説明

防眩レンズ用偏光板

【課題】
偏光性薄膜と保護層とで構成される偏光板において、レンズ状に熱成形されても偏光性能の低下がなく、また虹模様の発生もなく、そのために防眩性の低下や眼の疲れもなくサングラス等に好適に利用される防眩レンズ用偏光板、およびこの偏光板をレンズ状に加工してなる偏光レンズを提供する。
【解決手段】
偏光性薄膜の少なくとも片面に、リタデーション値が200nm以下であり、環状オレフィン樹脂からなる保護層を貼着することにより防眩レンズ用偏光板を得る。また、この偏光板を曲面形状に成形することにより偏光レンズを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は偏光性薄膜と保護層とから構成される偏光板、とくに球面形状等レンズ状に加工されることにより防眩用のサングラス、ゴーグル等に利用される防眩レンズ用偏光板およびこの偏光板をレンズ状に加工してなる偏光レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は、液晶表示用の他、優れた防眩性を発揮することから、例えばサングラスやゴーグル等の防眩用に用いられている。一般的には、偏光板を熱成形により球面状等レンズ状に加工されるか、或いはレンズ加工を施した後に射出成形にて樹脂を積層一体化することによりサングラス等として使用されている。このような偏光板としては、従来、二色性色素を高分子フィルムに吸着して配向させてなる偏光性薄膜の片面または両面に、トリアセチルセルロース等のセルロース系シートや、ポリカーボネート系シート等を保護層として貼着一体化したものが用いられている(特許文献1参照)。
【0003】
これら保護層は、通常リタデーション値(保護層シートの複屈折率と厚みとの積)を一定の範囲に制御されたものが使用される。一般的にはリタデーション値を低く制御したアセチルセルロース等セルロース系保護層を有する偏光板や、リタデーション値を高く制御したポリカーボネートの保護層を有する偏光板等が主に使用されている。
【特許文献1】特開平03−039903
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、リタデーション値を低く制御した保護層を有する偏光板では、レンズ状に加熱成形を行うと、偏光板の偏光性能が部分的に低下するという現象が発生する。つまり、加熱成形された偏光板に、別の偏光板を、配向方向が直交するように重ね合わせて偏光の度合いをみると、加熱成形前には光の透過が認められなかったものが、成形後には部分的に多少なりとも光の透過が確認されるという現象が発生する。このような偏光性能の低下により、サングラス等に利用した際には防眩性に劣ったものとなる。
【0005】
また、リタデーション値を高く制御した保護層を有する偏光板においては、レンズ状に加熱成形すると、偏光性能の低下はみられないものの、歪みによる薄い虹模様が主に端部に発生する場合があり、これをサングラス等として用いると、虹模様が発生する箇所では、反射光が様々な色に着色して見え、目の疲れ等の症状を引き起こすこととなる。
【0006】
本発明は、レンズ状に熱成形されても偏光性能の低下がなく、また虹模様の発生もなく、そのために防眩性の低下や目の疲れもなくサングラス等に好適に利用される防眩レンズ用偏光板、およびこの偏光板をレンズ状に加工してなる偏光レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、リタデーション値を低く制御した保護層を有する偏光板における偏光性能の低下について鋭意研究を重ねた結果、レンズ状に熱成形を行った際に保護層のリタデーション値の上昇が見られること、さらに保護層の配向方向が偏光性薄膜と異なる方向を向くこと、これらのことが偏光板の偏光性能の低下を引き起こしていることを解明し、この偏光板の保護層として、特定のリタデーション値を有する環状オレフィン樹脂からなるものを用いることにより問題が解決されること、またリタデーション値の高い保護層の偏光板を用いた際に発生する虹模様も解決されることを見出したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、偏光性薄膜の少なくとも片面に環状オレフィン樹脂からなる保護層を貼着した防眩レンズ用偏光板で、該保護層のリタデーション値が200nm以下である防眩レンズ用偏光板を要旨とする。さらに本発明は、この偏光板をレンズ状に加工してなる偏光レンズを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
