説明

防錆塗料組成物

【課題】鉛やクロムを使うことなく防錆性と貯蔵安定性の両方を兼ねた防錆塗料を提供する。
【解決手段】カルシウム成分とりん成分とからなり、かつその両成分中のカルシウムとりんとの原子比率(Ca/P=m)が0.50<m<1.00である単一物又は混合物を、180〜350℃で焼成してなる縮合りん酸カルシウムを含み、重金属を含まない無公害防錆顔料と、油性系又はアルキド樹脂系バインダーとを混合して得られることを特徴とする防錆性及び貯蔵安定性に優れた防錆塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無公害であり、鉄鋼材面に対して優れた防錆効果を有し、かつ貯蔵安定性に優れている防錆塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、防錆顔料として鉛化合物、クロム酸化合物が広範囲に使用されてきた。これらは優れた防錆効果を有する反面、その毒性が問題になり、無公害防錆顔料の検討が盛んに行われている。しかしながら、これら無公害防錆顔料は一般に亜鉛系顔料を含有している場合が多いため油性系またはアルキド樹脂系バインダー中では貯蔵安定性に問題がある。すなわち、油性系またはアルキド樹脂系バインダー中ではこの防錆顔料が経時的に凝集し、そのように凝集した防錆塗料組成物を用いると塗面状態が悪くなるとともに、防錆効果も劣るようになる。このような経時変化は、亜鉛系顔料表面に油性系またはアルキド樹脂系バインダー中の遊離脂肪酸が吸着し、このように遊離脂肪酸が吸着した亜鉛系顔料が貯蔵中に徐々に会合して凝集することによると考えられている。
【特許文献1】特開昭60−38471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、鉛やクロムを使うことなく防錆性と貯蔵安定性の両方を兼ねた防錆塗料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、カルシウム成分とりん成分とからなり、かつその両成分中のカルシウムとりんとの原子比率(Ca/P=m)が0.50<m<1.00である単一物又は混合物を、180〜350℃で焼成してなる縮合りん酸カルシウムを含み、重金属を含まない無公害防錆顔料と、油性系又はアルキド樹脂系バインダーとを混合して得られることを特徴とする防錆性及び貯蔵安定性に優れた防錆塗料組成物である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、鉛やクロム、亜鉛を使うことなく防錆性と貯蔵安定性の両方を兼ねた防錆塗料組成物が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0007】
本発明において使用する油性系またはアルキド樹脂系バインダーは公知化合物であり、本発明においては、塗料におけるバインダーとして公知、公用のいかなる油性系又はアルキド樹脂系バインダーも使用することができる。油性系バインダーとしては例えば特開昭58−49757号公報に記載されているもの、例えばボイル油、アマニ油、大豆油、サフラワー油、ヒマシ油等があり、またアルキド樹脂系バインダーとしては例えば特開昭58−49757号公報、特開昭62−195055号公報に記載されているもの、例えばフタル酸樹脂等の油変性アルキド樹脂がある。
【0008】
本発明に用いる無公害防錆顔料における縮合りん酸カルシウムの防錆作用に関する詳細な機構は不明であるが、縮合りん酸カルシウムが、腐食雰囲気下において水にわずかに溶解し、生じた縮合りん酸イオンが金属に対するキレート力が非常に強いため、鉄表面に不動態皮膜を形成し、錆の発生を防止するものと考えられる。
【0009】
本発明で使用される縮合りん酸カルシウムは、カルシウム成分とりん成分とからなり、かつその両成分中のカルシウムとりんとの原子比率(Ca/P=m)が、0.50<m<1.00の範囲にある単一物又は混合物を用いることが必要であり、好ましくは、混合物中のカルシウムとりんとの原子比率mが、0.60<m<0.80の範囲にある単一物又は混合物を用いることが望ましい。
【0010】
単一物又は混合物中のカルシウムとりんとの原子比率(Ca/P=m)が、m≦0.50の場合には、縮合りん酸イオンの溶出量が過剰となり、塗膜のふくれが生じ、防錆効果を低下させるため、好ましくない。また、その原子比率mが、m≧1.00の場合には、不動態皮膜形成に必要な縮合りん酸イオンの溶出量が低すぎ、また縮合りん酸カルシウムを製造しにくくなるため、好ましくない。
