説明

防錆積層フイルム

【課題】 気化性防錆剤を混練したフイルムを用いて金属製品の防錆を行なう積層フイルムにおいて、防錆効果を長期間維持出来るようにする。
【解決手段】 O−NYフイルムにPVDCをコートしたPVDCコートO−NYフイルムと、気化性防錆剤を混練した防錆フイルムとを有する。防錆フイルムをPVDCコートO−NYのPVDCコート面にドライラミネートで積層している。防錆フイルムが、LDPE樹脂又はLLDPE樹脂に防錆剤を混練し、インフレーション法で製膜されている。ドライラミネートの接着剤がポリエーテル型の主剤とイソシアネートの硬化剤の二液硬化型の接着剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の防錆に関するものであり、更に詳しくは、金属製の機械や部品の保管中や輸送中における発錆を抑えるために使用する包装用の防錆積層フイルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属製の機械や部品の保管中や輸送中において、機械や部品の表面が酸化されて錆が発生するのを防ぐために、防錆包装が行われている。JIS Z−0303(さび止め包装方法通則)にはさび止め包装方法が規定され、防錆管理に幅広く利用されている。この通則には5.5.1さび止め処理材料として、さび止め油やさび止め剤(気化性、水溶性、気化性水溶性)が規定されており、更にはさび止め紙やさび止めフイルム、その他が規定されている。
【0003】
さび止め油は、金属製品をさび止め油に浸漬することにより行なうので、金属製品の細部までさび止め油が入り込み、防錆効果が高いものである。しかしながら、さび止め油から金属製品を取り出した後、24時間程度油切りを施さなければならず、また、保管や輸送後、使用する前にさび止め油を洗浄する必要があり、多大の労力が掛かるとともに、コストが高くなるものであった。さらに、浄剤にフロン系の洗浄剤が用いられるので地球環境保全の問題があり、また、洗浄されたさび止め油の処理の問題があった。
【0004】
そこで、近年、上述した問題点が無く、金属製品の細部まで入り込む利点がある気化性さび止め剤(以下、「気化性防錆剤」と言う)が多く使用されるようになって来た。気化性防錆剤は、常温で気化(昇華)して金属製品の細部まで入り込んで防錆効果を発揮するものであり、このような気化性防錆剤としては、鉄鋼用として亜硝酸塩を主体としたもの(特許文献1等参照)やアミン類を主体としたもの(特許文献2等参照)があり、銅用としてトリアゾール環等の複素環式化合物があり、これらの気化性防錆剤は各社から販売されている。
【0005】
このような気化性防錆剤の使用方法としては、気化性防錆剤を包装体内に直接散布したり、ガス透過性のある袋に詰めて包装体内に収納したり、気化性防錆剤を紙に塗布又は含浸させて防錆紙を製作し、この防錆紙で金属製品をラッピングしたり、気化性防錆剤を含有させた防錆フイルムを板紙に貼着させて防錆板紙を製作し、この防錆板紙で梱包箱を作り金属製品を梱包・密封したり(特許文献3等参照)、気化性防錆剤と低融点樹脂(エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂)との2成分からなる均一混合組成物を高融点樹脂の基材フイルム上に積層したフイルムで袋を製作し、この防錆袋に金属製品を収納する方法が提案されている(特許文献4等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2005/068559
【特許文献2】特開2006−169627公報
【特許文献3】特開平6−48460公報
【特許文献4】特開昭49−1644公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、気化性防錆剤を包装体内に直接散布したり、ガス透過性のある袋に詰めて包装体内に収納したり、気化性防錆剤を塗布又は含浸させた防錆紙でラッピングしたりする方法は、気化性防錆剤の気化したガスが包装体外に逃げ易く、気化性防錆剤が全て気化すると効果がなくなるので、防錆効果の持続性が短いものであった。また、防錆板紙からなる梱包箱を用いる方法は、板紙はポーラスであるので、気化した防錆剤が梱包箱から逃げ易く効果の持続性が短いものであった。