偏光性薄膜に保護層を貼着した偏光板で、熱成形してレンズ状に加工される防眩レンズ用偏光板において、保護層として環状オレフィン樹脂よりなり、リタデーション値が200nm以下のものを用いることにより、熱成形した後でも偏光性能の低下がなく、また虹模様の発生もなく、そのためにサングラス等として利用した際に、防眩性の低下や目の疲れもないという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の偏光性薄膜としては、偏光機能を発揮する薄膜であれば特に限定されず、例えばポリビニルアルコール系フィルム等の高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性色素を吸着させて配向せしめたもの等が挙げられる。二色性染料としては、例えばアゾ系、アントラキノン系等の染料が挙げられ、具体的にはクロラチンファストレッド、コンゴーレッド、ブリリアントブルー6B、ベンゾパープリン、クロラゾールブラックBH、ダイレクトブルー2B、ジアミングリーン、クリソフェノン、シリウスイエロー、ダイレクトファーストレッド、アシドブラック等が挙げられる。
【0011】
偏光性薄膜は、例えば次のようにして製造される。ヨウ素または二色性色素を溶解させた水溶液中に上記高分子フィルムを浸漬し、ヨウ素または二色性色素を高分子フィルムに吸着せしめた後、金属イオンやホウ酸等の添加剤を溶解した水溶液中に浸漬した状態で、ある一方向に延伸する。
【0012】
本発明の環状オレフィン樹脂とは一般的な総称であり、具体的には環状オレフィンの開環重合体や開環共重合体またはそれらに水素添加した重合体、付加重合体や付加共重合体、他のオレフィンとのランダム共重合体、不飽和カルボン酸等で変性したグラフト変性重合体等が例示される。環状オレフィンとしては特に限定するものではなく、例えばノルボルネンやテトラシクロドデセンが例示できる。
【0013】
環状オレフィン樹脂からなる保護層をつくるには、例えば溶液キャスト成形、押出成形、カレンダー成形、溶融キャスト成形、インジェクション成形等、プラスチック加工技術において周知の成形法を用いることができる。この成形において、製造条件(例えば押出成形においては、ポリシングロールでの樹脂温度、ポリシングロールと引き取りロールとの速度差等)を変化させることにより所望の複屈折率に制御することができ、所望のリタデーション値を有する保護層を得ることができる。
【0014】
この保護層のリタデーション値は200nm以下である必要がある。200nmを超えると、レンズ状に熱成形すると偏光性能の低下がみられる。ここで保護層の厚みは、リタデーション値を200nm以下にすることが出来れば特に制限はないが、防眩レンズとしてのデザイン性、加工性を考慮すると、0.05mm〜3mmの範囲のものが望ましい。
【0015】
本発明の偏光板は、例えば、上記のように製造された偏光性薄膜、あるいは保護層に接着剤を塗布後、保護層と偏光性薄膜とを貼り合わせ、圧着することにより製造される。接着剤としては、例えばアクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリウレタン系接着剤、オレフィン系接着剤等が挙げられるが、偏光性薄膜と保護層とを十分に接着することができて、光学的透視感に優れ、経時的に黄変することがなく、熱成形時に剥離やクラック、白化等の不具合が起こらなければいかなるものでも良い。
【0016】
本発明の偏光板をサングラスやゴーグルとして用いるためには紫外線をカットできうる構成にするのが好ましく、保護層、あるいは接着層に紫外線吸収剤を添加したり、保護層の表面に紫外線吸収物質等で表面処理をしたりすることが望ましい。ここでの表面処理方法は特に限定されないが、一例を挙げると、コーティング、スパッタリング、ラミネート、プレス、転写等がある。また、偏光板の傷つきを防止するために表面に硬化処理や、用途によっては表面に防曇処理、反射防止処理を行ってもよい。
【0017】
また保護層には、酸化防止剤、可塑剤、改質剤、光安定剤、帯電防止剤等に代表される各種添加剤を適宜組成物内部に配合してもよく、あるいは表面にこれらに代表される添加物を用いて処理を行ってもよい。
【0018】