【0011】
本発明に用いられる縮合りん酸カルシウムは、下記式(1)、
Caxy(Pn3n+1z (1)
(式中、xは、1〜4の実数であり、yは、0〜2の実数であり、zは、1〜2の実数であり、nは、2〜6の整数であり、かつ、2x+y=(n+2)zである。)
で表される化合物であることが望ましい。
【0012】
ただし、式(1)の縮合りん酸カルシウムは、任意の数の結晶水を持つ化合物も含む。
【0013】
式(1)で表される縮合りん酸カルシウムとしては、CaH227や、Ca227、Ca32(P272、Ca42(P3102、Ca4619などが代表的なものであり、これら単一又はそれらの混合物であることが望ましい。
【0014】
このような式(1)で表される縮合りん酸カルシウムは、主にX線回折法を用いて決定することができる。
【0015】
本発明に用いられる縮合りん酸カルシウムは、単一の結晶状態であっても、種々の結晶状態(非晶質も含む)の混合物であってもさしつかえない。
【0016】
本発明に用いる無公害防錆顔料の構成成分である縮合りん酸カルシウムは、前述のカルシウム成分とりん成分との混合物を、180〜350℃の温度で焼成し、好ましくは、200〜290℃の温度で焼成することが望ましい。焼成温度が180℃より低いと、りん酸の縮合が起こらず、縮合りん酸カルシウムは得られない。また、焼成温度が350℃より高いと、生成した縮合りん酸カルシウムの多くがメタりん酸カルシウムに転じてしまうため、防錆性を有する縮合りん酸カルシウムは得られない。
【0017】
カルシウム成分とりん成分との混合物の焼成時間は、特に制限はないが、例えば、1〜30時間が好ましい。また、焼成後の縮合りん酸カルシウムは、用途等に応じて粉砕や分級などの操作を行ってもよい。
【0018】
りん成分としては、例えば、正りん酸や、ポリりん酸、亜りん酸、五酸化二燐等が好適に挙げられる。また、カルシウム成分としては、例えば、カルシウム単体や、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、りん酸一水素カルシウム、りん酸二水素カルシウム、りん酸三カルシウム、ピロりん酸カルシウム、ピロりん酸二水素カルシウム等が好適に挙げられる。なお、硝酸カルシウムや、酢酸カルシウム、塩化カルシウムは、焼成物中に水可溶性のイオンが残存し、顔料の防錆性が低下する傾向にある。
【0019】
次に、本発明者は、亜鉛を含まない無公害防錆顔料を開発するため、縮合りん酸カルシウムと組み合わせる固体塩基の探索を行った結果、アルカリ土類金属化合物が良好な防錆性を向上させる効果を示すことを見出した。アルカリ土類金属化合物としては、カルシウムや、マグネシウム、ストロンチウム等の酸化物や、水酸化物、ケイ酸塩、炭酸塩などが挙げられ、いずれも良好な防錆性を示すが、特にマグネシウムの化合物を用いるのが望ましい。
【0020】
アルカリ土類金属化合物の量は、無公害防錆顔料全体に対して、0〜90質量%、より好ましくは、0.1〜60質量%である。従って、この場合、縮合りん酸カルシウムの量は、無公害防錆顔料全体に対して、10〜100質量%、より好ましくは、40〜99.9質量%である。特にアルカリ土類金属化合物として塩基性の強い酸化物や、水酸化物を用いる場合は、無公害防錆顔料全体に対して、アルカリ土類金属化合物は、0.5〜20質量%であることが望ましい。また、このアルカリ土類金属化合物は、1種又は2種以上で使用してもよい。
【0021】
縮合りん酸カルシウムの混合比率が、上記範囲より少ないときは、防錆作用を発揮する要因となる縮合りん酸イオンの溶出量が少なくなり、防錆効果が十分ではなく、またその比率が上記範囲より多くなると、アルカリ土類金属化合物の減少により、縮合りん酸カルシウムが有する固体酸性を中性化することができなくなるため、縮合りん酸カルシウムに基づく防錆効果が低下する傾向にある。
【0022】
アルカリ土類金属化合物は、縮合りん酸カルシウムと混合して、又はその混合物を焼成して、使用することができる。
【0023】
