説明

防眩部材

【課題】本発明は、分散安定性に優れるコーティング組成物から形成される防眩層が積層されてなり、ディスプレイ表面層に要求される防眩性、耐擦傷性、耐薬品性、高ヘイズ性および光透過性が優れた防眩部材の提供を目的する。
【解決手段】透明基材の少なくとも一方の面に、平均二次粒子径が0.5〜3.5μmの疎水性シリカ粒子(A)と透明樹脂(B)とを含むコーティング組成物から形成され、平坦部と、前記疎水性シリカ粒子(A)に由来する突出部とを有し、前記平坦部の硬化膜厚が0.3〜12μmの防眩層が設けられてなる防眩部材であって、
前記突出部の表面が、透明樹脂(B)の硬化物によって覆われていることを特徴とする防眩部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テレビ、コンピューター、カーナビゲーションシステム、車載用計器盤、携帯電話等の画像表示装置として用いられる、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、ELディスプレイ、リアプロジェクションディスプレイ、CRTディスプレイ等各種ディスプレイにおいて、ディスプレイ最表面に、画像の映り込みや、光の反射を防止するために設ける防眩部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイの表面には、外部から入射する光の反射や、オペレーター自身の映り込みにより視認性が低下することを防止するために、防眩処理がされるのが一般的である。またディスプレイ表面の傷つき防止のために耐擦傷性、さらには耐薬品性も要求されていた。具体的には、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)などの透明基材の一方の面に、光拡散剤と透明樹脂とを含むコーティング組成物を用いた硬化塗膜を設けることは知られている。
【0003】
前記光拡散剤は入射光によるぎらつき防止のためにヘイズを高くする機能もあり、例えばシリカ、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム等の無機粉末、ポリエチレン粒子、ポリメチルメタクリレート粒子、ポリカーボネート粒子などの有機微粒子等の中から適宜に選択して使用されていた。その中でも特にシリカ粉末は紫外線に対して透過度が高いため、透明樹脂に含まれる活性エネルギー線硬化樹脂の硬化を阻害しないという特徴がある。そこでシリカに対して、活性エネルギー線硬化樹脂を含む透明樹脂への分散性を向上させるために、シリカ粉末の表面を有機物により処理することが行われている(特許文献1〜3参照)。
【0004】
しかし無機物で処理したシリカを使用した塗膜は耐薬品性が低く、使用する薬品によっては白化する場合があり、有機物で処理したシリカも、ワックス処理タイプは表面被覆が不足するため、未処理のシリカと同様に耐薬品性が悪く、白化する場合があった。またアルコキシド化合物、シランカップリング剤、クロロシラン等により表面反応処理されたシリカは、特許文献6および7に使用例が見られるように、耐薬品性は優れかつ透明性が良好であるが、反面防眩効果が低く、必要な物性を十分満足するものではなかった。
また、シリカを透明樹脂に分散させたコーティング組成物は、短時間にシリカが沈降するため分散安定性に問題があった。
【特許文献1】特公昭63−40282号公報
【特許文献2】特公平4−65095号公報
【特許文献3】特開平5−162261号公報
【特許文献4】特開平11-209717号公報
【特許文献5】特開2002-169001号公報
【特許文献6】特公昭62−21815号公報
【特許文献7】特公平2−60696号公報
【特許文献8】特開平8−3476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、分散安定性に優れるコーティング組成物から形成される防眩層が積層されてなり、ディスプレイ表面層に要求される防眩性、耐擦傷性、耐薬品性、ヘイズ性および光透過性が優れた防眩部材の提供を目的する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、第1の発明は、透明基材の少なくとも一方の面に、平均二次粒子径が0.5〜3.5μmの疎水性シリカ粒子(A)と透明樹脂(B)とを含むコーティング組成物から形成され、平坦部と、前記疎水性シリカ粒子(A)に由来する突出部とを有し、前記平坦部の硬化膜厚が0.3〜12μmの防眩層が設けられてなる防眩部材であって、
前記突出部の表面が、透明樹脂(B)の硬化物によって覆われていることを特徴とする防眩部材に関する。
【0007】
また、第2の発明は、防眩層表面の突出高さが、防眩層の平坦部から0.1μm〜2μmである第1の発明の防眩部材に関する。
