説明

限界電流式酸素センサ

【目的】優れた熱効率と優れた限界電流特性を実現した薄膜型の限界電流式酸素センサを提供することを目的とする。
【構成】シリコン基板11上にシリコン酸化膜12を介してZrO2 −Y23膜13が形成され、この上に櫛形パターンをもって互いに噛み合うカソード電極14とアノード電極15が形成され、この上に気体拡散層16が形成され、更にこの上にヒータ電極17が配設されている。ヒータ電極17は、カソード電極14とアノード電極15の間隙部を覆うように蛇行パターンをもって形成されて、ZrO2 −Y23 膜13のうち実際にイオン伝導が生じるカソード電極14とアノード電極15の間に位置する部分が効果的に加熱される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、限界電流式酸素センサに係り、特にイオン伝導体や電極を薄膜技術により形成した薄膜型の限界電流式酸素センサに関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、イットリウム(Y)で安定化した酸化ジルコニウム、即ちジルコニア−イットリア(ZrO2 −Y23 )をイオン伝導体(固体電解質)として用いたセラミック酸素センサが知られている。バルク型のセラミック酸素センサでは、ZrO2 −Y23 イオン伝導体バルクをプレス成形,焼成により得て、これに触媒作用を有するPt電極を、Ptペーストの印刷,焼成により形成している。その様な従来のバルク型の限界電流式酸素センサを図4(a) 〜(c) に示す。図4(a) では、イオン伝導性を示すZrO2 −Y23 焼結体基板1の両面に印刷法によってPtカソード電極2,アノード電極3が形成された素子チップが、支持基体4にガラス材5によって所定の間隔を保って支持されている。支持基体4には小さい気体拡散孔6が形成され、またその上にはZrO2 −Y23 焼結体基板1を活性化するためのヒータ7が配設されている。図4(b) では、図4(a)とは逆に素子チップ側に気体拡散孔6が形成されている。図4(c) は、図4(b)の支持気体4とガラス材5の部分を一体に成型したものを用いた例である。
【0003】これらのバルク型のセラミック酸素センサに対して、近年、素子の小型化,微細化,量産化等のために、ZrO2 −Y23 イオン伝導体および電極を蒸着やスパッタ等の薄膜技術により形成する薄膜型のセラミック酸素センサが提案されている。図4(d) はその様な薄膜型の限界電流式酸素センサである。これは、酸素分子の拡散律速により限界電流特性を得るために気体透過性絶縁基板8を用いて、この上にスパッタ法により、Ptカソード電極2′,ZrO2 −Y23 膜1′,Ptアノード電極3′を順次積層形成して得られる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】薄膜型の酸素センサは、小型化と同時に、消費電力の低減も当然に望まれる。特に、イオン伝導体膜を加熱するヒータをどの様に配置して、如何に小さい電力所望の特性を得るかは重要な問題である。また、出力電流が小さい小型の薄膜型酸素センサで優れた限界電流特性を実現するためには、例えばヒータをセンサ本体に一体化した場合にリーク電流が流れるような事態は避けなければならない。従来、この様な点に考慮を払って、優れた熱効率と優れた限界電流特性を実現した薄膜型酸素センサは得られていない。本発明はこの様な点に鑑みなされたもので、優れた熱効率と優れた限界電流特性を実現した薄膜型の限界電流式酸素センサを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、基板上に、酸化物イオン伝導体膜と、このイオン伝導体膜に接して同一平面上で対向する少なくとも一対のカソード電極およびアノード電極とが形成され、かつ前記カソード電極に対する酸素ガス拡散を制限する気体拡散層を有する限界電流式酸素センサにおいて、前記酸化物イオン伝導体膜上の前記カソード電極とアノード電極の間隙部に沿ってヒータ電極が配設されていることを特徴としている。
【0006】
【作用】本発明による酸素センサは、カソード電極とアノード電極を同一平面上に配置したプレーナ構造として、かつ実際にイオン電流が流れるカソード電極とアノード電極の間に位置する酸化物イオン伝導体膜部分を加熱するようにヒータ電極を配設することによって、無駄なヒータ電力を使うことなく、効率的にイオン伝導体膜を活性化することができる。また、ヒータ電極がカソード電極やアノード電極と膜厚方向に直接対向しないようにレイアウトしているため、ヒータ電極からのリーク電流の影響が小さく抑えられる。以上により優れた熱効率で、クリアな限界電流特性を持つ小型の薄膜型酸素センサを得ることができる。
【0007】
【実施例】以下、図面を参照しながら本発明の実施例を説明する。図1(a) (b) は、本発明の一実施例に係る限界電流式酸素センサの平面図とそのA―A′断面図である。シリコン基板11上にスパッタ法または熱酸化法により0.1μm 程度のシリコン酸化膜12が形成され、この上に酸化物イオン伝導体膜として約0.5μm のZrO2 −8mol%Y23 膜(以下単にZrO2 −Y23 膜と称する)13が形成されている。このZrO2 −Y23 膜13は例えば、Zr−Y合金ターゲットを用い酸素ガスをキャリアガスとして用いた反応性スパッタにより形成される。