また、本発明に用いる無公害防錆顔料は、上述の縮合りん酸カルシウム及び、それとアルカリ土類金属化合物との混合物に、更にケイ素化合物を混合してもよい。ケイ素化合物を混合すると、素地金属の腐食生成物を固定化でき、防錆効果の向上のため好ましい。ケイ素化合物としては、一般にコロイダルシリカ、湿式法や気相法で合成されたシリカ、又、二酸化ケイ素の形でシリカを含有する天然鉱物なども使用可能であり、特に限定されない。使用するケイ素化合物の量は、無公害防錆顔料全体に対して、一般に、0〜80質量%、好ましくは、0.5〜50質量%である。
【0024】
本発明に用いる無公害防錆顔料は、上述の縮合りん酸カルシウムの単独使用、又はアルカリ土類金属化合物との併用で十分な防錆効果を発揮するものであるが、更にキレート能を有する有機ホスホン酸又はカルボン酸、及び/又はそれらの中和塩を含有させると相乗効果が現れ、防錆効果は更に優れたものになる。
【0025】
本発明に用いる無公害防錆顔料に使用されるキレート能を有する有機ホスホン酸として、例えば、ニトリロトリスメチレンホスホン酸や、ニトリロトリスエチレンホスホン酸、ニトリロトリスプロピレンホスホン酸、ニトリロトリスジエチルメチレンホスホン酸等のアミノアルキレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラエチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラプロピレンホスホン酸等のエチレンジアミンテトラアルキレンホスホン酸、メタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、プロパン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸等のアルキル−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、2−ヒドキシホスホノ酢酸等が挙げられる。また、キレート能を有するカルボン酸として、例えば、クエン酸や、リンゴ酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、イタコン酸、マレイン酸、グリコール酸、メルカプト酢酸、チオグリコール酸、サリチル酸、スルフォサリチル酸、アントラニル酸、N−メチルアントラニル酸、3−アミノ−2−ナフトエ酸、1−アミノ−2−ナフトエ酸、2−アミノ−1−ナフトエ酸、1−アミノアントラキノン−2−カルボン酸、タンニン酸、没食子酸等が挙げられる。
【0026】
また、それら有機ホスホン酸又はカルボン酸の中和塩としては、上記化合物のアルカリ金属や、アルカリ土類金属、アルミニウム、アンモニウムイオン、又はアミノ基等で全部又は一部中和されたものが挙げられる。
【0027】
なお、キレート能を有する有機ホスホン酸又はカルボン酸及び/又はそれらの中和塩の量は、特に限定されないが、好ましくは、無公害防錆顔料全体に対して、一般に0〜20質量%、好ましくは、2〜15質量%である。
【0028】
上記縮合りん酸カルシウムと、アルカリ土類金属化合物、有機ホスホン酸又はカルボン酸及び/又はその中和塩との混合に際しては、乾式混合や、湿式混合のいずれも採用することができる。特に、無公害防錆顔料を防錆塗料に適用する場合、アルカリ土類金属化合物によるアルカリ成分が樹脂と反応し、ゲル化や増粘するおそれがあるときには、湿式混合法でこれらの成分をあらかじめ湿式反応させておき、その乾燥物を焼成あるいは粉砕等により使用しても良い。
【0029】
本発明に用いる無公害防錆顔料は、顔料粒子の分散性あるいは防錆塗料に適用する場合のビヒクルとの混和性を考慮して、必要に応じ表面処理を施してもよい。表面処理方法は、前記目的を達成するために行われる常法を用いることができ、例えば、高級脂肪酸若しくはその誘導体、酸性りん酸エステル若しくはその誘導体、ロジン酸若しくはその誘導体、又はシランカップリング剤から選ばれた1種又は2種以上で表面処理されたものであってもよい。
【0030】
高級脂肪酸若しくはその誘導体としては、例えば、カプリン酸や、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸若しくはそれらの金属塩又はアミド等、酸性りん酸エステル若しくはその誘導体としては、例えば、モノメチルアシドホスフェート、ジメチルアシドホスフェート、ジエチルアシドホスフェート、メチルエチルアシドホスフェート、n−プロピルアシドホスフェート、イソプロピルアシドホスフェート、n−ブチルアシドホスフェート、イソブチルアシドホスフェート等、ロジン酸若しくはその誘導体としては、例えば、ロジン酸、天然ロジン又はその金属塩又はアミド等、シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等が挙げられる。
