説明

防護構造

【課題】航空機その他の飛来物や車両の衝突から防護対象物を好適に防護して、防護対象物の健全性を確保できること。
【解決手段】本防護構造10では、防護対象物としての防護対象建屋11(例えば原子力発電プラント建屋)の全周に沿って防護丘14が設置され、この防護丘14は、防護対象建屋11よりも高く設定されると共に、航空機12その他の飛来物及び車両13の衝突に耐え得る強度に構成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力プラント建屋などの防護対象物を、航空機その他の飛来物や車両などの衝突から防護する防護構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、原子力発電所における航空機その他の飛来物の衝突に対する対策としては、衝撃や航空機燃料による爆発から発電所建屋の外壁及び屋根の健全性を保つために、建屋の躯体を増強させる等の検討がなされることが多い。しかしながら、建屋の躯体構造の単なる増強では、構造体の全体重量の増加とともに、上部構造の重量増加から転倒モーメントが増大して地震に対する建屋の安定性が懸念される。また、航空機や車両などを用いた意図的な破壊活動等に対する対策としては十分とは言えない。
【0003】
航空機の衝突を原子力発電所へ直接衝突するのを防ぐ防護構造が、特許文献1および特許文献2に開示されている。
【0004】
これらの防護構造は、図4及び図5に示すように、防護すべき建屋(以下、防護対象建屋と称する)1の周囲を塔2(図4)や風力発電用風車3(図5)で取り囲み、航空機4がこれらの構造物(塔2、風力発電用風車3)に衝突することで、防護対象建屋1まで進入して衝突しないようにしている。即ち、図6に示すように、航空機4は衝突対象の防護対象建屋1に対してある程度の仰角αをもって進入してくることが知られている。そのため、搭2や風力発電用風車3がその設置位置で十分な高さを確保することで、防護対象建屋1の防護が可能になる。
【0005】
また、特許文献3には、タービン建屋の地下にラドウェスト建屋、原子炉建屋を順次設置し、建屋の大部分を地下構造とした「原子力設備」が開示されている。これは設置面積低減を目的としたものであるが、地下化された部分は航空機4その他の飛来物から防護される結果になる。
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/127636号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/42100号明細書
【特許文献3】特開平4−115191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1や特許文献2では、搭2や風力発電用風車3が航空機4の主翼幅よりも狭い間隔で設置されており、防護対象建屋1に航空機4の直接衝突による致命的な損傷を生じさせないようにしている。しかし、航空機4の衝突により発生する破損片のうち特にエンジンは、衝突面積が小さくいため搭2や風力発電用風車3の間隔を通過してしまい、しかも質量が大きいため、防護対象建屋1に衝突すると致命的な損傷を生じさせる。ところが、これらの特許文献1及び特許文献2では、主翼幅よりも狭い飛来物に対しては具体的対策がとられていない。
【0007】
また、特許文献3のように、防護対象建屋1を地下化することは、航空機4その他の飛来物に対する対策として有効であるが、地下化には深層掘削に伴う技術的問題や、機器メンテナンスに必要な車両のアクセス通路の確保が困難なことが挙げられる。
【0008】
また、これら特許文献1、特許文献2及び特許文献3のいずれの場合にも、航空機4及び車両を用いたテロ活動、人為的な破壊活動への対応はなされていない。
【0009】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、航空機その他の飛来物や車両の衝突から防護対象物を好適に防護して、防護対象物の健全性を確保できる防護構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る防護構造は、防護対象物の全周に沿って防護丘が設置され、この防護丘は、前記防護対象物よりも高く設定されると共に、航空機その他の飛来物及び車両の衝突に耐え得る強度に構成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、防護対象物の全周に沿って設置された防護丘が、航空機その他の飛来物や車両の進入を阻止して防護対象物への衝突を回避するので、これらの航空機その他の飛来物や車両に対し防護対象物の健全性を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づき説明する。
【0013】
[A]第1の実施の形態(図1、図2)
図1は、本発明に係る防護構造の第1の実施の形態を示す平面図である。図2は、図1のII−II線に沿う断面図である。
【0014】
図1及び図2に示す防護構造10は、防護対象物としての防護対象建屋11(例えば原子力発電プラント建屋)の周囲に防護丘14を設置して、航空機12その他の飛来物や車両13などの衝突から防護対象建屋11を防護するものである。
【0015】
前記防護丘14は、防護対象建屋11の全周に沿って隙間なく、例えば切れ目や切断箇所がなく設置される。また、この防護丘14は、本実施の形態では、航空機12その他の飛来物及び車両13の衝突に耐え得る強度に構成され、例えば土砂や鉄筋コンクリートなどで構築される。
【0016】
更に、防護丘14は、防護対象建屋11よりも高く、航空機12その他の飛来物に対して防護が可能な高さに設定される。つまり、航空機12その他の飛来物は、防護対象建屋11に対してある程度の仰角θ(θ≧0)で侵入してくることが知られているため、防護丘14は、防護対象建屋11との距離Lと上記仰角θとを考慮して、防護対象建屋11を防護可能な高さに設定される。
【0017】
