説明

防眩装置

【課題】防眩装置に係る新規な技術を提供する。
【解決手段】防眩装置は、光偏向液晶セルであって、液晶層と、一対の透明基板と、平面視上の重なり部分が、基板面内の区画ごとに、液晶層に電圧を印加できる電極パターンをなす一対の透明電極と、透明基板の一方に形成されたプリズム層とを含み、区画ごとに、電圧印加で液晶層の屈折率を変化させて、入射光がプリズム層で曲げられない直進状態と、プリズム層で曲げられる偏向状態とを切り替えられる光偏向液晶セルと、光偏向液晶セルを透過した光の強度を測定する光強度センサと、光強度が予め定められた閾値以上となった場合に、区画を順次走査して、各区画を直進状態から偏向状態に切り替え、偏向状態に切り替えたときに、光強度センサで測定された光強度が低下した場合は、この区画の偏向状態を維持し、そうでない場合は直進状態に戻す制御を行う駆動装置とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眩しさの低減を図る防眩装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の運転手への日光の直射等を避ける防眩装置として、様々なものが提案されている(例えば特許文献1〜4参照)。サンシェードを動かして遮光を行う防眩装置は、機械的駆動機構が必要となり、例えば、駆動機構の小型化が難しい。また。眩しい部分を遮光する防眩装置は、運転手の視界の一部が遮られて暗くなる。偏光板を用いた液晶フィルタで遮光を行う防眩装置は、遮光しない透過時の光透過率を高められず、また、偏光板は、熱や紫外線等に対する耐久性が低い。防眩装置に係る新規な技術が求められる。
【0003】
なお、一対の基板の一方の内面にプリズムを形成した液晶セルにおいて、印加電圧を切り替えて液晶層の屈折率を変化させることにより、光の進行方向を変える技術が提案されている(例えば特許文献5参照)。
【0004】
なお、近年、液晶材料としてコレステリックブルー相の研究が進められており、高分子安定化処理によりコレステリックブルー相の発現温度範囲を拡大させる技術が提案されている(例えば特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3820425号公報
【特許文献2】特開2002−87060号公報
【特許文献3】特開2003−165334号公報
【特許文献4】実開平5−63929号公報
【特許文献5】特開2009−26641号公報
【特許文献6】特開2003−327966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一目的は、防眩装置に係る新規な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によれば、光偏向液晶セルであって、液晶層と、相互に対向配置され、前記液晶層を挟持する一対の透明基板と、前記一対の透明基板の、前記液晶層側上方にそれぞれ形成された一対の透明電極であって、平面視上の重なり部分が、基板面内の区画ごとに、前記液晶層に電圧を印加できる電極パターンをなす、一対の透明電極と、前記一対の透明基板の一方の、前記液晶層側上方に形成されたプリズム層とを含み、前記区画ごとに、電圧印加で前記液晶層の屈折率を変化させることにより、入射光が前記プリズム層で曲げられない直進状態と、入射光が前記プリズム層で曲げられる偏向状態とを切り替えられる光偏向液晶セルと、前記光偏向液晶セルを透過した光が入射し、入射光の強度を測定する光強度センサと、前記光強度センサで測定された光強度が、予め定められた閾値以上となった場合に、前記区画を順次走査して、各区画を前記直進状態から前記偏向状態に切り替え、偏向状態に切り替えたときに、前記光強度センサで測定された光強度が低下した場合は、この区画の偏向状態を維持し、そうでない場合は直進状態に戻す制御を行う駆動装置とを有する防眩装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
光偏向液晶セルは、区画ごとに入射光の直進状態と偏向状態とを切り替えられる。駆動装置が、偏向により光強度が低減する区画を偏向状態とすることにより、眩しさを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の第1実施例の光偏向液晶セルを概略的に示す厚さ方向断面図である。
【図2】図2Aは、第1実施例(及び第2実施例)のプリズム層の概略斜視図及びプリズムの断面図であり、図2Bは、第1実施例(及び第2実施例)の対向する透明電極のパターン例を概略的に示す平面図である。
【図3】図3は、ブルー相(ブルー相I)の構造を示す概略斜視図である。
【図4】図4は、実施例の防眩装置が備えられた自動車の概略的な側面図である。
【図5】図5は、実施例の防眩装置の動作を示す概略的な光路図である。
【図6】図6Aは、実施例の防眩装置が動作しているときの、運転手から見える景色の概略的なスケッチであり、図6Bは、光強度センサの設置位置の他の例を示す図である。
【図7】図7A〜図7Dは、鉛直方向から基板が傾斜して配置された光偏向液晶セルを示す概略断面図である。
【図8】図8Aは、第2実施例の光偏向液晶セルの、1層分の液晶セルを概略的に示す厚さ方向断面図であり、図8Bは、第2実施例の光偏向液晶セルの積層セルの概略的な厚さ方向断面図、及び第2実施例の光偏向液晶セルを透過する光線の概略的な光路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、本発明の第1実施例による光偏向液晶セルの構造及び作製方法について説明する。
