説明

防食コンパウンドおよび防食テープ

【課題】被着体への粘着性を維持しつつ美観の低下を抑制させ得る防食コンパウンドならびに防食テープを提供することにある。
【解決手段】防錆添加剤と無機充填材と油分とを含有する防食コンパウンドであって、芳香族成分が含有されているブライトストック油が含有されてなる高粘度潤滑油が前記油分に用いられていることを特徴とする防食コンパウンドを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防食コンパウンドと防食コンパウンドが基材に担持されてなる防食テープに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種のプラントなどにおいて、構造材やガス、水道などの配管、電線などを敷設する電線管、あるいは、原料や半製品の搬送に用いられる配管、さらには、各種貯留槽などといった屋外で用いられる鉄製の構造物などにおいて、その腐食を防止するために、防食コンパウンドやこの防食コンパウンドが基材に担持されてなる防食テープが広く用いられている。
【0003】
例えば、この防食テープとしては、ペトロラタムを用いたものが知られている。このペトロラタムは、潤滑油や加工油などにも用いられ、撥水性に優れ、水分の透過を抑制する効果に優れている。しかも、粘着性が高く被着体との間で優れた密着性を発揮することからこのペトロラタム系防食テープは広く用いられている。
しかしながら、このペトロラタムは、軟化温度が低く、例えば、夏季に直射日光を受けるなどして高温にさらされた場合には、溶け出して滴下してしまうおそれがある。このようにペトロラタムが滴下してしまうと、防食テープの防食性能が低下するばかりでなく被着体を汚損させてしまうという問題が生じることとなる。
また、ペトロラタムは、粘着性が高いことからそのままの状態ではゴミや埃等が付着して表面が汚損されやすく、通常、外層に保護テープなどが設けられたりしている。しかし、粘着性が高いペトロラタム系防食テープの上に保護テープを巻きつける作業は、作業性が悪く多大な手間を必要としている。
ところで、防食コンパウンドなどにおいては、液体成分などが表面に滲出するいわゆるブリードアウトと呼ばれる現象が生じることが知られている。そして、ペトロラタム系防食テープでは、上記のようなブリードアウトが発生しやすく、上記のごとく保護テープを設置しても保護テープの表面側にこのブリードアウト成分が滲出して美観を損ねるおそれもある。
このペトロラタムに代えて乾性油などと呼ばれる乾燥性の高い油を採用することも考え得るがその場合にはこの油分が乾燥した後には被着体への接着力が低下して、結果、被着体との間に隙間が生じたりして十分な防食性能を維持することが困難となる。
【0004】
このようなことから、被着体への粘着性を維持しつつ美観の低下が抑制された防食コンパウンドが従来要望されている。
このような要望に対して、特許文献1には、防錆添加剤、乾性油、高粘度潤滑油ならびに無機充填材が配合された防食コンパウンドを基材に担持させた下テープと、短時間で乾燥固化する上テープとを用いて防食構造を形成させることが記載されている。この特許文献1には、このような防食コンパウンドを用いることにより下テープからのブリードアウトを抑制させ、しかも、短時間で乾燥固化する上テープを下テープの外層に施工することでブリードアウト成分が下テープから防食構造の表面に滲出することを抑制させつつ上テープを短時間で乾燥固化させて上テープ施工後の作業性を向上させることが記載されている。
しかし、このような防食テープにおいても下テープから発生する油分のブリードアウトによる表面汚染の抑制ならびに被着体への優れた粘着性を維持させるという要望を十分満足させるものとはなっていない。
すなわち、この防食テープなどとして用いられる従来の防食コンパウンドにおいては、被着体への粘着性を維持しつつ美観の低下を抑制させることが困難であるという問題を有している。
【0005】
【特許文献1】特開平10−44320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、被着体への粘着性を維持しつつ美観の低下を抑制させ得る防食コンパウンドならびに防食テープを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、防錆添加剤と無機充填材と油分とを含有する防食コンパウンドの配合について鋭意検討を行ったところ、特定の油分を用いることで防食コンパウンドのブリードアウトによる表面汚染を抑制させ、しかも、防食コンパウンドを、被着体への優れた粘着性を維持しつつ粘着性が低減された皮膜が表面に形成されやすくなることを見出し、本発明の完成に到ったのである。