【0008】
さらに、気化性防錆剤と低融点樹脂との均一混合組成物を、高融点樹脂の基材フイルムに積層したフイルムからなる防錆袋で金属製品を収納する方法においては、基材フイルムとしてポリエチレンフイルム、ポリプロピレンフイルム、ポリエステルフイルム、ナイロンフイルム等を単独で用いていたので、気化した防錆剤を透過し易く、防錆効果の持続性が短いものであった。
【0009】
特に、近年、金属製品に要求される防錆期間は、常温で数年間、海外へ輸送する際の赤道直下での船倉の条件(50℃内外、高湿度)下で1ヶ月の防錆期間が望まれており、このような要求を満足することが出来なかった。
【0010】
本願発明は、以上の問題点を解決し、防錆効果を長期間維持出来るようにした防錆積層フイルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究した結果、ピンホール発生がない二軸延伸ナイロンフイルム(以下、「O−NYフイルム」と言う)に、ガスバリヤー性の優れたポリ塩化ビニリデン(以下、「PVDC」と言う)をコートしたPVDCコートO−NYフイルムと、気化性防錆剤を混練したLDPE樹脂又はLLDPE樹脂の防錆フイルムを貼り合せ、防錆フイルムを内側にして金属製品を収納すれば、防錆フイルムから気化した気化性防錆剤の気体がPVDCコート層により遮断され、外部に逃げることなく袋内に滞留して防錆効果を長期間に亘って発揮できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
請求項1に係る防錆積層フイルムは、O−NYフイルムにPVDCをコートしたPVDCコートO−NYフイルムと、気化性防錆剤を混練した防錆フイルムとを有し、該防錆フイルムをPVDCコートO−NYのPVDCコート面にドライラミネートで積層したことを特徴として構成されている。
【0013】
請求項2に係る防錆積層フイルムは、防錆フイルムが、LDPE樹脂又はLLDPE樹脂に防錆剤を混練し、インフレーション法で製膜されたことを特徴として構成されている。
【0014】
請求項3に係る防錆積層フイルムは、ドライラミネートの接着剤がポリエーテル系の主剤とイソシアネートの硬化剤とからなる二液硬化型の接着剤であることを特徴として構成されている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る防錆積層フイルムにおいて、O−NYフイルムは揉みに強くピンホールが発生し難いものであり、PVDCコート層はバスバリヤー性に優れているとともに、揉みに強くピンホールが発生し難いものであり、さらに、O−NYフイルムとPVDCコート層とは接着強度が大きいので、PVDCコート層がO−NYフイルムから剥がれることが無い。防錆フイルムは混練された気化性防錆剤が気化して防錆フイルムの外部へ拡散していくものである。
【0016】
したがって、防錆フイルムを内面に配置して袋を作製して密封包装した際、袋内部において気化した防錆剤を長期間に亘って保持することが出来る。すなわち、防錆フイルムに混練された気化性防錆剤は、時間の経過と共に気化し、防錆フイルムを透過して行くので、防錆フイルムの内面側(袋の内面側)においては、気化性防錆剤は袋内部に拡散して満たして行くが、防錆フイルムの外面側(袋の外面側)においては、PVDCコート層が積層されているので、気化した気化性防錆剤はPVDCコート層により遮断される。したがって、気化した気化性防錆剤は、袋の内部にのみ蓄積されることとなり、防錆フイルムに混練した気化性防錆剤の固体と、袋内部の気化性防錆剤の気体との間が平衡状態になると、気化性防錆剤の固体は気化しないこととなる。その結果、この平衡状態が破れない限り、混練した気化性防錆剤の気化が抑制され、長期に亘って防錆効果を発揮することが出来る。
【0017】
また、物流過程において袋が揉まれたり、包装工程(真空包装等)において折り曲げられたりしても、O−NYフイルム及びPVDCコート層にピンホールが発生することが無く、また、PVDCコート層がO−NYフイルムから剥離することも無い。したがって、外圧等により過酷な状態に晒されても、袋内に満たされた気化性防錆剤を安定して保持することが出来る。
