説明

防風保温性二重織物および衣料

【課題】風合いを損なうことなく、防風性と保温性とを有する防風保温性二重織物および該二重織物を用いてなる衣料を提供する。
【解決手段】二重織物であって、該二重織物の表層のカバーファクターCF1が1700以上であり、かつ該二重織物の裏層のカバーファクターCF2が1000以下であり、織物の通気度が3cc/cm・s以下であることを特徴とする防風保温性二重織物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防風性と保温性とを有する防風保温性二重織物および該二重織物を用いてなる衣料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、防風性と保温性とを有する防風保温性布帛としては、合成樹脂製フィルムを二重織物にコーテイングすることにより防風性と保温性とを付与したもの(例えば、特許文献1参照)や、複数の布帛を縫着したもの(例えば、特許文献2参照)などが知られている。しかしながら、これらの布帛では、風合いが損なわれるという問題があった。
なお、特許文献3では、各層のカバーファクターを互いに異ならせた二重織物が提案されているが、高通気性を目的とするものであった。
【0003】
【特許文献1】特開2001−96655号公報
【特許文献2】特開平9−143805号公報
【特許文献3】特開2005−82918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、風合いを損なうことなく、防風性と保温性とを有する防風保温性二重織物および該二重織物を用いてなる衣料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、二重織物において、表層(外気側)のカバーファクターを大きくし、かつ裏層(肌側)のカバーファクターを小さくすることにより、該二重織物を用いて、二重織物の裏層が肌側に位置するよう衣服を得て着用すると、防風性だけでなく、衣服と肌との間にデッドスペースが形成されることにより優れた保温性が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明に想到した。
【0006】
かくして、本発明によれば「二重織物であって、該二重織物の表層のカバーファクターCF1が1700以上であり、かつ該二重織物の裏層のカバーファクターCF2が1000以下であり、織物の通気度が3cc/cm・s以下であることを特徴とする防風保温性二重織物。」が提供される。
ただし、カバーファクターCFは下記式により算出するものとする。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【0007】
その際、前記の表層に、無撚のポリエステル系マルチフィラメント糸条が配されていることが好ましい。該ポリエステル系マルチフィラメント糸条の単糸繊度としては、1.3dtex以下であることが好ましい。また、前記の裏層に、ポリエステル系マルチフィラメント糸条を含む撚糸糸条が配されていることが好ましい。かかる撚糸糸条に、単糸繊度が2dtex以上の繊維が含まれていることが好ましい。また、裏層の厚みとしては0.1mm以上であることが好ましい。
【0008】
また、本発明によれば、前記の防風保温性二重織物を用いて、裏層が肌側に位置するよう縫製してなる衣料が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、防風性と保温性とを有する防風保温性二重織物および該二重織物を用いてなる衣料が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明の二重織物において、表層(外気側の層)のカバーファクターCF1が1700以上(好ましくは1800〜3000)であり、かつ裏層(肌側の層)のカバーファクターCF2が1000以下(好ましくは300〜800)であることが肝要である。
【0011】
ここで、表層のカバーファクターCF1が1700よりも小さいと、十分な防風性が得られず好ましくない。また、裏層のカバーファクターCF2が1000よりも大きいと、表層と肌と間に十分なデッドスペースが形成されないため、十分な保温性が得られず好ましくない。
ただし、カバーファクターCFは下記式により算出するものとする。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【0012】
また、本発明の二重織物において、織物の通気度が3cc/cm・s以下(好ましくは1.5cc/cm・s以下)であることが肝要である。該通気度が3cc/cm・sよりも大きいと防風性が不十分であり好ましくない。なお、該通気度は小さければ小さいほど防風性が向上し好ましいが、生産性を考慮すると0.1cc/cm・s以上であることが好ましい。
【0013】
本発明の二重織物において、各層の織物組織としては特に限定されないが、表層の織組織としては、平組織、ツイル組織など組織点の多い織組織が、織構造が安定であり好ましい。一方、裏層は、表層と肌との距離を一定以上に保つスペーサーの役割を果たす層であるため、ギシャ組織(緯糸1本ごとに、隣接の経糸でからみ織りしたもの)が、容易に厚みを持たせることができ好適である。該裏層の厚さとしては、0.1mm以上で(特に好ましくは0.20mm以上)であることが好ましい。また、二重織物全体の厚みとしては、0.15mm以上(特に好ましくは0.25mm以上)であることが好ましい。なお、前記の表層と裏層とは、表層および/または裏層を構成する糸条により一部連結されている。