【0008】
また、第3の発明は、透明樹脂(B)が、活性エネルギー線硬化性樹脂(b)を含むことを特徴とした第1または第2の発明の防眩部材に関する。
【0009】
また、第4の発明は、活性エネルギー線硬化性樹脂(b)が、イソシアヌレート環を有する活性エネルギー線硬化性樹脂を含むことを特徴とした第3の発明の防眩部材に関する。
【0010】
また、第5の発明は、透明樹脂(B)が、活性エネルギー線硬化性樹脂(b)のみからなることを特徴とした第3または第4の発明の防眩部材に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、疎水性シリカ粒子により分散安定性が向上したコーティング組成物を使用することで、部材の表面に形成された疎水性シリカ粒子由来の突出部を透明樹脂の硬化被膜が覆うことにより、透明樹脂の有する硬化後の硬さを最大限に活用することで耐擦傷性が良好で、かつ耐薬品性、ヘイズ性および光透過性に優れた防眩部材を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の好ましい実施形態を説明する。
本発明における透明基材は、可視光の光線透過率に優れ(好ましくは光線透過率90%以上)、透明性に優れる(好ましくはヘイズ値1%以下)プラスチックフィルムを使用することができる。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー等の透明ポリマーからなるフィルムが挙げられる。また、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体等のスチレン系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ないしノボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー等の透明ポリマーからなるフィルムも挙げられる。更に、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルケトン系ポリマー、ポ リフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマーや前記ポリマーのブレンド物などの透明ポリマーからなるフィルムなども挙げられる。
これらの中でも、特に光学的に複屈折の少ないものが好ましく、トリアセチルセルロース(TAC)からなるフィルムがより好ましい。
【0013】
本発明におけるコーティング組成物は、疎水性シリカ粒子(A)と透明樹脂(B)とを含むものである。
疎水性シリカ粒子(A)は、アルカリ金属珪酸塩と鉱酸とを反応させて得られた沈殿珪酸をシリコーン油等で有機処理したものが好ましく用いられ、4%懸濁時のpHが、6.5〜8.5、見掛比重が、0.16〜0.27g/ml、ジブチルアミン吸着量が、3〜40mmol/kgであることが好ましい。
【0014】
4%懸濁時のpHが6.5未満であると塗膜の耐薬品性、特に耐アルカリ性、たとえばNaOHに対する耐性が悪くなり、8.5を超える場合は耐酸性が悪くなる。
【0015】
見掛比重が0.16g/ml未満であると、均一に分散することが難しく、塗液の粘度が高くなる。0.27g/mlを超えると、シリカが沈降し易く、また塗膜の透明性に不具合が生じる恐れがある。
【0016】
ジブチルアミン吸着量が3mmol/kg未満であるとシリカ粒子表面の疎水性が強くなりすぎるため、シリカ粒子同士の凝集が起こりやすく、40mmol/kgを超えると親水性が強くなるため、後述の透明樹脂(B)との親和性が悪く、安定性の良好な分散体が得られない。
【0017】
上記の反応に用いられるアルカリ金属珪酸塩は、珪酸ナトリウムが好ましい。また、鉱酸としては例えば、硫酸、塩酸及びりん酸等が挙げられる。沈殿珪酸を処理するのに用いられるシリコーン油としては、例えば、ジメチルシリコーン油、メチルフェニルシリコーン油、メチルハイドロジエンシリコーン油、メチルビフェニルシリコーン油等が挙げられる。沈殿珪酸とシリコーン油との混合処理は、通常の混合機であればどのような形式のものを用いてもよいが、微粉(沈殿珪酸)と液体(シリコーン油)とを混合するため、液体の付着による凝集粒が生じないような混合装置を用いるのが好ましい。このような装置としては、ボールミルあるいは流動式混合機等が挙げられる。本発明で用いるこの様な疎水性シリカ粒子(A)は、[ニップシール、SSグレード](東ソーシリカ社製)等の商品名で市場から入手し得るものである。
この様な疎水性シリカ粒子(A)を含むコーティング組成物は分散安定性に優れ、経時でシリカ粒子が沈降せず、分散安定性が良好である。さらに、このコーティング組成物を透明基材に塗工すると耐擦傷性、耐薬品性及び防眩性に非常に優れる防眩層が得られることを見出したのであるが、これは全く予想しなかった作用効果である。