【0011】
図1は、第1実施例の光偏向液晶セルを概略的に示す厚さ方向断面図である。一対の透明基板1、11を用意する。透明基板1、11は、例えばガラス基板で、サイズは例えば、それぞれ、横1000mm、縦150mm〜200mm、厚さ0.7mmtである。
【0012】
一方の基板11上には、透明電極12が形成されている。透明電極12は、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)で形成され、厚さは150nmである。
【0013】
透明電極の形成されていない他方の基板1上に、プリズム層3を形成する。プリズム層3は、ベース層3b上にプリズム3aが並んだ形状を有する。ベース層3bの厚さは、例えば2μm〜30μm程度である。
【0014】
図2Aは、第1実施例のプリズム層3の概略斜視図及びプリズム3aの(長さ方向に直交する)断面図である。各プリズム3aは、例えば、頂角75°、底角15°及び90°の三角柱状であり、複数のプリズム3aが、プリズム長さ方向と直交する方向に、斜面の向きを揃えて並んでいる。プリズム3aの高さは例えば5.2μm、プリズム3aの底辺の長さ(プリズムのピッチ)は、例えば20μmである。
【0015】
プリズム層3の好適な材料について説明する。後の、液晶セルのメインシール剤焼成工程において、例えば150℃以上での熱処理が行われる。また、後の、プリズム層3上の透明電極形成工程において、透明度の高い(抵抗の低い)透明電極形成のため、例えば180℃以上での熱処理が行われる。そこで、(例えば150℃以上の)高温での熱処理に対して、特性が劣化しにくいプリズム材料が望まれる。
【0016】
本願発明者は、複数のプリズム材料に対し、220℃で2時間ずつの熱処理を行い、熱処理前後での可視光領域の透過率の違いを評価した。その結果、アクリル系の紫外線(UV)硬化性樹脂が、短波長側でごく僅かに透過率の低下が見られるものの、ほぼ全可視波長域において熱処理前と同等の透過率を示し、特性(透過率)変化を少なくできることがわかった。なお、本明細書において、「特性(透過率)変化が少ない」とは、可視光領域(波長380nm〜780nm)での特性(透過率)変化が、熱処理前に比べて概ね2%以内である状態を示す。
【0017】
アクリル系UV硬化性樹脂は、耐熱性だけでなく、ガラスへの密着性も優れていると共に、金属には密着しにくい(離型性が良い)という性質を有しており、実施例によるプリズム材料として好適である。なお、エポキシ系の樹脂も耐熱性に優れており、プリズム材料として使用可能であると考えられる。また、ポリイミドも使用可能である。
【0018】
次に、プリズム層3の作製方法について説明する。基板1上に、アクリル系UV硬化性樹脂を滴下し、その上の所定位置に、プリズム層3の型が形成された金型を置き、厚手の石英部材などを基板の裏側に配置して補強した状態でプレスを行う。なお、UV硬化性樹脂の滴下量は、プリズム形成領域の広さに合わせて調整することができる。
【0019】
プレスして1分以上放置し、UV硬化性樹脂を十分広げた後、基板1の裏側から紫外線を照射し、UV硬化性樹脂を硬化させる。紫外線の照射量は、例えば20J/cm程度である。紫外線の照射量は、樹脂が硬化するように適宜設定すればよい。なお、プリズム形成用の金型にはエア抜き用の微小な溝を形成してもよい。また、金型と基板とは真空中で重ね合わせてもよい。
【0020】
次に、プリズム層3の形成された基板1を、洗浄機で洗浄する。例えば、アルカリ洗剤を用いたブラシ洗浄、純水洗浄、エアーブロー、UV照射、及び赤外(IR)乾燥を順に行うことができる。洗浄方法はこれに限らず、高圧スプレー洗浄やプラズマ洗浄等を行ってもよい。
【0021】
図1に戻って説明を続ける。さらに、プリズム層3上に、例えばITOによる透明電極22を形成する。プリズム層3上に直接透明電極22を形成することもできるが、密着性向上のため、例えばSiO膜21を介在させてもよい。SiO膜21は、例えば、基板温度を80℃とし、スパッタリング(交流放電)で、厚さ50nm形成する。
【0022】
次に、SiO膜21上に、例えば、基板温度を100℃とし、スパッタリング(交流放電)で、厚さ100nmのITO膜を形成して、透明電極22とする。ITO膜の成膜後、ITO膜の透明性及び導電性向上のため、例えば220℃で1時間の焼成を行う。
【0023】
なお、成膜方法として、スパッタリングの他に、真空蒸着、イオンビーム法、化学気相堆積(CVD)等を用いることもできる。この場合も、ITO膜の透明性及び導電性向上のため、例えば220℃、1時間程度の焼成を行うことが望ましい。
【0024】
次に、基板11上の透明電極12と、基板1のプリズム層3上方の透明電極22を、それぞれパターニングする。ITOを用いた透明電極12、22は、例えば、フォトリソグラフィによるレジストパターンをマスクとして、例えば第二塩化鉄を用いたウエットエッチングで、パターニングすることができる。
【0025】
図2Bは、透明電極12、22のパターン例を概略的に示す平面図である。液晶セルが形成された状態でのパターンを示す。透明電極12は、図上横長のラインが、例えば幅99.5mm、0.5mm間隔で、縦方向に並んだパターンであり、透明電極22は、図上縦長のラインが、例えば幅99.5mm、0.5mm間隔で、横方向に並んだパターンである。なお、プリズム層3上の透明電極22に形成するパターンは、ライン長さ方向をプリズム長さ方向と揃えると、パターニングが容易であろう。
