説明

防黴性を有するポリエステル複合繊維

【課題】特にバインダー繊維として用いると、熱接着させる際には低い温度で加工することができ、寸法安定性よく地合、柔軟性、機械的特性、防黴性に優れた織編物、不織構布等の製品を得ることができる防黴性を有するポリエステル複合繊維を提供する。
【解決手段】テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、融点(TmA)が100〜150℃、かつDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が特定式を満足するポリエステルAと、トリアゾール系有機化合物を主成分とする防黴剤を含有しているポリエステルBとで構成されたポリエステル複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低融点でありながら結晶性に優れたポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配した繊維であり、操業性よく得ることができ、特にバインダー繊維として用いることが好適な熱接着性を有し、かつ防黴性も有している防黴性を有するポリエステル複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維、特にポリエステル繊維は、その優れた寸法安定性、耐候性、機械的特性、耐久性、さらにはリサイクル性等から、衣料、産業資材として不可欠のものとなっており、様々な分野において、ポリエステル繊維が多く使用されている。
【0003】
近年、自動車用内装材等において、バインダー繊維を用いて構成繊維を接着した不織構造物が提案されている。これらの不織構造物は主としてポリエステル系繊維からなるため、接着を目的としたバインダー繊維もリサイクルの観点よりポリエステル系重合体からなる繊維を用いることが好適である。
【0004】
このようなバインダー繊維としては、ポリエチレンテレフタレートを芯部とし、イソフタル酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合体を鞘部とした芯鞘型複合短繊維が挙げられる。この繊維は、高融点の芯部と低融点の鞘部とからなるため、熱処理の際に、芯部を溶融させず繊維形態を保持させ、鞘部のみを溶融させることにより、強度に優れた不織布を得ることができる。
【0005】
しかしながら、鞘部のイソフタル酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合体は、非晶性であり明確な結晶融点を示さないため、ガラス転移点以上の温度で軟化が始まる。また、明確な結晶融点を示さないポリマーを用いて短繊維を製造する場合、延伸・熱処理工程において熱処理温度を100℃以上とすると、繊維の融解・膠着が生じ、実施が困難となる。このため、延伸・熱処理工程を低温で行うこととなり、得られる短繊維は熱収縮率が高く、熱接着時の収縮が大きいものとなる。
【0006】
そして、このような短繊維をバインダー繊維として使用した製品は、寸法安定性が悪く、また、高温雰囲気下で使用した場合、接着強力が低下して変形するという問題が生じていた。
【0007】
上記問題を解決するものとして、特許文献1に芯鞘型の複合繊維が記載されている。この繊維は、芯部にポリエチレンテレフタレートを配し、鞘部にテレフタル酸成分、脂肪族ラクトン成分、エチレングリコール成分及び1,4−ブタンジオール成分を共重合したポリエステル系共重合体を配した芯鞘型複合繊維である。
【0008】
この複合繊維は、鞘部の共重合体は結晶性であり明確な融点を示すため、繊維を得る際の延伸・熱処理工程を高温で行うことができ、熱収縮率の低い繊維を得ることができる。このため、加熱接着処理の際に収縮することがなく寸法安定性に優れ、また、高温雰囲気下で使用した際の耐熱性にも優れた織編物や不織布等の繊維製品を得ることができる。しかしながら、この共重合ポリエステルは融点が150〜200℃の範囲のものであり、まだ低融点領域であるとはいえず、熱接着させる際には加工温度を高くする必要があり、コスト的にも不利であった。
【0009】
また、近年、消費者の健康、衛生、快適性に対する意識の高まりから、種々の防黴性繊維が実用化されている。その中でも、寝装具やエアコンフィルター、水処理フィルター等の用途においては、繊維に付着した有機物等を栄養分として黴が繁殖しやすいため、防黴性が強く求められている。そして、バインダー繊維を用いて得られた繊維製品が防黴性を有していることも要望されており、繊維製品に良好な防黴性を付与することができるバインダー繊維が要望されている。
【0010】
従来、織編物や不織布等の繊維構造物に各種機能剤を固定化する方法として、浸漬法、スプレー法、コーティング法、パッド法等の後加工法が知られており、特許文献2には防黴剤を含む処理液を後工程にて付与した防黴性繊維構造物が提案されている。
【0011】
しかしながら、これらの繊維構造体は表面に防黴剤を固着させているため、摩擦、磨耗、洗濯等により防黴剤が脱落しやすく、防黴性能の耐久性に問題があった。また、優れた防黴性を有する防黴剤として、塩化ベンザルコニウム、8-キノリノール、クレゾール等に代表される有機系防黴剤があるが、これらは一般に耐熱性に乏しく、溶融紡糸時に熱劣化、分解して防黴性能が低下したり、分解物による繊維の着色が生じたりするという欠点があるため、繊維中に含有させることは困難であった。
【0012】
特許文献3には、防黴抗菌作用を有する化合物として、アルカリ性無機化合物とその他無機化合物からなる複合化合物(炭酸カルシウム粒子とアルミナ、シリカを焼成した複合化合物)を含有する抗菌防カビ性ポリエステル繊維が記載されている。
【0013】
特許文献3記載のポリエステル繊維は、防黴抗菌作用を有する化合物をポリエステル中に含有させて溶融紡糸して得られたものであるが、このポリエステル繊維が含有する防黴剤は無機系化合物からなるものであり、防黴性、防黴性の耐久性ともに不十分であり、防黴剤を含有することによるポリエステル繊維の着色の改善も不十分なものであった。
【特許文献1】特開2006−118066号公報
【特許文献2】特開平7−70935号公報
