説明

防食被覆材およびこれを有する保護カバー付き防食被覆材

【課題】たとえば鋼矢板のような平板状の防食対象物に対して用いられる場合にも優れた施工性を確保することが可能な防食被覆材およびこれを有する保護カバー付き防食被覆材を提供する。
【解決手段】防食シート層と該防食シート層に貼合されたフィルム層とを少なくとも有し、該防食シート層は基材に少なくとも石油ワックスが含浸されてなり、該フィルム層は少なくとも防食シート層との貼合面において多孔質である、防食被覆材、および該防食被覆材と保護カバーとを少なくとも有する保護カバー付き防食被覆材を提供する。該フィルム層は、基層と該基層の片面または両面に形成された多孔質表層とを有する多層フィルムであり、基層は非多孔質または独立孔を有する多孔質からなり、多孔質表層は独立孔および/または連続孔を有する多孔質からなり、フィルム層は多孔質表層において防食シート層と貼合されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば鋼矢板のような平板状の防食対象物に対して用いられる場合にも優れた施工性を確保することが可能な防食被覆材およびこれを有する保護カバー付き防食被覆材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、海洋構造物を構成する鋼管杭、鋼矢板、海洋プラットフォーム等の構造材に対する防食技術が種々検討されている。海洋構造物の防食方法としては、海水中および海底汚泥中の環境においては電気防食が適用され、干満帯より上部の環境においては被覆材が適用されるのが一般的である。被覆材による被覆方法として広く用いられているペトロラタムライニング工法は、防食テープまたは防食シートと、該防食テープまたは該防食シートを保護するFRP(繊維強化樹脂)カバーとを組合せた防食システムである。
【0003】
特許文献1には、円筒形の構造材である鋼管杭にペトロラタムライニング工法を施す方法として、鋼管杭の表面にテープ状の防食材を巻いた後にFRPで保護することによって、鋼管杭と防食材とを粘着させる方法が提案されている。一方、たとえば平板状の構造材である鋼矢板にペトロラタムライニング工法を施す場合には、テープ状の防食材を平板状の構造材に巻くことができないため、あらかじめシート状の防食材を貼り付けたFRPを用いるのが一般的である。しかし、ペトロラタムはFRPとの粘着性が非常に悪いため、防食材とFRPとを貼り付ける方法では、防食材とFRPとの間で剥離が生じ易く、鋼矢板等の平板状の構造材において良好な施工性が得られ難いという問題があった。
【0004】
特許文献2には、樹脂被膜で防食被覆された鋼矢板の継手部において、軟質樹脂シートと防錆剤を含浸した繊維シートとが積層された防食シートを該継手部の外表面を覆うように配し、該防食シートの上から特定形状の押さえ材をあてがい、該押さえ材の上から鋼矢板内に貫入するように打鋲して防食シートを鋼矢板表面に粘着させることを特徴とする鋼矢板継手部の防食被覆の補強方法が提案されている。
【0005】
特許文献3には、油系防食材の防食性能を長期間安定に維持し得る鋼材の被覆防食方法を提供することを目的として、鋼材表面に油系防食材からなる防食層を設け、該防食層をプラスチック層または金属製のカバーにより保護してなる鋼材の被覆防食方法において、上記プラスチック製または金属製のカバーの外表面を遮熱層により被覆することを特徴とする鋼材の被覆防食方法が提案されている。
【0006】
ペトロラタム等を用いた油系防食材による防食方法においては、特に夏場の高温環境下で施工する場合、防食材表面とその外側に設けるカバー等との粘着性が良好でないと剥離防止のための固定等が必要となり、施工性が悪化する。しかし特許文献2,3の技術は、防食材表面自体とカバー等との粘着性を改善するものではなく、従来の技術に係る防食被覆材では、鋼矢板等の平板状の構造材に対して良好な施工性を確保することは困難である。
【0007】
防食材表面とFRP製カバーとの粘着性を改善するため、防食材表面にポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂製のフィルム層を設け、このフィルム層とカバーとを粘着剤を介して粘着させる試みもなされている。この場合には、フィルム層とカバーとの粘着性は得られるものの、防食材に含まれるペトロラタムは合成樹脂との粘着性も悪いため、防食材表面とフィルム層との間で剥離が生じるという問題がある。この問題に対して、本発明者は、防食材表面とフィルム層とを粘着剤を用いて貼合する方法や、防食材との貼合面側にコロナ放電処理を施した合成樹脂フィルムを用いる方法等を試みたが、いずれも防食材表面とフィルム層との間で十分な粘着力は得られなかった。このように、従来の技術では防食材とFRP製カバーとを十分な粘着力をもって貼り付けることは非常に困難であった。