【0018】
さらに、防錆フイルムとPVDCコートO−NYフイルムとはドライラミネートで積層されているので、最も一般的に行われているフイルムの積層方法であり、簡単にコストも安く積層することが出来る。
【0019】
請求項2に係る防錆積層フイルムにおいては、防錆フイルムは、LDPE樹脂又はLLDPE樹脂を用い、インフレーション法で製膜されているので、低温で製膜することが出来る。したがって、製膜時に、混練された気化性防錆剤の気化が小さく、大部分の気化性防錆剤を防錆フイルム中に残存させることが出来る。
【0020】
請求項3に係る防錆積層フイルムにおいては、ドライラミネートの接着剤として、ポリエーテル系の主剤とイソシアネートの硬化剤とからなる二液硬化型の接着剤を用いているので、接着剤から錆を発生させる物質が発生することが無い。したがって、防錆剤の防錆硬化を十分に発揮させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ガスバリヤー性の変化を示す図
【図2】EVOHフイルムの酸素透過量の湿度依存性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の防錆積層フイルムは、O−NYフイルムにPVDCをコートしたPVDCコートO−NYフイルムと、気化性防錆剤を混練した防錆フイルムとを積層したものであり、気化性防錆剤により金属製品の防錆を行なうものである。
【0023】
金属は、金を除いて殆どの金属が何らかの化合物として存在している。例えば、鉄は磁鉄鉱、褐鉄鉱等の鉄鉱石として産出され、溶鉱炉等により精錬され鉄として得ている。この鉄の状態は準安定な状態であり、元の酸化された安定な状態に向かい進んでいく。空気中における酸化は化1に示すような反応式で進むと考えられている。
【0024】
【化1】

【0025】
この反応式から明らかなように、空気中に於いて鉄を酸化から守るには水及び酸素を排除すれば良いこととなる。したがって、金属製品をさび止め油に浸漬する防錆方法は、さび止め油の皮膜によって金属の表面を覆い、空気中の水分や酸素を遮断して酸化を防ぐ防錆方法である。
【0026】
一方、防錆剤として気化性の防錆剤があり、鉄用としては、アミン類の亜硝酸塩類、アミン類のカルボン酸塩類、アミン類のクロム酸塩類、カルボン酸のエステル類、これらの混合物等がある。銅及び銅合金用としては、複素環状化合物であるトリアゾール環、ピロール環、ピラゾール環、チアゾール環、イミダゾール環やチオ尿素類、メルカプト基を有するもの等がある。これらの気化性防錆剤の防錆メカニズムは、鉄用のアミン類の亜硝酸塩類の場合、例えば気化したジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトが鉄表面上に吸着された水分に溶解し、鉄と反応して安定的な皮膜を作ることにより防錆するものである(化2参照)。
【0027】
【化2】

【0028】
また、アミンのカルボン酸塩類の場合、金属表面に吸着した水分に気化したガスが溶解し、水の中でアミンとカルボン酸に解離し、更に金属表面で再結合し、安定的なアミンのカルボン酸塩の皮膜を作って防錆すると考えられている(化3参照)。
【0029】
【化3】

【0030】
さらに、銅用のベンゾトリアゾールの場合、金属表面に吸着した水分に気化したガスが溶解し、銅と反応して安定的なベンゾトリアゾール銅塩の皮膜を作って防錆すると考えられている(化4参照)。
【0031】
【化4】

【0032】
防錆フイルムに混練する気化性防錆剤は、防錆する金属製品が鉄製品であれば鉄用の気化防錆剤を主体に、銅又は銅合金製品であれば銅用の気化防錆剤を主体にし、必要によりこれらを混合して練り込むことが出来る。
【0033】