【特許文献3】特開2004−091998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記の問題点を解決するものであって、低融点でありながら結晶性に優れたポリエステルを用いることで、通常の製造装置で溶融紡糸、延伸を行い操業性よく生産することができるポリエステル繊維であって、特にバインダー繊維として用いると、熱接着させる際には低い温度で加工することができ、寸法安定性よく地合、柔軟性、機械的特性、防黴性、防黴性の耐久性に優れた織編物や不織布等の繊維製品を得ることができる防黴性を有するポリエステル複合繊維を提供することを技術的な課題とするものである。さらには、溶融紡糸することにより得られた防黴剤を含有する繊維であって、防黴性、防黴性の耐久性ともに優れ、また、防黴剤を含有することによる繊維の着色(黄変)も防ぐことができ、各種フィルター、メッシュシート用途に好適に使用することができる防黴性を有するポリエステル複合繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、融点(TmA)が100〜150℃、かつDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足するポリエステルAと、ポリエステルAの融点(TmA)と融点又は流動開始温度(TmB)との差(TmB−TmA)が+5℃以下であり、トリアゾール系有機化合物を主成分とする防黴剤を含有しているポリエステルBとで構成された複合繊維であって、単糸の横断面形状においてポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配されていることを特徴とする防黴性を有するポリエステル複合繊維を要旨とするものである。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) ・・・ (1)
なお、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維は、低融点でありながら結晶性に優れ、特に降温時の結晶化速度が速いポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配したものであるため、紡糸工程においては単糸間の溶着がなく、延伸、熱処理工程においては高温で熱処理を行うことができるので、乾熱収縮率の小さいものとすることができる。そして、本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維をバインダー繊維として用いると、熱接着処理時に低い温度でポリエステルAを溶融させて接着成分とすることができ、コスト的に有利であり、また、熱接着性にも優れている。このように、本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維をバインダー繊維として使用することにより、寸法安定性よく各種の用途に用いることができる織編物、不織布等の繊維製品を得ることが可能となる。
【0017】
さらには、本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維は、トリアゾール系有機化合物を主成分とする防黴剤を用い、ポリエステルB中に防黴剤を含有させて溶融紡糸して得たものであるため、防黴性及び防黴性の耐久性に優れるとともに、繊維の着色も生じることがなく、品位に優れるものである。そしてポリエステルBは、熱接着処理によりポリエステルAとともに溶融すると、防黴剤を含有する接着成分となるので、本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維を少なくとも一部に用いた織編物、不織布等の繊維製品に優れた防黴性を付与することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維は、ポリエステルAとポリエステルBとで構成されるものであり、ポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めている複合繊維である。
【0019】
つまり、本発明の複合繊維は、マルチフィラメントでもモノフィラメントでもよいが、単糸の横断面形状(繊維軸方向に沿って垂直に切断した断面の形状)においてポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めているものである。このような形状としては、サイドバイサイド型や偏心芯鞘型、多層型のもの等が挙げられるが、中でも単糸の横断面形状においてポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部に配された芯鞘形状であることが好ましい。
【0020】
まず、ポリエステルAについて説明する。ポリエステルAは、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、融点が100〜150℃の共重合ポリエステルである。
【0021】
ポリエステルAの融点(TmA)は100〜150℃であり、中でも110〜140℃であることが好ましい。TmAが100℃未満であると、本発明の複合短繊維を用いて得られた不織布等の製品は、高温雰囲気下で使用した場合の熱安定性(耐熱性)に劣るものとなる。一方、150℃を超えると、製品を得る際の熱接着加工温度を高くする必要があり、加工性、経済性に劣る。また、熱処理により得られる製品の品質や風合い等を損ねるため好ましくない。
【0022】
ポリエステルAは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主成分とするものであり、テレフタル酸(以下、TPAとする)は60モル%以上、中でも80モル%以上であることが好ましい。TPAが60モル%未満であると、ポリマーの融点が本発明の範囲外のものとなったり、結晶性が低下しやすくなるため好ましくない。
【0023】
なお、TPA以外の共重合成分としては、その効果を損なわない範囲であれば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フタル酸、イソフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、などに例示される芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
【0024】
