説明

防火扉装置

【課題】設置個所を問わず、付室と隣接する空間との圧力差を瞬時に所定の大きさにすることができる防火扉装置を提供すること。
【解決手段】建物の避難区画に開閉可能となる態様で配設され、かつ付室1を画成するための防火扉(20)と、防火扉(20)に設けられ、かつ開操作された場合に防火扉(20)が開放動作することを許容するノブ30とを備えた防火扉装置(10)において、防火扉(20)の一部を構成し、かつノブ30の開操作に応じて開移動して防火扉(20)に形成された圧力調整口22を開成する一方、ノブ30の開操作終了に応じて閉移動して圧力調整口22を閉成する圧力調整扉23と、ノブ30の開操作に応じて開移動する圧力調整扉23の開移動量を調整する開移動量調整手段(281)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防火扉装置に関し、より詳細には、建物の避難区画に開閉可能となる態様で配設され、かつ付室を画成するための防火扉と、この防火扉に設けられ、かつ開操作された場合に防火扉が開放動作することを許容するノブとを備えた防火扉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の付室は、一般に階段室の前に設けられており、階段室に煙を進入させないようにするとともに、災害弱者等の在館者が避難時に一時的に留まることができ、また消防隊の活動拠点ともなる、火災時の重要な空間(室)である。ここで付室とは、建築基準法に規定されるものであり、避難の際に室内から避難階段へ移動する際の緩衝地帯であって火災及び煙を避難階段から遮断するための室のことをいう。かかる付室を画成する防火扉が、避難区画に開閉可能となる態様で設けられている。
【0003】
近年、付室に煙を進入させないことを目的として、付室に給気、すなわち空気を供給して付室の圧力を隣接する空間(火災室や廊下等)よりも高くする方式(付室加圧防煙方式)が採用されている。そのような付室加圧防煙方式では、単に付室の圧力を高めるだけでなく、避難時や消防活動時に防火扉を容易に開放動作できるようにすることも必要である。このため防火扉閉鎖時には、付室と周囲の空間との間に過剰な圧力差が生じないようにする必要がある。
【0004】
そこで、従来、付室と周囲の空間との圧力差を検知し、付室への給気量を制御する方式(給気風量制御方式)、付室を画成する壁に孔を形成し、該孔に圧力差に応じて開閉できるダンパー部材を設けて付室に供給された空気の一部を外部へ吐出する方式(リリーフダンパー方式)、付室へ空気を供給するための給気ダクトに上記ダンパー部材を設ける方式(ダクトのリリーフダンパー方式)等の種々の方式が採用されている。
【0005】
しかしながら、給気風量制御方式では、付室と周囲の空間との圧力差を検知してから、給気用のファンの回転数等を制御するため、付室と周囲の空間との圧力差を所定の大きさにするのに時間を要してしまう問題があった。また、建物規模が大きいと、センサ等の検知手段の設置数や配線量が膨大なものとなり、コストの増大を招来する虞れがあった。
【0006】
また、リリーフダンパー方式では、付室が建物の隅に設けられている場合には、リリーフダンパーが直接外気に面して風圧等の影響を受けやすく好ましいものではなく、また付室が建物内部中心域に設けられている場合には、外気までの給気逃がしの経路を確保することが困難である。
【0007】
更に、ダクトのリリーフダンパー方式では、給気ダクトにおけるダンパー部材の取付位置により該ダンパー部材に与える影響が異なるため、取付位置の調整が困難である。
【0008】
そこで、防火扉と、ノブと、可動扉とを備えた防火扉装置が知られている。ノブは、防火扉に設けられ、かつ開操作された場合に防火扉が開放動作することを許容するものである。可動扉は、防火扉に設けられた開口を開閉するためのもので、ノブが開操作される場合に、開操作量に応じて予め決められた移動量だけ開移動して開口を開成し、ノブの開操作が終了すると付勢手段の付勢力により閉移動して上記開口を閉成するものである。このような防火扉装置においては、ノブの開操作で可動扉を開移動させて開口を開成することができるので、付室と周囲の空間との圧力差を所定の大きさにすることが可能になる(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