【特許文献1】実公昭56−9703号公報
【特許文献2】特開2000−1870号公報
【特許文献3】特開2004−137520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の課題を解決し、施工時に防食被覆材とカバーとが剥離せず、たとえば鋼矢板のような平板状の防食対象物に対して用いられる場合にも優れた施工性を確保することが可能な防食被覆材およびこれを有する保護カバー付き防食被覆材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、防食シート層と該防食シート層に貼合されたフィルム層とを少なくとも有し、該防食シート層は、基材に少なくとも石油ワックスが含浸されてなり、該フィルム層は、少なくとも防食シート層との貼合面において多孔質である、防食被覆材を提供する。
【0010】
本発明の防食被覆材において、該フィルム層は、基層と、該基層の片面または両面に形成された多孔質表層とを有する多層フィルムであり、基層は、非多孔質または独立孔を有する多孔質からなり、多孔質表層は、独立孔および/または連続孔を有する多孔質からなり、フィルム層は多孔質表層において防食シート層と貼合されることが好ましい。
【0011】
本発明の防食被覆材においては、石油ワックスがペトロラタムを主成分とすることが好ましい。
【0012】
本発明の防食被覆材においては、基材が不織布からなることが好ましい。
本発明はまた、上述のいずれかに記載の防食被覆材と保護カバーとを少なくとも有し、該防食被覆材のフィルム層側の面を該保護カバーに貼り付けてなる、保護カバー付き防食被覆材を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、防食シート層とフィルム層との粘着性が良好であり、かつフィルム層にたとえば粘着剤を介してカバー等を粘着させることができるため、防食シート層とカバー等とを良好に貼り付けることができる。このため、たとえば鋼矢板のような平板状の防食対象物に対して用いられる場合にも優れた施工性を確保することが可能な防食被覆材およびこれを有する保護カバー付き防食被覆材を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の典型的な態様につき説明するが本発明はこれに限定されない。なお図中で同一の参照符号を付した箇所は同様の機能を有する部位を意味し、説明を繰返さない。
【0015】
本発明の防食被覆材は、防食シート層と該防食シート層に貼合されたフィルム層とを少なくとも有する。図1は、本発明に係る防食被覆材の構成の例を示す断面図である。図1に示す防食被覆材100においては、防食シート層11の一方の面にフィルム層12が貼合されている。防食シート層11の他方の面には離型フィルム15が設けられている。離型フィルム15は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のフィルムであり、鋼矢板等の構造材に対して防食被覆材100を施工する際には剥がされる。
【0016】
[防食シート層]
本発明において用いられる防食シート層は、基材に少なくとも石油ワックスが含浸されてなる。本発明において用いられる石油ワックスとは、典型的には、石油中に存在する常温で固体の炭化水素を意味する。石油ワックスの詳しい分類については、たとえばJIS K−2235を参照できる。石油ワックスが含浸された防食シート層は、本発明の防食被覆材によって被覆される被覆対象物に対して優れた防食性能を付与する。
【0017】
石油ワックスとしては、ペトロラタム、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスが代表的である。ここで、ペトロラタムとは、典型的には、減圧蒸留残渣油から分離精製した常温において半固形のワックスを意味し、パラフィンワックスとは、典型的には、減圧蒸留留出油から分離精製した常温において固形のワックスを意味し、マイクロクリスタリンワックスとは、典型的には、減圧蒸留残渣油または重質留出油から分離精製した常温において固形のワックスを意味する。
【0018】
本発明においては、石油ワックスがペトロラタムを主成分とすることが好ましい。ここで主成分とは全体の50質量%を超える量で含まれる成分を意味する。ペトロラタムは非晶質ろうとも称され、化学的に不活性で、常温付近で粘性を有し、鋼面への粘着性が良く、透湿性がほとんどなく、酸素を遮断するという特性を有する。よって本発明において用いられる石油ワックスがペトロラタムを主成分とする場合、被覆対象物に対して特に優れた防食性能が付与される。
【0019】