ジオール成分としては、1,6−ヘキサンジオール(以下、HDとする)が50モル%以上であり、他の成分としてはエチレングリコール(以下、EGとする)や1,4−ブタンジオール(以下、BDとする)を用いることが好ましい。ジオール成分において、HDは50モル%以上であり、中でも60〜95モル%であることが好ましい。HDが50モル%未満の場合、融点が150℃を超えるものとなる。
【0025】
ジオール成分として、HDとともにEGやBDを用いる際には、EGやBDをジオール成分において、5〜50モル%とすることが好ましく、中でも5〜40モル%とすることが好ましい。
【0026】
さらに、ジオール成分には、HD、EGやBD以外の他の共重合成分として、その特性を損なわない範囲で、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビスフェノールA、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコールなどに例示される芳香族グリコールを用いることができる。
【0027】
そして、ポリエステルAは、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有するものであり、中でも0.5〜3.0質量%含有することが好ましい。
【0028】
ポリエステルAは、上記のような共重合組成であることにより、結晶性を有しているものであるが、結晶核剤を含有することによって降温時の結晶化速度を向上させることができ、後述する(1)式を満足することができるものとなる。そして、ポリエステルAを繊維化する際、溶融紡糸工程においては単糸間の溶着を生じることなく、延伸、熱処理工程においては高温で熱処理することが可能となるため、乾熱収縮率の低い繊維とすることができる。
【0029】
結晶核剤の含有量が0.01質量%未満であると、降温時の結晶化速度を向上させることができず、ポリエステルAは後述する(1)式を満足することができない。一方、5.0質量%を超えると、結晶核剤の含有量が多くなりすぎ、紡糸、延伸時の操業性を悪化させることとなる。また、操業性が悪化することで糸質のバラツキが大きくなり、繊維の乾熱収縮率も高くなる。
【0030】
結晶核剤としては、無機系微粒子やポリオレフィン、硫酸塩等を使用することが好ましい。無機系微粒子としては、中でもタルクなどの珪素酸化物を主成分としたものが好ましく、平均粒径3.0μm以下もしくは比表面積15m/g以上の無機系微粒子を用いることが好ましい。上記平均粒径もしくは比表面積を満足していない場合、結晶核としての機能に乏しく、ポリエステルAは後述する(1)式を満足することが困難となりやすい。
【0031】
また、結晶核剤として含有させるポリオレフィンは、反応系内で溶融するため、形状については特に限定するものではなく、例えば粒径2mm程度のチップ状のものや、粒径数μmのワックス状のものであってもよい。
【0032】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリメチルペンテン、ポリメチルブテンなどのオレフィン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体などを挙げることができ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、プロピレン・エチレンランダム共重合体が特に好ましい。なお、ポリオレフィンが炭素原子数3以上のオレフィンから得られるポリオレフィンである場合には、アイソタクチック重合体であってもよく、シンジオタチック重合体であってもよい。
【0033】
結晶核剤として含有させる硫酸塩は、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウムなどを挙げることができ、中でも結晶核剤としての効果の点から、硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウムが好ましい。
【0034】
これらの結晶核剤を添加する方法としては、粉体のまま、あるいはジオールスラリーの形態でポリエステルを製造する際の任意の段階で添加すればよい。例えば、エステル化またはエステル交換反応時に添加してもよいし、重縮合反応の段階で添加してもよい。中でも、結晶核剤としての効果を良好なものとするには、エチレングリコール等のグリコールにスラリー状態あるいは溶解させた状態で添加することが好ましい。
【0035】
また、ポリエステルA中には、本発明の効果を損なわない範囲で、リン酸エステル化合物やヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい。
【0036】
そして、ポリエステルAは、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記(1)式を満足するものであり、中でもb/a≧0.06であることが好ましい。一方、b/aが大きいほど降温時の結晶性に優れるものとなるが、本発明で目的とする効果を奏するには、b/aを0.5以下とすることが好ましい。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) (1)
【0037】
本発明におけるポリエステルAの融点とDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線は、パーキンエルマー社製示差走査型熱量計(Diamond DSC)を用いて、窒素気流中、温度範囲−20℃〜250℃、昇温(降温)速度20℃/分、試料量2mg(繊維の質量)で測定する。
【0038】
上記b/aは、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線より求められる。そして、図1に示すように、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
【0039】
b/aは、降温時の結晶性を表す指標であり、b/aの値が高いと結晶化速度が速く、逆に0に近いほど、結晶化速度が遅いことを示している。b/aが0.05(mW/mg・℃)未満の場合、結晶化速度が遅いため、溶融紡糸時に単糸間の溶着が発生し、紡糸操業性が悪くなる。また、延伸・熱処理工程における熱処理温度を高くすると、繊維の融解・膠着が生じ、高温での熱処理を行うことができないため熱収縮率の低い繊維を得ることができない。
【0040】
上記したように、b/aは、ポリエステルの共重合組成を特定のものとし、結晶核剤の含有量を上記範囲の量とすることにより、本発明で規定する範囲のものにすることができる。