気化性防錆剤の混練量は、気化性防錆剤の持つ特質(気化速度、防錆効果)、要求される防錆期間、製膜方法、包装形態等により適宜最適に設定する。例えば、気化速度が速い場合は、防錆フイルムの製膜時に気化消失する量が多くなるので多く混練する必要があり、防錆効果が小さい場合は、所定の防錆効果を得るために多く混練する必要があり、また、製膜時の温度が高い製膜方法の場合は、損失を補填するために多く混練する必要がある。以上のように、各種条件を検討して適宜適切な混練量とする。
【0034】
気化性防錆剤の混練量は、上記条件を勘案すると、金属製品を20℃−60%RHで3年間保管する場合、0.5〜5重量%が好ましく、1.0〜3.0重量%がより好ましい。混練量が0.5重量%未満であれば、気化速度の速い場合は製膜時の気化消失で不足となり、防錆効果の小さい場合は充分な防錆効果を期待することが出来ない。また、5重量%を超えると、充分な防錆効果は得られるがコストが高くなる。
【0035】
以上のような気化性防錆剤は、常温で固体から液体を経ずに直接気化(昇華)するものであり、温度が高くなればその気化速度も速くなる。したがって樹脂に混練して防錆フイルムを製膜する場合、出来るだけ低温で製膜する必要がある。したがって、製膜にはTダイ法とインフレーション法とがあるが、インフレーション法が低温で製膜できるので好ましい。
【0036】
また、低温で製膜できるので融点の低い樹脂が好ましく、例えば、LDPE樹脂、LLDPE樹脂が好ましい。LDPE樹脂やLLDPE樹脂のインフレーション法による製膜においては、樹脂温度150〜200℃の低温で製膜することができる。さらに、これらの樹脂は溶融張力が大きい方が好ましく、例えば、MFRは、0.1〜5g/minの範囲が好ましく、0.5〜3g/minの範囲がより好ましい。MFRは、0.1g/min未満であると、押出機のスクリーンに負荷がかかって押出しが難しくなり、また、5g/minを超えると、溶融張力が小さく吹き上げたバブルが不安定となって均一な厚みが得られなくなる。
【0037】
防錆フイルムの厚みは、20〜150μmが好ましく、30〜120μmがより好ましい。20μm未満であるとインフレーション法で製膜することが難しくなり、150μmを超えるとコストが高くなる。
【0038】
PVDCコートO−NYフイルムは、揉みに極めて強いものであり、物流課程や真空包装工程におけるフイルムの折り曲げや揉まれでピンホールが発生することが無い。PVDCコートO−NYフイルムとSiOxの蒸着フイルムとの揉みに対する耐性に関し比較した試験について説明する。各フイルムのゲルボフレックステストの前後における酸素ガスバリヤー性及び水蒸気バリヤー性の変化により評価した。試験したフイルムは、以下の通りである。
【0039】
O−NY/PVDC(コート)/ドライ/LLDPE(50μm)
O−NY/SiOx(蒸着)/ドライ/LLDPE(50μm)
PET/SiOx(蒸着)/ドライ/LLDPE(50μm)
結果を図1に示す。図1の結果より、O−NY/PVDC(コート)/ドライ/LLDPE(50μm)は、100回のゲルボテスト後も酸素ガスバリヤー性及び水蒸気バリヤー性とも殆んど低下しないのが分かる。これに対し、PET/SiOx(蒸着)/ドライ/LLDPE(50μm)及びO−NY/SiOx(蒸着)/ドライ/LLDPE(50μm)は、100回のゲルボフレックステスト後、酸素ガスバリヤー性及び水蒸気バリヤー性とも大幅に低下していることが分かる。これは、揉みにより蒸着SiOx層にクラックが入り、酸素ガスや、水蒸気が通り易くなったためである。したがって、蒸着SiOx層を有する積層フイルムは、防錆積層フイルムには使用できないことが分かる。
【0040】
酸素ガスバリヤー性に関しては、酸素透過度測定器(MOCON社製「OX−TRAN(登録商標)MODEL2/21」)を用い、温度20℃、湿度70%RHの条件で測定し、水蒸気バリヤー性に関しては、水蒸気透過度測定器(MOCON社製「OX−TRAN(登録商標)MODEL3/33」)を用い、温度40℃、湿度90%RHの条件で測定した。
【0041】