【0031】
本発明の防錆塗料組成物において、前記バインダー樹脂固形分100質量部に対して一般的には3〜50質量部の前記防錆顔料を配合する。本発明の防錆塗料組成物は、前記防錆顔料、及び前記バインダーを必須成分とし、更に必要に応じて一般の防錆塗料に使用されている各種の着色顔料、体質顔料、溶剤、その他ドライヤー、沈降防止剤、ダレ止め剤、キレート化剤等の各種添加剤などから構成される。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例及び比較例により、具体的に説明する。但し、本発明の範囲は、これらの実施例及び比較例により何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における濃度や含有量を示す、「%」や「部」は、特に断らない限り、「質量%」や「質量部」である。
【0033】
[1.縮合りん酸カルシウムAの合成]
炭酸カルシウム100gと、市販の85%りん酸173gと(Ca/Pの原子比率は、0.67)をフラスコに採り、攪拌しながら80℃で3時間反応させた。この反応液を放冷後、温度を250℃に設定した乾燥機にて、30時間焼成し、縮合りん酸カルシウムAを合成した。この縮合りん酸カルシウムAは、CaH227やCa42(P3102等の混合物である。
【0034】
[2.縮合りん酸カルシウムBの合成]
炭酸カルシウム100gと、市販の85%りん酸154gと(Ca/Pの原子比率は0.75)をフラスコに採り、攪拌しながら80℃で3時間反応させた。この反応液を放冷後、温度を250℃に設定した乾燥機にて、30時間焼成し、縮合りん酸カルシウムBを合成した。この縮合りん酸カルシウムBは、CaH227や、Ca32(P272、Ca42(P3102等の混合物である。
【0035】
[3.縮合りん酸カルシウムCの合成]
炭酸カルシウム100gと、ポリりん酸113.7gと(Ca/Pの原子比率は0.74)をフラスコに採り、攪拌しながら80℃で3時間反応させた。この反応液を放冷後、温度を230℃に設定した乾燥機で、30時間焼成し、縮合りん酸カルシウムCを合成した。この縮合りん酸カルシウムCは、Ca227や、CaH227等の混合物である。
【0036】
〔実施例1〜10及び比較例1〜6〕
無公害防錆顔料組成物として、上記のように調整した縮合りん酸カルシウムA〜Cと、アルカリ土類金属化合物、又は、有機ホスホン酸又はカルボン酸及び/又はそれらの中和塩とを、以下の表1に示す配合比率でそれぞれ乾式混合して、実施例1〜10とした。
【0037】
また、比較例1として、メタりん酸カルシウム(縮合りん酸カルシウムではない)と、酸化マグネシウム、比較例2としてトリポリりん酸アルミニウム(テイカ(株)製「K−FRESH」)(トリポリりん酸アルミニウムは、上記式(1)において、zが3である)と、メタケイ酸カルシウムとを表1に示す配合比率で乾式混合して、防錆顔料とした。更に、比較例3としてりん酸亜鉛含有トリポリりん酸アルミニウム(テイカ(株)製「K−WHITE AZP500」)、比較例4としてカルシウム変性トリポリりん酸アルミニウム(テイカ(株)製「K−WHITE Ca650」)、比較例5として酸化亜鉛変性トリポリりん酸アルミニウム(テイカ(株)製「K−WHITE#105」)、比較例6としてりん酸亜鉛(堺化学工業(株)製「ZPF」)をそれぞれ防錆顔料として使用した。なお、比較例3〜6は、市販の防錆顔料である。
【0038】
【表1】

【0039】
次に、実施例1〜5および比較例1〜3について、表1記載の無公害防錆顔料を用い下記組成からなる組成物をジルコニアビーズ(φ1.5mm)100gとともにサンドミルを用いて30分間分散させて塗料化した。
【0040】
・大豆油変性アルキドワニス 30.0g
(大日本塗料製:油長62、加熱残分70%)
・表1記載の無公害防錆顔料 4.8g
・二酸化チタン(ルチル型) 15.0g
・沈降性硫酸バリウム 21.0g
・6%ナフテン酸コバルト 1.3g
・皮張り防止剤 0.5g
・ダレ止め剤 1.0g
【0041】