【0041】
次にポリエステルBについて説明する。ポリエステルBはトリアゾール系有機化合物を主成分とする防黴剤が含有されているポリエステルであって、ポリエステルAの融点(TmA)とポリエステルBの融点又は流動開始温度(TmB)との差(TmB−TmA)が+5℃以下となるものである。
【0042】
本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維はバインダー繊維として用いることが好ましいものであり、ポリエステルA、ポリエステルBともに熱接着処理により溶融させて接着成分とすることが好ましいものである。そして、織編物や不織布等の繊維構造物を得る際には、ポリエステルAの融点より高い融点を有する他の繊維を主体繊維として用いることが好ましい。
【0043】
ポリエステルBはトリアゾール系有機化合物を主成分とする防黴剤を含有したものであるため、ポリエステルBが溶融して接着成分となると、ポリエステルAとポリエステルBとからなる接着成分中に防黴剤が含有されることとなり、他の繊維からなる主体繊維を良好に接着することができるとともに、主体繊維からなる繊維構造物(織編物や不織布等)に防黴性を付与することが可能となるものである。
【0044】
通常、熱接着処理温度は、繊維表面に配されているポリエステルAの融点より10℃高い温度で行うものであるため、このような熱接着処理温度でポリエステルBが溶融するためには、ポリエステルBの融点又は流動開始温度は、ポリエステルAの融点より高くても5℃以下とすることが好ましく、中でもポリエステルAの融点より低いことが好ましい。
【0045】
したがって、ポリエステルBの融点又は流動開始温度(TmB)とポリエステルAの融点(TmA)との差(TmB−TmA)を+5℃以下とするものである。なお、TmBが低くなりすぎると、紡糸操業性が悪化するため、(TmA−TmB)が20℃以下とすることが好ましい。
【0046】
さらに、ポリエステルBの融点又は流動開始温度(TmB)は90〜155℃、中でも100〜135℃とすることが好ましい。
【0047】
ポリエステルBとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートを主体とするものが好ましい。そして、上記のような融点や流動開始温度のものとするには、次に示すような成分を共重合させたものとすることが好ましい。
【0048】
共重合成分としては、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、およびエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールや、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸、ε−カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン等が挙げられる。
【0049】
中でもポリエステルBは、ポリエステルAと同程度もしくはそれ以下の融点又は流動開始温度とすることが好ましく、TPA成分、EG成分を含有する共重合ポリエステルであって、非晶性のものが好ましい。共重合成分として好ましいのはイソフタル酸、あるいはアジピン酸などの芳香族カルボン酸成分であり、その共重合量は全酸成分に対して25〜40モル%とすることが好ましく、中でも27〜35モル%とするのがより好ましい。共重合量が25モル%未満であると流動開始温度が高くなりやすく、一方、共重合量が40モル%より多いと、Tgが低くなりやすく、紡糸時に単糸密着が発生して製糸性が悪くなりやすい。
【0050】
ポリエステルBを非晶性のものとすることで、熱接着処理により溶融すると流動性が低いものとなり、ポリエステルAは結晶性ポリマーのため溶融すると流動性が高いものとなり、この2種類の成分が接着成分となることで、適度な流動特性を有し、主体繊維(他の繊維)同士を均一かつ良好に接着することができ、品位が高く、接着性に優れた繊維製品を得ることが可能となる。そして、ポリエステルBは防黴剤を含有するものであるので、熱接着処理により溶融すると、防黴性を有する接着成分となり、得られる繊維製品に防黴性を付与することが可能となる。
【0051】
ポリエステルBはトリアゾール系有機化合物を主成分とする防黴剤を含有しているものである。つまり、防黴性能を有する化合物としてトリアゾール系有機化合物を用いるものであり、トリアゾール系有機化合物のみからなる防黴剤、トリアゾール系有機化合物とともに他の成分を含有する防黴剤であってもよい。ただし、他の成分としては、トリアゾール系有機化合物の防黴性能を阻害しない成分、量を用いるものとする。
【0052】
中でも本発明におけるトリアゾール系有機化合物を主成分とする防黴剤としては、トリアゾール系有機化合物を層状珪酸塩の層間に担持させたものを用いることが好ましい。
【0053】
トリアゾール系有機化合物は優れた防黴性を示すとともに、溶融紡糸時の熱劣化が生じにくいものであるため、ポリエステル中に含有させて溶融紡糸することができ、得られた繊維は防黴性に優れるとともに、防黴性の耐久性にも優れたものとなり、さらには、熱変性に伴う繊維の着色(黄変)を抑制することができる。
【0054】
中でも防黴剤として、トリアゾール系有機化合物を層状珪酸塩の層間に担持させたものを使用すると、トリアゾール系有機化合物が無機化合物の層間に担持されていることから、さらに熱劣化の生じにくいものとなる。このため、この防黴剤をポリエステル中に含有させて溶融紡糸すると、得られた繊維はさらに防黴性に優れるとともに、防黴性の耐久性にも優れたものとなり、熱変性に伴う繊維の着色(黄変)もより抑制することが可能となる。
【0055】
そして、トリアゾール系有機化合物としては、α−[2−(4−クロロフェニル)エチル]−α−(1,1−ジメチルエチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル−エタノール、β−(4−クロロフェノキシ)−α−(1,1−ジメチル-エチル)−1H−1,2,4−トリアゾール−1−エタノール等を用いることが好ましい。
【0056】
層状珪酸塩としては、結晶層単位が互いに積み重なって層状構造を呈している珪酸塩であれば特に制限されることなく用いることが可能であり、脆雲母族、合成雲母等を用いることが好ましい。