また、優れた酸素ガスバリヤー性を有するフイルムとしてEVOHフイルムが知られているが、その酸素ガスバリヤー性は湿度依存性があり、湿度60%を超えると図2に示すように急激にその性能が低下し、高湿度下ではガスバリヤー性の機能を失っている。また、水蒸気バリヤー性はプラスチックフイルムの中で最も悪く、水蒸気の遮断性能はない。したがって、EVOHフイルムは、本発明の防錆積層フイルムには使用できないものである。これに対し、PVDCコート層は、ガスバリヤー性に湿度依存性はなく、高湿度下に於いても酸素ガスバリヤー性、水蒸気バリヤー性とも低下することなく安定的なガスバリヤー性を保つものである。
【0042】
本発明の防錆積層フイルムは、上述した防錆フイルムをPVDCコートO−NYフイルムのPVDCコート面にドライラミネートにより積層したものである。ドライラミネートに使われる接着剤としては、ポリエーテル系の主剤とイソシアネートの硬化剤とからなる2液硬化型接着剤、ポリエステル系の主剤とイシシアネートの硬化剤とからなる2液硬化型接着剤がある。
【0043】
代表的なポリエーテルとしては、エチレンオキシドやプロピレンオキシドの開環重合で作られるポエチレングリコールやポリプロピレングリコールがある。また、代表的なポリエステルとしては、多価アルコールのエチレングリコールや1.6ヘキサンジオールと、多価カルボン酸であるテレフタル酸やイソフタル酸やアジピン酸とから脱水縮合反応して作られるものがあり、特に代表的なのはエチレングリコールとテレフタル酸から作られるポリエチレンテレフタレートである。これら2種類の主剤の硬化剤としては、いずれもイソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)がある。
【0044】
このうちポリエステル系の主剤とイソシアネートの硬化剤からなる2液硬化型接着剤は、防錆効果を損ない、錆の発生を引き起こすものであった。すなわち、多価アルコールと多価カルボン酸から脱水縮合反応して作られるポリエステルの製造工程において脱水縮合反応の未反応物の多価カルボン酸が残留し、この残留した多価カルボン酸が接着剤層から防錆フイルムを透過して袋内面に移行するからだと考えられる。したがって、ポリエステル系の主剤とイソシアネートの硬化剤からなる2液硬化型接着剤は、本発明の防錆積層フイルムには使用できないものであった(表4参照)。
【0045】
これに対し、ポリエーテル系主剤とイソシアネートの硬化剤とからなる2液硬化型接着剤は、上述したような弊害はないものであり、本発明の防錆積層フイルムに好適なものであった。
【0046】
本発明の防錆積層フイルムは、防錆フイルム面を内面側に、PVDCコートO−NYフイルムを外側に配置して袋状に形成し、この袋に金属製品を収納密封することにより使用する。このように使用することにより、防錆フイルムから気化した気化性防錆剤の気体は、袋内部に満たされるので、金属製品に防錆効果を発揮することが出来る。また、袋状の他、防錆効果を求められている分野に広く用いることが出来る。
【0047】
[実施例1]
〔気化性防錆剤マスターバッチの作製〕
セバシン酸(豊国製油(株)製「HOKOKU−SA」)1モルに対して2モルのKOHを、水存在下で混合反応させた後、スプレードライ方式で水分を蒸発・乾燥させて水分量0.5%以下にしたセバシン酸カリウムの結晶を得た。このセバシン酸カリウムと、ベンゾトリアゾール(キレスト(株)製「C.V.I.TT」)とを80重量部:20重量部の割合で混合し後、粉砕機で100μm以下に粉砕して気化性防錆剤の混合組成物を得た。この混合組成物と、LLDPE樹脂((株)プライムポリマー製「SP2020」)とを30重量部:70重量部の割合でペレタイザー付の押出機に投入し、押出温度150℃で押出し、ペレタイズして気化性防錆剤を30重量%含有した気化性防錆剤マスターバッチ(以下、「気化性防錆剤MB」と言う)を作製した。
【0048】
〔防錆フイルムの作製〕
前記気化性防錆剤MBと、LLDPE樹脂((株)プライムポリマー製「SP2020」(MFR:2.3g/10min、密度:0.915g/cm))とを5重量部:95重量部の割合でドライブレンドして混合した。この混合した樹脂を空冷式のインフレーション成膜機に投入し、下記の条件でインフレーション成膜を行なった。得られたインフレーションフイルム(防錆フイルム)は、気化性防錆剤の含有率が1.5重量%、厚さ70μmであった。
【0049】
シリンダー径: 65mmΦ、L/D;25