【0026】
両電極12、22の重なり部分が、矩形状の区画が行列状に並んだ(ドットマトリクス電極状の)電極パターンを形成する。透明電極12、22の各々のラインを選択することにより、選択されたライン同士の重なりで画定される区画ごとに、液晶層への電圧印加状態を制御することができる。
【0027】
なお、透明電極12、22の各ラインの幅を適宜調整することにより、区画の広さを変えることができる。面内で区画の広さが均一でない構造にすることもできる。
【0028】
次に、基板1、11を、洗浄機で洗浄する。例えば、アルカリ洗剤を用いたブラシ洗浄、純水洗浄、エアーブロー、UV照射、及び赤外(IR)乾燥を順に行う。洗浄方法はこれに限らず、高圧スプレー洗浄やプラズマ洗浄等を行うこともできる。
【0029】
次に、基板1上に、ギャップコントロール剤を例えば2wt%〜5wt%含むメインシール剤16を形成する。形成方法として、スクリーン印刷やディスペンサを用いることができる。プリズム3aの高さを含んだ(プリズムのベース層3bからの)液晶層15の厚さが、例えば10μm〜20μmとなるように、ギャップコントロール剤を選択する。例えば、ギャップコントロール剤として径が30μmの積水化学製のプラスチックボールを用い、これを三井化学製のシール剤ES−7500に4wt%添加して、メインシール剤とする。
【0030】
もう一方の基板11上には、ギャップコントロール剤14として、例えば、径が17μmの積水化学製のプラスチックボールを、乾式のギャップ散布機を用いて散布する。
【0031】
次に、両基板1、11の重ね合わせを行い、プレス機などで圧力を一定に加えた状態で熱処理することにより、メインシール剤を硬化させて、空セルを形成する。例えば、150℃で3時間の熱処理を行う。
【0032】
次に、空セルに、液晶材料を真空注入して、液晶層15を形成する。液晶注入後、注入口にエンドシール剤を塗布して液晶セルを封止する。なお、液晶層の形成方法は真空注入に限らず、例えばOne Drop Fill(ODF)法を用いてもよい。
【0033】
液晶層15を形成する液晶材料として、第1実施例では、誘電率異方性Δεが正の液晶分子を含み、電圧非印加時に(所定の温度範囲で)コレステリックブルー相(以下、ブルー相と呼ぶこともある)を示すものを用いる。
【0034】
例えば以下のような液晶材料を用いる。コレステリックブルー相を示す液晶であるJC1041−XX(チッソ製、Δn:0.142)と4−cyano−4’−pentylbiphenyl(5CB)(メルク製、Δn:0.184)を、1:1の割合で混合した混合液晶を用い、これにカイラル剤ZLI−4572(メルク製)を5.6%添加する。
【0035】
そして、光重合性モノマーとして、一官能性の材料と二官能性の材料を混合した混合モノマーを添加する。例えば、一官能性材料として、2−ethylhexylacrylate(EHA)(アルドリッチ製)を、二官能性材料としてRM257(メルク製)を用い、これらを70:30のモル比となるように混合する。
【0036】
また、光重合開始剤として、2,2−dimethoxy−2−phenylacetophenone(DMPDP)を用い、これを混合モノマーに対して5mol%となるように添加する。
【0037】
光重合開始剤を添加した光重合性混合モノマーを、カイラル剤を添加した混合液晶に対し8mol%となるように添加する。このようにして、液晶層15を形成する液晶材料を調整する。なお、液晶、カイラル剤、光重合性モノマー、光重合開始剤は、これらに限定されない。ただし、光重合性モノマーは、一官能性のものと二官能性のものとを混合させることが望ましい。
【0038】
このように形成した液晶セルを加熱すると、60℃付近の狭い温度範囲でブルー相を示す。ブルー相を示す温度に保ったまま、液晶セルに紫外線を照射し、光重合性モノマーを重合させ高分子ネットワークを形成させることにより、ブルー相の高分子安定化を行うことができる。
【0039】
例えば、以下のような紫外線照射を行う。まず、1秒照射したら10秒無照射とする照射シーケンスを10回繰り返す間欠的な照射を行う。そして、間欠的な照射の後、3分間の連続的な照射を行う。紫外線強度は、例えば30mW/cm(365nm)とする。なお、露光条件はこれに限らず、例えば、紫外線強度をもっと弱くすることもできる(ただし、光重合にかかる時間は長くなる)。
【0040】
高分子安定化処理された液晶セルは、−5℃〜60℃程度の広い温度範囲でブルー相を示すようになる。なお、高分子安定化処理によりブルー相を示す温度範囲は、使用する液晶材料やその混合比、重合条件などを調整することにより拡大することが可能であろう。
【0041】
以上のようにして、第1実施例の光偏向液晶セルが作製される。次に、第1実施例の光偏向液晶セルの動作について説明する。
【0042】
実施例の光偏向液晶セルは、電圧非印加時、ブルー相を示す。以下、ブルー相についての一般的な記載は、九州大学先導物質化学研究所融合材料部門ナノ組織化分野菊池研究室のホームページの解説記事(http://kikuchi-lab.cm.kyushu-u.ac.jp/kikuchilab/bluephase.html)を参照する。
【0043】
ブルー相は、光学的に等方性で、体心立方の対称性を有するブルー相I、単純立方の対称性を有するブルー相II、及び、等方性の対称性を有するブルー相IIIの3種類がある。最も低温側でブルー相Iが現れ、最も高温側でブルー相IIIが現れる。本実施例の光偏向液晶セルは、ブルー相Iを用いている。