【0057】
このようなトリアゾール系有機化合物を主成分とする防黴剤としては、大和化学工業社製の『バイオデン』が挙げられ、トリアゾール系有機化合物を層状珪酸塩の層間に担持させた防黴剤としては、東亞合成社製の『カビノン800』が挙げられる。
【0058】
また、ポリエステルB中には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、防黴剤以外にも安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい。
【0059】
ポリエステルAとポリエステルBの複合比率(質量比率)は、20/80〜80/20とすることが好ましく、中でも30/70〜70/30とすることが好ましい。
【0060】
そして、本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維は、繊維中のトリアゾール系有機化合物を主成分とする防黴剤の含有量は0.1〜2.0質量%とすることが好ましく、中でも0.2〜1.5質量%とすることが好ましい。
【0061】
防黴剤の含有量が0.1質量%未満では十分な防黴性が得られにくく、一方、2.0質量%を超えると製糸性が悪化しやすく、また、防黴剤の熱変性による繊維の着色(黄変)が生じやすくなるため好ましくない。
【0062】
本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維は、繊維の着色(黄変)が生じにくいものであるが、その色調は、ミノルタ社製の色彩色差計CR−100を用いて測定したb値が6.0以下であることが好ましく、中でも4.0以下であることが好ましい。なお、b値は繊維の黄−青系の色調(+は黄味、−は青味)を示す値であり、0に近いほど黄味が少なく、繊維として好ましい色調である。
【0063】
また、本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維は、長繊維、短繊維のいずれであってもよく、また、マルチフィラメントでもモノフィラメントのいずれであってもよい。単糸の横断面形状は丸型のみならず扁平型、トリローバル型、ヘキサローバル型、W型、H型等の異形断面や、四角形や三角形等の多角形状、中空形状のものでもよい。
【0064】
そして、本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維は結晶性に優れるポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配されているものであるので、溶融紡糸する際に単糸間の溶着が発生せず、延伸、熱処理を高温で施すことができ、熱収縮率の低い繊維とすることができる。
【0065】
具体的には、本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維を短繊維とする場合は、ポリエステルAの融点をTmAとしたとき、(TmA−30)℃における乾熱収縮率が7%以下であることが好ましく、中でも5%以下であることが好ましく、さらには4.8%以下とすることが好ましい。
【0066】
本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維を短繊維とする場合の乾熱収縮率とは、JIS L−1015の収縮率の測定における乾熱収縮率の測定方法により測定するものであり、初荷重を50mg/デシテックス、つかみ間隔を25mm、処理温度を(TmA−30)℃として測定するものである。なお、繊維長が短くて測定が困難である場合は、短繊維にカットする前の繊維を用いて測定するものとする。
【0067】
(TmA−30)℃における乾熱収縮率を7%以下とすることで、この短繊維をバインダー繊維として不織布等を製造する際に、ウエブ等を熱接着処理する際の収縮が小さくなり、熱接着処理後に得られる不織布等の製品は、地合や均斉に優れるものとなる。一方、(TmA−30)℃における乾熱収縮率が7%を超えるものでは、このような効果を奏することが困難となりやすい。
【0068】
従来のような明確な結晶融点を示さないポリエステルを用いて短繊維を製造すると、溶融紡糸する際に単糸間の溶着が発生するとともに、延伸、熱処理工程において熱処理温度を100℃以上とすると、繊維の融解、膠着が生じ、実施が困難となる。したがって、延伸、熱処理工程を低温で行うこととなり、得られる短繊維は乾熱収縮率が高くなる。このため、このような短繊維をバインダー繊維として不織布を製造すると、ウエブを熱接着処理する際の収縮が大きくなり、得られる不織布は熱接着処理前のウエブの面積と比較したウエブ収縮率が大きくなり、地合や均斉に劣るものとなっていた。
【0069】
そして、防黴性を有するポリエステル複合繊維を短繊維とする場合の繊維長は1〜100mmとすることが好ましく、中でも3〜80mmが好ましい。繊維長が1mm未満であると、切断時の熱によって繊維の融着や膠着が生じやすい。繊維長が100mmを超えると、カード機での解繊性が悪くなり、得られる不織布等の繊維構造物は均斉の劣るものとなりやすい。
【0070】
本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維を短繊維とすると、他の繊維を主体繊維として用いて乾式不織布や湿式不織布、紡績糸を得ることが好適である。
【0071】
次に、本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維を長繊維とする場合は、100℃での熱水収縮率が17%以下であることが好ましく、中でも13%以下、さらには10%以下であることが好ましい。
【0072】
100℃での熱水収縮率が17%を超えると、加工糸や織編物等の布帛にし、熱接着処理した後に、これらの製品の風合いが硬化したり、寸法安定性が悪くなりやすい。そして、繊維が熱接着処理により溶融した際にできるポリマー塊が点在し、非接着体側の繊維の交点に万遍なく行きわたらないことから、接着性も低下する傾向がある。さらに、接着後の染色処理、熱水処理の際には接着部位の剥離が生じやすいものとなる。
【0073】
本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維を長繊維とする場合の熱水収縮率とは、JIS L−1013の熱水収縮率のかせ収縮率(A法)に従って測定するものである。
【0074】
