説明

防錆顔料及びこれを含有する防錆塗料組成物

【課題】金属材料に優れた防錆性を付与することができる無公害型防錆顔料及びこれを含有する防錆塗料組成物の提供。
【解決手段】Pと、CaOと、SiOと、MgOとを含有する非晶質無機組成物からなることを特徴とする防錆顔料。P10〜30質量%、CaO20〜40質量%、SiO10〜30質量%、MgO10〜20質量%を含有する非晶質無機組成物からなることを特徴とする防錆顔料。該防錆顔料を含むことを特徴とする防錆塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料に優れた防錆性を付与する無公害型の防錆顔料及びこれを含有する防錆塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、防錆顔料としては、クロム酸塩(クロム酸ストロンチウム、塩基性クロム酸亜鉛、塩基性クロム酸亜鉛カリなど)や鉛化合物(鉛丹、亜酸化鉛、シアナミド鉛、鉛酸カルシウムなど)が使用されていた。これらの防錆顔料は金属に対して優れたさび止め性能を発揮するものの、毒性が危惧されている。そのため環境汚染物質としてクロムや鉛が規制されてきており、これらの材料に代わる新規防錆顔料の提供が期待されている。
【0003】
現在市販されている非鉛、非クロム系の防錆顔料としては、例えば金属のリン酸塩、亜リン酸塩、リン珪酸塩、ホウ珪酸塩、ホウ酸塩、メタホウ酸塩、モリブデン酸塩、ポリリン酸塩などであり、これらの金属カチオンとしては例えばカルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、マグネシウムなどが用いられている。また、イオン交換を受けさせたシリカ、例えばカルシウム交換を受けさせたシリカなども市販されている。更に下記特許文献1には、キレート能を有するホスホン酸を含む防錆顔料が開示され、また下記特許文献2には、オルガノ置換ホスホン酸、またはホスホノカルボン酸の多価金属塩を含有する防錆顔料が開示されている。
【特許文献1】特表平11−512126号公報
【特許文献2】特開平7−207182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの防錆顔料の中では、現在、トリポリリン酸アルミニウムやリン酸亜鉛を主成分とする防錆顔料が最も幅広く用いられている。しかしながら、トリポリリン酸アルミニウムやリン酸亜鉛などの防錆顔料は、必ずしもクロム系や鉛系の防錆顔料と比較して性能面で同じレベルには到達しておらず、更なる防錆性能の改良が求められている。
【0005】
従って、本発明の目的は、金属材料に優れた防錆性を付与することができる無公害型防錆顔料及びこれを含有する防錆塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記実情に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、Pと、CaOと、SiOと、MgOとを含有する非晶質無機組成物からなる防錆顔料は、顔料中の防錆性効果の成分がごく僅かながら水に溶出し、該防錆顔料を含む塗料組成物を金属材料表面に塗布した際に、従来のクロム系や鉛系の防錆顔料を含む塗料組成物に匹敵する優れた防錆性を付与することができることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0007】
即ち、本発明が提供しようとする第1の発明は、Pと、CaOと、SiOと、MgOとを含有する非晶質無機組成物からなることを特徴とする防錆顔料である。
【0008】
また、本発明が提供しようとする第2の発明は、前記第1の発明の防錆顔料を含むことを特徴とする防錆塗料組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属材料に優れた防錆性を付与することができる無公害型防錆顔料及びこれを含有する防錆塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明の防錆顔料は、Pと、CaOと、SiOと、MgOとを含有し、その好ましい組成は、
(1)リン酸成分としてP10〜30質量%、好ましくは15〜25質量%、
(2)カルシウム成分としてCaO20〜40質量%、好ましくは25〜35質量%、
(3)珪酸成分としてSiO10〜30質量%、好ましくは15〜25質量%、
(4)マグネシウム成分としてMgO10〜20質量%、12〜17質量%、
であり、X線回折分析において非晶質を示す非晶質無機組成物からなることを特徴としている。
【0011】
前記非晶質無機組成物からなる本発明の防錆顔料は、各成分がごく僅かに溶出する反面、安定した顔料特性を示し、該防錆顔料を含む塗料組成物を金属材料表面に塗布した際に、従来のクロム系や鉛系の防錆顔料を含む塗料組成物に匹敵する優れた防錆性を付与することができる。