すなわち、本発明は、前記課題を解決すべく、防錆添加剤と無機充填材と油分とを含有する防食コンパウンドであって、芳香族成分が含有されているブライトストック油が含有されてなる高粘度潤滑油が前記油分に用いられていることを特徴とする防食コンパウンドを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、芳香族成分が含有されているブライトストック油が含有されてなる高粘度潤滑油が防食コンパウンドの油分に用いられており、ブライトストック油はペトロラタムなどに比べて移行性が低いことから防食コンパウンドにおけるブリードアウトが抑制されるとともに被着体への粘着性低下を抑制させ得る。
しかもブライトストック油に含有されている芳香族成分は、防食コンパウンドの表面に乾燥皮膜を形成させやすく、特に表面に日光が照射されるなどした場合には、紫外線よって芳香族成分における二重結合が切断されてポリマー化されたりすることにより、前記乾燥皮膜がより形成されやすくなる。
したがって、防食コンパウンドを被着体の表面に施工した後に、その表面粘着性を低減させることができ防食コンパウンド施工後の表面にゴミ、ホコリなどが付着して表面が汚損されることが抑制されるとともに上記のごとくブリードアウトが抑制されていることから、表面汚損の抑制効果を長期にわたって持続させ得る。
すなわち、被着体への粘着性を維持しつつ美観の低下を抑制させ得る
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について防食テープを例に説明する。
【0010】
本実施形態における防食テープは、基材となる多孔質なテープ状基材に防食コンパウンドが担持されてテープ状に形成されている。
【0011】
前記テープ状基材としては、防食テープに適度な強度を与え得るものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリエステル繊維やポリプレン繊維、ポリアミド繊維などの適宜な繊維からなる織布、不織布などを用いることができる。
また、その厚さも特に限定されるものではないが、通常、一般には0.1〜15mm厚さのもの、好ましくは0.2〜12mm厚さ、さらには0.3〜10mm厚さのものが特に好ましい。
【0012】
前記防食コンパウンドには、防錆添加剤と無機充填材と油分とが含有されている。
この防食コンパウンドに含有される防錆添加剤、無機充填材および油分各材料の比率については、適宜に決定し得るが、油分100重量部あたり、無機充填剤が100〜200重量部、好ましくは120〜180重量部、特に好ましくは140〜160重量部含有され、防錆添加剤が1〜20重量部、好ましくは5〜15重量部、特に好ましくは、7〜10重量部含有される。
【0013】
前記防錆添加剤としては、例えば高級脂肪酸やナフテン酸、アルケニルコハク酸の如きカルボン酸類、カルボン酸等のナトリウム塩やカルシウム塩、バリウム塩やアルミニウム塩、マグネシウム塩の如き有機酸塩類、ソルビタンモノオレエートやジラウリルホスフェートの如きエステル類、シクロヘキシルアミンの如きアミン類、アルキルナフタレンスルホン酸塩の如き陰イオン系や陽イオン系、非イオン系や多価アルコールエステル・脂肪酸ショ糖エステルの如き両性系等の界面活性剤などがあげられる。
【0014】
前記無機充填材としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルク、シリカ、クレー、炭酸カルシウム、ベントナイトなどがあげられる。
【0015】
前記油分には、芳香族成分が含有されているブライトストック油が含有されてなる高粘度潤滑油を用いる。この、高粘度潤滑油は、その95重量%以上が、芳香族成分が含有されているブライトストック油であることが好ましく、実質芳香族成分が含有されているブライトストック油のみからなる高粘度潤滑油が用いられることがさらに好ましい。
この高粘度潤滑油に用いられるこのブライトストック油以外の成分としては、例えば、ライト中性オイル(軽質ニュートラル油)、インターミディエート中性オイル(中質ニュートラル油)、ヘビー中性オイル(重量ニュートラル油)などが挙げられる。
この高粘度潤滑油における芳香族成分が含有されているブライトストック油の割合が95重量%以上であることが好ましいのは、5重量%以上に他の油が含有される場合には、この他の油が防食コンパウンドを長期にわたって使用する場合に、この他の油に含まれている成分によって、防食コンパウンド表面に激しい変色を発生させたりして、美観が低下してしまうおそれがあるためである。すなわち、高粘度潤滑油における芳香族成分が含有されているブライトストック油の割合が95重量%以上であることにより、施工当初の美観が低下することを抑制させることができるという効果を奏する。
【0016】
次いで、この芳香族成分が含有されているブライトストック油について説明する。
