説明

防滑剤および防滑剤を含有した紙・板紙

【課題】
紙及び板紙の滑り性を減少させ、しかも持続性のある防滑効果を紙の表面に付与することにより、荷崩れ防止、包装物の滑り抜け防止を図ることにある。
【解決手段】
モース硬度4以上を有する非晶質無機顔料である珪酸を主体とする火山ガラス質白土を防滑剤として使用し、少なくとも1層からなる紙又は板紙の表層または裏層に火山ガラス質白土を含有する紙又は板紙。さらに、ワックス類を含浸または塗工してなる撥水ライナーにおいて、該撥水ライナーの表層に火山ガラス質白土を防滑剤として含有する撥水ライナー。
なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紙及び板紙の表面の滑り性を減少させることに関するものである。より詳しくいえば本発明は、段ボール箱等の紙器や種々の包装紙に含有して防滑性を付与し、荷崩れ防止、包装物の滑り抜け防止に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙は製造方法に応じて、滑り易いものから滑り難いものまで、多種多様のものがある。その中で、特にクラフト包装紙、ライナー原紙などは、そのままの形で物品を包装した後、または、包装袋や段ボール箱などに加工して内容物を入れて包装した後、品物を積重ねて運搬する場合が多い。包装物の表面が滑り易いと往々にして荷崩れを起こすため、運搬に支障をきたすばかりでなく、危険が多い。
【0003】
紙が必要以上に滑り易いと上記包装物の取り扱いのみならず、紙の製造時に巻取りにした時に、巻取りそのものが滑り、竹の子状になる等の紙の製造上のトラブルにも繋がりかねない。特に、撥水性を持たせるためにワックス類を表面に塗工した撥水ライナーに於いて顕著な問題である。
【0004】
この種の問題を解決するために、紙の表面に各種の加工を施して滑り性を防止する方法は各種提案されている。紙または板紙を滑り難くする手段としては、その表面に防滑剤を塗工する方法があり、防滑剤としては無機質タイプと有機質タイプが知られている。
特許文献1には紙の表面に両性化合物(特に水酸化アルミニウム)の微粉末を付着させた改質紙が開示されている。また、特許文献2にはウィスカーを含有することが開示されているが、コロイダルシリカの併用が必要である。
有機質タイプの場合には防滑性に優れるものの、ブロッキングの問題がある。いずれのタイプの場合にも繰り返しの滑りに対して性能の低下がみられる。
【0005】
【特許文献1】特公昭56−018712号公報
【特許文献2】特開平04−327297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、紙及び板紙の滑り性を減少させ、しかも持続性のある防滑効果を紙の表面に付与することにより、荷崩れ防止、包装物の滑り抜け防止を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために以下の(1)〜(5)の構成を採る。
(1)モース硬度4以上を有する非晶質無機顔料であることを特徴とする防滑剤。
(2)火山より噴出したシラスであることを特徴とする(1)項に記載の防滑剤。
(3)珪酸を主体とする火山ガラス質白土であることを特徴とする(1)項又は(2)項のいずれかに記載した防滑剤。
(4)少なくとも1層からなる紙又は板紙の表層または裏層に火山ガラス質白土を防滑剤として含有することを特徴とする紙又は板紙。
(5)ワックス類を含浸または塗工してなる撥水ライナーにおいて、該撥水ライナーの表層に火山ガラス質白土を防滑剤として含有することを特徴とする撥水ライナー。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、防滑剤の主成分として火山ガラス質白土を使用すると、段ボール箱等の表面を損傷せずに十分な防滑効果が得られ、従来の欠点である積み替え繰り返しによる防滑効果の低下が防げるばかりでなく、積み替え、滑りを繰り返すほどに防滑効果の向上がみられるので、防滑剤として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いられる防滑剤は、モース硬度4〜9の非晶質無機顔料がよいが、防滑効果の低下防止と磨耗等を考慮に入れるとおよそモース硬度6〜8が好ましい。
モース硬度が4を下回ると、特にクラフト紙等の包装紙に防滑剤として添加する場合において、包装する紙及び塗工紙に使用される炭酸カルシウム及びカオリンの硬度と同じとなり、繰り返しの滑りにより、添加した防滑剤が磨耗して防滑効果の低下が起こるので好ましくない。
【0010】