さらに、本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維を長繊維とする場合は、強度が1.0cN/dtex以上であることが好ましく、中でも2.0cN/dtex以上であることが好ましく、さらには、2.5cN/dtex以上であることが好ましい。強度が1.0cN/dtex未満であると、加工糸とする際の仮撚り加工工程やエアーやインターレース等での混繊加工工程、製編織工程における張力や擦過抵抗によって糸切れが発生し、工程通過性が悪くなり、得られる製品の品位も悪化しやすい。
【0075】
また、本発明における強度とは、JIS L−1013の引張強及び伸び率の標準時試験に従い、ORIENTEC社製引っ張り試験機RTC−1210型を用い、つかみ間隔50cm、引張速度50cm/分で測定するものである。
【0076】
本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維は、低融点でありながら結晶性が高く、降温結晶化速度の速いポリエステルAを繊維表面に用いたものであるため、溶融紡糸して得られた未延伸糸を一旦巻き取った後に延伸する二工程法、未延伸糸を一旦巻き取ることなく連続して延伸する一工程法のいずれにおいても、紡糸工程における糸条間の溶着やそれに伴う紡糸糸切れ、さらには捲取パッケージの膠着の発生がなく、生産性よく品質良く得ることができるものである。そして、延伸、熱処理を操業性よく行うことができ、延伸倍率、熱処理温度を調整することにより、強度1.0cN/dtex以上、100℃の熱水収縮率が17%以下の特性を有する長繊維とすることができる。
【0077】
本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維を長繊維とすると、他の繊維を主体繊維に用いて混繊糸とし、モップ等に用いられるブラシ毛部分やカーペット用のパイル糸として好適に用いることができる。また、織編物として、布帛同士を接着させる芯材やフィルター用布帛に好適に用いることができる。
【0078】
さらに、本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維の単糸繊度は、長繊維とする場合は1〜50dtex、中でも3〜30dtexとすることが好ましい。短繊維とする場合は1〜20dtex、中でも1〜15dtexとすることが好ましい。単糸繊度が1dtex未満であると、紡糸、延伸工程において単糸切断が頻発し、操業性が悪化しやすく、得られる織編物や不織布等の製品の強力も劣る傾向となる。一方、単糸繊度が50dtex又は20dtexを超えると紡糸糸条の冷却が不十分となり、得られる繊維の品位が低下しやすくなる。
【0079】
次に、本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維の製造方法について説明する。なお、ポリエステルB中にトリアゾール系有機化合物を主成分とする防黴剤を含有させる方法としては、粒子状態でポリエステルの重合段階や紡糸段階で添加する方法や、ポリエステルB中への練り込みにより高濃度に添加させたマスターチップを作製した後にチップブレンドする方法や、ポリエステルBを計量した後に溶融ブレンドする方法等を挙げることができる。
【0080】
そして、本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維を短繊維(複合繊維)とする場合の製造方法について一例を用いて説明する。トリアゾール系有機化合物を主成分とする防黴剤をポリエステルBの重合段階で添加して得られたポリエステルBのチップとポリエステルAのチップを通常の複合溶融紡糸装置に供給して溶融紡糸を行う。紡出糸条を冷却固化した後、一旦容器へ収納する。そして、この糸条を集束して糸条束とし、ローラ間で延伸倍率2〜4倍程度で延伸を施す。続いて100〜120℃で熱処理し、次いで仕上げ油剤を付与後、スタフィングボックス等で機械捲縮を付与し、目的とする繊維長にカットして短繊維を得る。
【0081】
本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維を長繊維(複合繊維)とする場合の製造方法について一例を用いて説明する。トリアゾール系有機化合物を主成分とする防黴剤をポリエステルBの重合段階で添加して得られたポリエステルBのチップとポリエステルAのチップを通常の複合溶融紡糸装置に供給して溶融紡糸を行う。紡出糸条を冷却固化した後、油剤を付与する。得られた未延伸糸を一旦巻き取った後に、又は巻き取ることなく連続して延伸を施す。未延伸糸を延伸する際には、複数のローラ間で延伸倍率1.3〜4.0倍で延伸し、必要に応じて熱処理を施すことにより長繊維を得る。なお、未延伸糸を一旦巻き取る際には、紡糸速度を2500〜4000m/分として高配向未延伸糸としてパッケージに巻き取り、延伸時の延伸倍率を低く抑えることが好ましい。高配向未延伸糸を用いて、仮撚加工を施したり、エアーやインターレースなどで混繊するといった複合加工を行うことにより、本発明のポリエステル繊維を用いた加工糸を得ることができる。
【実施例】
【0082】
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。実施例中の各種の特性値等の測定、評価方法は次の通りである。
(a)極限粘度〔η〕
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、試料濃度0.5質量%、温度20℃の条件下で常法に基づき測定した。
(b)ポリエステルAの融点、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線
前記の方法により測定した。
(c)ポリエステルBの融点
示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製Diamond DSC)を用い、昇温速度20℃/分で測定した融解吸収曲線の極値を与える温度を融点とした。
(d)ポリエステルBの流動開始温度
フロテスター(島津製作所CFT−500型)を用い、荷重9.8MPa、ノズル径0.5mmの条件で、初期温度50℃より10℃/分の割合で昇温していき、ポリマーがダイから流出し始める温度として求めた。
(e)ポリエステルA、ポリエステルBのポリマー組成