【特許文献1】特開平7−259407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上述したような特許文献1に提案されているような防火扉装置では、ノブが開操作される場合に、開操作量に応じて予め決められた移動量だけ可動扉が開移動して開口を開成しているので、次のような問題があった。一般に、付室は建物毎に大きさが異なるために、上述したような特許文献1のように、ノブの開操作量に応じて一義的に可動扉の開移動量が決められて開口を開成する防火扉装置の場合、設置個所によっては、開成する開口面積が過大になり、付室と隣接する空間との圧力差を所定の大きさにすることができず、圧力差がなくなってしまう虞れがある一方、開成する開口面積が過小になり、付室と隣接する空間との圧力差が依然として過剰な大きさであり、付室と隣接する空間との圧力差を瞬時に所定の大きさにすることができない虞れがあった。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みて、設置個所を問わず、付室と隣接する空間との圧力差を瞬時に所定の大きさにすることができる防火扉装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る防火扉装置は、建物の避難区画に開閉可能となる態様で配設され、かつ付室を画成するための防火扉と、前記防火扉に設けられ、かつ開操作された場合に前記防火扉が開放動作することを許容するノブとを備えた防火扉装置において、前記防火扉の一部を構成し、かつ前記ノブの開操作に応じて開移動して前記防火扉に形成された開口を開成する一方、該ノブの開操作終了に応じて閉移動して前記開口を閉成する圧力調整扉と、前記ノブの開操作に応じて開移動する前記圧力調整扉の開移動量を調整する開移動量調整手段とを備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項2に係る防火扉装置は、上述した請求項1において、前記圧力調整扉は、前記防火扉の下端部を構成することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項3に係る防火扉装置は、上述した請求項1又は請求項2において、前記圧力調整扉は、前記防火扉の幅方向に沿ってそれぞれが開閉移動する態様で回動可能に並設され、かつ付勢手段により付勢されて常態においては前記開口を閉成する複数のダンパー部材を備えて成り、前記ノブが開操作された場合に前記ダンパー部材が付勢手段の付勢力に抗して開移動して前記開口を開成する一方、該ノブの開操作が終了した場合に前記ダンパー部材が付勢手段に付勢されて閉移動して前記開口を閉成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の防火扉装置によれば、防火扉の一部を構成する圧力調整扉が、ノブの開操作に応じて開移動して防火扉に形成された開口を開成する一方、該ノブの開操作終了に応じて閉移動して開口を閉成し、開移動量調整手段が、ノブの開操作に応じて開移動する圧力調整扉の開移動量を調整するので、防火扉装置が設置される付室の大きさに応じてノブの開操作量に応じて開移動する圧力調整扉の開移動量を調整することができ、これにより防火扉に形成された開口の実際の開口面積を調整することが可能になる。従って、設置個所を問わず、付室と、隣接する空間との圧力差を瞬時に所定の大きさにすることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る防火扉装置の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態である防火扉装置が適用される建物の避難区画を模式的に示す平面図である。ここで例示する避難区画には、付室1が設けられている。この付室1は、上述したように建築基準法により規定されるものであり、階段室2と、例えば廊下や部屋等の隣接する空間(以下、廊下等ともいう)3との間に設けられている。
【0018】
このような付室1と階段室2、あるいは付室1と廊下等3との境界には、防火扉装置10が配設してある。防火扉装置10は、図2に示すように、防火扉20とノブ30とを備えて構成してある。
【0019】
防火扉20は、付室1を画成するためのもので、避難区画に開閉可能に設けてある。より詳細に説明すると、防火扉20は、付室1を画成する壁1aに図示せぬ蝶番等の支持部材を介して揺動可能に配設してあり、付室1側に向けて揺動することにより開放動作する一方、階段室2側(あるいは廊下等3)に向けて揺動することにより閉塞動作するものである。かかる閉塞動作を行う結果、階段室2及び廊下等3から密閉された付室1を画成することになる。防火扉20の詳細な構成は後述する。
【0020】
尚、図1中の符号4は、給気ダクトであり、符号5は、給気ファンである。かかる給気ファン5の駆動により、給気ダクト4を通じて付室1の内部に空気が供給される結果、付室1の内部は加圧され、階段室2や廊下等3よりも圧力が高いものとなる。
【0021】
ノブ30は、図2に示すように、防火扉20に設けられている。このノブ30は、把持部31を有し、かかる把持部31が把持されて図2中の矢印a方向に開操作された場合に、防火扉20が開放動作することを許容するものである。
【0022】