また、防滑剤の顔料の大きさとしては平均粒径3〜50μm程度のものが好ましい。平均粒径が3μmより小さいと、紙のパルプ間に埋まり、防滑効果が発揮できない。平均粒径が50μmより大きいと、パルプ表面より飛び出してしまい、顔料が脱落してしまい防滑効果が損なわれる。顔料の粒度分布には特に制限はないが、粒径2μm以下のものと100μm以上のものの合計質量%が10%以下が好ましい。なお、平均粒径は島津製作所製SALD−3000によって測定した。
【0011】
本発明に使用する防滑剤の例としては、モース硬度4以上の非晶質無機顔料として火山より噴出したシラスが挙げられる。シラスの中でも、結晶質鉱物の混入がない非晶質微粒子である火山ガラス質白土が好ましい。結晶質鉱物が混入していると、同じモース硬度でも防滑効果は良好なものの磨耗性が高くなり、繰り返しの積み上げと滑りに対して紙そのものが磨耗し、防滑効果の維持特性が損なわれる。
本発明に使用する火山ガラス質白土としては、北海道川上郡美瑛町に産出されるものが珪酸(67.9〜73.2%)と酸化アルミニウム(14.9〜16.2%)からなるもので非常に純度が高く、かつ結晶質鉱物などの不純物の混入がなく好ましい。このものは商品名としては、美瑛白土工業社製、白土Aが挙げられる。
【0012】
本発明の防滑剤は、紙及び板紙の滑り防止に顕著な効果を発揮する。例えば、ワンプ紙に添加したときには、ワンプ紙で巻取りを包装し、その包装物をクランプリフトで掴み上げ、振り下ろしても巻取りの滑り抜けは認められない。
多層抄きであるライナーの表層に本発明の防滑剤を添加することで滑り防止に効果を発揮する。更に、添加時に歩留まり剤を併用することでいっそうの防滑効果が発現する。併用する歩留まり剤としては、ポリアクリルアマイドに代表される紙用歩留まり剤が使用可能で、抄紙機のウェットエンドで使用される歩留まり剤であればとくに制限はない。
【0013】
本発明の防滑剤を紙及び板紙に添加する場合の添加量は、単層抄きの紙または多層抄きの表層または裏層に対して、1〜10質量%が好ましく、より好ましくは2〜8質量%である。1質量%を下回ると、防滑効果が発揮されない。10質量%を超えて添加した場合には、防滑効果が飽和する共に繊維間結合が阻害されて、紙の強度が低下するので好ましくない。なお、多層抄きの板紙に本発明の防滑剤を添加する場合、防滑性能が必要な面、例えば、表面の滑りを防止するには表層に、裏面の滑りを防止するには裏層に添加するとよい。
【0014】
本発明の防滑剤の添加方法としては、パルプスラリーに対して上記%の防滑剤を内添して抄紙することが好ましい。勿論、紙および板紙の表層の表面塗工することでも防滑性能は得られるが、防滑剤が紙表面に露出しているので、繰り返しの滑りによる防滑剤の脱落のためか、繰り返しの滑りによる防滑効果の向上はやや低下する。
ライナーに於いては内添による添加が好ましく、特に撥水ライナーにおいては防滑剤を表層に内添した後に、ワックス類を含浸または塗工することで、撥水性能と防滑性能の両立が可能である。
【0015】
なお、本発明の紙及び板紙の原料であるパルプには特に制限はなく、例えば、針葉樹と広葉樹の未晒および晒クラフトパルプ等の化学パルプ、グラウンドパルプ等の機械パルプ、段ボールや新聞、雑誌等の古紙パルプ、古紙パルプを脱墨したパルプ、バガス等の非木材繊維、合成繊維、ガラス繊維等の各種繊維を単独又は2種以上混合して用いることができる。
また、抄紙に際しては、上記パルプと防滑剤のほか、必要に応じて、硫酸バンド、サイズ剤、紙力増強剤、歩留まり剤、消泡剤等の抄紙薬品を適宜使用できる。
【0016】
撥水性の付与に際しては表面層に撥水剤を塗工または含浸することで付与できる。この際用いられる撥水剤としては、ワックス系、合成樹脂系、アクリル系、パラフィン系、フッ素系、シリコーン系など挙げられ、使用に際しては単独または2種以上混合して用いることができる。また、撥水剤は、単独で用いても良いし、また、他の塗工薬品を混合して用いてもよい。撥水剤の塗工又は含浸は抄紙機に設置されている装置、例えば、ロッドコーター、チャンピオンコーター、キャレンダー等にて可能であり、また、抄紙後、オフの塗布装置にて行うこともできる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を基に、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。なお、実施例中の「%」は特に断りのない限り、「質量%」を示す。
【0018】
<実施例1>
NUKP(針葉樹未晒クラフトパルプ)30%、LUKP(広葉樹未晒クラフトパルプ)70%に対して、防滑剤として火山ガラス質白土(美瑛白土工業社製、白土A:モース硬度6、平均粒径8μm、2μm以下5%及び100μm以上0%)を対パルプ5%内添し、ロジンサイズ剤(荒川化学工業製、SPN773)を0.3%、硫酸バンド2.0%を添加し、長網抄紙機にて、米坪75g/mのクラフト紙を得た。
【0019】
<比較例1>
防滑剤白土Aは添加しないこと以外は、実施例1と同様にクラフト紙を得た。
【0020】