【0012】
なお、本発明の防錆顔料において、前記各成分の割合が前記組成の範囲を外れると、無機組成物の結晶化が生じやすく、顔料からの成分の溶出性がなくなりやすくなるため、防錆顔料として機能しなくなる傾向があり、本発明の前記効果を得ることが難しくなる。
【0013】
本発明の防錆顔料は、前記成分(1)〜(4)に加え、必要によりBを5質量%以下、MnOを5質量%以下の範囲で含有させることができ、更にFe,Al,NaO等の成分を5質量%以下の範囲で含有させることができる。
【0014】
また、本発明の防錆顔料に用いる非晶質無機組成物は、JIS K5101−16−1に準拠して測定した水溶分が0.1〜1質量%の範囲であるであることが好ましく、0.1〜0.6質量%の範囲であるであることがより好ましい。水溶分が前記範囲未満であると、水に溶出した成分による金属材料表面の防錆効果が不十分となり、水溶分が前記範囲を超えると、成分の溶出が速すぎて、防錆効果が長続きしなくなる。また、溶出するリン酸分がPとして0.001〜1質量%、好ましくは0.002〜0.5質量%であると更に防錆性能を向上させることができる点で特に好ましい。
【0015】
また、本発明の防錆顔料に用いる非晶質無機組成物は、レーザー回折散乱法による測定で求められる体積平均粒径が0.5〜15μmの範囲であることが好ましく、1〜5μmの範囲であることがより好ましい。非晶質無機組成物の体積平均粒径が0.5〜15μmの範囲であれば、この顔料を用いて防錆塗料組成物を調製した際に、金属材料の表面に塗布した塗膜の外観、強度及び耐久性が良好となる。
【0016】
また、本発明の防錆顔料に用いる非晶質無機組成物は、JIS K5101−14−1に準拠して測定したふるい残分が1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。なお、本発明においてJIS K5101−14−1に準拠して測定したふるい残分とは、45μmの目開きの網を用いて測定されたふるい残分であり、粒径45μm以上の粒子の含有量に相当する値である。このふるい残分が1.0質量%を超えると、この顔料を用いて防錆塗料組成物を調製した際に、金属材料の表面に塗布した塗膜の外観、強度及び耐久性が悪化する。
【0017】
また、本発明の防錆顔料に用いる非晶質無機組成物は、マグネシウム源、カルシウム源、リン酸源及び珪酸源を含む混合物を加熱溶融し、次いで急冷することにより生成されたものであることが、結晶化(主としてアパタイトの生成)を防止して、水と接触した際にリン酸などの成分溶出を前記範囲にすることができる点で好ましい。
【0018】
前記マグネシウム源、カルシウム源、リン酸源及び珪酸源を含む混合物は、これらの成分を含む各化合物同士の混合物であってもよく、また、これらの成分を2成分以上含有する化合物や鉱物等を使用してもよい。
【0019】
本発明において、特に好ましい非晶質無機組成物は、モル組成がxMgO・yCaO・P・zSiO(ただし、xは2.9〜3.1の範囲であり、yは3.9〜4.1の範囲であり、zは2.9〜3.1の範囲である)の非晶質無機組成物であり、殊に3MgO・4CaO・P・3SiOで表される所謂、熔成燐肥である。
【0020】
本発明の防錆顔料に用いられる非晶質無機組成物は、熔成燐肥の典型的な製造方法を用いて製造することができ、例えば特開昭57−92588号公報、特開昭57−149885号公報、特開昭57−200279号公報、特開昭58−69794号公報、特開昭58−89939号公報、特開昭58−145681号公報、特開昭60−65785号公報、特開昭62−270484号公報、特開平8−295584号公報などに記載されている方法等を用いて製造することができる。
【0021】
即ち、この非晶質無機組成物は、各成分を含有する原料を混合、溶融した後、急冷し、必要により粉砕及び分級することにより製造することができる。前記各成分を含有する原料としては、例えば、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、シリカ(天然品、合成品)、珪酸カルシウムなどの工業原料や、天然原料(珪石、珪砂、燐鉱石、蛇紋岩、カンラン岩など)を使用して製造することができる。
【0022】
その一例を示せば、
(A)含燐成分となる燐鉱石に蛇紋岩またはカンラン岩や珪石、およびその両成分を含むニッケルスラグ等を配合して主原料とし、必要に応じてマンガンあるいはホウ素のような添加成分を微量混合したのち、電炉や平炉等の溶融炉で1200℃以上、好ましくは1400〜1500℃で加熱溶融させ、ついで溶融物を水砕、乾燥し、更に必要に応じて粉砕、分級した微粉末品を得る方法、