【0014】
本発明の二重織物を構成する繊維としては特に限定されず、ポリエステルやナイロンなどの合成繊維、アセテートなどの半合成繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、綿や麻などの天然繊維などいずれでもよい。なかでも、繊維強度や取扱いの容易さの点でポリエステル繊維が好ましく例示される。ポリエステル繊維はジカルボン酸成分とジグリコール成分とから製造される。ジカルボン酸成分としては、主としてテレフタル酸が用いられることが好ましく、ジグリコール成分としては主としてエチレングリコール、トリメチレングリコール及びテトラメチレングリコールから選ばれた1種以上のアルキレングリコールを用いることが好ましい。また、ポリエステル樹脂は、前記ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に第3成分を含んでいる共重合ポリエステル樹脂でもよい。共重合ポリエステル樹脂からなる共重合ポリエステル繊維は、通常熱収縮率が大きく染色加工後の織密度を大きくすることができる(すなわち、カバーファクターを大きくすることができる。)ので、表層用糸条として好適である。前記の第3成分としては、カチオン染料可染性アニオン成分、例えば、ナトリウムスルホイソフタル酸;テレフタル酸以外のジカルボン酸、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸;及びアルキレングリコール以外のグリコール化合物、例えばジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールスルフォンの1種以上を用いることができる。さらには、ポリ乳酸などの生分解性を有するポリエステル繊維でもよい。
【0015】
前記ポリエステル繊維を形成する樹脂中には、必要に応じて、艶消し剤(二酸化チタン)、微細孔形成剤(スルホン酸金属塩)、着色防止剤、熱安定剤、難燃剤(三酸化二アンチモン)、蛍光増白剤、着色顔料、帯電防止剤(スルホン酸金属塩)、吸湿剤(ポリオキシアルキレングリコール)、抗菌剤、その他の無機粒子の1種以上が含まれていてもよい。
【0016】
本発明の二重織物を構成する繊維の繊維形態は特に限定されず、長繊維(マルチフィラメント糸条)でもよいし短繊維でもよいが、長繊維(マルチフィラメント糸条)であることが好ましい。仮撚捲縮加工や空気加工が施された長繊維であってもよい。特に、前記のような低通気度を得る上で、表層に配される糸条は、無撚のポリエステル系マルチフィラメント糸条であることが好ましい。一方、裏層に配される糸条は、デッドスペースを形成する上で、ポリエステル系マルチフィラメント糸条を含む撚糸糸条であることが好ましい。その際、撚り数としては、400〜1000T/mの範囲内であることが好ましい。
【0017】
また、表層および/または裏層に配される糸条の繊度は特に限定されないが、表層に配される糸条は防風性(低通気度)の点で、単糸繊度が1.3dtex以下(より好ましくは0.01〜0.4dtex)、単糸数が100本以上(より好ましくは110〜300本)、総繊度が40〜200dtexの範囲内であることが好ましい。一方、裏層に配される糸条は、裏層の厚みを厚くしてデッドスペース(裏層において、経糸と緯糸とで形成される空隙)を形成する上で、単糸繊度が大きいほどよく単糸繊度が2dtex以上(より好ましくは2.5〜5.0dtex)であることが好ましい。特に裏層に、単糸繊度が2dtex以上の繊維が含まれる撚糸糸条が配されると、裏層の厚みが厚くなりデッドスペースが形成され、その結果、保温性が向上し好ましい。なお、表層および/または裏層に配される糸条において、単糸の横断面形状も特に限定されるものではなく、通常の丸型だけでなく、扁平、くびれ付扁平、三角、Y型、T型、U型などの異型であってもよい。
【0018】
本発明の二重織物は、1ビームまたは2ビームを有する通常の織機を用いて、各層を構成する糸条が一部互いに交錯するよう連結させて二重織物を製織し、その際、各層のカバーファクターを前記の特定範囲内とすることにより製造することができる。かかる二重織物には、アルカリ減量加工や常法の染色仕上げ加工が施されてもよい。表層に共重合ポリエステル繊維が含まれる場合には、染色加工の際の熱により、熱収縮し前記のカバーファクターを容易に得ることができる。また、常法の吸水加工、撥水加工、起毛加工、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0019】
かくして得られた二重織物において、高カバーファクターの表層が防風性を呈し、同時に低カバーファクターの裏層が保温性を呈するので、二重織物単独で優れた防風性と保温性とを有する。また、フィルムをコーテイングした従来品にくらべて、風合いも良好である。
【0020】