【0044】
図3は、ブルー相Iの構造を示す概略斜視図である(上記解説記事による)。ブルー相では、中央付近の液晶分子については全ラテラル方向のねじれが許容された液晶分子の集合体である二重ねじれシリンダーCyを、互いに直交させて格子状に組み上げたような構造が形成されている。
【0045】
ブルー相は、光学的に等方性であるため、第1実施例の光偏向液晶セルの基板法線方向から見た液晶層の屈折率は、液晶材料の常光線屈折率noと異常光線屈折率neの平均的な値(2no+ne)/3になり、光偏向液晶セルへの入射光線(基板法線方向に進行する光線)の相互に直交する偏光成分の両方で等しくなる。
【0046】
一方、第1実施例の光偏向液晶セルは、充分に高い電圧(セルの構成により変わるが、例えば20V程度)印加時、液晶層厚さ方向に電圧が印加され、正の誘電率異方性により、ブルー相における液晶分子のねじれ構造が解消しほぼ全ての液晶分子が基板法線方向に立ち上がって、ホメオトロピック相を示す。
【0047】
ホメオトロピック相では、基板法線方向から見た液晶層の屈折率は、常光線屈折率noとなり、光偏向液晶セルへの入射光線(基板法線方向に進行する光線)の相互に直交する偏光成分の両方で等しくなる。
【0048】
第1実施例で、液晶材料の常光線屈折率noは1.521であり、異常光線屈折率neは1.683である。従って、入射光に対する液晶層の屈折率は、偏光方向に依らず、電圧非印加時のブルー相で1.574程度となり、電圧印加時のホメオトロピック相で1.521となると見積もられる。また、プリズム材料の屈折率は、1.51である。
【0049】
以上より、第1実施例の光偏向液晶セルは、ブルー相を示す電圧非印加時(電圧オフ時)には、液晶層とプリズム層の屈折率が異なるので、プリズムの作用で入射光を偏向することとなる。一方、ホメオトロピック相を示す電圧印加時(電圧オン時)には、液晶層とプリズム層の屈折率が同等となり、入射光をほぼそのまま直進させることとなる。そして、これらの作用は、入射光の偏光方向に依存せず、入射光の両方の偏光成分を、偏向・直進させることができる。
【0050】
なお、第1の部材の屈折率と第2の部材の屈折率の差が、第1の部材の屈折率または第2の部材の屈折率に対して2%以内(より望ましくは1%以内)であるとき、両部材の屈折率が同等であるとする。
【0051】
実施例の電極パターンは、基板面内を複数の区画に分割する。区画ごとに、電圧オフ状態と電圧オン状態とを切り替えることにより、偏向状態と直進状態とを切り替えることができる。
【0052】
なお、電圧オン時に液晶層とプリズム層の屈折率が同等となる実施例について説明しているが、(高い屈折率のプリズム材料が必要とはなるものの)電圧オフ時に液晶層とプリズム層の屈折率が同等となるようにしてもよい。この場合は、電圧オフ時に直進状態、電圧オン時に偏向状態となる。
【0053】
なお、第1実施例の光偏向液晶セルは、プリズム層側の基板において、プリズム層上に透明電極を形成している。プリズム層側の透明電極を、基板上に形成し、透明電極上にプリズム層を形成し、プリズム層を介して液晶層に電圧印加を行う構造の光偏向液晶セルでも、光偏向を行うことは可能である。ただし、プリズム層上に透明電極を形成した方が、駆動電圧の低減が図られる。
【0054】
なお、第1実施例の光偏向液晶セルは、室温における応答速度が、ブルー相からホメオトロピック相となる立ち上がりで例えば約200μsec、ホメオトロピック相からブルー相となる立ち下がりで例えば約20μsecと、高速である。
【0055】
次に、第1実施例の光偏向液晶セルを用いた防眩装置について説明する。本実施例の防眩装置は、自動車に設置されるものであり、例えば太陽からの強い光がフロントガラス越しに車室内に入射して運転手が感じる眩しさの低減を図る。
【0056】
図4は、実施例の防眩装置が備えられた自動車の概略的な側面図である。光偏向液晶セル31が、フロントガラス面上の上方部分に配置されている。運転手の座席のヘッドレストに、光強度を測定する光強度センサ32が取り付けられている。
【0057】
なお、フロントガラス面は、鉛直方向から傾斜している場合がある。傾斜したフロントガラス面上に配置された光偏向液晶セル31では、眩しい光が基板に斜め方向から入射しやすくなると思われる。
【0058】
動作原理について上述したように、垂直配向したホメオトロピック相(電圧印加時)では、基板法線方向から入射する光、つまり、液晶分子の光軸方向(長軸方向)に平行に進む光が、両方の偏光成分とも常光線屈折率を感じる状況を想定していた。
【0059】
しかし、垂直配向したホメオトロピック相では、液晶分子の長軸方向から30°程度以下の方位からの入射光に対しては、屈折率異方性の影響が軽微であり、ほぼ等方性の特性が得られる。従って、概ね、フロントガラス面の鉛直方向からの傾斜角度が30°程度以内までは、基板法線方向からの光入射である場合とほぼ同等の、光偏向液晶セル31の特性が得られるであろう。
【0060】
なお、ブルー相(電圧非印加時)は等方性なので、屈折率は入射方向に依存しない。なお、フロントガラスの鉛直方向からの傾斜角度がより大きくなったとしても(より斜め入射になったとしても)、光偏向液晶セル31の動作がまったくできなくなるわけではない。
【0061】