上記防火扉20の構成について説明する。図3は、図2におけるA−A′線断面図であり、図4は、図2におけるB−B′線断面図である。
【0023】
これら図2〜図3に示すように、防火扉20は、内部にロックウール等を挿入して断熱構造を有する矩形状のものであり、下端部分に扉枠21により囲繞された開口(以下、圧力調整口ともいう)22が形成してある。
【0024】
また、防火扉20には、この圧力調整口22を開閉させるための圧力調整扉23が設けてある。圧力調整扉23は、複数のダンパー部材24及び開閉用板部材25を備えて構成してある。
【0025】
複数のダンパー部材24は、それぞれが上下方向に沿って延在する軸部241の軸心回りに回動可能となる態様で、防火扉20の幅方向に沿って並設してある。各ダンパー部材24は、上下方向の大きさが圧力調整口22の上下方向の大きさと略同じものである。それぞれのダンパー部材24の両端部には、互いに異なる方向に向けて屈曲された当接部242,243が設けてある。より詳細には、ダンパー部材24の一端(開放端)には、前方に向けて延在する当接部242が、他端(支持端)には、後方に向けて延在する当接部243が設けてある。
【0026】
開閉用板部材25は、水平方向に沿って延在する長尺状のものであり、各ダンパー部材24の支持端にリンク機構26を介して連結してある。この開閉用板部材25の一端(右端)は、バネ部材27を介して右側の扉枠21に取り付けてある。バネ部材27は、開閉用板部材25を右方に付勢する付勢手段である。このバネ部材27の付勢力により、図3に示すように開閉用板部材25が付勢されて右方側に水平変位した位置にある場合、該開閉用板部材25にリンク機構26を介して連結された各ダンパー部材24の当接部242,243が、隣接するダンパー部材24に当接して重なることにより、圧力調整口22を閉成することになる。
【0027】
上記開閉用板部材25の他端(左端)には、図5に示すように、開閉コード28が接続してあり、かかる開閉コード28を介してノブ30に連結されている。このことについてより詳細に説明すると次のようになる。開閉コード28は、一端がノブ30に接続され、他端が開閉用板部材25の左端に接続されて、滑車28a等を介して張設されたものである。このような開閉コード28は、ノブ30が開操作されて図5中の矢印a方向に沿って回転した場合に、実線矢印で示す方向に変位する一方、ノブ30の開操作が終了して該ノブ30がフリーな状態となって、上記バネ部材27の付勢力により開閉用板部材25が矢印b方向に水平変位した場合に、鎖線矢印で示す方向に変位するものである。このように開閉コード28が鎖線矢印で示す方向に変位する結果、ノブ30は、開操作とは反対の方向に沿って回転することになる。
【0028】
そのような開閉コード28の他端は、図5に拡大して示すように、調整代281となっている。この調整代281は、鎖状の構造を有しており、鎖の孔にネジ棒29が挿通され、開閉用板部材25の左端に一体的に設けられた留め具251がネジ棒29に固定されることにより開閉用板部材25の左端に接続するものである。そして、ネジ棒29が挿通される鎖の孔を変更することにより、ノブ30と開閉用板部材25との間で張設される開閉用コードの長さを変更することができる。
【0029】
以上のような構成を有する防火扉装置10においては、ノブ30がフリーな状態となっている場合には、図3及び図4に示すように、バネ部材27に付勢されて開閉用板部材25が右方に変位した位置にあり、これにより、ダンパー部材24が互いの当接部243が隣接するダンパー部材24に当接する態様で重なり合って圧力調整口22を閉成している。このとき最も左方側にあるダンパー部材24の開放端にある当接部243は、左側の扉枠21に設けられた閉塞用突起片21aに当接する一方、最も右方側にあるダンパー部材24の支持端にある当接部243は、右側の扉枠21に設けられた閉塞用突起片21aに当接して、圧力調整口22を閉成している。
【0030】
かかる状態で、ノブ30の把持部31が把持されて、図2及び図5中の矢印a方向に沿ってノブ30が回転、すなわち開操作された場合、開閉コード28が図5中の鎖線矢印方向に沿って変位する。この結果、図6及び図7に示すように、開閉用板部材25がバネ部材27の付勢力に抗して左方に向けて水平変位し、これにより、この開閉用板部材25にリンク機構26を介して連結されたダンパー部材24は、軸部241の軸心回りに当接部242が後方側、当接部243が前方側に向けて回動して開移動し、これにより圧力調整口22を開成させる。
【0031】
ここで、開閉コード28の調整代281における開閉用板部材25との連結部位を変更することにより、つまり、ネジ棒29が挿通される鎖の孔を変更することにより、ノブ30と開閉用板部材25との間で張設される部分の長さを変更することができ、このことからノブ30の開操作によって水平変位する開閉用板部材25の変位量を変更することになる。かかる開閉用板部材25の変位量を変更することにより、これにリンク機構26を介して連結されたダンパー部材24の開移動量が変更され、圧力調整口22における実際の開口面積が変更されることになる。