本発明の偏光レンズは、上記偏光板を真空成形、プレス成形等により球面等の曲面形状に成形を行うことによって得られる。もちろんこの加工後の形状は完全な球面形状に限らず、非球面レンズでもよいし、累進焦点レンズなどの多焦点レンズとして成形加工を施してもよい。この偏光レンズは、このままサングラスやゴーグル等として用いられる。あるいは、この偏光レンズの片面あるいは両面に、さらなる樹脂層を射出成形などで積層一体化したうえでサングラス等として利用される。ここで、一体化される樹脂としては、保護層と同じ環状オレフィン樹脂を用いることが望ましいが、特に限定されるものではなく、透明であり、保護層と相溶性があり、屈折率も近似しているものであればよい。
【実施例】
【0019】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
【0020】
<偏光性薄膜の作製>
ポリビニルアルコールフィルム(商品名:「クラレビニロン#7500」、クラレ社製)を、2色性染料を溶解させた水溶液(ブリリアントブルー6Bの濃度が0.4g/L、ベンゾパープリンの濃度が0.2g/L、クロラゾールブラックBHの濃度が0.1g/L)中、40℃条件で10分間染色した。この染色フィルムを酢酸ニッケル4水塩(0.4g/L)とホウ酸(40g/L)を溶解せしめた水溶液中に40℃で20分間浸漬した後、この溶液中で1軸方向に約2倍延伸し、次いで水洗、乾燥を行って、偏光性薄膜を得た。
【0021】
<実施例1〜3、比較例1>
環状オレフィン樹脂(商品名「ゼオノア#1420R」、日本ゼオン社製)を押出成形し、またその際に、ポリシングロールの樹脂温度、ポリシングロールと引き取りロールとの速度差を調整することにより、表1に示す厚みおよびリタデーション値を有するシートを得た。なお、このシートのリタデーション値は、自動複屈折率計(KS−SYSTEMS社製)を用いて、10箇所を測定し、その範囲(最も小さい数値から最も大きい数値まで)を示す。
【0022】
上記の偏光性薄膜の両面に、一液性湿気硬化型ポリウレタン系接着剤を塗布、溶剤を揮発させた後に、コロナ放電処理を行った環状オレフィン樹脂シートを貼り合わせて偏光板を得た。
【0023】
得られた偏光板を、直径7cmの円形に打ち抜いた後、155℃雰囲気下にて6カーブの球面型に吸引させ6分間保つことによって、レンズ状の球面成形品を得た。この球面成形品に、成形を施していない偏光板と配向方向が直交するように重ね合わせて、成形品側より目視で観察し、偏光された光の透過がないかを観察した。その結果を表1に示す。
【0024】
<比較例2>
ケン化処理が施された厚み80μmのトリアセチルセルロースフィルムを保護層として用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板の球面成形品を得た。得られた成形品につき実施例1と同様の評価をした。
【0025】
<比較例3〜4>
押出成形により得られたポリカーボネートフィルムを保護層に用いたこと以外は実施例1と同様に偏光板の球面成形品を得た、この成形品について実施例1と同様の評価をした。
【0026】
【表1】

【0027】
表1からわかる通り、本発明の技術範囲である実施例1〜実施例3においては、偏光された光の透過が観察されず、偏光性能の低下がないものといえる。また、虹模様も見られなかった。これに対し、リタデーション値が本発明の技術範囲でない比較例1、あるいは環状オレフィン樹脂以外の保護層を用いた比較例2〜比較例4においては、光の透過が観察されたり、虹模様が発生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光性薄膜の少なくとも片面に環状オレフィン樹脂からなる保護層を貼着した防眩レンズ用偏光板で、該保護層のリタデーション値が200nm以下であることを特徴とする防眩レンズ用偏光板。
【請求項2】
請求項1に記載の偏光板をレンズ状に加工してなることを特徴とする偏光レンズ。

【公開番号】特開2006−145581(P2006−145581A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−331492(P2004−331492)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000223414)筒中プラスチック工業株式会社 (54)
【Fターム(参考)】