【0008】ZrO2 −Y23 膜13上には、所定間隔をおいて対向する,互いに噛み合う櫛形のカソード電極14とアノード電極15が形成されている。カソード電極14とアノード電極15は、例えばメタルマスクを用いてスパッタリングにより形成されたPt膜である。カソード電極14とアノード電極15が形成された基板上には、カソード電極14への酸素分子の拡散を律速して限界電流特性を得るために必要な気体拡散層として、ポーラスな絶縁膜16が形成されている。この絶縁膜16は例えばアルミナであって、これもアルミナ焼結体ターゲットを用いたスパッタリングにより形成される。絶縁膜16上に、ヒータ電極17が配設されている。ヒータ電極17はこの実施例では、カソード電極13,アノード電極14と同様、スパッタによるPt膜であって、図から明らかなように、カソード電極13とアノード電極14の間隙部に沿って蛇行するパターンをもって配設されている。
【0009】この実施例の薄膜酸素センサは、ヒータ電極17に通電した時、ZrO2 −Y23 膜13のなかの実際にイオン電流が流れる部分、即ちカソード電極14とアノード電極15に挟まれた部分が加熱され、この部分が効果的に活性化される。従って無駄なヒータ電力を要せず、熱効率の高い小型の限界電流式酸素センサが得られる。また、ヒータ電極17がカソード電極14やアノード電極15と膜厚方向に直接対向しないから、気体拡散層である絶縁膜16を通してのヒータ電極17とカソード電極14,アノード電極15との間のリーク電流が小さく抑えられる。このことは、クリアな限界電流特性を得ることに大きく寄与している。実際に、基板11を5mm×5mm×0.2mmの大きさとし、カソード電極14とアノード電極15を、電極幅75μm ,電極間隔50μm で対向する20対の櫛形パターンとして配設したセンサにおいて、0.7Wの通電加熱で非常にクリアな限界電流特性が得られた。
【0010】図3(a) ,(b) は、本発明の他の実施例の限界電流式酸素センサの図1(b) に対応する断面図である。これらの実施例はいずれも、基板自体を気体透過性として、これを酸素分子拡散を制限する気体拡散層として用いた実施例である。図3(a) は、気体透過性絶縁基板として、ZrO2 −BN(BN10%)基板21を用いている。この基板21上に先の実施例と同様のパターンで櫛形のカソード電極22とアノード電極23が形成され、これを覆うように酸化物イオン伝導体膜であるZrO2 −Y23 膜24が形成されている。ZrO2 −Y23膜24上は、電子伝導性やイオン伝導性を示さず、また気体透過性もない緻密な絶縁性封止材膜25として例えばシリコン酸化膜が形成され、この上に先の実施例と同様のパターンでヒータ電極26が形成されている。図3(b) は、図3(a) において全面に形成されているZrO2 −Y23 膜24を、カソード電極22とアノード電極23の間にのみ選択的に配設した実施例である。これらの各実施例でも、図1の実施例と同様に効率的にイオン伝導体膜が加熱され、従って図1の実施例と同様の効果が得られる。
【0011】本発明は上記実施例に限られない。例えば実施例では酸化物イオン伝導体膜としてZrO2 −Y23 膜を用いたが、他の材料系のイオン伝導体膜を用いた場合にも本発明は有効である。限界電流特性を得るための気体拡散層や電極に他の材料を用いた場合にも、同様に本発明は有効である。
【0012】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、プレーナ構造でかつ薄膜型の限界電流式酸素センサにおいて、ヒータ電極を実際にイオン電流が流れるカソード電極とアノード電極の間に位置する酸化物イオン伝導体膜部分を加熱するように配設することによって、優れた熱効率で、クリアな限界電流特性を持つ酸素センサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例に係る限界電流式酸素センサの平面図とそのA―A′断面図である。
【図2】 同実施例の酸素センサの特性を示す図である。
【図3】 他の実施例の限界電流式酸素センサの断面図である。
【図4】 従来のセラミック酸素センサの構成例を示す図である。
【符号の説明】
11…シリコン基板、12…シリコン酸化膜、13…ZrO2 −Y23 膜、14…Ptカソード電極、15…Ptアノード電極、16…気体拡散絶縁膜、17…ヒータ電極、21…気体透過性絶縁基板、22…Ptカソード電極、23…Ptアノード電極、24…ZrO2 −Y23 膜、25…絶縁封止材膜、26…ヒータ電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板上に、酸化物イオン伝導体膜と、このイオン伝導体膜に接して同一平面上で対向する少なくとも一対のカソード電極およびアノード電極とが形成され、かつ前記カソード電極に対する酸素ガス拡散を制限する気体拡散層を有する限界電流式酸素センサにおいて、前記酸化物イオン伝導体膜上の前記カソード電極とアノード電極の間隙部に沿ってヒータ電極が配設されていることを特徴とする限界電流式酸素センサ。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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