【0032】
このように調整代281は、ノブ30の開操作に応じて開移動するダンパー部材24の開移動量を調整する開移動量調整手段を構成している。
【0033】
以上説明したように、本実施の形態である防火扉装置10においては、防火扉20の一部を構成する圧力調整扉23が、ノブ30の開操作に応じて開移動して圧力調整口22を開成する一方、該ノブ30の開操作終了に応じて閉移動して圧力調整口22を閉成し、開閉コード28の調整代281が、ノブ30の開操作に応じて開移動する圧力調整扉23の開移動量を調整するので、該防火扉装置10が設置される付室1の大きさに応じてノブ30の開操作量に応じて開移動する圧力調整扉23の開移動量を調整することができ、これにより圧力調整口22の実際の開口面積を調整することが可能になる。従って、本実施の形態の防火扉装置10によれば、設置個所を問わず、付室1と、階段室2、あるいは廊下等3との圧力差を瞬時に所定の大きさにすることができる。
【0034】
また、上記防火扉装置10においては、防火扉20を構成する圧力調整扉23が圧力調整口22を開閉するものであるから、圧力調整扉23は該防火扉20の下端部を構成している。そのため、建物の火災時等に圧力調整扉23を開成させても、付室1の空気が圧力調整口22から廊下等3に流れることにより煙を乱してしまうことを抑制することができる。
【0035】
更に、上記防火扉装置10においては、圧力調整扉23が、防火扉20の幅方向に沿ってそれぞれが開閉移動する態様で回動可能に並設された複数のダンパー部材24を備えているので、個々のダンパー部材24の面積を小さくすることができ、これにより付室1と、階段室2、あるいは廊下等3との間の過剰な圧力差によってダンパー部材24が勝手に開移動する虞れがない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態である防火扉装置が適用される建物の避難区画を模式的に示す平面図である。
【図2】図1に示す防火扉装置を示す説明図である。
【図3】図2におけるA−A′線断面図である。
【図4】図2におけるB−B′線断面図である。
【図5】ノブと開閉用板部材との接続状態を模式的に示す説明図である。
【図6】図3に示した状態から圧力調整扉が開移動した状態を示す断面図である。
【図7】図4に示した状態から圧力調整扉が開移動した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 付室
2 階段室
3 廊下等
10 防火扉装置
20 防火扉
22 圧力調整口
23 圧力調整扉
24 ダンパー部材
25 開閉用板部材
251 留め具
26 リンク機構
27 バネ部材
28 開閉コード
281 調整代
29 ネジ棒
30 ノブ
31 把持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の避難区画に開閉可能となる態様で配設され、かつ付室を画成するための防火扉と、
前記防火扉に設けられ、かつ開操作された場合に前記防火扉が開放動作することを許容するノブと
を備えた防火扉装置において、
前記防火扉の一部を構成し、かつ前記ノブの開操作に応じて開移動して前記防火扉に形成された開口を開成する一方、該ノブの開操作終了に応じて閉移動して前記開口を閉成する圧力調整扉と、
前記ノブの開操作に応じて開移動する前記圧力調整扉の開移動量を調整する開移動量調整手段と
を備えたことを特徴とする防火扉装置。
【請求項2】
前記圧力調整扉は、前記防火扉の下端部を構成することを特徴とする請求項1に記載の防火扉装置。
【請求項3】
前記圧力調整扉は、前記防火扉の幅方向に沿ってそれぞれが開閉移動する態様で回動可能に並設され、かつ付勢手段により付勢されて常態においては前記開口を閉成する複数のダンパー部材を備えて成り、
前記ノブが開操作された場合に前記ダンパー部材が付勢手段の付勢力に抗して開移動して前記開口を開成する一方、該ノブの開操作が終了した場合に前記ダンパー部材が付勢手段に付勢されて閉移動して前記開口を閉成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の防火扉装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−90538(P2010−90538A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258563(P2008−258563)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】