説明

防音方法

【解決手段】 レール(L) の両側面をワイヤブラシで研磨した。次いで、有機高分子材料
からなる制振シート(1) と、制振シート(1) の片面に貼り合わされたアルミニウム製拘束
層(2) とよりなる拘束型制振材(3) を、制振シート(1) 側においてレール(L) の両側研磨
面に貼り合わせた。
【効果】レール表面の錆や埃を研磨により除去することができ、制振材とレール表面の接
着強度を高め、制振材をレールに長期に亘って安定的に貼付しておくことができ、もって
高い防音効果の長期安定保持が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道のレール等の構造物における防音方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から列車の走行に伴ってレールから発生する騒音が環境問題を引き起こしている。
その対策としてレールの側面に粘弾性層と拘束層からなる複層制振材を貼付する制振方法
が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−101201号公報、特許請求の範囲
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、敷設されたレール表面は錆や埃で劣化しており、制振材とレール表面の接着強
度が小さいため、制振効果が発揮されにくい上に、長期の使用では制振材がレールから徐
々に剥がれ、制振効果が低下する。
【0004】
また、レールにシート状の制振材を貼り付ける場合、フラットな制振材をそのままレー
ル側面に押し付けると制振材がその残留応力により徐々にレールから剥がれ、やがては脱
落する恐れがある。特に、拘束型制振材の場合は拘束材は弾性率の大きい材料で構成され
ている場合が多く、制振材がレールから剥がれ易い。
【0005】
本発明の課題は、上記のような問題を解決することができる防音方法を提供することに
ある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、構造物に制振材を貼り付けるに当たり、構造物の表面にプライマーを塗
布してから制振材を貼り付けることを特徴とする防音方法である。
【0007】
プライマーは、構造物および制振材に接着ないしは粘着可能な材料からなる。プライマ
ーとしては、例えば油性塗料、ニトロセルロース塗料、アルキド樹脂塗料、アミノアルキ
ド樹脂塗料、ビニル樹脂塗料、アクリル樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料
、ポリエステル樹脂塗料、塩化ゴム系塗料、シリコン樹脂塗料、フッ素樹脂塗料、無機質
塗料等を挙げることができる。中でもエポキシ樹脂塗料が好ましい。
【0008】
第2の発明は、構造物に制振材を貼り付けるに当たり、構造物の表面を研磨してから制
振材を貼り付けることを特徴とする防音方法である。構造物表面の研磨は、例えば金属ブ
ラシや砥石を用いて行うことができる。
【0009】
第3の発明は、構造物に制振材を貼り付けるに当たり、構造物の形状に沿った状態の制
振材を貼り付けることを特徴とする防音方法である。制振材は、レール(L) の両側面の湾
曲形状に沿った形状に塑性変形する。
【0010】
第1〜3の発明において、制振材は拘束型でも非拘束型でもよいが、有機高分子材料か
らなる制振シートと拘束層とからなる拘束型制振材が好ましい。
【0011】
制振シートを構成する有機高分子材料は、主として塩素含有熱可塑性樹脂と塩素化パラ
フィンからなる。
【0012】
有機高分子材料の好ましい例は、塩素含量が20〜70重量%で、DSC法によって測
定した結晶化度が5J/g以上で、かつ、重量平均分子量が40万以上である塩素含有熱
可塑性樹脂100重量部に対して、塩素含量が30〜75重量%で、かつ、数平均炭素数
が12〜50である塩素化パラフィン200〜1000重量部と、無機質充填剤400〜
1000重量部を配合してなるものである。
【0013】
有機高分子材料の一構成成分である塩素含有熱可塑性樹脂としては、塩素を20〜70