(B)所定量の酸化マグネシウム、生石灰、リン酸及び珪酸からなる混合物、これに必要に応じてマンガンあるいはホウ素のような添加成分を微量混合したのち、電炉や平炉等の溶融炉で1200℃以上、好ましくは1400〜1500℃で加熱溶融させ、ついで溶融物を水砕、乾燥し、更に必要に応じて粉砕、分級した微粉末品を得る方法、
(C)所定量の珪酸マグネシウム、リン酸カルシウム、生石灰からなる混合物、これに必要に応じてマンガンあるいはホウ素のような添加成分を微量混合したのち、電炉や平炉等の溶融炉で、1200℃以上、好ましくは1400〜1500℃で加熱溶融させ、ついで溶融物を水砕、乾燥し、更に必要に応じて粉砕、分級した微粉末品を得る方法等が挙げられる。
【0023】
本発明に係る防錆顔料は、前記非晶質無機組成物の他、Ca、Mg、Zn、Siからなる群から選択された金属元素の1種又は2種以上含有する金属化合物と併用することで防錆性能を向上させることができる。
【0024】
使用できる前記金属化合物としては、これら金属粉末やこれら金属の酸化物、炭酸塩、水酸化物、燐酸塩、亜燐酸塩を使用することができ、これらは含水物であっても無水物であってもよい。これらの中、金属粉末、金属の酸化物、炭酸塩が相乗効果が高い点で好ましく用いられ、また、特に好ましくは、亜鉛粉末、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、亜リン酸マグネシウム、非晶質珪酸からなる群から選択された1種又は2種以上である。この金属化合物の物性等は特に制限されるものではないが、レーザー回折散乱法による測定で求められる体積平均粒径が0.5〜15μmの範囲であることが好ましく、1〜5μmの範囲であることがより好ましい。この体積平均粒径が0.5〜15μmの範囲であれば、この金属化合物と前記防錆顔料とを用いて防錆塗料組成物を調製した際に、金属材料の表面に塗布した塗膜の外観、強度及び耐久性が良好となる。
【0025】
なお、併用する該金属化合物は、予め該防錆顔料との均一混合物として調製してもよく、後述する塗料組成物にいたっては、別個に塗料組成物に添加して使用することもできる。
【0026】
前記防錆顔料や金属化合物は、所望により酸性リン酸エステル又は/及びキレート能を有するホスホン酸、又はその誘導体から選ばれた有機リン酸化合物で表面処理されているものであってもよい。酸性リン酸エステルとしては、例えば、メチルアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、メチルエチルアシッドホスフェート、正−またはイソ−プロピルアシッドホスフェート、正−またはイソ−ジプロピルアシッドホスフェート、メチルブチルアシッドホスフェート、エチルブチルアシッドホスフェート、プロピルブチルアシッドホスフェート、正−またはイソ−オクチルアシッドホスフェート、正−またはイソ−ジオクチルアシッドホスフェート、正−デシルアシッドホスフェート、正−ジデシルアシッドホスフェート、正−ラウリルアシッドホスフェート、正−ジラウリルアシッドホスフェート、正−またはイソ−セシルアシッドホスフェート、正−またはイソ−ジセシルアシッドホスフェート、正−ステアリルアシッドホスフェート、正−またはイソ−ジステアリルアシッドホスフェート、アリルアシッドホスフェート、ジアリルアシッドホスフェートなどが挙げられ、これら化合物のMg、Ca、Sr、Ba、Zn又はAlから選ばれた1種又は2以上の金属塩、アミン塩等が挙げられる。
【0027】
キレート能を有するホスホン酸の化合物としては、例えば、アミノアルキレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラアルキレンホスホン酸、アルキルメタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸又は、2−ヒドロキシホスホノ酢酸などが代表的な化合物として挙げられる。このうちアミノアルキレンホスホン酸としては、例えば、ニトリロトリスチレンホスホン酸、ニトリロトリプロピレンホスホン酸、ニトリロジエチルメチレンホスホン酸、ニトリロプロピルビスメチレンホスホン酸等が挙げられる。エチレンジアミンテトラアルキレンホスホン酸としては、例えば、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラエチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラプロピレンホスホン酸等が挙げられる。