潤滑原料油の精製工程における処理としては、常圧蒸留、減圧蒸留、脱アスファルト化、溶媒抽出、及び脱ろうがある。これらの工程で分離された留分をすべて再結合させると、もとの原油が再現されることから、これらの工程は基本的には物理的分離プロセスである。
原油の常圧蒸留からは、使われる原油のタイプ、及び精製の方法によっていくつかの留分が得られる。留分二つの場合は一般にミドル蒸留物と考えられ、これらは沸点範囲が華氏345〜510度である直留ケロシン及び沸点範囲が約華氏510〜700度である軽ガスオイルである。これらの留分から派生する生成物にはケロシン、ジェット燃料、ディーゼル燃料、家庭暖房用オイル及び海洋オイルなどがある。より軽いミドル蒸留物は、無機シールオイルや、スピンドルオイル、ホーニングオイル及びアルミニウム・スチール・銅などの冷間圧延用オイル等、特殊潤滑剤としても使用できる。
一般に、沸点範囲及び残さいにおいて異なる少なくとも3つの減圧蒸留留分を精製される場合もある。精製技術分野ではこれらの留分にそれぞれ名称がつけられており、最も揮発性の高い減圧蒸留留分は「ライト中性」留分又はオイルと呼ばれ、その他の減圧蒸留物は「インターミディエート中性」オイル及び「ヘビー中性」オイルとして知られている。
そして脱アスファルト化、溶媒抽出及び脱ろうの後の減圧残さいが、一般に「ブライトストック油」と呼ばれている。
【0017】
このブライトストック油は、通常、パラフィン油原料油として用いられ、通常、密度0.9g/cm3、引火点300℃以上、40℃動粘度約380〜500mm2/s、流動点約−10℃、芳香族成分約25重量%、飽和成分約74重量%、レジン成分約1重量%含んだ成分割合にてなり、通常、n-d-M環分析にて求められる分子量が670〜760であり、例えば、新日本石油株式会社から商品名「スーパーオイルM460」として市販されている。
この芳香族成分を含んでいるブライトストック油は、その後、さらに水添されるなどして芳香族成分を実質含んでいないブライトストック油の原料に用いられたりしており、この芳香族成分を実質含んでいないブライトストック油としては、例えば、出光興産株式会社から商品名「ダイアナプロセスオイルPW−380」などがある。
本明細書中における「芳香族成分を含んでいるブライトストック油」とは、商品名「スーパーオイルM460」などのように、上記のごとく製造されたものを意図しており、上記「ダイアナプロセスオイルPW−380」のように水添によって芳香族成分を実質含んでいない状態にされたりしていないものを意図している。
すなわち、原油の減圧蒸留留分の残渣油から脱アスファルト工程、溶媒抽出工程および脱ろう工程を経た残さいとして得られ、残さいとして得られた時点において含有されている芳香族成分が含まれているものを意図している。
【0018】
また、この防食コンパウンドには、本発明の効果を損ねない範囲において他の油や可塑剤、老化防止剤、防カビ剤、酸化防止剤、耐候性付与剤、顔料や粘度調整剤等の増粘剤などの適宜な添加剤を添加することができる。
【0019】
上記のような防錆添加剤と無機充填材と油分などが含有されている防食コンパウンドは、これらの成分をプラネタリーミキサやニーダなどの一般的な混練手段により混練して製造することができる。そして、混練された防食コンパウンドを前記基材に含浸させて芯体に巻回し、所望の幅にスリットするなどして防食テープを製造することができる。
【0020】
このような、防食テープを配管材などに施工する場合には、防食テープを幅方向に一部ラップさせて配管材表面に巻回するなどすればよい。
【0021】
このとき、防食コンパウンドが優れたタック性を有することから、防食テープの被着体への接着作業性を良好なものとすることができる。しかも、被着体への施工後には、表面に乾燥皮膜が形成されて粘着性が低減する。この芳香族成分を含有しているブライトストック油には、分子内に不飽和結合を有する成分が多く含まれていることから、太陽光などに含まれる紫外線などによってポリマー化されやすく、このポリマー化により前記乾燥皮膜の形成ならびに粘着性の低減が加勢される。
しかも、この芳香族成分を含有しているブライトストック油を用いる場合には、被着体に対する優れた粘着性が長期にわたって維持される。
【0022】
また、保護テープなどの外層材をさらに設ける場合には、防食テープの表面粘着性が低減されていることから作業性が良好になる。この表面粘着性を十分に低減させて、作業性を良好なものとさせ得る点において、防食テープの施工後、数時間〜数日間放置して外層材の施工を実施することが好ましい。
なお、本実施形態の防食テープは、ブライトストック油を用いることでブリードアウトが十分抑制されており、しかも、表面に乾燥皮膜が形成され易いことから、例えば、この保護テープを省略させて防食テープとこの防食テープの表面塗工を行う塗料とにより防食構造を形成させることもでき、この場合には、美観に優れ、汚損性が抑制された防食構造をより簡便に形成させることができる。