実施例1と比較例1で得たクラフト紙を使用して製袋し、内容物をいれて積重ねて運搬テストを行ったところ、比較例1では荷崩れを起こしたのに対して実施例1では荷崩れを起こさなかった。
【0021】
<実施例2>
裏層用パルプとして、段ボール古紙80%、雑誌古紙20%に対して、防滑剤として白土Aを対パルプ4%内添し、ロジンサイズ剤を0.2%、硫酸バンドを1.5%添加して裏層とした。中層用パルプとして、段ボール古紙50%と雑誌古紙50%に対して、硫酸バンドを1.0%添加して中層とした。表層用パルプとして、段ボール古紙100%に対して、ロジンサイズ剤を0.15%、硫酸バンドを1.2%添加して表層とした。多層紙機にて、表層25g/m、中層85g/m、裏層40g/mを抄き合わせて、合計150g/mのワンプ紙を得た。
【0022】
<比較例2>
防滑剤白土Aを添加しないこと以外は、実施例2と同様にワンプ紙を得た。
【0023】
続いて、実施例2で得たワンプ紙を使用して新聞巻取(A巻取)を包装し、クランプリフトで掴み上げ、振り下ろして内部の新聞巻取の滑り抜けの有無をテストしたが、全く滑り抜けは認められなかった。一方、比較例2で得たワンプ紙を使用して同様のテストを行ったところ、若干の滑り抜けが認められた。
【0024】
<実施例3>
表層用パルプとして、NUKP30%と段ボール古紙70%に対して、防滑剤として白土Aを対パルプ5%内添し、ロジンサイズ剤を0.2%、硫酸バンド1.5%添加して表層とした。中層用パルプとして、段ボール古紙50%と雑誌古紙50%に対して、硫酸バンドを1.0%添加して中層とした。裏層用パルプとして、段ボール古紙100%に対して、ロジンサイズ剤を0.1%、硫酸バンドを1.2%添加して裏層とした。多層紙機にて、表層50g/m、中層100g/m、裏層50g/mを抄き合わせて、合計200g/mのライナー原紙を得た。
【0025】
<実施例4>
表層に内添した防滑剤白土Aの添加量を7%とした事以外は、実施例2と同様にライナー原紙を得た。続いて得られたライナー原紙の表層の表面にワックス(星光PMC製、WR−3906)を0.5g/mとポリビニルアルコールを0.1g/m抄紙機の途中に設置したチャンピオンコーターにて塗工して、撥水ライナーとした。
【0026】
<比較例3>
表層の防滑剤を添加しないこと以外は、実施例3と同様にライナー原紙を得た。
【0027】
<比較例4>
比較例3で得られたライナー原紙の表層表面にワックスを0.5g/mとポリビニルアルコールを0.1g/m抄紙機の途中に設置したチャンピオンコーターにて塗工して撥水ライナーとした。
【0028】
表1に実施例3と4、比較例3と4の繰り返しの滑り角度、滑り前と10回滑り後の撥水度の結果を示す。
なお、滑り角度はJIS P 8147の傾斜方法に準拠し、ライナーの表面同士で、流れ方向で測定した。撥水度はJAPAN TAPPI No.68によって測定した。
【0029】
【表1】

【0030】
実施例は繰り返しの滑りに対して、滑り角度は変わらず、かつ、撥水加工品の滑りによる撥水度の低下も少ない。
比較例は繰り返しの滑りにより、滑り易くなると共に、撥水加工品の撥水度低下が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、紙及び板紙の表面の滑り性を減少させる防滑剤として利用可能であり、さらに種々の包装紙及び板紙に含有することにより、荷崩れ防止、包装物の滑り抜け防止に優れた包装箱・包装紙として利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モース硬度4以上を有する非晶質無機顔料であることを特徴とする防滑剤。
【請求項2】
火山より噴出したシラスであることを特徴とする請求項1に記載の防滑剤。
【請求項3】
珪酸を主体とする火山ガラス質白土であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載した防滑剤。
【請求項4】
少なくとも1層からなる紙又は板紙の表層または裏層に火山ガラス質白土を防滑剤として含有することを特徴とする紙又は板紙。
【請求項5】
ワックス類を含浸または塗工してなる撥水ライナーにおいて、該撥水ライナーの表層に火山ガラス質白土を防滑剤として含有することを特徴とする撥水ライナー。

【公開番号】特開2007−277488(P2007−277488A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−109241(P2006−109241)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(503072126)王子板紙株式会社 (4)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】