丸ダイス径: 200mmΦ
リップキャップ: 0.8mm
押出温度: 160℃
ブロー比: 2.5
冷却エアー: 15℃、流量;20m/min
製膜速度: 10m/min
【0050】
〔防錆積層フイルムの作製〕
PVDCコートO−NYフイルム(ユニチカ(株)製「エンブレムDCWU」(厚み:15μm))を用意し、このPVDCコートO−NYフイルムのPVDCコート面に50W・分/mのコロナ処理を行った。次いで、ドライラミネート機(中島精機エンヂニアリング(株)製「LX−3」)にヘリオ彫刻によるスクリーン線数95線のグラビアロールをセットし、ポリエーテル系接着剤(ロックペイント(株)製接着剤(主剤:RU−3600、硬化剤:H−689、溶剤:酢酸エチルエステル))を、加工速度100m/minでPVDCコート面に塗布し、熱風温度60℃、80℃、75℃の3ゾーンで乾燥させた。
【0051】
次に、前記防錆フイルムを50W・分/mでコロナ処理を行い、このコロナ処理面を、PVDCコートO−NYフイルムの接着剤塗布面と合わせ、ニップ圧18kg−cmの線圧で貼合・積層し、その後50℃のエージング室で3日間エージングを行って防錆積層フイルムを作製した。
【0052】
〔ラミネート強度試験〕
防錆積層フイルムを15mm幅に切断した後、接着部分を手で剥離し、剥離した部分の双方(PVDCコートO−NYフイルムと防錆フイルム)を定速引張試験機のチャックに固定する。そして、初期チャック間を50mmとし、300mm/min.の引張速度で未剥離部分を水平に保ちながらT型剥離を行い、PVDCコートO−NYフイルムのPVDCコート層と防錆フイルム層との間のラミネート強度を測定した。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
ラミネート強度は包装材料としては充分な強度であった。
【0055】
〔ガスバリヤー性試験〕
防錆フイルムのガスバリヤー性を、酸素ガスバリヤー性に関しては、酸素透過度測定器(MOCON社製「OX−TRAN(登録商標)MODEL2/21」)を用い、温度30℃、湿度80%RHの条件で測定し、水蒸気バリヤー性に関しては、水蒸気透過度測定器(MOCON社製「OX−TRAN(登録商標)MODEL3/33」)を用い、温度40℃、湿度90%RHの条件で測定した。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
酸素ガスバリヤー性、水蒸気バリヤー性とも包装材料として充分な性能であり、特に水蒸気バリヤー性は、輸出における赤道直下での船倉の中の高温、高湿度下においても、水蒸気が透過して侵入することはないと考えられる。
【0058】
[比較例1]
実施例1の防錆積層フイルムに用いた防錆フイルムのみからなるものである。
【0059】
[比較例2]
気化性防錆剤を混練していない他は、実施例1の防錆フイルムと同一条件で作製したLLDPEフイルムのみからなるものである。
【0060】
〔防錆試験〕
SPCC(冷間圧延鋼板:60×80×1.2mm)、C1100P(タフピッチ銅板:40×60×1.2mm)及び亜鉛板(旧2種:40×60×1.2mm)を#240研磨紙で研磨した後、脱脂処理を行って試験片を用意した。また、実施例1、比較例1及び比較例2のフイルムを矩形にカットし、実施例1においては防錆フイルム面が内面になるようにして三方をヒートシールし、内寸90×110mm及び内寸70×90mmの2種類の大きさの袋をそれぞれ用意した。
【0061】
前記SPCCの試験片は、内寸90×110mmの袋に収納し、前記C1100P及び亜鉛板の試験片は、内寸70×90mmの袋に収納し、含気包装(試験片が袋の内面に接触しないように空気を残す)と真空包装(試験片が袋の内面に接触するように空気を吸引する)との2種類の包装を行った。
【0062】
これら包装を行った試験片の防錆試験を、環境試験機(KATO社製 「シルバリーエンペラー」)を用いて行った。環境試験機の温湿度条件は(5℃・95%RH−6時間→50℃・95%RH−16時間)を1サイクルとして、このサイクルを繰返しながら試験片表面を目視観察し、錆、腐食、変色状態を評価した。結果を表3に示す。