次に、本発明によれば、前記の防風保温性二重織物を用いて、裏層が肌側に位置するよう縫製してなる衣料が得られる。かかる衣料は、風合いを損なうことなく、優れた防風性と保温性とを有するので、スポーツ衣料、インナー衣料、ユニフォーム衣料などに好適である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の各物性は下記の方法により測定したものである。
(1)カバーファクターCF
表層側および裏層側について、経糸密度および緯糸密度を実測し、下記式により算出した。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
(2)通気性
JIS L 1096−1998、6.27.1、A法(フラジール形通気性試験機法)により通気性(cc/cm・s)を測定した。
(3)厚さ
試料を平らな板の上に置き、圧力0.13cN/cm(0.13g/cm)の荷重をかけ、ミツトヨ社製デジマチックハイトゲージ(HDS−HC)を用いて、裏層および織物全体の厚さを測定した。
(4)風合い
試験者3人により、官能評価で「風合いが良好」「風合いが普通」「風合いが不良」の3段階評価した。
【0022】
[実施例1]
酸成分がモル比93/7のテレフタル酸およびイソフタル酸からなり、グリコール成分がエチレングリコールからなる共重合ポリエステルで形成されたマルチフィラメント延伸糸(無撚)56dtex/144filを表層の経糸および緯糸に用い、また、酸成分がモル比93/7のテレフタル酸およびイソフタル酸からなり、グリコール成分がエチレングリコールからなる共重合ポリエステルで形成されたマルチフィラメント延伸糸(無撚)33dtex/12filと、通常のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸56dtex/144fil(帝人ファイバー(株)製)とを1本ずつ引き揃えてS方向に撚数600T/mで合撚した合撚糸条を裏層の経糸および緯糸に用い、通常のレピア織機を使用して、図1に示す織物組織図に従い、完全二重織物(生機で、表層のカバーファクターCF1=1528、裏層のカバーファクターCF2=483)を製織した。次いで、該織物に通常の染色仕上げ加工を施した。
【0023】
得られた二重織物において、表層のカバーファクターCF1=1964、裏層のカバーファクターCF2=621、裏層の厚さ0.21mm、織物全体の厚さ0.33mm、通気性が0.8cc/cm・s、風合いが良好と、優れた防風性と良好な風合いを有するものであった。
次いで、該二重織物を用いて、裏層が肌側に位置するようTシャツ(スポーツ衣料)を縫製して着用したところ、保温性にも優れていた。
【0024】
[比較例1]
実施例1において、染色仕上げ加工後の表層のカバーファクターCF1が1608、裏層のカバーファクターCF2が402となるよう、織物の密度を変更すること以外は実施例1と同様にした。
得られた二重織物において、通気性が6cc/cm・sと、防風性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、風合いを損なうことなく、防風性と保温性とを有する防風保温性二重織物および該二重織物を用いてなる衣料が提供され、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の2層構造織物において、採用することのできる織物組織図の1例である。なお、図中黒丸が裏層側(肌側)の糸である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重織物であって、該二重織物の表層のカバーファクターCF1が1700以上であり、かつ該二重織物の裏層のカバーファクターCF2が1000以下であり、織物の通気度が3cc/cm・s以下であることを特徴とする防風保温性二重織物。
ただし、カバーファクターCFは下記式により算出するものとする。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【請求項2】
前記の表層に、無撚のポリエステル系マルチフィラメント糸条が配されてなる、請求項1に記載の防風保温性二重織物。
【請求項3】
前記の表層に配された、ポリエステル系マルチフィラメント糸条の単糸繊度が1.3dtex以下である、請求項2に記載の防風保温性二重織物。
【請求項4】
前記の裏層に、ポリエステル系マルチフィラメント糸条を含む撚糸糸条が配されてなる、請求項1〜3のいずれかに記載の防風保温性二重織物。
【請求項5】
前記の撚糸糸条に、単糸繊度が2dtex以上の繊維が含まれる、請求項4に記載の防風保温性二重織物。
【請求項6】
裏層の厚みが0.1mm以上である、請求項1〜5のいずれかに記載の防風保温性二重織物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の防風保温性二重織物を用いて、裏層が肌側に位置するよう縫製してなる衣料。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−162169(P2007−162169A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−360500(P2005−360500)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】