次に、実施例6〜10および比較例4〜6について、表1記載の無公害防錆顔料および市販の防錆顔料を用い下記組成からなる組成物をジルコニアビーズ(φ1.5mm)100gとともにサンドミルを用いて30分間分散させ塗料化した。
【0042】
・ボイル油(大豆油) 30.0g
・表1記載および市販の防錆顔料 8.9g
・二酸化チタン 15.0g
・沈降性硫酸バリウム 21.0g
・6%ナフテン酸コバルト 1.3g
・皮張り防止剤 0.5g
・ダレ止め剤 1.0g
【0043】
[試験片の作製]
脱脂・研磨した冷間圧延鋼板JIS G3141 SPCC−SB(0.8t×70×150mm)に上記塗料を刷毛を用いて乾燥膜厚が25μmとなるよう塗装し、再度同じ塗装を行った後室温にて2週間乾燥させ、乾燥膜厚が50μmの試験片を得た。
【0044】
[試験片の評価]
(1)複合サイクル試験
試験片の下半分に、カッターナイフを用いて素地に達するクロスカットを入れ、
JIS K 5621記載複合サイクル条件に準じて複合サイクル試験を実施し
た。
【0045】
判定基準は、クロスカット部周辺片側3mmのさびあるいはふくれが発生するま
でのサイクル数とした。
【0046】
(2)塩水噴霧試験
試験片の下半分に、カッターナイフを用いて素地に達するクロスカットを入れ、
35℃に保った塩水噴霧試験機内に静置して、5%食塩水を1時間当たり、
1kg/cmの量を塗膜に噴霧した。
【0047】
判定基準は、クロスカット部周辺片側3mmのさびあるいはふくれが発生するま
での時間とした。
【0048】
(3)貯蔵安定性試験
実施例1〜10および比較例1〜6の塗料を、各々250mlマヨネーズ瓶に入
れて密栓し、50℃に保持した恒温室中に30日間保持し、塗料の貯蔵安定性試
験を行った。
【0049】
試験終了後と試験前の塗料の粘度をB型粘度計によりそれぞれ測定し、また試験
後と試験前の塗料の粒度をつぶゲージによりそれぞれ測定した。評価は、試験前
と試験後の粘度の変化が10%未満で、かつ粒度の変化が無いものを「○」、
10%以上の粘度変化(増粘)又は粘度の増大がみられるものを「×」とした。
【0050】
評価結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2の結果からも明らかなとおり、本発明の実施例においては、良好な塗膜の防錆性および良好な塗料の貯蔵安定性を有していた。
【0053】
一方、無公害防錆顔料としてメタりん酸カルシウムと酸化マグネシウムを用いた比較例1、トリポリりん酸カルシウムとメタケイ酸カルシウムを用いた比較例2、カルシウム変性トリポリりん酸アルミニウムを用いた比較例4の場合、防錆性が不充分であった。
【0054】
また、りん酸亜鉛含有トリポリりん酸アルミを用いた比較例3、酸化亜鉛変性トリポリりん酸アルミニウムを用いた比較例5、りん酸亜鉛を用いた比較例6の場合、塗料の貯蔵安定性が不充分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム成分とりん成分とからなり、かつその両成分中のカルシウムとりんとの原子比率(Ca/P=m)が0.50<m<1.00である単一物又は混合物を、180〜350℃で焼成してなる縮合りん酸カルシウムを含み、重金属を含まない無公害防錆顔料と、油性系又はアルキド樹脂系バインダーとを混合して得られることを特徴とする防錆性及び貯蔵安定性に優れた防錆塗料組成物。
【請求項2】
前記縮合りん酸カルシウムが、下記式(1)、
Caxy(Pn3n+1z (1)
(式中、xは、1〜4の実数であり、yは、0〜2の実数であり、zは、1〜2の実数であり、nは、2〜6の整数であり、かつ、2x+y=(n+2)zである。)
で表される化合物である請求項1に記載の防錆塗料組成物。
【請求項3】
前記無公害防錆顔料が、更に、アルカリ土類金属化合物を含む請求項1〜2のいずれかに記載の防錆塗料組成物。
【請求項4】
前記無公害防錆顔料が、更に、キレート能を有する有機ホスホン酸もしくはカルボン酸、又はそれらの中和塩を含む請求項1〜3のいずれかに記載の防錆塗料組成物。

【公開番号】特開2006−143807(P2006−143807A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−333213(P2004−333213)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】