図5は、実施例の防眩装置の動作を示す概略的な光路図である。防眩装置は、光偏向液晶セル31、光強度センサ32に加え、さらに、光偏向液晶セル31を駆動する駆動装置33を有する。
【0062】
基準の状態で、光偏向液晶セル31は、全面の区画が電圧オンの直進状態にされており、入射光がそのまま透過する。運転手には、光偏向液晶セル31が配置されていない場合と同様の景色が見える。
【0063】
ある時点で、太陽等の光源LSからの強い光が、光偏向液晶セル31を透過し、運転手の目に入射して、運転手が眩しさを感じる。同時に、運転手の目の近傍に配置された光強度センサ32にも、強い光が入射する。
【0064】
光強度センサ32で測定された光強度に対応するデータが、駆動装置33に送信される。駆動装置33は、運転手が眩しいと感じる程度の光強度を閾値として記憶しており、測定された光強度が、閾値以上かどうか判定する。
【0065】
光強度が閾値以上と判定されると、駆動装置33は、光偏向液晶セル31の区画の走査を開始する。各区画を電圧オン状態から電圧オフ状態に切り替えるように、つまり、各区画を直進状態から偏向状態に切り替えるように、全面の区画が順次走査される。
【0066】
眩しさの原因となっている、光源LSからの光線が透過する区画31aが、直進状態から偏向状態に切り替えられることにより、眩しい光線の光路が、運転手の目近傍に到達する光路LP1から、運転手の目近傍から外れたところに到達する光路LP2に曲がって、光強度センサ32で測定される光強度が低下する。光偏向液晶セル31は、例えばプリズム長さ方向を水平方向としてフロントガラスに設置され、例えば上方に光を曲げる。
【0067】
一方、眩しさの原因とはならない、光源LSからの光線が透過しない区画31bが、直進状態から偏向状態に切り替えられても、光強度センサ32で測定される光強度は、ほぼ変わらない。なお、光源LSからの光線が透過しない区画31bを偏向状態に切り替えたことにより、光強度センサ32で測定される光強度がやや上昇することや、やや低下することもあろう。
【0068】
駆動装置33は、光強度が低下した区画は、偏向状態を維持する。これにより、眩しさの低減が図られる。一方、光強度が変わらない、または上昇した区画は、直進状態に戻される。これにより、眩しさの低減に寄与しない区画は、通常通りの景色の見え方が維持される。なお、偏向状態にされた区画は、直進状態で見える景色からすこし外れた部分の景色が見えることとなる。
【0069】
なお、偏向状態にされる(見え方の変わる)区画を少なくするため、光強度の低下幅が予め定められた強度以上の場合に(眩しさの低減に大きく寄与する場合に)偏向状態を維持し、そうでない場合は直進状態に戻すようにすることもできる。
【0070】
なお、一旦防眩動作が行われた後(光強度が閾値以上と判定されて、走査が行われ、各区画の状態が確定した後)、適当な間隔を空けて(例えば数分後に)、全区画を直進状態に戻し(基準状態に戻し)、まだ閾値以上の強い光強度が測定されるか判定することができる。光強度が閾値よりも弱くなっていれば、そのまま基準状態を維持する。まだ閾値以上の強い光強度が測定されれば、再度の走査を行って、眩しい区画の光偏向を行うことができる。
【0071】
図6Aは、実施例の防眩装置が動作しているときの、運転手から見える景色の概略的なスケッチである。(破線で示す)太陽の直射光が透過する区画が偏向状態にされて、運転手の目に太陽の直射光が入射しないようにされている。一方、その周りの区画は直進状態のままであり、信号等の景色は通常通りに見えている。
【0072】
図6Bは、光強度センサ32の設置位置の他の例を示す図である。光強度センサ32は、めがねのフレームや、あるいはヘッドバンドに装着することにより、運転手の目の近傍に配置することもできる。なお、必要に応じて、複数箇所に光強度センサ32を配置することもできる。
【0073】
なお、運転手にとって、まっすぐ前方の景色の方が、前側上方の景色に比べて、情報量が多くなると思われる。例えばこのような状況により良好に対処するために、フロントガラス上に配置される光偏向液晶セルの区画を、下方側(光偏向液晶セル面内で、相対的にまっすぐ前方側)ほど狭く(細かく)することもできよう。こうすることで、光偏向液晶セル面内下方側ほど、眩しい部分を限定的に偏向することが容易になる。
【0074】
なお、鉛直方向から傾斜したフロントガラス面上に光偏向液晶セルを設置する場合、プリズム配置は以下のようにするのが好ましいであろう。
【0075】
図7A〜図7Dを参照して、好ましいプリズム配置について考察する。図7A〜図7Dは、光偏向液晶セルが、鉛直方向から基板を傾斜させて配置されている状況を示す概略断面図である。各図7A等で、紙面上下方向が鉛直上下方向、右方が運転者側、左方が運転者前方側を示す。
【0076】
図7A及び図7Cは、液晶層LCに対し、プリズム層付き基板PRが運転者側、プリズムなし基板SBが前方側に置かれた配置であり、図7B及び図7Dは、液晶層LCに対しプリズム層付き基板PRが前方側、プリズムなし基板SBが運転者側に置かれた配置である。
【0077】
図7A〜図7Dのどの配置でも、プリズム層付き基板PRの各プリズムは、長さ方向を水平(紙面垂直)にし、上下方向に並んでいる。図7A及び図7Bは、基板表面(例えばプリズムなし基板SBの液晶層側表面)よりもプリズム斜面が水平に近いプリズムの向きとした配置であり、図7C及び図7Dは、基板表面よりもプリズム斜面が垂直に近いプリズムの向きとした配置である。
【0078】