アルキレン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸としては、例えば、メタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、プロパン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸等が挙げられ、これら化合物のMg、Ca、Sr、Ba、Zn又はAlから選ばれた1種又は2種以上の複合塩であってもよいが、これら化合物に限定されるものではない。また、上記の酸性リン酸エステルとキレート能を有するホスホン酸の化合物を1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。リンのオキシ酸塩に対する酸性リン酸エステル又は/およびキレート能を有するホスホン酸の配合量は、用いる化合物の物性や種類等によって一様ではないが、通常0.1〜30質量%、好ましくは、1〜10質量%である。
【0028】
また、前記防錆顔料や金属化合物は、分散性を向上する目的で、高級脂肪酸またはその誘導体、界面活性剤、シランカップリング剤でさらに表面処理したものであってもよい。
また、前記防錆顔料は、必要に応じてハイドロカルマイトやハイドロタルサイト等の塩素イオン捕捉能を有する無機アニオン交換体や亜硝酸アルカリ金属塩、亜硝酸アルカリ土類金属塩等の亜硝酸塩を本発明の効果を損なわない範囲の添加量で含有させることができる。
【0029】
本発明の防錆塗料組成物は、前記防錆顔料と塗料ビヒクルを含有するものである。塗料ビヒクルとは、塗料成分を分散させる媒体をいう。即ち、塗膜形成成分である重合油、天然または合成樹脂、無機系結合剤、繊維素やゴムの誘導体等の高分子物質やそれらを溶剤に溶解させたものである。
【0030】
前記合成樹脂としては、例えばフェノール樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、グアナジン樹脂、ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミン樹脂、アクリル樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ケイ素樹脂、含フッ素樹脂等が挙げられ、これらは必要に応じ、混合系または変性された樹脂であっても差し支えない。
【0031】
また、前記無機系結合剤としては、水溶性珪酸塩、変性水溶液珪酸塩、アルキルシリケート、アルコキシシリケート、カップリング剤、コロイダルシリカ等が挙げられる。
【0032】
前記水溶性珪酸塩としては、一般式MO・xSiO・yHOで表され、Mはナトリウム、リチウム、カリウム等のアルカリ金属、N(COH) 、N(CHOH)、N(COH)、C(NHNHを示し、式中のx及びyは整数を示し、具体的な化合物としては例えば、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム等の珪酸アルカリ金属塩、珪酸トリエタノールアミン、珪酸テトラメタノールアンモニウム、珪酸テトラエタノールアンモニウム等が挙げられる。
【0033】
前記変性水溶性珪酸塩としては、前記水溶性珪酸塩をアルミニウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、亜鉛、ジルコニウム、バナジウムから選ばれる金属の酸化物、水酸化物、弗化物、珪弗化物の1種又は2種以上で変性させたもの、或いは珪弗化ナトリウム、トリ珪弗化亜鉛酸カリウム、フルオロアルミニウム錯塩、フルオロ亜鉛錯塩等で変性させたもの(特開昭53−18636号公報参照。)等が挙げられる。
【0034】
前記アルキルシリケートとしては、一般式;SiR又はSiXRで表され、式中のRはアルキル基を示し、Xはアルコキシ基、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基を示す。前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられ、具体的な化合物として、例えば、テトラメチルシリケート、テトラエチルシリケート、テトラプロピルシリケート、テトラブチルシリケート等が挙げられる。
【0035】
前記アルコキシシランとしては、一般式;Si(OR)又はSiX(OR)、SiR(OR)で表され、式中のRはアルキル基を示し、Xはビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基を示す。前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられ、具体的な化合物として、例えば、テトラメチルキシシリケート、テトラエトキシシリケート、テトラプロポキシシリケート、テトラブトキシシリケート等が挙げられる。
【0036】