重量%含有する熱可塑性樹脂が好ましい。塩素含有熱可塑性樹脂の塩素含量が20重量%
未満であると、同樹脂の結晶が成長し易くなるため、貯蔵弾性率が高くなって損失正接(
tan δ)の値が小さくなり、制振性能が低下する。塩素含量が70重量%を越えると
、分子間力が強くなりすぎるため、貯蔵弾性率が高くなって損失正接の値が小さくなり、
制振性能が低下する。
【0014】
塩素含有熱可塑性樹脂は、塩素以外の置換基、例えば、シアノ基、水酸基、アセチル基
、メチル基、エチル基、臭素、フッ素等を5重量%以下の範囲で含んでいてもよい。この
ような塩素以外の置換基の割合が5重量%を越えると、制振性能が低下する恐れがある。
【0015】
塩素含有熱可塑性樹脂の具体例としては、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、塩素
化ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0016】
塩素含有熱可塑性樹脂の重量平均分子量は好ましくは40万以上である。この重量平均
分子量が40万未満であると、塩素化パラフィンを200重量部以上配合した場合に制振
シートがその形状、強度を保持することが困難となるためである。
【0017】
塩素含有熱可塑性樹脂のDSC法によって測定した結晶化度は好ましくは5J/g以上
である。この結晶化度が5J/g未満であると、高い使用温度において樹脂組成物が流動
を起こし易くなるためである。また結晶化度の上限は特に限定されないが、結晶化度が高
くなりすぎると貯蔵弾性率が高くなり損失正接の値が小さくなって制振性能が低下する恐
れがあるため、結晶化度は50J/g以下であることが好ましい。
【0018】
有機高分子材料のもう一つの構成成分である塩素化パラフィンとしては、塩素含量30
〜75重量%のものが好ましい。塩素含量が上記範囲外であると、塩素含有熱可塑性樹脂
との相溶性が悪くなり、制振シートが制振性能を発揮し難くなるためである。
【0019】
塩素化パラフィンの数平均炭素数は好ましくは12〜50である。数平均炭素数が12
未満であると塩素化パラフィンがブリードアウトを起こし易く、制振性能が経時的に低下
する恐れがあり、また数平均炭素数が50を超えると粘度が高くなりすぎて取り扱いが困
難なためである。
【0020】
塩素化パラフィンは、塩素含量が30〜75重量%、かつ、数平均炭素数が12〜50
であるものを複数種組み合わせて使用することもできる。
【0021】
有機高分子材料は無機質充填剤を含むことが好ましい。無機質充填剤は特に限定されな
いが、入手のし易さ、制振性の発現のし易さなどの点から、炭酸カルシウム、マイカなど
が好ましい。無機質充填剤の粒径も特に限定されないが、樹脂組成物中への分散性、制振
性の発現のし易さなどの点から、平均粒子径が100〜100000nmの範囲内である
ことが好ましい。
【0022】
制振シートの厚さは好ましくは0.5〜3.0mmである。
【0023】
拘束型制振材の拘束層はヤング率の高いものであればよく、例えば、鉛、鉄、鋼材(ス
テンレス鋼を含む)、アルミニウム(アルミニウム合金を含む)等の金属材料、プラスチ
ック等で構成されている。拘束層の材料は好ましくはアルミニウムであり、その厚さは構
造物の厚さの3〜10%であることが好ましい。
【0024】
本発明による防音方法が適用される構造物は、形状、材質等において特に限定されるも
のではなく、鉄道分野ではレールを始め、橋梁を構成する鋼板やH鋼、さらには枕木など
であってよい。
【発明の効果】
【0025】
第1の発明によれば、予め構造物の表面にプライマーを塗布しておくことで、レール表
面の錆や埃を隠蔽することができ、制振材とレール表面の接着強度を高め、制振材をレー
ルに長期に亘って安定的に貼付しておくことができ、もって高い防音効果の長期安定保持
が可能である。
【0026】
第2の発明によれば、予め構造物の表面を研磨しておくことで、レール表面の錆や埃を
除去することができ、制振材とレール表面の接着強度を高め、制振材をレールに長期に亘
って安定的に貼付しておくことができ、もって高い防音効果の長期安定保持が可能である