プリズム斜面が水平に近いと、観察者の視界においてプリズム斜面が占める割合が減少する。つまり、プリズム斜面部分(プリズム長辺部分)による所望の屈折効果が得られにくくなる。反対に、プリズムの段差部分(プリズム短辺部分)が視界に占める割合が増えてしまう。
【0079】
従って、図7Aや図7Bのような、プリズム斜面が基板表面よりも水平に近いプリズム配置に比べて、図7Cや図7Dのような、プリズム斜面が基板表面よりも垂直に近いプリズム配置の方が好ましいといえる。
【0080】
液晶層LCの屈折率が、プリズム層や透明基板の屈折率よりも高い状態を想定して説明を続ける。高屈折率の液晶層LC側から入射した光は、低屈折率のプリズム層付き基板PRあるいはプリズムなし基板SBとの界面で、全反射する可能性がある。
【0081】
図7C及び図7Dの配置で、液晶層LCと運転者側基板との界面における全反射に比べて、液晶層LCと前方側基板との界面における全反射の方が、運転者の視界を乱しやすいのではないかと考えられる。見えないのが好ましい下方が、全反射に起因して運転者に見えてしまう可能性があるからである。
【0082】
液晶層LCと前方側基板との界面は、図7Cの配置ではプリズムなし基板SBによるものであり、図7Dの配置ではプリズム付き基板PRによるものである。図7Cの配置に比べて、図7Dの配置の方が、プリズム斜面により、液晶層LCと前方側基板との界面が垂直に近くなっている。このため、図7Dの配置の方が、全反射が生じたとしても、反射光が運転者の目に入る可能性が低く、視界の乱れが生じにくい配置といえよう。
【0083】
以上をまとめると、鉛直方向とプリズム斜面(プリズム長辺)とのなす角が、鉛直方向と基板とのなす角よりも小さい(基板よりもプリズム斜面の方が垂直に近い)プリズム配置(図7C、図7D)とするのが好ましく、さらに、プリズム層を液晶層よりも前方に置く配置(図7D)がより好ましいといえる。
【0084】
以上説明したように、実施例の光偏向液晶セルは、区画ごとに入射光の偏向状態と直進状態とを切り替えられる。このような光偏向液晶セルを用いた防眩装置は、眩しい光線が透過する区画を偏向状態とすることにより、眩しさを低減させることができる。
【0085】
上記実施例の防眩装置では、光偏向を行う区画が自動的に選択される(運転手が手動でサンバイザーを動かして遮光する必要がない)ので、運転の安全性向上が図られる。
【0086】
眩しい部分を遮光するような防眩装置では、視界の一部が暗くなり不自然さが大きいが、実施例の防眩装置は、眩しい区画について、少し外れた部分の景色が見えるので、不自然さが少ない。眩しくない区画は、通常の景色の見え方に維持できる。
【0087】
なお、実施例の防眩装置は、液晶素子を用いるものであるが、実施例の光偏向液晶セルは、偏光板を用いておらず、例えば90%以上の高い光透過率とすることが可能である。高い光透過率は、フロントガラス等の窓部に配置するのに好適である。
【0088】
第1実施例の光偏向液晶セルは、ブルー相とホメオトロピック相との切り替えを利用する。これにより、1枚の液晶セルで、入射光の両方の偏光成分に対して同時に、偏向・直進を切り替えることができる。また、応答が高速なので、防眩装置に用いたとき、全面の区画の高速な走査に好適である。
【0089】
次に、第2実施例の光偏向液晶セルについて説明する。第1実施例では、ブルー相を示す液晶を用いたが、第2実施例で説明するように、一般的な液晶であるネマティック液晶を用いても、光偏向液晶セルを形成することができる。ただし、第2実施例では、2層の液晶セルを積層して、光偏向液晶セルを作製する。
【0090】
図8Aは、第2実施例の光偏向液晶セルの、1層分の液晶セルを概略的に示す厚さ方向断面図である。第1実施例と同様に、一対の透明基板1、11を用意する。ただし、第2実施例では、両方の基板1、11に、それぞれ、透明電極2、12(例えばITOで形成され、厚さ150nm)が形成されている。
【0091】
次に、基板11上の透明電極12と、基板1上の透明電極2を、パターニングする。透明電極12、2のパターンは、例えば、(第1実施例の透明電極22を第2実施例の透明電極2に読み替えて)第1実施例の透明電極12、22のパターンと同様のものである(図2B参照)。つまり、透明電極12、2の各々のラインを選択することにより、選択されたライン同士の重なりで画定される区画ごとに、液晶層への電圧印加状態を制御できる。
【0092】
次に、基板1の透明電極2上に、プリズム層3を形成する。プリズム層3は、例えば、第1実施例のプリズム層と同様の形状であり(図2A参照)、第1実施例のプリズム層と同様にして形成される。ただし、第2実施例では、透明電極2上にプリズム層3が形成される。ITOを用いた透明電極2は、紫外線を吸収するので、プリズム層3の硬化のために照射する紫外線量は、透明電極2の膜厚に応じて調整することが望ましい。さらに、第1実施例と同様にして、プリズム層3の形成された基板1を、洗浄機で洗浄する。
【0093】
次に、基板11の透明電極12上に、ポリイミド等で配向膜13を形成する。例えば、日産化学製のSE−410をフレキソ印刷で厚さ80nm形成し、180℃で1.5時間の焼成を行う。なお、配向膜13の形成方法は、インクジェットやスピンコート、スリットコート、スリットアンドスピンコートでも構わない。
【0094】
次に、基板1上方のプリズム層3に、ラビング処理を行う。液晶分子の長軸方向がプリズム長さ方向に揃うように、ラビング方向は、プリズム長さ方向と平行にする。そして、基板11上方の配向膜13にも、基板1とセルを形成したときにアンチパラレル配向となるように、ラビング処理を行う。