防食シート層としては、基材1質量部に対する石油ワックスの含有量が1〜10質量部の範囲内であるものが好ましい。石油ワックスの含有量をこの範囲内に設定した場合、防食性能が特に良好であり、また防食シート層とフィルム層との粘着性も特に良好となる。基材1質量部に対する石油ワックスの含有量が1質量部より少ない場合は、防食性能や粘着性が劣る場合がある。一方、基材1質量部に対する石油ワックスの含有量が10質量部を超えて多い場合、防食性能や粘着性はほとんど向上しない反面コストアップとなる傾向がある。
【0020】
基材としては、たとえば、綿、麻等の天然繊維、ポリエステル、ナイロン等の化学繊維、等からなる不織布、織布等を好ましく使用でき、石油ワックス等の成分を良好に含浸させることができる点で不織布が特に好ましい。
【0021】
なお、石油ワックスは、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分として従来公知の防錆剤、フィラー、粘着剤等を適宜配合した組成物とすることができる。また本発明において形成される防食シート層は、粘着剤を含有する防食テープからなるものでも良い。
【0022】
[フィルム層]
本発明の防食被覆材において形成されるフィルム層は、少なくとも防食シート層との貼合面において多孔質であれば良く、単層フィルムでも多層フィルムでも良い。本発明において多孔質であるとは、独立孔および/または連続孔を複数有することを意味する。フィルム層が、少なくとも防食シート層との貼合面において多孔質であることによって、該多孔質の独立孔および/または連続孔が形成する空隙部に防食シート層中の石油ワックスが含浸され、防食シート層とフィルム層との粘着性が極めて良好になる。これにより、特に気温が高い夏場においても防食シート層とフィルム層との間の剥離が良好に防止される。なおかつ、フィルム層の他方の面は、粘着剤等を用いて保護カバーへ容易に貼り付けることができる。このため、防食被覆材を被覆対象物に適用する際に防食シート層と保護カバーとの間で剥離が生じず、施工性を顕著に向上させることができる。
【0023】
フィルム層は、基層と、該基層の片面または両面に形成された多孔質表層とを有する多層フィルムであり、該基層は、非多孔質または独立孔を有する多孔質からなり、多孔質表層は、独立孔および/または連続孔を有する多孔質からなり、フィルム層は多孔質表層において防食シート層と貼合されることが好ましい。
【0024】
この場合、多孔質表層の空隙部に防食シート層中の石油ワックスが含浸され、防食シート層とフィルム層との粘着性が良好となり剥離が防止される。一方、基層が連続孔を有さないことにより石油ワックスが該基層を透過しないため、フィルム層の防食シート層との貼合面と反対側の面への石油ワックスの染み出しによって生じる施工性の悪化をより良好に防止できる。なお、多孔質表層および基層は、それぞれ単層構造でも多層構造でも良い。
【0025】
多孔質表層が防食シート層との貼合面側にのみ形成されていても施工性の向上効果は良好に得られるが、多孔質表層が基層の両面に形成されている場合、フィルム層とたとえば保護カバーとを粘着剤を用いて貼り合せる際、粘着剤が、フィルム層の保護カバー側に形成された多孔質表層に含浸されるため、フィルム層と保護カバーとの粘着性を向上させることができるという利点も得られる。
【0026】
図2は、本発明において用いられるフィルム層の構成の例を示す断面図である。図2には、基層121の両面に多孔質表層122,123が形成される場合について示している。図2のような構成のフィルム層においては、多孔質表層122,123のいずれが防食シート層との貼合面とされても良い。また多孔質表層122と多孔質表層123との材質および形態は同一でも異なっていても良い。
【0027】
基層としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)等の樹脂からなる、延伸フィルムまたは無延伸フィルムを例示できる。基層が独立孔を有する場合、該独立孔は、たとえば無機充填材等を含むフィルムの延伸によって形成されるミクロボイドであることができる。
【0028】
基層の厚みは、10〜500μmの範囲内であることが好ましい。基層の厚みが10μm以上である場合、フィルムの強度を確保できる上、フィルム層の防食シート層との貼合面と反対側の面、すなわち保護カバーとの貼合面への石油ワックスの染み出しをより良好に防止でき、500μm以下である場合、フィルムの柔軟性があり、防食シート層への追従性が良くなる点で有利である。
【0029】
多孔質表層としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)等からなる層を例示できる。多孔質表層は、たとえば、独立孔および/または連続孔を有する多孔質フィルムとして形成されることができる。該独立孔は、たとえば無機充填材等を含むフィルムの延伸によって形成されるミクロボイドであることができる。
【0030】