前記カップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランや、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のシラン系カップリング剤、イソプロピルトリイソステアロイルチタネートや、テトラオクチルビス(ジドデシル)ホスファイトチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート等のチタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤等が挙げられる。
【0037】
前記コロイダルシリカとしては、粒径が通常2〜100nm程度のもので、固形分20〜40%程度で0.7%以下のNaOを含むもので、特に好ましくはpH8〜10でアルカリにより安定化されたコロイダルシリカを用いることができる。
【0038】
前記塗膜成分は、1種又は2種以上で適宜組み合わせて用いることができる。また、希釈剤としては、水、アルコール類、ケトン類、ベンゼン類、トルエン、キシレンの如き芳香族炭化水素類、液化パラフィンの如き脂肪族炭化水素類など、一般的に塗料の分野等で用いられている溶剤が適用できる。
【0039】
塗料ビヒクルに対する本発明の防錆顔料の配合量は、通常2〜50質量%、好ましくは5〜20質量%である。配合量が2質量%より小さくなると防錆力が低くなり、50質量%より大きくなると、好ましい塗膜特性が得られなくなる。
【0040】
本発明の防錆塗料組成物は上記以外の成分として塗料分野で一般的に用いられる各種の添加剤を含有させて用いることができる。特に、本発明の防錆塗料組成物は、前述したCa、Mg、Zn、Siから選ばれた金属元素の1種又は2種以上含有する金属化合物と併用することで防錆性能を向上させることができる点で好ましい。
【0041】
本発明に係る防錆塗料組成物は、刷毛やローラー塗り、スプレー塗装、静電気塗装、粉体塗装、ロールコーター、カーテンフローコーター、ディッピング塗装や電着塗装等に供することができる。
【0042】
本発明に関わる防錆顔料の防錆機構については複雑であり、解明には至っていないものの、僅かに溶出するリン酸イオンや珪酸イオンが金属材料の鉄や亜鉛と反応して強固な不動態皮膜を形成するとともに、マグネシウムイオン、カルシウムイオンが金属材料を安定化すると推定される。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例中、本発明の防錆顔料の主成分となる非晶質無機組成物は、「非晶質無機粉体試料」と記す。
【0044】
<非晶質無機粉体試料の調製>
珪酸マグネシウム(MgSiO)4517部、リン酸カルシウム(Ca(PO)3102部、生石灰(CaO)841部の割合に調整混合した粉末を1500℃にセットした電気炉で2時間溶融した。次いで、溶融物を水砕、乾燥し、次いで乾式超微粉砕機ダイナミックミル(三井鉱山社製)で2時間粉砕操作した。その結果、日機装社製のマイクロトラック粒度分布測定装置を用いたレーザー回折散乱法で求めた平均粒子径が2.5μmで、JIS K5101−14−1に準拠して測定したふるい残分(目開き45μmのフィルターを使用)が0.2質量%であり、P21.3質量%、CaO33.6質量%、SiO27.0質量%、MgO18.1質量%含有した無機粉体試料(3MgO・4CaO・P・3SiO)を得た。
【0045】
また、得られた無機組成物試料は、非晶質であることをX線回折で確認し、これを非晶質無機粉体試料とした。
【0046】
また、得られた非晶質無機粉体試料の水溶分を、JIS K5101−16−1に準拠して測定した結果、水溶分は0.31質量%であった。さらに、その水溶成分を分析した結果、水溶成分中には主にリン酸イオンがPとして0.005質量%、珪酸イオンがSiOとして0.16質量%、カルシウムイオンがCaOとして0.08質量%、マグネシウムイオンがMgOとして0.012質量%が含まれていることが確認された。
【0047】
{実施例1〜4}
表1に示したように、前記で調製した非晶質無機粉体試料と金属化合物とを、ハイスピードミキサーを用いて2000rpmで5分間操作して防錆顔料を調製した。
【0048】
{比較例1〜4}
表1に示したようにクロム酸ストロンチウム或いは防錆顔料を前記と同様に調製した。
【0049】
【表1】

【0050】
表1中、酸化亜鉛は平均粒径1μm、炭酸カルシウムは平均粒径1μm、クロム酸ストロンチウムは平均粒径1μm、リン酸亜鉛は平均粒径5μmのものを使用した。
【0051】
<防錆性能の評価>
1)試験鋼板は下記の2種類の鋼板を使用した。
・JIS G3141 SPCC−SD鋼板(以下、「鋼板」と記す。)
・JIS G3302 SGCC溶融亜鉛メッキ鋼板(以下、「亜鉛鋼板」と記す。)
2)試験塗料