防護対象建屋11と防護丘14の間には、防護対象建屋11を保守するために必要なメンテナンスヤード15が設けられている。防護丘14には、上記メンテナンスヤード15に連通すると共に、開閉可能な扉16が設置されたメンテナンスヤード出入通路17が形成されている。このメンテナンスヤード出入通路17を通してのみ、防護丘14外からメンテナンスヤード15へ進入することが可能に構成される。
【0018】
扉16は、航空機12その他の飛来物及び車両13の、特に車両13による衝突によっても破損しない堅牢な構造に構成される。
【0019】
従って、航空機12その他の飛来物が防護対象建屋11まで進入しようとしても、防護丘14によりその進入が阻止され、防護対象建屋11への衝突が回避される。しかも、防護丘14が防護対象建屋11の全周に沿って隙間なく設置されたので、航空機12その他の飛来物が防護丘14に衝突したとしても、破損片(例えばエンジンなど)が防護対象建屋11へ進入し衝突することも回避される。また、地上を走行し防護対象建屋11へ突入しようとする車両13に対しても、防護丘14とメンテナンスヤード出入通路17の扉16によってその進入が阻止され、車両13による防護対象建屋11への衝突が回避される。
【0020】
従って、本実施の形態によれば、次の効果を奏する。
【0021】
防護対象建屋11の全周に沿って隙間なく設置された防護丘14が、防護対象建屋11よりも高く設定されると共に、航空機12その他の飛来物及び車両13の衝突に耐え得る強度に構成されたことから、航空機12その他の飛来物や車両13が防護対象建屋11まで進入することを阻止でき、また、これらの航空機12その他の飛来物や車両13が防護丘14に衝突したときにも、その衝突による破損片が防護対象建屋11まで進入することを防止できる。この結果、航空機12その他の飛来物や車両13、それらの破損片の防護対象建屋11への衝突を回避できるので、これらの航空機12その他の飛来物や車両13、破損片の衝突から防護対象建屋11を好適に防護でき、防護対象建屋11の健全性を確保できる。
【0022】
[B]第2の実施の形態(図3)
図3は、本発明に係る防護構造の第2の実施の形態を示す平面図である。この第2の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分については、前記第1の実施の形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0023】
本実施の形態の防護構造20が前記実施の形態の防護構造10と異なる点は、防護対象建屋11、防護丘14及びメンテナンスヤード15の表面が、周辺敷地環境21と同一または類似の色調を有するカモフラージュ材22にて覆われた点である。
【0024】
カモフラージュ材22は、シートまたは塗料などであり、意図的な破壊活動などに対して防護対象建屋11、防護丘14及びメンテナンスヤード15を上空から発見させにくくするカモフラージュ作用を有し、防護対象建屋11が標的となることを防止する。
【0025】
従って、本実施の形態によれば、前記第1の実施の形態の効果と同様な効果を奏するほか、次の効果を奏する。
【0026】
防護対象建屋11、防護丘14及びメンテナンスヤード15の表面が、周辺敷地環境21と同一または類似の色調を有するカモフラージュ材22にて覆われたことから、このカモフラージュ材22によって、防護対象建屋11、防護丘14及びメンテナンスヤード15が上空から発見しにくいものとなる。この結果、防護対象建屋11が、航空機12等による上空からの意図的な破壊活動の標的になることを未然に防止できるので、この防護対象建屋11の健全性を確保できる。
【0027】
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、第1及び第2の両実施の形態では、防護対象物が原子力発電プラント建屋の場合を述べたが、火力発電プラントなどの他の発電設備の構造物、石油コンビナートなどの燃料備蓄設備の構造物、国家機関の構造物などであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る防護構造の第1の実施の形態を示す平面図。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図。
【図3】本発明に係る防護構造の第2の実施の形態を示す平面図。
【図4】従来の防護構造を示す斜視図。
【図5】従来の他の防護構造を示す斜視図。
【図6】図4及び図5の防護構造の作用を説明する側断面図。
【符号の説明】
【0029】
10 防護構造
11 防護対象建屋(防護対象物)
12 航空機
13 車両
14 防護丘
15 メンテナンスヤード
16 扉
17 メンテナンスヤード出入通路
20 防護構造
21 周辺敷地環境
22 カモフラージュ材
θ 仰角
L 距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防護対象物の全周に沿って防護丘が設置され、
この防護丘は、前記防護対象物よりも高く設定されると共に、航空機その他の飛来物及び車両の衝突に耐え得る強度に構成されたことを特徴とする防護構造。
【請求項2】
前記防護対象物と防護丘との間に、前記防護対象物を保守するためのメンテナンスヤードが設けられ、前記防護丘には、前記メンテナンスヤードに連通し、扉で開閉可能なメンテナンスヤード出入通路が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の防護構造。
【請求項3】
前記防護対象物、防護丘及びメンテナンスヤードの表面が、周辺敷地環境と同一または類似の色調を有するカモフラージュ材にて覆われたことを特徴とする請求項2に記載の防護構造。
【請求項4】
前記防護対象物が、原子力プラント建屋であることを特徴とする請求項1に記載の防護構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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