さらには、予め防食コンパウンドに顔料などの着色成分を配合しておいて、保護テープのみならず表面塗工も省略させて、この防食テープのみで防食構造を形成させることもできる。この場合には、美観に優れ、汚損性が抑制された防食構造をさらに簡便に形成させることができる。
【実施例】
【0023】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
(実施例1〜4、比較例1〜4)
表1に示す基本配合(単位:重量部)で各実施例、比較例の防食コンパウンドを製造した。
【0025】
【表1】

防錆添加剤1:アルキルナフタレンスルホン酸カルシウム塩、楠本化成社製、商品名「NA-SUL729」
防錆添加剤2:有機酸アミン、キレスト社製、商品名「VCI-320」
乾燥剤1:ナフテン酸Ca、芳本産業社製、商品名「ナフテン酸カルシウム4%」
乾燥剤2:ナフテン酸Co、芳本産業社製、商品名「ナフテン酸コハ゛ルト6%」
無機フィラー1:水酸化アルミニウム、アルミリックス社製、商品名「B-313」
無機フィラー2:水酸化マグネシウム、赤穂化成社製、商品名「A-1」
油分1:高粘度潤滑油(芳香族成分含有フ゛ライトストック油のみ)、新日本石油社製、商品名「スーハ゜ーオイルM460」
油分2:高粘度潤滑油(芳香族成分含有フ゛ライトストック油以外にも芳香族成分が含有されているもの)、谷口石油社製、商品名「TSR680」
油分3:乾性油(植物油)、山文油化社製、商品名「XG-13」
油分4:高粘度潤滑油(芳香族成分を含有していないフ゛ライトストック油のみ)、出光興産社製、商品名「PW-380」
【0026】
各実施例、比較例の防食コンパウンドを指触にて初期粘着性の評価を実施し、被着体への粘着性を評価した。また、被着体への施工後の作業性評価として、太陽光にさらされた場合を模擬して、紫外線照射装置(フナコシ社製「ELC4000」)にて約50W/cm2の光量で5時間の紫外線照射を行った後の表面粘着性を観測した。
被着体への作業性(初期粘着性)については、被着体に対する十分な粘着性を備えている場合を「○」、粘着性が不足している場合を「×」として判定した。
また、施工後の作業性(紫外線照射後の粘着性)については、ベタツキのない良好な作業性を有する場合を「○」、粘着性が高くベタツキが見られる場合を「×」として判定した。
さらに、紫外線照射後の変色状況を測色計(コニカミノルタセンシング社製、商品名「CM−350d」)にて計測した。そして、紫外線照射前後のL*a*b*表色系のL*値(明度)の差が10以下のものを「○」、20以上のものを「×」として判定した。
結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
なお、比較例1以外の防食コンパウンドは、紫外線照射後などにおいても十分に柔らかく被着体への粘着性が維持されていたが、比較例1の防食コンパウンドは、短時間でセメント化してしまい、例えば、被着体の熱膨張時や、振動などに追従させ難いものとなった。
また、比較例2の防食コンパウンドについては、紫外線照射をさらに継続させて、合計7時間の紫外線照射を行ったが、依然粘着性が高くベタツキが見られた。
この表2からも実施例の防食コンパウンドのように芳香族成分が含有されているブライトストック油が含有されてなる高粘度潤滑油が防食コンパウンドの油分に用いられることで防食コンパウンドの表面に乾燥皮膜が形成されることがわかる。
すなわち、実施例の防食コンパウンドは、表面にゴミ、異物などが付着して美観が損なわれるおそれが抑制されていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防錆添加剤と無機充填材と油分とを含有する防食コンパウンドであって、芳香族成分が含有されているブライトストック油が含有されてなる高粘度潤滑油が前記油分に用いられていることを特徴とする防食コンパウンド。
【請求項2】
前記高粘度潤滑油には、芳香族成分が含有されているブライトストック油が95重量%以上含有されている請求項1記載の防食コンパウンド。
【請求項3】
テープ状の基材に請求項1または2に記載の防食コンパウンドが担持されて形成されていることを特徴とする防食テープ。

【公開番号】特開2007−332400(P2007−332400A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−163184(P2006−163184)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【出願人】(000190611)日東シンコー株式会社 (104)
【出願人】(397020560)山文油化株式会社 (2)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】