【0018】
疎水性シリカ粒子(A)は防眩性に加え、透明性も良好にするという観点から平均二次粒子径が0.5〜3.5μmであることが好ましく、1〜3.0μmがより好ましい。0.5μm未満のときは得られる防眩層の表面光沢が高くなり防眩効果を得ることができず、3.5μmより大きいと防眩性が過剰になる恐れがある。なお、一般に、粉末を構成する最も小さい状態の粒子を一次粒子といい、一次粒子が凝集した状態を二次粒子という。そのため無機微粒子の粉末は二次粒子として存在している場合が多く、疎水性シリカ粒子(A)も一次粒子が凝集した不定形の二次粒子の形態をとる。疎水性シリカ粒子(A)の平均二次粒子径は、その二次粒子を測定機で測定した数値である。具体的には測定機としてコールターマルチサイザー(ベックマン・コールター(株))を用いコールター法により、アパーチャーサイズを30μmとして測定したものである。
疎水性シリカ粒子(A)の使用量は、透明樹脂(B)100重量部に対し0.1〜50重量部が好ましく、1〜30重量部がより好ましい。
【0019】
疎水性シリカ粒子(A)に加えて、防眩性や透明性を調整するために、疎水性シリカ粒子(A)以外の透光性微粒子を使用することもできる。前記透光性微粒子は防眩層の表面に突出部を形成し、あるいは防眩層の内部で光を散乱して防眩性を付与するものであり、有機微粒子及び/または無機微粒子を用いることができる。また、これらの透光性微粒子は、表面の突出や屈折率をコントロールするために2種類以上の粒子を組み合わせてもよい。透光性微粒子を2種類以上配合することで、様々な用途に要求されるヘイズ値などの光特性を任意に調整することができる。
【0020】
前記透光性微粒子の内、有機微粒子としては、例えばスチレンビーズ、アクリルビーズ、スチレン-アクリルビーズ、メラミンビーズ、ベンゾグアナミンビーズ、ポリカーボネートビーズ、ポリエチレンビーズ、シリコーンビーズ、フッ素ビーズ、フッ化ビニリデンビーズ、塩ビビーズ、エポキシビーズ、ナイロンビーズ、フェノールビーズ、ポリウレタンビーズ等が挙げられる。これらの有機微粒子の粒子径は、一次粒子の平均粒子径が0.1〜10μmであることが好ましく、2〜6μmであることがより好ましい。一次粒子の平均粒子径が0.1μm未満では、光を散乱する効果が不足するために得られる防眩性が不十分であり、10μmを超えると防眩層内部での光の散乱効果が減少するため映像のギラツキを生じやすい。有機微粒子の使用量は、透明樹脂(B)100重量部に対して0〜10重量部の範囲で使用できる。なお、前記一次粒子の平均粒子径は、測定機としてナノトラックUPA−150EX(日機装社製)を使用して動的光散乱法にて測定したものである。
【0021】
本発明における、前記無機微粒子としては、疎水性シリカ粒子(A)以外の、例えば、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化アルミニウム粒子等が挙げられる。これら無機微粒子の平均二次粒子径は、0.5〜3μmであることが好ましく、0.5〜2μmであることがより好ましい。また、これらの無機微粒子の形状は不定形でも球状でもよい。無機微粒子の使用量は、透明樹脂(B)100重量部に対して0〜10重量部の範囲で使用できる。本発明における無機微粒子の平均二次粒子径は、測定機としてナノトラックUPA−150EX(日機装社製)を使用して動的光散乱法にて測定したものである。
【0022】
上記、疎水性シリカ粒子(A)及び必要に応じて用いられる透光性微粒子の、透明樹脂(B)への分散は、コーティング組成物が十分均一になるまで公知の方法で行なうことができる。分散するために使用する分散機としては、特に制限はなく、例えば、ニーダー、ロールミル、アトライタ、スーパーミル、ディソルバー、ホモミキサー、サンドミルなどの公知の分散機が使用できる。
【0023】
透明樹脂(B)は、活性エネルギー線硬化性樹脂(b)を含むことが好ましい。活性エネルギー線硬化性樹脂(b)はエチレン性不飽和二重結合を有する化合物であり、公知の化合物を使用できる。エチレン性不飽和二重結合はアクリロイル基やメタアクリロイル基であることが好ましい。そのような化合物の例としては、具体的には、エチレン性不飽和二重結合を3個〜4個含むペンタエリスリトールテトラアクリレートとペンタエリスリトールトリアクリレートとの混合物、エチレン性不飽和二重結合を6個〜15個含むウレタンアクリレート系オリゴマー、エチレン性不飽和二重結合を3個含みかつイソシアヌレート環を有する化合物が好ましく、これらを併用しても良い。硬化収縮が少なく部材のカールが少ない点および耐擦傷性が良好な点で、エチレン性不飽和二重結合を3個含みかつイソシアヌレート環を有する化合物がより好ましい。
【0024】