【0027】
第3の発明によれば、予め制振材を構造物の形状に沿った形状に変形しておくことで、
制振材が残留応力により徐々にレールから剥れることがなくなり、制振材をレールに長期
に亘って安定的に貼付しておくことができ、もって高い防音効果の長期安定保持が可能で
ある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
つぎに、本発明を具体的に説明するために、本発明の実施例をいくつか挙げる。
【0029】
実施例1
図1において、レール(L) の両側面をワイヤブラシで研磨した。次いで、有機高分子材
料からなる制振シート(1) と、制振シート(1) の片面に貼り合わされたアルミニウム製拘
束層(2) とよりなる拘束型制振材(3) を、制振シート(1) 側においてレール(L) の両側研
磨面に貼り合わせた。
【0030】
制振シート(1) は、高密度ポリエチレンを水懸濁法により後塩素化して得た塩素化ポリ
エチレン(重量平均分子量50万、塩素含量40重量%、DSC法によって測定した結晶
化度10J/g)100重量部と、塩素化パラフィン(味の素ファインケミカル社製、商
品名「エンパラK50」、塩素含量50重量%、数平均炭素数14)400重量部と、炭
酸カルシウム(丸尾カルシウム社製、商品名「R重炭」)400重量部とをロール練り機
を用いて120℃で混練し、得られた樹脂混練物を140℃でプレスして、厚さ1.0m
mのシートに成形したものである。
【0031】
制振材(3) は、この制振シート(1) に、拘束層(2) として厚さ0.7mmのアルミニウ
ム板を、制振シート(1) の粘着性を利用して貼り合わせて作製したものである。
【0032】
実施例2
レール(L) の両側面に1液型のエポキシ樹脂塗料を膜厚約20〜35μmで塗布し、プ
ライマー塗膜を形成した。次いで、有機高分子材料からなる制振シート(1) と、制振シー
ト(1) の片面に貼り合わされたアルミニウム製拘束層(2) とよりなる拘束型制振材(3) を
、制振シート(1) 側においてレール(L) の両側プライマー塗膜面に貼り合わせた。
【0033】
その他の構成は実施例1のものと同じである。
【0034】
実施例3
図2において、制振材を、レール(L) の両側面の湾曲形状に沿った形状に塑性変形した
。次いで、有機高分子材料からなる制振シート(1) と、制振シート(1) の片面に貼り合わ
されたアルミニウム製拘束層(2) とよりなる拘束型制振材(3) を、制振シート(1) 側にお
いてレール(L) の両側湾曲面に貼り合わせた。
【0035】
その他の構成は実施例1のものと同じである。
【0036】
実施例4
レール(L) の両側面をワイヤブラシで研磨した。その後、レール(L) の両側研磨面に1
液型のエポキシ樹脂塗料を膜厚約20〜35μmで塗布し、プライマー塗膜を形成した。
次いで、有機高分子材料からなる制振シート(1) と、制振シート(1) の片面に貼り合わさ
れたアルミニウム製拘束層(2) とよりなる拘束型制振材(3) を、制振シート(1) 側におい
てレール(L) の両側プライマー塗膜面に貼り合わせた。
【0037】
その他の構成は実施例1のものと同じである。
【0038】
実施例5
レール(L) の両側面をワイヤブラシで研磨した。その後、レール(L) の両側研磨面に1
液型のエポキシ樹脂塗料を膜厚約20〜35μmで塗布し、プライマー塗膜を形成した。
制振材を、レール(L) の両側面の湾曲形状に沿った形状に変形した。次いで、有機高分子
材料からなる制振シート(1) と、制振シート(1) の片面に貼り合わされたアルミニウム製
拘束層(2) とよりなる拘束型制振材(3) を、制振シート(1) 側においてレール(L) の両側
プライマー塗膜面に貼り合わせた。
【0039】
その他の構成は実施例1のものと同じである。
【0040】
比較例1
レール(L) に研磨もプライマー塗布も制振材の貼付も行わなかった。
【0041】
比較例2
レール(L) に研磨もプライマー塗布も行わないで、有機高分子材料からなる制振シート
(1) と、制振シート(1) の片面に貼り合わされたアルミニウム製拘束層(2) とよりなる拘
束型制振材(3) を、制振シート(1) 側においてレール(L) の両側面に貼り合わせた。
【0042】
その他の構成は実施例1のものと同じである。
【0043】
制振評価試験
a)実施例1〜4、比較例1〜2に従って、屋外に敷設したレールの両側面に制振材を貼
り合わせ、その後、レールの頭部をハンマーで叩いて、レールを加振し、レールから1m
離れた位置で騒音レベル(LAmax)を測定した。また、加振点から15cm離れた位
置でレール側面の振動加速度レベル(LVmax)を測定した。測定は、制振材の貼付直
後と貼付1ヶ月後の2回行った。
【0044】
b)実施例5に従って、屋外に敷設したレールの両側面に制振材を貼り合わせ、制振材の
貼付直後と貼付1ヶ月後に制振材がレールから剥がれるか否か調べた。
【0045】

評価結果を表1にまとめて示す。
【表1】

【0046】
表1から明らかなように、実施例では騒音レベルおよび振動加速度レベルとも良好な結
果が得られ、また制振材の剥がれは認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1によるレールへの制振材の貼付を示す断面図である。
【図2】実施例3によるレールへの制振材の貼付を示す断面図である。
【符号の説明】
【0048】
(1) :制振シート
(2) :拘束層
(3) :制振材
(L):レール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に制振材を貼り付けるに当たり、構造物の表面にプライマーを塗布してから制振材
を貼り付けることを特徴とする防音方法。
【請求項2】
構造物に制振材を貼り付けるに当たり、構造物の表面を研磨してから制振材を貼り付ける
ことを特徴とする防音方法。
【請求項3】
構造物に制振材を貼り付けるに当たり、構造物の形状に沿った状態の制振材を貼り付ける
ことを特徴とする防音方法。
【請求項4】
制振材が制振シートと拘束層からなる拘束型制振材であることを特徴とする請求項1〜3
のいずれかに記載の防音方法。
【請求項5】
拘束型制振材の拘束層の材料がアルミニウムであり、その厚さが構造物の厚さの3〜10
%であることを特徴とする請求項4記載の防音方法。

【図1】
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【図2】
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