【0095】
次に、第1実施例と同様に、例えば、プリズム3aの高さを含んだ(プリズムのベース層3bからの)液晶層15の厚さが、例えば10μm〜20μmとなるよう、一方の基板1上に、ギャップコントロール剤を含むメインシール剤16を形成し、他方の基板11上に、ギャップコントロール剤14を散布し、両基板1、11の重ね合わせを行い、メインシール剤を硬化させて、空セルを形成する。
【0096】
次に、空セルに、液晶材料を真空注入して、液晶層15を形成する。なお、液晶層の形成方法は真空注入に限らず、例えばODF法を用いてもよい。
【0097】
第2実施例では、液晶層15に、誘電率異方性Δεが正の、ネマティック液晶を用いる。第2実施例の液晶材料として、例えば、Δn=0.298の、大日本インキ化学工業製のもので、常光線屈折率noが1.525、異常光線屈折率neが1.823のものを用いることができる。なお、プリズム材料の屈折率は、例えば1.51である。
【0098】
第2実施例では、常光線屈折率noがプリズム材料と同等となり、異常光線屈折率neがプリズム材料と異なるように選択されている。これにより、液晶層が異常光線屈折率neを示すときは、プリズム層が入射光を偏向させ、液晶層が常光線屈折率noを示すときは、入射光がそのまま直進する(プリズム層で方向を曲げられない)。
【0099】
液晶注入後、注入口にエンドシール剤を塗布して液晶セルを封止する。封止後、例えば120℃で1時間の熱処理を行って、液晶の配向状態を整える。このようにして、第2実施例の光偏向液晶セルの、第1の液晶セルが作製される。
【0100】
さらに、同様にして、第2の液晶セルも作製する。ただし第2の液晶セルは、第1の液晶セルとラビング方向を異ならせる。第1の液晶セルは、ラビング方向を、プリズム長さ方向と平行にした。第2の液晶セルは、ラビング方向を、プリズム長さ方向と直交させる。
【0101】
第2の液晶セルの基板1のプリズム層3に対しては、例えば、プリズム斜面を上っていく方向に、ラビング処理を行う。そして対向基板11の配向膜13には、セルを形成したときにアンチパラレル配向となるように、ラビング処理を行う。
【0102】
第1、第2の液晶セルを、プリズム長さ方向を揃え、区画同士が平面視上ぴったり重なるように積層して、第2実施例の光偏向液晶セルが作製される。
【0103】
次に、図8Bを参照して、第2実施例の光偏向液晶セルの動作について説明する。図8Bは、第2実施例の光偏向液晶セルの概略的な厚さ方向断面図であり、併せて、(基板法線方向から入射する)入射光、及び出射光の概略的な光路も示す。
【0104】
光偏向液晶セル41は、第1、第2の液晶セル41a、41bを積層して形成されている。例えば、第1の液晶セル41aが光源側、第2の液晶セル41bがその反対側に配置される。
【0105】
第1、第2液晶セル41a、41bの対応する区画同士は、同一の電圧印加状態(オフ状態あるいはオン状態)に制御される。まず、電圧オフ状態の区画41cでの動作について説明する。
【0106】
電圧オフ状態の区画41cにおいて、第1の液晶セル41aでは、液晶分子Maの長軸方向が、プリズム長さ方向(紙面に垂直な方向)に揃っており、第2の液晶セル41bでは、液晶分子Mbの長軸方向が、プリズム長さ方向と直交方向に揃っている。
【0107】
入射光のプリズム長さ方向の偏光成分Laに対し、第1の液晶セル41aの液晶層は、異常光線屈折率neを示す。これにより、偏光成分Laが、第1の液晶セル41aのプリズムで偏向される。
【0108】
一方、入射光のプリズム長さ方向に直交する偏光成分Lbに対しては、第1の液晶セル41aの液晶層が、常光線屈折率noを示し、偏光成分Lbは、プリズムで曲げられず、第1の液晶セルをそのまま直進する。
【0109】
第1の液晶セル41aを直進透過した偏光成分Lbに対し、第2の液晶セル41bの液晶層は、異常光線屈折率neを示す。これにより、偏光成分Lbが、第2の液晶セル41bのプリズムで偏向される。
【0110】
第1の液晶セル41aで偏向された偏光成分Laに対しては、第2の液晶セル41bの液晶層が、常光線屈折率noを示し、偏光成分Laは、第2の液晶セルのプリズムでは方向を変えられず、第1の液晶セル41aで偏向された方向にそのまま進行する。このようにして、電圧オフ状態の区画41cにおいて、入射光の両方の偏光成分が偏向される。
【0111】
次に、電圧オン状態の区画41dでの動作について説明する。液晶分子は誘電率異方性が正なので、電圧オン状態の区画41dにおいて、第1、第2の液晶セル41a、41bの両方で、液晶分子Ma、Mbの長軸方向は、基板法線方向に揃っている。
【0112】
入射光のプリズム長さ方向の偏光成分La、及び、プリズム長さ方向に直交する偏光成分Lbの両方に対し、第1及び第2の液晶セル41a、41bの液晶層は、常光線屈折率noを示す。このため、偏光成分La及びLbは、第1、第2の液晶セルどちらのプリズムでも曲げられず、そのまま直進する。このようにして、電圧オン状態の区画41dにおいて、入射光が直進する。
【0113】
このように、第2実施例の光偏向液晶セルでも、区画ごとに、入射光の偏向・直進を制御することができる。従って、第2実施例の光偏向液晶セルを用いた防眩装置も、第1実施例の光偏向液晶セルを用いた防眩装置と同様に作製することができる(図4〜図6参照)。
【0114】