透明樹脂(B)は、上記例示した以外の活性エネルギー線硬化性樹脂(b)を含むこともできる。具体的には1〜6個のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物であり、例えば1個のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含むことで、コーティング組成物の流動性など粘性の調整や、6個のエチレン性不飽和二重結合を有す化合物を含むことで、耐擦傷性を向上させることができるが、これらには限定されず公知のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を使用できる。
【0025】
また透明樹脂(B)は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの活性エネルギー線で硬化しない樹脂を含むこともできるが、耐擦傷性が低下する恐れがあるため、活性エネルギー線硬化性樹脂(b)のみを含むことが好ましい。
【0026】
コーティング組成物は、紫外線で硬化させる場合には、光重合開始剤を含むことが好ましい。光重合開始剤の種類は特に制限はなく、例えばアセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、アントアキノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類等が挙げられる。具体的には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、アセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-アミノアントラキノン、2,4,6-トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシド、ミヒラーズケトン、N,N-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、チオキサン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン等が挙げられ、これらの光重合開始剤は2種以上を適宜併用することもできる。これらの光重合開始剤の使用量は、活性エネルギー線硬化性樹脂(b)100重量部に対して、0.1〜20重量部が好ましく、1〜10重量部がより好ましい。
【0027】
コーティング組成物は溶剤を含むことができるが、透明基材としてトリアセチルセルロースを使用するときは、透明基材への防眩層の密着を向上させる目的で、トリアセチルセルロースを溶解または膨潤する溶剤と、溶解および膨潤しない有機溶剤を併用することが好ましい。
トリアセチルセルロース透明基材を溶解または膨潤する有機溶剤としては、例えば、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、1,3,5-トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトール等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ-プチロラクトン等のエステル類;その他、2-メトキシ酢酸メチル、2-エトキシ酢酸メチル、2-エトキシ酢酸エチル、2-エトキシプロピオン酸エチル、2-メトキシエタノール、2-プロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1,2-ジアセトキシアセトン、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等が挙げられる。これらは1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
トリアセチルセルロース透明基材を溶解および膨潤しない有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、酢酸イソブチル、メチルイソブチルケトン、2-オクタノン、2-ペンタノン、2-ヘキサノン、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられるがこれらに限定するものではない。これらは1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
トリアセチルセルロースを溶解または膨潤する有機溶剤は、溶剤全体量を100重量部としたときに、10〜40重量部を使用することが好ましい。10重量部未満のときは、トリアセチルセルロースへの防眩層の密着が不足する恐れがある。40重量部を超えると溶解・膨潤が過剰となり防眩部材の透明性や視認性が低下する恐れがある。なおトリアセチルセルロース以外の透明基材を使用するときは、適宜選択した公知の溶剤を使用できる。
