160】
すなわち、基材フィルムとして2枚の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム:東レ製の商品名称ルミラーS10、厚さ50μm)を用い、1枚の基材フィルムの表面上にウレタン系接着剤(大日本インキ社製の商品名称ディックドライLX500(主剤)、KW75(硬化剤)の混合剤)を乾燥後の厚さが1.5μmとなるように塗工し、前記基材フィルムにもう1枚の基材フィルムが接着剤層を介して積層されるように2200℃に保ったサーマルプレスローラを用いて圧着せしめ積層フィルムを得た。その後、エチレンエチルアクリレート共重合体(エチルアクリレート含有率8%)を溶融せしめて押出ラミネート法により前記積層フィルムの一方の基材フィルムの表面上にエチレンエチルアクリレート共重合体を積層せしめ接着層を更に積層せしめた比較としての防湿性カバーレイフィルムを得た。
【0161】
このようにして得られた防湿性カバーレイフィルムの水蒸気透過度(WVTR)を前述の方法で測定した。得られた結果を表1に示す。
【0162】
次に、このようにして得られた防湿性カバーレイフィルム2枚と、製造例2で得られたフレキシブルプリント配線基板(FPWB)とを用い、前記防湿性カバーレイフィルムの接着剤層の面が共にFPWB側となるようにFPWBの両面を挟んで積層せしめ、200℃に保ったサーマルプレスローラ間を通過させて比較としてのフレキシブルプリント配線基板を得た。
【0163】
このようにして得られたフレキシブルプリント配線基板について、負極端子の塩基性、基材フィルム等の状態、及び配線の剥離について、それぞれ前述のようにして測定した。結果は以下の通りである。
【0164】
このような負極端子の塩基性の測定において、PH値が12であり通電前よりも塩基性となっていた。また、前記基材フィルム等の状態は、基材フィルムに用いられているPETフィルムが溶け、更には配線基板に用いられている基材にも穴が開いていた。さらに、配線の剥離を測定すると、配線の剥離が一部に生じていることが確認された。
【0165】

【表1】

【0166】
このような表1に示す結果及び負極端子の塩基性、基材フィルム等の状態及び配線の剥離についての測定結果からも明らかなように、本発明の防湿性カバーレイフィルムは、水蒸気透過度が低く高い防湿性を有することが確認された。さらに、本発明のフレキシブルプリント配線基板は長期間に亘り、配線の剥離も無く安定して使用できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0167】
以上説明したように、本発明によれば、水蒸気透過度が非常に小さく高水準の防湿性を長期に亘り安定して発揮することが可能なカバーレイフィルムであって、フレキシブルプリント配線基板を被覆した場合に水蒸気によって配線基板上の負端子側が塩基性となること及び配線の剥離が生じることを防止することが可能な防湿性カバーレイフィルム、並びに、それを用いたフレキシブルプリント配線基板を提供することが可能となる。
【0168】
したがって、本発明の防湿性カバーレイフィルムは、特に防湿性に優れるため、フレキシブルプリント配線基板を被覆して回路を保護する用途に有用な防湿性カバーレイフィルムである。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】防湿性カバーレイフィルム(ロ)を製造するための装置の一実施形態を示す模式図である。
【図2】本発明のフレキシブルプリント配線基板の先端部付近の一実施形態を拡大して示す概略斜視図である。
【図3】有機防湿膜の表面からの距離と有機防湿膜中の元素の組成分布の関係を示すグラフである。
【図4】オージェ電子スペクトル分析による亜鉛の結合エネルギーとオージェ電子の放出量に正相関する強度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0170】
1…繰出し装置、2…基材フィルムロール、3…基材フィルム、4…コロナ放電システム、5…グラビアロール、6…溶液、7…第一の乾燥炉、8…ラミネート装置、9…加熱ロール、10…第二の乾燥炉、11…アキュームレー、12…巻取り装置、13…防湿性カバーレイフィルムロール、20…基板本体、21…接続端子、22…防湿性カバーレイフィルム、23…陽極配線、24…陰極配線、25…陽極端子、26…陰極端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドフィルムからなる基材フィルムと、該基材フィルムの一方の面に積層されている有機防湿膜とを備える防湿性カバーレイフィルムであって、前記有機防湿膜が、
ポリカルボン酸系重合体(A)の多価金属塩を少なくとも含み、赤外線吸収スペクトルの面積比α[ピーク面積S1(3700〜2500cm−1)/ピーク面積S2(1800〜1500cm−1)]が2.5以下であり、且つ赤外線吸収スペクトルのピーク比β[ピークA1(1560cm−1)/ピークA2(1700cm−1)]が1.2以上としてなる、
ことを特徴とする防湿性カバーレイフィルム。
【請求項2】
前記有機防湿膜が、2枚の前記有機薄膜を直接的に対向させ且つ密着せしめて形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の防湿性カバーレイフィルム。
【請求項3】
前記有機防湿膜が、2枚の前記有機薄膜を接着層を介して積層せしめて形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の防湿性カバーレイフィルム。
【請求項4】
前記有機防湿膜中の前記多価金属が、亜鉛、ジルコニウム、銅及びニッケルからなる群から選択される少なくとも一種の金属であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の防湿性カバーレイフィルム。
【請求項5】
前記多価金属が亜鉛であり、且つ亜鉛のオージェ電子スペクトル分析による結合エネルギーが496〜498eVの間に少なくとも一つのピークを有することを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の防湿性カバーレイフィルム。
【請求項6】
前記基材フィルムの他方の面に積層されている接着剤層を更に備えることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の防湿性カバーレイフィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の防湿性カバーレイフィルムで被覆されていることを特徴とするフレキシブルプリント配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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