【0063】
評価は下記の通りである。
◎:腐食、錆、変色なし
○:極僅かな腐食(点錆1〜3個、変色面積10%未満)
△:軽度の腐食(点錆4〜9個、変色面積10〜30%未満)
×:明確な腐食(点錆10個以上、変色面積30〜50%未満)
××:激しい腐食(変色面積50%以上)
【0064】
【表3】

【0065】
表3の結果から判るように、実施例1は、防錆フイルムのみの比較例1に比べ、防錆効果がはるかに長く持続し、20℃−60%RH下で3年以上の保管が可能である。
【0066】
これは防錆フイルムのみでは、袋内に気化した防錆剤がLLDPE層を透過して外部へ逃げて行くので、LLDPE層に混練された気化性防錆剤が早く消失するのに対し、本発明品では、袋内に気化した防錆剤がPVDCコート層により遮断され、袋内に気化した防錆剤とLLDPE層に練り込まれた固体の防錆剤との間に平衡を保ち、混練された防錆剤(固体)の気化が抑制されるためである。
【0067】
[比較例3]
PVDCコートO−NYフイルムと防錆フイルムとをドライラミネートで貼合する際に使用する接着剤として、ポリエステル系接着剤(ロックペイント(株)製接着剤(主剤:RU−80、硬化剤:H−5、溶剤:酢酸エチルエステル))を用いた他は、実施例1と全く同じ材料を用い、全く同様の工程で積層フイルムを作製した。
【0068】
[比較例4]
気化性防錆剤を混練していない他は、実施例1の防錆フイルムと同一条件で作製したLLDPEフイルムのみからなるものである。
【0069】
〔防錆試験〕
実施例1の場合と同様に、SPCCとC1100Pの試験片を用意するとともに、2種類の大きさの袋用意し、含気包装及び真空包装を行い、環境試験機(KATO社製 「シルバリーエンペラー」)により同一の条件で試験し、試験片の表面の錆、腐食、変色状態を評価した。評価基準は同一である。防錆試験の結果を表4に示す。
【0070】
【表4】

【0071】
SPCCの項の結果より、比較例3は防錆フイルムを積層しているにもかかわらず、比較例4よりも錆の発生が早く、しかも含気包装と真空包装を比べると、フイルムが試験片に接触する真空包装の方が錆の発生が早いことが確認された。この結果より、比較例3は錆の発生を促す要因があると考えられる。実施例1のポリエーテル系接着剤ではこのような現象が起こらないので、ポリエステル系接着剤に由来すると考えられる。すなわちポリエステル系接着剤の主剤の作製工程において、多価アルコールと多価カルボン酸との脱水縮合反応の未反応物である多価カルボン酸が残留し、ドライラミネートで貼合した接着剤層から多価カルボン酸が防錆フイルムを透過して袋内に移行し、試験片の表面に付着して錆の発生を促すものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
O−NYフイルムにPVDCをコートしたPVDCコートO−NYフイルムと、気化性防錆剤を混練した防錆フイルムとを有し、該防錆フイルムをPVDCコートO−NYのPVDCコート面にドライラミネートで積層したことを特徴とする防錆積層フイルム。
【請求項2】
前記防錆フイルムが、LDPE樹脂又はLLDPE樹脂に防錆剤を混練し、インフレーション法で製膜されたことを特徴とする請求項1記載の防錆積層フイルム。
【請求項3】
前記ドライラミネートの接着剤がポリエーテル型の主剤とイソシアネートの硬化剤との二液硬化型の接着剤であることを特徴とする請求項1又は2記載の防錆積層フイルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−59864(P2013−59864A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197955(P2011−197955)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(594146180)中本パックス株式会社 (40)
【出願人】(506044812)新生紙パルプ商事株式会社 (2)
【出願人】(596148629)中部キレスト株式会社 (31)
【Fターム(参考)】