【0029】
コーティング組成物は、疎水性シリカ粒子(A)の分散安定性をより向上する目的で、さらに顔料分散剤を含むことが好ましい。顔料分散剤としてはポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等からなる顔料分散剤が使用でき、分子中にアミノ基等の塩基性官能基を有する樹脂からなるものが好ましい。顔料分散剤の使用量は、疎水性シリカ粒子(A)100重量に対して、1〜50重量部が好ましく、3〜30重量部がより好ましい。
【0030】
コーティング組成物は、防眩性や耐擦傷性など諸物性に影響を与えない範囲で各種の添加剤を含むこともできる。
【0031】
本発明における活性エネルギー線とは、光重合開始剤やエチレン性不飽和二重結合を反応させ得る波長の電磁波を意味し、電子線、紫外線、可視光、放射線、γ線等が挙げられる。紫外線照射装置としては、例えば、メタルハライドランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、無電極ランプ、キセノンランプ、半導体レーザー、アルゴンレーザー、カーボンアークランプ、タングステンランプ、パルスUVランプ等が挙げられる。電子線照射装置としては熱電子放射銃、電界放射銃等が使用できる。照射量は、紫外線の場合は5〜2000mJ/cm2の範囲で適宜設定できるが、工程上管理しやすい50〜1000mJ/cm2の範囲がより好ましい。電子線の場合は20〜2000KeVが好ましい。また紫外線または電子線と、赤外線、遠赤外線、熱風、高周波加熱等による熱を併用することもできる。
【0032】
本発明の防眩部材は、コーティング組成物を透明基材へ塗工した後、必要に応じ溶剤を乾燥させ、さらに活性エネルギー線の照射等により硬化させることにより、疎水性シリカ粒子(A)に由来する突出部を有し、平坦部の硬化膜厚が0.3〜12μm、好ましくは3〜7μmの防眩層を設けることにより製造することができる。突出部の表面は、透明樹脂(B)の硬化物によって覆われている。
また前記突出部の高さは、防眩層の平坦部から0.1μm〜2μmであることが好ましい。0.1μm未満のときは防眩性が不足する恐れがあり、2μmを超えるときは防眩層内部での光の散乱効果が減少するためギラツキが生じる恐れがある。0.1μm〜2μmの突出高さを有する突出部の数は、全突出数のうち10%以上占めることが好ましく、30%以上がより好ましい。10%未満のときは防眩性が不足する恐れがあるからである。
【0033】
コーティング組成物は、意図的に水系の原料を配合しない溶剤系の組成物であることが好ましい。この場合、疎水性シリカ粒子(A)の表面への、透明樹脂(B)の濡れ性が極めて良好となり、その表面をより確実に覆うことができる。乾燥後に透明樹脂(B)が硬化することで、疎水性シリカ粒子(A)に由来する突出部の表面は、透明樹脂(B)の硬化被膜により被覆され、固定される。その結果、防眩層は透明樹脂(B)の硬化物由来の均一な表面硬度が実現できるため、耐擦傷性試験などのハードコート性が向上する。さらに例えば、液晶ディスプレイ表面の防眩部材として使用したときに、疎水性シリカ粒子(A)が防眩層の表面に直接露出していないことで、表面に付着した汚れをふき取る際に疎水性シリカ粒子(A)が脱落して、防眩性が低下するなどの品質劣化が防止できるなどの効果もある。
【0034】
前記塗工方法としては、例えば、マイヤーバー法、ブレード法、スピンコート法、リバース法、ダイコート法、スプレーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、リップコート法、エアーナイフコート法、ディッピング法等の公知の塗工方法を使用することができる。
【0035】
このように、透明基材上に、表面に疎水性シリカ粒子由来の突出部を有し、突出部が透明樹脂の硬化被膜により覆われた防眩層を形成することにより製造された本発明の防眩部材は、全光線透過率85%以上、かつ、ヘイズ値3〜60%の光学特性を有していることが好ましく、また、全光線透過率90%以上、ヘイズ値4〜45%の光学特性を有していることがより好ましい。全光線透過率は85%を下回ると、コントラストの高い画像表示が難しい。ヘイズ値は3%未満のときは防眩性が不足し、60%を超えると、白ぼけが発生する恐れがある。なお白ぼけとは、光散乱により液晶ディスプレイに使用したとき黒色表示時に表示画面が白っぽくなることを意味する。
【0036】