得られたポリエステル繊維を重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA-400型NMR装置にて 1H-NMRを測定し、得られたチャートの各共重合成分のプロトンのピークの積分強度から求めた。
(f)紡糸操業性
紡糸の状況により下記の2段階で評価した。
○:紡糸時の切れ糸回数が1回/トン以下であり、単糸間での溶着がない。
×:紡糸時の切れ糸回数が1回/トンを超えるか、単糸間での溶着の発生がある。
(g)乾熱収縮率
前記の方法で測定した。
(h)防黴性
得られたポリエステル複合繊維(短繊維)から得られた不織布を用い、JIS Z−2911に基づいて試験を行った。1000mlのビーカーに不織布を入れ、ビーカーの底にゴム管を差し入れ、これを通して水を1000ml/minの割合にて連続24時間注ぎ込んだ。次いで、不織布を取り出し、50×50mmにカットし、別の1000mlビーカーに満たした精製水の中で振って洗い、更に1回精製水を取り替えて同様にして洗った。試験片を取り出して精製水を切り、平板培地の培養面の中央に接着するように置き、混合胞子懸濁液を培養面と試験片との面に均等に1mlまきかけ、蓋をして、温度28℃の環境下にて14日間培養した。
培地として、精製水=1000ml、硝酸アンモニウム=3.0g、燐酸カリウム=1.0g、硫酸マグネシウム=0.5g、塩化カリウム=0.25g、硫酸第一鉄=0.002g、寒天=25gの組成のものを使用した。黴の種類として、アスペルギルス ニゲル、ペニシリウム シトリナム、ケトミウム グロボスム、ミロテシウム ベルカリアを使用した。
そして、防黴性(初期評価)は、14日間培養した培地(試料面)の黴の生育状況により、以下の4段階で行った。
◎:黴の生育が試料面の10%未満
○:黴の生育が試料面の10%以上40%未満
△:黴の生育が試料面の40%以上70%未満
×:黴の生育が試料面の70%以上
(i)防黴性の耐久性
得られたポリエステル複合繊維(短繊維)から得られた不織布を用い、家庭用洗濯洗剤を2g/l濃度で含有する40℃の水溶液で5分間洗濯し、流水洗を2分間行って脱水し、更に流水洗を2分間行って脱水した後、乾燥する操作を50回繰り返した(50回洗濯)。
その後、上記防黴性の評価と同様にして14日間培養し、同様に4段階で評価した。
(j)不織布の評価
1.地合
得られた不織布表面の地合を目視にて、良好(○)、不良(×)の2段階で評価した。
2.ウエブ収縮率
不織布を得る際に得られたウエブから、面積A0(タテ20cm×ヨコ20cm=400cm
)のサンプルを切り取り、ポリエステル(A)の融点をTmとしたとき、このサンプルを(Tm+10)℃に設定した熱風乾燥機中に15分間放置し(熱接着処理を行い)、その後(熱接着処理後)の不織布の面積をA1とし、下式により算出するものである。ウエブ収縮率は10%以下、中でも9.5%以下であることが好ましい。
ウエブ収縮率(%)={(A0−A1)/A0}×100
3.柔軟性(風合)
得られた不織布の柔軟性を触感にて判断し、良好(○)、不良(×)の2段階で評価した。
(k)色調
得られた不織布を用い、ミノルタ社製の色彩色差計CR−100を用いてb値を測定し、下記の基準で評価した。
○:4.0未満
×:4.0以上
【0083】
実施例1
エステル化反応缶に、TPAとEGのスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.2MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、エステル化反応率95%の反応物を得た。この反応物を重縮合反応缶に移送し、HDを重縮合反応缶に投入し、温度240℃、常圧下で1時間攪拌した。次に、結晶核剤として平均粒径1.0μm、比表面積35m/gのタルクを含有するEGスラリーを重縮合反応缶に投入した後、反応器内の圧力を徐々に減じ、撹拌しながら重縮合反応を約3時間行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化した。得られたポリエステルAは、酸性分としてTPA、グリコール成分としてEG15mol%、HD85mol%からなり、結晶核剤として0.5質量%のタルクを含有し、極限粘度0.95、融点128℃のものであった。
エステル化反応缶に、TPA、イソフタル酸(IPA)、EG及び防黴剤として、層状珪酸塩の層間にトリアゾール系有機化合物を坦持させたものである『カビノン800』(東亜合成社)を添加し、温度240℃、圧力0.2MPaの条件で3時間撹拌し、エステル化反応を行った後、重縮合反応缶に移送した。そして、反応器内の圧力を徐々に減じ、撹拌しながら重縮合反応を約3時間行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化した。得られたポリエステルBは、酸性分としてTPA67mol%、IPA33mol%、グリコール成分としてヘキサンジオール(HD)100mol%、極限粘度0.79、流動開始温度130℃の共重合ポリエステルで、カビノンを1.0質量%含有したもの(B−1)であった。
ポリエステルAチップとポリエステルBチップを複合紡糸装置に供給し、ポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部となる芯鞘形状となるようにし、両成分の質量比を50/50として溶融紡糸を行った。このとき、紡糸温度220℃、吐出量600g/分、紡糸孔数1014、紡糸速度800m/分の条件で紡糸した。次いで、紡出糸条を18℃の冷風で冷却し、引き取って未延伸糸を得た。
この未延伸糸を集束して11万dtexのトウ状にした未延伸繊維に、延伸倍率3.2倍、延伸温度50℃で延伸を行い、この後、ヒートドラム(温度110℃)で熱処理を施した。次いで、押し込み式クリンパーで捲縮を付与し、繊維長51mmに切断して単糸繊度2.2デシテックスの防黴性を有するポリエステル複合繊維(短繊維)を得た。
得られたポリエステル複合繊維をバインダー繊維とし、主体繊維として、融点256℃のPETからなる、繊度2.2dtex、繊維長51mm、強度5.5cN/dtex、伸度40%、170℃、15分での乾熱収縮率が3.0%の短繊維を用い、混合比率を質量比30/70(バインダー繊維/主体繊維)でカード機を通して乾式ウエブを作成した。得られた乾式ウエブを温度138℃、風量20m/分の連続熱処理機で1分間の熱接着処理を行い、目付け100g/mの乾式不織布を得た。
【0084】
比較例1〜2