多孔質表層の厚みは、2〜100μmの範囲内であることが好ましい。多孔質表層の厚みが2μm以上である場合、防食シート層とフィルム層との粘着性が特に良好であり、100μm以下である場合、フィルムの柔軟性があり、防食シート層への追従性が良くなる点で有利である。
【0031】
なお上述した多層フィルムは、上記の基層と多孔質表層とを少なくとも有していれば良く、基層と多孔質表層とのみからなるものでも良いが、本発明の効果を損なわない範囲でさらに別の層を有しても良い。
【0032】
[保護カバー付き防食被覆材]
本発明はまた、前述の防食被覆材と保護カバーとを少なくとも有し、該防食被覆材のフィルム層側の面を保護カバーに貼り付けてなる保護カバー付き防食被覆材を提供する。図3は、図1に示した防食被覆材に粘着剤を用いて保護カバーを貼り付けてなる保護カバー付き防食被覆材の構成の例を示す断面図である。図3に示す保護カバー付き防食被覆材200においては、防食シート層11の一方の面に、フィルム層12、粘着剤層13、保護カバー14がこの順に形成され、該防食シート層11の他方の面に離型フィルム15が形成されている。本発明の防食被覆材は、典型的には図3に示すように、予め保護カバー14と貼り合わされた上で、鋼矢板等の被防食構造物に対して施工される。
【0033】
本発明の保護カバー付き防食被覆材における防食被覆材と保護カバーとの貼り合わせの好ましい態様としては、図3に示すような粘着剤層13を用いた貼り合わせを例示できる。粘着剤層13としては、たとえば、アクリル系、ウレタン系、天然ゴム系、スチレンブタジエン系、イソブチレン系、スチレンイソプレン系等の粘着剤を好ましく使用できる。
【0034】
保護カバー14としては、たとえば、FRP(繊維強化樹脂)を好ましく使用できる。
鋼矢板等の被防食構造物に対して保護カバー付き防食被覆材200を施工する際には、離型フィルム15が剥がされ、防食シート層11の面が被防食構造物に対して貼合される。
【0035】
[防食被覆材の施工]
図4は、本発明に係る防食被覆材が施工された鋼矢板の例を示す図である。図4に示す防食施工鋼矢板300においては、鋼矢板31の表面の付着生物、浮き錆等の除去、等を行なって表面を清浄化することによって素地調整面32が形成され、該素地調整面32に、たとえばペトロラタム、腐食抑制剤、充填剤等を含有する防食ペースト33を介して、図3に示した保護カバー付き防食被覆材200が貼り合わされることにより、防食シート層11、フィルム層12、粘着剤層13、保護カバー14からなる保護カバー付き防食被覆材が貼り合わされている。鋼矢板31から保護カバー14までをボルトナット34やタイロッド35等で固定すれば、鋼矢板31に防食被覆材が施工された防食施工鋼矢板300が形成される。本発明の防食被覆材は、施工の際、防食シート層11と保護カバー14との間で剥がれが発生しないので、鋼矢板のような平板状の構造材に対しても良好な施工性を発揮する。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
[実施例1,2、比較例1]
<防食シート層>
下記の配合成分を混合して含浸材を調製した。
ペトロラタム(山文油化製、商品名「PH05」):65.4質量部
クレー(白石カルシウム製、商品名「ハードトップクレーS」):34.5質量部
タンニン酸:0.1質量部
上記で得た含浸材を、ポリエステル不織布からなる基材に100〜120℃の温度条件で含浸させ、防食シート層を得た。得られた防食シート層中のペトロラタムの含有率は、不織布1質量部に対して6質量部であった。
【0038】
<フィルム層>
各実施例および比較例1で用いたフィルム層は下記の通りである。
実施例1:ユポ・コーポレーション製「YUPO FPG−60」(厚み60μm)であり、基層の両面に多孔質表層を有し、基層および多孔質表層には微細空孔が独立孔として存在する。基層および多孔質表層はポリプロピレンを主成分とし無機充填剤と少量の添加剤とを含む。
実施例2:日清紡績株式会社製「ピーチコート SPB−80」(厚み80μm)であり、ポリプロピレンフィルムからなる基層(厚み50μm)の片面に、連続孔を有する多孔質表層(厚み30μm)を有する。
比較例1:片面にコロナ放電処理を施した、非多孔質の直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(厚み25μm)である。
【0039】
<試験体の作製>
図5は、各実施例および比較例1におけるズレ試験の実施方法について説明する斜視図であり、図6は、各実施例および比較例1におけるズレ試験の実施方法について説明する平面図である。まず、図6に示すように、ガラス繊維強化ポリエステルからなるFRP板51の表面に、両面テープ54を介して、フィルム層53、防食シート層52を貼り合せた。実施例2においてはフィルム層の多孔質表層側の面が、比較例1においてはフィルム層のコロナ放電処理側の面が、それぞれ防食シート層との貼合面となるようにした。