防眩部材の防眩層の表面に、画面表示のコントラストや白ぼけをさらに改善するために、前記防眩層の屈折率よりも低い屈折率の低屈折率層を設けることもできる。これら低屈折率層には、例えば、ポリシロキサン構造を有するものが用いられ、フッ素含有ポリシロキサン構造を有するものが好ましい。低屈折率層は、例えばフッ素含有アルコキシシランにより形成することができる。低屈折率層の厚さは0.05〜0.15μmとするのが好ましい。低屈折率層は適宜な方法にて防眩層の表面に形成することができる。塗工方法としては、防眩部材の製造と同様の方法を使用できる。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は、「重量部」を表す。
【0038】
[合成例1]
撹拌機、温度計、ディーンスターク装置を取り付けた反応器に、ペンタエリスリトール27.2部、アクリル酸63.4部、トルエン100部、酸性触媒パラトルエンスルホン酸3部及び重合禁止剤ハイドロキノンモノメチルエーテル0.08部を仕込んだ後、空気を吹き込みかつ撹拌しながら加熱した。7時間還流させ水14.2部を留出させた。反応終了後、反応液に10%水酸化ナトリウム水溶液50部を加え室温で撹拌した後静置し、下層(水層)を分離して、過剰量のアクリル酸を除去した。反応液を、水層が中和するまで水洗した。これを無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.028部加え、トルエンを減圧蒸留によって留去、濃縮した。この溶液を、シリカゲルカラム−移動相トルエンで処理し、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.02部加え、溶媒をトルエンで減圧蒸留した。
以上のようにして、若干量のペンタエリスリトールトリアクリレートを副生成物として含有するペンタエリスリトールテトラアクリレート61部を得た。ガスクロマトグラフ・13C−NMRで測定したところ、ペンタエリスリトールテトラアクリレートとペンタエリスリトールトリアクリレートとの重量比は99:1であった。
【0039】
「ガスクロマトグラフ測定条件」
装置:SHIMAZDU GCMS-QP5050A
カラム:DB−5 0.25IDmm×30m df=0.25mm
検出温度:250℃
注入温度:150℃
オーブン温度:50℃1分間保持−昇温速度10℃/min−250℃
【0040】
[実施例1]
活性エネルギー線硬化性樹脂(b)として、合成例1で得たペンタエリスリトールテトラアクリレート97部とアロニックスM306(東亞合成社製:ペンタエリスリトールテトラアクリレートとペンタエリスリトールトリアクリレートの混合物)3部を、トルエン80部および1,3-ジオキソラン34部の混合溶剤に溶解し、さらに光重合開始剤(イルガキュア184、チバスペシャリティケミカルズ社製)5部を加え、高速ディスパーにて2000rpmで5分撹拌した。 さらに、この溶液に塩基性顔料分散剤(BYK168、ビックケミー社製)1.5部を加え、疎水性シリカ粒子(東ソーシリカ製、NIPSIL SS-50B、4%懸濁時のpHが、7.6、見掛比重が、0.2g/ml、ジブチルアミン吸着量が、10mmol/kg、平均二次粒子径が、2.1μm)10部を加え、高速ディスパーにて4000rpmで30分撹拌し、コーティング組成物を得た。
さらに厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(富士フィルム社製)にコーティング組成物をバーコーターで塗工し、70℃で1分間熱風乾燥した。その後、窒素パージ雰囲気下(酸素濃度0.3重量%以下)にて、高圧水銀ランプを用いて紫外線を照射量400mJ/cm2で照射を行い、平坦部の硬化膜厚4μmの防眩層を有する防眩部材を得た。
【0041】
なお平坦部の硬化膜厚はデジタルマイクロ膜厚計(ニコン社製)で測定し、突出高さは防眩部材の一部の断面を電子顕微鏡(S−4300 日立製作所社製)で撮影した写真を用い、突出部の膜厚と平坦部の膜厚との差を表したものである。また前記写真から、疎水性シリカ(A)に由来する突出部が透明樹脂(B)に覆われているか否かを評価した。
【0042】
[実施例2]
実施例1の活性エネルギー線硬化性樹脂(b)を紫光UV−1700B(日本合成社製、アクリロイル基を10個有するウレタンアクリレート系オリゴマー)に変更した以外は、実施例1と同様に行い防眩部材を得た。
【0043】
[実施例3]
実施例1の活性エネルギー線硬化性樹脂(b)をアロニックスM315(東亞合成社製、アクリロイル基を3個含みかつイソシアヌレート環を有する化合物)に変更した以外は、実施例1と同様に行い防眩部材を得た。
【0044】
[実施例4]
実施例1のコーティング組成物に、さらに透光性有機微粒子(積水化学社製、平均一次粒子径3.5μm、架橋ポリスチレン-メチルメタアクリレート粒子XX−12AE)2重量部を追加した以外は、実施例1と同様に行い防眩部材を得た。
【0045】
[比較例1]