ポリエステルAの結晶核剤のタルクの添加量を変更し、表1に示す含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル複合繊維を得た。さらに、実施例1と同様にして乾式不織布を得た。
【0085】
実施例2〜4、比較例3〜4、参考例1〜2
鞘部を構成するポリエステルAとして実施例1のポリエステルを用い、芯部を構成するポリエステルBを表2に記載のものに変更した以外は、実施例1と同様にしてとしてポリエステル複合繊維を得た。さらに、実施例1と同様にして乾式不織布を得た。
【0086】
実施例5
エステル化反応缶に、TPA、HD、BDを供給し、結晶核剤として平均粒径1.0μm、比表面積35m/gのタルクを添加し、温度230℃、圧力0.2MPaの条件で3時間撹拌し、エステル化反応を行った後、重縮合反応缶に移送した。そして、反応器内の圧力を徐々に減じ、撹拌しながら重縮合反応を約3時間行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化した。得られたポリエステルAは、酸性分としてTPA、グリコール成分としてBD20mol%、HD80mol%からなり、結晶核剤として0.5質量%のタルクを含有し、極限粘度0.98、融点130℃のものであった。
ポリエステルBとして実施例1で用いた共重合PET(B−1)を用い、ポリエステルAチップとポリエステルBチップを用い、実施例1と同様にしてポリエステル複合繊維を得た。そして、得られたポリエステル複合繊維を用い、乾式ウエブを熱接着処理する際の温度を140℃に変更した以外は、実施例1と同様にして乾式不織布を得た。
【0087】
実施例1〜5、比較例1〜4、参考例1〜2で得られたポリエステル複合繊維と乾式不織布の特性値及び評価結果を表1に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
表1から明らかなように、実施例1〜5の防黴性を有するポリエステル複合繊維は、ポリエステルAが(1)式を満足し、結晶性が高いものであったため、ポリエステルAを鞘部、ポリエステルBを芯部とした複合繊維を紡糸操業性よく得ることができた。また、延伸、熱処理を良好に行うことができ、乾熱収縮率の低いものとすることができた。そして、これらの複合繊維から不織布を得る際にはウエブ収縮率が低く、寸法安定性よく得ることができた。また、ポリエステルBはトリアゾール系有機化合物を主成分とする防黴剤を含有しており、得られた不織布は、地合、柔軟性、防黴性、防黴性の耐久性、色調ともに優れたものであった。
【0091】
一方、比較例1のポリエステル複合繊維は、結晶核剤としてのタルクの含有量が多かったため、紡糸時に切れ糸が発生し、操業性が悪かった。これにより糸質のバラツキが大きくなり、乾熱収縮率が高くなり、不織布を得る際にはウエブ収縮率が大きく、得られた不織布は地合が悪く柔軟性に乏しいものであった。比較例2のポリエステル複合繊維は、結晶核剤の含有量が少なすぎたため、結晶化速度が遅くなり、ヒートドラム温度を実施例1と同様の温度では熱処理できず、熱処理温度を低くしたため、得られた繊維は乾熱収縮率の大きいものとなった。このため、不織布を得る際のウエブ収縮率が大きく、得られた不織布は地合が悪く柔軟性に乏しいものであった。比較例3のポリエステル複合繊維は、防黴剤を含有していなかったため、防黴性を有していなかった。比較例4のポリエステル複合繊維は、ポリエステルBの流動開始温度が高かったため、実施例1と同様の熱接着処理温度(138℃)では、ポリエステルBの流動がなく溶融しなかった。このため、防黴剤が接着成分に存在せず、得られた不織布は防黴性能に乏しく、柔軟性にも乏しいものとなった。
【0092】
参考例1のポリエステル複合繊維は、防黴剤の含有量が多かったため、紡糸時に切れ糸が発生し、操業性が悪かった。これにより糸質のバラツキが大きくなり、乾熱収縮率が高くなり、不織布を得る際にはウエブ収縮率が大きく、得られた不織布は地合が悪く柔軟性に乏しいものとなり、さらは色調の悪いものとなった。参考例2のポリエステル複合繊維は、流動開始温度が低すぎるポリエステルBを用いたものであったため、ヒートドラム温度を実施例1と同様の温度では熱処理できず、熱処理温度を低くしたため、得られた複合繊維は乾熱収縮率の大きいものとなった。このため、不織布を得る際のウエブ収縮率が大きく、得られた不織布は地合、柔軟性に劣るものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の防黴性を有するポリエステル複合繊維を構成するポリエステルAのDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線の一例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、融点(TmA)が100〜150℃、かつDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足するポリエステルAと、ポリエステルAの融点(TmA)と融点又は流動開始温度(TmB)との差(TmB−TmA)が+5℃以下であり、トリアゾール系有機化合物を主成分とする防黴剤を含有しているポリエステルBとで構成された複合繊維であって、単糸の横断面形状においてポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配されていることを特徴とする防黴性を有するポリエステル複合繊維。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) ・・・ (1)
なお、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
【請求項2】
トリアゾール系有機化合物を主成分とする防黴剤が、トリアゾール系有機化合物を層状珪酸塩の層間に担持させたものである請求項1記載の防黴性を有するポリエステル複合繊維。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−275324(P2009−275324A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129891(P2008−129891)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】