【0040】
各実施例および比較例1における貼り合わせは、2kgの荷重で5秒間圧着する条件で行なった。また防食シート層52、フィルム層53、両面テープ54は、それぞれ50mm×50mmとし、隣接する層が互いに全面で貼合されるようにした。
【0041】
次に、防食シート層52に100gの重り56を繋げて試験体を作製した。試験体は、各実施例および比較例1につき、後述の3条件での試験に供するために3個ずつ作製した。
【0042】
<ズレ試験>
上記の重り56を下げた状態で、試験体を、23℃で73時間、40℃で43時間、50℃で24時間の3条件でそれぞれ静置し、静置後の試験体の状態をそれぞれ目視で評価した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
フィルム層として表面が多孔質でないポリエチレンフィルムを用いた比較例1においては、防食シート層とフィルム層との間で剥離が生じた。これは、フィルム層の表面が多孔質でないために防食シート層とフィルム層との粘着性が悪かったためと考えられる。
【0045】
一方、フィルム層として多孔質表層を有するフィルムを用いた実施例1,2においては、防食シート層とフィルム層との間、およびフィルム層と両面テープとの間のいずれにおいても剥離が生じなかった。これは、防食シート層とフィルム層との粘着性が良好で、かつ防食シート層中のペトロラタムの両面テープ側への染み出しが生じなかったためと考えられる。
【0046】
上記の結果から、本発明の防食被覆材においては、防食シート層とフィルム層との粘着性が良好で、かつ防食シート層中の石油ワックスのフィルム層の透過を防止できることが分かる。
【0047】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の防食被覆材およびこれを有する保護カバー付き防食被覆材は、たとえば鋼矢板等の平板状の構造材に対して特に好ましく適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る防食被覆材の構成の例を示す断面図である。
【図2】本発明において用いられるフィルム層の構成の例を示す断面図である。
【図3】図1に示した防食被覆材に粘着剤を用いて保護カバーを貼り付けてなる保護カバー付き防食被覆材の構成の例を示す断面図である。
【図4】本発明に係る防食被覆材が施工された鋼矢板の例を示す図である。
【図5】各実施例および比較例1におけるズレ試験の実施方法について説明する斜視図である。
【図6】各実施例および比較例1におけるズレ試験の実施方法について説明する平面図である。
【符号の説明】
【0050】
100 防食被覆材、200 保護カバー付き防食被覆材、300 防食施工鋼矢板、11,52 防食シート層、12,53 フィルム層、13 粘着剤層、14 保護カバー、15 離型フィルム、121 基層、122,123 多孔質表層、31 鋼矢板、32 素地調整面、33 防食ペースト、34 ボルトナット、35 タイロッド、51 FRP板、54 両面テープ、56 重り。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防食シート層と前記防食シート層に貼合されたフィルム層とを少なくとも有し、
前記防食シート層は、基材に少なくとも石油ワックスが含浸されてなり、
前記フィルム層は、少なくとも前記防食シート層との貼合面において多孔質である、防食被覆材。
【請求項2】
前記フィルム層は、基層と、前記基層の片面または両面に形成された多孔質表層と、を有する多層フィルムであり、
前記基層は、非多孔質または独立孔を有する多孔質からなり、
前記多孔質表層は、独立孔および/または連続孔を有する多孔質からなり、
前記フィルム層は前記多孔質表層において前記防食シート層と貼合されてなる、請求項1に記載の防食被覆材。
【請求項3】
前記石油ワックスがペトロラタムを主成分とする、請求項1または2に記載の防食被覆材。
【請求項4】
前記基材が不織布からなる、請求項1〜3のいずれかに記載の防食被覆材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の防食被覆材と保護カバーとを少なくとも有し、
前記防食被覆材の前記フィルム層側の面を前記保護カバーに貼り付けてなる、保護カバー付き防食被覆材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−280593(P2008−280593A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127023(P2007−127023)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000114710)ヤマウチ株式会社 (82)
【Fターム(参考)】