実施例1の疎水性シリカ粒子(A)を別の疎水性シリカ(NIPSIL SS70、東ソーシリカ社製 4%懸濁時のpHが、7.5、見掛比重が、0.38g/ml、ジブチルアミン吸着量が、11mmol/kg、平均二次粒子径が、5.1μm)へ変更した以外は、実施例1と同様に行ない防眩部材を得た。
【0046】
なお実施例1〜4および比較1の防眩部材の全光線透過率をヘイズメーターNDH-2000(日本電色社製)を使用して測定したところ、すべて85%以上であった。
【0047】
[分散安定性]コーティング組成物を25℃で静置し、7日後の微粒子沈澱の有無を目視判定した。
○:良好。×:沈殿あり。
【0048】
[ヘイズ値]ヘイズメーターNDH-2000(日本電色社製)を用いてヘイズ値を測定した。
【0049】
[鉛筆硬度]JIS K5400に準拠して測定した。
【0050】
[密着性試験]JIS K5400に準拠して碁盤目テープ法(全碁盤目数100個 間隔1mm)で評価した。評価結果は非剥離碁盤目数/全碁盤目数で分数表示した。
例)100/100:脱落なし、50/100:50個脱落し、50個残った。
【0051】
[耐光性試験後の密着性試験]スーパーUV耐光性試験機(ダイプラーメタルウエザー、型式:KU-R5CI-A、光源:メタルハライドランプ)にて、63℃-45%RH-65mW/cm2-24時間の条件にて耐光性試験を実施後、JIS K5400に準拠して碁盤目テープ法(間隔1mm)により、密着性試験を実施した。
【0052】
[耐擦傷性]スチールウール#0を用い、500g/10往復して表面状態を目視評価した。
◎ : 非常に良好。
○ : 良好。
△ : やや劣る。
× : 劣る。
【0053】
[防眩性]防眩部材の防眩層に、ルーバーなしのむき出しの蛍光灯を写し、その反射像のボケの程度を目視評価した。
◎ : 蛍光灯の輪郭が全くわからない。
○ : 蛍光灯の輪郭がわずかにわかる。
△ : 蛍光灯はぼやけているが輪郭は識別できる。
× : 蛍光灯が殆どぼやけない(防眩性無し)。
【0054】
[耐薬品性]下記薬品を防眩層の表面に滴下し、所定の時間放置した後にふき取り、その表面変化の状態を目視評価した。
薬品 3N−NaOH :滴下後15分間放置。
1N-HCl :滴下後15分間放置。
各種有機溶剤 :滴下後10時間放置。
評価基準 ○:変化なし。×:白化。
【0055】
[総合評価]防眩部材として使用できるものを○、使用できないものを×として判定した。
【0056】
<評価結果>
評価結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1の結果から、比較例1は各種評価項目を全て満たすものは無く、防眩部材として使用することは困難と考えられる。実施例1〜4は防眩部材として要求される耐擦傷性、耐薬品性、ヘイズ性、光透過性などの物性が良好であり、またコーティング組成物として必要とされる分散安定性を満たすものであった。従って本発明の防眩部材は、各種ディスプレイの表面層として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】防眩部材の断面図
【符号の説明】
【0060】
1・・・疎水性シリカ粒子
2・・・透明樹脂の硬化物
3・・・透明基材
4・・・突出部
5・・・平坦部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材の少なくとも一方の面に、平均二次粒子径が0.5〜3.5μmの疎水性シリカ粒子(A)と透明樹脂(B)とを含むコーティング組成物から形成され、平坦部と、前記疎水性シリカ粒子(A)に由来する突出部とを有し、前記平坦部の硬化膜厚が0.3〜12μmの防眩層が設けられてなる防眩部材であって、
前記突出部の表面が、透明樹脂(B)の硬化物によって覆われていることを特徴とする防眩部材。
【請求項2】
防眩層表面の突出高さが、防眩層の平坦部から0.1μm〜2μmである請求項1記載の防眩部材。
【請求項3】
透明樹脂(B)が、活性エネルギー線硬化性樹脂(b)を含むことを特徴とした請求項1または2記載の防眩部材。
【請求項4】
活性エネルギー線硬化性樹脂(b)が、イソシアヌレート環を有する活性エネルギー線硬化性樹脂を含むことを特徴とした請求項3記載の防眩部材。
【請求項5】
透明樹脂(B)が、活性エネルギー線硬化性樹脂(b)のみからなることを特徴とした請求項3または4記載の防眩部材。

【図1】
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【公開番号】特開2009−196286(P2009−196286A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42350(P2008−42350)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】