実施例1〜4、比較例1〜4で得た防錆顔料を含有する防錆塗料組成物、及び防錆顔料を配合していない塗料組成物(比較例5)をペイントコンディショナー法にて調製した。各試験塗料の配合割合は、以下の通り。
【0052】
<アルキド塗料>
アルキド樹脂 21.3部
防錆顔料 5.3部
酸化チタン 13.3部
炭酸カルシウム 24.0部
ミネラルスピリット 8.0部
ドライヤー 0.37部
アルキド樹脂:ベッコゾールP−470−70(大日本インキ化学工業社製)
ドライヤー:ディックネイト(大日本インキ化学工業社製)
【0053】
<エポキシ塗料>
エポキシ樹脂 34.0部
防錆顔料 5.4部
酸化チタン 6.5部
キシレン/メチルエチルケトン 17.0部
硬化剤 41.3部
キシレン/ブタノール 7.7部
エポキシ樹脂:エピコート1001X75(ジャパネポキシレジン社製)
硬化剤:トーマイド410N(富士化成工業社製)
【0054】
3)試験塗装板
0.8mm×70mm×150mmの各鋼板を溶剤脱脂して、乾燥塗膜厚が30ミクロンに設定したバーコーターで各試験塗料を塗布し、室温で1週間放置乾燥する。乾燥後、塗装鋼板の裏面と端面をマスキングテープでシールし、試験塗装面にクロスカットを入れる。
【0055】
4)塩水噴霧試験
塩水噴霧試験機内温度35℃、噴霧圧力1kg/cmの条件にて、5%NaCl水溶液を試験塗装板に240時間噴霧試験する。
【0056】
5)試験結果
塩水噴霧試験結果を、次の5段階評価法にて防錆性能を判定した。結果を表2に記す。
評価5:クロスカット部以外にサビの発生が無く、ブリスターも発生していない。
評価4:クロスカット部から片側2mm以内にサビとブリスターが発生。
評価3:クロスカット部から片側6mm以内にサビとブリスターが発生。
評価2:クロスカット部から片側12mm以内にサビ或いはブリスターが発生。
評価1:クロスカット部から片側12mm以上にサビ或いはブリスターが発生。
【0057】
【表2】

【0058】
表2の結果から、本発明に係る実施例1〜4の防錆顔料を含有した防錆塗料組成物は、各鋼板に塗布した際に、優れた防錆効果を発揮することが実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
と、CaOと、SiOと、MgOとを含有する非晶質無機組成物からなることを特徴とする防錆顔料。
【請求項2】
10〜30質量%、CaO20〜40質量%、SiO10〜30質量%、MgO10〜20質量%を含有する非晶質無機組成物からなることを特徴とする防錆顔料。
【請求項3】
前記非晶質無機組成物を、JIS K5101−16−1に準拠して測定した水溶分が0.1〜1質量%の範囲であり、溶出するリン酸分がPとして0.001重量%以上である請求項1又は2に記載の防錆顔料。
【請求項4】
前記非晶質無機組成物は、マグネシウム源、カルシウム源、リン酸源及び珪酸源を含む混合物を加熱溶融し、次いで急冷して生成されたものである請求項1〜3のいずれかに記載の防錆顔料。
【請求項5】
前記非晶質無機組成物は、モル組成がxMgO・yCaO・P・zSiO(ただし、xは2.9〜3.1の範囲であり、yは3.9〜4.1の範囲であり、zは2.9〜3.1の範囲である)である請求項1〜4のいずれかに記載の防錆顔料。
【請求項6】
体積平均粒径が0.5〜15μmの範囲である請求項1〜4のいずれかに記載の防錆顔料。
【請求項7】
JIS K5101−14−1に準拠して測定したふるい残分が1.0質量%以下である請求項6に記載の防錆顔料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の防錆顔料を含むことを特徴とする防錆塗料組成物。
【請求項9】
防錆顔料とともに、Ca、Mg、Zn、Siからなる群から選択される金属元素の1種又は2種以上を含有する金属化合物を含む請求項8に記載の防錆塗料組成物。
【請求項10】
前記金属化合物が亜鉛粉末、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、亜リン酸マグネシウム、非晶質珪酸からなる群から選択される1種又は2種以上である請求項9に記載の防錆塗料組成物。
【請求項11】
前記金属化合物の配合割合が非晶質無機粉体100質量部に対して5〜100質量部の範囲である請求項9又は10に記載の防錆塗料組成物。

【公開番号】特開2008−144105(P2008−144105A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335635(P2006−335635)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(000221845)東邦顔料工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】