ただし、第2の光偏向液晶セルは、入射光の両方の偏光成分を偏向させるため、2層の液晶セルの積層構造としている。なお、1層の液晶セルのみを用いた光偏向液晶セルとしても、一方の偏光成分は偏向できるので、防眩装置に用いてある程度の効果を得ることはできる。
【0115】
なお、ネマティック液晶を用いた第2実施例の液晶セルの応答速度は、室温において、立ち上がりで例えば50msec、立ち下がりで例えば約200msecと、ブルー相を示す液晶を用いた第1実施例の液晶セルの応答速度に比べれば遅い。しかし、手動での切り替えに比べれば充分に高速である。
【0116】
なお、第2実施例の液晶セルにおいても、第1実施例と同様に、プリズム層側の透明電極を、プリズム層上に形成する構造とすることもできる。
【0117】
以上の実施例で、プリズム傾斜角度の一例として15°を挙げたが、防眩装置に好適な光偏向角度が得られるように、プリズム傾斜角度は必要に応じて変更することができる。なお、光偏向液晶セルの寸法や、各区画の広さ等も、必要に応じて変更することができる。
【0118】
なお、一実施例として、自動車のフロントガラスに光偏向液晶セルを配置した自動車用の防眩装置について説明したが、他の場所で用いられる防眩装置を作製することもできよう。例えば、二輪車のヘルメットのゴーグル部分に光偏向液晶セルを配置した二輪車用の防眩装置や、また例えば、建物の窓に光偏向液晶セルを配置した室内用の防眩装置も考えられる。
【0119】
また、自動車用の防眩装置とする場合、光偏向液晶セルを、フロントガラス上に固定するのではなく、一般の車両についているサンバイザーのように、可動式(光偏向液晶セルの基板の配置角度等を調整できるもの)とすることも考えられる。なお、その場合、光偏向液晶セルに枠などを設けて補強することが望ましいであろう。なお、サンバイザー型の場合、基板のサイズは、例えば横450mm、縦200mm程度と想定される。
【0120】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0121】
1、11 透明基板
2、12、22 透明電極
3 プリズム層
3a プリズム
3b ベース層
13 配向膜
14 ギャップコントロール剤
15 液晶層
16 メインシール剤
21 SiO
31 光偏向液晶セル
32 光強度センサ
33 駆動装置
LS 光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光偏向液晶セルであって、
液晶層と、
相互に対向配置され、前記液晶層を挟持する一対の透明基板と、
前記一対の透明基板の、前記液晶層側上方にそれぞれ形成された一対の透明電極であって、平面視上の重なり部分が、基板面内の区画ごとに、前記液晶層に電圧を印加できる電極パターンをなす、一対の透明電極と、
前記一対の透明基板の一方の、前記液晶層側上方に形成されたプリズム層と
を含み、前記区画ごとに、電圧印加で前記液晶層の屈折率を変化させることにより、入射光が前記プリズム層で曲げられない直進状態と、入射光が前記プリズム層で曲げられる偏向状態とを切り替えられる光偏向液晶セルと、
前記光偏向液晶セルを透過した光が入射し、入射光の強度を測定する光強度センサと、
前記光強度センサで測定された光強度が、予め定められた閾値以上となった場合に、前記区画を順次走査して、各区画を前記直進状態から前記偏向状態に切り替え、偏向状態に切り替えたときに、前記光強度センサで測定された光強度が低下した場合は、この区画の偏向状態を維持し、そうでない場合は直進状態に戻す制御を行う駆動装置と
を有する防眩装置。
【請求項2】
前記光偏向液晶セルは、前記液晶層が、電圧非印加状態でコレステリックブルー相を示す請求項1に記載の防眩装置。
【請求項3】
前記駆動装置は、前記制御において、ある区画を偏向状態に切り替えたとき、光強度の低下幅が予め定められた強度以上の場合に偏向状態を維持し、そうでない場合は直進状態に戻す請求項1または2に記載の防眩装置。
【請求項4】
前記光偏向液晶セルが、自動車のフロントガラス上に配置された請求項1〜3のいずれか1項に記載の防眩装置。
【請求項5】
前記光強度センサが、運転手の座席のヘッドレストに配置された請求項4に記載の防眩装置。
【請求項6】
前記区画が、下方側ほど狭くなっている請求項4または5に記載の防眩装置。
【請求項7】
前記光偏向液晶セルが、前記透明基板を鉛直方向から傾斜させて設置され、前記プリズム層は、鉛直方向とプリズム斜面とのなす角が、鉛直方向と前記透明基板とのなす角よりも小さくなるように配置されている請求項1〜6のいずれか1項に記載の防眩装置。
【請求項8】
前記プリズム層が、前記液晶層に関し観察者と反対側に配置されている請求項7に記載の防眩装置。
【請求項9】
前記光偏向液晶セルは、前記液晶層の一部に高分子ネットワークが形成されて、コレステリックブルー相の高分子安定化がされている請求項1〜8のいずれか1項に記載の防眩装置。
【請求項10】
前記光偏向液晶セルの、前記一対の透明電極のうち、前記プリズム層側の電極は、前記プリズム層の液晶層側上方に形成されている請求項1〜9のいずれか1項に記載の防眩装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−207271(P2011−207271A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74922(P2010−74922)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】